2023年4月15日土曜日
判例裁決紹介(大阪高判令和2年1月28日、経理職員が行った架空仕入れとかそう隠蔽)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、大阪高判令和2年1月28日、関連会社から派遣された経理要員が行った架空仕入と法人における行為であると仮装隠蔽に該当するとして重加算税を賦課決定処分を行ったことを争点とする事例です。
具体的には本件は、原告(控訴人)法人が関連会社から派遣されてきた者を経理要員としていたところ、かかる要員が自らの利益のため、架空仕入を行い、もって原告等の法人税の申告において、当該架空仕入を損金として計上した上で確定申告を行ったことから、調査により架空仕入が発覚し、仮装隠蔽該当するものであるとして重加算税の賦課決定処分等を受けたことを不服として、重加算税の宥恕規定の適用要件である正当な理由の存在が争われているものである。
基本的に正当な理由の存在につき、従前同様の解釈が問題になっているものであるが、解釈としては特段差があるものではない。
判断のアプローチとしては、法人の経営に直接関わっていない、従業員と言えど、法人の行為と同視できるものであるのかという点から、実際の判断を行っており、この点も基本的に、同様の事例と大きな差異があるものではない。ただ、本件では、法人として従業員を監督すべき義務があることを一つの理由として、結論を導いていることに納税者としては控訴理由としている点が特徴的であろう。
重加算税の厳しい制約的な趣旨を考慮したものであろうが、仮装隠蔽に積極的に関与していない法人として、監督責任を問われ、もって法人としての行為である(仮装隠蔽の意思を伴った)、同一視されるものとして評価されるのは、重加算税の性格から乖離しているという考えが背景にあるものと考えられる。法人としては関連会社から派遣されてきたような要員であり、自社の要員でも直接的にはないということもこのような主張の背景にあるものと想定されるが、経理担当として派遣されてきた要員に対して文句を言えないというような、被害者的な思いが背景にあったようにも想定されるところではあるが、本件の判断のアプローチは、正当な理由において、その解釈として帰責性がないことを要求されるという点を考慮すれば妥当な判断のアプローチであるように考えられる。宥恕規定の趣旨が本来の争点であり、被害者的な発想との対比が本件の起点になっていることは認識されるべきだろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(東京地判令和3年4月27日 架空売上と源泉徴収)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和3年4月27日であり、関連会社への架空売上の計上が調査により否認された事により、もって原資たる金額も存在しないことから原告が受けた給料等は存在せず、源泉徴収された金額等は還付されるべきだとして提起された事例です。
具体的には本件は、建設コンサルタントである原告が代表を勤める法人から報酬を受け取り、もって源泉徴収されたいたが、かかる法人の受け取った売上が、関連会社からのものであって、当該関連会社へ査察調査が入ったことによって、架空経費の計上が否認されたことに対応して、しかるに売上が存在せず、もって報酬等を支払う原資も存在しないとして、社員総会の報酬返還決議をもって、当該報酬は存在せず、源泉徴収された金額は過誤納金であって変換されるべきであるとして還付加算金も加算して約2000万円の返還を求めた事案である。
基本的に査察案件であり、ほ脱犯としての推測がなされるような状況であることは確定的であろうが、本件を最初に読んだときの感想はなぜ?このような訴訟が提起されたのか、という疑問が起こる。基本的には、所得を架空経費の存在を認定させることで、分散し租税負担を免れようとする行為であることは言うまでもないことであるが(本件でも架空であることの是非は争っていない)、本質的には、架空出るのか否かすなわち、取引の真実性を争うべきものであるが、直接的にその架空売上(経費)の存在を争うのではなく、このような間接的な事実関係から、内部的な返還決議(そもそもこれが法的に有効なものであるのかという点も、定かではない。法人の社員総会といえど大規模法人のように一定のガバナンスが機能している可能性は低く、しかるにこのような行為が正当性を持ち得るのかはという点は疑問)を根拠に、源泉徴収された金額の過誤納金としての位置づけをもたせ、還付加算金までも返還すべきとした主張には、驚きが多い。どのような点が背景になっているのか、一連の関連会社間で架空の構造を作り出し、過小な申告を行うことで、コントールしていた事案としては極めて典型的な状況であり、租税法規に知見がある専門家であれば、疑問が多い主張であろう。
判示は、報酬の支払いは有効に成立しており、もって源泉徴収等が過誤納金に該当するという点はその主張を明確に否定したが、返還決議などを根拠とした形での報酬の否定は基本的には、更正の請求や後発事由の問題でもあり、この点から争い方の違和感が拭えない判決である。
本件は基本的には事実関係から、過誤納金であるのか否かという点が基本的な争点となっているものであり、実際にはこのような事実関係をもって租税負担を回避しているような行為が行われているんだという点がよりはっきりと認識されるような事案であるように捉えるべきでだろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和2年12月14日裁決、第3者貸付による貸倒損失と必要経費認定)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年12月14日裁決で、第三者への貸付による貸倒損失と必要経費認定が問題となった事例です。
具体的には、本件は個人として事業【飲食と不動産】を営む請求人が貸付債権の貸倒損失につき、当該事業の損失であるとして必要経費に算入すべきであるとしてなした更正の請求が認められなかったことを不服として提起された事例である。過去に同種の資金貸付業を行っていたとの主張がなされているものであるが【その実在性は議論されている、疑わしいものとして捉えられているが】かかるような過去の事業に伴う債権としての存在が時点をずらして、必要経費に至るものであるのかという点が問題の基礎になるものである。
貸付債権の貸倒損失が問題となるケースは所得税、法人税ともに多いが、本件のように最近は、時の経過を反映した事業との関連が必ずしも損失計上時点と明確にできない事例が発生するケースが見受けられるものである。
本件の事実関係の中では、無利息【返済も自由】のような事案であり、実質的に貸付であるのかという点が問題の中心でもあるのだが、時点のズレ、業務の相違がある場合に置いては、現行の事業に関する必要経費に該当するのかという点が争いになりうる。本件では問題とされていないが、過去の事業である貸付と不動産等との業務においては明らかな相違があり、過去事業に基づく損失が必要経費の定義における業務との関連を問うべき状況と適合的であるのかという点が私見としては検討すべき課題であるように考えられる。
そもそもとして個人所得税が単年度をベースに検討している部分が多い。過去の債権をどのように扱うべきかという点は法人とは異なり、業務との関連において検討すべきものであるのではないだろうか。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考でまでに。
判例裁決紹介(令和3年7月13日裁決、一時所得における営利性)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和3年7月13日裁決で、一時所得における営利性が争点となった事例です。
