2020年12月26日土曜日

判例裁決紹介(令和元年6月24日裁決、居住用財産の譲渡特例、段階相続)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、先週に引き続き、居住用財産の譲渡特例における相続により取得した財産の譲渡資産が課題になった事例です。

具体的には、本件は相続により家屋及び土地を、取得した相続人たる請求人が当該家屋を取り壊し、敷地であった土地を譲渡したことにつき、譲渡所得課税の特例の適用(租税特別措置法35条、居住用財産の譲渡特例)のなして申告したのに対して、本件土地は、対象となるものではないとした課税庁の更正処分に対して不服として提起された事例である。請求人は当該土地を両親から相続により取得しているものであるが、両親の各相続において段階的に取得したものであり、これらの相続による取得が租特の対象となるのかという点が争われた事例である。いささか特殊な事例であるのかもしれないが、本件のように相続に関する譲渡特例が利用されやすい割には、争いが少ないものでもあり、通常相続の発生は段階的に行われることが本来であり、財産の帰属に関しては、このような特例の適用も考慮要因となりうるところであるという点は、実務においても参考となるものであろう。

 相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第五項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)が、平成二十八年四月一日から令和五年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合(当該相続人が既に当該相続又は遺贈に係る当該被相続人居住用家屋又は当該被相続人居住用家屋の敷地等の対象譲渡についてこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する。
 当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(当該相続の時後に当該被相続人居住用家屋につき行われた増築、改築(当該被相続人居住用家屋の全部の取壊し又は除却をした後にするもの及びその全部が滅失をした後にするものを除く。)、修繕又は模様替に係る部分を含むものとし、次に掲げる要件を満たすものに限る。以下この号において同じ。)の政令で定める部分の譲渡又は当該被相続人居住用家屋とともにする当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該譲渡の時において地震に対する安全性に係る規定又は基準として政令で定めるものに適合するものであること。
 当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後における当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(ロ及びハに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
 当該相続の時から当該取壊し、除却又は滅失の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該取壊し、除却又は滅失の時から当該譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。
 前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋とは、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人(包括遺贈者を含む。以下この項及び次項において同じ。)の居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由(以下この項及び次項において「特定事由」という。)により当該相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める要件を満たす場合に限る。)における当該特定事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用(第三号において「対象従前居住の用」という。)を含む。)に供されていた家屋(次に掲げる要件を満たすものに限る。)で政令で定めるものをいい、前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋の敷地等とは、当該相続の開始の直前において当該被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地として政令で定めるもの又は当該土地の上に存する権利をいう。

以上のように、本件は租特の適用要件としての35条の4項にある相続直税段階での居住の用に供していたのか否かという点が適用要件状況の争いになっているものである。
すなわち本件家屋が被相続人の居住の用に供されていた家屋であり、かつ、本件家屋に被相続人以外に居住をしていた者がいなかったことが要件となるものであるが、最終的な相続の直前には被相続人(母)と相続人が同居しており(父の相続、すなわち最初の相続では非同居)、適用がないことを不服としているものである。最初の段階の相続も含め、居住の判定を行うべきとする主張がなされたものである。確かに相続としか規定されていないため、段階的な相続を基礎とする事実関係においては、このような主張も成立しないものではないのかもしれない。納税者としては実質的に、同居していたことが譲渡特例の適用の可否を左右することは納得し難いものであるのであろうが、特例の趣旨を鑑みれば、そもそも租特という軽減措置の適用においては、拡張的に解釈されることは困難であろう。明確に財産の取得の直前の相続を対象としているものであり、拡張的な適用の判定は趣旨に反するものであり、立法の問題であろう。

通常、このような特例の適用をめぐる案件では、そもそも居住の用に供していたのかという点が課題とされることになる。しかしながら、本件ではこの点は問題とされていない点が興味深いものでもあるが、居住の用に供しているとの判断自体が幅のある概念である。特に一定の期間を居住実態を持っていたのかという点が判断において重要な点となるが、本件の特例の適用は、直前の状況を問題としており、時点判断を基軸としている点で、適用において齟齬が生まれる可能性があるのではないかとも考えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
良い年をお迎えください。


2020年12月19日土曜日

判例裁決紹介(平成31年1月18日裁決、介護施設への入居と居住用不動産の判定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年1月18日で、介護施設への入居により居住用不動産の譲渡に関する租税特別措置法規定の適用が否定された事例です。

具体的には本件は、請求人の父が平成15年頃より介護施設へ入居を行っている状況下にあって、もともと自宅として使用していた家屋や土地を売却した事案において、確定申告にて下記、租税特別措置法に定める居住用不動産譲渡所得に関する特別控除の適用を申告したところ、課税庁は、当該譲渡対象資産は、居住の用に供されているものではないとして、その適用を否定した処分の取消を求めるものである。

租税法規の適用において住所や、居住の用に供されているような状況は、実際の法規の適用や租税負担の起点として非常に重要な位置づけを占めることが多い。本件で課題となった特例は非常によく活用される租税特別措置法の一つであり、実務においても見かける機会が多いのではないだろうか。本件はその譲渡所得課税の特例の適用(3000万の特別控除)の是非が争点となったものであり、特に中心的な要件たる居住用財産の適否が基本的な争点となっている点で、本件は参考となるものであろう。現行の実務は通達を基礎として(治療等による一時的な離脱は許容している傾向にあるだろう)、居住に関する認定、その判断が行われている現況にあるが、通達の背景にある考えと実際の居住環境の対応が争点となっているという点で比較的汎用性が高い、留意すべき項目であろう。特に現代は社会構造が変化し、介護の社会化が進み、介護施設の利用や、近親の近接居住がまれな状況下においては介護施設への入居は一時的なもの、恒久的なもの、それぞれ、一般化しているものであり、かかるような状況から、居住の状況を如何に判断されるべきであるのか、従来と変化すべきものであるのかという点は課題となっているものである。


居住用財産の譲渡所得の特別控除
第三十五条 個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなつた場合には、その年中にその該当することとなつた全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。
 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
 第三十二条第一項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から三千万円(短期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

 その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの(以下この項において「居住用家屋」という。)の譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の八若しくは第三十七条の九の規定の適用を受けるものを除く。以下この項及び次項において同じ。)又は居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この項及び次項において同じ。)をした場合

以上のように、本件の基本的な論点は、居住の用に供されているのか否かを介護施設への入所(事実認定では一時的に帰宅したこともあり、水道等は基本料金を支払いいつでも使用可能な状況としている)ような状況を反映しうるものであるのかという点が課題とされていることになる。現況は入院等の一時的な居住地からの離脱は、居住の用に供しているのか否かという点において判断材料としないことは、主流であるが、本件のようにいつでも戻れる状況にしていることが居住をしているものとみなされるべきものであるのかという点が主張されている。

「本件特例が、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得につき一定額の特別控除額
を認めている趣旨は、個人が居住の用に供している家屋又は当該家屋と共にする
敷地の用に供されている土地を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財
産を取得するのが通常であるなど、
一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があ
り、その担税力が弱い
ことから、居住用財産の譲渡につき30,000,000
円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取
得を容易にすることにあるものと解される。
このような本件特例の趣旨に照らすと、居住用家屋とは、真に居住の意思をも
って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋
をいうと解す
のが相当である。」

裁決は、その判断として上記のように、当該特例の趣旨を他の譲渡と比べて担税力が低い(そもそも担税力という概念が定かではないが)としてかかる点を根拠に、真なる居住の意思と外観的な一定期間の生活の拠点とすることを求めている。担税力の減少という事情を反映させるべく、意思と実態による2要件を求めているものと解されよう。なぜ居住の意思(真なると表現しているところに如何なる所以があるのかという点も興味深いが)が重要視されるのかという点も、おそらくこの特殊事情の反映において重要な点を表現しているのであろう。ただし意思を重要視しつつも、実態とのバランスをとっているものである。

このように、本件では、居住実態も重視し(一定期間というものが裁量幅が広く、定かではないともいえようが)、請求人の主張するような意思を重視した拡張的な居住の用に供しているとの判断の否定している点は、留意されるべきであろう。居住の用に供するという、資産保有者の意思が介在することが予想される判断枠組みにおいて、居住実態を要求することで真実性、客観性を意図していることが本件解釈の重要な点であるように考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年12月1日火曜日

判例裁決紹介(東京高判令和元年11月6日、輸出名義人と仕入税額控除)

 


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和元年11月6日で、輸出名義人として税関長の許可証を有する原告、控訴人がなした輸出免税に関する仕入税額控除の適用を否認した事例です。

具体的には本件は、香港へ商品を輸出取引を行う原告・控訴人が、一月ごとに区分した課税期間を設置し(この時点で、いささか特殊な取引であり、輸出免税による仕入税額控除の還付を目的とした取引を行っているものであろうことが推測される)、当該商品の仕入税額を課税仕入であるとして申告し、還付申告を行った場合において、かかる課税仕入は、原告控訴人が国内で行った売買契約とは認められず、課税仕入が認められないとした更正処分を不服として提起された事例である。本件では、原審と同様に、課税庁の主張が認められ、納税者は単なる名義人、特に、輸出免税における税関長の証明書の名義人に過ぎないのであって、課税仕入の契約当事者ではないとして課税仕入そのものがなかったものとして事実認定されているものである。地判では、取引当事者の国内事業者は、香港の企業と直接契約を行っており(原告控訴人とは契約書などがなく)、国内取引として経理処理されていることを加味して、原告控訴人が契約を行った課税仕入ではないとして、仕入税額控除の認めないとした判示を行っており、基本的に、高裁でもその判断が是認されているものである。

重要なのは、地裁段階で行われた事実認定であり、契約が実際に行われているのか否かという点が基本的な争点となっているものである。いささか特殊な輸出免税のケースであるのかもしれないが、税関長の証明が存在することをもって形式的な判断を基軸におく、消費税の取引判断において、実質的な契約内容が存在するのか、本当に課税仕入が存在するのかという部分によって、課税仕入を比定した事例として、貴重な事例であるように捉えられる。おそらくは地裁段階での事実認定及び高裁で示されているように、形式的な書類保存が重視されることの多い、消費税の実務において、かかるように取引の存在を詳細な事実認定により否定した事例の存在は、今後、適格請求書が採用されたとしても
貴重な事例として考えられるのではないだろうか。

(輸出免税等)
第七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
 外国貨物の譲渡又は貸付け(前号に掲げる資産の譲渡又は貸付けに該当するもの及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和三十年法律第三十七号)第八条第一項第三号(公売又は売却等の場合における内国消費税の徴収)に掲げる場合に該当することとなつた外国貨物の譲渡を除く。)
 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
 専ら前号に規定する輸送の用に供される船舶又は航空機の譲渡若しくは貸付け又は修理で政令で定めるもの
 前各号に掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるもの
 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。

以上のように、判示では、輸出免税の対象として、下記のように納税者の主張に答え(そもそも課税仕入そのものの存在が争点となっている段階では主張が噛み合っていないものとも言えようが)、形式的な点を重視し、輸出の名義人である納税者の救済を図るべきとの主張に対して、輸出免税の対象を書類の名義人である主体に着目するものではなく、取引の内容に則るものであるべきと明確に判断している点は着目されよう。書類の保存等を重視する形式的な判断を重視している消費税の基本的な運用において、それを逆手に取るような、申告が行われている現状へ、本件の判断はより留意されるべきであろう。かかる判断は、輸出免税の法解釈から導かれているものであることは着目されるべきであろう。


「消費税法7条1項は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け」等の同項各号所定のものについては、消費税を免除する旨を定め、同条2項は、その課税資産の譲渡等が同法7条1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、消費税法施行規則5条所定の方法により証明がされたものでない場合には消費税法7条1項の規定は適用しない旨を定めている。このような消費税法7条の規定の文言に照らすと、同条1項は、取引の主体ではなく、取引の内容・態様に着目して消費税の免除の要件を定めていることが明らかであり、同条1項により消費税を免除されるには、事業者が国内において課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行ったことを要するものと解される。

本件各取引について、■は輸出許可書の名義人であったというにとどまり、■
と本件各国内事業者との間に売買契約があったとは認められず、■が本件各
取引により資産を譲り受けたとはいえないのであるから、■は、本件各取引
について輸出免税の適用を受けることはできず、輸出免税の適用者として仕
入税額控除の適用があるという余地はない。控訴人の上記主張は、その前提
を欠くものであり、採用できない。」



2020年11月20日金曜日

判例裁決紹介(平成30年8月1日裁決、委任先職員の任務懈怠と青色申告の取消)

 

さて、今回は、平成30年8月1日裁決で、委任先の税理士事務所の職員が任務懈怠で2年連続で申告期限までに確定申告書を提出できなかったことで青色申告を取り消された処分を不服として提起された事例です。

具体的には、請求人が事業承継により、税理士事務所の顧問契約を継続し、担当者である従業員が任務を懈怠し、期限内に申告書を提出しなかったことによる青色申告の取り消しを不服として、納税者の責めに帰すべき事情ではないものとしてかかる処分の取消を求めているものである。
実務において、青色申告の対象とすることは、至極当然のものであり、この取消は重要な失点となることから、期限内申告を強く意識されているものであるところであろうが、本件は、上記のように委任先の税理士事務所の職員が懈怠し、期限後申告となった事例であり、期限超過による取消は珍しくないものであるが、本件のような事由によるものは珍しく、実務家にとって留意として認識されるべきものであろう。現在はe-Taxやシステムの発展により大幅な期限の超過は従前と比して減少傾向にあるものと考えられているが、2年連続の超過によるリスクと日々の顧問先とのやり取りの重要性が忍ばれるものであろう。
忘れがちでもあろうが、あくまでも青色申告は、恩典的な制度であり、この辺の位置づけの認識が最近は薄れつつあるように思われ、啓発的な存在として本件のような事例は捉えられるべきである。

ただし本件は、取消処分の妥当性が争われたものの、本来の中心的な争点は、任務懈怠に該当することで、その損害を納税者が負担すべきものであるのか否か、すなわち、民事における委任契約と損害賠償の問題であり、いささか論点がずれているとも言えよう。申告納税を基軸とする以上、納税者の責めに帰す事情があるのか否か、特に本件のように2年連続の期限超過が課題となっている段階では、一度限りの超過ではなく、連続的に課題が発生しているとの評価となるものであり、かかる点と青色申告の性格を天秤にかけることになるだろう。実際、具体的な任務懈怠の中身については、詳細に争われていない(個人的にはなぜその様になったのかという点は興味深いが)。


(青色申告の承認の取消し)
第百二十七条 第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度までさかのぼつて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。
一 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第一項に規定する財務省令で定めるところに従つて行なわれていないこと。 当該事業年度
二 その事業年度に係る帳簿書類について前条第二項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと。 当該事業年度
三 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。 当該事業年度
四 第七十四条第一項(確定申告)又は第百二条第一項(清算中の所得に係る予納申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつたこと。 当該申告書に係る事業年度
五 第四条の五第一項(連結納税の承認の取消し)の規定により第四条の二(連結納税義務者)の承認が取り消されたこと。 その取り消された日の前日(当該前日が連結親法人事業年度(第十五条の二第一項(連結事業年度の意義)に規定する連結親法人事業年度をいう。)終了の日である場合には、その取り消された日)の属する事業年度
2 税務署長は、前項の規定による取消しの処分をする場合には、同項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知する。この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない。

