2023年1月28日土曜日

判例裁決紹介(令和4年2月15日、名義預金認定に出捐に基づく按分)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は令和4年2月15日で、相続税の課税財産の把握において、課税庁が行ったいわゆる名義預金認定が納税者の主張により排斥された珍しい事例です。 具体的に本件は相続人たる請求人(一人は税理士)がなした相続税申告につき、課税庁の調査により、被相続人である家族名義の預金及び、相続発生後の出金が申告された相続財産に含まれていないとして更正処分等を受けたことから、当該預金等は被相続人の配偶者等(相続人)の帰属に帰するべきものであるとして、当該処分の取消を求めた事案である いわゆる名義預金の認定という、家族名義の預金が如何なる者に帰属すべきものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。相続税の申告の基礎となるべきものの一つが相続財産の把握であることは実務家にとって、言うまでもないことであろうが、本件もその中で最も争点とされることの多い、いわゆる名義預金が争点となったものである。テキストや問題文で、預金の名義が問題となることはほぼないものであるが、現実社会に出るとこのような名義の異なる、実質的な所有権者との相違が争点となってくることは、まずもって認識しべき問題であり、社会人がテーマとしがちの点ではあるが、多くの場合事実認定の問題であることが基礎として認識されるべきものであろう。ちなみに本件のような問題は名義預金の問題としてよく言われるのだが、なぜ、名義預金という表現になっているのか、というのがいつも疑問に思うところ(皆さんは思ったことはないだろうか?実質的な帰属と呼ぶべき問題であろうが)。 かかる点で本件は特段珍しいものではないが、本件の特徴的なところは、課税庁が行った名義預金の認定を納税者の主張により、審判段階ではあるものの、その認定が排斥されたということであろう。課税庁の主張立証の不十分ということがその要因と評価されるものであろうが、基本的に事実認定の問題であるものの、本件は預金の源泉の出捐先に関して、詳細な事実認定を行った上で(この点で近年の認定に関する流れを典型的に表現しているもの)判断を行っており、実務上は非常に参考となるものであろう。 「被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその原資の出えん者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することとなった経緯等を総合勘案して判断するのが相当である。」 判示は上記のように家族、配偶者名義の財産のように、名義が異なる場合、その判断に関しては、出捐にとどまらず、管理状況など総合的な状況をもとにして実質的な判断を行うこととしている。このような法令解釈と判断の枠組みに関しては、特段珍しいものではない。裁判例とも整合的であり、原則的な枠組みとして合理的なものであろう。 しかしながら、本件では配偶者名義の預金に関しては勤務実績の存在等から配偶者の貢献を如何に判断すべきであるのかという視点が背景にあるように考えられる。この点で、従来とは異なる名義認定の背景が登場しているように思われる。すなわち、従前の名義預金の問題の中心は男性が働きその上で構築された預金の配偶者家族名義の分散を基礎としていることが、当然のようにその背景にあった(あまり議論されているものではないかもしれないが)。しかしながら、本件では、配偶者の勤務実績の存在がまずは前提としてあって、その上で、本件資産の形成における配偶者の貢献を判定することがまずは、求められていることになっている。 この点は、あまり意識されていないように思われるが、夫婦財産の形成における社会的な環境変化、共働きの増加という社会環境の変化を反映しているようにも思われ、租税を考える上では非常に重要な点であろう。従前、所得税などの単年度ベースでは環境変化の反映が垣間見られる事例は存在しているが、相続税という財産の長期間の形成における判断においてもこのような状況がみられるようになってきていることは、租税においても環境の変化を反映させる契機が到来しつつあることを感じさせるものであり、かかる点で重要な点であるようにも考えている。 このようなバックボーンの変化をと基礎としつつも、基本的にはこのような名義認定の問題に関しては租税法規としては課税の公平性を反映させ、課税の均衡を図る観点からも実質的な判断を基礎とすべきという点は変わないと考えるべきである。しかるに上記のような総合的な判断の要請は、判断枠組みとして合理的であるものと考えられるが、その具体的な基準に関しては、上記のような背景をもとに変化すべきものといえよう。 本件では判断の基礎は上記のような総合的な判断をベースを課税の公平を基礎に構築されるべきものでありながら、課税庁の主張が基本的に預金の出捐にほぼ収束された主張を形成していることが、判断の原因となっている。確かに従来の判断のベースは出捐を基礎とするような判断の枠組みが実際的な、あるいは判断の中心的な要因として機能している事例が多い。実務においてもおそらくこの出捐関係がその判断の基礎となっていることが多いものと想定されるが、テクニカルな実務ベースの判断の枠組みとしては機能しうるものであるが(この点においては予見性が高いが、結果的には中核的な部分を理解しておらず立証が不足していることが本件の判断の要因となっている)、規範的な意義において本質的には不十分であることはまた認識されるべきであろう。民事法的には、その名義を争う場合において出捐という点を重視するケースは多いものであるが、相続税という租税負担を検討するにあたっては、租税負担の均衡の要請の視点が背景とすべきことは留意されるべきものと考える。 何れにせよ、本件の判断は税理士が請求人に含まれていることもあり、名義認定の一般的な問題とはいささか異なる展開となっているが、従前の事例と対比することで今後の判断においても参考とするべき案件であろう。個人的にはマイナンバー等が口座に紐付けられる中で、このような管理状況などの判断の枠組みがどのように変化するべきであるのかという点が今後の検討課題であるように思われるところ。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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