具体的には、本件は請求人はモーターボードの投票券による払戻に関する所得につき、一時所得であるのか雑所得であるのかという所得区分が課題となった事例である。いわゆる競馬事件の一連のものが近年多数の事例がでてきているものであるが、本件もその類型の一つと言えよう。個人的には世の中にはこんなにギャンブルを多額の金額で(本件でも数億円単位)行っている人がいるんだというのが、まずは、本音なのだが、本件も従前の例と特段差がないものではあろう。本件においては一時所得の要件である営利性を目的とするという点が、主たる争点となっているものであり、かかる点を検討する上で良い素材となるだろう。
(一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。
本件では課税庁の主張として、この所得収入の具体的な構造がわかる書類が保存されていないという点から一時所得該当性を主張している【立証責任の転換ともいえようが】が、判断では偶発性という部分を検討の素材として、また納税者の主張から通常の投機的な行為と差がないということで一時所得を認定する流れとなっている。偶発性を基礎とするのは、一時所得の本来の趣旨から妥当なアプローチであると考えられるが、立証責任のようなアプローチではなく、事実関係をもとにした法的判断を下している点は特徴的であろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているので完成度は低いですが参考までに
判例裁決紹介(令和元年11月19日裁決、債務の未払計上)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年11月19日裁決で、債務に関する未払計上とその損金の確定が争われたものです。
具体的には、本件は自動車等の部品を取り扱う法人が自社製品に伴う(交換)損害賠償として自社負担分の費用につき、期末に未払計上を行ったことにつき、当該部分を損金として算入した確定申告を行ったところ、課税庁により、債務が確定していないとして、損金計上を否認したことを不服として提起された事例である。
近年では、比較的損金計上において、債務確定がいかなるものであるのか、という点が争点となる事例は減少傾向にあるものであるが、下記のように法人税法において、もっとも重要な計算規定の基礎、特に損金の計上をコントロールする規定であり(コントロールする)、その具体的な意義を問うものとして、もちろん債務が確定しているのかという点で事実関係に依拠するものであるが、また損害賠償のような非日常的な事例ではあるものの、法人税法上の基本的な意義を検討する上で非常に有益な事例であろう。
第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
本件では、事実関係として、損害賠償に関する基本的な(重要な部分)の合意を行った会議が年度末の3月に行われているものであり、賠償の上限金額が確定したものとして(自社の取締役会で決議)、当該金額が未払計上として損金として計上されたものである。最終的には当事者において合意書がかわされたのが、翌4月であり、課税庁の主張としては、このタイミングをもってその債務が確定したものであるとの主張であり、わずかひと月の間での出来事であるが、この点がタイミングの決定として重要な事となっている。判断は、課税庁の主張を是認しているが、中心的な点は下記通達における債務の成立が焦点となっているものである。
(債務の確定の判定)
2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(昭55年直法2-8「七」、平23年課法2-17「五」により改正)
(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
裁決である以上当然でもあるが、本件でも基本通達の2-2-12が該当するのか否かという点から争われている。
上記の通達が、成立してすでに40年以上経過しているものであり、経済環境の変化や法的な取引、やり取り方法など具体的な点は変化を含んでいる。かかる判断が解釈として妥当であるのかという点から、より検討されるべきものであろうが、法的な点を基盤とするものの、債務の成立や合理的な算定というように、必ずしも解釈としていかなるものを指すものであるのかという点な明らかではない。
私見としては、そもそも債務確定がいかなる趣旨を含むものであるのか、恣意の抑制であるのか等、基本的な部分から検討すべきものであるが、租税、特に法人税法や消費税法のような大量反復的な行為を対象としているものであり、本件のような異常な取引における債務確定と日常的な取引における債務確定が具体的な点で同一的な判断の枠組みで良いのか等、より検討すべきものであるように考えられる。多くの事例では非日常的な行為における債務確定が争われている事例が多いが、かかる点からの判断の枠組みが一般性を有するものであるのかという点は、慎重な検討が必要であるように思う。
実務ではほぼ上記の通達が絶対的な基準のように扱われているのではないかと捉えているが、債務の成立のような曖昧な状況をどのように解していくべきか、債務確定の意義からより具体的な基準として検討されるべきではないだろうか。3つの条件が全部完全に充足されなければならないものであるのか、幅を含む概念であり、一律なものではないことは認識されるべきであろう。
合意の成立(契約の基本であろうが、民事法の議論をより反映させなければならないが)、本件では、基本的に書類を交わした時期がその具体的な要素として結論を導いているが、必ずしも書類を要請するものではないだろうし(程度差がありどの時点を最も確定と評価すべきであるのかという点が課題)、重要な部分は決定しているものの協議が継続しているような本件の状況は、債務の確定が充足されていないと判断されるのはやむを得ないのではないかとも考えられる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介8令和2年11月17日裁決、使途不明の出勤と相続税)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は、令和2年11月17日裁決で、相続人が被相続人口座から約3億の現金を出金し、使途不明であって、みなし贈与であるとして贈与税の対象となる者であるのか否かが争点となった事例です。
具体的には、相続人である請求人が度々相続人の口座から現金を出金していた状況において、その使途が不明であるとしてかかる金員は、請求人の管理に属する形となっており、実質的に贈与されたものであるとして更正処分等を行われ、かかる点を不服として提起された事例である。本件は金額は多額であるが、典型的な、相続贈与税の事案における口座からの現金出金が争点となっているものである。判断は基本的に抽象的な主張にとどまるものであり、請求人の帰属に属するものであるとして判断が行われている。本件は基本的には事実認定の問題であって実務家には参考となるものと捉えられる。
判断において、今現在でも実質課税の原則と明示した上で、判断を行っている点は特徴的なものであるが、使途不明あり、被相続人の用務に使用したものであるのかという点を中心に、否定的に捉え、もって請求人の帰属にあるものとしてみなし贈与として認定を行っている。