以上のように、本件は青色申告の取消をめぐる、税務署長の裁量が課題となっている。上記のように法人税法は、特に取消原因に関しては、期限超過をもってその取消を認める規定となっており、実際の法規定よりも現実は緩和的な運用がなされていることは、意外と知られていない。2年連続の処理が超過したことが事実上の実務の指針となっているようであり、かえって2年以内であれば大丈夫のような本末転倒な状況になっているようにもなっていないだろうか。あくまでもこの処理は実務運営指針のレベルでの対応であり、悪質なものは法規定に則り対応される可能性もあることが認識されるべきであろう。従前のものと整合的であるが、下記のように青色申告の基本的な性格と取り消しの関係は整理されていることは重要な点である。本件は恩典的な措置であり、比較的課税庁の裁量が強い分野であるが2年連続の状況を原則的な対応としていることで、納税者における帰責性の判断も限定されているものであろう。

青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約した納税者が、
これに基づき所得金額を正しく計算して期限内に申告納税することを期待し、
かかる納税者に対してその特典を付与するものであるところ、法人税法第
127条第1項に規定する青色申告の承認の取消しの趣旨及び目的は、青色申
告の承認を受けた納税者について、青色申告の特典の付与を継続することが青
色申告制度の趣旨及び目的に反することとなる一定の事実がある場合には、そ
の承認を取り消すことができるものとすることによって、青色申告制度の適正
な運用を図ろうとするものであると解される

青色申告の承認の取消しは、青色申告制度の趣旨から真に青色申告書
を提出するにふさわしくないと認められる場合に行うものであるから、
本件事務運営指針の4に該当する場合においても、役員その他相当の権
限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得な
いと
認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、
再発
防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期
待で
きるなど、
取消しをしないことが相当と認められるものについては、本
件事務運営指針の4にかかわらず、
所轄国税局長と協議の上その事案に
応じた処理を行うものとする

一方、青色申告の承認の取消しは、法人税法第127条第1項各号に該当す
る事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々
の事情に応じ、所轄税務署長の合理的な裁量によって決すべきものと解され
る。
そして、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されて
いると認められる場合において、税務署長がその裁量権に基づき行った青色申
告の承認の取消処分については、それが社会通念上妥当性を欠いて裁量権の範
囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合や法の趣旨及び目的からみて
裁量権の不合理な行使であると認められる場合でない限り、その裁量権の範囲
内にあるものとして、違法又は不当とはならないものと解するのが相当であ

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年11月13日金曜日

判例裁決紹介(令和元年7月2日裁決、未検収による損金計上と仮想隠蔽の不成立)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年7月2日裁決で、請負契約による成果の納入に伴う損金計上において未検収の損金を計上したとして重加算税の仮想隠蔽に当たるとした処分が裁決段階で、その仮想隠蔽の成立が否定された事例です。

具体的には請求人が手書きの図面をデータ化し、書類のファイリング(データ化資料の印刷)の提出とデータ化した記録媒体を納品されることを約した契約により費用を支払うこととなっていた事案において、電子化が完了し、検収を行っていないにも関わらず、損金に計上したことをもって、相手方と通謀し、虚偽の申告を行ったものとした更正処分につき、その取消を求めるものである。裁決段階で、課税庁が主張する仮想隠蔽の成立が否定された珍しい事例であり、事実関係に左右されるべきものであるが、多様な納入形態、検収が予定される中で、事実上、継続的な役務提供が図られている中では、このような事案の発生は特段珍しいものではなく、本件では仮想隠蔽の成立は否定されたが、微妙なところで判断が異なる結果となっており、継続的な役務提供における留意を示しているのではないだろうか(本件では書面によるファイリング段階でほぼ検収ができているとの認識、データ化に対する認識に対する課税庁と請求人における相違が結果として仮想隠蔽の成立を、意図的ではないとして否定される事となっている)。

本件では重加算税の基本的な趣旨を及びその解釈は特段、下記のように特徴的なものではなく、従前の例と整合している。したがって、事実関係の微妙な認定によって重加算税の賦課徴収が決定されることは改めて認識されるべきであろう。データ化物品の納入でありながら、請負契約によるものであり、事実上継続的に役務提供がなされるような契約形態であることも本件の相違を生み出したものであるともいえようが、このように引渡と役務提供は必ずしも分断されるものではなく、また簡単に、契約の成立履行が明確に判断できるということは必ずしも異なるのが実際のところではないだろうか。本件は講学的にあるいは教科書的に、機械的に検収が終了しているとかの判断が行われるものではないこともまた再認識されるところであって、実務的な勘所が現れている事案であるように捉えられる事案ではないだろうか。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。


通則法第68条第1項は、上記1の(2)のとおり、通則法第65条第1項の
規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算
の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は
仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、
過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
そして、通則法第68条第1項にいう「事実を隠蔽し」とは、課税標準等又は
税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏する
ことをいい、
また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等
に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲す
ることをいうと解するのが相当である

2020年10月31日土曜日

判例裁決紹介(最判令和2年3月19日、不動産取得税非課税算定のための画地計算法における価格按分の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、最判令和2年3月19日で、不動産取得税における非課税対象を決定する際に用いた一画地の分割評価における固定資産税評価に関する判決です。

より具体的には、共有により土地を保有していた被上告人が共有物の分割により共有持分を取得したところ、通常の共有物の分割ではなく、分割前の持ち分の割合を超える部分の取得があったとして、不動産取得税の賦課決定処分をを受けたことを不服として、本件共有物の取得は形式な所有権の移転に該当するとして取消しを求め提起された事例である。共有物の持分の割合を超過しているか否かの判定において、すなわち当該土地の評価及び分割された土地の評価方法が問題とされたものであり、すなわち固定資産税評価基準に定める画地計算法に基づく評価方法と土地評価額を地積により按分される方法がこの不動産取得税の共有物分割における分割の局面において妥当であるのかという点が中心的な争点となっている。したがって、不動産取得税の事例ではあるが、固定資産税評価基準の適用、評価方法が争点となっているものである。

原審である大阪高裁では、納税者の主張を認め、共有物分割による分筆後の各土地の価格比により按分することを認めた判決を出したが、大阪府が上告し、本件の判断として、交際の判断を否定したものである。些か特殊な不動産の共有物分割のの流れの中での判断ではあるが(おそらく実務的には珍しいものではないだろうが)、判断が別れ最高裁の判示が示すように、不動産取得税における共有物の分割においては、固定資産税評価基準における評価を逸脱する、例外的な処理を行うことが妥当であるのかという点が否定的に解されたものであり、この判断のアプローチは租税法規において一定の評価を用いることが原則的な状況でありながら、それを逸脱する場合における困難な状況を示したものともいえ、当然固定資産税評価基準と財産評価基本通達の位置づけ等は異なるものであるが、特に固定資産税評価基準から外れることが如何に困難であるのかという点でも、今後の参考となるものであろう。

形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
二の三 共有物の分割による不動産の取得(当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得を除く。

以上のように本件は、上記地方税法における形式的な所有権の移転であり、不動産取得税の非課税対象となるのかという点が争点となったものであり、共有物の分割における分割前の部分を超過する部分の測定方法が問題となったものである。


土地1の価格は、一画地として認定された本件各土地全体の評点数を算出した上、これを地積比であん分する方法によって算定されているが、持分超過部分の有無を判断する場合にあっては、僅かな評価の差異によってその判断が異なることとなるから、より慎重な方法によって算定する必要がある。そして、一画地を構成する各筆の土地が所有者を異にする場合、各筆の土地はそれぞれの所有者がこれを拠出して一画地を構成しているという関係にあるから、それぞれの土地の価格の割合であん分する方がより公平に適するというべきである。また、本件においては、本件土地1と本件土地2の地積が異なる以上、その地積比で本件各土地の価格をあん分すれば、地積の大きい本件土地1について必然的に持分超過部分が生ずることは明らかであった。このような場合において、本件処分が、他の合理的な計算方法を試みることなく、漫然と地積比に従ってあん分計算をして本件土地1の価格を算定したことには、違法がある

この点については、原審は以上のよう(最判まとめ)に租税負担の公平性を基礎として、地積比による按分を否定している。慎重な方法により算定すべき(租税法規である以上当然ではあるが、共有物の評価においてより慎重さが求められるものとしているようにも読める)としてこの公平性の判断をいかなる公平に基づくものとして判断しているのか、些か不明瞭ではあるが、一画地に対する認識も最高裁と全く異なる。複数土地の拠出と捉え判断していることになろう。

これに対して最判は以下のように、

1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体を成していると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体を成している部分の宅地ごとに一画地とするものとしている。この例外は、筆界が土地の形状や利用状況等に即したものであるとは限らないことか
ら、上記の原則を貫くと、宅地の客観的な交換価値を合理的に算定することができず、分筆や合筆の仕方次第で評価額が異なることにもなって、評価の不均衡をもたらす可能性があるため、評価の均衡上必要があるときは、筆界のいかんにかかわらず、その形状、利用状況等からみて一体を成していると認められる範囲をもって、一画地として画地計算法を適用することとしたものと解される。

固定資産税評価基準における画地計算法を採用した趣旨に言及した上で上記のように、評価の不均衡を懸念したものであるとしている。この上で、下記のように、一画地として認められること(そもそも本件では一画地として認められるかどうかという点は争いとされていない、本来ならばこの点がまず問題とされるのであろうが)を前提とした上で、

隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定すべき場合とは、これらの宅地が形状、利用状況等からみて一体を成していると認められる場合であって、この場合の各筆の宅地は、一体を成している当該画地の構成要素にすぎず、個別に客観的な交換価値を算定するのに適さないものである。そうすると、隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定し、当該画地について画地計算法を適用する場合において、算出された当該画地の単位地積当たりの評点数は、当該画地全体に等しく当てはまるものと解するのが相当である。以上によれば、評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認して画地計算法を適用する場合において、各筆の宅地の評点数は、画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に、各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出されるものというべきである。

一画地を構成する各土地は、構成要素に過ぎず、個別に時価を算定するべきものではないと捉え、高裁と全く異なる土地の評価を行っている。固定資産税評価基準における伝統的な時価の評価における客観的な交換価値との対比において時価を超過しているものであるのかという点を判断の枠組みとする点を不動産取得税においても維持して、納税者の主張する(原審が認めた)各土地の価格で按分する方法は、そもそもの地方税法が想定する客観的な交換価値に該当するものではないとして捉えている。このように述べた上で、一画地とされる土地においては、各土地は一体として評価された土地の価格の地積按分であるべきとして判示している。結果として不動産取得税における評価基準の適用の局面であっても固定資産税評価基準からの例外的な処理を認めていないものと考えられる(画地計算法における地積按分を確定的に評価しているものであろう、あとはこの時価が客観的な交換価値よりも高いかどうかの問題に)。上記のように評価の不均衡を懸念する固定資産税評価基準による評価方法を是としたものであり、一律な評価の基礎とすることが客観的な交換価値における重要な要素であり、固定資産税評価基準の重要な目的であることを判断の基礎としたものであろう。租税負担の公平性を基礎とした原審と異なり、地方税法や固定資産税評価基準という基本的な評価における趣旨を重視した判断であり、固定資産税評価基準における事例ではあるが、原則的な評価方法を逸脱することの困難を租税法規において、示したものとも考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年10月24日土曜日

判例裁決紹介(令和元年6月6日裁決、売上計上漏れの告白と更正の予知)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月6日裁決で、過少申告加算税などにおける更正の予知がないことを条件とする宥恕措置が、調査段階において代表取締役が調査官に売上の漏れ【除外を】告白したことが該当しうるものであるのかという点が争点となった事例です。

具体的には法人たる請求人が自身の申告を修正する修正申告書を提出し、この経緯として売上の計上漏れがあったとして重加算税等の賦課決定処分を受けた事案において、調査の着手段階で代表取締役が調査官に対して売上の計上漏れを告白しているとして、更正の予知があったものではないとして過少申告加算税の適用等を免れるべきであるとして、不服を提起したものである。あまりこのような争点は、焦点が当てられることがないものでマイナーなものであろうが【そもそも申告を誤っていた等の状態にある場合において附帯税を付与することで公平性を担保しようとしている制度のさらなる例外であり、このような納税者は少ないだろう】、附帯税の宥恕を図るべきものとして、そして申告納税制度を基礎とする我が国の租税制度において、自発的な修正を促す趣旨として理解される制度である。現行法は下記のように、予知されていないこととあわせて事前通知の前【事前通知の前というタイミングは実際的には問題になりうるが】に制限が強化されている、附帯税の適用範囲を制限することが厳格に制度化されている現況であるが、本件な旧法の事前通知が要件とされていない段階のものである。この予知の有無に関してはこの旧法において事例が積み重ねられていたが、現行法においても同種の予知が存在しないことを養成されており、詳細な事実認定のもと、本件は参考となるべき事例だろう。

国税通則法65条
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

以上のように、本件は修正申告書の提出において、調査による更正の予知があったのか否かというものが課題となっているものである。実際の修正申告自身は調査の後に行われており、調査の着手前に売上の計上漏れがあることを調査官に告白していることが実質的に上記要件を充足するものであるのかという点が課題となっている。本件の制度趣旨が自発的な修正申告によって申告納税制度を保護しようとする趣旨にあるとするならば、この告白により、修正申告を決意したものであり実質的に要件を充足するとして、本件の告白は自発的なものであり、保護されるべきという主張が背景にあるものであろう。


過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を
課することによって、当初から適正に申告した納税者との間の客観的不公平
実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、
適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置
である。


これに対して裁決は、確かに下記のように自発的な修正申告を促すものとしているが、 上記のように過少申告加算税の基本的な趣旨を出発点にして判断の枠組みを示している。


一方、通則法第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後
修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査が
あったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの
でない」場合において、その申告に係る国税についての調査に係る通則法第
74条の9第1項第4号及び第5号に掲げる事項その他政令で定める事項の通
知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税を賦課しない旨規定
しているところ、これは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等
を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告
書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税
者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。

そして、通則法第65条第1項括弧書、同法第68条第1項括弧書及び旧通
則法第65条第5項に規定している「その申告に係る国税についての調査があ
ったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもので
ない」ときもその目的は同様と解される。

ロ 上記イの通則法及び旧通則法の各規定の文言及び趣旨からすると、修正申告
書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国
税について更正があるべきことを予知してされたものでない」ときに該当する
か否かの判断に当たっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の
認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合
考慮して判断するのが相当である。

このように、裁決は判断の枠組みを示した上で、調査と修正申告が具体的に関わるという認定【除外額の認定など】から修正申告が調査に関わりなく、予知がないものとを前提としてなされたものではないという判断を示している。私見としても附帯税が公平性を担保する趣旨にあり、例外的な本件の規定であることを鑑みるならば、決意などのような内心に関わることを基礎として時系列上、調査と修正申告書が続く形であっても更正の予知がないものとするような認定の方法は拡張的であり、本条の基本的な趣旨に反するものであると考える。単に自発的な申告を促すことのみが問題ではなく、附帯税の趣旨とのバランスから解されるべきであろう。また、法が修正申告書の提出と明記していることからも内心の表明として【決意とされているが】の告白のタイミングでの修正申告未提出にあるものを適用対象とすることは拡張的な判断で採用しがたいものではあるだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年10月20日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和元年12月5日、バックリベートの法人所得帰属認定)

