2021年12月20日月曜日

判例裁決紹介(令和3年3月4日裁決、推計課税と処分理由の説明)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年3月4日裁決で、未申告・非協力な納税者に対して推計課税を適用した事例です。

具体的には本件は、自動車整備業を営む請求人(推計課税ではおなじみの業界でもありますが)自己の所得税の申告に関して未申告(調査への非協力)であったことから、処分庁が推計課税を実施し、更正処分等を実施したことにつき、過程における推計方法等に関する充分な説明がなかったことと当該推計方法に合理性があるのかという点が中心的な争点になっているものである。

調査手続における説明義務が国税に関する調査手続の改正に伴い制度化されて、しばらくたつが、最近はこのような説明義務を充分に果たしていないとして不服を提起するケースが増加している。いかなるものをもって充分な説明と呼ぶべきであるのかという点は些か明確ではなく、不毛であるという意見もあるが、この点を検討する上でも参考となろう。また、本件は推計課税の適用も行われており、古くて新しい論点であるが一部推計方法の課税庁の用いたものとは異なる形で修正している点も本件では見られ、いかなるものが合理性を有するものであるのか(最近は推計課税そのものに対する不服よりもこのような方法論の合理性を争うことが多い)が検討する上で参考となる事例でもあろう。

「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。もっとも、通則法は、通則法第25条《決定》の規定による決定処分について、「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含むものと解され、他方で、証拠収集手続自体に影響を及ぼさない手続の違法は、上記の原則どおり、課税処分の取消事由となるものではないというべきである。」

本件では、上記のように法令解釈の原則を示した上で、調査手続を一律に捉えるのではなく、証拠収取手続等に分類した上で処分の効力を相違するものとして解釈している。確かに重大な違法性がある場合のみ調査の違法を認定するという我が国の原則は租税の性格上肯定されるべきものであると考えられるが、このような手続の分類が適正であるのか、調査自身が受忍義務を追っており、立証責任や租税の強制性も考慮するという点は未だ議論が煮詰まっていないところであろう。租税手続と刑事手続の類似性は保持されるべきであるが、証拠収集等において限定的に手続の違法性を限定する考えは、租税に関する情報の大きな格差や適正な手続きの要請から肯定されるのか更に検討が必要であろう。

「証拠収集手続に重大な違法があった場合には、課税処分の取消事由になるものと解されるところ、仮に調査結果の内容の説明に不十分な点が認められたとしても、そのことは、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続ではないから、原処分を取り消すべき事由には当たらない。」

また、上記のように、この原則的な手続への分類から、調査終了の際の説明に関して、あくまでにもすでに終了手続であり、不十分な点があっても処分取り消し理由にならないという一律に理解している。この点は確かに充分であるのか否かという点は主観的な要因であり、また相手に依存するものであって、不毛なものであってこれが違法性を帯びているのか否かという点を判断することは困難なものであることは避け得ないが、このように一律に説明を終了のものであって収集に影響がないものとして理解することが、恣意を防ぎ、納税者の便宜を図る本制度の趣旨に合致しているのかという点は疑問である。

また、本件では主たる事業以外に付帯的な事業を行っている先の抽出が課題になっている。裁決では、かんたんに退けられているが、事業が付帯的に行われている企業も多く、この点を抽出、比較対象とする際には、どのように捉えるべきであるのかという点は課題となろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。




 

2021年12月11日土曜日

判例裁決紹介(令和2年3月3日、非営利型法人における資金貸付の収益事業該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年3月3日裁決で、非営利型法人における金銭貸付が収益事業に該当するのか否かという点が争点となった事例です。

具体的には、本件は、非営利型法人(社会貢献を目的とする)である一般社団法人である請求人が行った資金の貸付による利息が益金に算入されるのか否かという点が中心的な争点になっているものである。背景としては当該利子の基礎となる資金貸付が収益事業に該当するのか否かという点が起点となっているものである。非営利型法人の行う事業が収益事業に該当するのかという点が争われた事例は近年珍しく、従前の収益事業の判断との対比が必要であろう。

法人税法第2条
十三 収益事業 販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記法人税法に定めのある収益事業の該当性である。

「法人税法は、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている。そして、法人税法第2条第13号は、収益事業を「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」をいう旨規定し、同号を受けて、法人税法施行令第5条第1項は、一般営利企業と競合にないと認められる事業を収益事業の対象から除くなどして、課税対象とされる収益事業の範囲を個別具体的に規定している。」

判断では、上記のように、基本的に従前(著名なペット葬祭事例等と同様)であり(裁決である以上当然とも言えるが)、同様の事業を行う他の法人との競争上の条件を統一する、整合性を図ること、いわゆるイコールフッティングが基礎となっており、かかる点から判断が行われている。このような点で従前と継続性が確保されているものと言えよう。基本的には、公益法人改革のもとで、公益事業、公益財団法人社団法人の概念が整理され、公益性の判定により収益事業の枠外を措置が、制度化された。これは公益目的事業が対象であり、租税法規の枠外において定められている概念である。明確に上記立法措置が取られており、公益の概念自体が不明確な要素をはらみつつも一定の条件をつけること及び第三者による事業評価、事後検証を行うように手続対応、付与されたバランスが取られた制度である(実効性があるかどうかはまだ事例が少ないが)。本制度改正は、100年ぶりの民法改正も含む大幅な制度改正であり、民法の対応も含め、現実的には大きな混乱も生じつつも対応が整理されつつあるの現状であろう(一時的な公益認定~一般への移行などが行われつつあるのもそれを表していよう)。このような制度変更が租税法規においていかなる影響を及ぼすものであるのかという点が本件の起点となっているものと考えられる。

結論としては、上記のように裁決レベルでは、特段影響がなく、従前と同様の法令解釈が適用されているものと考えられる。収益事業の趣旨は変化せず、いわゆるイコールフッティングが基本となっている(そもそもこの考え方が収益事業一般に及びうるものであるという点は検討が必要であろうが)ことは変わりないことが見て取れる(実務上は)。理屈としてはこのあたりは、本当に公益性の認定などの影響が含まれるものではないのかという点が検討したいところ。私見としては課税要件の判断において、租税法律主義が基本出会って、本件で主張されるような非営利性、公益性は租税法規の枠外の概念であり、準拠すべき法律的根拠を付与されるとは言い難いものと考えられ、原則に反するものではないかと考えているが、分離して考えるべきであろう。そもそも公益性や非営利性とは明瞭性にかけるものであり、論者によってその意義は異なりうるものである。租税法規が養成する明確性を備えているものとして検討することは不安定性を抱え込むことになろう。
 
また、本件とは少々ズレるが収益事業における、継続して事業場を設けてという点も解釈上の課題だろう、近年は、オンライン上での提供も増えており、継続的な事情場という概念自体が時代遅れになりつつあるものとも言えよう。
 

以上です。

毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年12月4日土曜日

判例裁決紹介(函館地判令和元年5月15日、貸付債権の評価)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、函館地判令和元年5月15日で、相続財産における貸付金の評価が課題となっているものです。

本件は具体的には相続人たる原告が相続により取得した貸付金の評価が争点になっているものである。貸付金対象が相続発生後に実際に破綻した対象(精算)であり、最終的には金銭的な価値が喪失するような存在であって、元本金額である8000万で評価されるべきであるのか0評価であるべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。相続税において財産評価は基本的な論点であるが、その中心は株式と土地であることが多い。しかしながら意外と貸付金も紛争事例として上がってくる存在である。おそらく実務でも評価は比較的容易であることもあって、問題になることは少ないかもしれない(この辺は実務家に聞いてみたいところ)。おそらくは同族会社を中心とした対象への貸付金の有無が問題になることはあるだろうが対象企業の状況を反映して当該債権の評価が問題になるのが本件である。

貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)


以上のように、本件の中心的な争点は貸付債権の対象となる協同組合が、相続時点において、上記財産評価基本通達の評価額の引き下げの対象となっているのか否かという点である。実際に相続後数年立って、当該対象は破綻しており、事実的な裏付けがあるという点もあって、相続開始時点での評価額が課題になっていることが本件の起点だろう。基本的にはこの相続時点における状況が、回収不能性を有している、著しく困難であると評価されるかという点を対象とした事実関係の問題であろう。貸付金の評価は、基本的に上記のような状況でない限り、元本での評価が基本であり、この点が205通達の適用できるか否かの問題を大きくしている。

本件では、協同組合である貸付対象が相続時点で、継続的な赤字と、債務超過であり、追加の貸付による金融支援が実行されている状況にあったものであるが、

「個別に債権の回収率を算定して時価評価を行うべきこととすると、その評価が債務者の経営状況等必ずしも客観的一義的な評価方法が確立していない要素に左右され、納税者の恣意を許し、課税庁に過大な負担を強いることを踏まえ、貸付金債権等の評価方法として、原則として額面により評価し、例外として、評価通達205の列挙事由のように客観的に明白な事由が存在する場合に限り、その部分について元本の価額に算入しない取扱いをすることとしているものであって、同項の定めは、相続税法22条を具体的に適用する基準として合理的」

判示はこのように、貸付金の評価に対する通達評価の方法を肯定しており、納税者の恣意の排除などをその趣旨としていることを基本として、例外的な205通達の適用に関しては、列挙自由と同程度の客観的な明白な事由の存在を求めているものとして事実関係を評価している。

最終的には、相続開始時点では、まだ事業を継続しており、財務状況は非常に悪化しているものであるが、この点を元に客観的に破綻が明らかではないということで、205通達の適用が否定されている。事業の継続が重要な判断基準となっていることが読み取れる。最終的に破綻したことを考慮すれば、相続時点でも債務超過や赤字である状況を基礎に、評価の引き下げを求めることはごく当然でもあり、結果としては酷であるという点は、否めず、財産評価における貸付債権の留意が払われるべきことを示唆しているのではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月27日土曜日

判例裁決紹介(東京高判令和3年9月8日、成年後見人と同一生計、小規模宅地等の特例の適用範囲)

 

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和3年9月8日で、成年後見人を務めていた相続人が取得した財産に対して小規模宅地の特例を適用するにあたり、適用要件たる同一生計にあったものであるのかという点が争いとなった事例です。

具体的に本件は、納税者たる控訴人が営む大工業の事業の用に供していた土地(事業供用に関する事実に関しては争いはない)を相続により取得し、小規模宅地等の特例による相続税評価額の減価を適用して申請したところ、被相続人と生計を一にするものではないとして当該特例の適用を否定されたことを不服として提起されたものであり、本件特例の適用対象となる同一生計にある親族等の事業の用に供されているものが如何なるものであるのか、その範囲、そして同一生計に対して成年後見人になっていることを如何に判断されるのかという点が基本的な争点になっているものである。

地裁は納税者の主張を退けたが、控訴審では、納税者の主張にもあるように、同一生計を所得税法と同様に非常に広く捉え、その適用対象を判断されるべきとの主張を中心に争いが行われたが、控訴審も同様に納税者の主張を退けている結果となっている。

民事法における成年後見人制度は、我が国の高齢社会の進行に対する取引面生活面を支える重要な法的なツールとして導入が図られたものであるが、その活用も増加傾向にあるものである。この制度適用されている場合における租税法規の適用がいかなる判断、認定を受けるものであるのかという点はまだ定まっていないものである。本件は地裁も含めこの制度適用における事例として、また、小規模宅地等の特例という最も基本的な相続税における租税特別措置の適用要件における対象事業の範囲を示すものとしても先行事例として非常に有益な事例であるように考えられるものである。

本件でも問題の中心となる生計を一にするという法文の解釈、事実認定は、古くて新しい論点であるが、所得税法や相続税法、幅広くその論点が存在するものであり、両法規の相違も含め本件は重要な事例であろう。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第二号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第五項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。

以上のように、本件の中心的な課題は、上記租税特別措置法に定める小規模宅地等の特例の適用要件として被相続人等の事業の用に供しているか否かという点を基本的な充足しているのかという点にある。所得税法においても問題になることの多い生計を一にするという要件を充足しているのかという点が中心的な争点となるものである。被相続人に対する成年後見人として相続人が担当しており(報酬は法定されているが受領せず)、このような事実関係において、同一生計にあるのかという点が地裁から争点となっているものである。

判示ではこの同一生計に関して基本的な生計を支えている状態を含まれるものと理解しており、この点は争いがない、ただし、基本的に生計を支えるという点においても幅が含まれる概念であって、この点を如何に認定されるかという点が基本的な争点と言えよう。判示では所得税法との同一性を明確に否定しており、この点は所得税法と相続税法の相違から合理的なものであるものと考えられるが、具体的な判断において生計を支えているという点に焦点を当て、同居扶養や生活費の管理負担などによって判断されている従前とは距離が置かれている印象がある。この点は、私見ではあるが事業用資産であるものが相続財産の対象である以上、事業が生計と、生活費へどのように影響していたかを中心に判断されるべきものであると考えられる。この点からは同居などではないが、成年後見人という制度自体は、法的な取引判断の後見を行うものであり、金銭的なものに限定されるものではないが、生計概念は事業に伴う、生活費など金銭的な負担に軸足をおいているものと判断されるべきであろう。判示でも示されているように、成年後見人にあることが直接的な同一生計の裏付けではないということは実務上も留意されるべきものと考えられる(後見している以上、日常の管理等においてサポートをしている点は想定されるが生計、生活費を支えているとは必ずしも言えないという判断であろう)。立法に属するものではあるが、空前の高齢社会を前提とするならば種々の租税の判断においても(認知症の増加なども想定されるが)、従前と同様の判断の枠組みで良いのか、種々の制度の特徴(利益相反等)も踏まえ、更に検討をすすめるべきものと考えられる。

「被相続人(中略)の事業の用(中略)に供されていた宅地等」については、被相続人の生前から一般にそれが事業の維持のために欠くことのできないものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であることを踏まえて、相続財産としての担税力の有無に着目し、相続税負担の軽減を図ることとしたものである。その結果、本件特例の適用により、中小企業の円滑な事業承継が促進されるという効果が期待されるものの、それはあくまでも副次的な効果にとどまるものというべきである。」

判示では上記のように、基本的な制度趣旨を事業維持のための処分制約から財産の担税力の減少にその所以を求めている。担税力という概念自体が明瞭なものではなく、かかる点に依拠した判断は困難であるようにも考えるべきであろうが、本件の趣旨としては生計を支えている事業の実施に関して、必要とされる土地であり、処分に制約があることから、相続時点の財産価値の減少を図るべきものとして理解されるべきであろう。納税者の主張にもあるが、事業承継の促進等の効果もあろうが、かかる点は主要な趣旨としては理解されないという点は趣旨として賛成される。

「本件特例にいう「被相続人と生計を一にしていた」相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」とは、上記のように、相続人の生計だけでなく被相続人の生計をも支えていた相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」を指すものと解するのが相当である。
これに対し、相続人が被相続人の有する宅地等で事業を営んではいるものの、これによって被相続人の生計が支えられていない場合には、相続人の営む事業は被相続人の生計とは関係がないといえるから、被相続人が、生前、相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」を処分することには制限がなく、当該宅地等に担税力の減少は生じていないことになる。したがって、このような場合は、相続人が相続した財産における担税力の有無に着目して、相続税の課税価格に算入すべき価額を軽減することにより、相続人の相続税負担の軽減を図るという本件特例の趣旨は妥当しないから、本件特例を適用することはできない(なお、前記のとおり、本件特例の適用により、その結果として中小企業の円滑な事業承継という政策目的が促進されるという効果が期待されるものの、それは副次的な効果にとどまり、本件特例の趣旨はあくまでも担税力の減少に対する配慮にあるから、円滑な事業承継の実現自体が独立して本件特例の趣旨に当たると解することはできない。)。」

判示では、上記のように、制度趣旨から、相続人の生計ではなく、被相続人の生計を支えていることをその対象とすることとしている。同一生計であることから導かれているものではあるが、かかる判断から被相続人の生計に関わりがなく、相続人の生計を支えるに過ぎない事業に関しては、処分制約がないという判断である。同一生計を基本とする以上、このような判断が導かれることは形式論理としては一定の合理性が導かれようが、被相続人が相続人の事業に供されている用地の処分において、自己の生計とは関わりがなく、処分制約がないという基本的な前提は理解し難い。趣旨として相続人の取得した財産の担税力という視点に着目するならば、事業供用において処分制約が存在していることは否定し難いのではないだろうか。この点は負担軽減範囲を如何に捉えるべきであるのかという立法政策の課題であるのかもしれないが、被相続人と相続人のいかなる立場から検討するかによって判断が異なるものであり、些か不安定な要件でもあろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月17日水曜日

判例裁決紹介【東京地判令和2年11月12日、相続直前の借り入れ等と財産評価基本通達総則6項の適用】

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年11月12日で、相続直前に借り入れ等を行って購入した不動産等に対する評価額における乖離に対して財産評価基本通達総則6項の適用が問題となった事例です。

