さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年1月30日で、固定資産税の過大徴収による、国家賠償請求(対象は東京都ですが)が認められ過去20年に遡求して返金(約1400万)が認められた事例です。
具体的には一般財団法人(地図データの管理を行う・・・このような業務を行っているところが一つ本件の起点ともなっています)が原告としてその保有する土地に対して過去(平成初頭から)付与された固定資産税評価が過大であり、より正確には、土地に対する評価の付与において、本来3方を路面に面しているものである土地が4方を路面しているとして評価され、20年超の期間に渡って、過大な固定資産税の賦課が行われていたことにつき、国家賠償請求を行った事例である。この評価の誤り(あえて誤りと表現されるべきものであり、すでに評価委員会への不服審査の段階で、過去5年分については修正が行われている)に関しては実質的な争いはなく、評価の修正がすでに行われているものであるが、本件の中心的な争点としてはこの評価の誤りが国賠法における賠償請求の対象たりうるものであるのか、すなわち公務員の職務における賠償に関しては下記のように、最判が限定している注意義務違反を認めうるものであるのかという点が争点とされた事実認定が中心的な争点になっているものである。
職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断をしたと認め得るような事情のある限り,国賠法1条1項にいう違法があったものとの評価を受けると解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号,同第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照
上記のように、結果として本件は、課税庁としての地方自治体の責任を認め、
本件南側区有地は平坦な地面であって,本件南側国有地に沿接する側には木が植えられており,明らかに本件南側国有地とは異なる形状,利用形態となっていた。そのため,現地で公図等の図面資料も参照しながら確認しさえすれば,このことは一目で明らかになるものとさえいえる。
として認定し、
被告担当職員が,本件土地の南側が玉川通りに沿接するとして本件土地を評価し,賦課処分を行う際に,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断したといわざるを得ない。
という形で厳しく処分庁の責任(注意義務違反)を追求し(ほぼ現場確認していれば判別がつくものという評価)、もって、20年分の返金(損害賠償請求の最大)が結論とされている。つい最近までは、課税処分を行う上で、課税庁の誤りが認められることは極稀であり、主に本件のような固定資産税の評価基準が遡上に上がる程度であったのあるが、近年はその状況も変わりつつある(判例において20年の起算点を変更することも行われつつある)。本件もそのような類型に属するものであり、地方税の現場においては留意されるべきものであろう。国税の場合は、あまりこの責任が認められることは未だ珍しいものであるが、地方税においては基本的に賦課課税であり、租税専門家であっても漫然として書類による課税を受けている現状は今後はより変化しているものであろう。実際、大阪や東京では税理士や弁護士が主導して固定資産税の再評価を促しているケースが増加しているようである。
実際のところ、固定資産税評価は、昔の(私も生まれていませんが)各団体によって基準が異なるようなものであった現状から、固定資産税評価基準を整理し、全国一律に評価を実施することを担保していこう、そしてそれが法が予定する時価として適合的であるという判例がほぼ確立しているものであるが、かえって基準が柔軟性を失い、そもそも土地や家屋のような不動産という価格が複数あり得るような存在に対して客観性を付与した評価額をつけることが困難であることも相まって、基準の複雑さが増していることが問題の背景にあるものであろう。近年は更に、固定資産税にまで特例が増加してきており、システムや現況確認が遅滞している(改正も議論されており時間の問題とも言われているが、おそらく専門的な知見の蓄積や教育、マンパワーの不足は深刻だろう)物と考えられる。不動産をはじめとして財の保有という思考もシェアリングの進展とともに変化しつつあり、基幹税であるが、固定資産税も、保有のみに租税負担の根拠を求め利益の多寡に関わりなく負担を必要とされる租税として今後より、納税者からの追求は行われていくことになるものと考えられれよう(ちなみに私もこないだ固定資産税評価の練習してみましたが、基準の適用に関しては訴訟的には事実認定においてもかなり争う余地があるように思います)。
本件では原告が地図の関連業者であり、しかるに、かかる過大徴収を発見したものであるが、一般的な納税者においてもこれは気づくだろうか。実現性を無視すれば本来賦課課税である以上、申告納税方式を基礎とする国税よりもより処分理由、評価の理由説明を定め侵害規範としての性格へ担保すべきとも考えられるが執行においてとても実現性があるようには思われない(AIなどが解決するのかもしれないが)。地価の縦覧制度があることでそれを確認しなかったことを過失であるとして、相殺を求める主張は退けられており、賦課課税方式であることが注意義務違反の認定においても影響を及ぼしているものであろう。
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