2018年12月28日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年1月16日、課税庁の誤指導による所得の発生と留保金課税の適用)



さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成30年1月16日で、課税庁の誤指導により計上した所得の過大計上が修正されることにより発生した追加所得によって、特定同族会社に対する留保金課税の適用が行われたことを不服としてその取消を求めるものです。

具体的には、原告が課税庁の誤指導により(最終的には判決においてはこの部分の是非については、検討がなく、実質的な指導の誤りがあったことが認定されているわけではない、ただし8年以上当該指導による処理が継続していたものであり立証が困難であったものとも捉えれる)、本来ならば非課税であるべき売上を課税対象として仮受消費税を計上し、もって当該仮受消費税相当額の売上原価に関しても計上しており、すなわち、消費税の過大納付及び売上原価の過少計上が伴うことにより、消費税の還付及び所得の増額更正が行われることが必要となるべきものであるが、本件は、このような事実関係において、当該所得の修正をもって特定同族会社乃留保金課税の適用を受けることとなった原告(消費税の還付が合計一億円以上、留保金課税の適用は4億円以上)が、かかるようなペナルティ的に適用を受けるようなことは留保金課税の趣旨に反するものであり、また、当該誤納付により、原告の手許には存在しない金額が所得として捉えられる事になり、コントールの及ばない要因によって所得の増加と留保金課税の適用を受けることは、適正な手続の保障を欠くものとして当該処分の取消しを求めたものである。具体的争い方としては、当該過年度の損益の修正は遡及的に過去の所得を修正するものではなく、判明した年度の一時の所得として取扱うべきものとして所得の修正を否定し、また留保という文言から認識し得ない所得を対象としないものとして争っている(電気量の過大徴収を背景とした過年度の損益修正のタイミングをら争った事例を基礎として)。最終的には判示は、その適用を肯定し、原告の主張を否定しているものであるが、そもそも留保金課税はその適用事例が近年は減少傾向にあり(特定同族会社制度が導入以後はその適用は大幅に減少している)留保金課税の趣旨や、その適用要件に関する判示は貴重であり、かかる点において参考となるべき事例であると評価される。他の争点としては修正申告により訴えの利益の存在の課題も争点とされている。

(特定同族会社の特別税率)
第六十七条 内国法人である特定同族会社(被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となつた株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの(資本金の額又は出資金の額が一億円以下であるものにあつては、前条第六項第二号から第五号までに掲げるものに限る。)をいい、清算中のものを除く。以下この条において同じ。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、前条第一項又は第二項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額を次の各号に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に当該各号に定める割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。
一 年三千万円以下の金額 百分の十
二 年三千万円を超え、年一億円以下の金額 百分の十五
三 年一億円を超える金額 百分の二十
2 前項に規定する被支配会社とは、会社(投資法人を含む。以下この項及び第八項において同じ。)の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。
3 第一項に規定する留保金額とは、所得等の金額(第一号から第六号までに掲げる金額の合計額から第七号に掲げる金額を減算した金額をいう。第五項において同じ。)のうち留保した金額から、当該事業年度の所得の金額につき前条第一項又は第二項の規定により計算した法人税の額(次条から第七十条の二まで(税額控除)の規定により控除する金額がある場合には、当該金額を控除した金額)及び当該事業年度の地方法人税法第九条第二項(課税標準)に規定する課税標準法人税額(同法第六条第一号(基準法人税額)に定める基準法人税額に係るものに限る。)につき同法第三章(税額の計算)(第十一条(特定同族会社等の特別税率の適用がある場合の地方法人税の額)を除く。)の規定により計算した地方法人税の額並びに当該法人税の額に係る地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税を含む。の額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額をいう。
以上のように、本件の中心的な争点は、課税庁の過誤により発生した所得の修正がもって留保金課税の適用対象となるのか否かという点であろう。もう一つ、過年度の所得の修正が損益の修正として如何なるタイミングにおいて対応されるべきであるのかという点も興味深い論点であるが、そもそも、電力会社の過誤徴収とは異なり、課税庁の誤指導が起点となっているものとして原告は主張しており、この点は特段の争点となっていないものであって、具体的にどのような状況にあったものであるのかという点は本件事例では明示的でなく(黒塗りとされている)、かかる所以において、その適否において検討を行うことは困難であろう(この修正において、所得が修正されなければ、留保金課税の適用は発生しないものであるが。しかしながら判示でも示されているように、消費税は税抜処理を行っており、この修正を行ったとしても基本的に損益は発生せず、益金の計上は発生しないものであり、修正の対象は売上原価部分の過少計上であって、この性格(売上原価が法人税法は必ずしも如何なる性質かという点は、定かではないものとも言えようが、)に照らして、計上のタイミングは操作性を持つべきものではなく、前期損益修正として対応することは困難であろう(起点が消費税の還付であるとはいえ、これを益金として、それに対応するものとして理解することは困難であろう)。

判示においては、その留保金課税の趣旨としては、下記のように判示し、

留保金課税の規定の趣旨は、会社の支配者が少数のものに占められている同族会社においては、配当を行うかどうかは当該法人の意のままであり、配当が行われないと、個人株主の受ける配当等について累進税率による所得税の課税がなし得ないことになるから、その代替的課税として、同族会社の留保金額に対して課税することであり、また、同族会社においては、利益を内部に留保して、株主の所得税を回避する傾向があることから、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るため、特定同族会社に対して、通常の法人税のほかその利益の内部留保に対して特別の法人税を課すことにある。

として、その趣旨を個人と同族会社を利用した租税負担の回避を避けるべく、負担の均衡を企図したものであり、内部留保を侵害することまでも含む(若しくは、内部留保を制限し、配当を行うこと促進するものとしてまでは踏み込んでいない)ものと解している。この点は、

この趣旨は、当該同族会社 本件のように、課税当局の過誤を原因として、納税者において、過年度分の所得が増加させられ、その結果として同族会社の留保金課税というペナルティが課せられるという状況は、制度の予定するところではない。 
(ア)原告は、本件事業年度における8521万9600円の留保金課税を避けようとすれば、4億5859万8000円の課税留保金相当額を配当すればよかったのであるが、当該4億5859万8000円は本件事業年度において国庫に過誤納されていたため、手元になかったものであり、配当することはできなかった。それにもかかわらず、自らがコントロールし得ない状況下で生じた原因によって、何らかのペナルティが科されるという状況は、適正手続の保障に反し、近代的法制度が通有する意思主義の原則に反するものである。
(イ) また、「留保」という文言自体の持つ意味、及び配当の促進という 留保金課税の趣旨からすれば、当該事業年度当時に相当程度の蓋然性をもって認識し得たとはいえない所得は法人税法67条3項の「留保した金額」に該当しないというべきである。

当該規定をサンクションを付与して、租税を回避し、配当を促進するなどの経済的効果を企図したものという、理解をして、その適用範囲を制限すべきであるという原告の主張を対立しており、最終的に排斥している。この趣旨の理解はいかなる理由に基づくものであるのかは定かではないが、このわずかばかりの制度趣旨への理解の差異が、起点となっているものであろう。本制度はその適用においては、確かに負担が増加するものであり、もってその適用を回避しようとするならば、配当を行うように促す経済的な機能を有していることは否定し難いこのような実質的な経済的負担を回避をすることを誘引としているのかどうか、あるいは法人の配当政策や内部留保などの財務構造に関わるものであり租税政策がこの点までも起立しているものとして実質的に踏み込んでいるのかという点は議論の余地があると考えることもできる)が、もともとは、その趣旨として同族会社の特殊性(これが現代においてその特殊性を有しているのか、そもそもこのような特別の処理を肯定するものであるのかという点は議論の余地があろうが立法に属するものであろう)、から負担の均衡を図るものであり、サンクション的な性格を有しているものとして理解すること(若しくは財務政策、内部留保の制限や財務構造の変更までも促すものであると読むこと)は、特に現行のようにその適用対象範囲が限定されている現況においては、実質的な経済的負担に着目し、趣旨を拡張的に理解しているものと考えられる。近年は内部留保一般に対して、否定的な見解を採用して、より経済的な誘導作を取るべきとの見解も見られるものであり、その代表的なものとして留保金課税を評価する見解もあろうが、この点はあくまでも所得税負担も含めた均衡を鑑みた規定であり、法人の行為や内部留保そのものを否定的に捉えているものとは理解を異にすることは留意されるべきであろう。実質的な負担から法人の行為を制約するものとして理解することも否定できないが、その適用対象範囲を制限している立法経緯を鑑みるに、現行法においてサンクション的な付与によって内部留保を政策的に否定する段階までは踏み込んでいるものと捉えることは、困難であると考える。

また留保という文言に関しても

いずれにしても、原告が主張するように、本件の所得の増加は、課税庁の誤指導に原因があるといえども、かかる理由をその適用を制限すべき根拠は法定されておらず、サンクションの付与によって納税者の行為を制限するものではない以上、如何に納税者の権利を保護する適正な手続の保障の対象外にあるものとして理解する判断は制度趣旨に鑑みて合理的であろう。誤指導を起点としており(実際にはこの点が特に立証がされていないが、制度改正による勧奨が法定される以前の事象であり、相対の慫慂である点において立証が困難であるものであるのかもしれない)、附帯税の宥恕として正当な理由が成立することは、あり得ようが、納税者の不満や理解があることは理解できるが、立法の属するものであると捉えるべきであろう。

判示では、以下のように
利益を得るに至った経緯や、そのような利益を得ることについての認識の有無を問わず、等しく妥当するものといえる。
更には、
以上に述べた留保金課税の趣旨や、留保金額の算定方法を定めた法人税法67条3項の文言に照らすと、本件のように、修正申告により所得が増加した場合において、増加した所得金額が同項の留保した金額に当たるか否かは客観的に判断すべきものであり、増加した所得金額に相当する現金又は預貯金を当該同族会社が現実に保有しているか否かや、所得が増加した経緯、当該同族会社が相当程度の蓋然性をもって当該所得の発生を認識し得たか否かを考慮する余地はないというべきである。これと異なる趣旨をいう原告の主張は採用することはできない。

として留保した金額という文言において納税者の主観的な認識の関与を否定的に捉えている。同じく同族会社に対する行為計算の否認とは異なり、不確定な概念を取り込んでいるものはない本制度であるが、客観的に所得が法人に帰属するものであれば、その対象とするものであり、いわば形式的な適用が行われるべきものと言えよう。行為計算の否認において問題となるように、納税者の意図が介在するものとしてあるいは適用の要件として、留保という文言を制限的に解することは、納税者の意思のような(もってすれば、制度誤認、錯誤による配当の実施などが発生するかもしれない)主観的な事情を介在させる事になり、負担の均衡を図る制度趣旨を損なう可能性もあるため否定的に捉えられるべきであろう。いわば機械的な対象が選定されるものとして理解されるべきである

いずれにしても事実関係や法令の適用関係が不明あるいは複雑であるので(特に誤指導の対象など)より検討すべきものと考えられるところで、納税者の負担の増加と納税者財産権の保護との政策的な均衡を立法において如何にして確保されるべきであるのかという点を検討する上では、参考となるべき事例であると評価される。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年12月24日月曜日

判例裁決紹介(千葉地判平成30年1月16日、徴収権の時効と期限後申告の可否)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判平成30年1月16日で、事項により期限後申告ができず、譲渡損失に関する繰越控除の規定の適用の是非が問題とされた事例です。

具体的には、給与所得者である原告がなした先物取引に関する損益につき、過去に渡って申告されておらず、調査において指摘され、過年度に遡って期限後申告を行ったところ、法定納期限から5年が経過した年度における消滅時効が完成しており、当該期限後申告が認められず、もって、当該年度に発生していた先物取引に関する損失が翌年度に繰越すことができないとされた点が問題となっている事例である。従って、時効完成後も期限後申告を認めもって、損失の翌事業年度への繰越を求めているものである。また、調査段階での説明不足により上記年度の翌事業年度において期限後申告が行われておらず、もって決定処分を受けたことを不服としている。

期限後の申告は無申告加算税の趣旨から鑑みるに、通常通り、申告を行ったものとの衡平を企図したものであり、申告納税制度を基礎とした、納税者自身による確定申告の不備がもともと起点となっているものであろう。しかるに、損失の繰延べによる便益の享受を本件においては、意図したものであり、原告たる納税者の主張は自己の不利益を補うような姿勢にも見られる。

期限後申告と時効の関係に関しては、私見ながらこのような法益の発生が想定されるものとは予想していなかったものであり(時効となり納税義務が消滅している段階においてあえて自己の申告を行う人が想定されるものとは考えにくいため)、従前、修正申告に関しては判決があったものであるが、本件のような判示は、特徴的なものと言え、今後の参考となるべきものと言えよう。また、手続上の不備に関しても平成23年の改正により設けられた手続整備に関するものであり、説明や勧奨に関する事例として参考となるものと評価される。


(国税の徴収権の消滅時効)
第七十二条 国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(第七十条第三項の規定による更正若しくは賦課決定、前条第一項第一号の規定による更正決定等又は同項第三号の規定による更正若しくは賦課決定により納付すべきものについては、これらの規定に規定する更正又は裁決等があつた日とし、還付請求申告書に係る還付金の額に相当する税額が過大であることにより納付すべきもの及び国税の滞納処分費については、これらにつき徴収権を行使することができる日とし、過怠税については、その納税義務の成立の日とする。次条第三項において同じ。)から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
2 国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。
3 国税の徴収権の時効については、この節に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する。

以上のように本件の中心的な争点の一つは、損失の繰延を前提として消滅時効の完成がなっている年度の納税義務につき、期限後の申告が許されるのか否かという点が問題となっている。法文上は、所得税法の期限に関して明確な期限が定められているものではなく(決定を除き)、法令解釈により、検討されるべきものとなる。かかる点については、本件は以下のように判示しており、かかる点において先例的な価値があるものと考えられる。

国税の徴収権は、原則としてその国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅し(法72条1項)、その時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができない(同条2項)ことからすると、時効期間が経過した場合は、納税者が時効の利益を受ける意思があるか否かを問わずに絶対的に消滅し、課税庁は徴収手続をすることができないと解するのが相当である〔なお、法25条の規定による決定にいても、原則として、その決定に係る国税の法定申告期限(所得税の場合は法定納期限と同日)から5年の除斥期間に服する(70条1項1号)。〕。そして、確定申告は、納税者自らの判断と責任においてその納税額を自ら確定させる行為であると解されるから、法25条の規定による決定がされない場合であっても、当該申告の対象となる国税の時効期間が経過し、抽象的な納税義務自体が消滅し、具体的な納税義務の内容をおよそ確定することができなくなったときには、期限後申告をすることはできなくなると解するほかはなく、したがって、納税者が期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間(ただし、国税の徴収権で、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税等に係るものの時効は、当該国税等の法定納期限から2年間は進行しない(法73条3項本文参照)ので、この場合には、期限後申告をすることができる期間は、法定納期限から7年間)であると解するのが相当である