具体的には、本件は相続人たる原告が相続により取得した(相続直前に15億借入、購入した高級マンション、短期間で売買を繰り返している)不動産に対して通達評価に基づく相続税申告額(借入債務は、債務控除適用)と不動産鑑定評価において大幅な乖離(約6億)あることから、財産評価基本通達総則6項(みんな大好き)の適用が行われ、評価額の引き直しとそれに基づく更正処分等を行ったことを不服とした事例である。事例としては最近特に適用が増加し紛争が起きている財産評価基本通達に基づく評価の機能不全(大幅な乖離)に伴う評価の引き直しが適当であるのか否かという点を中心的な争点とするものである。相続税の基本たる財産評価、特に最近適用事例が増加している(不毛と評価されることもあるが)いわゆる総則6項適用が問題とされている一連の類型に属するものである。短期間で対象不動産の売買を繰り返し、周辺とは乖離した相場の売買、資産状況(高級賃貸マンションで、入居者あり)等が考慮要因とされうるものであるが、総資産の3/4に当たる多額の借り入れを肺がんで入院中に実施し、相続対策のプランニングの意図が見え隠れするものであるが、かかるような事例の下、いかなる評価が適当であるのか(そもそも財産評価というよりはプラニングによる不当な租税負担の減少を捉えることが行われないのはなぜだろうか)、という税務事例として興味深いものであろう。


6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

というように、古典的な総則6項の適用が課題視されているものである。古くて新しい問題であるが、著しく不適当とは如何なる状態を指すものであるのかという点が起点となっている。そもそも通達評価においては、短期間での売買や、相場の上昇を捉えることができないことは限界とも考えられるが、
この点については判示は、下記のように、
「評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは評価通達6の定めからも明らかである。すなわち、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当であり、このような「特別の事情」が存する場合とは、評価通達に定める評価方法を形式的・画一的に適用することによって、かえって納税者間の実質的な租税負担の公平が著しく害されることとなるような場合をいうものと解すべきである。」

として、実質的な租税負担の公平をその基本的な意図として総則6項を理解している。これに基づき、実質的な租税負担の公平性を損なうような特別の事情があるのか否か、という点に対して(上記のように通達評価の限界を主張するのではなく)、相続税負担の減少(3億円)、や総資産の相当割合の借入の実行など経済合理性の有無の観点から判断が行われている。

この特別な事情とは如何なるものであるのかという点は、従前同様本件でも必ずしも明確ではないものとも考えられるが、経済合理性の有無が判断基準となりうるのか(専ら租税回避の認定に使用されているようであるが)、という点は相続税が要求する時価の解釈として適当であるのかという点は検討が必要であろう(財産評価基本通達の趣旨も考慮して)。私見としては公平性を基礎としたものであり、安定性にかけるものであるように考えられるが、形式的平等、評価の均衡の観点とのバランスの問題であるのかもしれない。そもそも総則6項は予測可能性の保護の枠外であるとも評価しうるが、このように考えるならば通達にそのような根拠を置くべきではなく、法において、引き直しの根拠を明確とすべきであろう。


本件では、最終的には評価額の乖離に加え、事項された取引が相続直前の短期間に購入決定されている点などを考慮したプランニングの要因が特別な事情を裏付けているものと言えよう。金額の乖離そのものではなく、対象資産の取引環境などが考慮要因になって特別の事情の成立が裏付けられていることは改めて認識されるべきである。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月6日土曜日

判例裁決紹介(横浜地判令和2年2月26日、カイロプラクティック事業と事業税の業種判断)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、横浜地判令和2年2月26日で、カイロプラクティック事業が個人事業税における請負業として該当するのか否かという点が争点となった事例です。

具体的には、本件は原告が個人として営むカイロプラクティック事業が地方税法上の事業税の対象となる事業区分において、いかなる業種区分、第1種(請負業)もしくは第3種(医療類似事業)に該当するのかという点が中心的な争点となっている事例である。カイロプラクティック事業がその区分が問題になっていることは耳にしているものの、個人的にマッサージに興味がないの正直今回、この判決でその事業の中身を知ったところではあるが、医療に類似するものとしても特段免許等を必要とするものではなく、また定義が明確なものではなく、最終的に如何に事業区分が事業税において判断されるのかという点は事業の実態に依拠するものの、社会通念にしたがってその適否を争う他なく、事業税の判断において、どのように判断を行うことになるのかという判断プロセスは、本件の展開が参考となるものであろう。特に、事業環境が変化して、個人が営む事業の多様化が図られている現況では、あるいは趣味的な事業も拡大している現況も鑑みるならば、処分庁においても具体的な事業の判断のプロセスは検討が必要となってくるだろう。本件では医療類似の第3種事業に該当するのであれば低税率であることもあって、納税者はその該当を主張しているが、この免許を不要な事業の取り扱いを如何に捉えるべきであるのかという、地方税法の立法趣旨に関する検討が必要となってくるだろう。

(事業税の納税義務者等)
第七十二条の二 
 個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。

十四 請負業

10 第三項の「第三種事業」とは、次に掲げるものをいう。
 医業
 歯科医業
 薬剤師業
 削除
 あん摩、マツサージ又は指圧、はり、きゆう、柔道整復その他の医業に類する事業(両眼の視力を喪失した者その他これに類する政令で定める視力障害のある者が行うものを除く。)

以上のように本件は、あまり普段お目にかかることのない、地方税法における事業税の事業区分が課題となっているものである。判断の順序としては請負業に該当するという判断の後に第3種事業ではないという判断が重なる必要性が判示されている。

判示では、課税庁が主張したように、租税法規における請負業の意義を非常に拡張的に解釈する、法人税法の収益事業における請負業の判断の枠組みも元に(請負契約にとどまらず広範囲のものを含む)、また、事業税の課税趣旨、制定経緯(営業税から広範囲を対象として、基本的にあらゆる事業を含むものと)から非常に広範囲の対象を請負業に求める見解の主張に対して、明確な判断を示していない。物理的な物の完成にとどまらず、役務提供における完成物の提供もまた対象となりうるものとしている点で、広範囲を対象として請負業として捉えているようにも考えられるが、直接的には、民事法の枠を超えた判断を本件の解釈には適用していないものとも評価できる。明確に否定されているわけではないので本件の事実関係の下では、基本的には民事法の請負の適用を議論すればよく、蛇足的なものとして言及を避けたものとも推定されるが、処分行政庁の主張にあるような広範囲を請負業において含めうるものであるのかという点は地方税法の事業税においては、まだ検討の余地があるものと考えるべきであろう。

私見としてはあくまでも先例的な法人税法における請負業が民事法の枠組みに限定される非常に拡張的な意義を持つものであることは、あくまでの収益事業の範囲を見定めるものであり(イコールフッティングを基礎とする)、本件の対象となる地方税法の事業税において、その範囲の検討において根拠として成り立ちうるものであるのかという点は疑問であるものと考えられる。文言は同一でも基本的な背景、趣旨が異なるものであり、租税法規として統一的な検討を促すものではないだろう。ただし、事業税の立法経緯からは課税庁が主張するように、限定列挙されているといえど、課税を広く事業に及ぼす趣旨であり、結果として請負業において対象範囲を民事法に限定された解釈にとどまるものではないのではないかと考えているが、この点は更に事業税の趣旨目的の検討が必要な部分であろう。

第3種事業の医療類似が基本的に免許制度を前提としたものであるというのは(限定的な解釈かもしれないが)、他の列挙とも整合的であり、合理的なものであると考えられる。そもそも適用税率が類似事業において低い可能性があることは、いかなる立法措置であるのかという点は現在の事業環境からは検討の余地があるものとも言えよう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月1日月曜日

判例裁決紹介(令和2年12月15日裁決、みなし役員の認定、役員退職金の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年12月15日裁決で、退職金の損金算入を否定する退職の事実関係や、みなし役員としての認定が基本的な争点となった事例です。

具体的には本件は、法人たる請求人がH24年に退職したとした(登記も完了した)代表取締役に対して支給した退職金(約7億)の損金としての該当性が問題になったものである。総額で約7億を超過する(金額としては欠損金の適用と整合させているとの主張もみられるが)金員の損金該当性が問題になった事例であり、他にも送達の有効性や処分理由の提示の課題も争点として扱われているが、基本的に退職金の支給の前提となる退職の事実があるのか否か、すなわち退職したとした日以降も実質的に経営に従事、関与していたのか否か(みなし役員として該当するのか否か)という点が中心的な争点となっているものである。対象となった元代取は、退職後にシンガポールに移住し、実質的に経営状況に如何にして関与しているのか(後任は妻と娘)、という点が如何にして認定されるのかという点が重要な点であろう。

通常、役員退職金が争点となる場合は、本件の退職の事実関係が争われるものと、退職金の相当額が争われるものであるが、本件では7億を超える支給でありながら、相当額に関しては争点としていない。この点は何かしら理由があったものであろうが、いささか不自然であろう。何れにせよ本件は、本件の事実関係において法的評価として退職したものと評価できるものであるのか否かという点が問題であり、かかる点からは古典的な論点でもある。しかしながら詳細な事実関係の認定を通じて、国外転居や遠隔地からの経営参加状況など現代的な役員退職金の判断状況が見いだされている点は特徴的でもあり、今後の実務においても参考となるべきものであろう。端的に課税庁が主張した実質的な経営に従事しているとした判断の枠組みに対する主張が全面的に排斥されている点も興味深い点と考えられる。

法人税法第2条
十五 役員 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。

以上のように、本件の中心的な争点は、退職金の支給対象となった元代取が、形式的には退職していたとしても(登記等で確定)、上記法人税法2条のいわゆるみなし役員に該当して、実質的に退職していないもの評価される状況であるのか否かという点が論点となっている(厳密には職務分掌の変更も問題となりうるが、今回は対象となっていない)。

すなわち経営に従事しているのか否かという点が、如何に解釈されるべきものであるのかという点が法令解釈上のベースとなっている。

「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。そこで、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるか」

一見すると経営に従事とは、シンプルな要件であるが、経営という用語は多義的であり、包括的な行為を指し示すことから不確定概念であり、その判断は必ずしも容易ではない。本件も総合的に経営に従事しているものであるのか(特に遠隔地に居住している点が近年にはない状況であろう)、という点から事実関係の評価が争いになっているものである。本件判断では、上記のように経営においては事業運営上の重要事項に参画しているという点がメルクマールとして示されているが、重要性をどのように理解するかなど、いささか不安定な要件であり、退職の事実を指し示すように準備を整える上で(本件のように7億を超える退職金の支給においては当然のように準備が行われ検討されているだろう)、立証の課題がつきまとう。

特に本件のような所有と経営の分離がかならずしも徹底されていない中小企業では(特に我が国の場合は、)株主としての権限、意思決定が経営と密接に結びついていてその従事関係を判断することは困難である。私見としては株主としての位置づけがある以上、経営への関与が想定され退職の事実を実質的に認めがたい可能性があるようにも考えているが、経営に従事すなわち重要事項に関与しているのか認定する方法は本件でも安定的ではない。

最終的に課税庁の主張する経営会議への参加や指示、金融機関との交渉、新規事業への参入の意思決定等の側面において、必ずしも元代取の関与が認定されず、本件は客観的には関与が明らかではないとして課税庁の主張を排斥し、損金性を肯定している。このような事実関係の評価の観点も本件において重要であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年10月25日月曜日

判例裁決紹介(令和元年6月18日、財産分与と無償等の資産譲渡に伴う第二次納税義務の成立)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月18日裁決で、無償等の資産譲渡に伴う第2次納税義務の成立が争点となった事例です。

具体的には、本件は夫婦関係にあった滞納者から請求人に対して、居住等に使用していた不動産を譲渡、対価を支払っていないので贈与が行われたものとして当該譲渡は、下記、国税徴収法39条に定める無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務に該当するとして、請求人に対して係る義務の通知が行われたことに対して、かかる通知の後に離婚しており実質的な財産分与であるとして、当該義務を負うことを不服として提起された事例である。

第二次納税義務自体が、非常にマニアックな制度であり、おそらく国税徴収法を勉強したぐらいしか知らないものであろうが(最近はだいぶ変わってきただろうか、少なくとも昔はこのような扱いであったのだが)、本件は、かかる特別な納税義務である第二次納税義務の成立の是非が中心的な争点になっている。第二次納税義務は徴収の便宜を図るため、特別な行為や利益を得ている場合にのみその成立が許された、直接的な納税義務者以外に別途滞納者の納税義務をか肩代わりするような形で発生させる義務であり、故に厳格な法定要件の充足が求められる部分ではあるわけですが、本件は、かかるような無償等の譲渡の成立自体が問題となった事例であり、基本的には事実認定の問題であるものと捉えられる。実質的な財産分与であるという主張(実際の実務ではこのような課税から逃れるような離婚なども珍しくないのでしょう)に対して如何にしてその成立を否定されているのかという点が問題になっているものである。

(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第三十九条 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(第五十八条第一項(第三者が占有する動産等の差押手続)及び第百四十二条第二項第二号(捜索の権限及び方法)において「親族その他の特殊関係者」という。)であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。

以上のように、本件は事実関係として、当該贈与が実施されてから一年以上超過した後、第二次納税義務の告知処分直後に離婚したような、また、請求人の贈与税確定申告書(本件不動産に関する、配偶者控除の適用も)が提出されており、法定要件において不当等の回避的な意図の存在は要求されていないものであり、本件でも明確には認定されていないが、実質的には租税債務の滞納者が租税負担を免れようとしていることを否定することとなっている。配偶者控除の適用を申請した確定申告書の存在など、請求人の主張は、正直支離滅裂であるという印象を拭えないが、判断も

「本件離婚があったのは本件所有権移転から約1年2か月後の平成30年11月1日であり、また、上記イの(ハ)のとおり、請求人は、本件所有権移転がなされた平成29年9月7日から1年以上にわたり本件各不動産において本件滞納者と同居していたことが認められることに加え、当審判所の調査の結果によっても、本件所有権移転が本件離婚を前提として行われた財産分与であると認めるに足る証拠はない。」

上記のように、離婚を前提とした財産分与であるとの主張は排斥されている。そもそも法が要求する譲渡において、財産分与が対象となるのかという点は、検討されていない。財産分与が譲渡所得を発生させるものであるとの判示は最判でも確定しているものであるが、本件のような第二次納税義務の発生においても対象となるのかという点は、制度趣旨も考慮した上で、検討されるべきものではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年10月11日月曜日

判例裁決紹介(名古屋地判令和元年5月16日、外国籍者に対する給与支払いの事実)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判令和元年5月16日で、外国籍者の確定申告とことなる給与支払報告書の記述に基づいた更正処分の有効性が争点となった事例です。

具体的には、原告(ボリビア国籍)が平成18年の確定申告において、自己の収入を確定申告(期限後申告)したところ、当該確定申告において給与収入とされた金額が課税当局(税務署及び市税)に提出された給与支払報告書と相違があり、400円程度の給与収入が漏れていたことをもって、無申告加算税及び増額更正処分が行われたことにつき、当該記載漏れの金額は別人がなりすましたものであり、収入の事実はないものとして、処分の向こうを争ったものである。

複数箇所からの給与収入があり、給与支払報告書が提出されていたことが発端であるが原告の申告でも複数の箇所からの収入を得ていた事実は、認めており、ただし、申告給与収入とほぼ同額の金額(約400万円)が計上が漏れていたという点が基本的な事実関係として、問題の中心になっているものである。外国籍のいわゆる出稼ぎ労働であり、このような大幅収入を得ていることが不自然で勤務時間的にも給与支払報告書のような勤務状況は困難であることは合理的な主張であるようにも捉えられるところである(したがって、元同居人が原告を騙って働いていたという主張も一定の納得があろう)が、本件では、下記のように、平成18年の申告を争うものであり、申立期間をかなり超過しており、最判が示す処分の向こうを争うことができるものであるのか否かという判断枠組みの中で争う他ない状況に至っている。また、本件では、所々に更正処分等において翻訳が付与されていないという主張もなされており、かかるような点からも興味深い。

「無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないが、課税処分については、当該処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤があり、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に当該処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、当該過誤による瑕疵によって当該処分は無効となると解すべきである(最高裁昭和48年判決)

上記のように本件の中心的な争点は、不服申立期限を超過した本件のような更正処分等が、無効であるのか否かという点が中心的な争点となっている。かかる判断においては、上記最判の示すように、課税処分の特徴を考慮して重大かつ明白な瑕疵が処分において存在していることが基本的に要求され、原告等において不利益を甘受することが著しく不当であるというレベルでの状況が必要とされることとなる(例外として認められるのか否か)。この点において、本件のような一見合理的な主張であろうとも、給与支払報告の記載に基づく処分である以上、明白な瑕疵があることとして処分の無効を示すことは非常に困難であることになるだろう(これは日本国籍であろうとも同様)。

具体的な主張においても主張店点において不自然な点はあるものの、納税者の主張においても明確な他者による騙りがあったとの主張も推測にとどまるものであり、本件の事実関係においては判示がその処分の無効を認めなかったことはご合理的なものであるものと考えられる。

しかしながら、外国籍の者において特に、このような専門的な主張を、特に翻訳も付与されたものではない状況下において、適切に租税法規を理解して、対応できるというということは困難であり、立証責任を強く求められ、明白な瑕疵を要求される現行法の判断枠組みにおいて、適合的なもの、衡平にみて客観的に適正なものであるのかという指摘はあり得よう。本件のような状況では原告が実質的に救済の手続きを取ることが可能であるのかという点からは些か酷な状況であると考えてもやむを得ないものであろう。立法政策の範疇に入るものであるが、近年のようにグローバル化、外国籍の者が増加している現況、社会環境等を考慮するならば、今後は他の租税法規の適用や救済の手続き等の判断部分においてもこのような外国籍の者に対する考慮を租税法規において考慮するのか、具体的な事実関係、適用関係を争う局面では、課題となっていくのではないだろうか、本件は、社会環境の変化により、例外的な事情の判断枠組みや、グローバル化に伴う租税手続きの見直し、専門家の間で共有されている常識の見直し、再検討がも求められる必要があることを示唆する点で非常に興味深い判断であるように考えられる。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。


