2023年1月28日土曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和4年3月25日、複合構造による家屋の固定資産税評価に於ける補正率算定方法と実施要領の位置づけ)

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は大阪地判令和4年3月25日で、複合構造をもつ家屋の固定資産税評価額の算定において、適用される経年減点補正の算定方法につき、自身の要領に記載する方法とは異なる旧来の方法を用いていた事により、かかる所以をもって、構造上最も長い耐用年数に基づく【SRC構造】補正率の算定が行われたいた事が課題となった事例であり、課税庁が主張する低層階方式における評価の継続的していることの合理性が否定され、課税庁が敗訴した事例です。 具体的には、本件はS構造【鉄骨】とSRC構造【鉄骨鉄筋】が混在する家屋【ホテルや商業施設等が一体となった建物】を保有する原告が、当該家屋の固定資産税評価額としての登録価格に対して不服を固定資産評価審査委員会に申し立てたところ、棄却されたことから、その評価額の算定、経過年数による劣化を反映すべく定められた経年減点補正率の適用が誤ったものであるとして提起された事例である。家屋評価における経年減点補正率という非常にテクニカルな部分が基本的な争点となっているものであるが、本件は、構造別に補正率を定める評価基準の適用において、複合構造の家屋に対する評価額の算定における経年減点補正率の算定方法適用が直接的には争いとなっているものであるが【おそらくこのような複合的な大規模施設は増加しており、このような意味でも重要であろう】、固定資産税評価額という税務において基軸となっている評価額の算定において、複数の評価方法がありうる場合において、かかる評価方法において如何なるものを選択すべきであるのか、その合理性を判断する上で判断の枠組みを示したものであり、かかる点において重要と考えられる。 本件では補正率の算定において、構造を異とする家屋について、構造ごとに区分する方式ではなく、一棟ごとに一定の仮定をおいた上で、床面積の最大値を基準とする床面積方式か低層階における構造における補正率を適用する低層階方式のいずれかが合理的であるのか、課税庁たる市町村の裁量がこのような複数の評価方法が存在する場合において認められるべきであるが、かかる裁量が如何なる点において合理的であるのかという点が中心的な争点となっているものである。 本件では、課税庁は低層階方式を利用し、もって構造上、重量があるSRCが低層階に来るのは必然であるがため、もって必然的に長期間の利用期間が想定され、補正率を適用した評価額の算定が高額とならざるをえない形になっていることが、固定資産税評価額として合理的な、客観的な時価を算定するという趣旨に合致しているのか否かという点が争点とされ、全体面積の80%を占める主たる床面積を占める構造物の補正率を適用する床面積方式の適用がなされないことよって、S構造による評価を適用されることがない事によりもって評価額が引き上げられていることを不服としているのが本件の原告における主張である。 判示は最終的に原告の主張を認め、課税庁の主張する低層階方式の評価継続の合理性を否定したが、まず最初の印象としては、この判決が確定することで、大きな固定資産税の評価額の減額は発生しうるように、他への波及が大きいものと想定されるところである。 そもそもとして課税行政庁は、自身が定めるその実施要領にて、平成18年の改正において従前の床面積方式以外の方式【低層階方式等】の適用を認めていた文言を削除しており、現在の実施要領では床面積方式の採用による評価補正率の算定を定めていながらも、本件家屋に関しては少なくとも平成18年改正前のまま低層階方式を継続してその評価額の算定を行っていたことが本件の起点となっているものともいえよう。地方自治体において租税実務の担当者が頻繁に入れ替わるような状況等も想定されるところであり、現場的には、過去の状況まで遡って対応するのは物理的に困難な状況にあったのではないかとも考えられるが遡及的に評価額の修正を促すべき行為は課税庁において期待薄であるのかもしれない【かかる点で本件訴訟は確定すれば、実質的な影響は大きいだろう】。基本的に新築時の付与された評価が継続するのは固定資産税の評価の世界では一般的な考え方であるが、かかる所以は膨大な事務作業への配慮があるものと考えられる。しかるに、事務負担への配慮による合理性を基礎とした、この評価の継続が合理性を有する場合とその合理性が喪失しているか否かという点は、如何に判断されるのかという点は重要な点である。 