すなわち国税に関する徴収権の時効は、通常とは異なり、援用を必要とせず、利益の放棄を禁止しているという基本的な性格から、抽象的な納税義務が消滅し、もって申告によりその納税義務を確定させる行為はできないものとして判断している。私見tのしてもかかる判断は合理的であるように考える。もし仮に期限後申告が認められるものであるとするならば、法が明文をもって明記している時効制度やその特徴との整合性が取れず、租税法律関係の早期安定や財産権保護の基本的な要請に反する事になりかねない。申告納税制度が自己の所得を自らの手によって、確定させることで納税者として義務の履行を図るべきものとして捉えるならば(一種の国民としての義務と権利として捉え)、その趣旨を貫徹させるためにも、期限後申告が期限の定めなく認めるべきとの解釈を主張することもあり得ようが(そもそも、本件のような損失の繰延などの状況を除けば、消滅後の納税義務の履行を求めるようなケースは想定し難く、保護すべき利益は考えにくい)、立法政策の範囲に属する問題であろう。いずれにしても時効制度の趣旨目的と申告納税制度のバランスにおいて上記解釈を変更すべき理由は、見出し難いものと考える。

また、本件でも一部主張されているが、下記のように平成23年度税制改正によって、調査終了の際の手続や勧奨等が制定されており、かかる点において、課税庁の対応において不備、あるいはそれを起点として、納税者において意思決定に錯誤があった場合に、いかなる影響が想定されるものであろうか。かかる点においても明文の規定は存在せず、本件では原告が主張した錯誤の存在そのものが否定され(そもそも原告が主張する錯誤がいかなるものであるのか具体的に立証されていないものではあるが、最終的には、その錯誤の点に関しては問題とされていない。

(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
5 実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。
6 第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる。

しかしながら、勧奨に応じた場合、不服申立が制限され、また終了の際の説明においては、どの程度の説明義務を追うべきものであるのかという点が必ずしも定かではない状況(商大論集にも書いたが)であり、そもそも納税者は納税に関する知見にかける(最もこの点は、租税に関する教育にたずさわる者としてはまずは反省すべき点ではあるが)場合があり、説明等においても誤解が生じている、あるいは意思決定において錯誤が発生している可能性は否定し難いものである。実務上は、書類への押印等により一定程度、、説明への了知等が図られているものであるのかもしれないが、納税者段階においてこのような手続に対して説明責任の強化、権利保護の観点からは、必ずしも錯誤による無効が全面的に否定されるべきものではないのではないだろうか。しかしながら租税法規においては、税負担に関する錯誤無効が従来問題となったように、このような手続段階における錯誤についても錯誤により申告が無効、課税処分への影響が認められる余地があるのか、より今後の検討が必要であろう(信義則の適用により救済されるものであるのかしれないが)。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


2018年12月12日水曜日

判例裁決紹介(平成30年3月7日裁決、相続財産の使用貸借の精算と譲渡費用、重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月7日裁決で、昭和から長きに渡って相続財産の使用貸借において精算を図った事により生じた費用が譲渡費用に該当するのか否か、そして、当該行為により重加算税が賦課されるべきであるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人がかつて(昭和30年台)において相続により取得した農地において、農業に従事じていた弟に対して、当該農地の譲渡に伴い、支払った金員が離農補償費用として、譲渡費用に当たるのか否か、すなわち、当該金員がいかなる性質に基づき支払われたものとして捉えることができるのかという点が争点となっているものである。長期間に渡り、相続財産の帰属関係が曖昧なまま、耕作が行われてきた事により、権利関係が明確ではない状態であったものであるが(主張においても、この耕作における関係が無償での使用に伴う使用貸借であるのか、あるいは賃貸借であるのか争いがある)、この関係を精算することを意図した処理が問題の起点となっているものである。本件は内容以外でも興味深いのは、2018年の裁決で未だに年貢という表現が出てくることで・・・。

このように基本的には、本件の問題の中心は、事実関係が対象であり、離農に伴う補償金たる性格を有するのか、相続財産に関する解決金(そもそもこの解決金自身があまり明確な表現ではないが)として捉えるのかによって、租税法規上の適用関係、譲渡費用としての位置づけが相違することになったものである(離農の補償金が譲渡費用を構成することは争いがないものであろう)。

加えて、本件では、かかるような認識にあったことに対して、課税庁としては本来ならば、解決金であったものを、離農補償金として書類に記載したとして仮装隠蔽の成立を指摘し重加算税の賦課決定を行っている。本件ではこの部分の成立も問題となっているが、この点は課税庁の主張を排斥し、重加算税の成立を認めていない。

3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
 
「使用貸借契約における借主が、その目的物につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情のない限り、この負担は、使用収益に対する対価ではなく、借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げになるものではないと解される(最高裁昭和41年10月27日第一小法廷判決・民集20巻8号1649頁参照)。そして、土地の使用貸借は、たとえ、建物の所有を目的とするものであっても第三者に対抗することができないものであって、利用権としては、賃借権と異なり法律の保護が薄弱であって、借主の死亡によりその効力を失い、相続の対象にもなり得ない権利であるから、課税上、その経済的価値は零とみるのが相当である。」

上記のように、本件はその中心的な争点として譲渡費用としての該当性を問題としている。判断では、上記のようにのべ、使用貸借 の成立を認定し、もって、経済的価値がゼロにあるものへの支払いであるとして、譲渡費用としての成立を否定している。確かに使用貸借の利用権は法的な保護は弱く、その経済的価値はゼロであると評価することは租税法規においては異論はない。しかしながら、そのような利用権の支払いであっても、本来ならば譲渡費用として該当するのか否かという点が問題となるべきであろう。この点に関しては譲渡において必要性がないものであるのか否かという点は検討されていない。譲渡につき、直接要するのか否かという点が問題となろうが、かかる観点からは根拠が明示されていないように考えられる。殆どが賃貸借であるとの認識から請求人の主張は構成されているのであろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

また、本件では、上記重加算税の賦課たる仮装が発生していたしたか否かという点も問題になっており、精算段階での請求人が使用貸借による離農補償金ではないと認識していたかという点が問題になっている。本来ならば譲渡費用には該当しないことを認識しながら、名目上離農補償金として記載していることが仮装の事実関係の成立を構成しているものと考えている事による。主観的な要因に基づいているようにもよめるが、このような曖昧な関係の整理においては明確な対価関係の認識できるような意図が込められているのかという点は疑問であり、その名目に限らず、複合的な内容が含まれることもあり得よう。いずれにしても主観的な要因による判断は仮装の形式的な事実をサポートするものであり、このような主たる要因として判断される事例は興味深い。最終的にその認識は主観に左右されるものであり、重加算税という重大なペナルティを課す場合において、中心的な要因として解釈することは困難ではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2018年12月3日月曜日

判例裁決紹介(平成30年1月11日、離婚による財産移転と第二次納税義務者該当性)


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年1月11日裁決で、離婚に伴って発生した財産の移転(財産分与とはあえて書きません。当事者の意思が明確ではないので)、無償または著しく低い対価による譲渡であるとして、第二次納税義務者として該当するのか否かが問題となった事例です。

具体的には、事業を営む家庭に婿入していた者が滞納者となり、当該滞納者が離婚に伴い請求人(最終的に元配偶者から事業を継続引受け)に対して移転させた預金債権を受領した場合において、請求人に対してかかる移転が下記のように国税徴収法39条において定める、無償等による譲渡に該当するため、第二次納税義務者に該当するのか否かという点が問題となっている事例である。離婚に伴う財産の移転(特に財産分与)如何なる名目、実質を有しているのかという点は譲渡所得税の発生等、従前租税法規の適用に関して問題となっているものであるが、本件は滞納者である元配偶者から預金債権を受領したことが第二次納税義務者としての要件を充足するのか否かという点が問題になっているものであって、このタイミングにおける財産の移転をどのように評価するのかという点が問題の中心をなしてるものである。最終的には課税庁の主張する、著しく低い対価による譲渡であったという旨の主張を覆している。かかる点においても本件は特徴的なものであろう。

そもそも離婚時の財産の分与、移転が複合的な性格(慰謝料、財産の清算、養育費等)のものであり、如何なるものが相当であるのか、すなわち対価の適正額が如何なる金額に該当することになるのかという点が必ずしも明示的なものではない。実質的には民事法の問題であり(例えば養育費の基準も社会情勢によって変動が大きいものであろう)、民事法の観点からは財産の移転そのものが一義的には問題であり、その性格を問題として相当額を算定する必要性は、劣位にあるものであろう。しかしながら租税法規の適用上は、その性格、性質を如何に判断するのかという点は、算定上、重要な課題である。本件はこのよううな点で著しく低い対価の額の決定のみならず、課税庁の主張が排斥された点で興味深い事例であろう。

無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第三十九条 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(第五十八条第一項(第三者が占有する動産等の差押手続)及び第百四十二条第二項第二号(捜索の権限及び方法)において「親族その他の特殊関係者」という。)であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
以上のように、本件の中心的な課題は第二次納税義務者の適用対象として該当するのかという点が問題となったものであり、39条に定められている無償等による譲渡に該当するのかという点が問題となる。そもそも、第二次納税義務者は、本来ならば課税要件の充足がない状態において、特別な受益等を基礎として、徴収の便宜、確保を図ることを企図した制度であり、厳格な要件の判断が必要とされるべきものである。

徴収法第39条が規定する第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者である滞納者が、その者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、その者の財産について無償譲渡等の処分を行ったため、その者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められることとなった場合に、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対して、補充的に当該国税について履行責任を負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度であると解される。
上記のように、その性格は、判断においても前提とされているものである。

離婚時の財産の移転、財産の分与が譲渡に該当するということは、著名な裁判例が示すように、基本的に約40年の歳月も経過しており、通説として捉えて構わないだろう。所得税法の事例ではあるが、租税法規の譲渡は非常に広範囲にかかるものとして、多様な形式を含むものと解されるべきものとして理解されよう。本件もこの点に関しては特に、異論がないものとして(というか所与のものとして)判断しているように捉えられる。

しかるに問題は、相当額よりも低額により譲渡されているのか否かという点であろう。かかる点は民事法の問題でもあるが、かかるような複合的な性格を有するものに対して、本件では、それぞれに分解していて詳細に検討している。最終的には民事法の領域でもあり、事実関係を如何に考えるのかという点が課題となろう(民事法において決定すべき項目であり、相当額といえど、租税法規の適用において実質的に決定するような行為は、租税法規の性格から許容されるべきものであるのかという指摘はあり得よう)。いずれにしてもこのように中身の要素を詳細に性格を分類し、その相当額を算定するという判断は、財産分与額の決定においては当事者の意思が介在するものでもあり、妥当な金額を判断することは困難でもある。

ただし、本件は第二次納税義務者の該当性に関する判断ではあるものの、離婚時の財産移転に関して、このように詳細に事実関係を捉え、中身を分類整理し、その相当額を認定している判断プロセスは、譲渡所得課税の認定においても適用されうるものであるのか、従来は、このような丁寧な判断の枠組みでは処理されておらず、今後このように譲渡額をどのように判断するのかという点は、注目されるべきものといえるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2018年11月24日土曜日

判例裁決紹介(平成29年12月7日裁決、役員たる者がなした法人収入の簿外処理と重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年12月7日裁決で、役員たる者がなした法人収入の簿外処理によって法人に対して重加算税が賦課された事例です。

具体的には、本件は、請求人(法人)の取締役等(監査役にも)の地位にあった者(前代表者の配偶者)が給与支給関係の事務処理を担っていた際に、請求人が契約する団体保険契約に伴う事務経費収入が発生しており、かかる収入は本来、法人に帰すべきところ、当該者が自宅にて管理し、帳簿等において計上されることがなかった場合において、その法人に対して重加算税が賦課されるのか否かという点が争われた事例である。すなわち、この役員の行為が法人の行為として評価されうるものであり、かつ、仮装隠蔽に該当するのか否かという点が対象となっているものと考えられる。実質的には同族企業として個人事業主と実態において相違のないものであるが、そのような意識で管理をしていたものとも評価されようが、法人の行為として別人格としてその重加算税の処理が問題になるものと捉えられる。

このように、法人の役員や従業員が行った行為(横領や損失の発生など)が法人の行為として責めに帰すべきものであるのか、租税法規上も重加算税という重大なペナルティを課されるべき行為であるのかという点は、従来、課題とされてきた。特に横領等による損失の発生とその求償権の租税上の計上のタイミング等が主な課題として問題になってきている。本件は重加算税の賦課という点が争点になっており、いわば法人は管理者として、雇用や委任の契約を締約している対象でもあり、また、被害者の立場でもある。かかる点からその負担を法人の行為によるものとして、対象として重加算税を賦課することは酷ではないかという指摘があることが当然とも言えよう。本件はかかるような従業員や役員の行為が結果として重加算税に該当するものとして評価している。この点については、下記のように従前と整合的でもあろう。立法論としてはそのような行為までもが法人の負担としてカウントされるべきであるのかという点は問題になるだろうが、現行の法解釈としては、重加算税の趣旨目的とのバランスから法人の行為として従業員等を含みうるという解釈が主流であり、本件も整合している。従って、本件は特段法令解釈としては特徴的なものではないが、判断においては、悪意の従業員の存在に対して法人の管理運営も問題になっており、法人の業務運営上はこのような状況を整理する、整備することもまた求められているものと捉えるべきであろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように本件の中心的な争点は、法人の役員等であった者が上記のように、重加算税の要件に合致した事実関係として、すなわち簿外処理された金員の存在が認定されうるものであるのかという点が問題となっている。
法令解釈としては、問題となる行為の主体は法規によって納税者として規定され、法人の場合は、法人の代表者の行為に限定されるものではなく、また行為における認識についても故意等を要求していないものと考えられる。また納税者としての法人は法人における役員等もその対象として成立しうるものとして理解されている。いわば比較的広範囲に及ぶものとして評価されよう。しかるにこの解釈を前提とするならば、如何なる点をもって法人の行為として同旨しうるものとして評価されうるものとして判断されるのかその基準が問題となろう。

本件は、上記につき基本的に、最判を踏襲しており、特段、法令解釈としては特徴的なものではない。いわば法人の行為として本件における事実関係が同旨しうるのか否かという事実関係の問題になっているものといえよう。判断としては、行為者の地位及び権限の存在から基礎的な枠組みとされており、本件の判断枠組みは、典型的な判断枠組みとなっている。この当てはめは参考とするべきものであり、良いティーチングケースと言えよう。

各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必 要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決・訴訟月報34巻1号149頁参照)。

 通則法第68条第1項は、「納税者が‥隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺいし、又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺいし、又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、いうまでもなく代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠ぺい行為を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠ぺい行為であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、同項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2018年11月17日土曜日

判例裁決紹介(平成28年10月3日裁決、債務返済の担保設定された共済金収入の一時所得該当性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年10月3日裁決で、債務返済の質権設定の対象となっていた共済金収入の受領が個人所得課税として一時所得として該当するのかという点が課題となった事例です。