2021年10月2日土曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和2年9月14日、虚偽の住所移転と所得秘匿)

 

また、興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和2年9月14日で、虚偽の住所移転を繰り返し、インターネットにおける所得を秘匿したとして所得税法違反のほだつ犯として提起された事例です。

具体的には、本件は被告人がインターネットのオークションにより得た所得を免れるため、居住実態のない地を住所地として登録することにより、複数年度の所得に関して所得を秘匿(所得税等3000万円超)したものであるのかという点が中心的な争点になっている、刑事の案件で厳格な認定が行われており、他の別名義の口座からの支払等が秘匿行為に該当するのか等も争点になっているが、本件では、合理的疑いが残るとして認定が行われている。秘匿行為として認定されたものがこの居住実態のない住所登録を繰り返すことで所得の把握を免れようと舌行為であり、実際、正式な調査の実施に着手するまでに事前通知から3年の長きに渡る期間を要している。被告人は、京都から、兵庫県、大阪、奈良など、複数回の住所地を移転する行為を繰り返しており、事前通知や国税局の訪問の後、住所を移転することを行っているものであり、親族に申告を促されても拒否するなど、背信的悪意をもってほだつを行っているものであろう。判示でも、最終的に納税者の主張を退けている。よく巷でも住民票を移動させれば、あるいは本店所在地を移動させ、申告場所を変化させることで納税義務の充足を免れようとする行為が報告されているが、本件は、近年では珍しく、このような住所地移転における行為を明確に下記のように、所得秘匿行為であるとして、判断している。

「税務署は、原則としてその管轄区域内に住所を有する納税義務者を対象として所得税の賦課徴収に当たるため、納税義務者が居住実態のない住所に虚偽の住民登録を行うことで居住実態と住民登録が異なる状態が生じると、当該納税義務者につき管轄を有すべき税務署において、当該納税義務者の存在自体を把握できず、これを把握しても当該納税義務者が居住地等につき虚偽を述べるなどして、税務調査に着手しても所得の把握が困難になるといった事態が生じ、税の賦課徴収が困難となる。」

本件では、対象となった納税期間においては、住所地を移転させることを行っていない期間も含まれているが、居住実態のない住所地への虚偽登録を行っていること自体がそもそも問題のある、所得秘匿行為であるとして判断しており、上記のような居住実態の乖離が基本であると判断している点は特徴的であろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年10月1日金曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月30日、概算経費控除の対象)

 

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年1月30日で、医師が提供した医療給付が概算経費控除の対象となる社会保険診療報酬の特例の適用対象となるのか否かという点が争点になった事例です。

具体的には、麻酔科医として自己の医院も開業している原告が自己の病院以外で委託契約により実施した手術等の麻酔提供の業務の対価として受け取った報酬が下記、租税特別措置法26条に定められる社会保険証料報酬の所得計算特例(概算経費控除)の適用対象となりうるものであるのか否か(当然自己の医院における収入が対象であることは争いがない)という点が主たる争点となった事例であり、当該報酬も含んだ形で確定申告に対して、課税庁が当該報酬は、適用対象ではないとして更正処分を行ったことを不服申立を行ったことが発端となっている事例である。

確定申告に携わったものであれば、おなじみの医業に関する重要な特例の一つである概算経費(そもそもこの位置づけ、優遇税制としてどのように評価するのかという立法論的な議論も必要な時期にあるようには私見としては思うところ。私見としては、医療に限らず人的な役務提供が社会的な位置づけも含め、質量ともに増加している現況では概算経費控除の制度を導入すべきものと考えているが)であるが、この適用範囲をめぐる事例は比較的珍しいものであろう。純粋な租税法規の問題というよりも、借用する健康保険法の問題であるという点とも評価できるものであろうが、本件医療という非常に高度に専門化された職務であり租税法規の範疇を超えるものという意見も想定されるところであるが、本件の判断は所得税にとどまらず、消費税の負担にも重要な影響を及ぼす(非課税であるのか否か等)ものであり、租税実務家としても留意すべき判示であろう。

もう少し一般化した話としても、近年の労働環境における人的役務の提供に関しても問題を提起するような事例でもある。近年は雇用的自営も含め、非従属的な職務のあり方が増加し、租税法規の適用上も課題として議論されている。本件では本件別医院での人的役務の提供が事業所得であることは特段争いのないものであり、これが単に業務委託を受けたものであるのか、それとも社会保険料収入であるのかという点で争いになっているが、事業所得の中に複数の類型の所得が入ってきた上で、課題が発生していることは興味深い。副業の増加(そもそも副業という言い方が異なるように思うが、労働法はともかく、租税法規の適用上、主たるものとそうではないものを区分することが如何なる意義を有するのかという点は検討課題であるように考えられる。複数の所得源泉を持っていることが現行法上の課題であろう)に伴う同一所得区分の中に複数の所得源泉が発生することが必ずしも例外的なものではなくなってきたことを、租税法規の立場からはどのように評価するのかという点は現代的な課題として検討すべきであろう。上記のようにおそらくは消費税も含んだ形での課題が顕在化するものであり、このような収入が給与であるのか報酬であるのか(外注請負)、という古くて新しい問題(そういえば、以前の給与と報酬の区分の問題も麻酔科医の収入が対象となっていたものであるが、なにか麻酔科医は特性として独立的な業務の提供が必要となるものであるのだろうか)も含め検討すべき項目が多いものと考える。

(社会保険診療報酬の所得計算の特例)
第二十六条 医業又は歯科医業を営む個人が、各年において社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、当該支払を受けるべき金額が五千万円以下であり、かつ、当該個人が営む医業又は歯科医業から生ずる事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が七千万円以下であるときは、その年分の事業所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る費用として必要経費に算入する金額は、所得税法第三十七条第一項及び第二編第二章第二節第四款の規定にかかわらず、当該支払を受けるべき金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額とする。

以上のように、本件の中心的な争点は、自己の経営する医院以外からの業務委託からの収入が、社会保険診療につき支払いを受けるべき金額に該当するものであるのか否かという点が課題となっている。

「置法26条1項が定める本件特例は、医業又は歯科医業を営む個人が社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、当該支払を受けるべき金額が5000万円以下であるときに、当該社会保険診療に係る費用として必要経費に算入する金額を、社会保険診療報酬の収入金額に応じ4段階に区分して定められた割合(概算経費率)に相当する金額の合計額とする旨を定めている」

本件は租税特別措置であり、その制度趣旨が重要な解釈上の指針となるべきものであるが、上記のように制度を理解した上で、基本的には健康保険法の規定を準用しているものであるとして、

「本件手術は保険医療機関である本件各病院において実施されたものであるところ、本件手術における本件麻酔施術は、同じく保険医療機関である本件クリニックを個人で開設する原告が行ったものであるため、本件クリニック(原告)が自ら主体として療養の給付を行ったと評価することができるか(すなわち、原告は本件麻酔施術に係る社会保険診療につき支払を受けるべき地位にあるのか

という点を主たる争点としている。

「健康保険法においては、人と物とが結合された組織体である保険医療機関が療養の給付の担い手となるものとされており、また、保険医療機関が行う療養の給付の内容として、傷病の治療等に必要かつ相当と認められる一連の医療サービスの給付が定められていることに照らすと、ある患者の治療等について複数の保険医療機関が関与する場合、一方の保険医療機関のみならず他方の保険医療機関も自ら主体となって療養の給付を行ったと評価されるためには、各保険医療機関の医師等が当該患者の治療等のために行った行為の具体的内容及びその関与の程度、各保険医療機関における物的設備等の負担の有無及び程度、他方の保険医療機関が当該患者の治療等に関与することとなった経緯及び双方の保険医療機関の関係等の事情を考慮して、他方の保険医療機関における関与が、人と物とが結合された組織体である保険医療機関として、自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったものと評価することができるか否かという観点から判断することが相当である。」

すなわち上記のように、法令解釈を示した上で、保険医療機関の性格から報酬を受けるべき対象として組織体として主体的に診療を行ったものであるのかを認定されるか否かという点を基礎としている。私見としても法文が社会保険診療報酬に関する支払を受けるべきとしている以上、このような複数の医療機関が関与した事例においても一方の医療機関にのみ保険診療報酬を受けるものという認定を行うこと(申請や支払などの形式に必ずしもこだわらず)を求めているものではなく、実質に則った判断を許容しているものと解すべきものと考えられる。ただし、総合考慮を基礎としつつ主体的に医療サービスを給付しているとしている点は如何なるものを主体的としているのか必ずしも明らかではなく、予測可能性の観点から疑義があるものと考える。通常、業務が継続的に行われている環境(本件では医療サービスの中でも更に特殊な手術が問題になっているが)において、医療の専門家として自律的な判断がなされている(専門職であれば、当然でもあり、これは所得税法56条の問題において、弁護士夫婦事件といわゆる称される案件でも同じような課題を発生することになるだろうが)、ことが期待されているものであり、組織体として人と物が結合されているという保険医療機関を前提とするならば専門業務に関する部分は、主体性を自ずと有している可能性がある。かかる点からは主体的という判断の枠組みは健康保険法等の法令判断の枠組みとしてはともかくも租税法規の適用においては一要因として理解されるべきであろう。そもそもとして所得税法の収益の帰属の概念自体が曖昧であるとの課題が前提ともいえようが。

また、本件は、複数の者(専門職)が一体となって、チームを組み、医療サービスの給付を行っている点が前提として、本件のような複数の医療機関、組織体の関与の場合の問題の発生を生じている。専門職においては特にではあろうが、旧来の想定は、専門職として独立して自律的に役務提供がなされることが想定されていた。本件特例もまた同様であり、現在では複数の者が一体となって役務提供を行うことが珍しくなくなってきている点とは前提が異なる状況になってきているものと考えられる。専門職が細分化されている現状等も鑑みられた点であろうが、本件対象の医療に限らず、研究開発、事業再生等々、専門的な業務では特に複数の専門家の関与によって一体としての役務提供がなされる場合が考えられる。この一体としての役務を分解して個々の業務に分解した上で判断することが妥当であるのかという点も、所得の帰属、区分判断において重要なものであろう。今後ジョブ型の職務のあり方が一定の地位を得た場合には、このようなチームを組む役務提供とは親和性が高く、このような点からも本件事例は、今後の所得区分の判断院おいて検討すべき課題を明らかにしてくれる事例であるものと捉えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年9月13日月曜日

判例裁決紹介(横浜地判令和2年6月11日、相続税の申告における税理士の損害賠償責任、賠償金額の限定の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は横浜地判令和2年6月11日で、相続税の申告における税理士の損害賠償責任を扱った最新の事例です。

具体的には、原告たる相続人が被告税理士に委ねた相続税の申告における業務において、小規模宅地等の特例の適用を検討せずもってその適用を誤った過失責任を追求され、損害賠償責任を追うのかという点が中心的な争点となっている事例である。税理士への報酬が350万円程度で、負担すべき責任としての金額が2300万円を超過しており、報酬を大幅に超過した責任を追うことになるのかという点も含め争点となって、判決においてかかる損失負担の制限を行う当初の委任契約における条項が消費者契約法において反するものであり、かかる制限が向こうとされている点も特徴的な事例である。相続税における財産評価の困難
 小規模宅地等の特例の適用は基本的な事例であり、おそらくその適用の可否を検討することは初歩の初歩であろうが)における税理士の責任を検討する上で重要な事例であろう。

本件の中心的な争点は小規模宅地等の特例の適用における、適用要件の充足がなされているのか、すなわち、本件の事実関係において、特に相続時点において事業のように供されているのか、相当な対価の支払いが被相続人の死亡により行われていない段階での契約関係において、実質的に小規模宅地等の特例の要件を充足していたのかという点が第一の争点となっている。

判示ではこの点については、法文の条件において、事業のように供されているのかという点が判断の基準であり、相当な対価を支払われていることを実際に要求するものであるのかという点を消極的に解している。法文の分離に従えば、事業として契約の状況にあるのかという点が課題であることは必須と読み込むことは困難であり、租税法規の実質的な視点が過度に強調された適用は否定されているといえよう。本件では、相続税の負担軽減のため、事前に相当の対価の額が決定され、実行されているような事実関係にあることが税理士の判断を保守的にさせたものであるのかもしれない。認定においては、このような小規模宅地の特例の希望があることが原告においては明らかであり、このような認識を持てば通常租税の専門家としては、被告から適用の段階において厳しいとの判断を行ったのであれば、事前に伝えられることが通常であり、このようなプロセスを行っていないことが、実質的に小規模宅地等の特例の適用の税費を検討していないという過失の存在を肯定することになっている点は、本件の重要な点であろう。注意義務違反という形で税理士の責任が問題となっているものであるが、このような説明のプロセスが実施されていることがその過失責任を判断する重要な判断要因になっていることは認識されるべきであろう。このような注意義務違反の判断においては、やはり税理士への委任契約において、一般的に納税者の負担をできる限り調整することを求められていることが裁判所を及び一般的な認識にあることは前提として理解されるべきであろう。

また本件では、相続税の申告に関する契約において、税理士の責任を報酬相当額に限定する条項の是非が、消費者契約法において適正であるのかという点も課題となっている。税理士の契約が消費者契約法の視点から、消費者に一方的な不利益を課すものであるのかという点も争点となっている。税務に関する委任契約が消費者契約法の視点から争い(個人的には初めて紛争としては見聞きしたもの)になることが非常に珍しいケースであるが、明確に、税務委任契約の性格から、情報量や交渉力において差異があり、かかるような損害を制限する、免除する条項は適正なものではないという判断を行っていることも注目されよう。

裏を返せば、相続税の申告に関する損害の負担を如何に考えるのか(報酬が結果として高騰せざるを得ない、或いは保険の重要性がクローズアップされることになるだろうが)、専門家責任の重さをより認識するべき事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年9月4日土曜日

判例裁決紹介(令和3年4月13日裁決、勝馬投票券による所得の所得区分)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年4月13日裁決で、勝馬投票券による所得が課税対象としていかなる所得に該当するのかという点が争われた事例です。

具体的には、請求人がソフトウェア等を利用せず、年間で10億を超えるような金額を動かし、競馬による所得を得ていた(数年間では、マイナスの年も)ものでかかる所得が事業所得)に該当するとした主張に対して、一時所得に該当するとした課税処分の適否を争った事例である。

本件は近年大量の判例事例が積み上がっている競馬関係の所得区分の適否を争う事例であり(本件を始め思うところであるが、世の中には、投機行為に10億円を超える金額を投じている人が実は多く、存在しているんだな~という素朴な驚きで、ほとんどのケースは例外的な特殊な取引という認識であったのですが、どうも異なるのかもしれません)、一連の事例と同一の類型に該当するものである。なお、本件は、明確に事業所得に該当するという点が主張として争われたものであり、一時所得・雑所得という対立概念だけではなく、近年少しずつ登場してきた、類型でもあろう。金額的には一般の事業と比して遜色ないものであるが、このような所得がいかなる所得として社会通念も含め該当するのかという点を検討する素材となるだろう。事業所得という概念の検討においても資するものであるように捉えられる。

特に対価という概念がキーとなっている(一時所得の定義によるものであろうが)ものであり、事業所得や所得税における重要な概念として今後の検討素材となるだろう。

本件では、下記のように請求人の主張として

「競馬所得は、請求人の着順予想とい
う知的労働に基づく馬券購入という役務行
為に密接・関連して給付がなされたことに
より発生するものであり、また、馬券の発
売総額の15%相当額から賞金、JRAの
運営費、人件費等を差し引いた額の半分が
JRAの所得となることから、払戻金は、
着順予想の的中者に対するJRAの運営に
協力したことの見返りであるため、対価と
しての性質を有する。」

知的労働による所得であるとしてその対価が本件の対象所得であるという主張がなされている。このやり取りが本件でも特徴的であり、興味深いところであろう。

一般的に競馬の購入が知的労働なのか(ノウハウなどと同様に)というような議論もあり得ようが、投資や数多くの人的役務の提供においては、このような知的労働という存在が今後も登場しうるものであるのかもしれない。少し事例を離れるがそもそも対価という概念が物品販売(市場による)・一対一の関係を基礎とした印象が強いものであるが、近年、役務提供が主流となりつつあるような中(提供方法も多様化し)で、契約関係の対価がベースに構築された判断基準が対価の概念として妥当であるのかという問題意識は発生しよう。クラウンドファンディングがその典型であろうが。

このように対価という概念に営利性を含むものであるのか、それとも単なる契約関係の中での行為の対価という概念にとどまるものであるのか、本件をはじめとした、投機的行為のようなり~ターンが必ずしも明確に確定しているものではない、あるいは近年はNPOを始め、共感を基礎とした事業のベースが構築されているような事例も登場してきており、対価という概念は見直しが必要な時期に来ているように思われる。

