2018年12月28日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年1月16日、課税庁の誤指導による所得の発生と留保金課税の適用)



さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成30年1月16日で、課税庁の誤指導により計上した所得の過大計上が修正されることにより発生した追加所得によって、特定同族会社に対する留保金課税の適用が行われたことを不服としてその取消を求めるものです。

具体的には、原告が課税庁の誤指導により(最終的には判決においてはこの部分の是非については、検討がなく、実質的な指導の誤りがあったことが認定されているわけではない、ただし8年以上当該指導による処理が継続していたものであり立証が困難であったものとも捉えれる)、本来ならば非課税であるべき売上を課税対象として仮受消費税を計上し、もって当該仮受消費税相当額の売上原価に関しても計上しており、すなわち、消費税の過大納付及び売上原価の過少計上が伴うことにより、消費税の還付及び所得の増額更正が行われることが必要となるべきものであるが、本件は、このような事実関係において、当該所得の修正をもって特定同族会社乃留保金課税の適用を受けることとなった原告(消費税の還付が合計一億円以上、留保金課税の適用は4億円以上)が、かかるようなペナルティ的に適用を受けるようなことは留保金課税の趣旨に反するものであり、また、当該誤納付により、原告の手許には存在しない金額が所得として捉えられる事になり、コントールの及ばない要因によって所得の増加と留保金課税の適用を受けることは、適正な手続の保障を欠くものとして当該処分の取消しを求めたものである。具体的争い方としては、当該過年度の損益の修正は遡及的に過去の所得を修正するものではなく、判明した年度の一時の所得として取扱うべきものとして所得の修正を否定し、また留保という文言から認識し得ない所得を対象としないものとして争っている(電気量の過大徴収を背景とした過年度の損益修正のタイミングをら争った事例を基礎として)。最終的には判示は、その適用を肯定し、原告の主張を否定しているものであるが、そもそも留保金課税はその適用事例が近年は減少傾向にあり(特定同族会社制度が導入以後はその適用は大幅に減少している)留保金課税の趣旨や、その適用要件に関する判示は貴重であり、かかる点において参考となるべき事例であると評価される。他の争点としては修正申告により訴えの利益の存在の課題も争点とされている。

(特定同族会社の特別税率)
第六十七条 内国法人である特定同族会社(被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となつた株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの(資本金の額又は出資金の額が一億円以下であるものにあつては、前条第六項第二号から第五号までに掲げるものに限る。)をいい、清算中のものを除く。以下この条において同じ。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、前条第一項又は第二項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額を次の各号に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に当該各号に定める割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。
一 年三千万円以下の金額 百分の十
二 年三千万円を超え、年一億円以下の金額 百分の十五
三 年一億円を超える金額 百分の二十
2 前項に規定する被支配会社とは、会社(投資法人を含む。以下この項及び第八項において同じ。)の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。
3 第一項に規定する留保金額とは、所得等の金額(第一号から第六号までに掲げる金額の合計額から第七号に掲げる金額を減算した金額をいう。第五項において同じ。)のうち留保した金額から、当該事業年度の所得の金額につき前条第一項又は第二項の規定により計算した法人税の額(次条から第七十条の二まで(税額控除)の規定により控除する金額がある場合には、当該金額を控除した金額)及び当該事業年度の地方法人税法第九条第二項(課税標準)に規定する課税標準法人税額(同法第六条第一号(基準法人税額)に定める基準法人税額に係るものに限る。)につき同法第三章(税額の計算)(第十一条(特定同族会社等の特別税率の適用がある場合の地方法人税の額)を除く。)の規定により計算した地方法人税の額並びに当該法人税の額に係る地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税を含む。の額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額をいう。
以上のように、本件の中心的な争点は、課税庁の過誤により発生した所得の修正がもって留保金課税の適用対象となるのか否かという点であろう。もう一つ、過年度の所得の修正が損益の修正として如何なるタイミングにおいて対応されるべきであるのかという点も興味深い論点であるが、そもそも、電力会社の過誤徴収とは異なり、課税庁の誤指導が起点となっているものとして原告は主張しており、この点は特段の争点となっていないものであって、具体的にどのような状況にあったものであるのかという点は本件事例では明示的でなく(黒塗りとされている)、かかる所以において、その適否において検討を行うことは困難であろう(この修正において、所得が修正されなければ、留保金課税の適用は発生しないものであるが。しかしながら判示でも示されているように、消費税は税抜処理を行っており、この修正を行ったとしても基本的に損益は発生せず、益金の計上は発生しないものであり、修正の対象は売上原価部分の過少計上であって、この性格(売上原価が法人税法は必ずしも如何なる性質かという点は、定かではないものとも言えようが、)に照らして、計上のタイミングは操作性を持つべきものではなく、前期損益修正として対応することは困難であろう(起点が消費税の還付であるとはいえ、これを益金として、それに対応するものとして理解することは困難であろう)。

判示においては、その留保金課税の趣旨としては、下記のように判示し、

留保金課税の規定の趣旨は、会社の支配者が少数のものに占められている同族会社においては、配当を行うかどうかは当該法人の意のままであり、配当が行われないと、個人株主の受ける配当等について累進税率による所得税の課税がなし得ないことになるから、その代替的課税として、同族会社の留保金額に対して課税することであり、また、同族会社においては、利益を内部に留保して、株主の所得税を回避する傾向があることから、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るため、特定同族会社に対して、通常の法人税のほかその利益の内部留保に対して特別の法人税を課すことにある。

として、その趣旨を個人と同族会社を利用した租税負担の回避を避けるべく、負担の均衡を企図したものであり、内部留保を侵害することまでも含む(若しくは、内部留保を制限し、配当を行うこと促進するものとしてまでは踏み込んでいない)ものと解している。この点は、

