2018年10月13日土曜日

判例裁決紹介(平成29年4月3日裁決、国内源泉所得における源泉徴収義務と支払)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月3日裁決で、関連法人からの借入に関する利子支払いを元本に組み入れた時点で、源泉徴収義務が発生するのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、国内法人である請求人が外国法人であるオランダ関連会社から借入を行っており、当該債務に係る利子の支払いを元本に組み入れていた処理を行っていた場合において、当該処理が国内源泉所得の「支払」に該当し、源泉徴収義務を負うべきものであるのか否かという点が問題になった事例である。国際的な取引、資金移動における源泉徴収義務の起点となるべき支払がいかなるものとして解されるべきであるのかという点が中心的な争点になっているものと捉えられる。近年はグローバル化、国際的な取引の増加や、単一の会社単位ではなく、資金管理・債権債務管理をグループ全体で管理し、実際の資金供給と債務の支払が一括して管理されているキャッシュタンクのような機能をもった会社機能として有しているような企業も、グループ単位で運営されているケースが増加している。本件もこのような背景が増加する中でより先例的な位置づけを与えられるべき事例であるだろう。このような統合的な、グループでの管理運営が多様化していくと、かかる中において、どのように資金管理、租税負担を行っていく、効率化した体制を構築していくのか、という点は国外展開、あるいはグループ企業において課題であり、租税条約や特典措置の適用等も鑑みて体制の構築に務めるべきものとして本件は参考となろう。


(源泉徴収義務)
第二百十二条 非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第百八十条第一項(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)又は第百八十条の二第一項若しくは第二項(信託財産に係る利子等の課税の特例)の規定に該当するもの及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(支払の意義)

181~223共-1 法第4編《源泉徴収》に規定する「支払の際」又は「支払をする際」の支払には、現実の金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれることに留意する。

以上のように本件の中心的な争点は所得税法に定める源泉徴収義務が発生する点につき、その法令上の起点となるべき「支払」につき、実際の債務者に対する資金拠出がない状況のようなものも対象として含むものと解されるのか否かという点が法令上の課題であろう。このような元本繰入れについては支払に含むものと解するのか否かという点については、上記のように所得税法基本通達において、例示として言及されているものであるが、かかる解釈が如何なる所以にあるのかという点が問題と考得られる。特に現代のような統合的な資金管理が主流となりつつあるような状況下においてこのような解釈が妥当であるのか否か、より検討すべきものと考えられる。

「所得税法第212条第1項に規定する「支払」には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払債務が消滅する一切の行為が含まれると解される。」

本件判断においても、特段の検討もなく、上記のように通達をそのまま引用し、国外源泉所得の支払の意義を述べている。裁決である以上、当然であるようにも捉えられるが、現状において、源泉徴収義務の起点となるべき支払の意義を如何に解するのか、という点は、今後の課題となろう。通常の文理であれば、金銭の資金拠出を伴うものが本来ならば、支払であり、一般的な納税者におけるレベルに置いてもその点は当然であろう。しかしながら現行法の解釈において本件のように、金銭等の支払がなくともその対象とされ、いわば、「支払」が非常に幅広い意義を有しているように捉えていることは、この納税者の予測可能性等、租税法規の基本的な要請に合致しているのか等の、是非も議論されるべきものであるが、専門家としては認識されるべきであろう。本件はあくまでも国外源泉所得における源泉徴収義務における起点を判断しているものであるが、租税法規一般においてこのように支払を考えているのか否かという点は検討すべきであろう。

現行法の解釈の所以が如何なるところにあるのかという点は定かではないが、国際的な資金移動において、国内源泉所得に対して課税漏れ、租税回避を招かず、適切な租税負担を企図したのとして理解するならば、このような解釈にも一定の合理性はあるものと考えられる。いわば固有概念として支出の有無にかかわらず、租税法規においては、少なくとも源泉徴収義務規定においては、広く支払を認識することとしているものとも理解され、納税者の予測と比較衡量されているものというべきであろう。しかしながら如何なるタイミングをもって支払とするのかという点は、必ずしも明らかではなく、例示に加えて、通達では債務の消滅を一つのメルクマールとしているが、抽象的であり、源泉徴収義務の発生のタイミングのみならず、損金としての計上のタイミングへも影響を及ぼすものであり、管理運営の際にもより慎重な判断が求められるのではないだろうか。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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