具体的には、本件は夫婦にて、酪農等の事業を営む請求人が、妻(配偶者)たる専従者に対して共済契約を締結し、もって当該被保険者である配偶者が死亡したことによる共済金を受け取った事実関係において、当該収入金が一時所得として課税対象を構成するものであるのか否かという点が問題となった事例である。以前、同様に婚姻関係にある驚異金収入の負担関係において、実質的に契約者が負担したものであり、ゆえにみなし相続財産を構成せず、雑所得の課税対象となるとした事案を取り上げた事があるが、本件も基本的には類似しており、その共済契約の原資を如何なる者が負担しているものであるのかという点が基本的な問題の起点となっているものである。より具体的には、本件の共済金は共済契約を締結している保険者である農業協同組合が請求人の事業において事業資金を融資しており、当該融資金の返済の原資として質権設定が行われている点が特徴的(かかるような事業資金の返済に関しては生命保険において担保することが保険業法、倫理的に担保されるのか否かという点は別途検討すべきであろうが)である。このような事業資金の返済に回されるべき(実際、請求人の口座に入ってきたものはそのまま返済に充当されている)資金の受領が実質的に所得税の課税対象として所得として該当しているのか否かという点が争点となっているものと考えられる。最終的には上記のように、請求人が当該契約の資金を負担しており、発生した資金の原資が請求人に依拠していることから、当該収入による所得は一時所得として課税されていることが判断として是認されている事例である。本件は以上のように中心的な争点は契約の資金原資が如何なる者によるものであるのかという点を基礎としており、法令解釈というよりは事実関係を如何に認定するのかという点が中心的な争点となっているものと捉えられるが、より理論的には、所得をいかにして区分しているのかという点がその背景にあるものと言えよう。かかる点は理論上も重要な点であるが、一時所得の起点となる資金の負担者を如何にして認定するのかという点も中心的な問題で(租税法規の当てはめ、保険契約による資金の受領においては典型的なケースでもあろうが)、家族間で事業を営む関係性において、家族間の所得分散、費用負担等を明確に区分することが可能であるのか(財産の帰属関係も含め)という点が問題となるものであり、本件における原資の負担関係の判断は、往々にして典型的な事例であり、かかるような判断の枠組みは、租税負担を具体的な判断において実務家としても重要な点であるのではないだろうか。専門家としては、家族間での金銭、財産関係の負担に関しては留意が必要であることを改めて認識されるべきであろう。

一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。



相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

以上のように、本件の中心的な課題は、請求人が受け取る共済金の収入が一時所得として課税対象となりうるのか否かという点である。本件対象となった共済金は事業資金の返済に使用され(債務担保として質権設定が行われている)、当該収入がそもそも所得を構成しないのではないのかという点を納税者か問題視していることによるものであろう。判断では契約の実行者や受取口座の状況(名義等)等の判断要素から、一時所得として課税対象から除外されるみなし相続財産であるのか否かという点が問題視され、最終的には負担者が請求人あるとして一時所得として課税することとしているものである。

特段議論されていないものであるが、このような資金の返済に充当されるような金銭の受領がそもそも所得であるとして租税負担を行うべきものとして該当するのであろうか。一般的な納税者の感覚において、最終的に手元に残るものが利益・所得であり、残らないものはその対象ではないという感覚は、必ずしも否定されるべきものではないだろう。このような納税者の素朴な問に対して、如何なる所以をもってその対象としての所得を構成するものとして答えられるであろうか。単に包括的に所得を把握するという点を強調してもその対象を合理的に説明することは実際的には困難なような状況も到来しよう。

本件判断は、契約の負担者が如何なる者であるのかという点に実質的に依存した判断であり、かかる点において、なぜ一時所得を構成しているのかという点、一時所得であるのか、みなし相続財産となるのかという点を具体的には検討していない。かかる点は判断過程において疑問が残るものであろう。みなし相続財産としての負担関係をなぜ口座名義等から判断することが合理的であるのかという点はより検討が必要ではないだろう。そもそも所得税法は包括的所得概念を採用していると解され、本法においては所得の定義をおいていない。ただし上記のように法令解釈として非常に広範囲を所得とすることが判例においても確立しているもの考えられるが、かかる点もとくにふれられていないが(所与のものとして理解しているのであろうか)、消費型の所得概念も近年は強く支持される場合もありうるところであり、租税法規においていかなるものを所得としていくのかという点は必ずしも明示的ではなく、もって二重課税が必ずしも容易に判断されるものではないことも留意されるべきであろう。

また本件のもう一つの争点であるが、配偶者に対する資金の負担関係を如何に評価するのかという点である。口座からの資金の負担、出金等の事実関係に依存した判断が行われているが、すなわち重要なメルクマールとなっているが、上記のように被相続人の負担という法令の解釈においてその点を如何に捉えるのかという点が重要であろう。本件のように共同で、夫婦協力して事業を行うような場合は事例としては多いが、所得税法は所得の分散という租税負担の回避を防止するため基本的に代表者(一般的には夫)に所得があったものとしていわば共同事業体としての夫婦関係を、単一の所得帰属関係に擬制して課税されることが常となっている。この点は一部青色専従者給与等、例外的にその所得の帰属を変更することを認めているが、限定的である。実際における事業収入は夫婦共同で形成されたものであり、民事法においても配偶者の共有性を否定することは困難であろう(財産分与等の対象となりうる)。このように共同で営む事業が基礎となっているような状況下において、資金を負担した口座の名義等による判断が法令が求める負担という点を顕現しているものと捉えることが必ずしも合理性を有するものとは言えないのではないだろうか。確かに課税処分の大量性等の性格を鑑みれば、口座名義等の形式的な情報に判断の基軸を置くことは必ずしも否定できない。しかしながら、負担関係を判断するにおいて、事業資金の形成において配偶者の貢献を考慮せず、名義等の形式的な判断を基礎として、負担がないものとして認定することが近年の配偶者の貢献を強く認定しようとする民事法の改正や、働き方の多様化の現状に鑑みて、租税法規においてこのように形式的な限定的な判断を行う、すなわち資金の負担関係、財産の帰属関係につき判断を行うことが妥当であるのかという点は、拡張的な解釈は一定の合理性を有しているのかではないだろうか(立法論であるのかもしれないが)。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものであり、完成度は低いですが、参考までに。

2018年11月5日月曜日

判例裁決紹介(平成29年6月22日裁決、推計課税適用の必要性と合理性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月22日裁決で、推計課税の適用における合理性が問題となった事例です。

具体的には、内装業を営む請求人(未申告)が課税庁による実地の調査に対して、日程調整への非協力、帳簿等の不提示を行ったため、所得税法156条に基づく推計課税の適用を行った課税処分を行ったところ、その取消を求めた事例である。すなわち推計課税の適用の是非が問題になった事例であり、未申告等があった場合、さらには、納税者として実地調査(質問検査の行使)において日程調整に非協力(6回ほど)あったような事案においって、課税を結成処分において行い、さらに、消費税における仕入税額控除の適用の否定を行っているものである。実地の調査が納税者の非協力によって実施できない状況は租税専門家が関与する中ではどの程度実際に発生するような状況にあるのかという点は、聞いてみたいところであるが、単に納税額が推計されるのみならず、総合的に仕入税額控除の否認など、更には反面調査の実施など(本件でも問題となっているが)、納税者にとってリスクとも考えられるような状況が発生することは改めて認識されるべきであろう。推計課税の適用においては、実額による反証は極めて困難であり、必要経費の存在など部分的な立証のみではその適用を覆すことは困難であり、悪魔の証明のような実質的な所得の情報の把握が必要とされることは、説明されるべきものと言えよう。

本件では推計課税の適用の合理性・必要性が争われているが、どの程度の必要性が必要とされているのか、法文上は明確ではなく、法的にどの程度の趣旨が要請されているのかという点も問題となっている。かかる点は従前租税法規の適用においては、問題となってきたものであり、近年はその適用事例は減少しているものと認識されるが、改めてその適用条件、範囲を検討する上で、本件は従前と同様にその範囲を検討する上で参考となるものと考えられる。

また手続法上や、反面調査の実施における瑕疵も主張されているが、基本的に請求人の主観的な要因(仕事が忙しいなど)が日程調整、調査の実施に関して非協力であったことにより、推計や反面調査などが行われる事になっている。調査への非協力や時間稼ぎ、引き伸ばしなどは、結局の所、現行法規においては、フェアな納税者との対比において、適切な納税環境を構築するにあたっては、劣位な行為として評価されることもまた、認識されるべきであろう。当たり前のようであるが、これも申告納税制度基軸においており、かかる点において、事前通知等の手続整備が行われているが、平成23年改正前と基本的に変わらず、その調査における瑕疵は課税処分の適法性において極めて限定的に解されるものと理解されるべきものと考えられる。

(推計による更正又は決定)
第百五十六条 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる

「所得税法第156条は、所得税につき更正をする場合において、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているが、飽くまで課税処分における課税標準の認定は直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であり、推計による課税が認められるのは、やむを得ず推計によらざるを得ない場合、すなわち、①納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、②帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、又は③納税義務者が資料の提供を拒否するなど税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。」
以上のように本件の中心的な争点は推計課税適用における必要性・合理性である。申告納税方式を採用する所得税法において(我が国の租税制度全般において)原則として自らの所得を開示し、適切な納税負担に関して、ここの事情を反映させ、申告を行って租税法規の適用を図ることを原則としていることから、解釈として、推計課税の適用に関しては、止む得ない場合に限定している。実額課税によることを不可能もしくは著しく困難な場合に限定することとしている。この適用要件の是非、具体的な必要性等に関しては従来、多様な事例が存在しており、多数の議論が行われてきている。本件もその類型に属するものであり、上記のように、推計課税はあくまでも例外的な方法として理解している。もちろん法文上はできる規定としてあるのみであり、その必要性など具体的な適用に関する制限は必ずしも規定されておらず、抑制的な運用が行われているものとも考えられるが、実際推計課税が適用される場合はとはいかなる場合であるのかという点が課題となる。実質的には推計課税の適用が争われるような状況では、対象が問題がある納税者が多いものと考えられ、本質的に必要性が問題となることはないものとも考えられるが(質問検査における必要性以上にその点が実際のところ瑕疵を伴うものであることは考えがたい)、本件判断は上記のように明示的に例示を行っており、156条の適用範囲を検討する上で有益なものと考えられる。

実際の例示は、従前の例と特段差異がないものと捉えられるが、本件のように納税者の非協力を如何に理解するべきであるのかという点が問題ではないだろうか。本件では最終的に納税者の非協力によって実地の調査が困難であったことが認定されているが非協力と実額認定が不可能等であるとはどのように関連付け議論されるべきものであろうか。非協力に対する反証としては、納税者が協力する意思があったことを主張することが想定されるが、納税者の主観的な要因をどのように捉え、対応していくべきであるのかという点は非常に困難ではないだろうか。換価の猶予等において納税者の意思を反映させる規定は一定程度租税法規においては存在しているが、曖昧模糊としたものであり、実質的な基準として機能しているのかという点は検討の余地があるものと考えられる。換価等の納税義務の確定ごとは異なり、調査段階における意思の反映は、より課題も多いものと考えられ、適正な納税義務の履行と権利保護とのバランスにおいて、検討の余地が大きいものと捉えられる。実地調査が認知調査の枠組みで構成されていることとの整合性が取れないとの意見もあろうが、現行法の枠組みにおいて、推計課税は、フェアを確保する手段として機能しており、非協力のような幅広い状況であっても現行法の解釈として正当性を持つものとして理解されていることは留意されるべきであろう。

また、本件判断では、推計の合理性も問題となっている。この点も推計課税において如何なる程度の推計の合理性があるべきであるのかという点は従前問題となっているものであるが、解釈としては歩いていど幅のある概念として、また、実額課税との間で高度な合理性が求められているものとは異なるという理解が主流となっているものと想定sれる。本件では収入面は反面調査から、そして経費面は同業からの類推により判断されている。判断では下記のように、経験則上という文言が使用されているが、厳密な合理性を要求されているものではない事もまた、前提となっているものと言えよう。推計課税が納税義務の確定を図るものであり、かかる点では強固な規定であることを考慮すれば、より厳密な推計を要求するような議論もあり得ようが立法の問題とも言えよう。

「一般に、業種・業態が類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、経験則上、同程度の総収入金額に対し同程度の所得が得られると考えられ、このことは請求人の営む事業の場合であっても例外でなく、かつ、請求人に特段の事情があるとは認められない。」
さらに本件では特段の事情の有無については、ほぼ議論がないものであるが、如何なるものが特段に事情に該当するのかという点も含め、より明らかにすべきことは多いものと言えよう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成29年3月14日裁決、遺留分減殺請求による和解金の一時所得該当生)

さて、また興が乗ったので判例裁決を作成しました。今回は平成29年3月14日裁決で、遺留分減殺請求による財産の受け取りが一時所得として課税された事例です。

具体的には、相続人たる請求人が財産を遺言(生前の貸付け等の存在)により一切の財産を受け取ることができなかったため、他の相続人に対して、遺留分減殺請求の訴訟を行い、かつ期間の経過に伴い、果実に関する弁償金の受領を求めたところ、主張が対立し、一年以上の長期間に渡って紛争が長引き、結果裁判所の提示に基づく、和解金の受領として一時金を受領した事例であり、かかる金員が一時所得に該当するとして更正処分を行ったことに対してその不服を申し出たものである。

最終的な判断は、課税庁の主張するように、当該金員は、相続に伴い価額弁償金等(あわせて、納税者は財産が取得できなかったことに対する損害賠償という主張もしているが)ではなく、相続人間の紛争解決のための一時金であると認定し、一時所得として課税することを認めている。しかしながら通常、遺留分減殺請求による財産の取得は相続関係の変更であり、相続税をもって調整されるべきものとして考えられており、更正の請求や修正申告をもって対応することが通常となるものであるが、かかる関係において、その金員の性質が変化し、紛争解決の和解金として一時所得になるものとして取り扱われるような状況になっていることは本件における特徴的な点であろう。

和解に関する明細においては遺留分や相続関係によるものとの記載があるのにもかかわらず、しかも裁判所による提示であり、第三者が関与している状況下にあって、かかるような相続関係による財産の取得から一時金に状況が変更になっている点は、特徴的であり、判断においてもかかるような記載は名目的なものとして取り扱っている点は興味深い。このように本件は基本的には法令解釈というよりも、事実関係における認定を基礎としたものであり、その評価が課題になっているものと捉えられる。私見としては裁判所という第三者が関与している段階においてかかる和解を相続によるものから名目的なものとして取り扱う事実認定は些か疑問を覚えるところでもあるが、本件のような長期間に渡り、かつ主張が対立しているような事例においては、所得の性質も変化することがありうるという点においては、本件は実務上も参考になるものと言えよう。具体的にどのような事由の存在が変化をもたらすものであるのかという点は、租税法規の解釈に影響を受けるものであり、かかる点を深化させることが重要であろう。

相続における紛争の発生は、相続税負担等にかかわらず、実際には起こりうるものであり、問題となる遺留分は法的に保護された相続人の権利(もちろん、この性質は複雑であり、議論の余地はあろうし、今度の相続税改正において一定の制限が入るなど、より相続税法において検討すべきものと考えられるが)、であり、その実行により発生した金員がいかなる性質を持つものであるのかという点は、特に相続関係から離れ、課税関係が変更されるという点は重要であろう。

