2021年10月11日月曜日

判例裁決紹介(名古屋地判令和元年5月16日、外国籍者に対する給与支払いの事実)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判令和元年5月16日で、外国籍者の確定申告とことなる給与支払報告書の記述に基づいた更正処分の有効性が争点となった事例です。

具体的には、原告(ボリビア国籍)が平成18年の確定申告において、自己の収入を確定申告(期限後申告)したところ、当該確定申告において給与収入とされた金額が課税当局(税務署及び市税)に提出された給与支払報告書と相違があり、400円程度の給与収入が漏れていたことをもって、無申告加算税及び増額更正処分が行われたことにつき、当該記載漏れの金額は別人がなりすましたものであり、収入の事実はないものとして、処分の向こうを争ったものである。

複数箇所からの給与収入があり、給与支払報告書が提出されていたことが発端であるが原告の申告でも複数の箇所からの収入を得ていた事実は、認めており、ただし、申告給与収入とほぼ同額の金額(約400万円)が計上が漏れていたという点が基本的な事実関係として、問題の中心になっているものである。外国籍のいわゆる出稼ぎ労働であり、このような大幅収入を得ていることが不自然で勤務時間的にも給与支払報告書のような勤務状況は困難であることは合理的な主張であるようにも捉えられるところである(したがって、元同居人が原告を騙って働いていたという主張も一定の納得があろう)が、本件では、下記のように、平成18年の申告を争うものであり、申立期間をかなり超過しており、最判が示す処分の向こうを争うことができるものであるのか否かという判断枠組みの中で争う他ない状況に至っている。また、本件では、所々に更正処分等において翻訳が付与されていないという主張もなされており、かかるような点からも興味深い。

「無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないが、課税処分については、当該処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤があり、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に当該処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、当該過誤による瑕疵によって当該処分は無効となると解すべきである(最高裁昭和48年判決)

上記のように本件の中心的な争点は、不服申立期限を超過した本件のような更正処分等が、無効であるのか否かという点が中心的な争点となっている。かかる判断においては、上記最判の示すように、課税処分の特徴を考慮して重大かつ明白な瑕疵が処分において存在していることが基本的に要求され、原告等において不利益を甘受することが著しく不当であるというレベルでの状況が必要とされることとなる(例外として認められるのか否か)。この点において、本件のような一見合理的な主張であろうとも、給与支払報告の記載に基づく処分である以上、明白な瑕疵があることとして処分の無効を示すことは非常に困難であることになるだろう(これは日本国籍であろうとも同様)。

具体的な主張においても主張店点において不自然な点はあるものの、納税者の主張においても明確な他者による騙りがあったとの主張も推測にとどまるものであり、本件の事実関係においては判示がその処分の無効を認めなかったことはご合理的なものであるものと考えられる。

しかしながら、外国籍の者において特に、このような専門的な主張を、特に翻訳も付与されたものではない状況下において、適切に租税法規を理解して、対応できるというということは困難であり、立証責任を強く求められ、明白な瑕疵を要求される現行法の判断枠組みにおいて、適合的なもの、衡平にみて客観的に適正なものであるのかという指摘はあり得よう。本件のような状況では原告が実質的に救済の手続きを取ることが可能であるのかという点からは些か酷な状況であると考えてもやむを得ないものであろう。立法政策の範疇に入るものであるが、近年のようにグローバル化、外国籍の者が増加している現況、社会環境等を考慮するならば、今後は他の租税法規の適用や救済の手続き等の判断部分においてもこのような外国籍の者に対する考慮を租税法規において考慮するのか、具体的な事実関係、適用関係を争う局面では、課題となっていくのではないだろうか、本件は、社会環境の変化により、例外的な事情の判断枠組みや、グローバル化に伴う租税手続きの見直し、専門家の間で共有されている常識の見直し、再検討がも求められる必要があることを示唆する点で非常に興味深い判断であるように考えられる。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。


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