みなし贈与規定が実質課税という扱いを持つものであるのか、というような事実認定の基準を明記しているものであるとは見解が分かれるものであろうが、本件は非常に多数の資料を詳細に事実認定を行い、更に、経済的援助や引き出しの黙認というような点を包括的な事実として認定し、もって結論を導いていることは重要であろう。典型的な出金における贈与事実の認定における検討パターンであり、有益なティーチングケースとなろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和2年1月16日裁決、無申告加算税における正当な理由と精神疾患等)
さてまた興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年1月16日裁決で、無申告加算税における正当な理由の有無として、納税者が主張するような人混みに耐えられないうつ病、パニック障害等が該当するものであるのかという点が争われた事例です。
具体的には本件はシンプルな事案であり、請求人が期限後申告を行ったことにつき、無申告加算税等が賦課決定処分等されたことを不服として、係る申告となったことは、請求人本人として主張する、郵送や税理士に頼むのは手間がかかるということから、また人混みにおいてパニック等から確定申告書作成会場にいくこともできないとして正当な理由があるとして宥恕規定の提供を主張するものである。判断としては、主観的な事情に過ぎないとしてその主張を退けている。
無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
本件は具体的には、上記国税通則法66条における正当な理由として如何なるものが該当するのかという点が争点となっているものである。判断としては基本的に適正な納税義務を充足している納税者との公平を図る無申告加算税の趣旨をベースに正当な理由として、真に納税者に帰責性がないことを求めるような客観的な状況を求める従前の解釈をもとに、税理士へ依頼するなど(etaxについて触れられていないのは最近の情勢からはまだまだなのかもしれない)、代替的な措置は取りうるものであり、客観的な事情から正当な理由は認められるものではないと判断している。宥恕規定であり、この適応範囲をみだりに拡張的に解釈することは認められないとする従前の対応と整合的な判断が行われているものであろう。新型コロナの影響がみられた確定申告期であれば、判断が異なる状況も想定されるが、申告納税制度を背景にしている我が国の租税制度の立場からは、このような主観的な要員は制限的に評価されることは留意されるべきであろう。
それにしても本件のような事例を読んでいると、納税義務、申告納税制度という基本的な国家を構成する、国民としての基本的な知見の向上は必要だなと租税教育の重要性を再認識します(実務ではこのような主張と日々触れるのでしょうね)。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに
判例裁決紹介(令和2年5月11日、粉飾決算に基づく株式の評価)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年5月11日裁決で、相続税株式評価においてもととなった会社決算が粉飾を行っているものであり、もって株式評価額を争点とした事例です。
具体的には本件は、相続により同族会社の株式を取引相場のない株式であるとして評価し、相続税の申告を行った相続人たる請求人が、かかる株式の評価において基礎とした株式会社の財務諸表が金融機関の融資を受けるため粉飾されたものであるとして(利益の水増し、大幅な売掛金など資産性のない資産の計上、存在しない架空の資産の計上等)、適正な株式による評価額の修正を求め(主張する評価額の相違は一株あたり6倍に及ぶ)提起された事例である。対象となった株式会社は最終的には、結局再建協議会によって再建される事になっている。
このような融資継続を目的とした粉飾決算は、実務ではレベルの相違はあろうが、特段珍しいものではないと想定される。本件はそのような状況下において最終的に影響する相続税に対する、株式の評価において6倍に及ぶような評価額の相違を生じせしめたという点で、教訓的な意味合いも強いが、実務家にとって認識しておくべき事案であろう。相続時点以後最終的に破綻という結果に至ったことが主張の実態的な裏付けとなっているものである(おそらく請求人の思いも過度の負担をしているとの認識の原因となっているだろう)が、相続時点における基礎材料となるべき決算書の粉飾があるという会計専門家としては本来あるべきことではない状態での結果の重大性は留意される必要があろうと考えられる。
本件判断としては、請求人の主張を認めず、評価額の修正に至ることはなかった。その判断の根拠は基本的に、納税者による立証責任という点で、結論がくだされている。すなわち、納税者が裏付けとして提出した書類(その中には公認会計士による調査報告も存在しているが、基本的に推測、被相続人の指示によるした経理担当者の証言に基づく推測にとどまるものであり、客観的な裏付けに乏しいものであるとしている)、客観性のない、記述、証言に基づくものであり、更正の請求における納税者が果たすべき立証責任が明瞭に果たされていないという点が根拠となっている。
近年は、立証責任に関する考え方が租税において、課税処分においても変化してきている。本件もそのような現れという印象もあるのであるが、更正の請求という局面ではより納税者にとって主張を裏付ける局面が今後求められることであろう。本来粉飾決算はあってはならないことではあるが、本件に限らず日常的に経理や顧問を行う税務の専門家としては、日々の活動において、いかなる理由があるのか、各種エビデンスの存在を意識しておくことは調査の有無に関わらず、専門家責任の一つとなってくることは認識しておくべきということが今後は意識されるべきであろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであるので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和3年8月3日裁決、青色事業専従者給与の適正額)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年8月3日裁決で、青色事業専従者給与の適正額が問題となった事例です。
具体的に本件は、医師として医院を営む請求人が妻で看護師である者に対して給付した金員を青色事業専従者給与として自身の事業所得の確定申告において必要経費算入したことにつき、調査により、適正な金額ではないとして必要経費算入を否認した事例である。
下記のように、57条の青色事業専従者給与は所得税法56条の例外として、現代の租税法務の分野では非常に重要な役割を担っている制度であるがこの適正額が争われるケースは珍しく、本件の特徴的な点であろう。所得分割を否定している56条の例外として親族への給与支給を認めているものであるが、比較的零細な個人事業主が多く、あまり適正額が争われることは少ないが、役員給与と同様の枠組みであり、本件は、課税庁が認定した従業員との対比による方法が、採決により近隣の同業者における専従者給与による比順によるべきとして判断がくだされている論理は有益なものであろう。
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
基本的に本件の中心は、妻が看護師として勤務していたのか、他の業務(管理等)も行なっていたのかという点が論拠の一つとなっている。これにより従業員としての給与であるのか、他の業務も含むものであるのか相違しており、報酬の妥当性が異なることになり、この事実認定は実務家としても参考となろう。近年は専門家としてこのような事実関係のエビデンスの整備が求められるのが基本となりつつあるようであるが、個人の内情に踏み込む個人所得税の中でもよりヒアリングの強化などが必要な時代になりつつあるのであろう。給与であるという安易な認定ではなく、業務内容という報酬の基礎に着目した論理展開は妥当なものであろう。