 

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和元年12月5日で、架空の広告宣伝費の計上と、代表取締役が受け取ったバックリベートが法人の所得に帰属するとして、それを除外した申告における青色申告の取り消し、重加算税の賦課がなされたことを不服とする訴訟です。

具体的には、本件は、不動産業を営む原告法人が、同族関係者ではない(雇われの)代表取締役がなした他社への架空広告宣伝の発注とバックリベートの受領(学生にとってはこのような商習慣の存在自身も認識するべきだろう)を行っていたことをもってその課税関係が問題に、特に青色申告の取り消し重加算税の賦課が行われたことを代表取締役(特に雇われの)個人の行為であり、法人に帰属させるべきものではないとして、提起した事例です。架空の費用の計上も争点となっているものであるが、どちらかというと法人ではなく、代表取締役個人が受け取ったものであり、法人の収入としてカウントすることが妥当であるのか否か、法人の所得として認定されるのか否かという認定の是非が中心的な論点になっているものである。いわば実質的所得者の判断が基礎となる事例である。なお、他にも損害賠償請求権の計上タイミングも同じく争点とされている。

実務的には、このような所得帰属の認定、特に代表取締役個人と法人を同一視するような所得帰属の認定は珍しいものではないのであろうが、一般的にはおそらくこのような法人と個人の分離が認めがたいような所得帰属の判断は疑問に思われようが(いささか乱暴であるようにも印象を持つだろう)、我が国特に、中小企業においてはこのような実質的な所得者を認定することは現状に合致しているという(というか我が国の特徴とも言えるものと考えられるが)点では違和感はないのかもしれない。いずれにしてもこのような実質的な所得認定が現状においてもなされていることは、課税庁、租税専門家ともに、留意されるべきであり、参考となる事例だろう。

法人税法11条資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

「法人税法の課税標準の計算上,事業から生じた収益に係る所得が誰に帰属するかについては,実質上その収益を誰が享受するかによって判断すべきであるところ(実質所得者課税の原則。法人税法11条参照),バックリベートに係る収益が,当該事業主体である法人に帰属するか,バックリベートを現実に受領した個人に帰属するかの判断に当たっては,バックリベートが支払われることとなった経緯や目的、バックリベート支払の根拠や算出方法,バックリベートを現実に授受した者の法律上の地位・権限,バックリベートと法人の事業との関連性の程度,取引関係者の認識,バックリベートの使途等,バックリベートの授受に関する諸般の事情を総合的に考慮して,法律上,当該バックリベートを享受する権利ないし地位をいずれが有するかによって判断すべきである。」

以上のように、本件はその中心的な争点として、バックリベートが法人の所得として認定されるものであるのか、いわゆる実質的所得者課税の原則が課題になっている。あまり詳細が表に出ることのないバックリベートの存在に関して実質的所得者を認定した事例はとても珍しいものであろうが、このような状況、収入に対する実質的所得者の原則の適用が如何に行われるべきであるのか、近年は特に実質的所得者の原則に関する事例は珍しく、かかる点からも参考とすべき事例であるだろう。

特に本件では、相手側となる、取引関係者の認識、意図がどのように判断されるのかという部分が中心的な認定要因となっている。リベートである以上、致し方ないものでもあるのだろうが、相手側の意図が判断要因となりうる点は、予測可能性の観点からは、帰属判定を行う上で、納税者側にとっては困難であるようにも考えられる。

以上です。毎度如く備忘録として作成しているものですので完成度は低いですので参考までに。

2020年10月13日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和元年11月7日、従業員の横領による架空仕入の計上と重加算税)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、大阪地判令和元年11月7日で、従業員の横領に伴う架空仕入れの計上が法人の行為と同視されるものとして重加算税の対象となるのかという点が課題となった事例である。

具体的には、本件はパチンコを営む原告がなした法人税に申告において、架空仕入が計上されていたことが調査により判明し、当該仕入が従業員の横領【に伴う現金不足を賄う目的で、経理操作、会計ソフトの修正【調査により、発覚したものであるが、会計ソフトの修正履歴を追いかけて発見している。ある意味当然ものともいえるのかもしれないが、近年の修正履歴を追いかけるような調査手法は現場でも珍しくなくなっているのであろうか、個人的にはこのようなシステムの修正は仮想等に該当するのかという部分も興味深い】を行ったものであり、仮想隠蔽に該当するとして重加算税の賦課決定処分を受けたことをもって、従業員の犯罪行為によるものであるとして、重加算税の賦課決定を不服として提起された事例である。従業員の横領に伴う損失の計上時期や法人の行為として捉えられるものであるのかという点が争点となっている事例は特段珍しいものではなく、本件もその類型に属するものである。損失の求償に関しては、従業員と法人の間で民事により回復される問題であり、従業員の犯罪による損害を租税負担においても追うべきであるのかという点が、すなわち法人としても従業員の犯罪の被害者であり、法人が追加的な租税負担を受けるものとして捉えることは非合理であるとする感覚がスタートラインにあるものであろう。この点は理解できないものではないが、この考えに基づけば個人と異なり、法人において組織的な仮想隠蔽でない限り、重加算税の賦課対象とならないものともいえ、対象範囲を制限するものであり、重加算税の趣旨目的からかかる解釈は否定されている、従来の判断に整合的な事例である。基本的には、かかる従業員の行為が法人の行為として認められる得るものであるのかという点が課題となった事実認定が中心の事件ではあるが、法人の管理体制を省みる上でも参考とすべき事例だろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記国税通則法に定める重加算税の賦課において、納税者が行為の主体として行う場合に、この納税者を如何に解するべきであるのか、特に法人において、組織的な行為以外にも法人の行為として認定されうる、従業員、経営者等の行為が含まれるものであると解されるのかという点が争点になっているものである。
この点につき、本件では、下記のように、最判を引用して重加算税の趣旨目的から納税者の意義を拡張的に解釈している。かかる点は重加算税の趣旨からも合理的であろう。

通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装し,その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は,隠蔽仮装行為の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年判決参照)。

 本件のように,納税者が法人である場合,当該法人の構成要素として存在する役員及び従業員をして,法人の事業活動,経済的活動が行われると同時に申告納税義務を適正に履行することが求められているのであって,これらの者に対する不十分な指揮監督,組織管理の不備という法人の内部的事情を理由に,申告納税制度による適正な納税義務の履行を免れるとすると,重加算税制度の趣旨及び目的が没却されることになりかねない。

 そうすると,納税者である法人において,その従業員が隠蔽仮装行為をし,その隠蔽仮装行為をしたところに基づき過少申告がされた場合であっても,当該法人において,従業員による隠蔽仮装行為を認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,当該法人においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,当該法人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。


しかしながらより具体的には法人の構成員たる従業員等に対して、職務権限や行為の態様が法人の行為として認定されうるものであるのかという点から判断される従来ものと異なり、不十分な指揮管理、組織の管理の不備から、従業員の不正行為を容易に認識、是正される事が可能であったそれを怠ったことに、法人としての行為に該当するものとして判断している点は本件の特徴的なものである。従来判例で問題となることが多い、代表取締役や役員等の対象ではなく、従業員であることがこのような内部管理上の不備を納税者の行為として認定しうるものと判断しているものである。我が国の中小企業の実情から内部管理の状況を反映させた判断を行うことは、事実上法人の責任を強化するものではないかとも考えられるが、職務権限等の具体的な行為を問題とせず、間接的な内部管理上の不備が法人の責任として、相当な注意を払っていないとして、法人の行為と同視されるものであるのかという点は些か拡張的な判断ではないだろうか。重加算税が行為をその判断の基礎においている以上、重加算税の直接的な対象となる仮想隠蔽の行為を対象とするものではなく【会計システムの修正】ではなく、法人の管理上の不備を基礎として法人の行為と同視するものとして判断が導かれているが、かかる点は納税者の行為として重加算税の対象とすることは困難ではないだろうか。ちなみに、税理士には依頼していることは、内部管理上の整備としては全く考慮されていない。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2020年10月3日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年10月24日、未使用ポイントと権利確定)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月24日で、企業が経理したポイントの未使用部分に関する債務確定が否定された事例です。

具体的には、キャラクター商品などを取り扱う原告法人がその確定申告において計上したポイント付与学の未使用部分に関して引当経理を行っていたところ、この部分に関して法人税法上、認容されるものであるのかという点が争われた事例である。顧客が購入した際に付与するポイントについての事業年度末における未使用部分に対して当該未使用部分に関しては未だ債務が確定していないものして課税庁が否定した点が争点となっているものであり、商品券に関する通達の類推適用等を求めて提起された事例である。

当時は会計処理方法、基準もポイントについては、特に定められているものではなく、法人税法、租税法規においてもその取扱は確定していない段階(いわば公正処理基準がそもそも存在しない段階、よく公正処理基準に該当するのか否かという点が問題になるが、このような新しい類型に関してはそもそも存在しないことが問題であり、これを如何にして租税法規において取り扱うべきであるのかという点が課題となるだろうが、本件はそのような意味においても参考となろう)にあったときの事例であり、本件判示以降通達においてもポイントに関してはその債務確定に関する一定の判断基準が示されている段階にある。本件はそのような段階における判断であり、債務確定という点、法人税法における債務確定を如何に解釈するのかという点で判断が導かれており、法人税法における損金計上のタイミングを検討する上で参考となる事例であろう。また近年はポイントプログラム自体がすっかり定着し、単独企業の提供するものから複数社で共同するものなど、その運営方法、利用方法が多様化している。最近は企業のみならず政府が発行主体になるなどの状況も登場しており、非常に重要な社会システムとして機能し始めている。このようなポイントを捉える上でも本件は有益な事例ではないだろうか(ポイントの性格を値引きに活用される限定的な存在として捉えているところは、今後の対象としてはより変更の余地はあるものであろうが所得税法における取り扱いを考える上でも参考となろう)。

同項2号に定める販管費等について
は、1号に定める原価とは異なり、償却費以外の費用で当該事業年度終了の
日までに債務の確定しないものは損金の額に算入することができないものと
されており(債務確定要件。2号括弧書き)、その趣旨は、未発生の販管費
等に係る引当金については、発生の見込みや金額の算定について法人の恣意
が入りやすいため、当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り
損金算入を認めることとして、課税計算の適正を図ろうとするものと解され
る。
すなわち、原価については、特定の収益を生み出すために直接必要であっ
た費用であり、個別的かつ客観的に収益と対応するものといえることから、
当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していない場合であ
っても、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実さをもって見込ま
れており、かつ、その金額を適正に見積もることが可能であれば、損金の額
に算入し得るものである〔最高裁判所平成12年(あ)第1714号同16
年10月29日第二小法廷判決・刑集58巻7号697頁参照〕のに対し、
販管費等については、特定の収益と個別的かつ客観的に対応させることが困
難であり、将来発生する費用の発生の可能性の評価や費用となる金額の算定
に当たって、法人の恣意性が入り込みやすいことから、企業会計上は引当金
を計上するとともに費用処理する処理が一般に公正妥当なものといえる場合
であっても、法人の所得の金額の計算上は、当該事業年度終了の日までに債
務が確定したものに限り損金算入を認めることとして、損金の額に算入され
る販管費等の額につき法人の恣意が入り込む余地を排除し、もって課税計算
の適正を確保しようとするのが、債務確定要件の趣旨であるというべきであ
る。
 
以上のように、本件では法人税法22条3項の損金計上に関して、

3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

債務確定の意義について法人の恣意が入り込む余地を排除することをもって適正な法人所得の計算を図ることを目的としていると解している。かかる点を受けて債務確定の意義を反映させた形で現行通達における債務確定の判断の枠組みを肯定している。その上で、単なる蓋然性があることのみでは足りず、費用の発生を基礎づける具体的原因事実の発生までを要求するものとして債務確定の要件を解釈している。具体的原因事実を如何に捉えるべきであるのかという点は必ずしも定かではないが、将来費用発生の可能性が高いことのみをもって計上することは許されないとして、原価と販管費等を区分している点を基礎に判断している点は特徴として理解されよう。
このように法人税法が損金において、原価と販管費等を区分してこの対応を変化させていることも考慮して本件は判断している。明確に区分して販管費等の特性を含んだ形で解釈を行っていることは注目されよう。この場合は原価と販管費等を如何にして峻別するのかという基準は法人税法においてどのように捉えるのかという課題は発生するものであろう。

債務確定通達(基本通達2-2-12)は、債務確定要件の判定
基準として、当該事業年度終了の日までに、当該費用に係る債務が成立して
いること(債務確定基準①)、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原
因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定基準②)及
びその金額を合理的に算定することができること(債務確定基準③)を定め
る〔関係法令等(3)〕ところ、その内容は、企業会計上、すべての費用及
び収益はその発生した期間に割り当てるように処理しなければならないもの
とする発生主義の考え方に整合するとともに、その発生の可能性の評価等に
関する法人の恣意を排除するという債務確定要件の上記趣旨にも沿うものと
いえる。そして、上記のとおり法人税法が引当金の損金算入を限定している
ことや、上記の債務確定要件の趣旨に照らせば、債務確定基準②の具体的原
因事実が発生したというためには、企業会計上引当金として計上できる程度
に将来費用が発生する可能性が高いとされるだけでは足りず、当期において
費用の発生を基礎付ける具体的原因事実の発生が認められなければならない
ものと解する
のが相当である。

債務確定主義の意義を恣意的な計算の排除に求めることは、現行法の理解として従来と整合的なものであるが、第三者との取引である場合などもあり、恣意の抑制と費用発生を明示的に結びつけることに限定されるものとして捉えることは必ずしも言い難いものであるのかもしれない。本件は引当処理を行っている将来の費用計上の議論であり、割り引いて捉えるべきであろう。いずれにしても法人税法上の費用計上においては、単に費用収益の対応(そもそもこの対応という概念が法的な概念ではなく如何に捉えるべきであるのかという点は具体的な事実関係においても問題を発生させることになるものでもあるが)や公正処理基準にのみ依拠しているものではなく、法人税法特有の基準要件として債務の確定を要請し、制約をおいていることは留意されるべきであろう。

また、本件では当該ポイントを将来の値引きに関わるものとして捉えている。現状多くのポイント制度はこのように捉えられているものであるが、顧客の確保をポイントは法人の戦略上確保されるものでもあり、近年はポイント制度も多様化が進んでいる。本件でも企業内通貨であるとしての主張も展開されたように通貨としての機能(この点は暗号資産の議論とも関わってくるのであろうが)、複数の関係者が関わる形で提供されるようになってきている現況においては捉えることも可能となってきている。例えば本件は換金性を否定したポイントであるが、換金性を一部でも認められるような状況にあればどのように理解されるだろうか(金商法等の関係で難しいかもしれないが)。ポイントプログラム自体が家電量販店の販促ツールから多様化しつつあることも鑑みるならば、一律に捉えることも困難であり、さらに法的な評価も含んで今後も議論されるべきだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年9月23日水曜日

