さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年11月12日で、相続直前に借り入れ等を行って購入した不動産等に対する評価額における乖離に対して財産評価基本通達総則6項の適用が問題となった事例です。
具体的には、本件は相続人たる原告が相続により取得した(相続直前に15億借入、購入した高級マンション、短期間で売買を繰り返している)不動産に対して通達評価に基づく相続税申告額(借入債務は、債務控除適用)と不動産鑑定評価において大幅な乖離(約6億)あることから、財産評価基本通達総則6項(みんな大好き)の適用が行われ、評価額の引き直しとそれに基づく更正処分等を行ったことを不服とした事例である。事例としては最近特に適用が増加し紛争が起きている財産評価基本通達に基づく評価の機能不全(大幅な乖離)に伴う評価の引き直しが適当であるのか否かという点を中心的な争点とするものである。相続税の基本たる財産評価、特に最近適用事例が増加している(不毛と評価されることもあるが)いわゆる総則6項適用が問題とされている一連の類型に属するものである。短期間で対象不動産の売買を繰り返し、周辺とは乖離した相場の売買、資産状況(高級賃貸マンションで、入居者あり)等が考慮要因とされうるものであるが、総資産の3/4に当たる多額の借り入れを肺がんで入院中に実施し、相続対策のプランニングの意図が見え隠れするものであるが、かかるような事例の下、いかなる評価が適当であるのか(そもそも財産評価というよりはプラニングによる不当な租税負担の減少を捉えることが行われないのはなぜだろうか)、という税務事例として興味深いものであろう。
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
というように、古典的な総則6項の適用が課題視されているものである。古くて新しい問題であるが、著しく不適当とは如何なる状態を指すものであるのかという点が起点となっている。そもそも通達評価においては、短期間での売買や、相場の上昇を捉えることができないことは限界とも考えられるが、
この点については判示は、下記のように、
「評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは評価通達6の定めからも明らかである。すなわち、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当であり、このような「特別の事情」が存する場合とは、評価通達に定める評価方法を形式的・画一的に適用することによって、かえって納税者間の実質的な租税負担の公平が著しく害されることとなるような場合をいうものと解すべきである。」
として、実質的な租税負担の公平をその基本的な意図として総則6項を理解している。これに基づき、実質的な租税負担の公平性を損なうような特別の事情があるのか否か、という点に対して(上記のように通達評価の限界を主張するのではなく)、相続税負担の減少(3億円)、や総資産の相当割合の借入の実行など経済合理性の有無の観点から判断が行われている。
この特別な事情とは如何なるものであるのかという点は、従前同様本件でも必ずしも明確ではないものとも考えられるが、経済合理性の有無が判断基準となりうるのか(専ら租税回避の認定に使用されているようであるが)、という点は相続税が要求する時価の解釈として適当であるのかという点は検討が必要であろう(財産評価基本通達の趣旨も考慮して)。私見としては公平性を基礎としたものであり、安定性にかけるものであるように考えられるが、形式的平等、評価の均衡の観点とのバランスの問題であるのかもしれない。そもそも総則6項は予測可能性の保護の枠外であるとも評価しうるが、このように考えるならば通達にそのような根拠を置くべきではなく、法において、引き直しの根拠を明確とすべきであろう。
本件では、最終的には評価額の乖離に加え、事項された取引が相続直前の短期間に購入決定されている点などを考慮したプランニングの要因が特別な事情を裏付けているものと言えよう。金額の乖離そのものではなく、対象資産の取引環境などが考慮要因になって特別の事情の成立が裏付けられていることは改めて認識されるべきである。
0 件のコメント:
コメントを投稿