以上です。
毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

判例裁決紹介(東京高判令和2年9月10日、税理士による簡易課税制度の選択届の有効性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年9月10日で、20年以上前に提出された税理士による消費税の簡易課税制度の選択届が有効であるのか否かが争点となった事例です。

具体的には、本件は控訴人たる弁理士が、なした本則課税における消費税の確定申告を、課税庁が簡易課税選択届が出ているとしてその適用を認めなかったことを不服として、提起された事例である。控訴人の主張は、当該届が提出されて以降、20年以上も本則課税による申告を受け入れており、かかる提出(当時の税理士による)が有効なものであるのか否か(無権代理によるものであるのか)という点が基本的な課題となっているものである。届け出を行った税理士が死亡しているような長期間経過している事例であり、係る書類の提出の有効性、経緯が具体的な争点となっているものの、その追求、立証においては課題があるように捉えられる。

本件でも控訴人は地裁とともに無権代理であることを主張しているが間接事実であり、税理士における通常の契約の包括的な税務委任が明確に評価されている点は本件の特徴でもある。かかる点から納税者の主張は認められていないが、本件のように20年以上も届け出とは異なる申告を許容していたとしても一旦有効に成立した納税関係に関する届け出は覆すのは困難であることはまずもって租税実務家においても認識されるべきであろう。

本件でも過去に提出された届け出の有効性が無権代理であるのか否かという点から争われているが、税務という性格上、特に以前は個別の税目等で委任契約を結ぶような慣習はなく(おそらく現在も相続税を除けば、包括的な契約が主体であろう、本件も口頭であり明確な契約書を交わしているわけではない)、無権であることを主張立証することは納税者にとってもハードルが高いものとなっている。専門家への委任であることからどうしても包括的な契約であることが想定されることが多い現状を反映しているものと言えよう。

私見としては、このような20年もの長期に渡って届け出とは異なる申告を受けて入れていた課税庁にも責はあるものと思われるところであるが、課税関係の安定を重んじる現行法の解釈としては信義則による救済の可能性は否定されるものであろうし(公の見解の表示はなく)、このような課題は立法の問題となろう。消費税は今後重要性をまし、個人の自営が増加する中では、本件のように一旦有効に成立した届け出の効力は、覆すのは容易ではなく、課税状況の判定も含め、慎重な判断が求められるべきことは再認識させられる事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


 

2021年8月24日火曜日

判例裁決紹介(名古屋地判令和2年6月18日、売上除外に対するほだつの意図)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判令和2年6月18日で、売上除外に関するほ脱の意図が課題となっている事例(法人税、消費税)です。

具体的には、太陽光発電(最近はこの事業に関する事例を目にすることが多くなってきました、今までは裁決レベルのものが多かったのですが、今回はほ脱の案件です、一般的な太陽光発電のイメージとは異なり、何らかの特殊性がある業界であるのか、山を削って、設備をおくことが基本で対価を行政資金の依存する業界である中で、このような傾向が継続しているのは何らかの要因があるように想定されるところ。)関するコンサル等を営む被告人が太陽光発電に関する業務において受け取った権利譲渡の対価等の売上除外に伴うほ脱の意図、成立が課題となっている事案である。売上の除外や売上の長期前受への転換(本件では20年)等、典型的なほ脱事案であるものであり、基本的には刑事関係の事実関係が問題となるものであると捉えられるところであるが、税理士が関与する中で行われた非常に高額な事案でもあり、このETCの履歴やGoogle Calendarの状況を加味した事実関係の認定など、経営者の意図という主観的な要因に対して如何にしてアプローチしているのかという点(各種証言の信憑性を否定する)は、租税専門家として実務上参考になるものと考えられる。

事案としては、太陽光発電に関する権利譲渡契約の譲渡と、長期間の役務提供を含む契約として長期前受の契約であるとした処理方法の相違が起点となっている。特別弁護人の主張にもあるように営業権の譲渡という無形物の譲渡契約における引き渡しの判定が一般的には、認定が困難であること、契約内容が複合的であることが収益の認識と、租税法規における判断がズレというか、必ずも明確ではないことは事実であるところで、この点をもって納税者のほ脱の意図を否定するような主張がなされているところである。譲渡契約と役務提供の契約の複合は、ソフトウェア等に代表されるように、収益認識の論点であり、租税法規の取り扱いも幅が広いところであることが原因でもあるが、この契約の評価、或いは納税者の認識が本件でも意図的に活用されている。

現在は、法人税法でも収益認識会計基準の変更を受けて、益金計上の基本的なルールを明確化したところであるが、引渡や役務提供が基準となっている点は変わらないところであり、依然として、恣意性や操作性の介在する要因があることがあることは留意されるべきであろう。契約の複合や口頭による契約等の主観的な要因が、実態として更に判断の際に課題となることは法人税、消費税法において双方において問題であろう(インボイスや証憑に近年は依存していくことになるだろうが、この点は否定する方法論も重要となるだろう)。

会計基準上の保守主義の観点から、解約のリスクが残存していることを持って、益金計上を後ろ倒しする主張もありうるところでもあるが、法人税法上、公正処理基準において一定の法的根拠を持ちうるものともいえようが(消費税法上は存在しておらず、この基準の適用可能性はないものと考えられるが)、そもそも会計基準としての保守主義がいかなるものであるのか、単に保守的であることという用語の意味内容がイメージとして先行しているように捉えられる。法的な基準として活用可能であるのかという判断がまず行われるべきであろう。公正処理基準による公平負担の要請に依拠した恣意性の排除と、保守的な会計処理は必ずしも両立しない局面が想定されるべきである。この点はより検討されるべきものであろうが、私見としては保守的な判断の容認は操作性を排除することが求められることが租税法規の適用上は重要なものとなるのではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


判例裁決紹介(東京地判令和2年9月15日、収益帰属、地域対策費の必要経費該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年9月15日で、収益帰属や、地域対策費の必要経費該当性が主たる争点となった事例です。

具体的には、本件は、風俗業を営む原告が、事業所得を申告せず、共同事業としての利益の分配が行われているものであり、また、計上した地域対策費(みかじめ料等)が必要経費として該当するのかという部分が課題となった事例である。

この種の業種が租税法規の適用上、ほ脱に近い状況であるようなケースは特段珍しいものではなく、ランキングの上位を常に締めているが、本件もその類型であろう。ただし、訴訟段階まで、この取扱が課題となった事例は珍しい。特に収益の帰属と、地域対策費という存在が必要経費として認められるのかという部分が課題となっている点は、興味深いものである。本件は基本的に事実関係の問題であり、いかなる者がどのような程度の収益の帰属を受けるものであるのか、実質的な所得の帰属者の認定において、このような共同事業における認定は、約定に欠け、先例的なものも少ないので、実務家として参考とすべき点が含まれているように考えられる。もちろんアンダーグラウンドな性格を帯びた業種であることは疑いのないものであり、特殊事案としての特徴は割り引いて考えるべきであるが。

また、上記のように本件の主たる争点は収益の帰属の判定であり、判決の大部分を締めている。しかしながら、必要経費に着目する視点からは、計上されている地域対策費の必要経費としての認定が興味深い争点である。違法な経費支出の存在は、法人税、所得税問わず、更には今後はインボイス中心となる消費税でも、課題となるものであろうが、一律その計上を否定するものであるのか、という点では従前課題となっている。本件のように、毎月定期的な支払いや、多様な内容を混在する経費(みかじめ料など)の存在を詳細に議論することなく、相手方の存在や領収書の不存在(調査後に作られた信用に欠、お粗末な準備ではあろう)等の視点から、相手方・目的等の検証ができないことが、必要経費計上の主たる要因として判断されていることは、当然といえば当然であるが、このような違法性を帯びた経費支出への基本的なアプローチとなっている点は、実務の基本的な方法論として、理解されるべきであろう。いわば最初に支出側に基本的なハードルを課した上で、その上で、必要性などの観点から、議論される2段階のアプローチが取られることになるものとも言えよう。

以上です。毎回のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2021年7月31日土曜日

判例裁決紹介(令和元年5月7日裁決、法人税法における非営利型法人の要件)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年5月7日裁決で、法人税法における非営利型法人としての該当性が課題となった事例です。

具体的には、一般社団法人である請求人が種々の教育、不動産事業等を行い、かかる事業から受け取る収益、手数料が収益事業に該当するのか否かという点が主たる争点となっているものである。詳細は記録されていないので、いささか特殊な(珍しい)社団の業務が対象となっているようにも考えられるものではあるが、社団法人が受け取る収益が課税対象となるものであるのかという点が背景となって法人税法が定めるいわゆる非営利型法人として該当性が中心的な争点となっているものである。この種の非営利型法人としての該当性が争われることが珍しく、本件の判断は公益認定等委員会等の第三者の判断があったとして、租税法規上、受け入れられない可能性を示しているもので興味深い。

法人税法施行令3条
 法第二条第九号の二ロに規定する政令で定める法人は、次の各号に掲げる要件の全てに該当する一般社団法人又は一般財団法人(清算中に当該各号に掲げる要件の全てに該当することとなつたものを除く。)とする。
 その会員の相互の支援、交流、連絡その他の当該会員に共通する利益を図る活動を行うことをその主たる目的としていること。
 その定款(定款に基づく約款その他これに準ずるものを含む。)に、その会員が会費として負担すべき金銭の額の定め又は当該金銭の額を社員総会若しくは評議員会の決議により定める旨の定めがあること。
 その主たる事業として収益事業を行つていないこと。
 その定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与える旨の定めがないこと。
 その定款に解散したときはその残余財産が特定の個人又は団体(国若しくは地方公共団体、前項第二号イ若しくはロに掲げる法人又はその目的と類似の目的を有する他の一般社団法人若しくは一般財団法人を除く。)に帰属する旨の定めがないこと。
 前各号及び次号に掲げる要件の全てに該当していた期間において、特定の個人又は団体に剰余金の分配その他の方法(合併による資産の移転を含む。)により特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。
 各理事について、当該理事及び当該理事の配偶者又は三親等以内の親族その他の当該理事と財務省令で定める特殊の関係のある者である理事の合計数の理事の総数のうちに占める割合が、三分の一以下であること。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記法人税法施行令3条におけるいわゆる非営利型法人としての該当性が争点となっているものであり、特に特定の個人等への特別の利益を与えることが争点となっている。

通達は、
「経済的利益の供与又は金銭その他の
資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう」
として特定の利益を解しているものであるが、所得税法の伝統的な考えに則り、広くその対象を解している点が理解されるのみであり、特定の個人等を如何に捉えるのかという部分に関しては、具体的な指針が欠けている現況にある。不相当とはいかなるものであるのかという点は具体的な指針が困難であり、また、予測可能性が高いものとは言えないだろう。

本件では、社団の社員への祝い金等の支出が行われてる点が、この部分に該当するものとして、最終的には特定の個人への利益を与えているとの判断がなされている。請求人の主張では、社団の会員には積極的に勧誘を行っており、社団への加盟の可能性がある点が主張され、地域における特定の者にのみ利益が供与されるものではないと主張されているが、この点が法人税法上はその該当性が否定されている。かつては公益認定の理由書の中では、このような会員資格への制約が低いことが、公益性の主張としてよく行われていたものと考えられるが、法人税法上においては、やはり仮定としての理由付けが認められる可能性は非常に低く、実際の供与が行われるかいなかという点が基本的な判断の根拠となっている点は意義がある判断であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



 

2021年7月27日火曜日

判例裁決紹介(平成31年2月8日裁決、非嫡出子に関する相続開始のあったことを知った日)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年2月8日裁決で、非嫡出子である相続人に関する相続開始の日が如何なるものであるのかという点が中心的な争点となっているものです。

具体的には、本件が請求人(相続人の法定代理人)が相続税申告を行ったところ、期限後申告であるとした処分が適用されたことを不服として提起されたものであり、起点となるべき法が定める相続開始のあったことを知った日が如何なるものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。本件は基本的には、戸籍上の父や、嫡出推定、その否認と生物学的な父(被相続人)とその法定配偶者や嫡出子の存在、など、複雑な事実関係の経過が課題になっているものであり、かかるような事実関係の中でいかなる状況が相続開始の日であるのかという点が争われているものである。より具体的には請求人への遺贈を記載した遺言書の検認に立ち会ったタイミングであるのか、嫡出推定が否定され、死後認知が成立し、タイミングであるのかという点(実質的に遺贈における記載を認知を基礎とした遺贈契約であるものと理解している)が問題になっている。最終的に相続の了知を基礎とする相続税法の基本的な理解から、検認に立ち会っており、このタイミングで遺贈内容を了知していたとして請求人の請求を否定している。

なかなかこのような事実関係は珍しいものであろうが(おそらく本件の最大の興味深い点はこの点で、遺言があっても解決しないものであり、法定配偶者との対立など相続において検討すべき点が多く含まれている)、民事法の家族法関係の知見も踏まえた上で、判断をくださねばならないことでもあるので、ケーススタディの対象として、トレーニング事例として位置づけられる事例であろう。一般的な人物が遺言書の検認の意義を理解していたと考えるのはいささか酷とも想定されるが・・・(相続人が無戸籍者であった期間も考慮すると)。

相続税の申告書)
第二十七条 相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)に係る第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで及び第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内(その者が国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

以上のように、本件は事実関係の中で、相続の開始を知ったことという点を中心的な争点としている。


「その相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために遺贈があったことを知った日を意味し、遺贈を受けた本人が未成年者である場合については、本人が弁識能力のないときは法定代理人が、本人が弁識能力を有しているときは本人又は法定代理人が、その遺贈があったことを知った日と解すべきである。

現代社会の状況を鑑みると現行法の規定において、この相続に関する了知を起点とする文言が妥当であるのか、整合性を有しているのかという点も課題となるのではないかと想定されるところであるが、相続や遺贈による財産の取得者がその了知を基礎としている点は主観的な要素が介在する可能性が高く、法的な安定性に欠ける点は否めない。親族の死亡を中心とした相続の事実関係、発生経緯であれば致し方ないのかもしれないが、現実的な運用、解釈において、本件の検認など、法的な行為をベースに判断が行われている点で法的安定性と事実関係の整合を図っている点は相続税の制度において重要な判断材料になっていることは留意されるべきであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。


2021年7月10日土曜日

判例裁決紹介(最判令和3年6月24日、相続税における更正の請求督促と財産評価の誤りの修正)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、最判令和3年6月24日で、未分割財産に関する相続税の更正の請求に関する特則と評価の誤りの関係が課題となったもので、地判高判の中で肯定された、別件裁判の影響を受けた財産評価基本通達の変更に伴う取引相場のない株式の評価の反映を許容するとした判断が否定され、更正の請求の特則の立脚点に立ち返り、評価の誤りの修正を除斥期間終了後は認められないとした最高裁の判断です。

具体的には、相続人として取引相場のない株式の取得を行った非上告人(納税者)が、相続税申告時は、遺産分割が未了であった状態で申告を行い、7年ほどを経過して(除斥期間が終了)調停が終了し、もって更正の請求の特則を利用して更正を求めたところ、かかる時系列において別件訴訟において、取引相場のない株式の評価に関する評価方法の判決がありもって財産評価基本通達の修正が行われていた(著名な裁判例)ことを反映した形での、すなわち修正後の取引相場のない株式の評価に基づき、更正の請求が認められるのかが争われた事例である。

本件は財産規模としても数億円に及び、特に取引相場のない株式の評価という、わが国の相続税実務において、最も紛争とされることの多い財産評価項目における判断である。財産評価基本通達の修正を受けた事例でもあるが、原審において許容された、財産評価基本通達の修正を反映した評価が覆され、課税庁の主張が認められ、原則通り、一定の特則を条件とした相続税の更正の請求の規定を鑑みて、その理由が限定されていることで、かかる中に評価の誤りは対象外であるという点を元に、たとえ別件判決があろうとも法的根拠が欠ける状況では評価の修正による更正の請求は許容されないという点において、実務上も影響力のある最判ではないだろうか。特に未分割遺産における相続税申告の難しさを表現しているともいえ、また相続税における当初申告、特に評価の重要性が背景にあることは租税専門家として認識されるべきであろう。

いささか特殊な事実関係、時系列、更正の請求の特則を対象とした、基本的には事例判決であるように捉えられるものであるが、上記のように、判決の前提となるものは相続税申告における評価の誤りの位置づけであり、近年は、評価の修正、誤りの是正が相続税申告においては増加しているようであるが、改めて当初申告における相続税法評価の重要性が認識されるべき事例であるものと考えられる。

(取消判決等の効力)
第三十二条 処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。
 前項の規定は、執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用する。
第三十三条 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
 申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは、その処分又は裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。
 前項の規定は、申請に基づいてした処分又は審査請求を認容した裁決が判決により手続に違法があることを理由として取り消された場合に準用する。
 第一項の規定は、執行停止の決定に準用する。

