さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和2年6月25日で、法人代表者の妻で役員(副社長)でもある者が法人資金で費消した服飾品・宝飾品の購入が給与所得に該当するとして源泉徴収税の徴収及び仕入税額控除の適用が行われた事例です。
具体的には、リサイクル業務等を行う原告法人(同族会社)において、支出した(交際費として処理、調査後、貸付金処理)金額(服飾品、宝石等)を、個人の受益に属するものであるとして、役員の報酬(給与所得)であるとして、法人における源泉徴収及び、仕入税額控除の否定が行われたことを不服としているものである。金額的に非常に多額(3年間で6億超)である案件であり、この種の法人(特に同族会社)における個人的な費消における給与認定は従前より珍しくないものであるが、このような事例が訴訟で争われることは珍しい(正直今でもこのような多額な公私混同のような支出が行われることがあるんだという印象)。このような社内交際費に該当する事例は、従来は交際費としての該当性が課題となることも多かったが現在は交際費制度の変化もあり、給与認定、給与課税されるものであるのか否かという点が主たる争点となっているものである。実務に携わっている人であれば、このような認定を行う事例は大なり小なりごく当然のように見かけるものであろうが(意外と個人的な費消が給与課税されるという思考が理解が一般にはないだろうが)、法令解釈としては特段珍しいものではなく、よりも事実関係、トレーニングケースとして取り扱うべき案件であろう。本件は事実関係、主張(旦那である代表取締役が外商に売らないように頼む、当人の弁解としての必要性主張)等を興味深く読むべき案件であろう。
本件では理由提示に関しても争いがある。判示では、判断の基礎となった間接事実や補助事実までも詳細に書く必要はなく、判断基準や処分の根拠を提示することを求めている。私見としても、提示の趣旨は、基本的に恣意的な課税処分を抑える目的を持つものであり、訴訟等の救済措置への対応は便宜的にとどまるものと解され、間接事実や補助事実までも詳細に書くべき必要があるものとは考えがたいものと捉えられる。間接事実や補助事実がいかなるものであるのかという点、どのようなものを指すものであるのかという点は必ずしも定かではないが、基本的に判断の根拠や判断プロセスとなる通達等の提示がなされていることで、理由提示に不足はないものと解するべきであろう。
また本件では、立証のプロセス、判決のプロセスに着目するべきであろう。
調査段階での指摘から本件のような貸付金としての主張も行っているが(最近は消費税の観点からもこのような貸付金処理も流行らなくなっているだろうが)、殆ど考慮されていない。初期段階での交際費等としていた点において、贈答者がいかなるものであるのか不明である点をまずは認定し、この段階での交際費としての該当性を否定した上で役員たる地位に基づいているものであるのか、職務内容や権限等の観点から、給与として職務執行の対価としての給与認定を行っている。以前福岡での判決にもあったように、社内交際費としての認定は、変化しているものであるが、帰属が特定の個人に明確であるような場合においてはこの給与認定が課題となることは今後も重要な点であろう。特に消費税がその位置づけを増す現況においては、給与認定と交際費としての認定においてはその租税負担において大きなさいが生じることは明らかであり、本件は非常に金銭的に多額の事例であるが、法人代表者による個人的費消の扱いは慎重な対応が求められるべきものであろう。
判示では、交際費としての否定には、相手先の特定がまずは重要な判断材料としている。交際費としての処理への対応であるが、近年はこのような相手先の不明瞭、判別が困難であるような場合の損金否認が増加している傾向にあり、消費税の適格請求書も視野に入れられているようでもあるが、課税調査における視点が従来の実質的な部分を重視することも減ってはいないものの、形式的とはいえ、損金の支出という部分の立証、証拠の保存がキーとなっていることは留意されるべきである。原告の主張は、経営者としての交際の必要性、理由(交際のためきちんとした格好をしていなければならない、多様な人と損してでも交際するなどの)主張がなされているが、この点は判示では重要視されていない。所得税の必要経費の主張でも垣間見られるものであるが、概して法人経営者の主観的な判断に依拠したものであり、相手先の特定などの客観的な判断を重要している点は租税実務家としては留意されるべきものである。
なお、最終的な給与認定に関しては、法人役員としての職務内容の幅が広いことと、給与所得の従前の解釈から整合的であり、役員個人への帰属が明確である以上は、係る認定を覆すことは現行の法解釈からは困難である。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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