下記のように基本的に遺留分減殺請求は相続の延長にあるものとして捉えることは一般的であろうが、このように訴訟の経過によっては単にスタートになる事実が相続によるものであっても実質的にその金員の性格が認定されていることは、本来の遺留分減殺請求の段階においては、一定の紛争の存在が想定されるものであり、かかるような租税法規の適用による性格決定、事実認定は、納税者にとって実質的な二重課税ともいえるような状況が発生する(そもそも相続税と所得税の二重課税という状況が如何なるものであるのかという点は必ずしも定かではないが、下記所得税法9条における非課税規定の解釈として、その性質が如何なる形で変化するものであるのかという点は興味深い)ことも想定され、このようなリスクの存在は、事業承継等が強化されるような近年においては遺留分を侵害するような相続関係の構成等、リスクも生み出しうるものであり、実務家としては紛争の予防も含め、考慮しておくべきものであろう。本質的には、専門家責任としてこのような状況の発生を生じさせないことが重要なのではないだろうか。

十六 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)

以上のように本件の中心的な課題は、遺留分減殺請求に端を発する訴訟の和解金の受領が所得税法上の一時所得に該当するのか否か、すなわち課税対象となるのか否か、という点が課題となっている。遺留分減殺請求の弁償金が如何なる性格のものであるのかという点は基本的に、民事法の領域に委ねられるべきものであるが、このような相続紛争による金員が最終的に相続関係の軛を離れ、相続人間の紛争の処理に関わるものとの認定は、私見ながら和解による積算の内訳において遺留分等の精算等の記載があり、かつこれが第三者たる裁判所の提示によるものでありながら、これを名目的なものとして認定している点は、下記のように、些か乱暴であるような印象を受けるものであるが、、かかるような判断を行っている点は課税庁の判断基準を考える上で重要であろう。



「請求人と■■との間に存する本件相続に関する一切の紛争を解決するための和解金ないし解決金の性質を有するものと認められることからすれば、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に当たるものではなく、臨時的・偶発的な所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、所得税法第34条第1項に規定する一時所得と認めるのが相当」

如何なる所以をもって民事法上の価額弁償金から逸脱しているのか、あるいは所得税法に定める非課税所得への該当性を判断しているのかというような点が交錯する論点であり、基本的に事実認定をもって本件判断は行っているが、納税者にとっては租税負担が非常に変化する重要な判断であることは言うまでもない。しかしながら、このような転換、金員の性格の変更が判断された基準、メルクマールは必ずしも明らかとなっておらず、訴訟段階において対立や、長期間に及舞踊な状況が指摘されているのみであり、如何なる基準に当てはめ性質、非課税ではないとして判断しているのかという点は判断プロセスに示されていないものと評価される。事実認定をもって判断を行っているのみであり、一時所得に該当する点は、確かに、所得税法は包括的所得概念を基礎としており、広範囲に租税負担を求めていることから、その対象とすることに異論はないが、9条における非課税規定への当てはめがなぜ排除されているのかという点は、本来的に検討されるべきものではないだろうか。かかる点においてはより判断を追加すべきものと考えられる。その場合において、相続等の範囲が如何なるものであるのかという点は解釈上重要であるが、そもそも二重課税と言いながらも如何なる二重課税を排除する規定であるのか定かではなく、もって相続等の範囲を明示的に理解することは困難であり、かかる点はより検討の余地があろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年10月20日土曜日

判例裁決紹介(平成29年5月8日裁決、特定口座における株式の譲渡日)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年5月8日裁決で、特定口座における株式の譲渡日が課題となっている事例です。

具体的には、個人として株式投資を特定口座にて行っていた請求人が、当該取引において、年末において約定し、当該株式の受渡しを年明けに行ったケースにおいて、如何なるタイミングをもって、その譲渡日として、しかるに譲渡所得の起算日をカウントするものであるのかという点が中心的な課題となっている。本ケースは年末をまたいでおり、そのタイミング次第で、譲渡所得の起算日となる譲渡日が異なることになり、もってその譲渡所得の帰属日も変動することになるものである。一般的に譲渡所得のの計算において、如何なるタイミングをもって譲渡日とするのかという点は、その所得の起算、帰属を判断する上で、重要なものであり、その譲渡日をどのように認定するのかという点は留意されるべきものであろう。この点は言うまでもないことであるのかもしれない(実務家がそもそもそんなに気にしているのかという点はよくわからないが、どうだろう)。本件はこの譲渡所得において、特定口座における株式をどのように捉え、そもそもとして特定口座をどのようなものであるのかという点を考える上で、参考となるものであろう。実務的には、特定口座における取引は、証券会社等を通じて、その計算が行われるものであり、殆ど考慮に値するものではないのかもしれないが、かかる点において、本件のように、その譲渡日を約定日として、証券会社の計算とは異なり、自己の意思をもって主張する事例は特殊なものであると考えるべきであろうが、上記のように特定口座の性格に基づき、その譲渡日が判断されており、その口座の法的な性格を理解する上で参考となるものと考えられる。

特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等に対する源泉徴収等の特例)
第三十七条の十一の四 居住者又は恒久的施設を有する非居住者に対し国内においてその営業所に開設されている特定口座(前条第三項第一号に規定する特定口座をいう。以下この条において同じ。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡の対価又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等の決済(当該信用取引等に係る株式等(第三十七条の十第二項に規定する株式等をいう。)の受渡しが行われることとなるものを除く。以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「差金決済」という。)に係る差益に相当する金額の支払をする金融商品取引業者等は、当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者から、政令で定めるところにより、その年最初に当該特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡をする時又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等につきその年最初に差金決済を行う時のうちいずれか早い時までに、当該金融商品取引業者等の当該特定口座を開設する営業所に特定口座源泉徴収選択届出書(この項の規定の適用を受ける旨その他財務省令で定める事項を記載した書類をいう。第五項において同じ。)の提出があつた場合において、その年中に行われた当該特定口座(以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「源泉徴収選択口座」という。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡又は当該源泉徴収選択口座において処理された上場株式等の信用取引等に係る差金決済により源泉徴収選択口座内調整所得金額が生じたときは、当該譲渡の対価又は当該差金決済に係る差益に相当する金額の支払をする際、当該源泉徴収選択口座内調整所得金額に百分の十五の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する年の翌年一月十日(政令で定める場合にあつては、政令で定める日)までに、これを国に納付しなければならない。

居住者等が、上場株式等保管委託契約に基づき特定口座内保管上場株式等の譲渡をした場合の譲渡所得の計算は、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額等と区分して、個々の特定口座ごとに行うものとされ(措置法第37条の11の3第1項)、その計算を行う場合の必要経費又は取得費に係る計算は、いずれも特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として、金融商品取引業者等が計算を行うこととされている(措置法施行令第25条の10の第2項)。また、金融商品取引業者等は、特定口座年間取引報告書を作成して特定口座の開設者に交付するところ(措置法第37条の11の3第7項)、当該報告書には、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る収入金額のうち特定口座において処理された金額の総額、その取得費の額及び当該譲渡に要した費用の額の合計額の総額が記載され(措置法施行規則第18条の13の5第2項)、これらの金額はいずれも当該特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として計算した額となる。

以上のように本件の中心的な争点は特定口座を利用した株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日が認定されるものであるのかという点である。法は上記のように定め明確に特定口座における譲渡日を定めていない。法令上は上場株式等を譲渡した日を解釈し、その譲渡日を認定することになるだろう。

特定口座は証券取引税制の改正により、設けられたものであり、基本的に納税者の便宜を図ることをその基礎として、成立している特別措置であり、租税特別措置法において定められるものである。このような特殊な株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日とするのかという点が本件の背景にあるものと理解される。特に納税者の便宜において成立する制度において、さらに、納税者において選択の余地があるのかという点は興味深い。基本的にわが国の租税制度は、申告納税制度を基礎としており、本件もその前提があるものであり、納税者の一定の意思は考慮される可能性はあるものの、源泉徴収義務の成立、納税者の便宜を基礎とする制度において、このような点が認められるものであるのかという点は、検討課題であろう。

判断では、源泉徴収義務の成立をその起点としており、税額の確定におけるタイミングにおいて、その譲渡日を源泉徴収義務の発生と紐づけて理解している。その背景として納税者の便宜を趣旨とする制度であることと、もって金融業者に委ねている制度であると理解しているものであろう。しかるに、金融業者における計算書に記載された受渡日をもってその譲渡日として判断付けている。このように源泉徴収義務と紐づけて理解している点が特定口座の正確によるものではないだろうか。しかしながら、いわば、金融業者に委ねられているという理解と、源泉徴収義務との関連付け、紐づけ、そもそもの上記法規における譲渡日はいかなるものとして理解されるのかという点は、必ずしも明示的に関連付けられるものであろうか。必ずしも明示的に解されると理解することが可能であろうか。租税法規の選択適用が認められることは限定的であり、そもそもとしてこのような形で納税者の意思が介入することは、基本的に回避されるべきものとして解する傾向にあるが、口座の成立趣旨等から、その譲渡日と源泉徴収義務を紐付けることは一定の合理性があるものとも考えられるが、混乱を招かないように、法文においてより明示する必要があるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年10月13日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年5月11日、税理士が関与した代表報酬の潜脱、関連会社を利用した架空経費の計上)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年5月11日であり、税理士が関与したほ脱、代取報酬の潜脱、関連会社を利用した架空外注費の形状等が問題になった事例です。

具体的に本件は、整備業を営む原告法人が、代取への報酬の架空処理として顧問税理士への報酬を計上し、また関連会社を利用した給与の架空外注費等が問題となった事例であり、査察調査によりほ脱犯として刑事事件としては確定している事案で、その課税処分に関する点が対象となっているものである。調査手続、各種費用の損金性等、多様な点が争点になっている事例ではあるが、基本的に事実関係が問題になっているものである。刑事事件としての処理も、想定されていたことから非常に詳細な事実認定が行われており、瑕疵のある申告やほ脱への対応方法を学ぶ上では、参考となるべき事案であろう。特にここの論点は一般的な事例であるものの、丹念に事実関係を整理し、法令の適用を行っている点は課税実務家として有益な事案ではないだろうか。

なお、本件は、ほ脱等において租税の専門家として高度の倫理的責任を負うているべき税理士が関与している犯則事件でもあり、自身名義の口座を貸出し、実質的な代取の報酬の振込先として活用させるなど積極的な関与が認定されている。専門家としての責任や倫理を如何に捉えているのかという点で、強く非難されるべき行為であると考えられる。

また、本件では関連会社を利用した架空経費、報酬の利用をもって雇用契約に基づく給与の支払いとして利用していたことが課題となっているが、なかでも、この関連会社における源泉徴収義務が原告法人に対してどのように影響するのかという点が問題となる。原告における課税処分としては、関連会社が実態がないものとして、その報酬及び源泉徴収義務が発生しているものとして処理されている。従って第三者である関連会社名義でなされた源泉徴収義務の履行が原告法人に帰属されるものとして取り扱われるのかという点が問題になる。判示はその代替性を否定している。かかる点は特殊な関連会社によるものであるが、源泉徴収義務の法的性格を表しているものといえよう。基本的には、代替や第三者による源泉徴収義務の履行を本来の源泉徴収義務者に変わるものとして捉えることは認められないものと考えられる。源泉徴収義務が徴収の便宜上、特別な責任を法によって担保しているものであり、その地位の変更は困難なものとして理解されることが源泉徴収の性格から整合的であろう。

以上です。
毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成29年4月3日裁決、国内源泉所得における源泉徴収義務と支払)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月3日裁決で、関連法人からの借入に関する利子支払いを元本に組み入れた時点で、源泉徴収義務が発生するのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、国内法人である請求人が外国法人であるオランダ関連会社から借入を行っており、当該債務に係る利子の支払いを元本に組み入れていた処理を行っていた場合において、当該処理が国内源泉所得の「支払」に該当し、源泉徴収義務を負うべきものであるのか否かという点が問題になった事例である。国際的な取引、資金移動における源泉徴収義務の起点となるべき支払がいかなるものとして解されるべきであるのかという点が中心的な争点になっているものと捉えられる。近年はグローバル化、国際的な取引の増加や、単一の会社単位ではなく、資金管理・債権債務管理をグループ全体で管理し、実際の資金供給と債務の支払が一括して管理されているキャッシュタンクのような機能をもった会社機能として有しているような企業も、グループ単位で運営されているケースが増加している。本件もこのような背景が増加する中でより先例的な位置づけを与えられるべき事例であるだろう。このような統合的な、グループでの管理運営が多様化していくと、かかる中において、どのように資金管理、租税負担を行っていく、効率化した体制を構築していくのか、という点は国外展開、あるいはグループ企業において課題であり、租税条約や特典措置の適用等も鑑みて体制の構築に務めるべきものとして本件は参考となろう。


(源泉徴収義務)
第二百十二条 非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第百八十条第一項(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)又は第百八十条の二第一項若しくは第二項(信託財産に係る利子等の課税の特例)の規定に該当するもの及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(支払の意義)

181~223共-1 法第4編《源泉徴収》に規定する「支払の際」又は「支払をする際」の支払には、現実の金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれることに留意する。

以上のように本件の中心的な争点は所得税法に定める源泉徴収義務が発生する点につき、その法令上の起点となるべき「支払」につき、実際の債務者に対する資金拠出がない状況のようなものも対象として含むものと解されるのか否かという点が法令上の課題であろう。このような元本繰入れについては支払に含むものと解するのか否かという点については、上記のように所得税法基本通達において、例示として言及されているものであるが、かかる解釈が如何なる所以にあるのかという点が問題と考得られる。特に現代のような統合的な資金管理が主流となりつつあるような状況下においてこのような解釈が妥当であるのか否か、より検討すべきものと考えられる。

「所得税法第212条第1項に規定する「支払」には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払債務が消滅する一切の行為が含まれると解される。」

本件判断においても、特段の検討もなく、上記のように通達をそのまま引用し、国外源泉所得の支払の意義を述べている。裁決である以上、当然であるようにも捉えられるが、現状において、源泉徴収義務の起点となるべき支払の意義を如何に解するのか、という点は、今後の課題となろう。通常の文理であれば、金銭の資金拠出を伴うものが本来ならば、支払であり、一般的な納税者におけるレベルに置いてもその点は当然であろう。しかしながら現行法の解釈において本件のように、金銭等の支払がなくともその対象とされ、いわば、「支払」が非常に幅広い意義を有しているように捉えていることは、この納税者の予測可能性等、租税法規の基本的な要請に合致しているのか等の、是非も議論されるべきものであるが、専門家としては認識されるべきであろう。本件はあくまでも国外源泉所得における源泉徴収義務における起点を判断しているものであるが、租税法規一般においてこのように支払を考えているのか否かという点は検討すべきであろう。