以上のように本件は原審が上記行政事件訴訟法における、取消判決の拘束をもって、別件判決で確定した評価方法が適用されるべきであるとした判示を覆すことになっている。

(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。
 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
 民法第七百八十七条(認知の訴え)又は第八百九十二条から第八百九十四条まで(推定相続人の廃除等)の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第八百八十四条(相続回復請求権)に規定する相続の回復、同法第九百十九条第二項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。
 遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。
 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があつたこと。
 第四十二条第三十項(第四十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定により条件を付して物納の許可がされた場合(第四十八条第二項の規定により当該許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、当該条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関し政令で定めるものが生じたこと。
 前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたこと。
 第四条第一項又は第二項に規定する事由が生じたこと。
 第十九条の二第二項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第一項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなつたこと(第一号に該当する場合を除く。)。
 次に掲げる事由が生じたこと。
 所得税法第百三十七条の二第十三項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定の適用を受ける同項に規定する国外転出をした者に係る同項に規定する納税猶予分の所得税額に係る納付の義務を承継したその者の相続人が当該納税猶予分の所得税額に相当する所得税を納付することとなつたこと。
 所得税法第百三十七条の三第十五項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第七項に規定する適用贈与者等に係る同条第四項に規定する納税猶予分の所得税額に係る納付の義務を承継した当該適用贈与者等の相続人が当該納税猶予分の所得税額に相当する所得税を納付することとなつたこと。
 イ及びロに類する事由として政令で定める事由
 贈与税の課税価格計算の基礎に算入した財産のうちに第二十一条の二第四項の規定に該当するものがあつたこと。
 贈与税について申告書を提出した者に対する国税通則法第二十三条の規定の適用については、同条第一項中「五年」とあるのは、「六年」とする。

 税務署長は、第三十二条第一項第一号から第六号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者(当該被相続人から第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産を贈与により取得した者を含む。以下この項において同じ。)につき次に掲げる事由があるときは、当該事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額の更正又は決定をする。ただし、当該請求があつた日から一年を経過した日と国税通則法第七十条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては、この限りでない。
 当該他の者が第二十七条若しくは第二十九条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及び修正申告書を含む。)を提出し、又は相続税について決定を受けた者である場合において、当該申告又は決定に係る課税価格又は相続税額(当該申告又は決定があつた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格又は相続税額)が当該請求に基づく更正の基因となつた事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなること。
 当該他の者が前号に規定する者以外の者である場合において、その者につき同号に規定する事実を基礎としてその課税価格及び相続税額を計算することにより、その者が新たに相続税を納付すべきこととなること。


(未分割遺産に対する課税)
第五十五条 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつた場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第三十二条第一項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。

判示は、下記のように、相続税における更正の請求の特則の趣旨を理解した上で、


「相続税法32条1号及び35条3項1号は,同法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われて各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合において,更正の請求及び更正について規定する国税通則法23条1項及び24条の特則として,同法所定の期間制限にかかわらず,遺産分割後の一定の期間内に限り,上記後発的事由により上記申告に係る相続税額等が過大となったとして更正の請求をすること及び当該請求に基づき更正がされた場合には他の相続人の相続税額等に生じた上記後発的事由による変動の限度で更正をすることができることとしたものである。その趣旨は,相続税法55条に基づく申告等により法定相続分等に従って計算され一旦確定していた相続税額について,実際に行われた遺産分割の結果に従って再調整するための特別の手続を設け,もって相続人間の税負担の公平を図ることにあると解される。」

「相続税法32条1号の規定による更正の請求においては,上記後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから,上記のとおり一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず,課税庁も,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は,当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当である。また,課税庁は,相続税法35条3項1号の規定による更正においても,同様に,上記の評価の誤りを是正することはできず,上記の一旦確定していた相続税額の算定基礎となった価額を用いることになるものと解するのが相当である。」

更正の請求における理由としても限定されていること、現行の評価誤りに関する基本的な原則を基礎として、一旦確定した評価を覆すことを除斥期間経過後は基本的に認められないとした従前の判示との整合性が図られている。取消判決の拘束をもってしても法的な根拠が欠ける行為を促すものではないとしたものであり、私見としては相続税法において、更正の請求の特則が設けられた趣旨、更には租税法規における更正の請求の意義、機能に則った基本に忠実な判断であるように捉えられる。かかる点からは更正の請求による権利救済の可能性が減少する、限定されるという指摘はあり得ようが、文理に則った解釈であり、改めて当初申告における財産評価の重要性、遺産未分割のリスク等が認識されるべきことが求められる事案であるように考えられる。


「当該判決の個々の財産の価額や評価方法に関する判断部分について拘束力が生ずるか否かを論ずるまでもなく,課税庁は,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し,当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはないものというべきである。」

以上です。毎回のごとく備忘録として作成されているものであり、完成度は低いですが参考までに。

2021年6月29日火曜日

判例裁決紹介(令和元年6月20日裁決、盗難経費の必要経費該当性と立証)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月20日裁決で、貴金属店を営む請求人が盗難事件にあったことによる損失を必要経費に入れていたことにつき、帳簿未保存による青色申告の取り消しと必要経費計上を否定した事例です。

具体的には本件が請求人が貴金属店を営んでいたところ、盗難事件の被害にあい、各種貴金属(色々と書かれていたのですが私にはよくわからないものです)の仕入原価等を盗難経費として必要経費に該当するものとして計上していた事実関係において、かかる盗難経費が必要経費に該当するものであるのか否かが争点となっているものである。帳簿未保存からの青色申告の取り消し、そして、必要経費の否認というながれをとっているので、理由の提示等が直接的な争点になっているものではないものの、必要経費としての該当性をいかに具体的に誰が立証の責任を負うものであるのかという観点から判断が示されており、近年の傾向特徴を表している裁決事例であると考えられよう。

裁決では、下記のように判断して、納税者の立証責任を拡大して、本件でも盗難経費の計上を否定している。

事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、その年における事
業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に
要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生
ずべき業務について生じた費用の額であるところ、課税標準である各種所得
の証明責任は原則として課税庁の側にあると解すべきであり、事業所得の金
額が総収入金額から必要経費を控除する方法により算出されることに照らせ
ば、収入金額についてはもちろん、原則として必要経費についても誤税庁側
に証明責任があると解される。
しかしながら、申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところ
に従った正しい申告をする義務を負うとともに、税務調査に際しては、その
所得金額認定の基となる取引の実態を最もよく知るものとして、資料を提示
し説明する義務を負っていると解すべきであること、所得税法が、事業所得
を生ずる納税者に記帳義務や帳簿・証ひょう書類等の保存義務を課している
こと、必要経費が納税者にとって有利な事実であり、その証ひょう書類を取
得して保存し、帳簿に計上することが極めて容易であることからすれば、上
記の各義務を負担する納税者が、税務署長が合理的と認められる方法により
把握した必要経費以外の必要経費が帳簿外に存在すると主張する場合には、
当該納税者においてその存在及び価額を具体的に立証する必要があると解す

るのが相当である。

上記のように、必要経費に関する証明、説明責任(訴訟段階ではないが立証責任と捉えるべきであろう)は、所得税法が記帳義務や証憑等の保存義務を定めている点から更に申告納税を根拠に具体的な立証責任を納税者側が有しているという点を明確に示している。記帳義務に関する法規定が変化している点も考慮されるべきであるが、納税者自身がやはり必要経費に関しては手元に保有しており、特に帳簿外の経費が存在する場合には、納税者側に立証の責任があるものと解している。これは帳簿記帳の法定等を考慮したものであり、事実上、従来納税者ではなく、課税処分には基本的に課税庁にその立証責任があると解してきた状況を変化させるものであり、納税者に立証責任が転嫁される可能性を租税の専門家としては認識しておくべきものであろう。私見としても本件では必要経費に関する部分であるが、帳簿を一つの判断材料としているものであり、かかる点を基軸に立証責任の分配が行われることが、近年の特徴として理解されるべきものと考えられる。一律に課税庁にその責任を負うべきものとして理解するのではなく、本件のようにその責任は証拠との距離、特に帳簿を基準に分配される可能性があることが帳簿を作成する段階で認識しておくことが、法改正により、青色申告に限らず記帳義務が課せられていることの意義として理解されるべきであろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年6月22日火曜日

判例裁決紹介(平成31年4月19日裁決、条件未達成の権利の相続財産該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年4月19日裁決で、請求人が相続により取得した和解による和解金を受領すべき権利(債権)が和解の条件を未達成であり、かかるような状況でも相続財産に該当するのかという点が争点となったものである。

具体的には、本件は請求人たる相続人が当該相続税申告において、未申告であった被相続人が受領する和解金の権利が、相続時点において、支払を受ける条件を未達成であり、いわゆる(停止条件付権利)であって、相続財産を構成するものではないとしていたものに対して調査により、当該権利も相続税を構成するものであるとした処分が行われ、不服を提起したものである。

本件ではいわゆる相続税における基本となる相続財産がいかなる範囲であるのか、課題となる権利が相続財産を構成するか否かという点が争点となっているものである。本件は、和解金の受領という(10億)という停止条件付の権利であり、相続時において、和解の条件が達成されるか否か、未確定であり、条件未達成の状態にあったものである。この権利を相続対象に含めるべきであるのか(おそらく一般の納税者の感覚ではこのような曖昧模糊として権利はその対象とすることに違和感があるのであろう)、そしていかに評価されるべきであるのかという点が中心的な争点になったものである。相続財産の範囲の確定はごく基本となるべきものであり、租税の専門家においては当たり前であるのかもしれないが、このような抽象的な権利、未確定な状態である権利が課税対象になるのかという点が争われたものとして参考となるべき事例であろう。特に課税庁の主張を認め相続財産の範囲としているが、具体的な評価方法において、異なる判断を下しており、かかる事実認定とのバランスは参考となる事例ではないだろうか。


相続税の課税財産の範囲)
第二条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。

以上のように、本件は上記相続税法2条に定めのある、相続財産の範囲をいかに捉えるべきであるのかという点が争点となっているものである。裁決は、以下のように解釈を示して、相続財産の広範囲であることを基礎に本件権利の課税対象としての導出が行われている。法は上記のように財産の全部という表現で定めるだけで如何なるものが課税対象として該当するのかという点は、実は不明確な概念であるが、下記のように判例としては、非常に広範囲を対象としている(その根拠としては如何なるものであるのか、そもそも相続税の趣旨に関わるものであり、必ずしも明確ではない)。社会通念に委ねるような表現でもあり、実務上も指針としても本件の権利をはじめ、近年多数の取引が行われているような比較的未確定、処理方法が定かではない、新しい取引、財産、最近はNFTとかも出てきているようで、このような権利の譲渡が担保されるような環境下で、どのように租税法として対応していくことになるのかという点は重要な課題でしょう。本件でも問題になっているが法解釈上、単に範囲が広いというだけでは問題は解決しないので、どのような評価方法とするのかなど、重要な論点は多数に上るものと考えられる。

「相続税法第2条第1項は、相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」と規定しているところ、これには特に限定は付されておらず、また、同法は「財産」についての規定を設けていないから、社会通念上財産と認められるものは、原則として、全て相続税の課税財産に含ま
れると解される。
もっとも、相続税法上の「財産」とは、これを課税価格に算入する必要上、金銭的に評価することが可能なものでなければならず、そうすると、相
続税の課税財産は、金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいい、既に存在する物権や債権のほか、いまだ明確な権利とはいえない
財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当であり、これには、相続開始時において期限未到来の始期付権利や、条件未成就の停止条件付権利
も含まれると解される。」

上記のように法令解釈上は非常に広範囲のものを相続税の対象としていることは賛意を示すことができよう。そもそも論として具体的な範囲が定まっていないことを問題視する意見もあろうが、上記のように相続財産を構成するものが多様化している現況下においては致し方ないものであり、まずは広範囲のものをいかに評価するべきであるのか、という点が重要であるのかもしれない。ただし、相続税法上は特に債務控除において、明確に確定しているもののみを対象としている点と比べると課税対象となる相続財産の判定はバランスを欠くという指摘もあり得ようが、立法上の課題であろう。

本件では、最終的に権利の評価において、権利の契約金額ではなく、一定の評価を行い、権利の評価を行う形での結論を導いているが、このような点が実務上は重要な論点になるのであろう。未確定な存在であるがゆえに、評価を実施することは非常に困難であるという点を言うだけでは問題が解決せず、具体的な評価方法をいかにとらえるのか、客観的な交換価値という法令解釈との整合性の課題も含め、近年の多様な資産環境においてはこの点を如何に確定させるのかという点は実務をつかさどるうえでは欠かすことのできない視点であるように思われる。

本件は相続税の基本となる相続財産の範囲及び評価という事例が混在している事例であり、有力な事例研究のティーチングケースとしてとらえることができるものと考えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2021年6月14日月曜日

判例裁決紹介(令和2年3月10日、修繕費の前倒し計上と仮装)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月10日裁決で、損金として前倒し算入した修繕費の計上が仮装に該当するのか否かという点が争点となり、課税庁の主張が排斥され、認められず納税者の主張が認められた最近では珍しい事例です。

本件は事案としてはシンプルで、請求人が法人の損金として算入した修繕費に関して、調査により年度末において未着工であるとして請求書等の日付に基づき損金として計上した処理は、事実の状況と異なる請求書等の発行を促し、経理処理、申告処理を行っているとして、仮装隠蔽に該当するものであるとした課税庁の処分を不服として提起された事例であり、この事実関係における仮装として評価されうるものであるのかという事実関係の認定が中心的な課題となっているものである。

結論として裁決段階において、課税庁の主張が排斥され、仮装行為が成立していないとした判断である。この点は、本件の事実関係は請求書等に記載情報と実態の乖離、そして請求書等に基づく申告という、非常に一般的な事案が租税となっているものであり、どのような点が仮装としての評価にまで至らないものと評価されるのかという点を考える上では、実務上も参考となるものではないだろうか。

本件では年度内の日付が付与された請求書等の準備及び帳簿への虚偽の記載が主たる争点となっている。
まず、請求書の準備に関しては、施工業者が準備段階に入った段階で提出されたものであり、納税者から請求書の記載等を求めた通謀虚偽があったとまでは認められないとの評価であり、納税者と施工業者との間での通謀関係があるのか否かという側面から係る点の証拠等の提出がないことが判断の要因となっている。必ずしも準備段階において日付を付与した請求書の発行は便宜的なものであり、不自然であるとまでは評価し難いとの民事的な判断がベースになっている。

また、帳簿への記載に関しても納税者は関与しておらず、税務代理人が会計処理を行ったものであるという点を基本に(我が国の現況法人は大部分はここに該当することになるだろうが)、納税者に対して当該修繕費が損金対象とはならないとの認識があったものとは言い難いという点が評価されている。テクニカルな点において納税者が損金等の知見を有しているような状況は想定し難いものであるが、代理人の行為と納税者の行為を分断しているようにも捉えられる。税務代理という点は、現実的に通常の代理とは異なるものと評価しうるのかという点は気になるところであるが、このような租税専門家が関与するような状況はごく日常的なものであり、係るような背景から会計処理等における納税者の関与をどのように評価していくのか、仮装行為においては本件は検討の素材となるだろう。

いずれにしても、仮装という行為において重加算税を賦課することは、故意に事実を歪曲するような状態を基礎としている法解釈を背景としており、故意であるとの評価がなされるような事実関係にあるものではない、特に税務代理人が関与しているごく一般的な事実関係において、このような故意の成立を否定している判断の枠組み、行為と会計処理の両側面から判断していることはティーチングケースとして参考となる事例ではないだろうか。

以上です。毎回の如く備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに

2021年6月2日水曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年3月26日、法人代取の個人的費消と交際費否認)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年3月26日判決で、原告法人の代取が個人的に費消した交際費が否認された事例です。

具体的には、パチンコ等の複数の原告法人の代取が支出したクラブ(銀座らしいです)、ホステスさんとの同伴に関する経費(6000万超、一回あたり20万円を超えるらしい)を法人の損金として計上していた事につき、かかる経費は、法人の業務とは関連がない、個人的な費消であり、法人の損金としては認められないものであり、法人調査の指摘による貸付金への振替も含め、仮想隠蔽に当たるとして重加算税の賦課決定処分が行われたことを不服として提起された事例である。

法令解釈としては特段珍しいものではなく、修正申告における貸付金への修正、振替そのものも重加算税の対象としている点は珍しいものであるようにも考えられるが、本件はクラブホステスとの個人的な費消に関する費用を法人の損金として、特に交際費として適合するものであるのかという点が中心的な課題となっている事例であろう。時代錯誤のような事例でもあるように捉えられるところでもあるが、本件はこのような事実関係が未だに特段珍しいものではない点を楽しむべき、事案として理解されるべきであろう。

このような法人と個人の境界が曖昧なまま運営されているビジネス環境は特段珍しくないという点は、程度の差もあるところであるが、我が国の法人の大多数が中小法人であり、また赤字であることが大半とされていても、実態はこの種の私的費用が介在していることを租税に関わるものとして再認識すべきだろう。この辺がきれいな世界ではあまり想定されないところだろうし、租税に関わって初めて目にするところで、テキストではかかれない租税の世界の面白い、人間臭いところだと言えよう(生まれたときからどっぷり使っている私としては当たり前の感覚で、こんなところが俗世間にまみれている法律屋と呼ばれるだとは思うが)。

より具体的な主張においては、非常に多数のウイスキーが注文されていることが複数人による交際の証であるとか(原告主張)、法人の役員である代取の妻にホステスの写真(そもそもこのような写真まで準備するんだ・・・と思うが)を見せて交際費として確認しないとと課税庁の職員が発言していることが違法な調査に当たるとの主張がなされている点などは、実務での、現場でのやり取りが垣間見えるものであり、正直、読んでいてニヤッとしています(不謹慎ですが)。