私見ではあるが、個人事業主が増加傾向にあり、安易な専従者給与(そもそもとして青色特典を見直すべき時期にあると考えるが)のような事案も発生しているようであり、専従という意味も含め制度的な見直しが必要な時期になってきているのかもしれない。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであるので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(津地判令和2年10月1日、親子間での事業所得の帰属)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、津地判令和2年10月1日で、個人の事業所得の帰属が親子間で争われた事例です。
具体的に本件は、個人事業者たる原告(H25年に法人成り、鉄道の軌道管理)がもともと事業を行っていた父の指導等を受けて営んでいた事業所得の帰属が自分自身ではなく、父親にあるとして、調査による重加算税等の賦課決定処分等に対してその取消を求めた事例である。
所得の帰属という、所得税の実務における基本中の基本ともいうべきものであるが、親子間でその所得が如何なる者に帰属するものであるのかという点は裁判所において争われた事例であり、実務的にはこの種の事例は非常に多い、法解釈というよりも事実関係を如何に認定してその帰属先を判断すべきであるのかという点を中心的な論点とするものである。
このような家族で営む事業というものは我が国では農業から建設など、非常に広範囲にそして、歴史的に積み上がってきたものであり、我が国の中小企業の多さの背景になっているものであるが、この中でどの者に所得が帰属するものであるのかという点は、所得の分散と相まって、伝統的に所得税の議論としても重要な位置づけを持ってきたものである。本件もその類型に属するものであるが、近年は事業承継のあり方も昔とは変化しており、所得帰属判定に置いてもその基準が以下に考えられるべきであるのかという点は、検討課題であるように考えられる。所得の帰属という事実認定の基本となるべきような事案でもあり、本件は通帳の管理や、経営、外形的な契約関係、従業員の認識など、多様な側面が、事実関係としてその具体的な認定の対象となっている。かかる点からは租税における具体的な判断を学ぶ上で絶好のティーチングケースであろう。
本件では、その問題の起点は、家族、正確には、原告に代わり通帳などを管理していた父の妻(原告とは血縁がない)が売上除外などの仮想隠蔽を行っていたことが発端となっているものであり、通帳の管理など資金の管理などは一切、原告自身はタッチしていなかったとして自分自身の所得であるとして不利益を被ることは納得できないという思いがあったものと推察されるが、管理支配ではなく月給をもらっていた感覚であるというような自身の思いが、背景となっているものであろう。
(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
所得税法は、その基本的な規定として、所得の享受者をその課税対象とするという実質所得者課税の原則を有している。この規定が租税法規における中心的な規定として確認規定であるのか、それとも創設規定であるのかなど、その本質的な性格は今なお議論のあるところであるが、通説的に法律的帰属説を基本とする考えが中心となっている。法律的帰属説であれば、その意義としては必ずしも重要視されないのではないか、確認規定的であるのかという意義付けを持つものであろうが、私見としては例外として経済的な享受をもその課税対象とする実質的な租税負担の能力を判断する規定ではないかというものであり、かかる点で、以下に例外的に収益を享受しているのかという点を判断することが重要であるように考えられるものと思う。
しかるに本件では、この規定を明確に示さず判示を行っている。外形的な契約の名義や事業の遂行等包括的な所得を生み出す業務内容を判断の材料においた上で判断を行っている点は特徴的であると評価されよう。近年の事例では12条を明確に示さず、このような外形的な要因もその判断材料として形式的な側面をいわば重視しているようなものも多く見られるようになりつつあるが、立証の容易さも影響しているのであろう。
法規は上記のように収益の享受を起点として判断を行うことを求めており、基礎的な判断としては事業からの所得がベースになるべきものであるように考えられるが、かかる点は近年では顧みられていないようにも捉えられる。
個人的には収益という所得の基本をもとに判断することが法規の基本的な要請であるようにも捉えられるが、何を以て享受していると考えるのか、より現代的な視点から変更を加えるべき時期にあるように思う。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(東京地判令和3年7月16日、原資否認による報酬対象の源泉徴収還付)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和3年7月16日で、査察案件ですが、報酬として支払った金額の原資となる売上が否認された事による、報酬支払も取り消されるとのことで、納付した源泉徴収金額(約2000万)を過誤納金として還付加算金として返却することを求めた事案です。
具体的には本件は建設業を営む原告たる法人がその代表者(役員)に対して支給した給与等に対して源泉徴収を行なって納付していたところ、査察調査により、関連法人において、外注費が架空計上であるとして否認され、もって原告法人の売上が否認されたことになるため、これを原資として支給している給与等は存在せず、しかるに源泉徴収は過誤納金であって、その返還と還付加算金を請求している事案である。
第五章 国税の還付及び還付加算金
(還付)
第五十六条 国税局長、税務署長又は税関長は、還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない。
2 国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその還付すべき還付金等について還付の引継ぎを受けることができる
査察案件で、架空経費の計上などを起点としている事案であるので、一般性に欠けるものであろうが、そもそも過誤納金をどのように捉えられるべきか、理解されるべきものであるのかという点も課題であり、税務の中心的なフィールドでは中小企業において、意図的非意図的は問わず法律行為を変化することは比較的容易であろう。税務に対する理解等の関係で錯誤の議論が盛り上がったことがあったが、近年はその錯誤に対する租税法務の考え方も変化しつつあるように感じるところでもあり、本件のような事案では当然、報酬の支払という法律行為の成立を基礎としているものであって、判示でも有効に成立している報酬の支払いを覆すことはできないとしている。租税法規の立場から、一旦成立した課税関係の修正を伴うようなものは安易に認めることは慎むべきものであろうが、実務的には異なる反応もあり得よう。
租税としては報酬の支払という法律行為を基礎としているものであって、基本的な判断であることに代わりはないものであろうが、経済的な観点から原資を失っている要な場合も主張に組みするような意見もあり得よう。かかる場合、行為のコントロール性が高い構造において、行為の取消も含め包括的に検討すべき点があるように思う。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