現行法の解釈の所以が如何なるところにあるのかという点は定かではないが、国際的な資金移動において、国内源泉所得に対して課税漏れ、租税回避を招かず、適切な租税負担を企図したのとして理解するならば、このような解釈にも一定の合理性はあるものと考えられる。いわば固有概念として支出の有無にかかわらず、租税法規においては、少なくとも源泉徴収義務規定においては、広く支払を認識することとしているものとも理解され、納税者の予測と比較衡量されているものというべきであろう。しかしながら如何なるタイミングをもって支払とするのかという点は、必ずしも明らかではなく、例示に加えて、通達では債務の消滅を一つのメルクマールとしているが、抽象的であり、源泉徴収義務の発生のタイミングのみならず、損金としての計上のタイミングへも影響を及ぼすものであり、管理運営の際にもより慎重な判断が求められるのではないだろうか。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年9月28日金曜日

判例裁決紹介(札幌地判平成29年6月22日、雇用者給与支給額増加に伴う特別控除の適用要件と当初申告における明細の未添付)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は札幌地判平成29年6月22日で、雇用者給与増加に伴う特別控除の適用において当初申告要件としての明細書への記載が争われたものです。

本件は事業を営む原告が確定申告したところ、後日、雇用者給与支給額の増加関する特別控除の適用がなかったとしてその適用をも求める更正の請求を行い課税庁が、当初申告の段階において雇用者給与等に関する明細の記入がなかったとしてその適用を否定した事例である。以前、下記のように、裁決段階で法人税法における当初申告の不備を問題視した事例があったが、今回は所得税法における当初申告要件が課題となっている。租税法規としては異なるものの基本的に構造は共通しており、その判断も同様である。下記とともに、実務において比較的最近のその重要性が問題になったものであり、実務上も留意されるべきであろう。

基本的に法令判断として、また事実認定(特に当初申告における明細の未添付など)は、共通的であり、より横断的に租税特別措置における当初進行要件に対する手続規定の重要性を示唆するものと言えよう。

なお、判示においては、具体的に触れられていないが、納税者が主張するように、実質的な給与支給額の増加が、過年度の確定申告書と現年の確定申告書において、判断ができるところであり、制度適用の要件として事足りるとの主張もあり得ようが、かかるような点は立法によって解決されるべきものであり、当初申告要件における実質的な充足を、明細以外の補足的な資料において根拠づけられるところまで、その手続要件の守備範囲として捉えることは、租税特別措置において如何なる所以をもって当初申告を付与しているのかという点を損なうものであり、拡張的な解釈として受けいることは困難なものでとして考える。単なる手続要件であり、形式的なものを指すものであって、実質的には、給与支給の要件はクリアしているような場合において、一般的な納税者の感覚において適用が認められないことは不公平、納得がいかないという印象を持つことは、理解されるところであるが、租税特別措置において適用要件として、一定の規定をおいていることの重要性は左右しかねることは、実務家としてより強く認識されるべきものと言えよう。

以上です。毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。





2018年3月3日(土) 17:08 濱田洋 <hihamada@gmail.com>:
各位

濱田です。業界的に非常に忙しい時期だと思いますが、皆さんいかがでしょうか・・・。私は引越しにより大量の荷物と格闘しておりますが・・・元町をぶらついていいお店を探しているところです(今のところ酒屋さん経営のお店で日本酒が安くてたくさんあるお店は1件見つけました)。研究室も大量の本が溜まって来たので整理せねば・・・(誰か手伝って)。来年度の合格者も決定し、3月に入ったので来年度の準備にも追われています。

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年2月6日裁決で、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用にあたり、当初申告において、ミスにより当該支給額を誤って記載していたことに対して、事後的に更正の請求により救済されうる対象になるのか否かという点が争われたものです。

具体的には本件は、請求人が支給した給与等が前年度よりも増加しているにも関わらず、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用を申請する際に、誤って確定申告により記載する明細に対して増加額を記載せず(支給額を誤って記載)、かかる状況に対して更正の請求により当該特別控除の適用が行われうるものであるのかという点が課題となっている。更正の請求は下記のように法定の要件に合致していることを要件としており、より具体的には、申告段階において過大であるのかという点が中心的な争点となっているものと考えられる。一見すると、制度適用において、実質的な当該特別控除の適用要件は充足しており、もって申告段階では過大であることは明らかであるようにも捉え(一般的にはこちらの感覚が多いのかもしれない)、すなわち、実態として支給給与額の増加という実質的な要件を満たしているにも限らず、入力ミスという形式的な部分の誤りにより適用が否定されることは、バランスを欠いているのではないかという、思考が背景にあるようにも捉えられよう。一般的な感覚としてこのような理解を行うことは特段理解ができないところではないものの、結果としては、本件はこのような判断を否定しており(後述するように判断過程には疑問を持つものの、結論には賛成)、かかる判断枠組みは専門家として留意すべきものであるように考えられよう。確かに納税者にとって自らの責めに帰すべきものとはいえ(正確には税理士などの専門家が関与している場合が多かろうがこのような場合は、ミスに対する民事上の過失責任の問題である)、単なる形式的な誤りによる不備があることにより、租税制度上の不利益(得られし特別控除の適用)が適用できないことは甘受し難いとの思いを持つことは容易に想像ができることであり、かかる点からも留意点を示しているものといえよう。近年の租税制度においては、本件で課題となった雇用者給与等支給額増加に伴う特別控除は、その適用を増加させており(試験研究費関係や雇用増等と並び)、非常に重要な租税特別措置となっており、適用局面が多いことからも、当初申告におけるミスがそのまま救済の対象とはならず、すなわち事後においてもリカバリ対象とならないことは、当初申告要件が付与されている点においては当然のことにも考えられるが、租税専門家として、留意すべき点でありかかる点を明らかにしている点で本件は、参考となるものといえよう。また、本件制度以外にも、当初要件を付与された制度は増加傾向にあり(租税特別措置に対する見方の変化にもよるのかもしれないが)、かかる点からも当初要件の性格を理解する点でも本件は有益な事例であろう(他にも個人的には当初申告が不備であることによる制度適用の未充足が不当利得返還請求の対象となりうるものであるのかという点も気になるところであるが)。

(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、九年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。

以上のように本件は、請求人が当初申告において誤記を行ったことにより明細の金額に不備が発生したことに対して、更正の請求によるリカバリーが行われうるものであるのかという点が中心的な課題となっているものである。当初申告要件は、下記のように本件の特別控除においては、規定されていることは明らかであり、この充足がないという事実関係に関しては、特段争点となっているものではない。誤記があることにより当初申告における納税額の計算において過大が発生しているのか否かという点において上記更正の請求の対象となりうるものであるのかという点が具体的に問題となっているものと捉えられる。すなわちこの当初申告段階における明細の誤記による制度適用ができないことが、過大であることに該当するのか否かという点で議論となっているものであり、最終的に判断では、かかる点を否定し、当初申告要件が付与されていることから当初の申告段階で不備があろうとも、過大ではないとの判断が導かれ更正の請求の対象とはならないとして結論付けられている事案である。

第四二条の一二の四 青色申告書を提出する法人が、平成二十五年四月一日から平成三十年三月三十一日までの間に開始する各事業年度(第四十二条の十二の規定の適用を受ける事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下この項及び第四項において「雇用者給与等支給増加額」という。)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る。)は、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額(第四十二条の四第六項第二号に規定する調整前法人税額をいう。以下この項において同じ。)から、当該雇用者給与等支給増加額の百分の十に相当する金額(以下この項において「税額控除限度額」という。)を控除する。 この場合において、当該税額控除限度額が、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額の百分の十(当該法人が中小企業者等(同条第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいう。次項第五号ハ及びニにおいて同じ。)である場合には、百分の二十)に相当する金額を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の十に相当する金額を限度とする。
一 当該雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること。
二 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えること。

 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。

このように本件では、当初申告要件に対して、単なる手続的な規程であり実質的なものではないと理解する納税者と制度適用において重要な要件であると解している課税庁との見解の対立が本件の起点になっているものであろう。私見としては当初申告要件が付与されていることは明らかであり、この記載の不備が原則として適用要件として機能するものであり、実質的な要件と区別すべきであるとは評価しがたい。誤記による修正が反映されうるものであるのかという点は当該特別控除の制度趣旨において当初申告要件が如何に位置付けられているものであるのかという点から検討すべきものであると考えられる。本件では以下のように、措置法一般の性格から判断を導いているが、一般的な検討によるものであり、必ずしも本件特別控除における誤記の存在や要件の性格を検討するものとしては捉えがたく、本件特別控除における制度趣旨から如何にしてこの当初申告要件が理解されるべきものであるのかという点の検討は行われていない。この点は留意が必要であるものと考えられる。

措置法は、種々の特例規定を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているところ、特例の適用を受ける場合には、申告に際してその適用を受けるべき金額を記載することや所定の書類を添付することなど、一定の手続の履行を要求し、もって課税手続の明確及び安定を図っている。

租税特別措置が基本的に一定の政策目的のもとで、租税負担の公平を犠牲としつつ当該目的の達成を企図するものである以上、申告段階において要件の充足を、明確に判断できるように、一定の手続を要請していること(事実上立証責任を転換している)は公平性と政策目的達成を整合的に図るべき趣旨として重要なものであると判断すべきであるが、本件においてもかかる点は相違はないものと考えられるが、原則的な当初申告要件の性格はかかる背景を持つものとして理解されるべきであるが、基礎となる制度趣旨との対比において、ミス等を本件制度において如何に位置づけるべきであるのかという点はさらに検討の余地があるのでないだろうか。もし、本件のような判断枠組みが適用されるものであるならば、租税特別措置一般において誤記のようなミスによる不備は救済対象としてはならないものと捉えられようが、このような一般的な結論はより詳細な検討が必要であるものとも考えられる。

納税者の主張にあるように、税額控除においてミスによる修正を、更正の請求として認めた最判(最判平成21年7月10日)もあるものであるが、かかる判決は、 法人税の確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)68条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除するに当たり,計算を誤ったために控除を受けるべき金額を過少に記載したとしてされた更正の請求が,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとされた事例 であり、租税特別措置の適用要件における誤記とは些か条件を異にするものと評価されるが、特に制度適用において背景とする趣旨が異なるものであり(配当の二重課税の調整と給与支給額の増加へのインセンティブ)、かかる点から本件特別控除における誤記の対応を限定的に解することは必ずしも直接的には導かれない(あくまでも判示の枠組みが直接的に適用可能ではないと導くものであろう)。しかるにより明示的に本件制度において個別の制度趣旨の観点からより詳細に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除において当初申告要件が如何なるものを担保しようとしているのかという観点からより個別具体的な検討が必要であるといえよう。

更正の請求の対象としてこのようなミスを含みうるものであるのかという点は、拡張的な解釈として、より明示的には拡大する方向を検討することもありえようが、かかる点は立法論として理解されるべきであり、租税特別措置においてこのような措置を取りうるべきであるのかという点は見解が別れることになるように捉えられる。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年9月22日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年9月1日、過去における買換特例の適用有無と取得価額)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年9月1日で、相続により取得した財産の譲渡所得につき、取得費未満とした申告を否定して譲渡所得に対する買換特例の適用が行われていたとする処分の有効性が争われた事例です。

具体的には、原告が相続により取得した不動産を譲渡した際に、当該財産の取得費の計算し、当該譲渡金額がその金額を超過しなかったとして譲渡所得を0であるとして申告したところ、当該不動産に対しては被相続人が昭和60年台において譲渡所得に関する買換特例の適用を行っており、取得費が当該不動産以前の取得費が引き継がれているとして譲渡所得の計算(取得費の再計算)をした処分に対して、当該制度の適用を受けた事実、証拠はないとしてその取消を求めているものである。基本的に、譲渡所得や買換特例などの法令上の意義、解釈が争われた事例ではなく、過去の事実関係として当該特例の制度が適用されていたのか否かという点が中心的な争点になっているものである。従って法令解釈として特段特徴的な事例ではないものと評価されるが、特例の適用関係が、特に非常に時間が経過している状況下においていかにしてその適用関係を立証するのか、あるいは、課税庁の主張する立証につき、反証を行うのかという点が本件の意義と言えるのではないだろうか。

より具体的には、課税庁が示す整理票が証拠資料として適当であるのか否か、この資料における適用関係を否定できるのか否か、という点が納税者における本件における争い方であり、真実性や課税庁内部での資料状況を基礎とした判断であり、判示では最終的に納税者の当該不動産に関する価格内訳の差異に基づく当該資料の適否を疑問視する主張を退けているものであるが、内部での管理関係等の状況も反映させた形での反証が必要であり、些か納税者にとっては、その争い方として厳しいものと捉えざるを得ない。

長期間の経過かつ相続が関与することにより当事者の不在、申告書に関する保存期間の終了等の状況が本件の事実関係においては付与されているものであり、かかる点が事実関係を複雑化しているものとして本件の起点を構成している。このような状況は相続に伴う事実関係としてはおそらく特段珍しいものではなく、相続関係や譲渡を行うにあたり、特例の適用関係などは留意されるべきものとして実務上も本件は一定の参考となるのではないだろうか。

本件はこの処分の基礎となる書類(確定申告書類)が保存期限を超過しており、当時における帳票、管理のための整理表が基本的な対象となっており、納税者としてはこの適否を争うほかないのであるが、課税行政に属するものとしては、最終的に資料における記載事項から、その適否を判断しているプロセスは、当該行政に携わるものとして、参考となるものと評価されるし、実務家としても資料の吟味において留意されるべき点を示しているとして理解されるべきであろう。

納税者としては、不動産価格の内訳が異なることをもって争点の基礎としているが、このような僅かな相違(この点は300万円以上の相違であり、見方によってはその適否を十分に吟味すべきものとして捉えられるかもしれないが)では、課税庁の基礎資料として適否を否定することは実際上は困難という認定が本件である。いかにしてその適格性を認定しているのかという点は上記のように判断プロセスを学ぶ上で、あるいはティーチングケースとして参考となろう。

また、本件では、課税庁がその適否を主張する上で、KSKシステムにおいてかかるような整理表の存在、特例の適用関係があることを示唆する情報の登録が行われていることが主張されており、国税庁における長期間に渡る資料管理の現況の一端を垣間見ることが可能な点でも興味深い事例であるものと考えられる。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。




2018年9月18日火曜日

判例裁決紹介(神戸地判平成28年3月16日、農業相続人に対する納税猶予と転用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成28年3月16日で、農業相続人に対する納税の猶予に関して、転用が行われており、当該要件を充足しないとして猶予が取り消された事例です。

