さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、 札幌地判平成28年4月15日で法人の損金認定において、 コンサル料と分掌変更による退職金の支給が争われた事例です。
具体的には本件は、 ホテル等の事業を営む原告が所有するホテルの売却に伴い、 法人の代表者に対して支払われた売却先からのコンサルタント料と しての金員が法人としていかに捉えられるのか、すんわち、 売却価格の一部分割による支払いであるとして、 法人に帰属すべきものであるのか否か、加えて、 いわゆる分掌変更による退職金の支給が法人による退職金として損 金として評価されうるものであるのかという点が争点となった事例 である。 基本的には事実関係を如何に認定すべきであるのかという点が中心 的なものであり、特に法人の益金の帰属、 損金としての認定という、 通常争点となりやすい点が課題となった事例であり、 かかる点において、本件は、 実務においても参考になるものと考えられる。 いずれも法人の代表者が関わった法人の行為を如何に租税法規とし て捉えるべきであるのかという点が問題になっているものと考えら れる。 かかる点において我が国の法人の典型をなす経営と所有が一体化し ているような法人における代表者の行為、位置づけが、 更にはその行為の合理性が問われた事例として本件は、 従前の類型とともに、特徴的な事例であるものと考えられる。
まず、本件の中心的な争点の一つは、 所有不動産の売却に伴って発生した法人の代表者へのコンサル料と しての相手側からの支払われた金員をどのように評価するべきであ るのかという点である。 法人が売却した土地の対価部分を一部分割して、 法人の代表者に対して支払われたものであるという認定を課税庁お よび判示においても採用しているが、 このように形式的には法人とは異なる自然人としての代表者に対し て支払われたものが租税法規において法人への帰属として処理され ることが本件の特徴的な判断であろう。 このような処理は課税実務においては一般的なものであり、 特段異論があるものであるのはないとも評価しうるのではないかと もいえようが、 法人の代表者が行うコンサルといういわば曖昧な行為が背景にある ものであり、 見方によっては法人に対する背信的な行為でもあろう、 このように個人的利益と法人との関連において追求することを法人 税法は如何に捉えていくべきであろうか。 また所得分割のような租税回避を許容しうるのかという点が本件の 起点となっているように考えられる。 このような特殊な行為はその背景として、 我が国の法人の所有形態が基礎づけられているものと捉えるべきで あり、他の法規との間での基本的な相違であろう。
判示がいかなる法的な根拠をもって、課税庁の主張を肯定し、 本件金員を法人の受け取るべき対価であるとの認定を行った上で、 民事法上の契約関係を法人税法において引き直しているのかという 点は明示的ではないが、 かかるように民事法上の形式を租税法規において否定しているよう な状況は留意されるべきであろう。 特に本件では所得分割のような租税回避の行為としての認定を行っ ていない( 課税庁等の主張にも見受けられないようなので当然かも知れないが ) ため法人税法において本件のような行為が否定されるべきものとし ていかにして根拠を持っているのかという点は更に検討が必要であ るように考えられる。いわば、 本件の契約の目的から真実の法律関係を認定しているような事例で あり本件の特徴を構成しているといえよう。
また本件の第二の争点は上記のような取引を行った代表者が辞任し て監査役に変更となった事によって支給された退職金 を損金として該当しているのか否かという点である。 いわゆる分掌変更による退職金支給の問題である。 退職金は法人税法上多様な論点を生じうるものであるが、 本件が課題とする退職の時期において分掌変更を実質的な退職とし て租税法規の解釈上認めうるものであるか否かという点も課題とな っており、本件もその類型に属するものであろう。 このように退職の意義を実質的な意義において拡張している点が分 掌変更の特徴的な解釈であろうが、 その根拠は必ずしも法令を根拠としているものではない。 退職という文言自身は基本的に所属している企業等からの離脱を指 すものであり、 職務内容の変化までも含むものとして解釈することは困難ではない かともいえようが、 下記のように分掌変更による退職金の支給を一部条件をつけて認容 している通達が、実質的な根拠となっている。 この条件となるべきものも、定性的な条件であり、 本件もその判断を支える上で、重要な事例となるものと言えよう。
「法人税法34条1項によれば、役員に対する退職給与は、 損金の額に算入することができるものとされているところ、 ここにいう退職給与とは、 本来退職しなかったならば支払われなかったもので、 退職に基因して支払われる給与をいうと解するのが相当である。 また、役員が実際に退職した場合でないとしても、 分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、 実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、 当該事情に基因して支払れる給与も、 退職給与として損金に算入することが相当であり、 法人税基本通達〔昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規) 〕9-2-32(別紙の2参照)は、 これと同様の趣旨を規定したものとして合理的なものと解される。 」