2023年1月28日土曜日
判例裁決紹介(東京地判令和2年10月9日、未申告の継続と他行政機関への虚偽回答と仮装隠蔽)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年10月9日で、未申告の継続や他行政機関への虚偽回答が仮装隠蔽に該当するのか否かという点が争点となっている事例です。
具体的には、本件は個人たる原告が不動産賃貸事業や塾の講師として得た所得(6年間の未申告であるが、創業後20年以上未申告】を積年、未申告であったことにつき、調査により、重加算税等の賦課決定処分等を受けたこと不服として提起された事例である。重加算税という非常に厳しい制裁的な要素をもつ附帯税の要件として仮想隠蔽の充足があるものであるのかという点が争われた事例であるが、未申告の累積と他の機関【地方自治体の調査への回答を虚偽】であることを起点として、所得税のほだつや仮想隠蔽の起点として判断されている点である。通常、直接的な行為が認定対象となることは多いが、本件のようなケースは珍しく、租税実務家にとっては、有益な事例であろう。
(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
2 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第七項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように、本件の中心的な争点は仮想隠蔽の成立に関する要件である。
本件では、下記最判を引用し、制度趣旨から書類の偽造等の積極的な租税負担を回避する行為とそれに基づく申告にとどまらず、当初から納税者の意図としては、未申告であることと外部から伺いうるような行動を行っていることで足りるとしている。本件も含めこのような直接的な行為にとどまらず、当初段階からの未申告の意図やかかる意図が伺いうるような行為の存在にまで要件に含むとされる解釈が基本的な前提となっているものである。通常紛争事例としては、本件とは異なり、直接的な租税負担を回避する行為が前提となることが多く、比較的拡張的な本件及び最判の判断は、特徴的であり、重要なものと考えられる。もちろん、重加算税の40%を超過するような負担を課すことで公平負担とのバランスを取ろうとする本制度の趣旨からすれば、厳格にその要件を判断すべきという指摘もあり得よう。
「納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事
実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したとこ
ろに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、その
納税者に対して重加算税を課することとされている(通則法68条2
項)。この重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに納税申告書を
提出しないことについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、
無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税
義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を
確保しようとするものである。」
「したがって、重加算税を課するためには、納税者のした無申告そのものが
隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、無申告そのものとは別に、隠
蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告がされたことを
要するものである。しかし、重加算税制度の上記趣旨にかんがみれば、架空
名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると
解するのは相当でなく、納税者が、①当初から法定申告期限までに納税申告
書を提出しないことを意図し、②その意図を外部からもうかがい得る特段の
行動をした上、③その意図に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出し
なかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解す
べきである〔最高裁平成●●年(○○)第●●号同7年4月28日第二小法
廷判決・民集49巻4号1193頁参照〕」
しかしながら本件では、かかる判示を前提に未申告の累積【不動産の購入や通帳金額の増加も含め】があり、また、他の自治体【居住地における国民健康保険料計算】によることをもって、上記のように当初からの未申告の意図や外部からの伺いうるような行為であるとの認定を行っている点は、先例的な価値があろう。特に未申告の累積は、多くの事案において租税に関する知識不足等から発生しうるものであり、また、直接的な納税に関わる機関においてなされたものでなくとも、所得を隠蔽するような行為を行っている【虚偽の所得の回答を行っている】ことが上記のような重加算税の要件に合致するということは、珍しい判断であろう。検討対象としても先例的なものとしても本件は有益な事例であるように考えられる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(札幌高判令和2年11月12日、給与と外注の認定)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回札幌高判令和2年11月12日で、運転手への支払が給与であるのか、外注であるのか否かという点が基本的な争点となった事例です。
具体的には、本件は、地裁と基本的な判示を共通するものであるが、運送業を営む控訴人(原告)がその運転手に対して支払った金員が課税仕入であるとした確定申告に対して、当該金員は給与に該当するものであるとして課税仕入であることを否定した(仕入税額控除を認めない)更正処分等を不服として提起された事例である。
正直、古典的な論点であり、実務においてもこの論点に対して自分なりの見解を持っていることは当然であろうと思われるような事案であるが、同様の事案において、近年紛争として司法の判断を受けている事例であり、最近の状況を反映させるべき事案であろう。いわゆる外注と給与では、その負担が異なることは周知の事実であり、本件もその類型に属するものであるが、基本的には受けての給与所得としての認定要素である従属性をその基礎として点は、現行の事実認定、判断枠組み、特に租税法規の判断枠組みや事実認定に習熟するという点において本件は参考となるべき事例であろう。
近年は法人税法上の源泉徴収義務や役員給与という点から争われることは減少しており、概ね消費税の仕入税額控除の適用対象となるすなわち課税仕入であるのか否かという点が本件と同様に、中心的な争点であることが多くなっているが、仕入税額控除であるのか否かという点において消費税の負担は大きく相違することは明らかであり、法人としてかかる点につき、関心が高くなるのはやむを得ない。本質的にはこの構造自体が問題であるように考えているところでもあるが、適格請求書等の導入が本格化したところであり、この点が消費税の負担においても今後も焦点が当たることであろう。
