2023年4月15日土曜日
判例裁決紹介(令和元年11月19日裁決、債務の未払計上)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年11月19日裁決で、債務に関する未払計上とその損金の確定が争われたものです。
具体的には、本件は自動車等の部品を取り扱う法人が自社製品に伴う(交換)損害賠償として自社負担分の費用につき、期末に未払計上を行ったことにつき、当該部分を損金として算入した確定申告を行ったところ、課税庁により、債務が確定していないとして、損金計上を否認したことを不服として提起された事例である。
近年では、比較的損金計上において、債務確定がいかなるものであるのか、という点が争点となる事例は減少傾向にあるものであるが、下記のように法人税法において、もっとも重要な計算規定の基礎、特に損金の計上をコントロールする規定であり(コントロールする)、その具体的な意義を問うものとして、もちろん債務が確定しているのかという点で事実関係に依拠するものであるが、また損害賠償のような非日常的な事例ではあるものの、法人税法上の基本的な意義を検討する上で非常に有益な事例であろう。
第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
本件では、事実関係として、損害賠償に関する基本的な(重要な部分)の合意を行った会議が年度末の3月に行われているものであり、賠償の上限金額が確定したものとして(自社の取締役会で決議)、当該金額が未払計上として損金として計上されたものである。最終的には当事者において合意書がかわされたのが、翌4月であり、課税庁の主張としては、このタイミングをもってその債務が確定したものであるとの主張であり、わずかひと月の間での出来事であるが、この点がタイミングの決定として重要な事となっている。判断は、課税庁の主張を是認しているが、中心的な点は下記通達における債務の成立が焦点となっているものである。
(債務の確定の判定)
2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(昭55年直法2-8「七」、平23年課法2-17「五」により改正)
(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
裁決である以上当然でもあるが、本件でも基本通達の2-2-12が該当するのか否かという点から争われている。
上記の通達が、成立してすでに40年以上経過しているものであり、経済環境の変化や法的な取引、やり取り方法など具体的な点は変化を含んでいる。かかる判断が解釈として妥当であるのかという点から、より検討されるべきものであろうが、法的な点を基盤とするものの、債務の成立や合理的な算定というように、必ずしも解釈としていかなるものを指すものであるのかという点な明らかではない。
私見としては、そもそも債務確定がいかなる趣旨を含むものであるのか、恣意の抑制であるのか等、基本的な部分から検討すべきものであるが、租税、特に法人税法や消費税法のような大量反復的な行為を対象としているものであり、本件のような異常な取引における債務確定と日常的な取引における債務確定が具体的な点で同一的な判断の枠組みで良いのか等、より検討すべきものであるように考えられる。多くの事例では非日常的な行為における債務確定が争われている事例が多いが、かかる点からの判断の枠組みが一般性を有するものであるのかという点は、慎重な検討が必要であるように思う。
実務ではほぼ上記の通達が絶対的な基準のように扱われているのではないかと捉えているが、債務の成立のような曖昧な状況をどのように解していくべきか、債務確定の意義からより具体的な基準として検討されるべきではないだろうか。3つの条件が全部完全に充足されなければならないものであるのか、幅を含む概念であり、一律なものではないことは認識されるべきであろう。
合意の成立(契約の基本であろうが、民事法の議論をより反映させなければならないが)、本件では、基本的に書類を交わした時期がその具体的な要素として結論を導いているが、必ずしも書類を要請するものではないだろうし(程度差がありどの時点を最も確定と評価すべきであるのかという点が課題)、重要な部分は決定しているものの協議が継続しているような本件の状況は、債務の確定が充足されていないと判断されるのはやむを得ないのではないかとも考えられる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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