2020年8月19日水曜日

判例裁決紹介(津地判平成30年3月15日、市街化調整区域に対する太陽光パネル設置に伴う固定資産税評価額の変更)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、津地判平成30年3月15日で、建物建設等が制限された市街化調整区域の山林に対して太陽光パネルの設置を行ったことにつき、新たに付与した固定資産税評価額(高額となる)を不服として提起された事例です。

具体的には原告が保有する土地(一面が傾斜地、市街化調整区域であって、建物等の建設、新設が制限されている、土地の取得価額は500万円、評価額は280万円)に対して、固定資産税評価額として、大部分が山林として評価が行われていたものに対して、太陽光パネルの設置が行われたことにより(実際に利用もなされている)、改めて付した評価額(雑種地としての評価、1400万円超)に基づく固定資産税が過大であるとして、提起された事例である。判示としては、原告の主張を認めず、適正な評価であるとして原告の主張(市街化調整区域としての反映、造成費等の反映等)は排斥されている。

取得価額を大幅に超える金額、あるいは従前との評価額においても大幅な乖離があるものであり、本件はその金額が高すぎるとの納税者の意思が起点となっているものである。納税者の感覚は理解できないものではないが・・・。本件は、近年増加している固定資産税評価額の適正性が争われたものであるが、太陽光パネルの設置を契機としたものであり、従前の土地活用においては存在しなかった大幅な収益を生み出しうる存在が出てきていることが本件も含め、太陽光パネルの設置に伴う租税関係紛争の増加に現れているものである。本件のような傾斜地で、山林のしかも市街化調整区域(私も開発審査会で関わりもありますが、また租税法規からも離れる問題ですが、そもそも市街化調整区域にあって市街化の抑制を図る制度趣旨から、家屋等の新設が事実上規制されている土地において、太陽光パネルのような構築物といえど設置が認められるという現状は趣旨に反するような気もします、現状の太陽光パネル位置づけなどから特に発電用途に利用される以上、駐車などのような構築物として位置づけるべきかは疑問です、郊外地の利用促進など土地の利用形態や周辺環境が変わっている現況化において、だいぶ昔に設定したゾーニングで市街化調整区域であるとした認定そのものが現況と不整合になっているのかもしれません)であるようなところには従前、家などを建築することが出来ないという性格からほとんど評価がなされない状況にあったものが、この設備が一般化したことにより、利用価値が出てきていることが注目されるものであろう(そのような意味で代表的な社会状況の変化になっているように思う)。この利用価値の新たな発生が租税法規においてどのように取り扱いをされるべきであるのかという部分が本件の問題の起点となっているものである。

(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準)
第三百四十九条 基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。
2 基準年度の土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。ただし、基準年度の土地又は家屋について第二年度の固定資産税の賦課期日において次の各号に掲げる事情があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることが不適当であるか又は当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡を失すると市町村長が認める場合においては、当該土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。
一 地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情
二 市町村の廃置分合又は境界変更

以上のように、本件では平成27年の基準年度に付した評価額から利用用途が異なることを認定し(この利用用途の人体は近年ドローンなどで確認しているところもあるよう)、平成28年度になって改めて評価額の変更を行っているものである。本件の原告主張は、主に固定資産税評価における評価基準の適用にあたって、上記のように造成費用や市街化調整区域の反映がなされているのかという部分が中心的な争点となっている。しかしながらこの点は、固定資産税評価額の認定上、固定資産税評価基準の適用によるものであり、下記のように本件でも時価の判断においてその基準による評価が合理性を推定されているものであり、評価基準を逸脱した評価を行うことができる場合はかなり限定的な場合とされている。かかるような評価基準において二重の合理性(客観的な交換価値という部分と評価基準の関係)が法令解釈上適合的であるとの判断を前提とする以上、市街化調整区域としての特殊性を訴えても一定の配慮(評価においては50%の評価減を行っている)以上、その合理性をということは困難であろう。なお、造成費に関しては実際に土地の利用において必要とされていない以上、後出しじゃんけん的であるともいえるが、その考慮を否定した判断がなされている。


地方税法341条5号の「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解され,固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客槻的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

 そして,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,〔1〕当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか,あるいは,〔2〕これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回るときであると解される(最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。


事実上、本件の争いとしては、原告の主張にも織り込まれていないが、基準年度の評価が離れて新たな評価額を付した段階が適正か否かという段階で問題の中心がほぼ解消されている。山林から雑種地へその地目が変更され、その評価額の認定が異なるものとして受け入れている段階(この点についてはほぼ争いがない)で、上記のような枠組みでは具体的な固定資産税評価の争いは、認定に過誤がない限りは、納税者の主張が認められることは期待できないだろう(大幅な評価額のアップは適正な負担であるのか、取得価額を大幅に超過することへの不服はあり得ようが)。


私見としては本件は現行の枠組みでは、上記のような判断となることは異論がないものといえよう。制度的な課題としてこのような大幅な負担の変更を許容するのか(過酷ではないか)あるいは、土地の利用拡大を図る上での成約となるとの主張もあり得ようが、いずれも立法に属する問題であり、太陽光パネルの登場という点で一部の特殊事例と捉えるべきか、あるいは社会情勢の変化に伴う具体的な現れであり、本件のような負担の大幅の変更を如何に捉えるべきか等を制度的に検討すべきであるのかより検討すべき段階にあるのかもしれない。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。




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