具体的には本件は相続人たる原告(農業相続人)相続財産たる農地につき、納税の猶予の届け出を行っていたところ、東亜gのうちは庭園として転用されており、その猶予の条件を充足していないとして、その転用の事実関係が争われた事例である。農地に関する納税猶予の特例は、期限を最終的に超過すれば、猶予税額が免除されるものであり、当該制度の適用、継続に関する条件の充足の有無の判断は長期間に渡り非常に重要な、条件として位置づけられるものであり、かかるような性格を有する租税特別措置の適用要件を如何に解すべきであるのかという点が、特に適用が中止される条件である、特例農地の譲渡等(転用等も含む)がどのような状況にあるのかという点が起点となっているものと考えられる。判断の枠組としては、農地法における農地の解釈を準用し、最高裁判決を基礎として判断を行っている。しかるに法令解釈としては農地法の準用を基礎としたものと考えられ、特段特徴的なものではないかもしれないが、農地として利用されているのかどうか、特に転用後の現況である桜を植え、一部観賞用の設備の設置などを行っている状況が当該解釈として農地に当てはまるものであるのかという点が問題となっているものである。最終的に、本件では利用状況等総合的に判断して、農地としての該当性を判断しており、本件の特徴となっているものであり、納税の猶予における状況の判断枠組として先例的な価値を有するものとして捉えられよう。

下記は、現行法における条文であるが、基本的に本件と同様に当該制度の適用が中止される条件において譲渡等が含まれるものである。特に本件においては転用が行われていることが基礎的な事実関係として問題となっている。

(農地等についての相続税の納税猶予及び免除等)
第七十条の六 農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下この条において「被相続人」という。)の相続人で政令で定めるもの(以下この条において「農業相続人」という。)が、当該被相続人からの相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地(特定市街化区域農地等に該当するもの及び利用意向調査(農地法第三十二条第一項又は第三十三条第一項の規定による同法第三十二条第一項に規定する利用意向調査をいう。第一号において同じ。)に係るもののうち政令で定めるものを除く。第五項を除き、以下この条において同じ。)及び採草放牧地(特定市街化区域農地等に該当するものを除く。同項を除き、以下この条において同じ。)の取得(前条の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされる場合の取得を含む。第十九項から第二十一項までを除き、以下この条において同じ。)をした場合(当該被相続人からの相続又は遺贈により当該農地及び採草放牧地とともに農業振興地域の整備に関する法律第八条第二項第一号に規定する農用地区域として定められている区域内にある土地で農地又は採草放牧地に準ずるものとして政令で定めるもの(以下この条において「準農地」という。)の取得をした場合を含む。)には、当該相続に係る相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書(以下この条において「相続税の申告書」という。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地及び採草放牧地並びに準農地(政令で定めるものを除く。)で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該農地及び採草放牧地については当該農業相続人がその農業の用に供するもの(第九項の規定に該当する農業相続人にあつては、その推定相続人の農業の用に供するものを含む。)に限るものとし、準農地については当該農地又は採草放牧地とともにこの項の規定の適用を受けようとするものに限る。以下この条において「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、納税猶予期限(当該納税猶予期限前に、その有する当該特例農地等の全部につき第七十条の四の規定の適用に係る贈与があつた場合には、当該贈与があつた日とし、当該特例農地等の一部につき当該贈与があつた場合には、当該特例農地等のうち当該贈与があつたものに係る第三十九項第三号に定める相続税については当該贈与があつた日とし、当該特例農地等のうち当該贈与がなかつたものに係る第四十項第五号に規定する政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税については当該贈与があつた日から二月を経過する日(同日以前に当該農業相続人が死亡した場合には、当該農業相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この条において同じ。)が当該農業相続人の死亡による相続の開始があつたことを知つた日の翌日から六月を経過する日。以下この項において同じ。)とする。)まで、その納税を猶予する。ただし、当該農業相続人が、その納税猶予期限又は当該贈与があつた日のいずれか早い日(以下この条において「死亡等の日」という。)前において次の各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日から二月を経過する日まで、当該納税を猶予する。
一 当該相続又は遺贈により取得をしたこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等の譲渡、贈与(第七十条の四の規定の適用に係る贈与を除く。)若しくは転用(採草放牧地の農地への転用及び準農地の採草放牧地又は農地への転用その他政令で定める転用を除く。)をし、当該特例農地等につき地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定(当該特例農地等につき民法第二百六十九条の二第一項の地上権の設定があつた場合において当該農業相続人が当該特例農地等を耕作又は養畜の用に供しているときにおける当該設定を除く。)をし、若しくは当該特例農地等につき耕作の放棄(農地について農地法第三十六条第一項の規定による勧告(当該農地が農地中間管理事業の推進に関する法律第二条第三項に規定する農地中間管理事業の事業実施地域外に所在する場合には、農業委員会その他の政令で定める者が、政令で定めるところにより、当該農地の所在地の所轄税務署長に対し、当該農地が利用意向調査に係るものであつて農地法第三十六条第一項各号に該当する旨の通知をするときにおける当該通知。第十二項第二号において同じ。)があつたことをいう。同号及び第十二項第三号において同じ。)をし、又は当該取得に係るこの項本文の規定の適用を受けるこれらの権利の消滅(これらの権利に係る農地又は採草放牧地の所有権の取得に伴う消滅を除く。)があつた場合(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定があつた場合を除く。)において、当該譲渡、贈与、転用、設定若しくは耕作の放棄又は消滅(以下この条において「譲渡等」という。)があつた当該特例農地等に係る土地の面積(当該譲渡等の時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等につき譲渡等(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定を除く。)があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)が、当該農業相続人のその時の直前におけるこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等に係る耕作又は養畜の用に供する土地(当該農業相続人が当該相続又は遺贈により取得した特例農地等のうち準農地で農地又は採草放牧地への転用がされたもの以外のものに係る土地を含む。)の面積(その時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等のうち農地又は採草放牧地につき譲渡等があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)の百分の二十を超えるとき その事実が生じた日

以上のように、本件はその中心的な争点として、猶予に関する要件の充足(農地として継続的に利用されているのか否か)という点が如何なる基準を持って判断されつべきであるのか、如何なる基準を適用して認定されるのかという点、事実関係が問題となっている(いささか長い条文であるが)。最終的には以下のように最高裁の農地法における判示を引用して、

「農地とは、農地法2条1項に規定される「耕作の目的に供される土地」をいうところ、「耕作」とは、土地に労資を加え、肥培管理を行って作物を栽培することをいい、その作物は穀類蔬菜類にとどまらず、花卉、桑、茶、たばこ、梨、桃、りんご等の植物を広く含み、これが林業の対象となるようなものでない限り、永年生の植物でも妨げられない(最高裁昭和40年8月2日第二小法廷判決・民集19巻6号1337頁参照)。また、肥培管理とは、作物の生育を助けるため、その土地に施される耕うん、整地、播種、灌がい、排水、施肥、薬剤散布、除草等の人為的作業を行うものであり、ある土地が農地であるかどうかは、その土地に作物の栽培のための肥培管理が施されているかどうかによって決定されるべきものである(最高裁昭和56年9月18日第二小法廷判決・裁判集民事133号463頁参照)。そして、登記簿上の地目や当事者の主観的意図に左右されるものではなく、当該土地体の客観的状況により判断すべきである(最高裁昭和39年5月26日第三小法廷判決・裁判集民事73号677頁参照)」

客観的な状況を基礎としてその判断を行っている(しかるに判示として、農地として継続的な利用になく、庭園としての利用であって適用されないとしている)。納税者の意思による(納税者の主張にあるように)、桜の育成等の状況にあって、農業を継続的におこなっているとは判断していない。基本的には設備や利用環境等から客観的な要因を基礎として庭園としての利用を判断しているため、事実関係を如何に評価するのかという点が本件の中心的な争点であろう。しかしながら農地として利用しているのか否かという点に焦点を当てており、現行法における転用等をどのように解すべきであるのかという点は欠けているようにも捉えうる。

このように客観的な状況を基礎としている点は租税法規における客観性の確保を基軸とする特徴を整合的であり、納税者の意思などの主観的な要因は副次的な要因として判断されることとなろう。特に本件制度は租税特別措置であり、厳格な法適用が要請されることから考えれば、衡平負担の観点からもその判断は客観的な事実関係を基礎とするものと判断されるべきだろう。しかるに納税者の意思などは間接的な材料にとどまるものと評価せざるを得ないことは留意されるべきである。

本件特別措置は非常に長期間に渡る状況の継続をその基礎としている制度であり、納税者、課税庁ともに、継続的か関与が必要となる制度であり、より留意が必要なものである。類似の制度として納税の猶予を定めた事業承継税制など、同種の事実関係の判断においても本件のような状況が基礎となるべきものであり、かかる点において本件の判示は有益であり参考となるものと言えよう。

なお、法令においては利用状況の変化等に関して、転用と定めるのみであり、主たる利用要因など、程度差を反映させる規定をおいていない。利用状況の判断につき、継続を判断する上で、程度差を設けていないものと考えられる。しかるに一部であっても利用状況が継続的であれば当該猶予を適用可能であるとの解釈も行うことも出来よう。かかる点は立法的な課題であるとも言えようし、より詳細な検討が必要であろう(一部のみの継続によって納税の猶予を認めることは公平に反する状況も想定される)。また、当該制度は長期的な利用等の状況の継続をもってその立法目的を達成しようとする制度であり、特定のタイミングのみを基礎として猶予の継続を判断することは、あるいは転用等の状況であることを判断することが妥当であるのかという点も検討されるべきではないだろうか(一定に期間における状況の変化や継続をその判断材料としておくべきではないだろうか、立法論であるのかもしれないが)

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

2018年9月8日土曜日

判例裁決紹介(平成29年7月7日裁決、調査終了時の説明、地域対策費の必要経費性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月7日裁決で、未申告の事業者に対する調査手続きの違法性、瑕疵と課税処分の取消しという手続法部分と、所得税法における必要経費として請求人が計上した地域対策費の該当性が認められるかという実定法の部分が課題となった事例です。

具体的には、本件は請求人が営む風営法対象事業に対して、所得としていた事業所得につき、未申告であったことから査察調査等をへて、决定処分を行った事例である。かかるような処分の段階において、当該処分の前提となるような調査手続きの瑕疵があったことによる(請求人、処分行政庁双方が内容・程度は異なるものの瑕疵の存在はそれぞれの主張において認めている)課税処分の違法性、取消対象となりうるべきものであるのかについて争われたものである。さらに、特殊な事業形式であることから、その必要経費においてもいわゆるみかじめ料などの存在が一括で地域対策費として計上されており、かかる点における必要経費としての該当性もまた争点となっているものである。未申告かつ特殊な事業に関わるものであり、また、このような調査手続の不備を主張するような事例は特に調査手続の改正が行われた平成23年改正以前からも、大量に行われた事例でもあるが、本件は、特に重要な手続法の改正であり、その中でも重大なトピックとされた項目である調査終了の手続、特に説明に関して課税庁の主張が含まれている事例であり、検討対象として重要なものであるように評価される。判断では、最終的に課税庁が主張する非常に限定的な解釈を採用しているが、その根拠も含め更に検討が必要であるだろう。
また、本件ではあわせて反社会的な団体への費用拠出、特殊な費用の必要経費性が否認されており、必要経費性の否定は、その具体的な定義も含め、多様な論点を含むものであるが、その否認のアプローチは形式的なアプローチではあるが、参考となるものと考える。


(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。

以上のように、本件はその中心的な争点として、調査手続の瑕疵と課税処分の取消対象(すなわち調査の違法性)が関連付けられるべきであるのかという点が問題となっているものと考えられる。双方が主張する瑕疵、不備(法的にその治癒が図られる場合もあるので個人的には瑕疵と一律に表現するよりは、この用語が適性であるように考える)は異なるものの、処分行政庁においてもその存在は認めており(軽微なものとしているが)、かかる点がその後の処分において如何なる影響を及ぼすものと考えられるのかという点が解釈上も課題となろう。手続法に関する重要な節目となった平成23年の国税通則法改正前より、この手続上の不備と課税処分の関係は議論されてきたが、必ずしも法定の取消事由としてかかる不備が対象となるものではなく、一部の手続を除き、かかる不備は、重大な違法性がある場合においてのみその取消事由として機能するものと解されてきた。このような状況が上記改正によっても変化なく、継続しているものであるのか、あるいは、変化が生じているのかという点が具体的な解釈上の問題と考えられる。私見としては一般的に調査手続のその目的等において従前と現況において相違がないことから、調査手続の瑕疵があった場合、一般的にその課税処分の取消に至ることは否定的に捉えら得るべきものと考えられる。また調査手続もその保護しようとしている目的等において、相違があり、一律に捉え、議論することはバランスを欠くものと評価せざるを得ない。また従前においても重大な違法性を対象としているが、如何なるものをその重大と判断する起点とすべきであるのかという点は定かではなく、現行制度においてもより検討が必要ではないか。
かかる点に付き、以下のように判断では述べている。
「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。」

判断では上記のように、現況においても従前の状況を踏襲しており、瑕疵は必ずしも取消事由として機能すると一般的な機能するものとしては理解しておらず、さらに、

「もっとも、通則法は、同法第24条《更正》の規定による更正処分、同法第25条《決定》の規定による決定処分及び同法第26条《再更正》の規定による再更正処分について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される。

として調査によりという文言の解釈から重大な違法性を帯びている場合に限定しており、さらに証拠資料の収集手続における瑕疵の存在に限定している。このような判断を行う根拠は如何なるものであろうか。判断では具体的には明示していないが、重大な場合に限定するとの点は従前の見解と整合的であるものの、上記解釈によっては、以下のようにあくまでも証拠収集手続に限定している。これにより、以下のように平成23年改正によって導入された調査終了の際の手続である説明に関しては、あくまでも終了の手続であり、証拠収集に影響を及ぼさないとして、瑕疵による課税処分への影響を遮断している。

「しかしながら、上記イのとおり、調査手続の違法が課税処分の取消事由となるのは、課税処分の基礎となる調査を全く欠く場合のほか、証拠収集手続に重大な違法があって調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合に限られ、他方、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続の 違法は課税処分の取消事由とはならないものと解されるところ、調査結果の内容の説明は、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続の適法性に影響を及ぼさない手続であるから、原処分の取消事由とはなり得ないものというべきである」

このような証拠収集段階における適法性を重要視する見解は刑事法を中心に、理解を得やすいものであろうが、課税処分においてかかる手続への評価を行って違法性、取消の可能性を判断することはだろうであろうか。租税法規では犯則調査における資料と質問検査に代表される任意調査は明確に区分しており、その目的は異なるものとして明文をもってその分離を規定しており、任意調査において証拠収集手続とその他の手続において区分して課税処分の前提となる処分を理解することは予定されているのであろうか。調査概念自身、多様な調査を含むものであり、実地の調査に限定されているものではなく、実地の調査や調査の単位をいかに捉えるべきであるのかという課題を発生させることであろう(判断では、査察調査時において入手された資料を活用した再度の調査は実地の調査ではなく、事前通知の必要がないものとしている)。調査終了時の説明はその趣旨として説明責任の強化という、いささか不確かな点を根拠としているものであるが、処分理由を開示することでは、後の更正処分等の前提となる理由の提示、理由附記と大きな相違はなく、このような理由附記がかけた場合はその処分の取消は免れないものであり、かかる点との整合性との点でも疑問があろう(理由附記等により、瑕疵が治癒されたものとして、重大なものではないとして評価することもあり得よう)。

