2018年12月12日水曜日

判例裁決紹介(平成30年3月7日裁決、相続財産の使用貸借の精算と譲渡費用、重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月7日裁決で、昭和から長きに渡って相続財産の使用貸借において精算を図った事により生じた費用が譲渡費用に該当するのか否か、そして、当該行為により重加算税が賦課されるべきであるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人がかつて(昭和30年台)において相続により取得した農地において、農業に従事じていた弟に対して、当該農地の譲渡に伴い、支払った金員が離農補償費用として、譲渡費用に当たるのか否か、すなわち、当該金員がいかなる性質に基づき支払われたものとして捉えることができるのかという点が争点となっているものである。長期間に渡り、相続財産の帰属関係が曖昧なまま、耕作が行われてきた事により、権利関係が明確ではない状態であったものであるが(主張においても、この耕作における関係が無償での使用に伴う使用貸借であるのか、あるいは賃貸借であるのか争いがある)、この関係を精算することを意図した処理が問題の起点となっているものである。本件は内容以外でも興味深いのは、2018年の裁決で未だに年貢という表現が出てくることで・・・。

このように基本的には、本件の問題の中心は、事実関係が対象であり、離農に伴う補償金たる性格を有するのか、相続財産に関する解決金(そもそもこの解決金自身があまり明確な表現ではないが)として捉えるのかによって、租税法規上の適用関係、譲渡費用としての位置づけが相違することになったものである(離農の補償金が譲渡費用を構成することは争いがないものであろう)。

加えて、本件では、かかるような認識にあったことに対して、課税庁としては本来ならば、解決金であったものを、離農補償金として書類に記載したとして仮装隠蔽の成立を指摘し重加算税の賦課決定を行っている。本件ではこの部分の成立も問題となっているが、この点は課税庁の主張を排斥し、重加算税の成立を認めていない。

3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
 
「使用貸借契約における借主が、その目的物につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情のない限り、この負担は、使用収益に対する対価ではなく、借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げになるものではないと解される(最高裁昭和41年10月27日第一小法廷判決・民集20巻8号1649頁参照)。そして、土地の使用貸借は、たとえ、建物の所有を目的とするものであっても第三者に対抗することができないものであって、利用権としては、賃借権と異なり法律の保護が薄弱であって、借主の死亡によりその効力を失い、相続の対象にもなり得ない権利であるから、課税上、その経済的価値は零とみるのが相当である。」

上記のように、本件はその中心的な争点として譲渡費用としての該当性を問題としている。判断では、上記のようにのべ、使用貸借 の成立を認定し、もって、経済的価値がゼロにあるものへの支払いであるとして、譲渡費用としての成立を否定している。確かに使用貸借の利用権は法的な保護は弱く、その経済的価値はゼロであると評価することは租税法規においては異論はない。しかしながら、そのような利用権の支払いであっても、本来ならば譲渡費用として該当するのか否かという点が問題となるべきであろう。この点に関しては譲渡において必要性がないものであるのか否かという点は検討されていない。譲渡につき、直接要するのか否かという点が問題となろうが、かかる観点からは根拠が明示されていないように考えられる。殆どが賃貸借であるとの認識から請求人の主張は構成されているのであろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

また、本件では、上記重加算税の賦課たる仮装が発生していたしたか否かという点も問題になっており、精算段階での請求人が使用貸借による離農補償金ではないと認識していたかという点が問題になっている。本来ならば譲渡費用には該当しないことを認識しながら、名目上離農補償金として記載していることが仮装の事実関係の成立を構成しているものと考えている事による。主観的な要因に基づいているようにもよめるが、このような曖昧な関係の整理においては明確な対価関係の認識できるような意図が込められているのかという点は疑問であり、その名目に限らず、複合的な内容が含まれることもあり得よう。いずれにしても主観的な要因による判断は仮装の形式的な事実をサポートするものであり、このような主たる要因として判断される事例は興味深い。最終的にその認識は主観に左右されるものであり、重加算税という重大なペナルティを課す場合において、中心的な要因として解釈することは困難ではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


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