ただし、本件も他の類似案件も同様に、消費税と法人税(源泉徴収)をミックスする形で取り扱いが議論されているが、実務家としてはこの感覚が未だに主流であるようにも捉えられるところであるが、今後は適格請求書を起点とした中で如何にして判断を行っていくことになるのかという点が今後の課題であり、課税仕入であることを如何にして判断を行うべきであるのかという点から今一度、判断枠組みを整理すべき時期でとは私見です。
また近年のように、従来とは異なり、働き方や契約、柔軟な働き方へと変化している環境下では(DAOとかは典型的かもしれないが、これが本格的に導入されるかどうかも含め)、このような枠組みが妥当であるのか否かという点も含め(国境をまたぐことも)人的な役務提供の判断において基準の変更が必要であるのかという点が基軸となるべきものと考えられる。
本件は、基本的に従属性を起点に判断を行っている。所得税の枠組みが活用されているが、本件では同様の業務を行う給与支給者との間で対比も行っているところで、他者との代替が行われうるものであるのかという点が判断において採用されている。この点は最近はあまりみない視点であるが、雇用という性格をよく表しているのではないだろうか。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介東京地判令和2年12月22日、課税売上の認定)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年12月22日で、課税売上が存在するか否か、より正確には、仕入税額控除に見合うような課税売上割合に該当するような課税売上が存在するか否かという点が争点となった事例です。
具体的には、本件は不動産賃貸を行う原告が、その設置する自動販売機に関する収入【546円】があったものとして課税売上割合を100%として、当該課税事業年度において、仕入れた賃貸用の不動産に関する仕入税額控除の適用を行い、もって2000万円を超過する消費税の還付を申告したところ、かかる課税事業年度において資産の譲渡等は発生していないとして、課税売上は存在せず、その還付は認められないとした更正処分等を行ったことを不服として提起された事例である。
売上収入と消費税の還付金額に明らかな不整合があり、課税事業年度を短縮するなどして、賃貸用の不動産仕入のタイミングにあわせて課税売上の発生を観念し、賃貸用不動産に関する控除を最大限に活用しようとしているような作為的な印象は拭えない・・・おそらくかかるような行為をもって消費税の還付を図るような行為を租税回避であり、適格ではないという認識が起点になっていることであろう。
直接的な争点は、当該課税事業年度において、課税売上が発生したか否か、消費税法におけるタイミングの問題としているが、今後の適格請求書を基礎とする制度の中において、本件のような状況がどのように対応されるものであるのかという点は興味があるが【かかる点で意義を有するのかという点は議論の余地があろう】、本件判決は現行法の状況において、消費税法における課税売上のタイミングを如何に判断すべきであるのかという非常に基本的な点を基礎として、もって租税回避への事実上の対応策を行っている点において重要な事例であるように考えられる。
原告の主張は基本的に、契約書の計算期間をもって事業年度末を含む期間における計算書を分割し、課税売上が発生しているとした主張であり、課税売上に関する権利の確定が契約上で捉えられるのかという点が判示において否定されているのが本件の論理であるが、権利確定主義自身が所得税法や法人税法に基礎的な概念であり、消費税法において明文をもって定められているとは見解の相違があろう。かかる点につき、帳簿の連関を通じた検討もありえようが、今後は適格請求書の存在をベースとした場合において、如何にしてそのタイミングを判定すべきであるのかという点は、より検討が必要であるように思われる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(大阪地判令和4年3月25日、複合構造による家屋の固定資産税評価に於ける補正率算定方法と実施要領の位置づけ)
また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は大阪地判令和4年3月25日で、複合構造をもつ家屋の固定資産税評価額の算定において、適用される経年減点補正の算定方法につき、自身の要領に記載する方法とは異なる旧来の方法を用いていた事により、かかる所以をもって、構造上最も長い耐用年数に基づく【SRC構造】補正率の算定が行われたいた事が課題となった事例であり、課税庁が主張する低層階方式における評価の継続的していることの合理性が否定され、課税庁が敗訴した事例です。
具体的には、本件はS構造【鉄骨】とSRC構造【鉄骨鉄筋】が混在する家屋【ホテルや商業施設等が一体となった建物】を保有する原告が、当該家屋の固定資産税評価額としての登録価格に対して不服を固定資産評価審査委員会に申し立てたところ、棄却されたことから、その評価額の算定、経過年数による劣化を反映すべく定められた経年減点補正率の適用が誤ったものであるとして提起された事例である。家屋評価における経年減点補正率という非常にテクニカルな部分が基本的な争点となっているものであるが、本件は、構造別に補正率を定める評価基準の適用において、複合構造の家屋に対する評価額の算定における経年減点補正率の算定方法適用が直接的には争いとなっているものであるが【おそらくこのような複合的な大規模施設は増加しており、このような意味でも重要であろう】、固定資産税評価額という税務において基軸となっている評価額の算定において、複数の評価方法がありうる場合において、かかる評価方法において如何なるものを選択すべきであるのか、その合理性を判断する上で判断の枠組みを示したものであり、かかる点において重要と考えられる。
本件では補正率の算定において、構造を異とする家屋について、構造ごとに区分する方式ではなく、一棟ごとに一定の仮定をおいた上で、床面積の最大値を基準とする床面積方式か低層階における構造における補正率を適用する低層階方式のいずれかが合理的であるのか、課税庁たる市町村の裁量がこのような複数の評価方法が存在する場合において認められるべきであるが、かかる裁量が如何なる点において合理的であるのかという点が中心的な争点となっているものである。
本件では、課税庁は低層階方式を利用し、もって構造上、重量があるSRCが低層階に来るのは必然であるがため、もって必然的に長期間の利用期間が想定され、補正率を適用した評価額の算定が高額とならざるをえない形になっていることが、固定資産税評価額として合理的な、客観的な時価を算定するという趣旨に合致しているのか否かという点が争点とされ、全体面積の80%を占める主たる床面積を占める構造物の補正率を適用する床面積方式の適用がなされないことよって、S構造による評価を適用されることがない事によりもって評価額が引き上げられていることを不服としているのが本件の原告における主張である。
判示は最終的に原告の主張を認め、課税庁の主張する低層階方式の評価継続の合理性を否定したが、まず最初の印象としては、この判決が確定することで、大きな固定資産税の評価額の減額は発生しうるように、他への波及が大きいものと想定されるところである。