このように本件では、調査上の不備(瑕疵)と課税処分の取消事項としては解釈として、対象を証拠収集手続(そもそも租税法規における調査においてどの部分を証拠収集として評価するのかという点も定かとは言えず、枠組が不確かではないか。)に限定的に解している。納税者である請求人はこの説明段階において全く理解できないものであり、かかる点からの瑕疵も主張しているがそもそもどの程度の説明義務を追っているのかという点は解釈上は明らかではなく(私見としては理由附記と同等のものと捉えることは果汁であるものと評価されるが)、かかる点も更に検討すべきであろうが、上記のように限定的な課税処分に対する影響であるように捉えるならば、一般的に証拠収集段階にはない、手続として説明は、課税処分への影響を遮断されることになると解することが如何なる根拠によるものであろうか。説明は法定の手続であり、勧奨や更正処分の前提となるものとして、かかる点における不備が一律に課税処分への影響を排除されるべきものと捉える解釈はより検討が必要であるものと考えられる。実質的に上記改正の意義を喪失するものであるとも捉えることも可能であるかもしれない。このように捉えるならば、手続を定めた趣旨に反するものであり、処分行政庁の恣意を抑え、納税者の権利保護を基軸とする制度として、特に納税者の保護との間で衡平を欠くものではないだろうか。

また、本件では反社会的な団体へのみかじめ料などの必要経費性も問題となっている。かかる点につき、判断では、相手先や金額の明細が不明であり、更には、資料との距離の関係から実質的に納税者である請求人に立証責任を転換しており、このような形式的なアプローチからその必要経費性を否定している。すなわち、必要経費における必要性や、関連性などの要件を実質的に議論せず、その経費としての認定を排除している。このような反社会的な団体への費用拠出に関しては、その経費としての否定を行う際には法人税法における公正処理基準が活用される事が多いがこのような根拠規定を持たない所得税法においては、上記のような形式的なアプローチが主たるものとしてならざるを得ないものとも認識されるべきであろう(反対に、必要性の立証は非常に幅広い解釈が可能となっていることの証左とも言えるかもしれない)。

以上です。毎度のごとく、論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年8月31日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年1月24日、未分割遺産の更正の請求と財産評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成30年1月24日で、未分割遺産に関する相続税の確定申告を行ったていた原告が、その更正の請求にあたり、当初申告における課税訴訟において当該財産の評価額の引下げを確定判決として得ていたことから、当該価格によるべきとして請求をなしたことを、課税庁が否定し、当該基礎となる金額は、当初申告における評価額を基礎とすべきであるとして拒否したことを争点としている事例です。

具体的には本件は相続人である原告が他の相続人との間で、遺産分割協議が整わず、未分割遺産による相続税の確定申告を行っていたものであり、別件訴訟により、この当初の申告において、対象となった相続財産のうち、取引相場がない株式の評価方法において過大であるとして争っていたことがそもそも背景にある。当該株式の評価に関しては、未分割の時点での評価は過大であると認定され、その評価が引き下げられる判決が確定しており、(この判決の確定により、財産評価基本通達における株式保有割合の見直しが図られた著名な判決である、約10億円の相続税負担が軽減されている)かかる判決により、遺産分割協議が最終確定し、当該判決における評価額に基づき協議が成立したものである。かかる協議の成立により、未分割遺産に対して更正の請求を行ったものであるが、かかる点においてその適用対象となる財産価額において上記判決において確定した価額をもって請求したところ、当該請求における基礎となる金額は当初の申告における財産評価額であるべきであり、更正の請求は認められないとした処分を不服としたものである。実質的には判決をもって株式の評価額が否定されたものを用いるべきであるとした課税庁の処分であり、未分割遺産に対する更正の請求がいかなる意義を有するものであるのかという点が起点となっている。納税者が長期間に渡って課税訴訟において当初の申告における評価額における争いの末、得た評価額を否定するものであり、納税者の理解が得られるものではないことは明らかと言えよう。最終的には、判示としては別件訴訟における行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力を認め、当該価格によるべきであるとして納税者の請求を認めているものである。

近年は相続を取り巻く環境が多様化しており、財産分割が申告期限前に確定せず、未分割遺産の発生は必ずしも珍しいものではない。本件は、当初申告における財産評価の見直しという極めて珍しい状況が発生しているものでもあるが、そして本質的には争い方の問題であるとも言えるが、本件判断が一般性を持つこととなれば、かかるような訴訟関係は一般性は困難であり、未分割遺産に対する財産評価額の判断の根拠が極めて厳格にその対象となることになり、取得関係の変化によって価格が変更している場合を除き、当初の確定申告、すなわち、下記の55条における価格を基礎として判断することになるものと考えられる。単に未分割遺産に関する申告として捉え、評価額は分割協議確定後における更正の請求に多いて修正を図ることは非常に困難であることが導かれ、実務上も留意されるべきものであろう。そもそも本件のように財産価額が確定判決において大幅な評価額の変更、減少を伴うような事例は少ないものとも言えようが、未分割遺産であろうとも当初申告における財産価額の評価は留意されるべきであり、安易な修正は困難であるものとの認識は共有されるべきであろう。更正の請求において国税通則法におけるものとは異なり、相続税法特有の後発的な事情を反映させるものとして、限定的な条件が付与されていることは重要な点であろう。

(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと


(未分割遺産に対する課税)
第五十五条 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつた場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第三十二条第一項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。

以上のように、本件の中心的な課題は、未分割遺産に対する課税とその状況下における更正の請求の特則の関係性を如何に解するべきであるのかという点であろう。判示では以下のように、

相続税法は、相続税について、55条で、国家の財源である税収を迅速・確実に確保する観点から、遺産分割が未了であっても、相続人は民法の規定による相続分の割合に従って財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告すべきこととした上で、32条1号で、後に遺産分割が行われ、財産の取得状況が変化し、申告又は従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となった場合には、国税通則法23条1項の特則として、同号の後発的事由に基づく更正の請求を認めたものと解されるしたがって、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち、 申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできないものと解され(ただし、遺産分割による財産の取得状況の変化により、個々の財産の価額が変化するといえる場合には、この変化は主張し得るものと解される。)、その結果として、同号に基づく更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額となるというべき

原則として、当初申告における価額を基礎としているものであり、原則的には価格の変化における主張は排斥されるべきものとして解している。厳格な救済の要件を提示しているものであり、単に価額の変更をもってその未分割遺産に対する請求を行うことは困難であることが認識されるべきものと考えられる。かかるように解釈する根拠はいかなるものであると考えるべきであろうか。上記判示は、制度趣旨を基礎としているようにも捉えられるが、その根拠としては法文において、価額変更の局面を限定しておりかかる点がその根拠となろう。私見としては、かかるような限定は、課税処分の基本的な性格から、その大量性等に配慮し、権利救済の方法を更正の請求に限定しており、また相続税法においては特則をもって対象を明示しており、基本的に他の方法によることを制限していることからも、厳格にその要件は解釈されるべきものであると考える。

本件判決は、当初申告における大幅な訴訟による価額変更を基礎とした事例判決でもあろうが、上記のような基本的な解釈を背景としつつも、確定判決の拘束性を認め納税者の権利救済の範囲に対する例外、救済を図った点で特徴的な事例であるように評価される。

以上です。
毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年8月24日金曜日

判例裁決紹介(札幌地判、平成28年4月15日、分掌変更による退職金の損金算入)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、札幌地判平成28年4月15日で法人の損金認定において、コンサル料と分掌変更による退職金の支給が争われた事例です。

具体的には本件は、ホテル等の事業を営む原告が所有するホテルの売却に伴い、法人の代表者に対して支払われた売却先からのコンサルタント料としての金員が法人としていかに捉えられるのか、すんわち、売却価格の一部分割による支払いであるとして、法人に帰属すべきものであるのか否か、加えて、いわゆる分掌変更による退職金の支給が法人による退職金として損金として評価されうるものであるのかという点が争点となった事例である。基本的には事実関係を如何に認定すべきであるのかという点が中心的なものであり、特に法人の益金の帰属、損金としての認定という、通常争点となりやすい点が課題となった事例であり、かかる点において、本件は、実務においても参考になるものと考えられる。いずれも法人の代表者が関わった法人の行為を如何に租税法規として捉えるべきであるのかという点が問題になっているものと考えられる。かかる点において我が国の法人の典型をなす経営と所有が一体化しているような法人における代表者の行為、位置づけが、更にはその行為の合理性が問われた事例として本件は、従前の類型とともに、特徴的な事例であるものと考えられる。

まず、本件の中心的な争点の一つは、所有不動産の売却に伴って発生した法人の代表者へのコンサル料としての相手側からの支払われた金員をどのように評価するべきであるのかという点である。法人が売却した土地の対価部分を一部分割して、法人の代表者に対して支払われたものであるという認定を課税庁および判示においても採用しているが、このように形式的には法人とは異なる自然人としての代表者に対して支払われたものが租税法規において法人への帰属として処理されることが本件の特徴的な判断であろう。このような処理は課税実務においては一般的なものであり、特段異論があるものであるのはないとも評価しうるのではないかともいえようが、法人の代表者が行うコンサルといういわば曖昧な行為が背景にあるものであり、見方によっては法人に対する背信的な行為でもあろう、このように個人的利益と法人との関連において追求することを法人税法は如何に捉えていくべきであろうか。また所得分割のような租税回避を許容しうるのかという点が本件の起点となっているように考えられる。このような特殊な行為はその背景として、我が国の法人の所有形態が基礎づけられているものと捉えるべきであり、他の法規との間での基本的な相違であろう。

判示がいかなる法的な根拠をもって、課税庁の主張を肯定し、本件金員を法人の受け取るべき対価であるとの認定を行った上で、民事法上の契約関係を法人税法において引き直しているのかという点は明示的ではないが、かかるように民事法上の形式を租税法規において否定しているような状況は留意されるべきであろう。特に本件では所得分割のような租税回避の行為としての認定を行っていない(課税庁等の主張にも見受けられないようなので当然かも知れないがため法人税法において本件のような行為が否定されるべきものとしていかにして根拠を持っているのかという点は更に検討が必要であるように考えられる。いわば、本件の契約の目的から真実の法律関係を認定しているような事例であり本件の特徴を構成しているといえよう。

また本件の第二の争点は上記のような取引を行った代表者が辞任して監査役に変更となった事によって支給された退職金 を損金として該当しているのか否かという点である。いわゆる分掌変更による退職金支給の問題である。退職金は法人税法上多様な論点を生じうるものであるが、本件が課題とする退職の時期において分掌変更を実質的な退職として租税法規の解釈上認めうるものであるか否かという点も課題となっており、本件もその類型に属するものであろう。このように退職の意義を実質的な意義において拡張している点が分掌変更の特徴的な解釈であろうが、その根拠は必ずしも法令を根拠としているものではない。退職という文言自身は基本的に所属している企業等からの離脱を指すものであり、職務内容の変化までも含むものとして解釈することは困難ではないかともいえようが、下記のように分掌変更による退職金の支給を一部条件をつけて認容している通達が、実質的な根拠となっている。この条件となるべきものも、定性的な条件であり、本件もその判断を支える上で、重要な事例となるものと言えよう。

「法人税法34条1項によれば、役員に対する退職給与は、損金の額に算入することができるものとされているところ、ここにいう退職給与とは、本来退職しなかったならば支払われなかったもので、退職に基因して支払われる給与をいうと解するのが相当である。また、役員が実際に退職した場合でないとしても、分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、当該事情に基因して支払れる給与も、退職給与として損金に算入することが相当であり、法人税基本通達〔昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規)〕9-2-32(別紙の2参照)は、これと同様の趣旨を規定したものとして合理的なものと解される。

(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
判示においては実質的に通達の処理を許容しているが、言うまでもなく、通達は法源性を有しておらず、租税法律主義を基本的な要請とする租税法規の基本的な解釈指針としてかかるような通達を根拠とすることを許容することは困難であろう。私見としては、退職金が所得税法において1/2課税の対象となっており(かかる点も改正対象とすべきであるが、現在までの退職金課税とのバランスが取れないことも問題である)、また、上記のように我が国の法人の大部分が所有と経営の分離が図られていないような状況下において、そもそも退職金のみならず役員に対して支給される給与を租税法規において制限して、その租税回避等を制限しているように(但し、この規制に関しては、平成18年改正により、隠れた利益処分防止など、その制約要因自身が揺らいでいるようにも評価しうる)、このような状況を鑑みるに、退職の意義を拡張的に解釈することを許容することは合理性を欠くものと評価しうるのではないだろうか。

このように分掌変更による退職金を法人の退職金として認識しうるものであるのかという点は見解が別れうるが(私見としては役員が担うべき経営という業務自身が必ずしも明確な状況でもなく、かかる対象職務から判断するに、その内容の変更を基礎とした判断は困難であるように考えられる)、租税法規としては、通達が許容している実質的な退職の具体的な判断基準を如何に捉えるべきであるのかという点をより具体化している作業が課題であろう。本来的にはかかる判断の前提として、法人税法がいかなるものと退職として捉えているのかという点がまずは明らかにされるべきであり、更には退職金がいかなる性格を有しているが故にかかるような取扱を行っているのかという点が検討されるべきであろうが、かかる点は必ずしも明示的ではない。しかるに実質的な判断に依拠することになるが、そもそも退職に起因する支払というのみでは判断は困難ではないだろうか。そもそも法人税法が問題とする役員においては、経営という業務を委任されることになるがその職務内容は上記のように多様であり、職務内容からの判断が適切であるのかという点は議論されてしかるべきではないだろうか。本件では設備工事への意思決定への関与(そもそも意思決定は多様であり、このような単一の意思決定が左右されるべきような決定であるのかという点は定かではなく、経営という多様な職務において、かかる点を取上げ判断材料としているのかという点は十分に吟味されるべきである)、更にその決定を裏打ちする株式の保有関係(私見としては我が国の法人としてこのの保有関係がまずは前提となるべき、客観的な判断要素として前提となるべきではないだろうか。)、がメルクマールとなって実質的な退職には該当しないとの判断を導いている。加えて退職によって変わったとされる代表者等の役員の認識・動向も考慮されており、主観的な判断材料も考慮されていることは留意されるべきであろう。そもそもとして法人の意思決定への関与が退職と関わる(重要な判断要素となる)ものであるのかという点は、問い直されるべきである。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年8月23日木曜日

判例裁決紹介(平成29年10月31日裁決、中小企業投資促進税制の適用要件)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年10月31日裁決で、中小企業投資促進税制の適用要件を充足しているのか否かが争われた事例です。

具体的には製造業を営む請求人が販売者から機械装置(本税制の適用対象資産)を取得し、もって自社の事業の事業の用に供していた場合において、 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除 、いわゆる中小企業投資促進税制の適用がある旨の確定申告を行ったところ、課税庁より、当該資産は、販売者の側にて、展示等に使用されており、請求人がはじめて使用した、新品であることとは認められないとしてその適用を否認された事例であり、中小企業投資促進税制の適用要件が争われたものである。中小企業投資促進税制は、租税特別措置であり、対象資産が変更されているもののその適用期限は延長され、中小企業において設備投資を行う上では、重要な考慮対象であるものと考えられ、その適用要件は留意されるべきものと捉えられる。

