2023年4月15日土曜日

判例裁決紹介(津地判令和2年10月1日、親子間での事業所得の帰属)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、津地判令和2年10月1日で、個人の事業所得の帰属が親子間で争われた事例です。 具体的に本件は、個人事業者たる原告(H25年に法人成り、鉄道の軌道管理)がもともと事業を行っていた父の指導等を受けて営んでいた事業所得の帰属が自分自身ではなく、父親にあるとして、調査による重加算税等の賦課決定処分等に対してその取消を求めた事例である。 所得の帰属という、所得税の実務における基本中の基本ともいうべきものであるが、親子間でその所得が如何なる者に帰属するものであるのかという点は裁判所において争われた事例であり、実務的にはこの種の事例は非常に多い、法解釈というよりも事実関係を如何に認定してその帰属先を判断すべきであるのかという点を中心的な論点とするものである。 このような家族で営む事業というものは我が国では農業から建設など、非常に広範囲にそして、歴史的に積み上がってきたものであり、我が国の中小企業の多さの背景になっているものであるが、この中でどの者に所得が帰属するものであるのかという点は、所得の分散と相まって、伝統的に所得税の議論としても重要な位置づけを持ってきたものである。本件もその類型に属するものであるが、近年は事業承継のあり方も昔とは変化しており、所得帰属判定に置いてもその基準が以下に考えられるべきであるのかという点は、検討課題であるように考えられる。所得の帰属という事実認定の基本となるべきような事案でもあり、本件は通帳の管理や、経営、外形的な契約関係、従業員の認識など、多様な側面が、事実関係としてその具体的な認定の対象となっている。かかる点からは租税における具体的な判断を学ぶ上で絶好のティーチングケースであろう。 本件では、その問題の起点は、家族、正確には、原告に代わり通帳などを管理していた父の妻(原告とは血縁がない)が売上除外などの仮想隠蔽を行っていたことが発端となっているものであり、通帳の管理など資金の管理などは一切、原告自身はタッチしていなかったとして自分自身の所得であるとして不利益を被ることは納得できないという思いがあったものと推察されるが、管理支配ではなく月給をもらっていた感覚であるというような自身の思いが、背景となっているものであろう。 (実質所得者課税の原則) 第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。 所得税法は、その基本的な規定として、所得の享受者をその課税対象とするという実質所得者課税の原則を有している。この規定が租税法規における中心的な規定として確認規定であるのか、それとも創設規定であるのかなど、その本質的な性格は今なお議論のあるところであるが、通説的に法律的帰属説を基本とする考えが中心となっている。法律的帰属説であれば、その意義としては必ずしも重要視されないのではないか、確認規定的であるのかという意義付けを持つものであろうが、私見としては例外として経済的な享受をもその課税対象とする実質的な租税負担の能力を判断する規定ではないかというものであり、かかる点で、以下に例外的に収益を享受しているのかという点を判断することが重要であるように考えられるものと思う。 しかるに本件では、この規定を明確に示さず判示を行っている。外形的な契約の名義や事業の遂行等包括的な所得を生み出す業務内容を判断の材料においた上で判断を行っている点は特徴的であると評価されよう。近年の事例では12条を明確に示さず、このような外形的な要因もその判断材料として形式的な側面をいわば重視しているようなものも多く見られるようになりつつあるが、立証の容易さも影響しているのであろう。 法規は上記のように収益の享受を起点として判断を行うことを求めており、基礎的な判断としては事業からの所得がベースになるべきものであるように考えられるが、かかる点は近年では顧みられていないようにも捉えられる。 個人的には収益という所得の基本をもとに判断することが法規の基本的な要請であるようにも捉えられるが、何を以て享受していると考えるのか、より現代的な視点から変更を加えるべき時期にあるように思う。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