判例裁決紹介(東京高判令和2年1月29日、個人所有の不動産貸付収益の同族会社への帰属)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年1月29日で、個人所有の不動産の貸付による収益を同族会社である法人の収益として帰属し得るか否かという点が争いになっているものです。

具体的には、法人の代表取締役が保有する不動産を、貸出、収入を得ていた場合において、当該収入が法人の収入として帰属することになるのかという点が争点になったものであり、かかる収入の除外により合計で5億を超える法人税を免れていた事例である。不動産賃貸における名義は法人名義であり、法人税申告に含まれていないという点で問題になっているが、控訴審では、代表取締役個人の所得税【こちらも未申告】の観点から実質所得者課税の原則から検討されていないなどの点から控訴を行っているものである。判示は、地裁同様、一種のサブリース契約であり、法人所得に該当するとして判断している事例であり、納税者の主張を排斥している。

経営と所有が一体化した法人の存在は、我が国の法人課税において特徴となっていることは、言うまでもないことであろうが、本件もこのような同族会社と個人が保有する資産と係る資産の運用による収益の帰属が問題となっている事例である。 本件の申告法人には,自己名義の預金口座もなく,従業員もいない上,外部業者への支払,賃貸業務に関する意思決定など本件不動産の賃貸事業の運営は,被告人の意思のみによってなされており,賃料の振込先口座や経費の支払に使用されている預金口座は,被告人が管理支配しているh株式会社名義の口座であることなどからすると,実質的には被告人個人によって本件不動産の賃貸事業が営まれていたものという主張がなされているものでもあるが、 金額としては20億円以上の所得の問題であり、規模は比較的大きいものであるものの、根本においては我が国おいて特徴的な同族会社の法人所得の認定が課題となった事例である。そもそもとして、このような法形式としての法人の活用【最近は同族会社への支出が必要経費として否認されるようなケースもでているが】が、租税法規として活用することが妥当であるのか、濫用というべき、租税回避【法人格否認の法理も含め】として評価されうるものであるのかという点が従前課題となっているが、本件もこのような法人の活用【本来ならば事業主と資産の所有者は名義においても異なるものではないのであろう】が行われていることが如何に租税法規の適用において課題となるのかという点が起点となっているものである。本件の主張でもあるが、リスクを分散し、法人と個人を分離して種々のリスクへの対応を図ることが意図されているとの認定が行われているものも含まれているが、そもそも我が国の法人、特に中小零細の法人において、このようなリスク分散の意思が真に込められているものであるのかという点は真剣に議論されるべきではないだろうか【生産性などの点から最近中小法人への擁護という一面的な流れが少し変化しつつあるように思うところ】。中小法人の扱いは近年議論対象となっているが、立法、政策において、このような法人格の活用を今後租税法規として如何に捉えていくべきかという点は、中小法人への見方の潮流とともに、今後の我が国の法人課税においてさらに議論となるべきであるのかもしれない(個人と法人が実質的に峻別できない状況は本来ならば課税においても同列に扱うべきであり、法形式において分断することの意義は検討されるべきであろう、今後の働き方の変容なども考慮することも必要であろう、一人親方のような存在はおそらくこれからより増えるであろうし】。本件もこのような法人格の活用の中での典型的な事例であるように捉えられるが、基本的には事実認定が中心となる判決であり、収益の帰属、不動産所有と収益の帰属が分断されている帰属判定を検討する、トレーニングの際に参考となる事例であろう。

「本件で認められる事実関係に照らせば,本件不動産の賃貸事業は,申告法人の計算と危険において行うという被告人の意図に基づき実際に行われていたと認められるのであり,原判決も,これと同旨の判断をしていることは明らかである。」
「所有権の帰属は,事業取引の主体を判断するに当たり,一定の推認力を有する重要な間接事実ではあるものの,それのみで収益の帰属を決定する事情とはいえない。」

具体的な認定では、上記のように、不動産登記の情報【所有権】は、重要視されず【当然ともいえようが、賃借関係の対抗要件であり、収益の帰属の判断では重要な情報ではないというのが租税法規の基本的な姿勢・・・実質的だろう】、過去の申告における取り扱い【法人の所得として申告】、危険負担【個人による無限責任を排除している】が重要な要因となって法人への帰属が認められている。一部当該法人が実体が怪しいものであるとの評価も判示ではなされているが、個人から法人へ一括賃借、そしてさらに賃借が行われている、一種のサブリースとの認定が行われている。民事法の一般的な契約の評価であるようにも捉えられるが、法人での申告状況や、状況の継続性を加味している点が法人税における評価としても重要な要因となっている点は留意されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年9月15日火曜日

平成31年2月3日裁決、違法な貸金業を営む実質的経営主体と所得課税)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年2月13日裁決で、違法な貸金業を営む実質的な経営者が誰であるのかという点が課題となった事例です。

本件は具体的には、無登録で貸金業を営む(この時点でダークな、形態であることは明らかですが、銀行口座を売買して、本人名義とは異なる形で返済口座を準備するなどまず一般にお目にかかる事業主ではない人です)請求人が、このような未登録として違法な事業を行ったところ、かかる所得は実質的に請求人が行ったものであるとして所得の帰属を課税庁が行い決定処分を行ったことから、貸金業の重要な資産となる元金(たまり資金)を請求人は保有しておらず、本当の実質的経営者が別におり、かかる者が所得者として認定されるべきであるとして、不服を申し立てた事例である。実質的な所得者の認定は、所得税法における重要な原則として下記のように明記されているものであるが、古くからその帰属者を以下にして認定するべきであるのかという点は、争点とされてきた。近年のように、従前であれば個人の趣味や事業的な規模に至るようなものではないような活動であったものの環境が変わったような社会的環境においては、更にネットを活用した事業のように自動化された環境で収益が獲得されるような場合においては、如何なる形で所得の帰属者が判定されるべきであるのかという点は課題となっているものであり、古くて新しい課題であろう。本件は、違法な、実質的には犯罪収益に属するような事業形態における所得の帰属者の認定が課題になったものであり、いささか特殊な事例ともいえようが、そして事実認定を基礎とした課題であると評価されようが、所得税がその基礎として、非常に広範囲の対象を課税対象としていることも含め、実際の所得課税の現場を垣間見る上でも参考となる事例であろう(民間の租税実務家でこの種の事例になれている人はいないとは思うが)。



所得税法
実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように、本件は違法な事業による所得の帰属者を中心的な争点としている。本来ならば、所得の実質的な帰属者の判定において、上記所得税法12条の実質的な所得者が如何なるものであるのかという部分を基礎として判断を行う。しかしながら本件は、下記のように事業所得の意義から、事業帰属者は、その経営主体という実体という点から判断を行っている。事実認定として帰属者を判断するものという点から考えれば、このような事実関係の評価を基礎とした判断を行うものであるのかもしれないが、経営主体としての実体を最終的に社会通念に従うことで、判断を行うこととしている。このように考えれば、そもそも違法な、未登録の貸金業が事業としての実体を有するものとして評価される事自体が困難であるのではないだろうか。この枠組において、事業としての自己の計算等をもって所得の帰属者を判断する論理展開は矛盾をきたしているようにも捉えられる。

事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断するのが相当である。

法的な根拠を必要とする租税法規の基本的な立場からは、12条は収益の帰属者を享受する者に求めており、事業の主体である、経営主体であることを要求しているものではない。この点で、本件はいかなる理由からこの判断枠組みを採用したものであるのか定かではないが、経営主体イコール収益の帰属者であるという前提をおいているものであるのではないだろうか(現実的には、ここはイコールであることがほとんどであろうから実体的には問題にならないのであるかもしれない)。そもそも経営主体という概念自体が曖昧なものであり、その実体を如何に把握するものであるのかという部分は安定を書くものではないだろうか。

おそらく、本件で請求人の主張にあるように、本来の経営者は別におり、所得や収益の帰属、実体としての存在が確認し難いものであることから、事業主体を認定し、所得の帰属者という判断を行っているものであるのであろうが(この存在に関する請求人の主張の判断は退けている)、立証という点において、別件訴訟における記録に依拠するのみで、簡易な方法にとどめているものであり、法的な根拠という点では結果的に劣位なものとなっているものとも考えられる。

本件のような法的に違法性を帯びているような取引に関する所得は名義を重要視しないことは当然とも言えようが(口座名義に代表されるように)、本件の事実認定としては売上(収支)の管理以外にも、要員の採用や指揮命令等も重要な判断要素としている。この点は事業主体を判断するとした点からは、整合的でもある。しかしながら、事業の結果である収益の帰属にこだわらず、事業の形態に着目し、収益の帰属というスポットな時点での判断から拡張的に、比較的時間的にも幅のある状況を前提として判断をしていることを鑑みるならば、請求人の主張のように、事業において重要な資産(この場合はたまり資金、元金であるが)を如何にして管理しているのかという部分は、重要な判断要素となるべきであり、この点を特段の理由なく、排斥している点は矛盾を抱えているようにも評価される。

以上のように、本件では経営主体の判断を行う上では、事業の開始、スタート段階を考慮しており、比較的、判断のタイミングを幅広くとっている。この点は本件の特徴的な部分ではあり(一部資産の状況などを排斥している点も見られるが)、経営主体の認定と所得の帰属者をリンクさせている点は、留意しておくべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


2020年9月1日火曜日

相続財産としての同族会社への貸付金の評価

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年10月25日裁決で、相続財産における同族会社への貸付金の評価が課題となった事例です。

具体的には相続人たる請求人が相続による取得した同族会社への貸付金(6850万)を当該相続税申告において、元本金額で評価して申告し、更正の請求において当該貸付金の評価は過大であるとして(回収不能の金額がある、相続時点では債務超過、ただし、同族会社の借入金は、この借入のみであった、事業は継続しているものの停滞しており、請求人の後継者も存在していない)、主張したところ、更正すべき理由はないという通知処分があったことから、係る評価を不服として提起されたものである。

本件の主たる争点は、貸付金という債権の財産評価額であり、相続税申告においては、主要な論点である。おそらく、相続対策でも貸付金の評価は、あまり考えずに額面が基本となっているものと思われるが、本件は、同族会社、あるいは債務超過の状態にあることを基礎として、その評価額を争った事例として、相続税の基礎たる財産評価においても、特徴的な事例である。法人課税等の文脈においても貸付金等の貸し倒れ、評価減(部分貸し倒れは否定されるが)が本件も同類型の債権の評価、特に同族会社における評価としては類似の事例であり、かかる点からも参考となるものであろう。

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

以上のように本件は、上記相続税法の基本中の基本たる評価の原則として定めのある、時価というものが如何なるものであるのか、という点を中心的な争点としている。
判断では、この点につき、下記のように、

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財
産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは
相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
しかし、相続財産は多種多様であるから、その客観的交換価値は必ずしも一
義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとしたときには、
その評価方法等により異なる評価額が生じて納税者間の公平を害する結果とな
ったり、課税庁の事務負担が過重となって大量に発生する課税事務の適正迅速
な処理が困難となったりするおそれがある。

財産評価基本通達の位置づけを前提として、すなわち、通常の通達とは異なり、財産評価基本通達における評価が事実上の時価としての推定を受けるような状況にあることを基礎として判断を行っている。この点は実務家においても異論のないことであろうが(裁決でもあるし)、通達による一律の評価が法令解釈として合理性を有しているものとしている。

その上で、本件の事実関係から、評価通達205におけるその他回収が不可能等であると見込まれるものであるのかという点が事実認定として争われていることになる。

(貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)

イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき

ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき

ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき

ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき

ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき

ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額

イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額

ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額


以上のような条件には本件の状況は該当しないが、債務超過の状態にあること、そして事業の継続性が疑義がある(後継者がいない)という点が評価額の減少に繋がりうるのかという点が具体的に見解が別れているものであろう。一見すると債務超過は回収可能性に影響があることは否定しがたいものであるが、必ずしも決定的な要因としては判断されていない点は本件では重要であろう。同族会社であることが影響しているものであるが、単に債務超過にあることを強調するのではなく、他からの債務がなく、債権回収による事業の継続が危ぶまれるものではないという点に力点が置かれているものと捉えられる。いわば債権評価における回収可能性を、資産の状況に限定することなく、経営、事業継続という点も加味して多面的に判断を行っていることは判断枠組みとして重要となるのではないだろうか。

また、経営状況に関しても、本件では、請求人の後継者がいないなど、事業の継続性危ぶまれる状況が請求人の主張の基礎となっている。結果論として判断でも実際には、事業が少なくとも継続していたことを加味して、かかる主張を排斥しているようにも評価される。相続税がその取得の時を一定時点として判断する構造をとっている以上、将来時点の状況、後発的な状況をを加味することは、相続税法における判断として困難な点である。債務等でも取り扱われる課題ではあるが、相続時点での将来の状況は客観的な交換価値という点からも、特に本件のような交換価値を減少させることが客観的に担保されるものであるのかという点からも評価される事になり、後継者や事業の状態などは、判断要因としては劣位として理解せざるを得ないことを認識されるべきであろう(立法論としての救済の余地は議論されるだろうが)。近年は、事業の継続、法人の継続は必ずしも担保されるものではないのが現状であり、後継者不足の状況は特段珍しいものではないが、相続税評価においては、本件のように、将来情報として考慮要因としては限定的に評価されるものと考えられる。

いずれにしても、貸付金の評価は相続税法においては、評価減を図ることは限定的、ハードルが高いものと言うことは改めて認識されるべきだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2020年8月22日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年1月30日、固定資産税評価における国家賠償)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年1月30日で、固定資産税の過大徴収による、国家賠償請求(対象は東京都ですが)が認められ過去20年に遡求して返金(約1400万)が認められた事例です。

具体的には一般財団法人(地図データの管理を行う・・・このような業務を行っているところが一つ本件の起点ともなっています)が原告としてその保有する土地に対して過去(平成初頭から)付与された固定資産税評価が過大であり、より正確には、土地に対する評価の付与において、本来3方を路面に面しているものである土地が4方を路面しているとして評価され、20年超の期間に渡って、過大な固定資産税の賦課が行われていたことにつき、国家賠償請求を行った事例である。この評価の誤り(あえて誤りと表現されるべきものであり、すでに評価委員会への不服審査の段階で、過去5年分については修正が行われている)に関しては実質的な争いはなく、評価の修正がすでに行われているものであるが、本件の中心的な争点としてはこの評価の誤りが国賠法における賠償請求の対象たりうるものであるのか、すなわち公務員の職務における賠償に関しては下記のように、最判が限定している注意義務違反を認めうるものであるのかという点が争点とされた事実認定が中心的な争点になっているものである。

職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断をしたと認め得るような事情のある限り,国賠法1条1項にいう違法があったものとの評価を受けると解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号,同第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照

上記のように、結果として本件は、課税庁としての地方自治体の責任を認め、

本件南側区有地は平坦な地面であって,本件南側国有地に沿接する側には木が植えられており,明らかに本件南側国有地とは異なる形状,利用形態となっていた。そのため,現地で公図等の図面資料も参照しながら確認しさえすれば,このことは一目で明らかになるものとさえいえる。


として認定し、

被告担当職員が,本件土地の南側が玉川通りに沿接するとして本件土地を評価し,賦課処分を行う際に,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断したといわざるを得ない。