そもそもとして課税行政庁は、自身が定めるその実施要領にて、平成18年の改正において従前の床面積方式以外の方式【低層階方式等】の適用を認めていた文言を削除しており、現在の実施要領では床面積方式の採用による評価補正率の算定を定めていながらも、本件家屋に関しては少なくとも平成18年改正前のまま低層階方式を継続してその評価額の算定を行っていたことが本件の起点となっているものともいえよう。地方自治体において租税実務の担当者が頻繁に入れ替わるような状況等も想定されるところであり、現場的には、過去の状況まで遡って対応するのは物理的に困難な状況にあったのではないかとも考えられるが遡及的に評価額の修正を促すべき行為は課税庁において期待薄であるのかもしれない【かかる点で本件訴訟は確定すれば、実質的な影響は大きいだろう】。基本的に新築時の付与された評価が継続するのは固定資産税の評価の世界では一般的な考え方であるが、かかる所以は膨大な事務作業への配慮があるものと考えられる。しかるに、事務負担への配慮による合理性を基礎とした、この評価の継続が合理性を有する場合とその合理性が喪失しているか否かという点は、如何に判断されるのかという点は重要な点である。
本件では、低層階方式の非合理性に関して、建築士や評価研究センターの知見を活用して主張しているが、これは原告が信託銀行で不動産のプロであるがゆえに行われた故に【それでも是正すべきことに気づくのに10年以上かかっているが】、如何に賦課課税方式による是正が困難であるのかという点も垣間見られる事例である。近年は東京都などの大都市部を中心に固定資産税の評価額に関する訴訟が増加しているが、地方部においてこそこの評価が適性が行われているのか否かという点を検討する実効的な仕組みが必要とされるのだろう。先日、固定資産税評価審査委員会の、不作為等に関して国家賠償法上の責の存在について最高裁が審理をやり直すべきという判断が行われていた事例【この判断が行われれば、おそらく評価委員会の責務はより強化されることになるだろう】もあるが、複雑な評価基準を理解して、多様な固定資産に対して適用の是非を判断することができる人材がどの程度いるのだろうとは以前からの疑問。
「複合構造家屋に適用する経年減点補正率の求め方の選択が、評価基準が市町村長に許容した範囲内の合理的な選択といえるか否かは、①当該市町村長が選択した経年減点補正率の求め方が、経年減点補正率に係る評価基準の定めの内容、趣旨に沿ったものといえるか否か、②当該家屋に適用する経年減点補正率の求め方の選択が、当該市町村内における評価の統一性の要請からみて合理的といえるか否かの双方の観点から判断するのが相当である。」
以上のように本件では、上記のような判断基準を示し、評価基準の定めの趣旨等からの判断及び評価の統一性の要請の視点からの2側面からの判断を法令解釈としている。単に規定の趣旨以外にも固定資産税評価基準の法的な性格に依拠した評価の統一性の要請【ただし、本来の統一性は全国一律であることを要請することが基本であり、市町村内ではないとも指摘する意見もあるのかもしれないが、基本的にその趣旨に相違はないだろう】が配慮されたものと考えられ私見として賛成される。近年市町村における実施要領等のルールの適格性が争われる事例が散見されるが、かかるような地方税法の要請により定められた評価基準の性格を損なうことは困難と解すべきである。
判示では、両側面から課税行政庁の判断を否定して原告の主張を認めている。少なくとも審査の申し出があった段階で評価の不均衡が発生していることを放置すべきか否かという点は否定的に判断されたものと捉えられよう。
「評価基準は、現に存続している限り家屋には一定の財産的価値があるとして、耐用年数が経過した後の経年減点補正率を残価率0.20のままに据え置いており〔前記認定事実(1)ウ〕、家屋の寿命が耐用年数を上回ることを当然に想定している。そうすると、評価基準において、耐用年数と家屋の寿命とは理論上区別して捉えられるべきであり、家屋が耐用年数を経過した後も現に存続していることは、耐用年数の延長を直ちに正当化するものではない。このような考え方は、経年減点補正率における耐用年数を定めるに当たり参考にされている減価償却資産の耐用年数と、実際の建物の使用可能年数との乖離が生じている旨の指摘がされていること〔前記認定事実(1)イ(ア)〕とも整合的である。」
なお、少し本題からずれるかもしれないが、本件では上記のように判示し、固定資産税評価における0.2残価率の設定を基礎として耐用年数が経過後も資産が存在していることを基礎として、必ずしも経過後も利用価値が失われていないことを固定資産税評価における特徴として理解する傾向がある課税庁の主張を排斥しているように捉えられる。利用価値があることを基礎として、もって地方税の応益性の反映に基づくものであろうが、その評価額の付与を行うことが一定の合理性があるという主張がなされることが多いが、本件では必ずしも受け入れられていないように思われる。
「通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであつて、非木造家屋の構造区分に従い、」
上記は評価基準における経年減点補正率の背景にある趣旨であるが、あくまでも時の経過による通常の減耗を評価額に反映させることで時価の算定を行うというものであり、この点に厳密に判断しているように解される。この点について残価率の設定と応益性の視点からの特徴的な評価方法が固定資産税評価における特徴として他の評価方法にも影響を及ぼすものであるのかという部分は更に検討していきたい。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和2年2月3日裁決、宗教法人代表者の修正申告に関する意思)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年2月3日裁決で、宗教法人の代表者がなした修正申告について、自身の意思を無視したものであり、無効であるとして提起した事例である。
本件は具体的には、宗教法人の代表を務める請求人が、なした期限後申告に関する修正申告【所得税、賞与であるとして4000万円が加算】について、無申告加算税等の賦課決定処分等を受けたことにつき、当該申告は、調査時の言動等によるものであり、自身の意思によるものではないとして無効、取り消しを求めるものである。宗教法人への調査に基づく、請求人への支払を調査により指摘されたことを起点とするものであり、結局のところ、自身の納税額が多額であることを要因とするものであるように思われるところであるが【本件としては宗教法人からその代表者に対してこのような多額の金銭が支給されているような事案であり、特殊なものであろうが、このような背景となるような事実関係がどのようなものであるのかという部分が個人的には気になるところ】、自身の理解不足、認識不足を主張して課税の取り消しを求める案件である。
このような納税者の認識不足等を理由とした不服申立てが、現実的にありうるのかという点は実務に最近関わっていないので、結局のところ一般的な納税者の知見はこのようなものということなのかもしれませんが、昔と変わらないなとも思いますし、実務では日常茶飯事なのかもしれません。宗教法人という非営利による租税の特別措置を付与されていても認識不足が発生するところに我が国の基本的な租税教育の不足、主権者納税者としての認識不足を感じるところ。
理解不足や知識不足などは、申告納税制度においては、基本的に考慮されることがないという原則的な判断が再認識され、申告納税制度の重要性と租税に関する知識の普及と啓発が重要であることが再認識される事例だろう。
判例裁決紹介(令和2年8月21日裁決、行政指導とお知らせ文章)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年8月21日で、相続に関する期限後申告とその基礎に無申告加算税を賦課決定処分を受けたことにつき、かかる点において、税務署からのおしらせ文書記載の誤解によるものであり、正当な理由があるとしてその取消を求めたものです。
