さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和元年7月16日で、固定資産税評価における取消訴訟において、主張の追加を認めるのか否かという点が課題となった事例です。
具体的には、本件は、上告人で固定資産税を納付した者が、その評価額に対して不服であるとして評価委員会に申立て、更に地裁高裁と訴訟が継続されているものであり、本件では、高裁においてその主張立証において評価不服における理由追加を行ったことの是非について最高裁判例が出たものである。申告納税方式ではなく、賦課課税方式を採用するwが国の地方税の体系において、固定資産税評価委員会による審査の前置が求められているところにおいて、原則としてこの前置、評価委員会における審理を要求している現状があるところ、高裁は、この前置主義の趣旨から、主張の追加は認められないと判断したものの、最高裁は、その判断として、理由の追加を認めたものである。著名な租税弁護士であった方が裁判長を務める第三小法廷における判断であるが、前回一致で、かかる判断を行っており、追加主張に対する審理を尽くさせるべく、差戻しが行われている事例である(かかる点において評価方法の合理性、評価額の適正性というよりは、訴訟における方法論が中心的な判示となっているもの)。
申告納税における、理由附記、そしてそれに伴う理由の差し替え、追加等の訴訟についての是非に関しては、過去に裁判例ば存在するものであるが、賦課課税を基礎とした固定資産税において、このような取消訴訟段階での理由追加が認められるものであることが判断されたことは初めての事例であり、近年固定資産税に関する訴訟が増加傾向にあることから、評価委員会審理段階での調査のみならず、このような複雑な評価制度の理解がまだまだ納税者段階でも十分ではない現状を評価するならば、本件判断は、納税者としての権利保護という点を追求するものであると評価されるものであり、かかる点において重大な影響を持つべき重要な判例であるが、評価に関する納税者主張の審理を厳密に行う必要があるものであり、評価委員会の運営、評価実務においても現状の賦課課税方式に依拠した複雑な評価方法においても、影響を及ぼしうる事例ではないだろうか。法的安定性や予測可能性をベースとする租税法規の解釈よりも資産保有に対する課税として財産権への配慮がより求められることになるのかもしれない。
地方税法(固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出)
第四百三十二条 固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後三月を経過する日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から三月以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない。
3 固定資産税の賦課についての審査請求においては、第一項の規定により審査を申し出ることができる事項についての不服を当該固定資産税の賦課についての不服の理由とすることができない。
(固定資産評価審査委員会の審査の決定の手続)
第四百三十三条 固定資産評価審査委員会は、前条第一項の審査の申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査その他事実審査を行い、その申出を受けた日から三十日以内に審査の決定をしなければならない。
2 不服の審理は、書面による。ただし、審査を申し出た者の求めがあつた場合には、固定資産評価審査委員会は、当該審査を申し出た者に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。
3 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、職権に基づいて、又は関係人の請求によつて審査を申し出た者及びその者の固定資産の評価に必要な資料を所持する者に対し、相当の期間を定めて、審査に関し必要な資料の提出を求めることができる。
4 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、固定資産評価員に対し、評価調書に関する事項についての説明を求めることができる。
5 審査を申し出た者は、市町村長に対し、当該申出に係る主張に理由があることを明らかにするために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
以上のように、本件は固定資産税における、取消訴訟において、評価委員会において、審理されていない理由の追加が認められるのかという点が判断されたものである。原審段階では、上記地方税法が、前置により、価格評価に関しては基本的に評価委員会に限定されるものであるという文言から、新たな評価に関する理由の追加は認められないとしたものであるが、最判では下記のように、前置の趣旨を納税者の権利保護と行政の適正な運営の確保を図る趣旨に求めている。ここに専門的な租税に関する審理の追求を図り、租税法律関係の早期の安定を基礎とする申告納税制度をベースとした国税との相違を見ることができる。専門技術的に適正性を図ることに力点がおかれるものではなく、納税者の件r2を保護することにも注意が図られるものとした、評価審査委員会及び、その前置による審査の意義にあるものと理解される。
「固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という。)に不服がある場合には,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(地方税法432条1項),同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及び審査決定の取消訴訟によることによってのみ争うことができる(同法434条2項)とされている。上記審査は,納税者の権利を保護するとともに,固定資産税の賦課に係る行政の適正な運営の確保を図る趣旨に出るものであり,同委員会が,職権により,審査に必要な資料の収集等をすることができるものとされていること(同法433条3項,11項,行政不服審査法(平成26年法律第68号による改正前のもの)27条,29条,30条)をも併せ考えると,同委員会は,審査申出人の主張しない事由についても審査の対象とすることができると解すべきである。そうすると,同委員会による審査の対象は,登録価格の適否を判断するのに必要な事項全般に及ぶというべきであり,審査決定の取消訴訟においては,同委員会による価格の認定の適否が問題となるのであって,当該価格の認定の違法性を基礎付ける具体的な主張は,単なる攻撃防御方法にすぎないから,審査申出人が審査の際に主張しなかった違法事由を同訴訟において主張することが,地方税法434条2項等の趣旨に反するものであるとはいえない。」
明確に評価審査委員会による審査の趣旨を納税者の権利保護と固定資産税の賦課における行政の適正な運営という点に解して、かかる点から、追加主張においても単なる攻撃防御の手段であるとして、前置制度の趣旨を理解している点は本件の特徴的な点である。個人的にはこの点から、固定資産税の判断において追加主張の許容以外にも波及する可能性があるものであるのか注目される。
権利の保護と、行政運営の適正化を趣旨とした租税制度自体が他に例があるのかという点も更に検討したいところであるが、これほど明確に権利保護の観点を租税制度に認めた事例は近年の我が国の租税制度の理解においては非常に珍しい物と考えられる。更に評価委員会の審査対象を登録価格の適否を判断する全てに及ぶものと審査対象の範囲を非常に広範囲に捉えていることも重要であろう。この点からは、評価委員会の位置づけ、前置主義の理解が変化したものともいえ、今後の評価委員会の運営においても幅広い、積極的な資料収集が求められることになるともいえる。本件では賦課課税方式であるがゆえの判断であるのかという点は定かではないが(特に明記されていない)、本件判示を契機に理由附記等の整備が国税とは異なっており、かかる点からも評価委員会の趣旨、機能は理解、整備されていくことになるのであろうか(実態的にそのような運営が可能であるのかという点は、評価方法の複雑さから難しいのではないかともいえようが)、何れにせよ納税者の権利保護の観点からは重要な判断であり、取消訴訟での追加が認められるということによる本判決の影響を更に検討していく必要があるだろう。
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