2020年8月13日木曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月17日、特定生産性向上設備の導入と事業の用に供しているか否か)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年1月17日で、中小企業における特定生産性向上設備の導入とその償却費が計上できるか否か、すなわち実際に事業のように供しているのか否かという部分が争われた事例です。

具体的には、本件の原告たる法人(運輸プラス太陽光発電事業、法人の事業年度は3/31が事業年度末)が、太陽光発電事業のため取得した発電設備及び発電設備を保護するフェンス等(法的設置義務のある)を事業年度末の近い3/28に取得し、租税特別措置法に定める中小企業者等の特定生産性向上設備の取得に伴う特別償却の適用した損金の計上を行った確定申告を行ったところ、課税庁より当該設備は、特に発電設備は送電を行う東京電力に接続する契約の申込みを行った段階であり、設備は存在するものの実際に発電を行い送電を行うことができるような状況にはなかったとして事業の用に供されていないと判断し、更正処分を行ったことを不服としてその取消を求めた事例である。
対象となる資産が事業のように供されているのか、如何なる段階にあるものと事業の用に供しているのかという判断を行うべきであるのか、そのタイミングを具体的にどのように判断するべきであるのかという点が中心的な争点になっているものである。以前、本件に関する裁決例を取り上げているが、当該裁決では太陽光設備本体は事業の用に供されていないという判断であり、フェンス等は機能しているとして一部納税者の主張を認めているものであるが、本件もその判断が維持されているものと考えられる。各種事業や設備を機能させる段階においては、当然幅があるものであり(テキストと異なり、いつ始まっているのかというのはそんな簡単に判別できるものではないことが実務における留意だろう)、このタイミングを具体的に判断する枠組みに関しては従前課題とされているものであるが、本件は比較的単純な太陽光発電の開始という点が争われたものであるが、本件の判断の枠組みは法人税法において如何なるタイミングをもって事業の用に供されているものと判断するべきものであるのかという点を考える上で興味深い事例であろう(特定生産性向上設備の特別償却に限らず)。基本的には、事業のように供しているのかという事実関係の問題とも言えようが、法人税法における事業とは、そして供しているとはどのように理解されるべきものであるのかという部分が起点となっているものであろう。事業はスポットで行われるものではなく、活動している、流動している概念であり、準備段階の存在や実際の活動においても様々なフェーズが考えられる。特に資産の活用において準備段階にある場合がどのように、事業に活用されるている段階にあるのかという点(おそらく複数の資産の結合による場合や、物理的な拠点を有しない資産などではより困難であろうが)、以下に判断されるのかという点は、今後も検討すべきかであろう。


租税特別措置法(現行法、対象は旧法)
第四十二条の十二の四 中小企業者等(第四十二条の六第一項に規定する中小企業者等又は前条第一項に規定する政令で定める法人で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法第十三条第一項の認定(以下この項において「認定」という。)を受けた同法第二条第二項に規定する中小企業者等に該当するものをいう。以下この条において同じ。)が、平成二十九年四月一日から平成三十一年三月三十一日までの期間(次項において「指定期間」という。)内に、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物附属設備並びに政令で定めるソフトウエアで、同法第十三条第四項に規定する経営力向上設備等(経営の向上に著しく資するものとして財務省令で定めるもので、その中小企業者等のその認定に係る同条第一項に規定する経営力向上計画(同法第十四条第一項の規定による変更の認定があつたときは、その変更後のもの)に記載されたものに限る。)に該当するもののうち政令で定める規模のもの(以下この条において「特定経営力向上設備等」という。)でその製作若しくは建設の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定経営力向上設備等を製作し、若しくは建設して、これを国内にある当該中小企業者等の営む事業の用(第四十二条の六第一項に規定する指定事業の用又は前条第一項に規定する指定事業の用に限る。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。次項及び第九項において「供用年度」という。)の当該特定経営力向上設備等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定経営力向上設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定経営力向上設備等の取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額をいう。)との合計額とする。


減価償却資産は,法人の事業に供され,その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるから(最高裁平成20年9月16日第三小法廷判決・民集62巻8号2089頁),ある資産を「事業の用に供した」か否かは,個別具体的な事実関係を前提として,当該資産をその用途に応じた本来の機能を発揮するために使用を開始したと認められるか否かにより,認定及び判断すべきものと解するのが相当である。


本件判示では、上記のように、最判を引用して、事業の用に供することを用途に応じた本来の機能という点をメルクマールとして解している。この本来の機能をいかに判断するのかという点がいささか抽象的なものであり、そもそも法人の事業をどのように捉えるのかという部分も関連して幅があるものとして考えられよう。本来の機能という点は法人が行う行為事業が非常に多様であることを鑑みても、これをいかにして判断すべきであるのかという点が課題となろう。

件発電システム本体を「事業の用に供した」ということができるのは,本件発電システム本体により発電した電力を本件電気事業者に対して売電することができることが物理的に可能となったときであるというべきである。


上記のように、本件では明確に物理的に可能となったという点をもとに、本来の機能を発揮したとして実際の稼働を、そして収益獲得までの貢献をベースに判断しており、客観的な部分を基礎においている、実際の収益獲得の行為そのものを要求しているものではなく、収益獲得の貢献の有無が課題とされているものであろう。そもそもこの種の固定資産、減価償却資産は収益との直接の関係性は期待できるものではなく、間接的な部分にとどまるものであるから、実際に収益獲得を求めているものではないことは理解されようが、この判断を経営者、法人の事業目的のベースで判断しているわけではないことも留意されよう。資産の利用は法人の意思に左右されるものであるが、目的ベースで判断することは主観的な判断を行うことになり、法的安定性を損なうものと言えよう。本件判断では物理的に資産が利用可能な状態にあることが重要な判断の起点となるべきと理解するべきであろう。もちろん近年は、物理的な実態を有した資産に限らず、活用されることがほとんどであり(このような資産類型の判断の枠組みが更に問題になるだろうが)事業の用に供していることはこのような物理的な存在に依拠した判断以外の基準も更に検討されるべきものであろう。

このように考えると判示でも、納税者の主張においても行われているが、外形が完成した不動産の募集における広告等においても事業を開始したと判断されている通達が本件に適用されうるか、すなわち実際の資産を活用していなくとも(本件では太陽光発電を設備を稼働させているのか)、判断しうる余地があるものとして理解されるのかという点が主張されているように、本件通達が実物資産の稼働の有無を緩和するような通達であるのか、どのような性格を持つものであるのかは議論が必要であるが(不動産事業において入居者の獲得は内容的に関連することは特に異論の余地がないだろうし、実物資産を見せるなど程度問題であるが稼働状態にあるとも認定できよう)、そもそも、本件の事実関係では発送電先との接続ができていない点で、適用の事実関係が異なるとも言えるが。ただ、主張のように実際の稼働を問わず使える状態にあること(資産の設置や、準備が出来ていること)が判断の基準となるものではない、供しているという文言の解釈として実際に収益稼得に直接的に関連付けられなくとも適用の余地はあり得ようが、実際に稼働していなくとも、あるいは稼働できる可能性がかける場合において、適用の可能性があるとは評価しがたいものと考える。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


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