2020年9月1日火曜日

相続財産としての同族会社への貸付金の評価

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年10月25日裁決で、相続財産における同族会社への貸付金の評価が課題となった事例です。

具体的には相続人たる請求人が相続による取得した同族会社への貸付金(6850万)を当該相続税申告において、元本金額で評価して申告し、更正の請求において当該貸付金の評価は過大であるとして(回収不能の金額がある、相続時点では債務超過、ただし、同族会社の借入金は、この借入のみであった、事業は継続しているものの停滞しており、請求人の後継者も存在していない)、主張したところ、更正すべき理由はないという通知処分があったことから、係る評価を不服として提起されたものである。

本件の主たる争点は、貸付金という債権の財産評価額であり、相続税申告においては、主要な論点である。おそらく、相続対策でも貸付金の評価は、あまり考えずに額面が基本となっているものと思われるが、本件は、同族会社、あるいは債務超過の状態にあることを基礎として、その評価額を争った事例として、相続税の基礎たる財産評価においても、特徴的な事例である。法人課税等の文脈においても貸付金等の貸し倒れ、評価減(部分貸し倒れは否定されるが)が本件も同類型の債権の評価、特に同族会社における評価としては類似の事例であり、かかる点からも参考となるものであろう。

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

以上のように本件は、上記相続税法の基本中の基本たる評価の原則として定めのある、時価というものが如何なるものであるのか、という点を中心的な争点としている。
判断では、この点につき、下記のように、

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財
産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは
相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
しかし、相続財産は多種多様であるから、その客観的交換価値は必ずしも一
義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとしたときには、
その評価方法等により異なる評価額が生じて納税者間の公平を害する結果とな
ったり、課税庁の事務負担が過重となって大量に発生する課税事務の適正迅速
な処理が困難となったりするおそれがある。

財産評価基本通達の位置づけを前提として、すなわち、通常の通達とは異なり、財産評価基本通達における評価が事実上の時価としての推定を受けるような状況にあることを基礎として判断を行っている。この点は実務家においても異論のないことであろうが(裁決でもあるし)、通達による一律の評価が法令解釈として合理性を有しているものとしている。

その上で、本件の事実関係から、評価通達205におけるその他回収が不可能等であると見込まれるものであるのかという点が事実認定として争われていることになる。

(貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)

イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき

ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき

ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき

ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき

ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき

ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額

イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額

ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額


以上のような条件には本件の状況は該当しないが、債務超過の状態にあること、そして事業の継続性が疑義がある(後継者がいない)という点が評価額の減少に繋がりうるのかという点が具体的に見解が別れているものであろう。一見すると債務超過は回収可能性に影響があることは否定しがたいものであるが、必ずしも決定的な要因としては判断されていない点は本件では重要であろう。同族会社であることが影響しているものであるが、単に債務超過にあることを強調するのではなく、他からの債務がなく、債権回収による事業の継続が危ぶまれるものではないという点に力点が置かれているものと捉えられる。いわば債権評価における回収可能性を、資産の状況に限定することなく、経営、事業継続という点も加味して多面的に判断を行っていることは判断枠組みとして重要となるのではないだろうか。

また、経営状況に関しても、本件では、請求人の後継者がいないなど、事業の継続性危ぶまれる状況が請求人の主張の基礎となっている。結果論として判断でも実際には、事業が少なくとも継続していたことを加味して、かかる主張を排斥しているようにも評価される。相続税がその取得の時を一定時点として判断する構造をとっている以上、将来時点の状況、後発的な状況をを加味することは、相続税法における判断として困難な点である。債務等でも取り扱われる課題ではあるが、相続時点での将来の状況は客観的な交換価値という点からも、特に本件のような交換価値を減少させることが客観的に担保されるものであるのかという点からも評価される事になり、後継者や事業の状態などは、判断要因としては劣位として理解せざるを得ないことを認識されるべきであろう(立法論としての救済の余地は議論されるだろうが)。近年は、事業の継続、法人の継続は必ずしも担保されるものではないのが現状であり、後継者不足の状況は特段珍しいものではないが、相続税評価においては、本件のように、将来情報として考慮要因としては限定的に評価されるものと考えられる。

いずれにしても、貸付金の評価は相続税法においては、評価減を図ることは限定的、ハードルが高いものと言うことは改めて認識されるべきだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



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