より詳細には、当該制度の適用にあたって適用要件として設けられている その製作の後事業の用に供されたことのないものを取得したことを要件としている点が、本件の事実関係において充足しているのか否か、という点が問題になっているものである。基本的には事実関係によるものであるが、法規定における適用要件、特に租税特別措置の適用要件を課題としているものであり、かかる要件の具体的な意義は適用を行うにあたって重要なものである。この云わば、新品であることを要件としていること、事業のように供されているのか否か(かかる点から判断すると、単に租税特別措置の要件として飲みなあず、減価償却等の判定においても関わってくるものである)、、特に事業とは如何なるものと意味するものと解すべきであるのか、供しているとはどのような状況にあることを指し示すべきであろうかというような点が本件の起点として発生している。このような固定資産を事業の用に供しているのか否かという点が、取得された資産が新品であるのか否かという点の裏には、このような典型的な法人税法、租税法規における固定資産としての判断が表裏一体となっているという点は実務家としても認識されるべきであろう。特に中小企業投資促進税制においては、取得側において対象の指定事業に供されているか否かという点bか有りが強調されているようにも捉えられるが、かかるように、取得資産の状況もまた留意されるべきものとして再度認識されるべきであろう。取得者側において判断が容易であるような指定事業に用いていることとは異なり、販売者側での状況は、把握が困難なことも想定され(輸入品などはその典型であろうが)、一般的には中古資産の判定は、耐用年数の判定のような状況に利用されることが多いものと想定されるが、租税特別措置の要件でもあることは本件からの示唆として特徴的なものではないだろうか。

(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)
第四十二条の六 第四十二条の四第三項に規定する中小企業者又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するもの(以下この条において「中小企業者等」という。)が、平成十年六月一日から平成三十一年三月三十一日までの期間(次項において「指定期間」という。)内に、次に掲げる減価償却資産(第一号又は第二号に掲げる減価償却資産にあつては、政令で定める規模のものに限る。以下この条において「特定機械装置等」という。)でその製作の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定機械装置等を製作して、これを国内にある当該中小企業者等の営む製造業、建設業その他政令で定める事業の用(第四号に規定する事業を営む法人で政令で定めるもの以外の法人の貸付けの用を除く。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。次項及び第九項において「供用年度」という。)の当該特定機械装置等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定機械装置等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定機械装置等の取得価額(第四号に掲げる減価償却資産にあつては、当該取得価額に政令で定める割合を乗じて計算した金額。次項において「基準取得価額」という。)の百分の三十に相当する金額をいう。)との合計額とする。
一 機械及び装置並びに工具(工具については、製品の品質管理の向上等に資するものとして財務省令で定めるものに限る。)
二 ソフトウエア(政令で定めるものに限る。)
三 車両及び運搬具(貨物の運送の用に供される自動車で輸送の効率化等に資するものとして財務省令で定めるものに限る。)
四 政令で定める海上運送業の用に供される船舶

以上のように本件の中心的な争点は、上記特別償却の適用要件を如何に解すべきであるのかという点、すなわち、制作後事業の用に供されたことがないものをどのように解すべきであるのかという点が争われたものである。国税庁の解説においても、下記のようにのべ、その具体的な状況として新品であることをその条件としているものである。

その製作の後事業の用に供されたことのない(つまり新品の)次に掲げる資産で、指定期間内に取得し又は製作して指定事業の用に供したもの

本件では、当該購入製品を販売者が見本品として活用していたことが事業のように供されたものであるのかという点が具体的に課題となっている。放棄において新品であることが、販売者が活用することを含むものであるのかということが問題になっている。一般的に新品であれば、製造者から他社に対して販売されたことがないものであることもまた、一般的な用法であり、請求人の主張するように、販売者以外の者によることを前提としていると言う解釈もまた、成立しうるものではないだろうか。特に新品という用語に着目すればこのように考えることもまた、一定の合理性があろう。特に見本のように活用していることは、当該製品の試運転とも捉えられ、これを販売者における事業の用に供していたとして理解することは必ずしも自明であるとは評価し難いとも言えよう。

具体的な判断では、以下のように、一般的な説明である新品という用語ではなく、法文の事業のように供されたことがないものという点を基礎として判断しており、また、特段の限定がついていないことから、納税者のような解釈は否定されるものとして最終的に納税者の主張を退けている。

「措置法第42条の6第1項は、その適用の要件のうちに、①「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」である特定機械装置等を取得し、②「指定事業の用に供した」ことを掲げている。そして、①の要件に係る「事業」について「指定事業」というような限定がされておらず、事業を営んでいる者も限定されていないことから、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、特定機械装置等の製作者及び特定機械装置等を取得した販売者(以下「販売者等」という。)において使用されたことのない、いわゆる新品であるものをいい、それに該当するかどうかは販売者等における業種、業態、その資産の構成及び使用の状況に係る事実関係を総合的に勘案して判断することになる。」

このように法文上、明示的に事業の用に供していることに対してその実施者を制約していないが、租税法律主義の基本的な要請からは、解釈においてその制約をかけるべきものと考えることは困難であろう。まして、本制度は租税特別措置として、特別控除を提供するものであり、基本的に法文に忠実であるべきであることが求められるものとも言える。新品であるという文言がいわば誤解を招くような状況を発生させているような状況とも言えるが、事業の用に供していると言う文言から本件判断の一定の合理性は得られよう。しかしながら、本件制度がいかなる理由に基づきいわゆる新品であることを要請しているのかという点を、すなわち制度趣旨を考慮しておらず、かかる点からはより詳細な検討があってしかるべきものとも考えられる。新品であることを強く要請する、設備投資を促す趣旨としては、中小企業の基盤強化がその基礎となるものであれば、特段販売者側での活用を排除すべき理由は少ないとも考えられよう。実際において(特に、重要な機械設備であれば)見本品を現場でみて考え、購入を行うことはごく一般的に想定されうるものである。

またそもそも見本品に活用することが事業の用に供していることになるのかという点も疑問である。他の租税法規においても事業の意義は議論対象となるが、基本的に継続的な行為を指すものと解される。しかるに見本品は、試行的なものであり、継続性が確保されているものであるのかという点からも、事業の用に供しているという判断になることは議論の余地があろう。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年8月13日月曜日

判例裁決紹介(平成29年5月11日裁決、医師の診療に基づかない補聴器の購入と医療費控除の対象)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年5月11日裁決で、医師の診療に基づかない補聴器の購入が医療費控除の対象になりうるものであるのか否かという点が問題になった事例です。

具合的には、本件は、請求人が確定申告における医療費控除の対象とした医師の診療に基づかない補聴器の購入が、その対象となるものであるのか、という点が問題になった事例である。下記のように、通達では、自己の日常最低限の用をたすために供される補聴器等を医療費控除の対象であると明記しており、かかる通達の適用が行われるものであるのか否かという点が争点になっているものである。最終的な判断としては、医師の診療に関わるものではなく、直接必要でもないことから、その医療費控除の適用対象範囲として否認された事例である。

近年は医療の対象が拡大しており、下記のような医療費控除の対象もまた対象範囲が拡張傾向にある(個人的には、癒し系のペットやロボットなどの購入もその対象になりうるものであるのか否かという頭の体操を行ったことがあります)。保険診療において、国民の医療に関するコントロールが厳しく図られている状況から緩和される傾向にあり、その適用対象範囲を如何なるものとして理解すべきであるのかという点は基本的な視座として重要なものであるように考えられる。所得税法における重要な控除項目としての位置づけを当該医療費控除は有しており、その適用範囲を検討することは有益であろう。実務的にはその計算が、非常に多忙な時期に集中するものであり、その適用範囲を詳細に検討する機会は少ないものであるのかもしれないが(また金額的には限定的であろう)、単なる医療費控除の対象となる項目を列挙するものではなく、本件のように一定の判断枠組みを有していることが理解されることは重要なものであるように捉えられる。すなわち、同じものの購入であっても、その適用範囲が異なりうるという点は租税の専門家としても留意しておくべきものと評価される。特に近年は、医療費控除の適用に関してはその適用要件を手続的に緩和する方向にあり、かかる作業に関与する租税専門家の責任はより詳細な注意が必要となるものといえよう。

また、近年では、係る制度の適用を巡って問題となるケースが増加しつつあり、医師の指導に基づくサプリメントの購入などが医療費控除の対象になりうるものであるのか(消極)というように、対象となるものの範囲を巡る争いが増加傾向にあり、適用対象としての境界を如何に解すべきであるのかという点は、課題となりつつあるように考えられる。また、近年はインフルエンザの予防接種のように、医師によって積極的に推奨されるような予防医療に関する措置の拡大も図られつつある。私見としては、単に医療費の負担による担税力の低下という点の反映のみではこのような多様な医療の登場に対して、的確に対応できているのかという問題意識は存在している。医療費控除に対していかなる位置づけを与えるのかという点も含め、より、医療費の削減などの意図(スイッチングOTCが制度化されたように)、現行の医療費控除を社会保障の枠組みにおいてもその制度趣旨を見直すべき時期にきているものであるのではないだろうか。

いずれにしても現行の枠組みにおいて、本件のように、補聴器の購入のように、費用対象項目が同一であっても医療費控除の対象として存否が分かれることは、実務家としてはどのように考えるだろうか。かかる点については意見を聞いてみたいところである。

(医療費控除)
第七十三条 居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
2 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。
3 第一項の規定による控除は、医療費控除という。
(医療費の範囲)
第二百七条 法第七十三条第二項(医療費の範囲)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。
一 医師又は歯科医師による診療又は治療
二 治療又は療養に必要な医薬品の購入
三 病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供
四 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第三条の二(名簿)に規定する施術者(同法第十二条の二第一項(医業類似行為を業とすることができる者)の規定に該当する者を含む。)又は柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第二条第一項(定義)に規定する柔道整復師による施術
五 保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話
六 助産師による分べんの介助
七 介護福祉士による社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)第二条第二項(定義)に規定する喀痰かくたん 吸引等又は同法附則第三条第一項(認定特定行為業務従事者に係る特例)に規定する認定特定行為業務従事者による同項に規定する特定行為

以上のように、本件は、所得税法における医療費控除の対象として医師の診療に基づかない、補聴器の購入がその対象となりうるものであるのかという点が問題となっている。本制度は上記のように、適用対象となる医療費の範囲を診療・治療(そもそもこの両者の相違も気になるところであるが、かかる点は医療法の借用であろう)、必要な医薬品の購入、人的役務の提供に限定され、更には、通常必要であるものという要件が伏せられている。所得税法においては必要経費等において、馴染み深い論点でもあるが、この経費の通常必要とは如何なるものであるのかと解されるのかという点は、一般的にその論点となろう。施工令は、より具体的に、一般的な水準というような要件を付与している。この通常性を如何に理解するのかという点は、必ずしも明らかとなっておらず、必要経費における通常性友整合的であるのかという点も定かとは言えない(そもそも現行の医療制度においても保険診療が我が国の根幹をなしており、通常性に反するような状況は非常に想定し難いという点も考慮されるべきではあるが、比較的不明瞭な概念であろう。

このように基本的に医療費控除の対象はその適用の類型を基本的には3の類型(診療等、医薬品の購入、人的役務の提供)を基礎としつつもその全体的な枠組みとして、医師等による必要性の保証が付与されているものと理解される。かかる点が医療費控除の判断枠組みにおいて重要なものとして挙げられよう。もちろん、近年は医師も倫理的な縛りは多いものの、医師の推奨など、健康効果が期待される食品や器具の登場もあり、かかるような存在を医療費控除の対象として如何に捉えるべきであるのかという点も問題とはなりうる(概ね効果が客観的に検証されていないような状況であり、現行法の枠組においては対象外と捉えるべきであろう。)。

そして以下のように、本件の直接的な争点となったのは、下記通達により、医療費控除の適用対象を拡大しているが、その適用を巡って争われたものである。すなわち医師の診療に基づかず、購入シアt補聴器の購入が通達の適用対象であるのかという点が課題となっている。
73-3 次に掲げるもののように、医師、歯科医師、令第207条第4号《医療費の範囲》に規定する施術者又は同条第6号に規定する助産師(以下この項においてこれらを「医師等」という。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下この項においてこれらを「診療等」という。)を受けるため直接必要な費用は、医療費に含まれるものとする。(平11課所4-25、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(1) 医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの
(2) 自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用
(3) 身体障害者福祉法第38条《費用の徴収》、知的障害者福祉法第27条《費用の徴収》若しくは児童福祉法第56条《費用の徴収》又はこれらに類する法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並びに(1)及び(2)の費用に相当するもの
判断では、以下のように、医療費控除のの基本的な趣旨を捉え、その具体的範囲として、近年の医療の状況から直接適用の範囲において、拡張しているものである。そもそも納税者にとって有利な処理であり、文句が出ないものであろうが、租税法規においてこのような拡張的な解釈をなす事の是非も課題となろうが、判断では肯定している(裁決である以上当然とも言えるが、そもそもこのような拡張的な解釈は立法により対応されるべきものであろう)。そこで問題となるのが、明示的に補聴器等を対象としながら、その適用を拒否している枠組である。つまり、通達では、医師の診療等において直接必要な医療費ということで、判断における医療費控除の適用対象として否定しているものである。この診療等に対して直接必要(他の必要経費でも問題となる概念d値あるが、直接性や必要性はどのような対象を含むものであるのかという点も課題となりうるだろう)、であることが重要な条件となっている。この点に関しては、上記の医療費控除の枠組みにおいて特徴として残存しているものであり、より強く特徴として認識されるべきものとして理解されよう。もちろん、同一のものに対する費用支出でありながら、必要性の有無により適用対象として異なる結果となることは、フェアではないとの意見もあり得ようが、医療費控除の基本的な趣旨からその生理が行われているものと考えられる。
「所得税法における医療費控除の制度は、多額の医療費の支出を余儀なくされた場合における担税力の減殺を調整する目的で、創設されたものである。現行の医療費控除の制度は、当該控除の対象となる「医療費」の費目を、所得税法第73条第2項により委任された所得税法施行令第207条各号に掲げる医師等による診療等の対価に限定し、もって所得税の公平な負担を図ることとしている。そして、本件通達の定めは、上記の医療費控除制度の目的及び内容を前提としつつ、社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴い、同条各号に掲げる対価そのものよりも、医療費関連費用の負担の方が増大している実情をも踏まえ、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用は「医療費」に含まれるものとして、医療費控除の対象となる「医療費」の範囲を具体的に定めたものと解される」
このように、本件が指し示しているように、医療費控除の判断枠組は単なる医療費としての該当性のみを判断しているものではなく、また費用支出項目に依拠しているのみでは判断枠組としては正当ではないことに留意すべきであろう。単に費用支出項目としての直感的な医療費対象ではなく、医師等による診療等において一定の必要性が保証されていることが求められていることが重要な点であろう(このように考えると、医師に診療拠点において推奨として販売される物品の位置づけなども医療費控除の対象として対象となりうるのかといった点も検討課題であろう、この場合は医薬品の枠組において判断されることになるだろうが)。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。