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し 退職給与として支給した給与については、その支給が、 例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、 その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変 し、 実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるもの である場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。( 昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、 平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員( 常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は 有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認 められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役( 監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めて いると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5 号《使用人兼務役員とされない役員》 に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員( その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占め ていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50% 以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、 法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
判示においては実質的に通達の処理を許容しているが、 言うまでもなく、通達は法源性を有しておらず、 租税法律主義を基本的な要請とする租税法規の基本的な解釈指針と してかかるような通達を根拠とすることを許容することは困難であ ろう。私見としては、退職金が所得税法において1/ 2課税の対象となっており( かかる点も改正対象とすべきであるが、 現在までの退職金課税とのバランスが取れないことも問題である) 、また、 上記のように我が国の法人の大部分が所有と経営の分離が図られて いないような状況下において、 そもそも退職金のみならず役員に対して支給される給与を租税法規 において制限して、その租税回避等を制限しているように(但し、 この規制に関しては、平成18年改正により、 隠れた利益処分防止など、 その制約要因自身が揺らいでいるようにも評価しうる)、 このような状況を鑑みるに、 退職の意義を拡張的に解釈することを許容することは合理性を欠く ものと評価しうるのではないだろうか。
このように分掌変更による退職金を法人の退職金として認識しうる ものであるのかという点は見解が別れうるが( 私見としては役員が担うべき経営という業務自身が必ずしも明確な 状況でもなく、かかる対象職務から判断するに、 その内容の変更を基礎とした判断は困難であるように考えられる) 、租税法規としては、 通達が許容している実質的な退職の具体的な判断基準を如何に捉え るべきであるのかという点をより具体化している作業が課題であろ う。本来的にはかかる判断の前提として、 法人税法がいかなるものと退職として捉えているのかという点がま ずは明らかにされるべきであり、 更には退職金がいかなる性格を有しているが故にかかるような取扱 を行っているのかという点が検討されるべきであろうが、 かかる点は必ずしも明示的ではない。 しかるに実質的な判断に依拠することになるが、 そもそも退職に起因する支払というのみでは判断は困難ではないだ ろうか。そもそも法人税法が問題とする役員においては、 経営という業務を委任されることになるがその職務内容は上記のよ うに多様であり、 職務内容からの判断が適切であるのかという点は議論されてしかる べきではないだろうか。本件では設備工事への意思決定への関与( そもそも意思決定は多様であり、 このような単一の意思決定が左右されるべきような決定であるのか という点は定かではなく、経営という多様な職務において、 かかる点を取上げ判断材料としているのかという点は十分に吟味さ れるべきである)、更にその決定を裏打ちする株式の保有関係( 私見としては我が国の法人としてこのの保有関係がまずは前提とな るべき、 客観的な判断要素として前提となるべきではないだろうか。)、 がメルクマールとなって実質的な退職には該当しないとの判断を導 いている。 加えて退職によって変わったとされる代表者等の役員の認識・ 動向も考慮されており、 主観的な判断材料も考慮されていることは留意されるべきであろう 。そもそもとして法人の意思決定への関与が退職と関わる( 重要な判断要素となる)ものであるのかという点は、 問い直されるべきである。
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