何れにせよ朝一番に読むべき案件ではないようには思うが、我が国の租税の世界での事実関係の典型として理解されるべき事案ではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年5月26日水曜日

判例裁決紹介平成31年1月11日裁決(相続財産としての同族会社への貸付金の評価)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年1月11日で、同族会社への貸付金を相続により取得した場合における、財産評価、一部回収不能であるのか否かという点が課題となった事例です。

具体的には、本件は相続により請求人が取得した同族会社への貸付金をその相続税申告において計上せず、のちの調査によってかかる貸付金債権は、回収が不可能である、不能であるものであるとして評価を行うことはできないとして、更正処分が行われたことを不服として、特に一部は回収不能であることは明らかであるとして提起された事例である。

このような同族会社への貸付金は、いわゆる役員借入金として実務上、特に法人税法の世界ではごく当たり前に存在するものであろうが、これが相続税の財産評価においては、非常に厳格な評価(正直言うと、単に額面で評価されるというだけとも言えますが、他の財産と比して相続時における評価の余地がないことは確かでしょう)、を適用されることで、相続税のマネジメントの観点からは課題となることをよく表している事例であるように思います。中小企業のMAや事業承継などが課題となるような時代において、このような内部的な債権債務の存在は、今後の税務上のリスクであるという認識は租税専門家として常に意識されるべきものであるように捉えられる。

基本的には、当該貸付金が回収可能であるのか、一部でも不能であるのかという点が争点となっているものであるが、法人の唯一の債務であることなどが考慮要因となって、実質的に事業継続の妨げにならず、もって、回収不能の判断を適用すべきではないという点が中心的な判断の要因となって請求人の請求を棄却している。租税法規の伝統でもあるが、同族会社という存在を前提とした評価の事例であり、単に貸付金の回収可能性を議論しているものではないという点が、単に額面評価にとどまらず、本件のような貸付金評価における実質的な評価を導いていることは改めてその重要性を再認識されるべきであろう。


(貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)

イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき

ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき

ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき

ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき

ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき

ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額

イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額

ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額

以上のように、本件の中心的な争点は、財産評価基本通達における貸付金の原則元本評価である。財産評価基本通達は明示的に元本金額をもって貸付金として評価することとしているが、ただし、一部例外的な処置として回収不能である状態における評価減を認めているものである。ここに実質的な判断の余地を設けて現実の状況との比較衡量を図っていることが実務上でも課題となっている。その例外的な措置は、厳格に考慮されるべきであり、これは時価における客観的価値を要求する法の趣旨に合致しているものであろう。したがって、同族会社への貸付金においても上記通達が厳密に適用されるだけではなく(単に形式的に通達の評価方法に依拠するのではなく)、同族会社という状況を反映させ、検討することは妨げられるべきものではないものと解される。係る点で法人の資産債務状況から回収不能であると言う形式的な評価がなされたとしても、同族会社としての性格を考慮して、他の債務(本件ではこの貸付金が唯一のものであるという認定)とのバランスから事業継続の妨げにならず、もって貸付金の評価に回収不能であることを反映させることは否定されている判断が導かれているものである。

このような貸付金を中心とした、債権の評価に関しては法人税における部分的貸し倒れも含め、従前問題とされることとなってきたが、本件では基本的にその判断基準は整合的であるように評価される(特に全体の回収可能性を追求している点は)。予測可能性や安定性の側面からは係る点からは、法人税法と整合的に回収可能性による評価を中軸に貸付債権の評価を行うこととなり、部分的な評価により一部回収が不能であるという点を相続財産の評価においてカウントすることは困難であろう。しかしながら租税法規特に、相続税と法人税法はその目的を異にするものであり、同一の評価軸をもって当たるべきであるのかという点から異論が出る可能性も考えられる。法人税法が条文をもって明確に評価損の計上を否定していることと対比するならば、相続税法において客観的な時価をベースに構築される判断の枠組みと整合的であるべきであるのかという点は、評価損に対する条文のあり方も含め、検討することも、政策論として実務上の負担も考慮されることになろうが、論点としてはあり得るのではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。

 

2021年5月18日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和2年6月25日、法人資金で費消した法人役員への給与認定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和2年6月25日で、法人代表者の妻で役員(副社長)でもある者が法人資金で費消した服飾品・宝飾品の購入が給与所得に該当するとして源泉徴収税の徴収及び仕入税額控除の適用が行われた事例です。

具体的には、リサイクル業務等を行う原告法人(同族会社)において、支出した(交際費として処理、調査後、貸付金処理)金額(服飾品、宝石等)を、個人の受益に属するものであるとして、役員の報酬(給与所得)であるとして、法人における源泉徴収及び、仕入税額控除の否定が行われたことを不服としているものである。金額的に非常に多額(3年間で6億超)である案件であり、この種の法人(特に同族会社)における個人的な費消における給与認定は従前より珍しくないものであるが、このような事例が訴訟で争われることは珍しい(正直今でもこのような多額な公私混同のような支出が行われることがあるんだという印象)。このような社内交際費に該当する事例は、従来は交際費としての該当性が課題となることも多かったが現在は交際費制度の変化もあり、給与認定、給与課税されるものであるのか否かという点が主たる争点となっているものである。実務に携わっている人であれば、このような認定を行う事例は大なり小なりごく当然のように見かけるものであろうが(意外と個人的な費消が給与課税されるという思考が理解が一般にはないだろうが)、法令解釈としては特段珍しいものではなく、よりも事実関係、トレーニングケースとして取り扱うべき案件であろう。本件は事実関係、主張(旦那である代表取締役が外商に売らないように頼む、当人の弁解としての必要性主張)等を興味深く読むべき案件であろう。

本件では理由提示に関しても争いがある。判示では、判断の基礎となった間接事実や補助事実までも詳細に書く必要はなく、判断基準や処分の根拠を提示することを求めている。私見としても、提示の趣旨は、基本的に恣意的な課税処分を抑える目的を持つものであり、訴訟等の救済措置への対応は便宜的にとどまるものと解され、間接事実や補助事実までも詳細に書くべき必要があるものとは考えがたいものと捉えられる。間接事実や補助事実がいかなるものであるのかという点、どのようなものを指すものであるのかという点は必ずしも定かではないが、基本的に判断の根拠や判断プロセスとなる通達等の提示がなされていることで、理由提示に不足はないものと解するべきであろう。

また本件では、立証のプロセス、判決のプロセスに着目するべきであろう。
調査段階での指摘から本件のような貸付金としての主張も行っているが(最近は消費税の観点からもこのような貸付金処理も流行らなくなっているだろうが)、殆ど考慮されていない。初期段階での交際費等としていた点において、贈答者がいかなるものであるのか不明である点をまずは認定し、この段階での交際費としての該当性を否定した上で役員たる地位に基づいているものであるのか、職務内容や権限等の観点から、給与として職務執行の対価としての給与認定を行っている。以前福岡での判決にもあったように、社内交際費としての認定は、変化しているものであるが、帰属が特定の個人に明確であるような場合においてはこの給与認定が課題となることは今後も重要な点であろう。特に消費税がその位置づけを増す現況においては、給与認定と交際費としての認定においてはその租税負担において大きなさいが生じることは明らかであり、本件は非常に金銭的に多額の事例であるが、法人代表者による個人的費消の扱いは慎重な対応が求められるべきものであろう。

判示では、交際費としての否定には、相手先の特定がまずは重要な判断材料としている。交際費としての処理への対応であるが、近年はこのような相手先の不明瞭、判別が困難であるような場合の損金否認が増加している傾向にあり、消費税の適格請求書も視野に入れられているようでもあるが、課税調査における視点が従来の実質的な部分を重視することも減ってはいないものの、形式的とはいえ、損金の支出という部分の立証、証拠の保存がキーとなっていることは留意されるべきである。原告の主張は、経営者としての交際の必要性、理由(交際のためきちんとした格好をしていなければならない、多様な人と損してでも交際するなどの)主張がなされているが、この点は判示では重要視されていない。所得税の必要経費の主張でも垣間見られるものであるが、概して法人経営者の主観的な判断に依拠したものであり、相手先の特定などの客観的な判断を重要している点は租税実務家としては留意されるべきものである。

なお、最終的な給与認定に関しては、法人役員としての職務内容の幅が広いことと、給与所得の従前の解釈から整合的であり、役員個人への帰属が明確である以上は、係る認定を覆すことは現行の法解釈からは困難である。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



 

2021年5月10日月曜日

判例裁決紹介(宇都宮地判令和元年7月3日、給与支払の実態の欠如と源泉徴収税還付申告)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は宇都宮地判令和元年7月3日で、源泉徴収の還付を求めた原告の訴えを給与支払いの実態がないとして、否認した事例です。
具体的には原告(個人)が休眠状態の法人(太陽光、破綻し信用保証協会からの弁償を受けている段階、元代表取締役で解任済み)から給与を受け取っていたとして確定申告において源泉徴収額の還付申告を行ったものであり、課税庁が当該法人は休眠状態で稼働の実態がなく(未申告)、源泉徴収の対象となる給与支払の実態が存在しないとして、背原告の請求の退けたことを不服として提起されたものである。

破綻に伴う係争が行われ活動実態がない法人の支払に関するもので(そもそも代表取締役を解任された者に対する支払いがあるのかという基本的な疑問あるが)、基本的には報酬支払の事実関係が存在しているのか否かという事実関係の問題であるが、給与支払の台帳などを提示して源泉徴収の還付を求める事案であり、いかなる所以があってこのような請求を行ったのか疑問を覚えるものであるが、口座のやり取りや支払者の状況等、多方面からの事実関係の認定により係る支払の事実関係を否定している点は、いささか特殊な事案であるようにも捉えられるが租税の実務家としてはトレーニングケースとして参考となろう。


給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
 給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。

以上のように本件の基本的な争点は給与所得の原因となる報酬の支払など、給与所得の実態が発生しているものであるのか否かという点が争われているものである。本件では従来の給与所得の判例と整合し、上記給与所得の法令解釈として給与としての形式的な支払に限らず、雇用契約類似の契約を基礎に労務の対価として提供された指揮命令等の存在が課題であるとして以下のように判示している。

「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命
令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。な
お、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何ら
かの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務
の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか(マ
マ)重視されなければならない。」(最高裁昭和56年4月24日第二
小法廷判決・民集35巻3号672頁)

判事では上記の判例に則り、要件事実として(あまりこのような表現は従前表現されなかったものであるが)、

「「給与所得」の支給があったといえるためには、①当
該給与支給者との関係で、空間的・時間的な拘束を生じさせる雇用又はこ
れに類する何らかの原因関係が存在していること(要件①)、②かかる雇
用契約等に基づき継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がされている
こと(要件②)、そして③かかる労務又は役務提供の対価として上記給与
支給者から一定の給付がされた事実があること(要件③)
を要件として満
たす必要があると解されるから、被告は、これらの要件事実のいずれかが
不存在であることを主張・立証する必要があるものと解され、かつ、それ
で足りるもの
というべきである」

として明確に不存在の局面における立証の材料を明らかとしている点は特徴的である。
給与台帳による支払の証明を限定的に捉え、給与所得の基本的な性格から必要となる立証の範囲を明らかとしており、本件でも特に給与支払の実態や継続的な労務の提供等が不存在であるとの認定が中心となっており、租税法規の特質でもある実態をベースに判断を行っている点は今後の参考として捉えられるのではないだろうか。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年5月7日金曜日

判例裁決紹介(新潟地判令和2年3月26日、リゾートマンションの固定資産税評価額と実態の乖離)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は新潟地判令和2年3月26日で、地方部に整備されたリゾートマンションの固定資産税評価額に対して、周辺での売買価格より大幅な高額な評価額であり、係る評価に基づく固定資産税評価額が是正されるべきであるとして提起された事例です。

具体的にはリゾートマンションの所有者である原告(居住しておらず、15年以上訪れていないような状況で、扉を開けるなどが困難な損耗が見られるもの)が固定資産税評価額を付与した魚沼市を提起したものであり、固定資産税評価額が課題とされている事例である。近年社会問題となりつつある、地方部の限界的な集落や不動産家屋の負動産として扱われるような状況、空き家問題が議論されているところですが、廃棄寸前の空き家などの存在がクローズアップされている点は周知のとおり。新規供給が途絶えることがない(推進している現況において一方で人口減少の影響から特に地方部で家屋自体が課題となっているものであり、この点が不動産評価においても顕在化しつつある現況をよく表しているものであると評価される事例であろう。従来は、一軒家を中心とした家屋の問題が中心でしたが、マンション、特にこのようなマンションが今後において問題になりつつあるのが我々の最近の見方ではないだろうか。一軒家に比して解体コストや管理コスト、意思決定、周辺への外部効果の大きさなどから影響が大きなマンションなどの区分所有建物ですが、地方では大した量は供給されていないとの見方が支配的だったが、どうも使用されている建材の危険性も含め、地方での老朽化した建物の存在は大きな課題になりそうである。10年後の家屋関係を考える審議会にいますが、家屋評価も含め、このような存在をどのように扱っていくのか、という点が我々世代の課題になるのでしょう。老朽化した団地などは廃墟としかならないように思いますが反射的な反対も含め、地域課題としては間近に迫っているようです(利活用も提案されていますが、おそらく区分所有は難しいでしょう、一軒家には行政の資金が入ることになりましたが、拡大するような気がしてなりません、一斉建築の弊害です)。

このような社会背景となっている現況が典型的に現れているのが本件のリゾートマンションの評価額であり、本件のような事例が今後も継続することでしょう。特に地方税担当の部署においては、このような存在に対する評価の課題が、所有者が近隣にいないことも含め、継続的に対応していくことになりそうです。リゾートマンションという実需から離れたところにある建築物に対しては早めに顕在化しつつあるのであろうが、老朽化している点も含め、需要の対象が高齢化により変化している点は不動産の評価に反映される点において課題が発生していると考えられる。スキーなどのレジャー自体がその影響力を失いつつあり(私は生まれは北陸ですが、あまり興味ないです、なんで寒いときにわざわざ寒いところにいくのでしょうというタイプです。こたつぬくぬくが至高です)、周辺環境の変化が市場取引に影響を与えている点は回避し難いのは本件がよく表している。周辺の建物が10万円でも売却されない状況が生まれつつある点は特徴的であろう。このような建物に固定資産課税台帳の価格が150万との評価が付与されている点は今後このような問題が独発することを想起させる。市場において取引されている場合であれば、近隣価格として参考とすべき点はいえようが、需要が減退し取引が成立しない点が問題となる。都市部においては高騰する不動産価格の現状がありながら、大多数の地方部において不動産価格の減少、市場取引が成立しない環境(このような二極化している点が今後の特徴であろう)を、今後は前提として評価の原則を構築していかねばならない現状に至っているのではないだろうか。

少し判例から離れた立法論とならざるを得ないが、現況は固定資産評価基準に枠組みにおいて評価の是非を争うほかない。本件も減点補正の対象となる特別の事情があるのか否かという点が主たる論点となっているが、その成立を認めていない。主張が基本的に主観的な主張にとどまっているという点が原因とも考えられるが、市場取引が成立していない環境をどのように捉え固定資産税評価に反映させていくのかという点が今後の課題として発生することになる。現行法の制度、特に評価基準の中では本件のような市場取引が成立しない環境を反映させることは困難であると考えざるを得ない。

固定資産税の対象を時価として理解する点がそもそも問題であるようにも思われる。利用を前提とした家屋ではその取引は主観的な事情に依拠せざるを得ない点は否めないが、残存価格の規制も含め、評価基準は、そのベースとして地方税における応益、負担分任の反映がなされている点が忘却されているようにも捉えられる。改めて固定資産税の基本としてこのような応益性や負担分任の思想が反映されている点を再定義していくべきであろう。これと資産価値の反映が行われていることが固定資産税評価の大きな特徴であり、固定資産評価基準は実質において、市場取引が成立しないような不動産の状況をあまり想定していない。均衡ある評価と客観性の確保を重点におき、主観的な要因を排除しつつある評価基準の特徴と根本において地方税や固定資産税の特徴を反映している点が固定資産評価基準の現代的な意義、特徴となっているものであり、固定資産の需給事情の反映、減点補正における今日の社会環境の反映は、主観的な要因の排除の点から遅滞しているものと考えられ、今後の課題として、需給事情の反映における対象の拡大を如何に固定資産税評価基準に反映させていくのかという点が今後の課題となる。本件は、このような社会環境の変化を反映させる上で、重要な起点となるものと考えられよう。

相続登記の義務化や一部不動産の放棄の規程の導入など(管理費の前払いが必要であるようであるが)、地方税における固定資産評価に関する周辺環境の変化も始まっている。今後はこのような変化を反映して(おそらく固定資産税負担は他の費用に比して少ないことが多いのでまだ地方部の不動産は固定化されたままであろうが)、如何なる固定資産税評価の評価が合目的であるのか更に検討が必要であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですが、参考までに。

2021年4月19日月曜日

判例裁決紹介(令和元年5月30日裁決、定期同額給与の該当性、日当の最低支給額)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、病院の理事長に支給された宿直等の日当に関する規定の最低支給額をめぐる、定期同額給与に該当するのかいなかが争われた事例です。