という形で厳しく処分庁の責任(注意義務違反)を追求し(ほぼ現場確認していれば判別がつくものという評価)、もって、20年分の返金(損害賠償請求の最大)が結論とされている。つい最近までは、課税処分を行う上で、課税庁の誤りが認められることは極稀であり、主に本件のような固定資産税の評価基準が遡上に上がる程度であったのあるが、近年はその状況も変わりつつある(判例において20年の起算点を変更することも行われつつある)。本件もそのような類型に属するものであり、地方税の現場においては留意されるべきものであろう。国税の場合は、あまりこの責任が認められることは未だ珍しいものであるが、地方税においては基本的に賦課課税であり、租税専門家であっても漫然として書類による課税を受けている現状は今後はより変化しているものであろう。実際、大阪や東京では税理士や弁護士が主導して固定資産税の再評価を促しているケースが増加しているようである。


実際のところ、固定資産税評価は、昔の(私も生まれていませんが)各団体によって基準が異なるようなものであった現状から、固定資産税評価基準を整理し、全国一律に評価を実施することを担保していこう、そしてそれが法が予定する時価として適合的であるという判例がほぼ確立しているものであるが、かえって基準が柔軟性を失い、そもそも土地や家屋のような不動産という価格が複数あり得るような存在に対して客観性を付与した評価額をつけることが困難であることも相まって、基準の複雑さが増していることが問題の背景にあるものであろう。近年は更に、固定資産税にまで特例が増加してきており、システムや現況確認が遅滞している(改正も議論されており時間の問題とも言われているが、おそらく専門的な知見の蓄積や教育、マンパワーの不足は深刻だろう)物と考えられる。不動産をはじめとして財の保有という思考もシェアリングの進展とともに変化しつつあり、基幹税であるが、固定資産税も、保有のみに租税負担の根拠を求め利益の多寡に関わりなく負担を必要とされる租税として今後より、納税者からの追求は行われていくことになるものと考えられれよう(ちなみに私もこないだ固定資産税評価の練習してみましたが、基準の適用に関しては訴訟的には事実認定においてもかなり争う余地があるように思います)。

本件では原告が地図の関連業者であり、しかるに、かかる過大徴収を発見したものであるが、一般的な納税者においてもこれは気づくだろうか。実現性を無視すれば本来賦課課税である以上、申告納税方式を基礎とする国税よりもより処分理由、評価の理由説明を定め侵害規範としての性格へ担保すべきとも考えられるが執行においてとても実現性があるようには思われない(AIなどが解決するのかもしれないが)。地価の縦覧制度があることでそれを確認しなかったことを過失であるとして、相殺を求める主張は退けられており、賦課課税方式であることが注意義務違反の認定においても影響を及ぼしているものであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年8月19日水曜日

判例裁決紹介(津地判平成30年3月15日、市街化調整区域に対する太陽光パネル設置に伴う固定資産税評価額の変更)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、津地判平成30年3月15日で、建物建設等が制限された市街化調整区域の山林に対して太陽光パネルの設置を行ったことにつき、新たに付与した固定資産税評価額(高額となる)を不服として提起された事例です。

具体的には原告が保有する土地(一面が傾斜地、市街化調整区域であって、建物等の建設、新設が制限されている、土地の取得価額は500万円、評価額は280万円)に対して、固定資産税評価額として、大部分が山林として評価が行われていたものに対して、太陽光パネルの設置が行われたことにより(実際に利用もなされている)、改めて付した評価額(雑種地としての評価、1400万円超)に基づく固定資産税が過大であるとして、提起された事例である。判示としては、原告の主張を認めず、適正な評価であるとして原告の主張(市街化調整区域としての反映、造成費等の反映等)は排斥されている。

取得価額を大幅に超える金額、あるいは従前との評価額においても大幅な乖離があるものであり、本件はその金額が高すぎるとの納税者の意思が起点となっているものである。納税者の感覚は理解できないものではないが・・・。本件は、近年増加している固定資産税評価額の適正性が争われたものであるが、太陽光パネルの設置を契機としたものであり、従前の土地活用においては存在しなかった大幅な収益を生み出しうる存在が出てきていることが本件も含め、太陽光パネルの設置に伴う租税関係紛争の増加に現れているものである。本件のような傾斜地で、山林のしかも市街化調整区域(私も開発審査会で関わりもありますが、また租税法規からも離れる問題ですが、そもそも市街化調整区域にあって市街化の抑制を図る制度趣旨から、家屋等の新設が事実上規制されている土地において、太陽光パネルのような構築物といえど設置が認められるという現状は趣旨に反するような気もします、現状の太陽光パネル位置づけなどから特に発電用途に利用される以上、駐車などのような構築物として位置づけるべきかは疑問です、郊外地の利用促進など土地の利用形態や周辺環境が変わっている現況化において、だいぶ昔に設定したゾーニングで市街化調整区域であるとした認定そのものが現況と不整合になっているのかもしれません)であるようなところには従前、家などを建築することが出来ないという性格からほとんど評価がなされない状況にあったものが、この設備が一般化したことにより、利用価値が出てきていることが注目されるものであろう(そのような意味で代表的な社会状況の変化になっているように思う)。この利用価値の新たな発生が租税法規においてどのように取り扱いをされるべきであるのかという部分が本件の問題の起点となっているものである。

(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準)
第三百四十九条 基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。
2 基準年度の土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。ただし、基準年度の土地又は家屋について第二年度の固定資産税の賦課期日において次の各号に掲げる事情があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることが不適当であるか又は当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡を失すると市町村長が認める場合においては、当該土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。
一 地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情
二 市町村の廃置分合又は境界変更

以上のように、本件では平成27年の基準年度に付した評価額から利用用途が異なることを認定し(この利用用途の人体は近年ドローンなどで確認しているところもあるよう)、平成28年度になって改めて評価額の変更を行っているものである。本件の原告主張は、主に固定資産税評価における評価基準の適用にあたって、上記のように造成費用や市街化調整区域の反映がなされているのかという部分が中心的な争点となっている。しかしながらこの点は、固定資産税評価額の認定上、固定資産税評価基準の適用によるものであり、下記のように本件でも時価の判断においてその基準による評価が合理性を推定されているものであり、評価基準を逸脱した評価を行うことができる場合はかなり限定的な場合とされている。かかるような評価基準において二重の合理性(客観的な交換価値という部分と評価基準の関係)が法令解釈上適合的であるとの判断を前提とする以上、市街化調整区域としての特殊性を訴えても一定の配慮(評価においては50%の評価減を行っている)以上、その合理性をということは困難であろう。なお、造成費に関しては実際に土地の利用において必要とされていない以上、後出しじゃんけん的であるともいえるが、その考慮を否定した判断がなされている。


地方税法341条5号の「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解され,固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客槻的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

 そして,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,〔1〕当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか,あるいは,〔2〕これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回るときであると解される(最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。


事実上、本件の争いとしては、原告の主張にも織り込まれていないが、基準年度の評価が離れて新たな評価額を付した段階が適正か否かという段階で問題の中心がほぼ解消されている。山林から雑種地へその地目が変更され、その評価額の認定が異なるものとして受け入れている段階(この点についてはほぼ争いがない)で、上記のような枠組みでは具体的な固定資産税評価の争いは、認定に過誤がない限りは、納税者の主張が認められることは期待できないだろう(大幅な評価額のアップは適正な負担であるのか、取得価額を大幅に超過することへの不服はあり得ようが)。


私見としては本件は現行の枠組みでは、上記のような判断となることは異論がないものといえよう。制度的な課題としてこのような大幅な負担の変更を許容するのか(過酷ではないか)あるいは、土地の利用拡大を図る上での成約となるとの主張もあり得ようが、いずれも立法に属する問題であり、太陽光パネルの登場という点で一部の特殊事例と捉えるべきか、あるいは社会情勢の変化に伴う具体的な現れであり、本件のような負担の大幅の変更を如何に捉えるべきか等を制度的に検討すべきであるのかより検討すべき段階にあるのかもしれない。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。




2020年8月13日木曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月17日、特定生産性向上設備の導入と事業の用に供しているか否か)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年1月17日で、中小企業における特定生産性向上設備の導入とその償却費が計上できるか否か、すなわち実際に事業のように供しているのか否かという部分が争われた事例です。

具体的には、本件の原告たる法人(運輸プラス太陽光発電事業、法人の事業年度は3/31が事業年度末)が、太陽光発電事業のため取得した発電設備及び発電設備を保護するフェンス等(法的設置義務のある)を事業年度末の近い3/28に取得し、租税特別措置法に定める中小企業者等の特定生産性向上設備の取得に伴う特別償却の適用した損金の計上を行った確定申告を行ったところ、課税庁より当該設備は、特に発電設備は送電を行う東京電力に接続する契約の申込みを行った段階であり、設備は存在するものの実際に発電を行い送電を行うことができるような状況にはなかったとして事業の用に供されていないと判断し、更正処分を行ったことを不服としてその取消を求めた事例である。
対象となる資産が事業のように供されているのか、如何なる段階にあるものと事業の用に供しているのかという判断を行うべきであるのか、そのタイミングを具体的にどのように判断するべきであるのかという点が中心的な争点になっているものである。以前、本件に関する裁決例を取り上げているが、当該裁決では太陽光設備本体は事業の用に供されていないという判断であり、フェンス等は機能しているとして一部納税者の主張を認めているものであるが、本件もその判断が維持されているものと考えられる。各種事業や設備を機能させる段階においては、当然幅があるものであり(テキストと異なり、いつ始まっているのかというのはそんな簡単に判別できるものではないことが実務における留意だろう)、このタイミングを具体的に判断する枠組みに関しては従前課題とされているものであるが、本件は比較的単純な太陽光発電の開始という点が争われたものであるが、本件の判断の枠組みは法人税法において如何なるタイミングをもって事業の用に供されているものと判断するべきものであるのかという点を考える上で興味深い事例であろう(特定生産性向上設備の特別償却に限らず)。基本的には、事業のように供しているのかという事実関係の問題とも言えようが、法人税法における事業とは、そして供しているとはどのように理解されるべきものであるのかという部分が起点となっているものであろう。事業はスポットで行われるものではなく、活動している、流動している概念であり、準備段階の存在や実際の活動においても様々なフェーズが考えられる。特に資産の活用において準備段階にある場合がどのように、事業に活用されるている段階にあるのかという点(おそらく複数の資産の結合による場合や、物理的な拠点を有しない資産などではより困難であろうが)、以下に判断されるのかという点は、今後も検討すべきかであろう。


租税特別措置法(現行法、対象は旧法)
第四十二条の十二の四 中小企業者等(第四十二条の六第一項に規定する中小企業者等又は前条第一項に規定する政令で定める法人で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法第十三条第一項の認定(以下この項において「認定」という。)を受けた同法第二条第二項に規定する中小企業者等に該当するものをいう。以下この条において同じ。)が、平成二十九年四月一日から平成三十一年三月三十一日までの期間(次項において「指定期間」という。)内に、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物附属設備並びに政令で定めるソフトウエアで、同法第十三条第四項に規定する経営力向上設備等(経営の向上に著しく資するものとして財務省令で定めるもので、その中小企業者等のその認定に係る同条第一項に規定する経営力向上計画(同法第十四条第一項の規定による変更の認定があつたときは、その変更後のもの)に記載されたものに限る。)に該当するもののうち政令で定める規模のもの(以下この条において「特定経営力向上設備等」という。)でその製作若しくは建設の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定経営力向上設備等を製作し、若しくは建設して、これを国内にある当該中小企業者等の営む事業の用(第四十二条の六第一項に規定する指定事業の用又は前条第一項に規定する指定事業の用に限る。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。次項及び第九項において「供用年度」という。)の当該特定経営力向上設備等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定経営力向上設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定経営力向上設備等の取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額をいう。)との合計額とする。


減価償却資産は,法人の事業に供され,その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるから(最高裁平成20年9月16日第三小法廷判決・民集62巻8号2089頁),ある資産を「事業の用に供した」か否かは,個別具体的な事実関係を前提として,当該資産をその用途に応じた本来の機能を発揮するために使用を開始したと認められるか否かにより,認定及び判断すべきものと解するのが相当である。


本件判示では、上記のように、最判を引用して、事業の用に供することを用途に応じた本来の機能という点をメルクマールとして解している。この本来の機能をいかに判断するのかという点がいささか抽象的なものであり、そもそも法人の事業をどのように捉えるのかという部分も関連して幅があるものとして考えられよう。本来の機能という点は法人が行う行為事業が非常に多様であることを鑑みても、これをいかにして判断すべきであるのかという点が課題となろう。

件発電システム本体を「事業の用に供した」ということができるのは,本件発電システム本体により発電した電力を本件電気事業者に対して売電することができることが物理的に可能となったときであるというべきである。


上記のように、本件では明確に物理的に可能となったという点をもとに、本来の機能を発揮したとして実際の稼働を、そして収益獲得までの貢献をベースに判断しており、客観的な部分を基礎においている、実際の収益獲得の行為そのものを要求しているものではなく、収益獲得の貢献の有無が課題とされているものであろう。そもそもこの種の固定資産、減価償却資産は収益との直接の関係性は期待できるものではなく、間接的な部分にとどまるものであるから、実際に収益獲得を求めているものではないことは理解されようが、この判断を経営者、法人の事業目的のベースで判断しているわけではないことも留意されよう。資産の利用は法人の意思に左右されるものであるが、目的ベースで判断することは主観的な判断を行うことになり、法的安定性を損なうものと言えよう。本件判断では物理的に資産が利用可能な状態にあることが重要な判断の起点となるべきと理解するべきであろう。もちろん近年は、物理的な実態を有した資産に限らず、活用されることがほとんどであり(このような資産類型の判断の枠組みが更に問題になるだろうが)事業の用に供していることはこのような物理的な存在に依拠した判断以外の基準も更に検討されるべきものであろう。

このように考えると判示でも、納税者の主張においても行われているが、外形が完成した不動産の募集における広告等においても事業を開始したと判断されている通達が本件に適用されうるか、すなわち実際の資産を活用していなくとも(本件では太陽光発電を設備を稼働させているのか)、判断しうる余地があるものとして理解されるのかという点が主張されているように、本件通達が実物資産の稼働の有無を緩和するような通達であるのか、どのような性格を持つものであるのかは議論が必要であるが(不動産事業において入居者の獲得は内容的に関連することは特に異論の余地がないだろうし、実物資産を見せるなど程度問題であるが稼働状態にあるとも認定できよう)、そもそも、本件の事実関係では発送電先との接続ができていない点で、適用の事実関係が異なるとも言えるが。ただ、主張のように実際の稼働を問わず使える状態にあること(資産の設置や、準備が出来ていること)が判断の基準となるものではない、供しているという文言の解釈として実際に収益稼得に直接的に関連付けられなくとも適用の余地はあり得ようが、実際に稼働していなくとも、あるいは稼働できる可能性がかける場合において、適用の可能性があるとは評価しがたいものと考える。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年8月4日火曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年3月11日、国外にて組成されたパートナーシップ持分の現物出資の適格性、資産の国内所属判定)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は、東京地判令和2年3月11日で、法人が行ったパートナーシップ持分の現物出資が適格現物出資に該当するのか否かという点が課題になった事例です。

