2021年6月22日火曜日

判例裁決紹介(平成31年4月19日裁決、条件未達成の権利の相続財産該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年4月19日裁決で、請求人が相続により取得した和解による和解金を受領すべき権利(債権)が和解の条件を未達成であり、かかるような状況でも相続財産に該当するのかという点が争点となったものである。

具体的には、本件は請求人たる相続人が当該相続税申告において、未申告であった被相続人が受領する和解金の権利が、相続時点において、支払を受ける条件を未達成であり、いわゆる(停止条件付権利)であって、相続財産を構成するものではないとしていたものに対して調査により、当該権利も相続税を構成するものであるとした処分が行われ、不服を提起したものである。

本件ではいわゆる相続税における基本となる相続財産がいかなる範囲であるのか、課題となる権利が相続財産を構成するか否かという点が争点となっているものである。本件は、和解金の受領という(10億)という停止条件付の権利であり、相続時において、和解の条件が達成されるか否か、未確定であり、条件未達成の状態にあったものである。この権利を相続対象に含めるべきであるのか(おそらく一般の納税者の感覚ではこのような曖昧模糊として権利はその対象とすることに違和感があるのであろう)、そしていかに評価されるべきであるのかという点が中心的な争点になったものである。相続財産の範囲の確定はごく基本となるべきものであり、租税の専門家においては当たり前であるのかもしれないが、このような抽象的な権利、未確定な状態である権利が課税対象になるのかという点が争われたものとして参考となるべき事例であろう。特に課税庁の主張を認め相続財産の範囲としているが、具体的な評価方法において、異なる判断を下しており、かかる事実認定とのバランスは参考となる事例ではないだろうか。


相続税の課税財産の範囲)
第二条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。

以上のように、本件は上記相続税法2条に定めのある、相続財産の範囲をいかに捉えるべきであるのかという点が争点となっているものである。裁決は、以下のように解釈を示して、相続財産の広範囲であることを基礎に本件権利の課税対象としての導出が行われている。法は上記のように財産の全部という表現で定めるだけで如何なるものが課税対象として該当するのかという点は、実は不明確な概念であるが、下記のように判例としては、非常に広範囲を対象としている(その根拠としては如何なるものであるのか、そもそも相続税の趣旨に関わるものであり、必ずしも明確ではない)。社会通念に委ねるような表現でもあり、実務上も指針としても本件の権利をはじめ、近年多数の取引が行われているような比較的未確定、処理方法が定かではない、新しい取引、財産、最近はNFTとかも出てきているようで、このような権利の譲渡が担保されるような環境下で、どのように租税法として対応していくことになるのかという点は重要な課題でしょう。本件でも問題になっているが法解釈上、単に範囲が広いというだけでは問題は解決しないので、どのような評価方法とするのかなど、重要な論点は多数に上るものと考えられる。

「相続税法第2条第1項は、相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」と規定しているところ、これには特に限定は付されておらず、また、同法は「財産」についての規定を設けていないから、社会通念上財産と認められるものは、原則として、全て相続税の課税財産に含ま
れると解される。
もっとも、相続税法上の「財産」とは、これを課税価格に算入する必要上、金銭的に評価することが可能なものでなければならず、そうすると、相
続税の課税財産は、金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいい、既に存在する物権や債権のほか、いまだ明確な権利とはいえない
財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当であり、これには、相続開始時において期限未到来の始期付権利や、条件未成就の停止条件付権利
も含まれると解される。」

上記のように法令解釈上は非常に広範囲のものを相続税の対象としていることは賛意を示すことができよう。そもそも論として具体的な範囲が定まっていないことを問題視する意見もあろうが、上記のように相続財産を構成するものが多様化している現況下においては致し方ないものであり、まずは広範囲のものをいかに評価するべきであるのか、という点が重要であるのかもしれない。ただし、相続税法上は特に債務控除において、明確に確定しているもののみを対象としている点と比べると課税対象となる相続財産の判定はバランスを欠くという指摘もあり得ようが、立法上の課題であろう。

本件では、最終的に権利の評価において、権利の契約金額ではなく、一定の評価を行い、権利の評価を行う形での結論を導いているが、このような点が実務上は重要な論点になるのであろう。未確定な存在であるがゆえに、評価を実施することは非常に困難であるという点を言うだけでは問題が解決せず、具体的な評価方法をいかにとらえるのか、客観的な交換価値という法令解釈との整合性の課題も含め、近年の多様な資産環境においてはこの点を如何に確定させるのかという点は実務をつかさどるうえでは欠かすことのできない視点であるように思われる。

本件は相続税の基本となる相続財産の範囲及び評価という事例が混在している事例であり、有力な事例研究のティーチングケースとしてとらえることができるものと考えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