2021年4月14日水曜日

判例裁決紹介(福岡高判令和元年11月6日、架空仕入と立証責任)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和元年11月6日で、浜買いのような市場外での現金仕入を装った架空仕入とその立証の責任が争われた事例です。

具体的には水産物の加工会社である控訴人(原告、法人)が本社や営業所支店の所在各地で浜買いのような市場外での現金仕入を行ったとした確定申告につき、かかる仕入(4300回に及ぶと記録)が架空であるとして売上原価としての損金計上を否認されたことと不服として提起された事例である。水産物の市場外取引(浜買い)による慣例的な存在が明確に領収書も交付されないままで行われている現況を反映した(このような取引に対する適格請求書の存在がどの程度影響することになるのかという点は私見としては気になるところ、おそらく消滅することはないだろうが)、あるいはこれを利用したような取引が、帳簿上において記載されたことが契機となっている事例である。慣習的な取引の存在は実務家の皆さんのほうが了知であろうが、このような取引の存在が、繰り返される現況においては、本件のような帳簿の信憑性が問われる事になりかねない事例であることは留意されるべきであることを教えてくれる事例である。本件では法人税法の損金計上の是非飲みが問題とされており、消費税法上の保存等が争われたものではないが(おそらく、帳簿記載の信憑性や保存の問題で当該費用の肯定は困難であったであろうが)実務上、消費税の保存と損金計上は帳簿を通じて結びついており、本件で問題となった立証責任のアプローチが消費税においても適用されるものであるのかという点は興味深い。また、本件では取引の信憑性に関する主張が詳細に事実認定されており、実務に携わるものとしてトレーニング事例としても重要であろう。

本件では法人において架空のアルバイトによる人件費の計上を行う(この点は争いになっていない)、現金仕入と廃棄が併存しているなど不自然な取引が行われており、取引の信憑性、法人の帳簿記録に関する信憑性評価は極めて厳しいものとならざるを得ないが、本件控訴審では、大量の架空取引とされた更正処分の前提の現金仕入(4300回を超過する)、個々に関する取引の架空であることの立証が課税庁において不十分であるとして(概ね18%の取引に対する立証にとどまっており、この部分は課税庁の主張が認められているが)、更正処分の一部取り消しを行っているものである。18%の立証で全体を否定する課税庁の手法が否定された(確かに飛躍的ではある)ものである。

「そもそも、本件現金仕入れは、売上原価に関するものであるから、その
存否に係る主張立証責任は、被控訴人が負うものと解すべきで
ある。被控
訴人は、本件現金仕入れが全て架空であることを具体的に主張立証しなけ
ればならない。
しかし、被控訴人が本件現金仕入れに係る取引の不自然性、不合理性を
具体的に主張立証するのは、本件現金仕入れのうち約18.99%の取引
にとどまり、その余の約81.01%については、具体的な主張立証をし
ていない(原審における控訴人らの原告第1準備書面及び被控訴人の第3
準備書面等参照)。そうすると、この約81.01%の取引については、
いわゆる事実上の推定が適用される前提を欠くものといえる。
被控訴人は、本件物品出納帳の記載の全体としての信用性について、こ
れが低いものである旨縷々主張する。しかし、この主張は、控訴人らがし
た反証の証明力が低いということをいうにとどまるものであって、被控訴
人側の具体的な主張立証に替わるものではない。そして、本件現金仕入れ
のうちその不自然性、不合理性について具体的な指摘をしない約81.
01%の取引については、その取引のために支払われた控訴人らからの出
金やその取引に基づく売上げについても具体的に争っていない。」

本件では、上記のように売上原価に関するものであり、被控訴人が立証責任を負うものとしている。この点がまずは基礎となっている。如何なる程度の取引を立証すれば全体を裏付けるもの、推定を果たすものであるのかという点は裁判官に委ねられるべきものであるが、本件では、このような部分的な立証は必ずしも取引をベースとした損金計上の局面では妥当ではないものとされているものであろう。基礎となった立証責任が課税庁にある理由付けを本件では明確にしていないが、従前、質問検査などを背景に租税訴訟における立証責任は原則として課税庁にあるとした考えが基礎にあるものと言えよう。近年では、特に費用面において納税者にその立証責任を転換するケースが増加しているもの(私見としては帳簿記帳の促進、理由附記等の整備によって、一律に立証責任は課税庁にあるべきであるとした考え方は修正されるべきもので司法による適正な分配がなされるべきであると考えているが)であるが、かかる中で、明確に立証責任を高裁が課税庁に認めた本件の意義は今後の参考となるべきものであろう。

また、上記のように本件では法人税法の損金計上の是非が争われているが、一部の立証による帳簿全体の否定を、本件判示は否定的に捉えているようである。このような判断の枠組みが他の租税法規において肯定されるとした場合、特に消費税法においては如何に影響を及ぼすものであろうか。本件では必ずしも個々の取引の取引の是非存否を立証することを求めているものではないものと捉えられるが、膨大な取引を記録する帳簿において、租税法の適用を図る上では、個々の取引を立証することは現実的な措置なのであろうかという疑問が発生する。本件の判断が広く適用されるものであるとするならば帳簿の記録を否定することは(個々の取引を否定することの積み重ねとはいえ)負荷が高く、適正な課税の確保とのバランスにおいて均衡が課題となるのではないだろうか。特に消費税法においては、課税物件を個々の課税資産の譲渡等を対象としているものであり、適格請求書等の導入により、その保存が重要な判断の要素となってくる。立証の観点からも今後は適正な適格請求書の「保存」がますます重要性を帯びてくるものと考えられる。

以上です。毎度の如く備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



0 件のコメント:

コメントを投稿