2020年7月13日月曜日

判例裁決紹介(最判令和2年7月2日、破産会社における過払金返還請求に過年度損益修正と公正処理基準)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和2年7月2日)で、非常に最近の最判ですが、破産会社における高裁が認めた過年度への遡っての損益の修正を否定した事例です。

具体的には、非上告人である法人(破産会社、管財人あり)が平成24年に破産手続きを行い、かかる破産手続の確定により過払金返還請求による債務(制限超過利息に関する不当利得の返還請求)が確定したことを受けて、もって過去に納付した法人税の申告における益金の修正が行われたものとして更正の請求(返還された金額を破産弁済に活用する)を行ったことに付き、課税庁が前期損益修正として、当該確定した年度における損益として扱うべきであり、更正すべき理由がないとした処分について、その取消を求めた事例である。納税者としては不当利得であり、各事業年度に遡って事業年度における各益金を修正して納税額を返還すべきとしていたが、課税庁は、前期損益修正として、当該債務の確定、したタイミングでの計上を行うべきとして、主張が対立しているものである。法律的な側面に慣れている人であれば、当該過払金は、益金として計上されているものであるが、不当利得であり無効(取り消し)対象であって、最初からなかったものであり、法人所得として捉えること自体が問題であるとの考えに親和的であろうが、本件は、その処理方法として債務が手続きにより確定した段階をもって損益を計上すべきとした(これが、従来の処理であろうが)対応が中心的な争点となっているものである。

原審は、破産会社であり、会社法における損益の遡及修正は、
「破産会社において過年度に計上した収益の額を修正する必要がある場合には,事後的な修正をしても,株主
等の利害関係人や債権者との利害調整の基盤が揺らぐとは考えられない。」

として、利害調整を基礎としたものであり、破産会社の特徴から事後的な修正であっても利害関係者等との調整が困難になるものではないとして、いわゆる法人税法22条4項の公正処理基準への該当性を認め、納税者の主張を認め、過年度の法人所得の修正を認めたものであるが、会社法や企業会計における、基本的な目標としての利害関係の調整という視点をもって公正処理基準への該当性を認めうる、拡張的に捉えたものであるように考えられるものであったが、本判決は、この該当性を否定して、破産会社であっても、法人税法の基本的な原則である、事業年度ごとに計算することから逸脱することが公正処理基準の観点から認められるものではないとしている。本件では明確に公正処理基準の意義をどのように解するものであるのかという点は最判において触れられていないが、破産会社という特徴をもって(弁済額を多くするため)公正処理基準の該当性を図ることは否定的に捉えられているものである。

法人税法における公正処理基準は、下記のように、別段の定めがるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に準拠することを認めた基準であるが、損も具体的な範囲がいかなるものであるのかという点は、従来課題とされてきた。

法人税法22条
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

私見としても、公正処理基準は法人税法の基本的な目標として適正な法人所得の計算にあるものであり、かかる目的の範囲内で便宜的に会計基準や会社法における処理を許容するものであると考えるが、会社法等における利害調整の目的(具体的にどのような対象の利害調整を対象としているのかという部分が多様であるように思われ、具体的な指針として機能するものであるのか、租税法規の立場から疑問であるであるが)、から、かかる点への影響が限定的であるとして、公正処理基準への該当性を判断する枠組みは法人税法の解釈として採用し得ないものであると考える(この点は他の会計処理の該当性判断においても同様であろう)。公正処理基準はあくまでも法人税法の規定として捉えられるべきであろう。

本件のように益金の基礎たる部分に法律的な原因がないものと理解される部分に関しては、すなわち不当利得にかかる部分に関して租税負担を課すこと自体に反対意見があることは理解されるが(おそらく法律を生業とする人にとっては不当利得でも課税されることには違和感が強いのであろう)、本件は立法に属するものであり、租税法律関係の早期安定や、欠損金、不当利得の取り扱い、破産会社に限定されず一般法人における遡及修正の是非等の総合的な観点から検討されるべきものであるのではないだろうか(申告納税方式を基礎とする以上、そして包括的な所得を基礎とする以上は、各事業年度に区分して課税を行う現状を否定する事になりかねず、法人税法全体の体系に反するものであり、制度的にはハードルが高いように思われる)。

本件判示も下記のように、事業年度ごとの計算を法人税法の原則としており、遡及修正は反するものとして理解している。一般的な会計基準や会計慣行においても遡及修正は認められていないところから、法人税法が先行すべき理由はないものと判断しているのであろう。課税標準を明確に事業年度として、確定決算主義を採用することで、各事業年度の確定し他申告をベースにした計算方法がベースであるという点は、本件のように、破産会社に限らず、一般的に言えることでもあり、本件の判示として、破産会社以外に、一般法人においてもその遡及を廃することになるとも射程範囲として理解することもできよう。

法人税法も,事業年度(法人の財産及び損益の計算の単位となる期間で,法令で
定めるもの又は法人の定款等で定めるもの等。13条)における所得の金額を課税
標準として課税することとし(21条),確定した決算に基づき各事業年度の所得
の金額等を記載した申告書を提出すべきものとしており(74条1項),国税通則
法も,当該申告書の提出による申告をもって,当該事業年度の終了時に成立した法
人税の納税義務につき納付すべき税額が確定することとしている(15条2項3
号,16条1項1号及び2項1号)。


いずれにしても判示は、破産会社において、
「課税関係の調整が図られる場合を定めたこのような特別の規定が,破産者である法人につい
ても適用されることを前提とし,具体的な要件と手続を詳細に定めていることから
すれば,同法は,破産者である法人であっても,特別に定められた要件と手続の下
においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているもの」

として、公正処理基準による法人税法の計算原則からの例外を許容しないと判断している。
他の法人税法規定による、課税関係、特に、過年度損益修正を規定している繰越欠損の規定から、法人税法は、法人税法は原則的な計算を基礎としているものであり、かかる計算が法人税法の計算として基礎的な目的に相当するものであると理解しているといえよう。しかるに、このように考えるならば、上記のように破産会社に限らず一般法人も遡及修正は否定的に解されることになるだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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