さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年10月3日裁決で、債務返済の質権設定の対象となっていた共済金収入の受領が個人所得課税として一時所得として該当するのかという点が課題となった事例です。
具体的には、本件は夫婦にて、酪農等の事業を営む請求人が、妻(配偶者)たる専従者に対して共済契約を締結し、もって当該被保険者である配偶者が死亡したことによる共済金を受け取った事実関係において、当該収入金が一時所得として課税対象を構成するものであるのか否かという点が問題となった事例である。以前、同様に婚姻関係にある驚異金収入の負担関係において、実質的に契約者が負担したものであり、ゆえにみなし相続財産を構成せず、雑所得の課税対象となるとした事案を取り上げた事があるが、本件も基本的には類似しており、その共済契約の原資を如何なる者が負担しているものであるのかという点が基本的な問題の起点となっているものである。より具体的には、本件の共済金は共済契約を締結している保険者である農業協同組合が請求人の事業において事業資金を融資しており、当該融資金の返済の原資として質権設定が行われている点が特徴的(かかるような事業資金の返済に関しては生命保険において担保することが保険業法、倫理的に担保されるのか否かという点は別途検討すべきであろうが)である。このような事業資金の返済に回されるべき(実際、請求人の口座に入ってきたものはそのまま返済に充当されている)資金の受領が実質的に所得税の課税対象として所得として該当しているのか否かという点が争点となっているものと考えられる。最終的には上記のように、請求人が当該契約の資金を負担しており、発生した資金の原資が請求人に依拠していることから、当該収入による所得は一時所得として課税されていることが判断として是認されている事例である。本件は以上のように中心的な争点は契約の資金原資が如何なる者によるものであるのかという点を基礎としており、法令解釈というよりは事実関係を如何に認定するのかという点が中心的な争点となっているものと捉えられるが、より理論的には、所得をいかにして区分しているのかという点がその背景にあるものと言えよう。かかる点は理論上も重要な点であるが、一時所得の起点となる資金の負担者を如何にして認定するのかという点も中心的な問題で(租税法規の当てはめ、保険契約による資金の受領においては典型的なケースでもあろうが)、家族間で事業を営む関係性において、家族間の所得分散、費用負担等を明確に区分することが可能であるのか(財産の帰属関係も含め)という点が問題となるものであり、本件における原資の負担関係の判断は、往々にして典型的な事例であり、かかるような判断の枠組みは、租税負担を具体的な判断において実務家としても重要な点であるのではないだろうか。専門家としては、家族間での金銭、財産関係の負担に関しては留意が必要であることを改めて認識されるべきであろう。
一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。
相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分
以上のように、本件の中心的な課題は、請求人が受け取る共済金の収入が一時所得として課税対象となりうるのか否かという点である。本件対象となった共済金は事業資金の返済に使用され(債務担保として質権設定が行われている)、当該収入がそもそも所得を構成しないのではないのかという点を納税者か問題視していることによるものであろう。判断では契約の実行者や受取口座の状況(名義等)等の判断要素から、一時所得として課税対象から除外されるみなし相続財産であるのか否かという点が問題視され、最終的には負担者が請求人あるとして一時所得として課税することとしているものである。
特段議論されていないものであるが、このような資金の返済に充当されるような金銭の受領がそもそも所得であるとして租税負担を行うべきものとして該当するのであろうか。一般的な納税者の感覚において、最終的に手元に残るものが利益・所得であり、残らないものはその対象ではないという感覚は、必ずしも否定されるべきものではないだろう。このような納税者の素朴な問に対して、如何なる所以をもってその対象としての所得を構成するものとして答えられるであろうか。単に包括的に所得を把握するという点を強調してもその対象を合理的に説明することは実際的には困難なような状況も到来しよう。
本件判断は、契約の負担者が如何なる者であるのかという点に実質的に依存した判断であり、かかる点において、なぜ一時所得を構成しているのかという点、一時所得であるのか、みなし相続財産となるのかという点を具体的には検討していない。かかる点は判断過程において疑問が残るものであろう。みなし相続財産としての負担関係をなぜ口座名義等から判断することが合理的であるのかという点はより検討が必要ではないだろう。そもそも所得税法は包括的所得概念を採用していると解され、本法においては所得の定義をおいていない。ただし上記のように法令解釈として非常に広範囲を所得とすることが判例においても確立しているもの考えられるが、かかる点もとくにふれられていないが(所与のものとして理解しているのであろうか)、消費型の所得概念も近年は強く支持される場合もありうるところであり、租税法規においていかなるものを所得としていくのかという点は必ずしも明示的ではなく、もって二重課税が必ずしも容易に判断されるものではないことも留意されるべきであろう。
また本件のもう一つの争点であるが、配偶者に対する資金の負担関係を如何に評価するのかという点である。口座からの資金の負担、出金等の事実関係に依存した判断が行われているが、すなわち重要なメルクマールとなっているが、上記のように被相続人の負担という法令の解釈においてその点を如何に捉えるのかという点が重要であろう。本件のように共同で、夫婦協力して事業を行うような場合は事例としては多いが、所得税法は所得の分散という租税負担の回避を防止するため基本的に代表者(一般的には夫)に所得があったものとしていわば共同事業体としての夫婦関係を、単一の所得帰属関係に擬制して課税されることが常となっている。この点は一部青色専従者給与等、例外的にその所得の帰属を変更することを認めているが、限定的である。実際における事業収入は夫婦共同で形成されたものであり、民事法においても配偶者の共有性を否定することは困難であろう(財産分与等の対象となりうる)。このように共同で営む事業が基礎となっているような状況下において、資金を負担した口座の名義等による判断が法令が求める負担という点を顕現しているものと捉えることが必ずしも合理性を有するものとは言えないのではないだろうか。確かに課税処分の大量性等の性格を鑑みれば、口座名義等の形式的な情報に判断の基軸を置くことは必ずしも否定できない。しかしながら、負担関係を判断するにおいて、事業資金の形成において配偶者の貢献を考慮せず、名義等の形式的な判断を基礎として、負担がないものとして認定することが近年の配偶者の貢献を強く認定しようとする民事法の改正や、働き方の多様化の現状に鑑みて、租税法規においてこのように形式的な限定的な判断を行う、すなわち資金の負担関係、財産の帰属関係につき判断を行うことが妥当であるのかという点は、拡張的な解釈は一定の合理性を有しているのかではないだろうか(立法論であるのかもしれないが)。
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