2018年12月24日月曜日

判例裁決紹介(千葉地判平成30年1月16日、徴収権の時効と期限後申告の可否)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判平成30年1月16日で、事項により期限後申告ができず、譲渡損失に関する繰越控除の規定の適用の是非が問題とされた事例です。

具体的には、給与所得者である原告がなした先物取引に関する損益につき、過去に渡って申告されておらず、調査において指摘され、過年度に遡って期限後申告を行ったところ、法定納期限から5年が経過した年度における消滅時効が完成しており、当該期限後申告が認められず、もって、当該年度に発生していた先物取引に関する損失が翌年度に繰越すことができないとされた点が問題となっている事例である。従って、時効完成後も期限後申告を認めもって、損失の翌事業年度への繰越を求めているものである。また、調査段階での説明不足により上記年度の翌事業年度において期限後申告が行われておらず、もって決定処分を受けたことを不服としている。

期限後の申告は無申告加算税の趣旨から鑑みるに、通常通り、申告を行ったものとの衡平を企図したものであり、申告納税制度を基礎とした、納税者自身による確定申告の不備がもともと起点となっているものであろう。しかるに、損失の繰延べによる便益の享受を本件においては、意図したものであり、原告たる納税者の主張は自己の不利益を補うような姿勢にも見られる。

期限後申告と時効の関係に関しては、私見ながらこのような法益の発生が想定されるものとは予想していなかったものであり(時効となり納税義務が消滅している段階においてあえて自己の申告を行う人が想定されるものとは考えにくいため)、従前、修正申告に関しては判決があったものであるが、本件のような判示は、特徴的なものと言え、今後の参考となるべきものと言えよう。また、手続上の不備に関しても平成23年の改正により設けられた手続整備に関するものであり、説明や勧奨に関する事例として参考となるものと評価される。


(国税の徴収権の消滅時効)
第七十二条 国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(第七十条第三項の規定による更正若しくは賦課決定、前条第一項第一号の規定による更正決定等又は同項第三号の規定による更正若しくは賦課決定により納付すべきものについては、これらの規定に規定する更正又は裁決等があつた日とし、還付請求申告書に係る還付金の額に相当する税額が過大であることにより納付すべきもの及び国税の滞納処分費については、これらにつき徴収権を行使することができる日とし、過怠税については、その納税義務の成立の日とする。次条第三項において同じ。)から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
2 国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。
3 国税の徴収権の時効については、この節に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する。

以上のように本件の中心的な争点の一つは、損失の繰延を前提として消滅時効の完成がなっている年度の納税義務につき、期限後の申告が許されるのか否かという点が問題となっている。法文上は、所得税法の期限に関して明確な期限が定められているものではなく(決定を除き)、法令解釈により、検討されるべきものとなる。かかる点については、本件は以下のように判示しており、かかる点において先例的な価値があるものと考えられる。

国税の徴収権は、原則としてその国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅し(法72条1項)、その時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができない(同条2項)ことからすると、時効期間が経過した場合は、納税者が時効の利益を受ける意思があるか否かを問わずに絶対的に消滅し、課税庁は徴収手続をすることができないと解するのが相当である〔なお、法25条の規定による決定にいても、原則として、その決定に係る国税の法定申告期限(所得税の場合は法定納期限と同日)から5年の除斥期間に服する(70条1項1号)。〕。そして、確定申告は、納税者自らの判断と責任においてその納税額を自ら確定させる行為であると解されるから、法25条の規定による決定がされない場合であっても、当該申告の対象となる国税の時効期間が経過し、抽象的な納税義務自体が消滅し、具体的な納税義務の内容をおよそ確定することができなくなったときには、期限後申告をすることはできなくなると解するほかはなく、したがって、納税者が期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間(ただし、国税の徴収権で、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税等に係るものの時効は、当該国税等の法定納期限から2年間は進行しない(法73条3項本文参照)ので、この場合には、期限後申告をすることができる期間は、法定納期限から7年間)であると解するのが相当である

すなわち国税に関する徴収権の時効は、通常とは異なり、援用を必要とせず、利益の放棄を禁止しているという基本的な性格から、抽象的な納税義務が消滅し、もって申告によりその納税義務を確定させる行為はできないものとして判断している。私見tのしてもかかる判断は合理的であるように考える。もし仮に期限後申告が認められるものであるとするならば、法が明文をもって明記している時効制度やその特徴との整合性が取れず、租税法律関係の早期安定や財産権保護の基本的な要請に反する事になりかねない。申告納税制度が自己の所得を自らの手によって、確定させることで納税者として義務の履行を図るべきものとして捉えるならば(一種の国民としての義務と権利として捉え)、その趣旨を貫徹させるためにも、期限後申告が期限の定めなく認めるべきとの解釈を主張することもあり得ようが(そもそも、本件のような損失の繰延などの状況を除けば、消滅後の納税義務の履行を求めるようなケースは想定し難く、保護すべき利益は考えにくい)、立法政策の範囲に属する問題であろう。いずれにしても時効制度の趣旨目的と申告納税制度のバランスにおいて上記解釈を変更すべき理由は、見出し難いものと考える。

また、本件でも一部主張されているが、下記のように平成23年度税制改正によって、調査終了の際の手続や勧奨等が制定されており、かかる点において、課税庁の対応において不備、あるいはそれを起点として、納税者において意思決定に錯誤があった場合に、いかなる影響が想定されるものであろうか。かかる点においても明文の規定は存在せず、本件では原告が主張した錯誤の存在そのものが否定され(そもそも原告が主張する錯誤がいかなるものであるのか具体的に立証されていないものではあるが、最終的には、その錯誤の点に関しては問題とされていない。

(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
5 実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。
6 第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる。

しかしながら、勧奨に応じた場合、不服申立が制限され、また終了の際の説明においては、どの程度の説明義務を追うべきものであるのかという点が必ずしも定かではない状況(商大論集にも書いたが)であり、そもそも納税者は納税に関する知見にかける(最もこの点は、租税に関する教育にたずさわる者としてはまずは反省すべき点ではあるが)場合があり、説明等においても誤解が生じている、あるいは意思決定において錯誤が発生している可能性は否定し難いものである。実務上は、書類への押印等により一定程度、、説明への了知等が図られているものであるのかもしれないが、納税者段階においてこのような手続に対して説明責任の強化、権利保護の観点からは、必ずしも錯誤による無効が全面的に否定されるべきものではないのではないだろうか。しかしながら租税法規においては、税負担に関する錯誤無効が従来問題となったように、このような手続段階における錯誤についても錯誤により申告が無効、課税処分への影響が認められる余地があるのか、より今後の検討が必要であろう(信義則の適用により救済されるものであるのかしれないが)。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


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