2023年1月28日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年10月9日、未申告の継続と他行政機関への虚偽回答と仮装隠蔽)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年10月9日で、未申告の継続や他行政機関への虚偽回答が仮装隠蔽に該当するのか否かという点が争点となっている事例です。 具体的には、本件は個人たる原告が不動産賃貸事業や塾の講師として得た所得(6年間の未申告であるが、創業後20年以上未申告】を積年、未申告であったことにつき、調査により、重加算税等の賦課決定処分等を受けたこと不服として提起された事例である。重加算税という非常に厳しい制裁的な要素をもつ附帯税の要件として仮想隠蔽の充足があるものであるのかという点が争われた事例であるが、未申告の累積と他の機関【地方自治体の調査への回答を虚偽】であることを起点として、所得税のほだつや仮想隠蔽の起点として判断されている点である。通常、直接的な行為が認定対象となることは多いが、本件のようなケースは珍しく、租税実務家にとっては、有益な事例であろう。 (重加算税) 第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。 2 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第七項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。 以上のように、本件の中心的な争点は仮想隠蔽の成立に関する要件である。 本件では、下記最判を引用し、制度趣旨から書類の偽造等の積極的な租税負担を回避する行為とそれに基づく申告にとどまらず、当初から納税者の意図としては、未申告であることと外部から伺いうるような行動を行っていることで足りるとしている。本件も含めこのような直接的な行為にとどまらず、当初段階からの未申告の意図やかかる意図が伺いうるような行為の存在にまで要件に含むとされる解釈が基本的な前提となっているものである。通常紛争事例としては、本件とは異なり、直接的な租税負担を回避する行為が前提となることが多く、比較的拡張的な本件及び最判の判断は、特徴的であり、重要なものと考えられる。もちろん、重加算税の40%を超過するような負担を課すことで公平負担とのバランスを取ろうとする本制度の趣旨からすれば、厳格にその要件を判断すべきという指摘もあり得よう。 「納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事 実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したとこ ろに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、その 納税者に対して重加算税を課することとされている(通則法68条2 項)。この重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに納税申告書を 提出しないことについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、 無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税 義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を 確保しようとするものである。」 「したがって、重加算税を課するためには、納税者のした無申告そのものが 隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、無申告そのものとは別に、隠 蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告がされたことを 要するものである。しかし、重加算税制度の上記趣旨にかんがみれば、架空 名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると 解するのは相当でなく、納税者が、①当初から法定申告期限までに納税申告 書を提出しないことを意図し、②その意図を外部からもうかがい得る特段の 行動をした上、③その意図に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出し なかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解す べきである〔最高裁平成●●年(○○)第●●号同7年4月28日第二小法 廷判決・民集49巻4号1193頁参照〕」 しかしながら本件では、かかる判示を前提に未申告の累積【不動産の購入や通帳金額の増加も含め】があり、また、他の自治体【居住地における国民健康保険料計算】によることをもって、上記のように当初からの未申告の意図や外部からの伺いうるような行為であるとの認定を行っている点は、先例的な価値があろう。特に未申告の累積は、多くの事案において租税に関する知識不足等から発生しうるものであり、また、直接的な納税に関わる機関においてなされたものでなくとも、所得を隠蔽するような行為を行っている【虚偽の所得の回答を行っている】ことが上記のような重加算税の要件に合致するということは、珍しい判断であろう。検討対象としても先例的なものとしても本件は有益な事例であるように考えられる。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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