2018年11月5日月曜日

判例裁決紹介(平成29年6月22日裁決、推計課税適用の必要性と合理性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月22日裁決で、推計課税の適用における合理性が問題となった事例です。

具体的には、内装業を営む請求人(未申告)が課税庁による実地の調査に対して、日程調整への非協力、帳簿等の不提示を行ったため、所得税法156条に基づく推計課税の適用を行った課税処分を行ったところ、その取消を求めた事例である。すなわち推計課税の適用の是非が問題になった事例であり、未申告等があった場合、さらには、納税者として実地調査(質問検査の行使)において日程調整に非協力(6回ほど)あったような事案においって、課税を結成処分において行い、さらに、消費税における仕入税額控除の適用の否定を行っているものである。実地の調査が納税者の非協力によって実施できない状況は租税専門家が関与する中ではどの程度実際に発生するような状況にあるのかという点は、聞いてみたいところであるが、単に納税額が推計されるのみならず、総合的に仕入税額控除の否認など、更には反面調査の実施など(本件でも問題となっているが)、納税者にとってリスクとも考えられるような状況が発生することは改めて認識されるべきであろう。推計課税の適用においては、実額による反証は極めて困難であり、必要経費の存在など部分的な立証のみではその適用を覆すことは困難であり、悪魔の証明のような実質的な所得の情報の把握が必要とされることは、説明されるべきものと言えよう。

本件では推計課税の適用の合理性・必要性が争われているが、どの程度の必要性が必要とされているのか、法文上は明確ではなく、法的にどの程度の趣旨が要請されているのかという点も問題となっている。かかる点は従前租税法規の適用においては、問題となってきたものであり、近年はその適用事例は減少しているものと認識されるが、改めてその適用条件、範囲を検討する上で、本件は従前と同様にその範囲を検討する上で参考となるものと考えられる。

また手続法上や、反面調査の実施における瑕疵も主張されているが、基本的に請求人の主観的な要因(仕事が忙しいなど)が日程調整、調査の実施に関して非協力であったことにより、推計や反面調査などが行われる事になっている。調査への非協力や時間稼ぎ、引き伸ばしなどは、結局の所、現行法規においては、フェアな納税者との対比において、適切な納税環境を構築するにあたっては、劣位な行為として評価されることもまた、認識されるべきであろう。当たり前のようであるが、これも申告納税制度基軸においており、かかる点において、事前通知等の手続整備が行われているが、平成23年改正前と基本的に変わらず、その調査における瑕疵は課税処分の適法性において極めて限定的に解されるものと理解されるべきものと考えられる。

(推計による更正又は決定)
第百五十六条 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる

「所得税法第156条は、所得税につき更正をする場合において、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているが、飽くまで課税処分における課税標準の認定は直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であり、推計による課税が認められるのは、やむを得ず推計によらざるを得ない場合、すなわち、①納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、②帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、又は③納税義務者が資料の提供を拒否するなど税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。」
以上のように本件の中心的な争点は推計課税適用における必要性・合理性である。申告納税方式を採用する所得税法において(我が国の租税制度全般において)原則として自らの所得を開示し、適切な納税負担に関して、ここの事情を反映させ、申告を行って租税法規の適用を図ることを原則としていることから、解釈として、推計課税の適用に関しては、止む得ない場合に限定している。実額課税によることを不可能もしくは著しく困難な場合に限定することとしている。この適用要件の是非、具体的な必要性等に関しては従来、多様な事例が存在しており、多数の議論が行われてきている。本件もその類型に属するものであり、上記のように、推計課税はあくまでも例外的な方法として理解している。もちろん法文上はできる規定としてあるのみであり、その必要性など具体的な適用に関する制限は必ずしも規定されておらず、抑制的な運用が行われているものとも考えられるが、実際推計課税が適用される場合はとはいかなる場合であるのかという点が課題となる。実質的には推計課税の適用が争われるような状況では、対象が問題がある納税者が多いものと考えられ、本質的に必要性が問題となることはないものとも考えられるが(質問検査における必要性以上にその点が実際のところ瑕疵を伴うものであることは考えがたい)、本件判断は上記のように明示的に例示を行っており、156条の適用範囲を検討する上で有益なものと考えられる。

実際の例示は、従前の例と特段差異がないものと捉えられるが、本件のように納税者の非協力を如何に理解するべきであるのかという点が問題ではないだろうか。本件では最終的に納税者の非協力によって実地の調査が困難であったことが認定されているが非協力と実額認定が不可能等であるとはどのように関連付け議論されるべきものであろうか。非協力に対する反証としては、納税者が協力する意思があったことを主張することが想定されるが、納税者の主観的な要因をどのように捉え、対応していくべきであるのかという点は非常に困難ではないだろうか。換価の猶予等において納税者の意思を反映させる規定は一定程度租税法規においては存在しているが、曖昧模糊としたものであり、実質的な基準として機能しているのかという点は検討の余地があるものと考えられる。換価等の納税義務の確定ごとは異なり、調査段階における意思の反映は、より課題も多いものと考えられ、適正な納税義務の履行と権利保護とのバランスにおいて、検討の余地が大きいものと捉えられる。実地調査が認知調査の枠組みで構成されていることとの整合性が取れないとの意見もあろうが、現行法の枠組みにおいて、推計課税は、フェアを確保する手段として機能しており、非協力のような幅広い状況であっても現行法の解釈として正当性を持つものとして理解されていることは留意されるべきであろう。

また、本件判断では、推計の合理性も問題となっている。この点も推計課税において如何なる程度の推計の合理性があるべきであるのかという点は従前問題となっているものであるが、解釈としては歩いていど幅のある概念として、また、実額課税との間で高度な合理性が求められているものとは異なるという理解が主流となっているものと想定sれる。本件では収入面は反面調査から、そして経費面は同業からの類推により判断されている。判断では下記のように、経験則上という文言が使用されているが、厳密な合理性を要求されているものではない事もまた、前提となっているものと言えよう。推計課税が納税義務の確定を図るものであり、かかる点では強固な規定であることを考慮すれば、より厳密な推計を要求するような議論もあり得ようが立法の問題とも言えよう。

「一般に、業種・業態が類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、経験則上、同程度の総収入金額に対し同程度の所得が得られると考えられ、このことは請求人の営む事業の場合であっても例外でなく、かつ、請求人に特段の事情があるとは認められない。」
さらに本件では特段の事情の有無については、ほぼ議論がないものであるが、如何なるものが特段に事情に該当するのかという点も含め、より明らかにすべきことは多いものと言えよう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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