具体的には本件は医療法人の理事長に対して支給された報酬において、宿直等の実務を行った際に支給される歩合の手当において設定されていた最低支給額を毎月支給していたことに対して、毎期一定額において支給されたものであるが、かかる支給は形式的には毎期同額の支給がなされているものの、支給規定は宿直等の特定の業務を行った際に、個別に付与されるものであり、毎期最低額が恒常的な状態で発生しているものとしても、これは定期同額給与には該当しないとした、更正処分を不服として提起された事例であり、この役員給与損金不算入制度の趣旨目的から主張がなされているものである。法人税法における役員給与の損金不算入は、不相当に高額であるのか否かという点を中心に多様な類型の事例が存在しているが、本件は、平成18年の改正において、改正された後の定期同額給与の該当性をめぐる事例であり、いささか特殊な給与の支給形態に起点を置くものであるが、本件のような手当が含有された報酬が支給されていることも多いものと考えられ、支給金額の一定であることのような形式的な状況に委ねるものではなく、定期同額給与の意義内容を考える上で実務上も参考となる事例であろう。定期同額給与の該当性をめぐる事案自体が珍しいものであるが、このような役員給与の損金不算入の規定は、法人税法特徴ともなるものであり、制度背景を考える上でも参考となろう。

(役員給与の損金不算入)
第三十四条 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)

以上のように本件は、支給実態としては毎期、規定の最低額を恒常的に支給していたものであるが、その支給要因が、歩合的な手当であることに着目して、その定期同額給与としての該当性を否定しているものである。歩合などの業績連動的な性格の強い報酬はそれを否定するものであるという本件の解釈がその背景にあるものと言えよう。上記のように、法は支給額が同額であることを起点としている法文になっており、実際の支給額が同額であることのみを要件としている、意図しているようにも読めるものであるが、支給要因、手当の規定の依拠した判断に基づく判断を行っている点が特徴的である。

請求人の主張としては平成18年改正前の状況を引用して、本件規定の趣旨が利益調整などの恣意的な課税を排除する趣旨にあるものであり、かかるような意図のない多少の変動等は許容されていたことをもとに、本件のような事実関係に基づく恒常的な状態で支給されていた手当等も定期同額給与に該当するものであるとした主張をしたものであるが、かかるような趣旨解釈は否定されている。私見としては本件は、このような趣旨解釈の適用の可能性を主張するのではなく、あくまでも法文の同額支給という文言に着目した論理展開であるほうが正当性があったように思料される(報酬規定に基づくものであり恣意性の介在する余地はないことも補足されるが)が、実務上は実際にこのような支給要因に着目した判断が行われているのかという点は更に検討したいところである。

法人税法における役員給与規制は法人税法の重要な特徴として、積み重ねられてきたものであるが、近年の業務の多様化などを背景に定期同額などの規定は(特に業績連動を中心に)、制度疲労を起こしているとの主張もあり得ようが(租税法規としては中立性に反しているとの主張はたしからしい)、これは立法に属する問題であり、今後の課題ではないだろうか。本件のような事例からも柔軟性にかける制度であり、職務執行の対価としての報酬の支払いまで制度趣旨を超えて否定しているような現況は問題であるように考えられよう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2021年4月14日水曜日

判例裁決紹介(福岡高判令和元年11月6日、架空仕入と立証責任)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和元年11月6日で、浜買いのような市場外での現金仕入を装った架空仕入とその立証の責任が争われた事例です。

具体的には水産物の加工会社である控訴人(原告、法人)が本社や営業所支店の所在各地で浜買いのような市場外での現金仕入を行ったとした確定申告につき、かかる仕入(4300回に及ぶと記録)が架空であるとして売上原価としての損金計上を否認されたことと不服として提起された事例である。水産物の市場外取引(浜買い)による慣例的な存在が明確に領収書も交付されないままで行われている現況を反映した(このような取引に対する適格請求書の存在がどの程度影響することになるのかという点は私見としては気になるところ、おそらく消滅することはないだろうが)、あるいはこれを利用したような取引が、帳簿上において記載されたことが契機となっている事例である。慣習的な取引の存在は実務家の皆さんのほうが了知であろうが、このような取引の存在が、繰り返される現況においては、本件のような帳簿の信憑性が問われる事になりかねない事例であることは留意されるべきであることを教えてくれる事例である。本件では法人税法の損金計上の是非飲みが問題とされており、消費税法上の保存等が争われたものではないが(おそらく、帳簿記載の信憑性や保存の問題で当該費用の肯定は困難であったであろうが)実務上、消費税の保存と損金計上は帳簿を通じて結びついており、本件で問題となった立証責任のアプローチが消費税においても適用されるものであるのかという点は興味深い。また、本件では取引の信憑性に関する主張が詳細に事実認定されており、実務に携わるものとしてトレーニング事例としても重要であろう。

本件では法人において架空のアルバイトによる人件費の計上を行う(この点は争いになっていない)、現金仕入と廃棄が併存しているなど不自然な取引が行われており、取引の信憑性、法人の帳簿記録に関する信憑性評価は極めて厳しいものとならざるを得ないが、本件控訴審では、大量の架空取引とされた更正処分の前提の現金仕入(4300回を超過する)、個々に関する取引の架空であることの立証が課税庁において不十分であるとして(概ね18%の取引に対する立証にとどまっており、この部分は課税庁の主張が認められているが)、更正処分の一部取り消しを行っているものである。18%の立証で全体を否定する課税庁の手法が否定された(確かに飛躍的ではある)ものである。

「そもそも、本件現金仕入れは、売上原価に関するものであるから、その
存否に係る主張立証責任は、被控訴人が負うものと解すべきで
ある。被控
訴人は、本件現金仕入れが全て架空であることを具体的に主張立証しなけ
ればならない。
しかし、被控訴人が本件現金仕入れに係る取引の不自然性、不合理性を
具体的に主張立証するのは、本件現金仕入れのうち約18.99%の取引
にとどまり、その余の約81.01%については、具体的な主張立証をし
ていない(原審における控訴人らの原告第1準備書面及び被控訴人の第3
準備書面等参照)。そうすると、この約81.01%の取引については、
いわゆる事実上の推定が適用される前提を欠くものといえる。
被控訴人は、本件物品出納帳の記載の全体としての信用性について、こ
れが低いものである旨縷々主張する。しかし、この主張は、控訴人らがし
た反証の証明力が低いということをいうにとどまるものであって、被控訴
人側の具体的な主張立証に替わるものではない。そして、本件現金仕入れ
のうちその不自然性、不合理性について具体的な指摘をしない約81.
01%の取引については、その取引のために支払われた控訴人らからの出
金やその取引に基づく売上げについても具体的に争っていない。」

本件では、上記のように売上原価に関するものであり、被控訴人が立証責任を負うものとしている。この点がまずは基礎となっている。如何なる程度の取引を立証すれば全体を裏付けるもの、推定を果たすものであるのかという点は裁判官に委ねられるべきものであるが、本件では、このような部分的な立証は必ずしも取引をベースとした損金計上の局面では妥当ではないものとされているものであろう。基礎となった立証責任が課税庁にある理由付けを本件では明確にしていないが、従前、質問検査などを背景に租税訴訟における立証責任は原則として課税庁にあるとした考えが基礎にあるものと言えよう。近年では、特に費用面において納税者にその立証責任を転換するケースが増加しているもの(私見としては帳簿記帳の促進、理由附記等の整備によって、一律に立証責任は課税庁にあるべきであるとした考え方は修正されるべきもので司法による適正な分配がなされるべきであると考えているが)であるが、かかる中で、明確に立証責任を高裁が課税庁に認めた本件の意義は今後の参考となるべきものであろう。

また、上記のように本件では法人税法の損金計上の是非が争われているが、一部の立証による帳簿全体の否定を、本件判示は否定的に捉えているようである。このような判断の枠組みが他の租税法規において肯定されるとした場合、特に消費税法においては如何に影響を及ぼすものであろうか。本件では必ずしも個々の取引の取引の是非存否を立証することを求めているものではないものと捉えられるが、膨大な取引を記録する帳簿において、租税法の適用を図る上では、個々の取引を立証することは現実的な措置なのであろうかという疑問が発生する。本件の判断が広く適用されるものであるとするならば帳簿の記録を否定することは(個々の取引を否定することの積み重ねとはいえ)負荷が高く、適正な課税の確保とのバランスにおいて均衡が課題となるのではないだろうか。特に消費税法においては、課税物件を個々の課税資産の譲渡等を対象としているものであり、適格請求書等の導入により、その保存が重要な判断の要素となってくる。立証の観点からも今後は適正な適格請求書の「保存」がますます重要性を帯びてくるものと考えられる。

以上です。毎度の如く備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2021年4月7日水曜日

判例裁決紹介(令和元年6月27日裁決、山林の貸付所得の人格なき社団への帰属)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月27日裁決で、山林の貸付による所得が山林所有者か、人格なき社団として森林管理組合にあるのかが争われた事例です。

山林に関する所得は、所得税法における所得の一つであるが、おそらく殆ど実務においてみる機会はないのが現状であろうが、本件は山林の貸付による所得がいかなる者に帰属するものであるのかという部分が課題となっているものである。山林所得の特殊性においても議論されるように、山林に関する所得は比較的長期間の時間軸をベースに構築される。このような中で関係者、特に本件のような地縁や周辺との関係によって構築された団体において、いかなる者に対して所得が帰属することになるのかという点で本件は興味深い事例であろう。おそらく時代の変化により、求められる管理なども変化しているのであり、当事者の関係、収益環境なども変化する中で、どのように所得の帰属を判断するべきであるのかという点は、法人税、所得税のように一種のフィクションとして年度を区切って納税を把握する環境とは相性が悪いものではないだろうか。本件は基本的な人格なき社団であることは特段議論が行われるものではなく、所有主と管理組合のいづれかにおいて所得が帰属するのかという部分が争いになっているものであるが、単年度ベースで所得の帰属関係が判断されているようにもみえ、より中心的にはこのような単年度ベースでの課税の構築が実態を反映できるものであるのかということが問われる点に特徴があるように捉えています(所得が実質的な帰属者を課税対象とすることから生じるものでもあるでしょうか。)。


第四章 所得の帰属に関する通則
(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように本件の中心的な争点は、人格なき社団としての森林管理組合と山林の所有者のいずれかが山林の貸付による所得を享受しているものであるのかという点である。基本的には事実認定の問題であるが、所得税法人税ともに実質的な所得の帰属者を課税対象としていることから、その判断において見解の相違が発生しているものである。人格なき社団が関与する場合は、このような所得の帰属をいかに判断されるべきであるのかという帰属をめぐる点も課題となることが多いが、本件はその典型的なケースであるように考えられる。

判断は、課税庁の主張を肯定し、人格なき社団において所得が帰属するという判断を導いているが、その判断の基礎は、事実関係において、資金や収益の管理状況をその基礎としておいている。法的な根拠を示さず、実質的な所得の帰属者を判断されているが、基本的には、上記の法人税法11条の実質所得者課税の原則をそのベースにおいているものであろう。判断や各主張にも表現されていないが。収益を享受するという側面をベースに法規程が整備されているが、本件判断も資金の管理をもとに帰属を判断しており、実質的な所得の帰属者においてはこの資金管理状況が一つのキーとなっていることは、他の帰属関係を争う事例と同様に、法的な権利者から実質的な所得者の認定(帰属)の判断において重要な点であろう。ただこの点において、山林を取り巻く環境や特性は殆ど考慮されていないことは指摘される。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年3月29日月曜日

判例裁決紹介(平成31年4月5日裁決、歯科技工における消費税の簡易区分)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、歯科技工業務に関する消費税の簡易課税の適用の際の業種区分、製造であるのかサービス業であるのかが争われた事例です。

具体的には、本件は、歯科技工所を営む法人である請求人が、その消費税の申告において簡易課税の適用を申請し(手続上の瑕疵はない)、第三種の製造業に当たるとして申告したところ、課税庁よりサービス業として第5種事業に該当するとして更正処分を受けたことから、これを不服として提起された事例である。

簡易課税の適用区分をめぐる事案は多いが、本件も日本標準産業分類を適用することの是非が中心的な争点となっている。歯科技工という業務が素材となっているものであるが、人的役務の提供におけるサービス業(そもそも法にサービス業という非常に曖昧な概念を導入している事自体が個人的には疑問)として如何に捉えられるべきであるのかという点は今後の社会情勢の変動から多様化、多発化する事例であり、今後の参考として留意されるべき事例であろう。

日本標準産業分類の利用は通達を根拠としているものであり、この是非が解釈として妥当であるのかどうかという点は、今後の残る疑問であろうが、そもそも業種業態
が多様化している現在において、このような簡易課税のアプローチ自身が岐路を迎えているのではないだろうか(そもそも適格請求書制度の導入によりこの制度自体の存在意義自体が疑われるべきものであろうが)。


(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
 当該事業者の当該課税期間の課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の六十に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)
 当該事業者の当該課税期間の特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条の二第一項に規定する特定課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額を控除した残額

以上のように本件は上記消費税法が定めるいわゆる簡易課税制度の適用における業種区分が課題とされているものである。実務上は日本標準産業分類が基礎となっていることが事実上の標準となっているものであり、特段疑われることがなく、適用されているところであろうが、具体的な法としては、下記のように施行令において、各種事業の定義が定められている。

 施行令
前各項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 第一種事業 卸売業をいう。
 第二種事業 小売業をいう。
 第三種事業 次に掲げる事業(前二号に掲げる事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)をいう。
 農業
 林業
 漁業
 鉱業
 建設業
 製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)
 電気業、ガス業、熱供給業及び水道業
 第五種事業 次に掲げる事業(前三号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
 運輸通信業
 金融業及び保険業
 サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)
 第六種事業 不動産業(前各号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
 第四種事業 前各号に掲げる事業以外の事業をいう。
 売上げに係る税抜対価の返還等の金額 法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額から同項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に七十八分の百を乗じて算出した金額を控除した金額をいう。
 前項第一号の卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとし、同項第二号の小売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業以外のものをいうものとする。

そもそも、この立法案自体が日本標準産業分類を前提として作成されたものであるとの意見もあろうが、サービス業やその他事業、製造業など具体的な意義が定まっていないものが導入されているものであり、多くの紛争事例が発生している要因の一つであろう。6号において、卸売と小売の境界となるべき基準は示されているが、他の区分における判断基準は、明瞭とされているものではない。上記のようにサービス業とは如何なるなものであるのか、必ずしも明確ではないだろう。事実上イメージに依拠した区分であり、金額的に少額なものを対象とするものであるとしても、制度として、執行において租税法律主義の観点から疑義が含まれるものであることは否めない。


イ 消費税法施行令第57条第5項第3号及び第4号は、第三種事業及び第五種事業に該当する業種を列挙するのみで、第三種事業及び第五種事業に
該当する各業種自体の内容を明らかにした定義規定は存在しておらず、「製造業」と「サービス業」の意味内容ないし用語例についても、必ずし
も一義的に解釈可能なほど明確な概念とまではいえないことから、「製造業」と「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに当たっては、簡
易課税制度における税負担の公平性等を考慮した上で解釈するのが相当である。

この点に関しては、判断は上記のように明確に定義がないことを示した上で、下記のように、日本標準産業分類の活用を肯定している。

ロ ところで、日本標準産業分類は、上記(1)のイの(イ)のとおり、統
計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において
社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての
経済活動を分類するものであり、統計の正確性と客観性を保持し、統計の
相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定されたものであるか
ら、課税政策に基づいて設定された消費税法上の事業区分とは目的を異に
するものでは
あるが、消費税法施行令第57条第5項第3号及び第4号に
掲げる業種(なお、「製造業」は同項第3号ヘに、「サービス業」は同項
第4号ハに掲げられている。)は日本標準産業分類の大分類に列挙されて
いる産業と一致している上、日本標準産業分類における分類は、社会通念
に基づく客観的なものであり普遍性
を有しているといえるから、簡易課税
制度を公平に適用するため
には、この産業分類が有用であるといえ、ある
事業が「製造業」又は「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに
当たり、普遍性を有する合理的な基準として日本標準産業分類を用いるこ
とは相当であるといえる。


上記のように、日本標準産業分類の政策目的は異なることを明確に表現し(この点は珍しい)、社会通念の観点から客観性を有している点を評価して、簡易課税制度の公平な適用を起点として肯定的に捉えているのである。裁決である以上当然であるかもしれないが、課税庁の基礎的な考えとして、公平な執行を基軸においている、判断の拠り所が不安定にならないことを目標としている点は留意されるべきであろう。この点において現行法の解釈としては正当性があるものと捉えられる。フェアの概念が基礎となっていることが主観的な納税者の判断に依拠することよりも合理的と考えられるのである。そもそも所得税法においても課題となることが多いが、近年は特に事業内容が多様化しており(人的役務の提供を主軸としたサービス業が増加していることがその一因だろう)、日本標準産業分類において捉えきれない、事業内容を如何に捉えられるべきであるのかという点が課題であるように捉えられる。

13-2-4 令第57条第5項第3号《事業の種類》の規定により第三種事業に該当することとされている農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業(自己の製造した商品を直接消費者に販売する事業をいう。以下13-2-6及び13-2-8の2において同じ。)を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業(以下「製造業等」という。)並びに同項第4号の規定により第五種事業に該当することとされている運輸通信業、金融業、保険業及びサービス業(以下「サービス業等」という。)並びに同項第5号の規定により第六種事業に該当することとされている不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する。
 この場合において、サービス業等とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる次の産業をいうものとし、また、不動産業とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる「不動産業、物品賃貸業」のうち、不動産業に該当するものをいう。