具体的には、本件は原告たる法人(薬品会社)がその研究開発等のため米国法人とジョイントベンチャーを組成していたところ、かかる持分を英国子会社に現物出資し、国外における知的財産の活用(治験等)を図ろうとしたところ、当該現物出資における対象財産が国内にある資産であるとして、適格現物出資に該当しないとした課税庁の判断につき、当該持分は外国に所在する知財等の一連の事業用財産であり、国内にない、国外にあるものであるとして適格現物出資の対象となることを主張した納税者の主張が認められた事例である。

適格現物出資という、いささか特殊な組織再編における制度を活用した取引の適格性が課題となった事例であり、その対象となる資産がさらに、知的財産を中心とした(製薬業界における)事業用資産を対象としたジョイントベンチャーの持分であることが問題を提起しているものであるが、国内における適格現物出資の適否を争う事例として、先例的な事例であることは間違いなく、今後の実務における参考となるものであろう(殆どの租税専門家が適格現物出資はあまり目にかかるものではないだろうが、本件判断における国内の事業所に属するという枠組みは、管理という部分も含んでおり、課税庁の判断方法においても影響を及ぼす可能性があるのではないだろうか)。また、本件としては、課税庁の主張、資産が国内にあるという主張が排斥されたものであり、このような特殊な取引における課税庁の判断が覆された根拠や事前照会の対象となった取引(事前照会の段階では適格現物出資であるとされている)であり、この部分がなぜ覆され非適格として本件のような課税処分に至ることになっているのか(事前照会の覆すことの信義則との関連、判示では触れられていないが原告被告の主張の対比は重要だろう)等の観点からも、重要な点であるように考えられる。

 法人税法2条
十二の十四 適格現物出資 次のいずれかに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国内資産等」という。)の移転を行うもの(当該国内資産等の全部が当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものを除く。)、外国法人が内国法人又は他の外国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国外資産等」という。)の移転を行うもの(当該他の外国法人に国外資産等の移転を行うものにあつては、当該国外資産等が当該他の外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものに限る。)及び内国法人が外国法人に国外資産等の移転を行うもので当該国外資産等の全部又は一部が当該外国法人の恒久的施設に属しないもの(国内資産等の移転を行うものに準ずるものとして政令で定めるものに限る。)並びに新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう。イ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資ロ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資のうち、次に掲げる要件の全てに該当するもの(1) 当該現物出資により現物出資事業(現物出資法人の現物出資前に行う事業のうち、当該現物出資により被現物出資法人において行われることとなるものをいう。ロにおいて同じ。)に係る主要な資産及び負債が当該被現物出資法人に移転していること。(2) 当該現物出資の直前の現物出資事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該現物出資後に当該被現物出資法人の業務(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人の業務並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務を含む。)に従事することが見込まれていること。(3) 当該現物出資に係る現物出資事業が当該現物出資後に当該被現物出資法人(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人を含む。)において引き続き行われることが見込まれていること。ハ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人(当該現物出資が法人を設立する現物出資である場合にあつては、当該現物出資法人と他の現物出資法人)とが共同で事業を行うための現物出資として政令で定めるもの

以上のように、本件は、この製薬開発等にかかる知財等の現物出資が適格現物出資に該当するのかという部分が争点となり、より具体的には適格現物出資の対象から除外している法人税法に定める国内の資産を外国法人に現物出資した場合に該当するのかという部分が課題となっているものである。出資行為の真実性が問題になっている(租税回避等)ものではなく、実態を伴う資産であることに争いはないが、具体的に対象となった資産が、有形物、建物等として個別に認識把握されるような種別の資産ではなく、関連する知財、利用権、受益権等を一まとまりとしたJVの持分を起点にケイマン諸島に特例パートナーシップを組成し、かかる持分をその対象として行われた外国法人への出資が適格性を有するものであるのかという部分が課題となっている。なお、本件持分は日本における帳簿上は、投資有価証券として計上されている。当該持分は日本法における株式の譲渡とは異なり(組合の持分を譲渡するという発想が日本法においては希薄であるが、この点が本件の問題の基礎にあるようにも思う)、あくまでもパートナーシップの持分という事業用資産の共有持分と契約上の義務関係の結合体の出資であることが問題を複雑にしているものである。

判示では、「我が国の組合に類似した事業体であり,ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても,CILPの事業用財産の共有持分(準共有持分を含む。)と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていないものと解される。この点が,法人における株式の移転とは根本的に異なる点である。」としているが、本件は事実認定として、この持分がパートナーシップという契約の主たる契約の目的から主たる財産である事業用資産(そもそも事業用資産というくくり方が必ずしも明確な区分ではないが)に対する所属地の問題として国内に存在しないものとして判断されたものになる(より具体的には構成する資産ごとに分割して所属を決定するものではなく、包括的にその管理状況を行っていることは本件に限らず、この主の資産の管理を判断する上で参考となるものと考える)。本件は、まずは対象となる資産がどのようなものであるのか、そして制度趣旨から管理の状況を基礎に資産の所属を判定する二段階の判断をもって適格性を判断していることになろう。持分が組合課税におけるパススルー課税という特色(課税上透明である)を基礎に出資の対象資産ではないとの原告の主張は採用されていない。

10【旧法では9】 法第二条第十二号の十四に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)の規定による鉱業権及び採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の百分の二十五以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。)又は負債とし、同条第十二号の十四に規定する当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものは、外国法人に同号に規定する国内資産等の移転を行う現物出資のうち当該国内資産等の全部が当該移転により当該外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係るものとなる現物出資(当該国内資産等に法第百三十八条第一項第三号又は第五号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得を生ずべき資産が含まれている場合には、当該資産につき当該移転後に当該恒久的施設による譲渡に相当する同項第一号に規定する内部取引がないことが見込まれているものに限る。)とする。

この対象となる資産の国内にあるか否かという判断基準が上記の施行令規定であり、本件ではその他国内にある事業所に属する資産という部分が問題になっている。

 この点について判示は、下記のように、現状の基準として通達における帳簿への記帳を原則的な判断方法として採用し、実質的に経常的な管理によるいささか曖昧な判断基準をおいていることになる。
「本件現物出資の対象資産が施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが争点であるところ,この点の判断基準に関し,法人税基本通達1-4-12は,「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは,原則として,当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが,実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については,国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。」

 
「その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し,その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし,次いで,その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し,それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は,前記法令の趣旨に鑑みて,合理性を有するものということができ,本件においても,基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。」

 この判断方法に関しては判示は上記のように、その合理性を、適格現物出資とその対象範囲の制限の趣旨から肯定している。この制度趣旨としては、
適格現物出資制度は,平成13年度税制改正で導入された組織再編税制の一部であり,内国法人が法人に対して行う資産(資産と併せて負債を出資する場合の負債を含む。)の現物出資は,法人税法上は資産の譲渡として扱われ,現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則であるが(法人税法22条2項),その現物出資が適格現物出資に該当する場合には,それによる譲渡損益の繰延べが認められている(法人税法62条の4第1項)。これは,法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し,企業再編を容易にするために定められたものであると解
される。
 ただし,法人税法2条12号の14の括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」が適格現物出資から除かれており,この規定を受けた施行令4条の3第9項は,国内にある資産又は負債として「国内にある不動産,国内にある不動産の上に存する権利,鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債」を定めている。これらの定めは,国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し,我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものであると解される。」

 と判断しており、本件はこの適格現物出資における課税権の確保をという制度趣旨をもとにしている点を判示している点は特徴的であり、より具体的には譲渡損益の繰延の適否を判断する上で、含み益を起点としている点にある。この点から帳簿計上と経常的な管理による判断を裏付けているのであろう。しかしながら、帳簿記帳は、本件のような無形資産であれば特に、操作性が高いものであり、また経常的な管理という表現はいかなる程度の管理や、期間等、非常に幅のある概念であると考えざるを得ない(実際、本件のような資産であれば、複合的な資産であり、管理の場所等は見解が別れよう、また管理という部分は如何なるものを指しているのか定かではない、本件では一箇所として事実関係を整理しているが包括的な資産であれば、管理の場所も複数箇所に及ぶことはあり得るのではないか)、解釈として捉えるならば、予測可能性、法的安定性に代表される租税法規の基本原則に適合的であるのかという部分では疑問である。

おそらく本件の起点は帳簿計上の状況、持分を投資有価証券(法的にも譲渡可能な持分という位置づけであることが強調されている)として財産的価値のあるものとしているが、この点を重視する通達の立場を鑑みた課税庁の判断が問われているものではないだろうか(主張においては資産の管理運営の場所が帳簿において、表象されているとしているが、事前照会が覆ったこともこの点を起点にしているように考えられる)。帳簿が会計記録として財産的価値を基礎としている以上致し方ない部分はあるが、含み益のある資産の記録が重要な判断の要因となっている解釈であるように捉えられる(形式的な)。しかしながら本制度の趣旨はあくまでも、国内にある資産に対する課税権の確保が主たる趣旨であり、管理という継続的な期間的幅のある概念で判断している点(実質的に)が強調されよう。管理を通じた含み益の形成過程と課税権の配分という国際課税の原則の整合が図られているものと考えられる。かかる解釈、通達における管理を重視した(そもそも管理とはどのような行為を指すのかという点は必ずしも明らかではないのではないかとも言えようが)判断が本件の特徴であり、

ただし、属するという文言を考えるとあくまでも現物出資時のスポットにおける帰属関係が基礎となるものともいえ、上記のように管理という実質的な判断を解釈として持ち出すことには賛否が分かれることもありうる。いずれにしても本件は適格現物出資における資産判定の基礎となる事例として今後も重要であり、地裁段階の判例であり、判示が変化する可能性もあるが、本件は重要な事例であろう。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月28日火曜日

判例裁決紹介(福岡高判令和二年2月4日、上納金に対する所得課税、所得帰属の認定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和2年2月4日で、北九州を拠点とする反社会的団体の代表者に対する上納金が所得課税に該当するのかという点が争点となった事例です。

具体的には、北九州を拠点とする反社会的団体の代表(はっきりとは書きませんが、これだけでほぼ特定できるはずです)が傘下の組織、関連団体、フロントの企業がから得た上納金が、口座間で多数移動されているが、これが所得の帰属を表出しており、所得課税の対象となるものであるのか、という点が中心的な争点になっている事例である。犯罪収益、不法収益、不当収益が所得税法上、課税対象となることは、反対意見も根強いものの、現状においては、所得税法の解釈において、雑所得としての存在意義からも通説として、課税対象とすることに賛意が示されている(学説、判例ともに)。現実の社会においてはこのような反社会的な団体や、個人による活動は、残念ながら存在しているものであり、一般の日常生活からかけ離れたところにあるようでありながら、実は表裏一体のところに、意外と身近なところにあるものであり(本件でも飲食店等の団体からの上納金が取り上げられている)、この課税関係が争われた事例であろう(租税の取り締まりというよりは、反社会的勢力の取締としての意図が多分に含まれているであろうことは否定し難いが)。

過去においても不法収益に関する所得課税の事例、裁判例は存在していたが、本件のように詳細な事実認定から課税所得である旨が扱われた事例は珍しい。基本的に包括的所得概念のもと、あらゆる所得を課税所得とすることは所得税法上、ほぼ確定されているところであり、本件でもこの点は直接的な争点とはなっていない。本件の中心的な争点は、事実認定として、本件上納金が代表者の食として該当するものであるのか、いわば、所得の帰属が認定されているものであり、実質的な所得者として該当するものであるのかという部分の検討が中心となっているものである。この点において、資金の流れ、特に反社会的勢力の資金の流れが(おそらく犯罪収益が含まれていない日常的な不法収益が基礎となっているものであり全体の一部であろうが)、明らかとされた事例は珍しいものであろう。

かかる点において、本件の中心は、この所得の帰属、認定を判定する上で、推計が行われているものであるが、この手法の妥当性、他の推計に比して、いわば大雑把であるとの問題意識が本件の基礎を構成しているものであろう(控訴の趣旨も)。この妥当性に関しては、関係者の供述や、口座の資金移動を基礎として総合的に判断がなされており、裁判所の判断としては(地裁の判断に一部疑義がつけられているものの)、結論としての推計に一定の妥当性が認められるものと判断されている。推計や実質的な所得者の認定は、法的な関係を超えて、租税法規において、その効果を帰属させるものであり、種々の議論が存在しているが、確かに通常の租税法における推計の実施に比して、口座の動きの認定などが供述に依拠している部分があるなど、感覚的な部分は否めない。しかしながら、これは対象となる所得、団体の性格から、やむを得ないものであり、結論を左右するものではないだろう。中心として、継続的な資金移動、特に口座の維持管理に着目しているものであり、かかる点から帰属関係を認定していることは、租税法規の解釈において、管理支配を明らかとするものであり、従前の判例とも整合的である。大雑把、推計方法の合理性・妥当性という評価はあり得ようが、そもそもにおいて実額課税とは異なることは明らかであって、その認定の程度は、裁量の余地が大きいものと考えられる。本件は、口座の管理に焦点を当てており、多様な側面が議論されるべきであるが、収益の享受という、最も基本的な部分に焦点をあて管理支配という部分から帰属を判断しており、かかる点は今後も収益の帰属判定のベースを理解する上で参考となるべきものであろう。


いずれにしても、本件は、個別性の高い、あるいは租税法規を離れ、治安政策の意図なども含むものでろう。しかしながら日本国に居住するものとして、本件のような反社会団体の存在をどのように捉えるのかという部分も問題になるであろうが(そもそも反社会団体が金融機関の口座を頻繁に活用している事自体が驚きではあるが)、まずはこのような裁判が実現され、司法システムの中で議論され、公開されているという点は、敬意に値することであろうとは思う(関係者の皆さんの非常な努力によるものであろう)。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月18日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年10月18日、高額譲受による資産の譲渡と売上原価、寄附金)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月18日で、時価よりも高額(約1億)により購入した土地の譲渡に関する売上原価において、当該時価よりも高額な部分は除外することができるかどうかという点が争点になった事例です。

具体的には原告である不動産業を営む法人が、取得した土地(取得対価は、譲渡法人への当該法人の貸付け等の相殺による)に関する取得価額が時価よりも非常に高額(約1億円)であり、当該不動産の譲渡において、この高額な譲受金額をもって売上原価として損金計上を行い、もって繰越欠損を計上した確定申告につき、時価を超える金額は売上原価から除外されるべきものであるとしてその損金計上を否認した課税庁の処分を不服として提起された事案です。何故か岡山の事案が東京で争われるなど、些か不明な点もある事例ではあるのですが、売上原価という損金、費用計上において最も基本的な部分でありながらも、時価との対比、寄附金の認定等、法人税法上の計算の影響を受けるものとした事案であり、実務的にも影響を及ぼす(おそらく、金額的にもこのような取引は少ないでしょうし、そもそも高額譲受け自体が純経済人の行為としては不合理なものであることは言うまでもないことですが、意外とこのような関連会社等を活用した費用分配に属するような取引は行われているものであろう、グループ法人税制の点からも検討すべきであろうが)可能性があり、今後の参考となる事例だろう。