この趣旨は、当該同族会社 本件のように、課税当局の過誤を原因として、納税者において、過年度分の所得が増加させられ、その結果として同族会社の留保金課税というペナルティが課せられるという状況は、制度の予定するところではない。 
(ア)原告は、本件事業年度における8521万9600円の留保金課税を避けようとすれば、4億5859万8000円の課税留保金相当額を配当すればよかったのであるが、当該4億5859万8000円は本件事業年度において国庫に過誤納されていたため、手元になかったものであり、配当することはできなかった。それにもかかわらず、自らがコントロールし得ない状況下で生じた原因によって、何らかのペナルティが科されるという状況は、適正手続の保障に反し、近代的法制度が通有する意思主義の原則に反するものである。
(イ) また、「留保」という文言自体の持つ意味、及び配当の促進という 留保金課税の趣旨からすれば、当該事業年度当時に相当程度の蓋然性をもって認識し得たとはいえない所得は法人税法67条3項の「留保した金額」に該当しないというべきである。

当該規定をサンクションを付与して、租税を回避し、配当を促進するなどの経済的効果を企図したものという、理解をして、その適用範囲を制限すべきであるという原告の主張を対立しており、最終的に排斥している。この趣旨の理解はいかなる理由に基づくものであるのかは定かではないが、このわずかばかりの制度趣旨への理解の差異が、起点となっているものであろう。本制度はその適用においては、確かに負担が増加するものであり、もってその適用を回避しようとするならば、配当を行うように促す経済的な機能を有していることは否定し難いこのような実質的な経済的負担を回避をすることを誘引としているのかどうか、あるいは法人の配当政策や内部留保などの財務構造に関わるものであり租税政策がこの点までも起立しているものとして実質的に踏み込んでいるのかという点は議論の余地があると考えることもできる)が、もともとは、その趣旨として同族会社の特殊性(これが現代においてその特殊性を有しているのか、そもそもこのような特別の処理を肯定するものであるのかという点は議論の余地があろうが立法に属するものであろう)、から負担の均衡を図るものであり、サンクション的な性格を有しているものとして理解すること(若しくは財務政策、内部留保の制限や財務構造の変更までも促すものであると読むこと)は、特に現行のようにその適用対象範囲が限定されている現況においては、実質的な経済的負担に着目し、趣旨を拡張的に理解しているものと考えられる。近年は内部留保一般に対して、否定的な見解を採用して、より経済的な誘導作を取るべきとの見解も見られるものであり、その代表的なものとして留保金課税を評価する見解もあろうが、この点はあくまでも所得税負担も含めた均衡を鑑みた規定であり、法人の行為や内部留保そのものを否定的に捉えているものとは理解を異にすることは留意されるべきであろう。実質的な負担から法人の行為を制約するものとして理解することも否定できないが、その適用対象範囲を制限している立法経緯を鑑みるに、現行法においてサンクション的な付与によって内部留保を政策的に否定する段階までは踏み込んでいるものと捉えることは、困難であると考える。

また留保という文言に関しても

いずれにしても、原告が主張するように、本件の所得の増加は、課税庁の誤指導に原因があるといえども、かかる理由をその適用を制限すべき根拠は法定されておらず、サンクションの付与によって納税者の行為を制限するものではない以上、如何に納税者の権利を保護する適正な手続の保障の対象外にあるものとして理解する判断は制度趣旨に鑑みて合理的であろう。誤指導を起点としており(実際にはこの点が特に立証がされていないが、制度改正による勧奨が法定される以前の事象であり、相対の慫慂である点において立証が困難であるものであるのかもしれない)、附帯税の宥恕として正当な理由が成立することは、あり得ようが、納税者の不満や理解があることは理解できるが、立法の属するものであると捉えるべきであろう。

判示では、以下のように
利益を得るに至った経緯や、そのような利益を得ることについての認識の有無を問わず、等しく妥当するものといえる。
更には、
以上に述べた留保金課税の趣旨や、留保金額の算定方法を定めた法人税法67条3項の文言に照らすと、本件のように、修正申告により所得が増加した場合において、増加した所得金額が同項の留保した金額に当たるか否かは客観的に判断すべきものであり、増加した所得金額に相当する現金又は預貯金を当該同族会社が現実に保有しているか否かや、所得が増加した経緯、当該同族会社が相当程度の蓋然性をもって当該所得の発生を認識し得たか否かを考慮する余地はないというべきである。これと異なる趣旨をいう原告の主張は採用することはできない。

として留保した金額という文言において納税者の主観的な認識の関与を否定的に捉えている。同じく同族会社に対する行為計算の否認とは異なり、不確定な概念を取り込んでいるものはない本制度であるが、客観的に所得が法人に帰属するものであれば、その対象とするものであり、いわば形式的な適用が行われるべきものと言えよう。行為計算の否認において問題となるように、納税者の意図が介在するものとしてあるいは適用の要件として、留保という文言を制限的に解することは、納税者の意思のような(もってすれば、制度誤認、錯誤による配当の実施などが発生するかもしれない)主観的な事情を介在させる事になり、負担の均衡を図る制度趣旨を損なう可能性もあるため否定的に捉えられるべきであろう。いわば機械的な対象が選定されるものとして理解されるべきである

いずれにしても事実関係や法令の適用関係が不明あるいは複雑であるので(特に誤指導の対象など)より検討すべきものと考えられるところで、納税者の負担の増加と納税者財産権の保護との政策的な均衡を立法において如何にして確保されるべきであるのかという点を検討する上では、参考となるべき事例であると評価される。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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