2021年12月4日土曜日

判例裁決紹介(函館地判令和元年5月15日、貸付債権の評価)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、函館地判令和元年5月15日で、相続財産における貸付金の評価が課題となっているものです。

本件は具体的には相続人たる原告が相続により取得した貸付金の評価が争点になっているものである。貸付金対象が相続発生後に実際に破綻した対象(精算)であり、最終的には金銭的な価値が喪失するような存在であって、元本金額である8000万で評価されるべきであるのか0評価であるべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。相続税において財産評価は基本的な論点であるが、その中心は株式と土地であることが多い。しかしながら意外と貸付金も紛争事例として上がってくる存在である。おそらく実務でも評価は比較的容易であることもあって、問題になることは少ないかもしれない(この辺は実務家に聞いてみたいところ)。おそらくは同族会社を中心とした対象への貸付金の有無が問題になることはあるだろうが対象企業の状況を反映して当該債権の評価が問題になるのが本件である。

貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)


以上のように、本件の中心的な争点は貸付債権の対象となる協同組合が、相続時点において、上記財産評価基本通達の評価額の引き下げの対象となっているのか否かという点である。実際に相続後数年立って、当該対象は破綻しており、事実的な裏付けがあるという点もあって、相続開始時点での評価額が課題になっていることが本件の起点だろう。基本的にはこの相続時点における状況が、回収不能性を有している、著しく困難であると評価されるかという点を対象とした事実関係の問題であろう。貸付金の評価は、基本的に上記のような状況でない限り、元本での評価が基本であり、この点が205通達の適用できるか否かの問題を大きくしている。

本件では、協同組合である貸付対象が相続時点で、継続的な赤字と、債務超過であり、追加の貸付による金融支援が実行されている状況にあったものであるが、

「個別に債権の回収率を算定して時価評価を行うべきこととすると、その評価が債務者の経営状況等必ずしも客観的一義的な評価方法が確立していない要素に左右され、納税者の恣意を許し、課税庁に過大な負担を強いることを踏まえ、貸付金債権等の評価方法として、原則として額面により評価し、例外として、評価通達205の列挙事由のように客観的に明白な事由が存在する場合に限り、その部分について元本の価額に算入しない取扱いをすることとしているものであって、同項の定めは、相続税法22条を具体的に適用する基準として合理的」

判示はこのように、貸付金の評価に対する通達評価の方法を肯定しており、納税者の恣意の排除などをその趣旨としていることを基本として、例外的な205通達の適用に関しては、列挙自由と同程度の客観的な明白な事由の存在を求めているものとして事実関係を評価している。

最終的には、相続開始時点では、まだ事業を継続しており、財務状況は非常に悪化しているものであるが、この点を元に客観的に破綻が明らかではないということで、205通達の適用が否定されている。事業の継続が重要な判断基準となっていることが読み取れる。最終的に破綻したことを考慮すれば、相続時点でも債務超過や赤字である状況を基礎に、評価の引き下げを求めることはごく当然でもあり、結果としては酷であるという点は、否めず、財産評価における貸付債権の留意が払われるべきことを示唆しているのではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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