2021年5月10日月曜日

判例裁決紹介(宇都宮地判令和元年7月3日、給与支払の実態の欠如と源泉徴収税還付申告)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は宇都宮地判令和元年7月3日で、源泉徴収の還付を求めた原告の訴えを給与支払いの実態がないとして、否認した事例です。
具体的には原告(個人)が休眠状態の法人(太陽光、破綻し信用保証協会からの弁償を受けている段階、元代表取締役で解任済み)から給与を受け取っていたとして確定申告において源泉徴収額の還付申告を行ったものであり、課税庁が当該法人は休眠状態で稼働の実態がなく(未申告)、源泉徴収の対象となる給与支払の実態が存在しないとして、背原告の請求の退けたことを不服として提起されたものである。

破綻に伴う係争が行われ活動実態がない法人の支払に関するもので(そもそも代表取締役を解任された者に対する支払いがあるのかという基本的な疑問あるが)、基本的には報酬支払の事実関係が存在しているのか否かという事実関係の問題であるが、給与支払の台帳などを提示して源泉徴収の還付を求める事案であり、いかなる所以があってこのような請求を行ったのか疑問を覚えるものであるが、口座のやり取りや支払者の状況等、多方面からの事実関係の認定により係る支払の事実関係を否定している点は、いささか特殊な事案であるようにも捉えられるが租税の実務家としてはトレーニングケースとして参考となろう。


給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
 給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。

以上のように本件の基本的な争点は給与所得の原因となる報酬の支払など、給与所得の実態が発生しているものであるのか否かという点が争われているものである。本件では従来の給与所得の判例と整合し、上記給与所得の法令解釈として給与としての形式的な支払に限らず、雇用契約類似の契約を基礎に労務の対価として提供された指揮命令等の存在が課題であるとして以下のように判示している。

「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命
令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。な
お、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何ら
かの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務
の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか(マ
マ)重視されなければならない。」(最高裁昭和56年4月24日第二
小法廷判決・民集35巻3号672頁)

判事では上記の判例に則り、要件事実として(あまりこのような表現は従前表現されなかったものであるが)、

「「給与所得」の支給があったといえるためには、①当
該給与支給者との関係で、空間的・時間的な拘束を生じさせる雇用又はこ
れに類する何らかの原因関係が存在していること(要件①)、②かかる雇
用契約等に基づき継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がされている
こと(要件②)、そして③かかる労務又は役務提供の対価として上記給与
支給者から一定の給付がされた事実があること(要件③)
を要件として満
たす必要があると解されるから、被告は、これらの要件事実のいずれかが
不存在であることを主張・立証する必要があるものと解され、かつ、それ
で足りるもの
というべきである」

として明確に不存在の局面における立証の材料を明らかとしている点は特徴的である。
給与台帳による支払の証明を限定的に捉え、給与所得の基本的な性格から必要となる立証の範囲を明らかとしており、本件でも特に給与支払の実態や継続的な労務の提供等が不存在であるとの認定が中心となっており、租税法規の特質でもある実態をベースに判断を行っている点は今後の参考として捉えられるのではないだろうか。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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