具体的には当該税務署からの相続に関するお知らせ文書に記載された、法定納期限を誤解、読み違えたということで、主張されているものであるが、基本的には法の無知によるものであり、申告納税制度を基礎とする我が国の現行法制度において特段考慮される可能性は非常に低い事例であって、裁決判断も請求人の主張を否定している。
本件では、上記のような事例として、事実関係が問題となっているものであるが、重要なのは、この点ではなく、税務署からのお知らせ文章の意義について、課税庁として、の主張において、行政指導の観点から主張を行っているものであろう。近年は調査手法の多様化や、手続の改正もあり、このようなお知らせ文章が税務署から送付されることが増加しているものと考えられる。しかしながらその法的な性格は必ずしも明らかではなく、租税手続法、実務においても対応が不明瞭な点が存在している。この点を如何に解すべきであるのか、という点は、検討すべき課題であるが、本件では課税行政庁としては行政指導という観点から主張を構成している点が珍しく、興味深い。従前の行政指導とこのような書類の送付を同視すべきであるのかなど、更に検討すべきことを提起してくれる興味深い事例であろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和4年2月15日、名義預金認定に出捐に基づく按分)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は令和4年2月15日で、相続税の課税財産の把握において、課税庁が行ったいわゆる名義預金認定が納税者の主張により排斥された珍しい事例です。
具体的に本件は相続人たる請求人(一人は税理士)がなした相続税申告につき、課税庁の調査により、被相続人である家族名義の預金及び、相続発生後の出金が申告された相続財産に含まれていないとして更正処分等を受けたことから、当該預金等は被相続人の配偶者等(相続人)の帰属に帰するべきものであるとして、当該処分の取消を求めた事案である
いわゆる名義預金の認定という、家族名義の預金が如何なる者に帰属すべきものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。相続税の申告の基礎となるべきものの一つが相続財産の把握であることは実務家にとって、言うまでもないことであろうが、本件もその中で最も争点とされることの多い、いわゆる名義預金が争点となったものである。テキストや問題文で、預金の名義が問題となることはほぼないものであるが、現実社会に出るとこのような名義の異なる、実質的な所有権者との相違が争点となってくることは、まずもって認識しべき問題であり、社会人がテーマとしがちの点ではあるが、多くの場合事実認定の問題であることが基礎として認識されるべきものであろう。ちなみに本件のような問題は名義預金の問題としてよく言われるのだが、なぜ、名義預金という表現になっているのか、というのがいつも疑問に思うところ(皆さんは思ったことはないだろうか?実質的な帰属と呼ぶべき問題であろうが)。
かかる点で本件は特段珍しいものではないが、本件の特徴的なところは、課税庁が行った名義預金の認定を納税者の主張により、審判段階ではあるものの、その認定が排斥されたということであろう。課税庁の主張立証の不十分ということがその要因と評価されるものであろうが、基本的に事実認定の問題であるものの、本件は預金の源泉の出捐先に関して、詳細な事実認定を行った上で(この点で近年の認定に関する流れを典型的に表現しているもの)判断を行っており、実務上は非常に参考となるものであろう。
「被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその原資の出えん者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することとなった経緯等を総合勘案して判断するのが相当である。」
判示は上記のように家族、配偶者名義の財産のように、名義が異なる場合、その判断に関しては、出捐にとどまらず、管理状況など総合的な状況をもとにして実質的な判断を行うこととしている。このような法令解釈と判断の枠組みに関しては、特段珍しいものではない。裁判例とも整合的であり、原則的な枠組みとして合理的なものであろう。
しかしながら、本件では配偶者名義の預金に関しては勤務実績の存在等から配偶者の貢献を如何に判断すべきであるのかという視点が背景にあるように考えられる。この点で、従来とは異なる名義認定の背景が登場しているように思われる。すなわち、従前の名義預金の問題の中心は男性が働きその上で構築された預金の配偶者家族名義の分散を基礎としていることが、当然のようにその背景にあった(あまり議論されているものではないかもしれないが)。しかしながら、本件では、配偶者の勤務実績の存在がまずは前提としてあって、その上で、本件資産の形成における配偶者の貢献を判定することがまずは、求められていることになっている。
この点は、あまり意識されていないように思われるが、夫婦財産の形成における社会的な環境変化、共働きの増加という社会環境の変化を反映しているようにも思われ、租税を考える上では非常に重要な点であろう。従前、所得税などの単年度ベースでは環境変化の反映が垣間見られる事例は存在しているが、相続税という財産の長期間の形成における判断においてもこのような状況がみられるようになってきていることは、租税においても環境の変化を反映させる契機が到来しつつあることを感じさせるものであり、かかる点で重要な点であるようにも考えている。
このようなバックボーンの変化をと基礎としつつも、基本的にはこのような名義認定の問題に関しては租税法規としては課税の公平性を反映させ、課税の均衡を図る観点からも実質的な判断を基礎とすべきという点は変わないと考えるべきである。しかるに上記のような総合的な判断の要請は、判断枠組みとして合理的であるものと考えられるが、その具体的な基準に関しては、上記のような背景をもとに変化すべきものといえよう。
本件では判断の基礎は上記のような総合的な判断をベースを課税の公平を基礎に構築されるべきものでありながら、課税庁の主張が基本的に預金の出捐にほぼ収束された主張を形成していることが、判断の原因となっている。確かに従来の判断のベースは出捐を基礎とするような判断の枠組みが実際的な、あるいは判断の中心的な要因として機能している事例が多い。実務においてもおそらくこの出捐関係がその判断の基礎となっていることが多いものと想定されるが、テクニカルな実務ベースの判断の枠組みとしては機能しうるものであるが(この点においては予見性が高いが、結果的には中核的な部分を理解しておらず立証が不足していることが本件の判断の要因となっている)、規範的な意義において本質的には不十分であることはまた認識されるべきであろう。民事法的には、その名義を争う場合において出捐という点を重視するケースは多いものであるが、相続税という租税負担を検討するにあたっては、租税負担の均衡の要請の視点が背景とすべきことは留意されるべきものと考える。
何れにせよ、本件の判断は税理士が請求人に含まれていることもあり、名義認定の一般的な問題とはいささか異なる展開となっているが、従前の事例と対比することで今後の判断においても参考とするべき案件であろう。個人的にはマイナンバー等が口座に紐付けられる中で、このような管理状況などの判断の枠組みがどのように変化するべきであるのかという点が今後の検討課題であるように思われるところ。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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