さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、大阪地判令和元年11月7日で、従業員の横領に伴う架空仕入れの計上が法人の行為と同視されるものとして重加算税の対象となるのかという点が課題となった事例である。
具体的には、本件はパチンコを営む原告がなした法人税に申告において、架空仕入が計上されていたことが調査により判明し、当該仕入が従業員の横領【に伴う現金不足を賄う目的で、経理操作、会計ソフトの修正【調査により、発覚したものであるが、会計ソフトの修正履歴を追いかけて発見している。ある意味当然ものともいえるのかもしれないが、近年の修正履歴を追いかけるような調査手法は現場でも珍しくなくなっているのであろうか、個人的にはこのようなシステムの修正は仮想等に該当するのかという部分も興味深い】を行ったものであり、仮想隠蔽に該当するとして重加算税の賦課決定処分を受けたことをもって、従業員の犯罪行為によるものであるとして、重加算税の賦課決定を不服として提起された事例である。従業員の横領に伴う損失の計上時期や法人の行為として捉えられるものであるのかという点が争点となっている事例は特段珍しいものではなく、本件もその類型に属するものである。損失の求償に関しては、従業員と法人の間で民事により回復される問題であり、従業員の犯罪による損害を租税負担においても追うべきであるのかという点が、すなわち法人としても従業員の犯罪の被害者であり、法人が追加的な租税負担を受けるものとして捉えることは非合理であるとする感覚がスタートラインにあるものであろう。この点は理解できないものではないが、この考えに基づけば個人と異なり、法人において組織的な仮想隠蔽でない限り、重加算税の賦課対象とならないものともいえ、対象範囲を制限するものであり、重加算税の趣旨目的からかかる解釈は否定されている、従来の判断に整合的な事例である。基本的には、かかる従業員の行為が法人の行為として認められる得るものであるのかという点が課題となった事実認定が中心の事件ではあるが、法人の管理体制を省みる上でも参考とすべき事例だろう。
(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように、本件の中心的な争点は、上記国税通則法に定める重加算税の賦課において、納税者が行為の主体として行う場合に、この納税者を如何に解するべきであるのか、特に法人において、組織的な行為以外にも法人の行為として認定されうる、従業員、経営者等の行為が含まれるものであると解されるのかという点が争点になっているものである。
この点につき、本件では、下記のように、最判を引用して重加算税の趣旨目的から納税者の意義を拡張的に解釈している。かかる点は重加算税の趣旨からも合理的であろう。
通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装し,その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は,隠蔽仮装行為の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年判決参照)。
本件のように,納税者が法人である場合,当該法人の構成要素として存在する役員及び従業員をして,法人の事業活動,経済的活動が行われると同時に申告納税義務を適正に履行することが求められているのであって,これらの者に対する不十分な指揮監督,組織管理の不備という法人の内部的事情を理由に,申告納税制度による適正な納税義務の履行を免れるとすると,重加算税制度の趣旨及び目的が没却されることになりかねない。
そうすると,納税者である法人において,その従業員が隠蔽仮装行為をし,その隠蔽仮装行為をしたところに基づき過少申告がされた場合であっても,当該法人において,従業員による隠蔽仮装行為を認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,当該法人においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,当該法人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。
しかしながらより具体的には法人の構成員たる従業員等に対して、職務権限や行為の態様が法人の行為として認定されうるものであるのかという点から判断される従来ものと異なり、不十分な指揮管理、組織の管理の不備から、従業員の不正行為を容易に認識、是正される事が可能であったそれを怠ったことに、法人としての行為に該当するものとして判断している点は本件の特徴的なものである。従来判例で問題となることが多い、代表取締役や役員等の対象ではなく、従業員であることがこのような内部管理上の不備を納税者の行為として認定しうるものと判断しているものである。我が国の中小企業の実情から内部管理の状況を反映させた判断を行うことは、事実上法人の責任を強化するものではないかとも考えられるが、職務権限等の具体的な行為を問題とせず、間接的な内部管理上の不備が法人の責任として、相当な注意を払っていないとして、法人の行為と同視されるものであるのかという点は些か拡張的な判断ではないだろうか。重加算税が行為をその判断の基礎においている以上、重加算税の直接的な対象となる仮想隠蔽の行為を対象とするものではなく【会計システムの修正】ではなく、法人の管理上の不備を基礎として法人の行為と同視するものとして判断が導かれているが、かかる点は納税者の行為として重加算税の対象とすることは困難ではないだろうか。ちなみに、税理士には依頼していることは、内部管理上の整備としては全く考慮されていない。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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