2021年11月1日月曜日

判例裁決紹介(令和2年12月15日裁決、みなし役員の認定、役員退職金の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年12月15日裁決で、退職金の損金算入を否定する退職の事実関係や、みなし役員としての認定が基本的な争点となった事例です。

具体的には本件は、法人たる請求人がH24年に退職したとした(登記も完了した)代表取締役に対して支給した退職金(約7億)の損金としての該当性が問題になったものである。総額で約7億を超過する(金額としては欠損金の適用と整合させているとの主張もみられるが)金員の損金該当性が問題になった事例であり、他にも送達の有効性や処分理由の提示の課題も争点として扱われているが、基本的に退職金の支給の前提となる退職の事実があるのか否か、すなわち退職したとした日以降も実質的に経営に従事、関与していたのか否か(みなし役員として該当するのか否か)という点が中心的な争点となっているものである。対象となった元代取は、退職後にシンガポールに移住し、実質的に経営状況に如何にして関与しているのか(後任は妻と娘)、という点が如何にして認定されるのかという点が重要な点であろう。

通常、役員退職金が争点となる場合は、本件の退職の事実関係が争われるものと、退職金の相当額が争われるものであるが、本件では7億を超える支給でありながら、相当額に関しては争点としていない。この点は何かしら理由があったものであろうが、いささか不自然であろう。何れにせよ本件は、本件の事実関係において法的評価として退職したものと評価できるものであるのか否かという点が問題であり、かかる点からは古典的な論点でもある。しかしながら詳細な事実関係の認定を通じて、国外転居や遠隔地からの経営参加状況など現代的な役員退職金の判断状況が見いだされている点は特徴的でもあり、今後の実務においても参考となるべきものであろう。端的に課税庁が主張した実質的な経営に従事しているとした判断の枠組みに対する主張が全面的に排斥されている点も興味深い点と考えられる。

法人税法第2条
十五 役員 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。

以上のように、本件の中心的な争点は、退職金の支給対象となった元代取が、形式的には退職していたとしても(登記等で確定)、上記法人税法2条のいわゆるみなし役員に該当して、実質的に退職していないもの評価される状況であるのか否かという点が論点となっている(厳密には職務分掌の変更も問題となりうるが、今回は対象となっていない)。

すなわち経営に従事しているのか否かという点が、如何に解釈されるべきものであるのかという点が法令解釈上のベースとなっている。

「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。そこで、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるか」

一見すると経営に従事とは、シンプルな要件であるが、経営という用語は多義的であり、包括的な行為を指し示すことから不確定概念であり、その判断は必ずしも容易ではない。本件も総合的に経営に従事しているものであるのか(特に遠隔地に居住している点が近年にはない状況であろう)、という点から事実関係の評価が争いになっているものである。本件判断では、上記のように経営においては事業運営上の重要事項に参画しているという点がメルクマールとして示されているが、重要性をどのように理解するかなど、いささか不安定な要件であり、退職の事実を指し示すように準備を整える上で(本件のように7億を超える退職金の支給においては当然のように準備が行われ検討されているだろう)、立証の課題がつきまとう。

特に本件のような所有と経営の分離がかならずしも徹底されていない中小企業では(特に我が国の場合は、)株主としての権限、意思決定が経営と密接に結びついていてその従事関係を判断することは困難である。私見としては株主としての位置づけがある以上、経営への関与が想定され退職の事実を実質的に認めがたい可能性があるようにも考えているが、経営に従事すなわち重要事項に関与しているのか認定する方法は本件でも安定的ではない。

最終的に課税庁の主張する経営会議への参加や指示、金融機関との交渉、新規事業への参入の意思決定等の側面において、必ずしも元代取の関与が認定されず、本件は客観的には関与が明らかではないとして課税庁の主張を排斥し、損金性を肯定している。このような事実関係の評価の観点も本件において重要であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


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