棚卸資産の販売の収益に係る「売上原価」とは,当該資産の「取得価額」を指し,購入した棚卸資産の「取得価額」には,「当該資産の購入の代価」が含まれるとされている(法人税法29条2項,法人税法施行令32条1項1号イ)。

本件土地のように購入した棚卸資産の「購入の代価」はその販売の収益に係る「売上原価」として損金の額に算入されることになるが,時価よりも高額な売買代金による高額譲受けが行われた場合に,当該資産の「購入の代価」をどのように評価すべきかについて,法人税法や法人税法施行令に直接の規定は設けられていない。

以上のように本件は、高値で仕入れた土地の金額が購入の対価として売上原価を構成するものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。時価相当額がいくらであるのか、同族会社の行為計算否認の適用、当該高額部分は合理的な対価を含むものであるのかという点な中心的な争点となっていない(債権放棄における合理性と寄附金の関係が通常は争われるような事案ではあるだろうが何故かこの点は主張が少なく、主たる争点となっていない)。判示としては、寄附金の法人税法37条の解釈から本件のような高額譲受は、寄附金に相当するものであり、かかるようなものは、購入の対価に該当しないとして原告の主張を棄却している。

下記のように、法人税法は、37条8項において、いわゆる低額譲渡に関しては、明文をもって寄附金への該当を定めている。原告の主張は、このような法的な基礎を持たない、高額の譲受けの場合は、本件のような損金から除外することは、違法であるという主張を行っている。

  法人税法
(寄附金の損金不算入)
第三十七条
内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

内国法人が資産譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち
実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することから,当該金額が損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないものであることを
確認的に規定したものと解される。
法人が時価よりも高額の売買代金により不動産等の資産を購入した場合も,売買代金と時価との差額は,買主たる法人から売主に「供与」された「経済的な利益」であり,そのうち「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については,「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することになるから,当該金額は損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないこととなるものと解される。」

しかしながら、判示は、上記のように、法人税法の寄附金規定は、取引を否認するものではなく、租税法規の適用上、その効果を損金算入否認という形で表現するものであり、寄附金の額としては、非常に広範囲のものを対象としており、8項は確認的な規定(少し話はずれるが、そもそも8項における低額譲渡のうち、その具体的な金額を規定する実質的に贈与等した金額と認められる金額とはいかなるものであるのだろうか、実質的にという部分をどのように解するべきであるのかという点は解釈論としても具体的な金額を確定するためにも些か不確定な文言であるようにも捉えられる)であるとして、本件のような高額譲受においても寄附金の該当性を認めている。寄附金規定の包括的な対象を基礎としている以上、8項を確認規定と理解して、7項から本件のような高額譲受に関しても寄附金該当性を認める事となっているものであろう(この是非に関しては賛否が分かれる物と言えようが法人税法がその固有概念として寄附金を包括的に規定していることは明らかであり、高額譲受を対象から除外していると理解することは趣旨に反するものであろう。具体的な金額として実質的な金額を如何に捉えるのかという点は気になるところであるが、本件では時価との対比される金額については大きな争いはない。)。

以上のように判示は前提として寄附金規定の解釈から、このような高額譲受の時価との乖離相当額を売上原価として否定して損金に算入することを否定しているものである。しかし、以下のように、寄附金としての該当から、損金算入制限を受けるものであるという点から下記のように売上原価、あるいは購入の対価ではないとする判断、直接的に売上原価から除外して、損金算入はできないと判断をすることの論理が必ずしも定かではない。

たしかに法人税法は、寄附金への該当するものとして認定されるものに関しては、損金算入を否定しており、結果として損金算入を否定するという点において売上原価から除外することと差異はないのかもしれない。しかしながら、寄附金規定は損金算入限度額を設け、その超過額を損金算入を否認するものであり、売上原価ではないとして損金としての該当性を判断するものとは法人税法上の適用される計算構造が異なるものである。寄附金としての認定、該当性を基礎とするならば、37条の直接的な適用による損金算入限度額の計算に当てはめられるべきではないだろうか。従って判示は下記のように売上原価とは異なる別の費用損失として損金該当性を判断するものとしているが、仮に別の費用損失であるとしても寄附金への該当性が直接争われるべきものであることには変わりなく、本件ではこの点の検討、特に対価性の議論がより行われるべきであるのではないだろうか(おそらく本件高額部分が結論として寄附金へ該当して損金算入に制限を加えられることに相違はなく、売上原価に該当しないからと言う部分を判断しているだけでは本件の中心的な争点である損金算入への影響を判断することは困難であろう。)。


「「寄附金の額」と評価される場合には,法人税法の適用上,損金の額への算入が制限されるのであるから,そのような扱いを受ける当該差額は,当該資産の販売の収益に係る費用として当然に損金の額に算入される「
売上原価」とは異質なものといわざるを得ず,「売上原価」とは異なる費用又は損失の額として別途損金該当性を判断すべきもの」

判示でも述べられているように、法人税法上の寄附金規定は、私法上の法律行為としての否定や変更等を伴うものではなく、寄附金への該当から損金への否定を行うのみである。上記のように売上原価とは異質なものとして評価してるが、本件はあくまでも寄附金という法人税法上の損金の一般規定ではなく別段の定めという部分の課題であり、法人税施行令が購入の対価を持って棚卸資産取得額と定めている部分について、特に購入の対価の解釈を寄附金規定の影響を鑑み、固有の概念として理解しているようにも捉えられる。すなわち対価という私法部分での評価を覆すものとして、限定的に捉えるべきものであろうか(最終的な結果は変わらないかもしれないがこの部分の解釈に関しては予測可能性を基礎とする租税法規の解釈においては整合しているものであろうか)。29条と37条の関係の問題であるのかもしれないが、法規上は29条において売上原価として認めても37条の適用の余地はあるものであろう。課税庁の主張としては売上原価として認定することで対価性が認められ、もって寄附金の該当性を否定されることになることを危惧したものとも理解することはできるが、8項とは異なり明文の規定がない高額譲受を用いて法人税法上の売上原価、購入の対価の範囲を限定的に解することは租税法規の基本的な要請として予測可能性を担保しているものとは言い難いのでないだろうか。本件は寄附金としての該当性を中心的な争点として争われるべきものであったように思われる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月13日月曜日

判例裁決紹介(最判令和2年7月2日、破産会社における過払金返還請求に過年度損益修正と公正処理基準)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和2年7月2日)で、非常に最近の最判ですが、破産会社における高裁が認めた過年度への遡っての損益の修正を否定した事例です。

具体的には、非上告人である法人(破産会社、管財人あり)が平成24年に破産手続きを行い、かかる破産手続の確定により過払金返還請求による債務(制限超過利息に関する不当利得の返還請求)が確定したことを受けて、もって過去に納付した法人税の申告における益金の修正が行われたものとして更正の請求(返還された金額を破産弁済に活用する)を行ったことに付き、課税庁が前期損益修正として、当該確定した年度における損益として扱うべきであり、更正すべき理由がないとした処分について、その取消を求めた事例である。納税者としては不当利得であり、各事業年度に遡って事業年度における各益金を修正して納税額を返還すべきとしていたが、課税庁は、前期損益修正として、当該債務の確定、したタイミングでの計上を行うべきとして、主張が対立しているものである。法律的な側面に慣れている人であれば、当該過払金は、益金として計上されているものであるが、不当利得であり無効(取り消し)対象であって、最初からなかったものであり、法人所得として捉えること自体が問題であるとの考えに親和的であろうが、本件は、その処理方法として債務が手続きにより確定した段階をもって損益を計上すべきとした(これが、従来の処理であろうが)対応が中心的な争点となっているものである。

原審は、破産会社であり、会社法における損益の遡及修正は、
「破産会社において過年度に計上した収益の額を修正する必要がある場合には,事後的な修正をしても,株主
等の利害関係人や債権者との利害調整の基盤が揺らぐとは考えられない。」

として、利害調整を基礎としたものであり、破産会社の特徴から事後的な修正であっても利害関係者等との調整が困難になるものではないとして、いわゆる法人税法22条4項の公正処理基準への該当性を認め、納税者の主張を認め、過年度の法人所得の修正を認めたものであるが、会社法や企業会計における、基本的な目標としての利害関係の調整という視点をもって公正処理基準への該当性を認めうる、拡張的に捉えたものであるように考えられるものであったが、本判決は、この該当性を否定して、破産会社であっても、法人税法の基本的な原則である、事業年度ごとに計算することから逸脱することが公正処理基準の観点から認められるものではないとしている。本件では明確に公正処理基準の意義をどのように解するものであるのかという点は最判において触れられていないが、破産会社という特徴をもって(弁済額を多くするため)公正処理基準の該当性を図ることは否定的に捉えられているものである。

法人税法における公正処理基準は、下記のように、別段の定めがるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に準拠することを認めた基準であるが、損も具体的な範囲がいかなるものであるのかという点は、従来課題とされてきた。

法人税法22条
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

私見としても、公正処理基準は法人税法の基本的な目標として適正な法人所得の計算にあるものであり、かかる目的の範囲内で便宜的に会計基準や会社法における処理を許容するものであると考えるが、会社法等における利害調整の目的(具体的にどのような対象の利害調整を対象としているのかという部分が多様であるように思われ、具体的な指針として機能するものであるのか、租税法規の立場から疑問であるであるが)、から、かかる点への影響が限定的であるとして、公正処理基準への該当性を判断する枠組みは法人税法の解釈として採用し得ないものであると考える(この点は他の会計処理の該当性判断においても同様であろう)。公正処理基準はあくまでも法人税法の規定として捉えられるべきであろう。

本件のように益金の基礎たる部分に法律的な原因がないものと理解される部分に関しては、すなわち不当利得にかかる部分に関して租税負担を課すこと自体に反対意見があることは理解されるが(おそらく法律を生業とする人にとっては不当利得でも課税されることには違和感が強いのであろう)、本件は立法に属するものであり、租税法律関係の早期安定や、欠損金、不当利得の取り扱い、破産会社に限定されず一般法人における遡及修正の是非等の総合的な観点から検討されるべきものであるのではないだろうか(申告納税方式を基礎とする以上、そして包括的な所得を基礎とする以上は、各事業年度に区分して課税を行う現状を否定する事になりかねず、法人税法全体の体系に反するものであり、制度的にはハードルが高いように思われる)。

本件判示も下記のように、事業年度ごとの計算を法人税法の原則としており、遡及修正は反するものとして理解している。一般的な会計基準や会計慣行においても遡及修正は認められていないところから、法人税法が先行すべき理由はないものと判断しているのであろう。課税標準を明確に事業年度として、確定決算主義を採用することで、各事業年度の確定し他申告をベースにした計算方法がベースであるという点は、本件のように、破産会社に限らず、一般的に言えることでもあり、本件の判示として、破産会社以外に、一般法人においてもその遡及を廃することになるとも射程範囲として理解することもできよう。

法人税法も,事業年度(法人の財産及び損益の計算の単位となる期間で,法令で
定めるもの又は法人の定款等で定めるもの等。13条)における所得の金額を課税
標準として課税することとし(21条),確定した決算に基づき各事業年度の所得
の金額等を記載した申告書を提出すべきものとしており(74条1項),国税通則
法も,当該申告書の提出による申告をもって,当該事業年度の終了時に成立した法
人税の納税義務につき納付すべき税額が確定することとしている(15条2項3
号,16条1項1号及び2項1号)。


いずれにしても判示は、破産会社において、
「課税関係の調整が図られる場合を定めたこのような特別の規定が,破産者である法人につい
ても適用されることを前提とし,具体的な要件と手続を詳細に定めていることから
すれば,同法は,破産者である法人であっても,特別に定められた要件と手続の下
においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているもの」

として、公正処理基準による法人税法の計算原則からの例外を許容しないと判断している。
他の法人税法規定による、課税関係、特に、過年度損益修正を規定している繰越欠損の規定から、法人税法は、法人税法は原則的な計算を基礎としているものであり、かかる計算が法人税法の計算として基礎的な目的に相当するものであると理解しているといえよう。しかるに、このように考えるならば、上記のように破産会社に限らず一般法人も遡及修正は否定的に解されることになるだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月4日土曜日

判例裁決紹介(最判令和元年7月16日、固定資産税評価取消訴訟における、主張の追加の可否、前置の趣旨)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和元年7月16日で、固定資産税評価における取消訴訟において、主張の追加を認めるのか否かという点が課題となった事例です。

具体的には、本件は、上告人で固定資産税を納付した者が、その評価額に対して不服であるとして評価委員会に申立て、更に地裁高裁と訴訟が継続されているものであり、本件では、高裁においてその主張立証において評価不服における理由追加を行ったことの是非について最高裁判例が出たものである。申告納税方式ではなく、賦課課税方式を採用するwが国の地方税の体系において、固定資産税評価委員会による審査の前置が求められているところにおいて、原則としてこの前置、評価委員会における審理を要求している現状があるところ、高裁は、この前置主義の趣旨から、主張の追加は認められないと判断したものの、最高裁は、その判断として、理由の追加を認めたものである。著名な租税弁護士であった方が裁判長を務める第三小法廷における判断であるが、前回一致で、かかる判断を行っており、追加主張に対する審理を尽くさせるべく、差戻しが行われている事例である(かかる点において評価方法の合理性、評価額の適正性というよりは、訴訟における方法論が中心的な判示となっているもの)。

申告納税における、理由附記、そしてそれに伴う理由の差し替え、追加等の訴訟についての是非に関しては、過去に裁判例ば存在するものであるが、賦課課税を基礎とした固定資産税において、このような取消訴訟段階での理由追加が認められるものであることが判断されたことは初めての事例であり、近年固定資産税に関する訴訟が増加傾向にあることから、評価委員会審理段階での調査のみならず、このような複雑な評価制度の理解がまだまだ納税者段階でも十分ではない現状を評価するならば、本件判断は、納税者としての権利保護という点を追求するものであると評価されるものであり、かかる点において重大な影響を持つべき重要な判例であるが、評価に関する納税者主張の審理を厳密に行う必要があるものであり、評価委員会の運営、評価実務においても現状の賦課課税方式に依拠した複雑な評価方法においても、影響を及ぼしうる事例ではないだろうか。法的安定性や予測可能性をベースとする租税法規の解釈よりも資産保有に対する課税として財産権への配慮がより求められることになるのかもしれない。


地方税法(固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出)
第四百三十二条 固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後三月を経過する日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から三月以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない
2 行政不服審査法第十条から第十二条まで、第十五条第十八条第一項ただし書及び第三項、第十九条第二項(第三号及び第五号を除く。)及び第四項並びに第二十三条の規定は、前項の審査の申出の手続について準用する。この場合において、同法第十一条第二項中「第九条第一項の規定により指名された者(以下「審理員」という。)」とあるのは「地方税法第四百三十二条第一項の審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会(以下「審査庁」という。)」と、同法第十九条第二項中「次に掲げる事項」とあるのは「次に掲げる事項その他条例で定める事項」と読み替えるものとする。
3 固定資産税の賦課についての審査請求においては、第一項の規定により審査を申し出ることができる事項についての不服を当該固定資産税の賦課についての不服の理由とすることができない。
(固定資産評価審査委員会の審査の決定の手続)
第四百三十三条 固定資産評価審査委員会は、前条第一項の審査の申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査その他事実審査を行い、その申出を受けた日から三十日以内に審査の決定をしなければならない。
2 不服の審理は、書面による。ただし、審査を申し出た者の求めがあつた場合には、固定資産評価審査委員会は、当該審査を申し出た者に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。
3 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、職権に基づいて、又は関係人の請求によつて審査を申し出た者及びその者の固定資産の評価に必要な資料を所持する者に対し、相当の期間を定めて、審査に関し必要な資料の提出を求めることができる。
4 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、固定資産評価員に対し、評価調書に関する事項についての説明を求めることができる。
5 審査を申し出た者は、市町村長に対し、当該申出に係る主張に理由があることを明らかにするために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

