さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年2月13日裁決で、違法な貸金業を営む実質的な経営者が誰であるのかという点が課題となった事例です。
本件は具体的には、無登録で貸金業を営む(この時点でダークな、形態であることは明らかですが、銀行口座を売買して、本人名義とは異なる形で返済口座を準備するなどまず一般にお目にかかる事業主ではない人です)請求人が、このような未登録として違法な事業を行ったところ、かかる所得は実質的に請求人が行ったものであるとして所得の帰属を課税庁が行い決定処分を行ったことから、貸金業の重要な資産となる元金(たまり資金)を請求人は保有しておらず、本当の実質的経営者が別におり、かかる者が所得者として認定されるべきであるとして、不服を申し立てた事例である。実質的な所得者の認定は、所得税法における重要な原則として下記のように明記されているものであるが、古くからその帰属者を以下にして認定するべきであるのかという点は、争点とされてきた。近年のように、従前であれば個人の趣味や事業的な規模に至るようなものではないような活動であったものの環境が変わったような社会的環境においては、更にネットを活用した事業のように自動化された環境で収益が獲得されるような場合においては、如何なる形で所得の帰属者が判定されるべきであるのかという点は課題となっているものであり、古くて新しい課題であろう。本件は、違法な、実質的には犯罪収益に属するような事業形態における所得の帰属者の認定が課題になったものであり、いささか特殊な事例ともいえようが、そして事実認定を基礎とした課題であると評価されようが、所得税がその基礎として、非常に広範囲の対象を課税対象としていることも含め、実際の所得課税の現場を垣間見る上でも参考となる事例であろう(民間の租税実務家でこの種の事例になれている人はいないとは思うが)。
所得税法
実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
以上のように、本件は違法な事業による所得の帰属者を中心的な争点としている。本来ならば、所得の実質的な帰属者の判定において、上記所得税法12条の実質的な所得者が如何なるものであるのかという部分を基礎として判断を行う。しかしながら本件は、下記のように事業所得の意義から、事業帰属者は、その経営主体という実体という点から判断を行っている。事実認定として帰属者を判断するものという点から考えれば、このような事実関係の評価を基礎とした判断を行うものであるのかもしれないが、経営主体としての実体を最終的に社会通念に従うことで、判断を行うこととしている。このように考えれば、そもそも違法な、未登録の貸金業が事業としての実体を有するものとして評価される事自体が困難であるのではないだろうか。この枠組において、事業としての自己の計算等をもって所得の帰属者を判断する論理展開は矛盾をきたしているようにも捉えられる。
事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断するのが相当である。
法的な根拠を必要とする租税法規の基本的な立場からは、12条は収益の帰属者を享受する者に求めており、事業の主体である、経営主体であることを要求しているものではない。この点で、本件はいかなる理由からこの判断枠組みを採用したものであるのか定かではないが、経営主体イコール収益の帰属者であるという前提をおいているものであるのではないだろうか(現実的には、ここはイコールであることがほとんどであろうから実体的には問題にならないのであるかもしれない)。そもそも経営主体という概念自体が曖昧なものであり、その実体を如何に把握するものであるのかという部分は安定を書くものではないだろうか。
おそらく、本件で請求人の主張にあるように、本来の経営者は別におり、所得や収益の帰属、実体としての存在が確認し難いものであることから、事業主体を認定し、所得の帰属者という判断を行っているものであるのであろうが(この存在に関する請求人の主張の判断は退けている)、立証という点において、別件訴訟における記録に依拠するのみで、簡易な方法にとどめているものであり、法的な根拠という点では結果的に劣位なものとなっているものとも考えられる。
本件のような法的に違法性を帯びているような取引に関する所得は名義を重要視しないことは当然とも言えようが(口座名義に代表されるように)、本件の事実認定としては売上(収支)の管理以外にも、要員の採用や指揮命令等も重要な判断要素としている。この点は事業主体を判断するとした点からは、整合的でもある。しかしながら、事業の結果である収益の帰属にこだわらず、事業の形態に着目し、収益の帰属というスポットな時点での判断から拡張的に、比較的時間的にも幅のある状況を前提として判断をしていることを鑑みるならば、請求人の主張のように、事業において重要な資産(この場合はたまり資金、元金であるが)を如何にして管理しているのかという部分は、重要な判断要素となるべきであり、この点を特段の理由なく、排斥している点は矛盾を抱えているようにも評価される。
以上のように、本件では経営主体の判断を行う上では、事業の開始、スタート段階を考慮しており、比較的、判断のタイミングを幅広くとっている。この点は本件の特徴的な部分ではあり(一部資産の状況などを排斥している点も見られるが)、経営主体の認定と所得の帰属者をリンクさせている点は、留意しておくべきであろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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