2018年9月22日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年9月1日、過去における買換特例の適用有無と取得価額)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年9月1日で、相続により取得した財産の譲渡所得につき、取得費未満とした申告を否定して譲渡所得に対する買換特例の適用が行われていたとする処分の有効性が争われた事例です。

具体的には、原告が相続により取得した不動産を譲渡した際に、当該財産の取得費の計算し、当該譲渡金額がその金額を超過しなかったとして譲渡所得を0であるとして申告したところ、当該不動産に対しては被相続人が昭和60年台において譲渡所得に関する買換特例の適用を行っており、取得費が当該不動産以前の取得費が引き継がれているとして譲渡所得の計算(取得費の再計算)をした処分に対して、当該制度の適用を受けた事実、証拠はないとしてその取消を求めているものである。基本的に、譲渡所得や買換特例などの法令上の意義、解釈が争われた事例ではなく、過去の事実関係として当該特例の制度が適用されていたのか否かという点が中心的な争点になっているものである。従って法令解釈として特段特徴的な事例ではないものと評価されるが、特例の適用関係が、特に非常に時間が経過している状況下においていかにしてその適用関係を立証するのか、あるいは、課税庁の主張する立証につき、反証を行うのかという点が本件の意義と言えるのではないだろうか。

より具体的には、課税庁が示す整理票が証拠資料として適当であるのか否か、この資料における適用関係を否定できるのか否か、という点が納税者における本件における争い方であり、真実性や課税庁内部での資料状況を基礎とした判断であり、判示では最終的に納税者の当該不動産に関する価格内訳の差異に基づく当該資料の適否を疑問視する主張を退けているものであるが、内部での管理関係等の状況も反映させた形での反証が必要であり、些か納税者にとっては、その争い方として厳しいものと捉えざるを得ない。

長期間の経過かつ相続が関与することにより当事者の不在、申告書に関する保存期間の終了等の状況が本件の事実関係においては付与されているものであり、かかる点が事実関係を複雑化しているものとして本件の起点を構成している。このような状況は相続に伴う事実関係としてはおそらく特段珍しいものではなく、相続関係や譲渡を行うにあたり、特例の適用関係などは留意されるべきものとして実務上も本件は一定の参考となるのではないだろうか。

本件はこの処分の基礎となる書類(確定申告書類)が保存期限を超過しており、当時における帳票、管理のための整理表が基本的な対象となっており、納税者としてはこの適否を争うほかないのであるが、課税行政に属するものとしては、最終的に資料における記載事項から、その適否を判断しているプロセスは、当該行政に携わるものとして、参考となるものと評価されるし、実務家としても資料の吟味において留意されるべき点を示しているとして理解されるべきであろう。

納税者としては、不動産価格の内訳が異なることをもって争点の基礎としているが、このような僅かな相違(この点は300万円以上の相違であり、見方によってはその適否を十分に吟味すべきものとして捉えられるかもしれないが)では、課税庁の基礎資料として適否を否定することは実際上は困難という認定が本件である。いかにしてその適格性を認定しているのかという点は上記のように判断プロセスを学ぶ上で、あるいはティーチングケースとして参考となろう。

また、本件では、課税庁がその適否を主張する上で、KSKシステムにおいてかかるような整理表の存在、特例の適用関係があることを示唆する情報の登録が行われていることが主張されており、国税庁における長期間に渡る資料管理の現況の一端を垣間見ることが可能な点でも興味深い事例であるものと考えられる。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。




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