以上のように、本件は固定資産税における、取消訴訟において、評価委員会において、審理されていない理由の追加が認められるのかという点が判断されたものである。原審段階では、上記地方税法が、前置により、価格評価に関しては基本的に評価委員会に限定されるものであるという文言から、新たな評価に関する理由の追加は認められないとしたものであるが、最判では下記のように、前置の趣旨を納税者の権利保護と行政の適正な運営の確保を図る趣旨に求めている。ここに専門的な租税に関する審理の追求を図り、租税法律関係の早期の安定を基礎とする申告納税制度をベースとした国税との相違を見ることができる。専門技術的に適正性を図ることに力点がおかれるものではなく、納税者の件r2を保護することにも注意が図られるものとした、評価審査委員会及び、その前置による審査の意義にあるものと理解される。

「固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という。)に不服がある場合には,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(地方税法432条1項),同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及び審査決定の取消訴訟によることによってのみ争うことができる(同法434条2項)とされている。上記審査は,納税者の権利を保護するとともに,固定資産税の賦課に係る行政の適正な運営の確保を図る趣旨に出るものであり,同委員会が,職権により,審査に必要な資料の収集等をすることができるものとされていること(同法433条3項,11項,行政不服審査法(平成26年法律第68号による改正前のもの)27条,29条,30条)をも併せ考えると,同委員会は,審査申出人の主張しない事由についても審査の対象とすることができると解すべきである。そうすると,同委員会による審査の対象は,登録価格の適否を判断するのに必要な事項全般に及ぶというべきであり,審査決定の取消訴訟においては,同委員会による価格の認定の適否が問題となるのであって,当該価格の認定の違法性を基礎付ける具体的な主張は,単なる攻撃防御方法にすぎないから,審査申出人が審査の際に主張しなかった違法事由を同訴訟において主張することが,地方税法434条2項等の趣旨に反するものであるとはいえない。」

明確に評価審査委員会による審査の趣旨を納税者の権利保護と固定資産税の賦課における行政の適正な運営という点に解して、かかる点から、追加主張においても単なる攻撃防御の手段であるとして、前置制度の趣旨を理解している点は本件の特徴的な点である。個人的にはこの点から、固定資産税の判断において追加主張の許容以外にも波及する可能性があるものであるのか注目される。
権利の保護と、行政運営の適正化を趣旨とした租税制度自体が他に例があるのかという点も更に検討したいところであるが、これほど明確に権利保護の観点を租税制度に認めた事例は近年の我が国の租税制度の理解においては非常に珍しい物と考えられる。更に評価委員会の審査対象を登録価格の適否を判断する全てに及ぶものと審査対象の範囲を非常に広範囲に捉えていることも重要であろう。この点からは、評価委員会の位置づけ、前置主義の理解が変化したものともいえ、今後の評価委員会の運営においても幅広い、積極的な資料収集が求められることになるともいえる。本件では賦課課税方式であるがゆえの判断であるのかという点は定かではないが(特に明記されていない)、本件判示を契機に理由附記等の整備が国税とは異なっており、かかる点からも評価委員会の趣旨、機能は理解、整備されていくことになるのであろうか(実態的にそのような運営が可能であるのかという点は、評価方法の複雑さから難しいのではないかともいえようが)、何れにせよ納税者の権利保護の観点からは重要な判断であり、取消訴訟での追加が認められるということによる本判決の影響を更に検討していく必要があるだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年6月20日土曜日

判例裁決紹介【大阪地判平成28年8月4日、更正処分に伴う取引内容の変更】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成28年8月4日で、更正処分に伴う取引内容の変更によって被った損害の賠償を求めるものです。

具体的には、英国法人である原告に対して取引先が課税庁による調査、更正処分により、寄附金認定を受けたことにより(当然寄附金認定の当事者ではないので本件訴訟ではその是非については争いとはならない)、当該寄附金相当額の返還を求められ、経済的損害を被ったとして国家賠償請求を求めたものである。寄附金認定という、取引内容の変更であり、取引による無償の価値の移転が発生していたものに対して、課税処分、更正処分を契機としてその取引内容が変更され(原告と取引先の力関係が伺えるが)、返還を求められた金額相当額が損害であるとして賠償を求めているものである。実務的にも寄附金の認定はそれほど珍しいものではないだろうが、基本的に、その認定が課題となるものが殆どであり、このような寄附金の返金が争いになるような事例は珍しい(通常は納税者段階で寄附金相当額の負担を行うことが多いのではないか)。寄附金認定による顛末を垣間見るという点でも本件は参考となるべき事例であろう。

本件は、原告の主張を全面的に棄却しているが、判断の枠組みとしては、国家賠償の典型的な訴えの利益のあり方、処分の効果が争いになっているものであり、特段珍しいものではないのかもしれないが、課税処分、特に更正処分の第三者への効果がいかなるものであるのかという点が基礎となっている判断であり、一般に取引においては租税負担を考慮することが重要であり、かかる点から更正処分による変更による取引内容の修正が争点となりうるものであるのかという点が課題となっているものである。確かに一般においては、取引を行うにあたって、租税負担を考慮することは当然であり(左右するものであり)、変更によって課税処分の対象者のみならず、当事者である原告のような取引相手先まで影響が及ぶことが容易に想定されるものであり、もってかかる損害は賠償対象となるべきであるという主張は一定の納得感があるものではないだろうか(一定の理解が得られることも考えられる、内国法人であれば、別途自身の法人税申告等により修正が図られるものであり、本件のように第三者への影響まで配慮義務があるとする主張は過大なものであると評価されるが)。しかしながら判決のように、更正処分の効果は第三者に及ぶものではなく、処分対象者にのみ影響するものであって、処分を契機とした取引の変更は担保されるものではないということは、一般の理解とはおそらく異なるものであり、専門家、実務家としては認識しておくべきものであろう。更正処分に代表される課税関係は財産関係に影響を及ぼすものであるが、その効力範囲は限定的であり、経済的な影響範囲と法的な影響範囲は相違していることは留意されるべきものと考える。間接的には租税負担は、取引実施するにあたって、重要な要因であり租税法の基本原則として租税法律主義、そして予測可能性を保護することを重要視していることと矛盾するものとも言えるのかもしれないが、更正処分によってたとえ取引の修正が発生したとしてもかかる効果の影響は遮断されていることが更正処分の特徴であることは再度認識されるべきである。個人的には通常はかかる変更の影響は自身の納税申告に関わるものとして理解されるものであり、なぜ原告法人あるいは関係専門家がこのような訴訟を提起したのかという点は疑問を覚えるところでもあるが(外国法人であることが影響しているのか、専門家が税務に疎いのかなどであろうか)・・・。


「更正処分とは、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときに、その調査に基づき、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を是正する処分であり(国税通則法24条)、更正処分は、同処分の名宛人に対し、納税義務の内容を確定するという法的効果を生じさせるが、それ以外の第三者に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。そうすると、本件各更正処分は、同処分の名宛人ではない原告に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。」

以上のように、本件は課税処分、特に課税関係の修正を求める更正処分による契約等の変更、具体的には相手先の寄附金認定による対価の変更、返還が損害として賠償対象となるものであるのかという点が争いになっている。原告が外国法人であり、課税所得の変更という形での救済は行われるものではなく(少なくとも日本の課税関係においては)、更正処分が如何なる性格を有し、もって他者、契約当事者に対する効果までも及ぼすものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。判示としては上記のように、更正処分は名宛人以外には効果が及ぶものではなく契約当事者であろうと第三者まで法的効果が生じるものではないとして理解している。

かかる点は更正処分の基本的な性格であり、判示としてこの点をもって請求を退けることは、申告納税を基礎とする我が国の税制においては、現行法規の解釈としては妥当なものであろう。賠償対象となる法律上保護された利益を、処分による影響を拡張的に見積もって、第三者にまで効果が及ぶものとして、かかる利益への配慮義務が存在することを認めることは、租税法律関係にとどまらず、各種権利にまで影響が及びうる。行政の行為は課税にとどまらず、非常に広範囲まで、その影響が及ぶものであることは否定し難いが、法的な効果を原則として判断すべきであり、効果が及ぶものではないものに対してまで、賠償と理解することは困難であろう。

但し、一般の納税者において課税処分による効力はかかる不利益を感受してもなお、契約を維持すべきような状況にあるような場合が多いだろう。課税処分により実質的に契約の変更がなされたものとして契約の相手先にまで影響を及ぼす可能性は大きい。このような点を考慮すれば、課税処分における予測可能性、法的な安定を図ることの重要性は間接的ではあるが、高いものと言える。租税負担の計算が民事法における取引関係をベースに計算されていながらも、課税関係の早期安定の要請も考慮し、法的な効果は遮断されていることは特性として理解すべきであろう(しかるに、自身の納税において修正を行い救済を図ることになるべきものであるが)。


以上です。毎度のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介【福岡高判平成30年2月28日、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、福岡高判宮崎支部平成30年2月28日で、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用関係が争われたものです。

具体的には、本件は、ゴルフ場用地を保有する控訴人(原告、法人)が、当該用地に賦課された固定資産税の評価を巡って、固定資産税評価基準、ゴルフ場評価通知による山林比準評価方法による評価を適用された評価結果は、宅地比準評価による評価と一致するものであり、下記、地方税法附則において定められた負担調整措置の対象となるものであって、その適用を怠った処分庁の賦課決定は違法であるとして訴訟に至ったものである。地裁では、原告の主張は認められず、控訴審ではこの負担調整措置の対象となる宅地比準土地として山林比準評価方法によるゴルフ場用地、土地が対象となるものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。

非常にテクニカルな固定資産税評価に関する、それもゴルフ場用地に関する評価方法と地方税法が定める固定資産税の負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が課題となるものであり、おそらくマニアックな事例である。租税専門家であっても固定資産税に興味関心をもっている人は少ないものと言えようが、近年は、各種調整措置が導入されるようになり(中小企業への減免措置の導入など、)従来は、地方税、特に市町村における基幹税であるとして各種措置は導入されてこなかったものであるが、その傾向は変わりつつある。地方税における訴訟もこの固定資産税を中心に増加傾向にある。固定資産税は、収益の有無に関わりなく、その財産的価値に対して一定率を賦課されるものであり、租税負担としては、負担感が強いものであり、事業者等においては、今後もより関心が高まるものであろう。本件は、基礎知識を必要とする事例ではあるが、固定資産税評価基準における評価通知の位置づけを理解する上でも重要な事例(行政実例も含め)、固定資産税評価の基礎的な事例を学ぶ上では参考となる事例ではないだろうか。

ゴルフ場は、広大な用地を有して、山林を切り開くなどその成り立ちなどから、租税法規においてこれまで、会員権の取り扱いをめぐる課題など様々な課題を提示してきたものであるが、固定資産税においてもその特性から独自の評価通知が設けられているなど、特異かつ重要なものである。本件も、その評価通知における山林比準評価方法によって評価を行っている当該用地が、商業地等を適用対象となる負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が、すなわち宅地並みの課税を基礎とする措置を適用対象とすることが可能であるのかという点が争われているものである。


地方税法附則(現行法のもの、第18条)
4 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・六以上〇・七以下のものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等の当該年度分の固定資産税に係る前年度分の固定資産税の課税標準額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、前年度分の固定資産税の課税標準額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等据置固定資産税額」という。)とする。
5 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・七を超えるものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格に十分の七を乗じて得た額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、当該額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等調整固定資産税額」という。)とする。


以上のように、本件の中心的な争点は、負担調整措置の対象としてゴルフ場評価通知にある山林比準評価を用いた土地に対して、その適用を行うべきものであるのかという点が争いになっている。控訴人は主張において
「宅地だけではなく宅地比準土地を含めた商業地等を負担調整措置の対象とした趣旨は,宅地比準土地が近傍宅地との関係で「宅地並みの価格水準」にあるがゆえに,宅地と同様に,税の据置き,引下げ措置を講じて,税の負担水準の均衡化を図ろう」

として理解しており、租税負担の引下げのためのものであるという認識が強く主張されている。しかるに山林比準評価を適用したものであっても、この対象として評価に行政実例によって補正が加えられていることをもって対象となりうると主張していることになる。これに対して裁判所の判断は、均衡化という本来の趣旨を強調し、あくまでも租税負担の引下げも含む公平性の確保を意図したものとして下記のように、理解している。一見すると同じことを表現しているようであるが、その中身は異なるものであり、基本的な立法趣旨を租税負担の公平性確保を意図したものであって緩和的に対象を捉えることを戒め、あくまでも宅地並みのという趣旨をもっているものとして解釈による拡張的な理解を否定している。

負担調整措置の沿革となった平成9年法改正の趣旨が,課税の公平性確保の観点から,いわゆる負担水準の均衡化をより重視することを基本的な考え方として,負担水準の高い土地についてはその税負担を抑制しつつ,負担水準の低い土地についてはなだらかにこれを引上げる新しい税負担の調整措置を講じることにあり,「商業地等」について負担調整措置が講じられた趣旨が,宅地並みの価格水準にある土地を商業地等として負担調整措置の対象とすることにあるとしても,いかなる土地を宅地並みの価格水準にある土地として上記のような負担調整措置の対象とするかは,立法政策上の問題というべきところ,法附則は,宅地以外の土地のうち当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって決定されたものを宅地比準土地として住宅用地以外の宅地とともに18条4項及び5項の負担調整措置の対象としているのである。そして,法附則17条4号の宅地比準土地の定義規定からすれば,当該土地の価格が当該土地とその状況が類似する宅地の評価額を基礎として評価されていない土地をも宅地比準土地に該当すると解するのは,文言上無理があるというほかなく,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないから,控訴人らの主張するように,法附則の定める商業地等に関する負担調整措置の趣旨を根拠に,周辺宅地の評価額に対して当該土地の不動産特性に応じた比準割合,補正割合にて減額された価格水準にある土地を「宅地並みの価格水準」にある土地として,宅地比準土地に該当すると解することはできないというべきである。

租税法規の解釈として、文理によるべきという原則はあるものの、その解釈においては、特に政策的な規定の解釈においては重要となる。本件はそのような趣旨の理解によって対象範囲が変わるという点で特徴的な事案でもあり、減免措置への厳格な解釈、限定解釈とも言う場合もありえようが、一面的には同様の理解しているといえども解釈が異なることは本件においては留意されるべきであろう(期待があって理解が異なることになっているというようにも評価されるのかもしれない、)本件は山林比準評価方法を受け入れている以上、その評価方法の定めの趣旨への理解が及んでいない点によって原告の衡平に欠く主張が発端であるようにも考えられる事例である。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。