2020年7月18日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年10月18日、高額譲受による資産の譲渡と売上原価、寄附金)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月18日で、時価よりも高額(約1億)により購入した土地の譲渡に関する売上原価において、当該時価よりも高額な部分は除外することができるかどうかという点が争点になった事例です。

具体的には原告である不動産業を営む法人が、取得した土地(取得対価は、譲渡法人への当該法人の貸付け等の相殺による)に関する取得価額が時価よりも非常に高額(約1億円)であり、当該不動産の譲渡において、この高額な譲受金額をもって売上原価として損金計上を行い、もって繰越欠損を計上した確定申告につき、時価を超える金額は売上原価から除外されるべきものであるとしてその損金計上を否認した課税庁の処分を不服として提起された事案です。何故か岡山の事案が東京で争われるなど、些か不明な点もある事例ではあるのですが、売上原価という損金、費用計上において最も基本的な部分でありながらも、時価との対比、寄附金の認定等、法人税法上の計算の影響を受けるものとした事案であり、実務的にも影響を及ぼす(おそらく、金額的にもこのような取引は少ないでしょうし、そもそも高額譲受け自体が純経済人の行為としては不合理なものであることは言うまでもないことですが、意外とこのような関連会社等を活用した費用分配に属するような取引は行われているものであろう、グループ法人税制の点からも検討すべきであろうが)可能性があり、今後の参考となる事例だろう。


棚卸資産の販売の収益に係る「売上原価」とは,当該資産の「取得価額」を指し,購入した棚卸資産の「取得価額」には,「当該資産の購入の代価」が含まれるとされている(法人税法29条2項,法人税法施行令32条1項1号イ)。

本件土地のように購入した棚卸資産の「購入の代価」はその販売の収益に係る「売上原価」として損金の額に算入されることになるが,時価よりも高額な売買代金による高額譲受けが行われた場合に,当該資産の「購入の代価」をどのように評価すべきかについて,法人税法や法人税法施行令に直接の規定は設けられていない。

以上のように本件は、高値で仕入れた土地の金額が購入の対価として売上原価を構成するものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。時価相当額がいくらであるのか、同族会社の行為計算否認の適用、当該高額部分は合理的な対価を含むものであるのかという点な中心的な争点となっていない(債権放棄における合理性と寄附金の関係が通常は争われるような事案ではあるだろうが何故かこの点は主張が少なく、主たる争点となっていない)。判示としては、寄附金の法人税法37条の解釈から本件のような高額譲受は、寄附金に相当するものであり、かかるようなものは、購入の対価に該当しないとして原告の主張を棄却している。

下記のように、法人税法は、37条8項において、いわゆる低額譲渡に関しては、明文をもって寄附金への該当を定めている。原告の主張は、このような法的な基礎を持たない、高額の譲受けの場合は、本件のような損金から除外することは、違法であるという主張を行っている。

  法人税法
(寄附金の損金不算入)
第三十七条
内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

内国法人が資産譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち
実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することから,当該金額が損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないものであることを
確認的に規定したものと解される。
法人が時価よりも高額の売買代金により不動産等の資産を購入した場合も,売買代金と時価との差額は,買主たる法人から売主に「供与」された「経済的な利益」であり,そのうち「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については,「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することになるから,当該金額は損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないこととなるものと解される。」

しかしながら、判示は、上記のように、法人税法の寄附金規定は、取引を否認するものではなく、租税法規の適用上、その効果を損金算入否認という形で表現するものであり、寄附金の額としては、非常に広範囲のものを対象としており、8項は確認的な規定(少し話はずれるが、そもそも8項における低額譲渡のうち、その具体的な金額を規定する実質的に贈与等した金額と認められる金額とはいかなるものであるのだろうか、実質的にという部分をどのように解するべきであるのかという点は解釈論としても具体的な金額を確定するためにも些か不確定な文言であるようにも捉えられる)であるとして、本件のような高額譲受においても寄附金の該当性を認めている。寄附金規定の包括的な対象を基礎としている以上、8項を確認規定と理解して、7項から本件のような高額譲受に関しても寄附金該当性を認める事となっているものであろう(この是非に関しては賛否が分かれる物と言えようが法人税法がその固有概念として寄附金を包括的に規定していることは明らかであり、高額譲受を対象から除外していると理解することは趣旨に反するものであろう。具体的な金額として実質的な金額を如何に捉えるのかという点は気になるところであるが、本件では時価との対比される金額については大きな争いはない。)。

以上のように判示は前提として寄附金規定の解釈から、このような高額譲受の時価との乖離相当額を売上原価として否定して損金に算入することを否定しているものである。しかし、以下のように、寄附金としての該当から、損金算入制限を受けるものであるという点から下記のように売上原価、あるいは購入の対価ではないとする判断、直接的に売上原価から除外して、損金算入はできないと判断をすることの論理が必ずしも定かではない。

たしかに法人税法は、寄附金への該当するものとして認定されるものに関しては、損金算入を否定しており、結果として損金算入を否定するという点において売上原価から除外することと差異はないのかもしれない。しかしながら、寄附金規定は損金算入限度額を設け、その超過額を損金算入を否認するものであり、売上原価ではないとして損金としての該当性を判断するものとは法人税法上の適用される計算構造が異なるものである。寄附金としての認定、該当性を基礎とするならば、37条の直接的な適用による損金算入限度額の計算に当てはめられるべきではないだろうか。従って判示は下記のように売上原価とは異なる別の費用損失として損金該当性を判断するものとしているが、仮に別の費用損失であるとしても寄附金への該当性が直接争われるべきものであることには変わりなく、本件ではこの点の検討、特に対価性の議論がより行われるべきであるのではないだろうか(おそらく本件高額部分が結論として寄附金へ該当して損金算入に制限を加えられることに相違はなく、売上原価に該当しないからと言う部分を判断しているだけでは本件の中心的な争点である損金算入への影響を判断することは困難であろう。)。


「「寄附金の額」と評価される場合には,法人税法の適用上,損金の額への算入が制限されるのであるから,そのような扱いを受ける当該差額は,当該資産の販売の収益に係る費用として当然に損金の額に算入される「
売上原価」とは異質なものといわざるを得ず,「売上原価」とは異なる費用又は損失の額として別途損金該当性を判断すべきもの」

判示でも述べられているように、法人税法上の寄附金規定は、私法上の法律行為としての否定や変更等を伴うものではなく、寄附金への該当から損金への否定を行うのみである。上記のように売上原価とは異質なものとして評価してるが、本件はあくまでも寄附金という法人税法上の損金の一般規定ではなく別段の定めという部分の課題であり、法人税施行令が購入の対価を持って棚卸資産取得額と定めている部分について、特に購入の対価の解釈を寄附金規定の影響を鑑み、固有の概念として理解しているようにも捉えられる。すなわち対価という私法部分での評価を覆すものとして、限定的に捉えるべきものであろうか(最終的な結果は変わらないかもしれないがこの部分の解釈に関しては予測可能性を基礎とする租税法規の解釈においては整合しているものであろうか)。29条と37条の関係の問題であるのかもしれないが、法規上は29条において売上原価として認めても37条の適用の余地はあるものであろう。課税庁の主張としては売上原価として認定することで対価性が認められ、もって寄附金の該当性を否定されることになることを危惧したものとも理解することはできるが、8項とは異なり明文の規定がない高額譲受を用いて法人税法上の売上原価、購入の対価の範囲を限定的に解することは租税法規の基本的な要請として予測可能性を担保しているものとは言い難いのでないだろうか。本件は寄附金としての該当性を中心的な争点として争われるべきものであったように思われる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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