そもそもこの利用における根拠は上記のように基本通達である。分類を基礎としてという表現を活用している点は租税法規の関連にいるものとしては当たり前の表現であろうが、原則としつつも例外も許容されうるものである。今後の社会情勢の変化により登場するような事業においては、この例外をどのように判断の枠組に落とし込んでいくことになるのかという点が課題であり、製造等の文言に着目されることになるのではないか(例示としては水を採取することなども製造に該当することは有名だが)。日本標準産業分類の分類の活用自体が争点となるが、上記のように現行法としては適正な執行として係る対応は合理的であると評価されるものであり、本来ならば事例の積み重ねによってより詳細な判断枠組みが議論されるべきものであるが、日本標準産業分類の是非に関しての検討が中心であることは課題であると考えられる。実務では日本標準産業分類がベースになってしまっていて、金額的にも簡易課税であり、多くは問題にならないことが要因だろう。制度趣旨と消費税の負担分配の観点からは好ましい状況とは言い難いであろう。

しかしながら、今後は、適格請求書等の保存方式の導入により、また、比較的小規模な人的役務の提供者が増加し、最終的な消費税の負担者になることが予想される。このような状況においては、如何なるものが人的役務において、サービスと捉えられるのか、製造と捉えられるのか、この判断基準を明確化していく意義はあろう。

本件では最終的に、歯科技工においては(通常の職務内容から製造を行っていることは否定しがたいものの)法において定義された歯科技工士の職務において、医師の指示、発注書に基づいて提供される、加工の役務提供であり、医療行為の一環であるとして医療というサービス業(医療がサービスであることに異論があるかもしれないが)という分類とされている。歯科技工という法的に定義された職務内容からの判断であり、消費税が基本的に課税資産の譲渡等とベースとして個々の取引をベースに判断することとしている中では矛盾も感じるところでもあるが、所得税法における事業と同様に業務としての全体の枠組みから判断する流れを踏襲しており、製造業務に一部に着目した判断を回避している点は特徴的であろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。



2021年3月9日火曜日

判例裁決紹介(大阪高判令和2年10月16日、複数の公営ギャンブルによる所得区分、営利性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪高判令和2年10月16日で、以前書いたオートレースなどの複数の公営ギャンブルによる所得が一時所得であるのか否かという点が争点となっているものです。

具体的には、控訴人が、オートレースなどの複数の公営ギャンブルに関して行った大量の購入による所得が一時所得であるのか否か、特に地判では最終的な損益がマイナスになっている期もあり、営利性に欠けるとして一時所得からの離脱を認めていなかった事例である。本件判示でも地判が維持され、納税者の主張を棄却している。

本件は、基本的にソフトウェアの利用がなく、購入履歴が半分確認されることがない段階であったことが影響しているものであるが、購入に関する行為の状況が確認できず、一般的な購入方法との相違がノウハウや陳述に基づくものであって、明確に確定できないことから地裁では、損益の結果に着目し、一時所得からの離脱要件である営利性を有しているのな否かという点が主たる争点とされていた。

高裁では、かかるように鋭利性を中心的なものとする判断枠組みを批判する納税者の主張に対して、下記のように捉え、但し、上記と同様に購入の状況が不明であり、かかる点から客観的な資料として損益の状況を捉えているとして地判を肯定している。

「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であると解されるところ、これらの考慮要素は、総合して考慮されるのであって、その間に優劣はないというべきである。

車券等の払戻金は、本来的には、偶然性に左右される性質の所得であり、車券等の購入行為が大量に反復継続されたからといって、直ちに営利を目的とする継続的行為
になるわけではない。それが営利を目的とする継続的行為と評価されるためには、一連の行為の態様その他の状況等を総合考慮して、偶然性の要素が減殺され、客観的にみて利益が上がると期待し得る行為と認めることができなければならない」

網羅的な購入など、偶然性を減少させるための行為の態様が確定できないことから本件のように損益の状況に着目されることとなったものであるが、営利性の着地点として偶然性の要素が減殺されることが重要な判断の枠組みとなっていることが注目される。一時所得の基本的な理解から判断されて、偶発的な所得を対象とするものであるとの考えから導かれたものであろうが、営利性の判断の趣旨目的を偶然性の減殺に求め網羅的な購入等による統計的な理解が基軸になっているようにも考えられる(純粋に考えると最初から政府納入金が差し引かれているので偶然性の減殺があったとしても営利性が肯定されることにつながらないようにも考えられるのだが)。営利性イコール実際の損益のplusであるという理解がなされているものではないところは注目されるべきである。営利を目的とするという文言からもかかる点は肯定されよう。

今後は、このような営利性の判断の枠組みが、ギャンブルの行為に伴う所得以外の一時所得や所得税法における営利性の判断に関しても適用可能であるのかという点が重要であるように思われる。私見としては本件判断はギャンブルという偶然性が基底となった行為に最適化された判断であり、偶然性を減少させるような行為、営利性から裏付けられるものであるのかという判断が、一般的な理解となりうるものであるのか否定的であるが(一連の判断の射程は限定されるものではないか)、かかる点から考えれば、判例等で用いられている、事業所得における営利性とは些か方向性を異にするものであるのではないだろうかという認識であるが、より今後も所得税法における営利性の判断は如何になされるべきものであるのか注目していきたい。一時所得における偶発性偶然性をどのように捉えるべきであるのかという点もさらに検討したい。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年2月22日月曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月30日、役員給与の不相当に高額、抽出最高額の利用)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年1月30日で、役員給与の不相当性が争われたものです。

具体的には、原告たる法人(車両輸出入)が支給した代表取締役に対する報酬が、約1億円から約5億円程度にまで大幅に増加されたことを契機に、課税庁が不相当に高額な役員給与であるとして更正処分が行われたことを不服として提起された事例である。法人税法における不相当に高額な役員給与をめぐる問題は、その具体的な不相当額の算定、抽出方法、、制度趣旨の変化、比較対象情報の入手方法やデータの信憑性等、多様な争点が従前積み重ねられているものである。古いくて新しい問題であるといえようが本件もその類型に属するものであるが、近年、また少しずつ増加傾向にある役員給与への不相当額の算定(おそらくは、団塊の世代が70代を迎えつつあり、創業者として活躍してきた層が退職する退職金の問題が多いのであろうが)の中で、近年の事情に合わせた判断を行っている点で、実務的にも参考となる事例であろう。特に本件は、詳細な事実認定が行われており、不相当性の認定の端緒となる、売上の変化や、収益率の低下、役員報酬の変化等を丹念に認定されている点は、参考となるものと考えられる。


また、本件は、法令解釈等において、従来と特段特徴的なものはないが、役員が行っている業務や業績との関連から、対比対象として抽出された同業者の中(今回は5社)から、平均を取ることが事例としては多いものであるが、その業務や実績を加味して、抽出対象の中から最高額を持って比順対象として選抜している点は、興味深い。微妙な相違ではあろうが、課税庁が機械的に算定する抽出対象の平均をもって、対象とすることで、創業者や会社の状況等を加味したものであるとして、従来基本軸となっていたものではなく、業務や実績から、一部考慮要因を付け加えて、不相当額を認定している判断は、珍しいものと捉えられる。本件の個別的な判断であるのか、それとも、他の事例においても拡張可能であるのか、考慮要因の拡大や、個別事情の一定の加味の側面から、さらに、本件は検討課題とされる必要があるものであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2021年2月13日土曜日

判例裁決紹介(東京高判令和2年8月26日、消費税の調査拒否と保存)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年8月26日で、消費税の帳簿不提示と保存の意義が課題となった事例です。

具体的には、遊技場を経営する控訴人(法人)が課税庁の調査に対して、税理士や弁護士の指導により調査における忌避を繰り返し、もって帳簿等を提示せず、かかるゆえに、適正なタイミングでの提示が行われなかったとして、消費税法が定める仕入税額控除の保存要件を満たしていないとして仕入税額控除を否定した(金額が巨大で30億円以上)更正処分を受けたことにつき、提起された事例である。事実認定として再三に渡る調査要請に応じなかったことが帳簿不提示が継続し、従前の最判にある保存の意義から、適時保存、提示がないものとして、仕入税額控除が適用されないこととされているものである。本件は金額が非常に多額であり(あまりこの点は考慮すべきものではないのかもしれないが)著名なものであるが、、実質的な帳簿不提示、調査協力に対する懲罰的な位置づけになりつつある現況が非常によく現れている事例であろう。

法令解釈としては、最判が示した保存の意義の忠実に踏襲しており、特段特徴的なものであるとは考えにくい。このような懲罰、制裁的な要因を持つようになってきている現況は、租税の専門家としては改めて認識されるべきである。最判が出た当初は拡張的な解釈であるとして否定的な見解も多かったものであるが(最判である以上当然かも知れないが、)現行法の解釈として上記のような文言の意義を解する見解は、通説としても実務上の基準としても定着しているものといえよう。本件でも関与税理士等がかかるような批判的な見解を示して、対応措置を捉えているが、現行法の解釈としては覆し難く、立法によるほかないだろう。今後は、適格請求書保存方式が導入され、より形式的な請求書の保存が基礎となる以上(もちろん純粋なインボイスとは異なり、帳簿による補完を図ることは我が国の制度的特徴であろうが)、この保存要件の解釈及び、厳格な適用は維持されることが帳簿だけではなく適格請求書にも同趣旨で適用される基本軸となるだろう。仕入税額控除の本来の趣旨(強調する人は控除権として主張するのかもしれない)を鑑みれば、このような制度構成は否定的な意見もあり得ようが、インボイス、適格請求書による相互牽連が現状において必ずしも実効性を有していない以上、立法においても現行の保存要件は維持されることが妥当であるものと考えている。

いずれにしても、保存の解釈は最判が基軸であるべきであり、今後は、質問検査の行使と任意調査、受忍義務、調査忌避として、このような仕入税額控除の否認が実質的な制裁になっていることをどのように捉えていくのかという課題となるだろう。憲法論として、調査手続きの中でこのような実質的な制裁を課題と捉える見解もあり得る。本件でも主たる争点として、この仕入税額控除の非常に高額の否認は、他の保存が争われた事例と比して、課税庁による仕入税額控除に関する説示が欠けていたとして、他の事案とは異なり、適正な手続きに反しているとの主張、説明義務を尽くしていないとして調査手続違反を主張している。判示では、この点も納税者による調査への非協力でもって説明義務に関しては放棄されていると理解されている(説明義務は必ずしも常に要求されるものではなく、放棄がありえる)。おそらく実質的に何をもって放棄していると判断されることになるのかという点は今後の実務においては明らかにされていくべきだろう。

本件は他に特徴として、租税専門家である税理士や弁護士の関与が挙げられる。両者が攻撃的に調査拒否を行った、指示していたとして、納税者本人はマインドコントロール下にあったというような、不提示、調査拒否は納税者の真意ではないとの主張も控訴審では付け加えられているが、判示では申告納税方式の下において、税務職員が行う帳簿書類の検査に対し事業者がこれに応じることは、納税義務者の当然の義務であるから、として(質問検査の通説的理解からは外れるのではないか)かかる主張は排斥されている。このような主張自体は珍しいもので、租税専門家と納税者の信頼関係が改めて重要であり、専門家として納税負担等バランスの取れた判断が求められることも示唆されるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



 

2021年2月9日火曜日

判例裁決紹介(平成30年6月1日、印紙税における課税文書該当性、契約書内容と実態の乖離)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年6月1日裁決で、印紙税における課税文書としての該当性が契約書内容と実態の相違により争いになった事例です。

具体的には、本件は宗教法人たる請求人が不動産賃貸による駐車場施設の貸付を、設備を置く、事業形態において実施している(消費税法においても駐車場施設の貸付として処理されている)状況下において、提携事業者と作成された契約書に関して、課税文書に該当するのか否か(裁決例ではなぜか具体的な課税文書が何であるのかが黒塗りにされている)が課題となっているものである。契約書に記載された文言は、駐車場用地の貸付であり(設備の設置の許可も含む)、上記のように事業の実態は駐車場施設の貸付となっているような状況であり、契約書の文言、内容と事業実態が乖離している、齟齬があるような状況が本件の起点となっているものであり、これにより如何なるものを基礎に課税文書としての該当性を判断するのかという点が中心的な争点となっているものである。

印紙税は実務において、税理士の関与外でもあろうが、非常に形式的な判断が行われるものであり、課徴金も3倍とシンプルな構成となっている制度であるがゆえに、その紛争事例が表に出ることは稀であるが、本件は、その珍しいものであり、基本となる課税文書としての該当性を判断する上で、如何なる点を基準に置くべきであるのかという点が争点となっているものであり、重要であり、珍しいものであって実務においても参考となろう。

そもそも印紙税そのものが、文書を対象としているものであり、取引税として、消費税が登場している、あるいは電子化が進んでいる状況においてはもう時代遅れとなっているとの指摘もあるが(電子化において、すすめる誘引になると思うのだが)、未だに税収はほとんど変化がない(預金通帳などの存在があるからであろうが、これも現在は減ってきているだろう)。消費税よりもより純粋な取引に対する租税として、デジタル文書であっても課税対象として捉えるようなスタンプ税としての印紙税よりもより拡大した形で再構築されるべきであると考えているのではあるが(時代遅れと言われるかもしれないが)、取引税としての消費税を補完する上でフェアな租税制度の構築という視点からはその役割が期待されるものであると捉えているのであるが、近年では税制改正大綱でもあまり取り上げられる事がなくなりつつあり、地味ながら重要な税制として考えられる。

第3条 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。

2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。

以上のように本件は、契約書に書かれた内容(内容そのもの自体が争われているわけではない)と実際に行われている事業実態が乖離していることを起点としている。上記のように印紙税の基本通達は、その第3条において、文言の実質的意義(多くはこれがいかなるものであるのかという部分が争点となることが多いのであるが)による課税文書としての判断を解釈としている。印紙税そのものが形式的な部分を重視した、文書をその対処とするものであり、一方でフェアな課税を維持する上では上記のような、必ずしも文書の文言に依拠した判断に限定したものではないという枠組みは正当なものとして理解されている。

しかしながら、本件は、文書の記載内容ではなく、事業実態が文書記載と異なる点で、状況を異にする。

「印紙税は、特定の契約や権利等それ自体を課税対象とするものではなく、
これらの事項を証明する目的で作成された文書を課税文書とするものである
から、課税文書に該当するかどうかは、その文書に表されている事項に基づ
いて判断するべきであり、その文書に表されていない事項は、原則として判
断の要素に取り入れるべきではなく、
また、当事者の約束により文書の名称
や文言は種々の意味に用いられる可能性があることからすれば、単に文書の
名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的
な意義に基づいて判断するべき
ものと解される。」

裁決はこの点につき、上記のように判断をください、文書文言に原則的な判断を依拠するべきであり、一定の例外的なものとして、文言の実質的な意義を追求するものと解して通達の立場から(裁決である以上当然でもあるが)、納税者が主張するように、契約による実質的な事業実態も考慮すべきとした納税者の主張を排している。

上記の通達や裁決の判断は、契約書などの文書の判断を形式的な判断に加え、文書慣習等を総合的に判断するとしているが、これは確かに文書内容に必ずしも限定されているものではなく、実質的な実態も考慮対象となりうると言う主張が合理性を有するのかという点で本件は課題となっているものである。本件は契約の、文言記載事項が、事業実態と乖離する、契約によって実際に行われている事業活動が異なることとなっており、課税文書を基礎とする印紙税と消費税申告における取り扱いに差異が生じる結果となっている(消費税法上の取り扱いの妥当性については争われていないが、一定の客観性をもって実態が合致していることは否定し難いのであろう)。このような状況は予測可能性の確保を法の基本目的とする租税法規の取り扱いとして妥当であるのかという点が問題の中核と考えられる。

そもそも契約内容と実態が乖離すること自体が発生することに違和感を覚えるところでもあろうが(我が国の法文書、契約に対する意識が現れているともいえようが)、現実的には、このような状況の発生も大いに存在しうるものであろう(長期に渡る契約期間においては実態が乖離することも想定されよう、ここで、単に契約内容と異なることがそもそもおかしいというのは現実を本当に捉え考えていないのだろう)。

私見としても、課税物件が課税文書に限定されている、文書に焦点を当てた制度構成となっていることからも、その文書内容に関して総合的に判断して、列挙された文書としての該当性に検討を行うことと、文書以外の状況を反映させることは問題の性質が異なるものと捉える。文書の内容を超えて判断をすることは不確実な要因を考慮に入れることであり、法的な安定を書くことに繋がりかねない。印紙税がその基本的な趣旨として、文書の背景にある行為や契約自体そのものに租税を負担する能力を見出しているという点に立ち返れば(文書自体はそれを表章するものに過ぎないと考える立場からは)、契約の実態を反映させることは、趣旨に合致したものと捉えるべきという意見もあり得ようが、本来ならば実態との乖離すること自体が回避されるべきであり、いたずらに契約の文言を超えた判断は租税法律関係を不安定とするものであり、回避されるべき判断の枠組みであるだろう。


以上です。毎回のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。