本件では、低層階方式の非合理性に関して、建築士や評価研究センターの知見を活用して主張しているが、これは原告が信託銀行で不動産のプロであるがゆえに行われた故に【それでも是正すべきことに気づくのに10年以上かかっているが】、如何に賦課課税方式による是正が困難であるのかという点も垣間見られる事例である。近年は東京都などの大都市部を中心に固定資産税の評価額に関する訴訟が増加しているが、地方部においてこそこの評価が適性が行われているのか否かという点を検討する実効的な仕組みが必要とされるのだろう。先日、固定資産税評価審査委員会の、不作為等に関して国家賠償法上の責の存在について最高裁が審理をやり直すべきという判断が行われていた事例【この判断が行われれば、おそらく評価委員会の責務はより強化されることになるだろう】もあるが、複雑な評価基準を理解して、多様な固定資産に対して適用の是非を判断することができる人材がどの程度いるのだろうとは以前からの疑問。 「複合構造家屋に適用する経年減点補正率の求め方の選択が、評価基準が市町村長に許容した範囲内の合理的な選択といえるか否かは、①当該市町村長が選択した経年減点補正率の求め方が、経年減点補正率に係る評価基準の定めの内容、趣旨に沿ったものといえるか否か、②当該家屋に適用する経年減点補正率の求め方の選択が、当該市町村内における評価の統一性の要請からみて合理的といえるか否かの双方の観点から判断するのが相当である。」 以上のように本件では、上記のような判断基準を示し、評価基準の定めの趣旨等からの判断及び評価の統一性の要請の視点からの2側面からの判断を法令解釈としている。単に規定の趣旨以外にも固定資産税評価基準の法的な性格に依拠した評価の統一性の要請【ただし、本来の統一性は全国一律であることを要請することが基本であり、市町村内ではないとも指摘する意見もあるのかもしれないが、基本的にその趣旨に相違はないだろう】が配慮されたものと考えられ私見として賛成される。近年市町村における実施要領等のルールの適格性が争われる事例が散見されるが、かかるような地方税法の要請により定められた評価基準の性格を損なうことは困難と解すべきである。 判示では、両側面から課税行政庁の判断を否定して原告の主張を認めている。少なくとも審査の申し出があった段階で評価の不均衡が発生していることを放置すべきか否かという点は否定的に判断されたものと捉えられよう。 「評価基準は、現に存続している限り家屋には一定の財産的価値があるとして、耐用年数が経過した後の経年減点補正率を残価率0.20のままに据え置いており〔前記認定事実(1)ウ〕、家屋の寿命が耐用年数を上回ることを当然に想定している。そうすると、評価基準において、耐用年数と家屋の寿命とは理論上区別して捉えられるべきであり、家屋が耐用年数を経過した後も現に存続していることは、耐用年数の延長を直ちに正当化するものではない。このような考え方は、経年減点補正率における耐用年数を定めるに当たり参考にされている減価償却資産の耐用年数と、実際の建物の使用可能年数との乖離が生じている旨の指摘がされていること〔前記認定事実(1)イ(ア)〕とも整合的である。」 なお、少し本題からずれるかもしれないが、本件では上記のように判示し、固定資産税評価における0.2残価率の設定を基礎として耐用年数が経過後も資産が存在していることを基礎として、必ずしも経過後も利用価値が失われていないことを固定資産税評価における特徴として理解する傾向がある課税庁の主張を排斥しているように捉えられる。利用価値があることを基礎として、もって地方税の応益性の反映に基づくものであろうが、その評価額の付与を行うことが一定の合理性があるという主張がなされることが多いが、本件では必ずしも受け入れられていないように思われる。 「通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであつて、非木造家屋の構造区分に従い、」 上記は評価基準における経年減点補正率の背景にある趣旨であるが、あくまでも時の経過による通常の減耗を評価額に反映させることで時価の算定を行うというものであり、この点に厳密に判断しているように解される。この点について残価率の設定と応益性の視点からの特徴的な評価方法が固定資産税評価における特徴として他の評価方法にも影響を及ぼすものであるのかという部分は更に検討していきたい。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。

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