2018年9月18日火曜日

判例裁決紹介(神戸地判平成28年3月16日、農業相続人に対する納税猶予と転用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成28年3月16日で、農業相続人に対する納税の猶予に関して、転用が行われており、当該要件を充足しないとして猶予が取り消された事例です。

具体的には本件は相続人たる原告(農業相続人)相続財産たる農地につき、納税の猶予の届け出を行っていたところ、東亜gのうちは庭園として転用されており、その猶予の条件を充足していないとして、その転用の事実関係が争われた事例である。農地に関する納税猶予の特例は、期限を最終的に超過すれば、猶予税額が免除されるものであり、当該制度の適用、継続に関する条件の充足の有無の判断は長期間に渡り非常に重要な、条件として位置づけられるものであり、かかるような性格を有する租税特別措置の適用要件を如何に解すべきであるのかという点が、特に適用が中止される条件である、特例農地の譲渡等(転用等も含む)がどのような状況にあるのかという点が起点となっているものと考えられる。判断の枠組としては、農地法における農地の解釈を準用し、最高裁判決を基礎として判断を行っている。しかるに法令解釈としては農地法の準用を基礎としたものと考えられ、特段特徴的なものではないかもしれないが、農地として利用されているのかどうか、特に転用後の現況である桜を植え、一部観賞用の設備の設置などを行っている状況が当該解釈として農地に当てはまるものであるのかという点が問題となっているものである。最終的に、本件では利用状況等総合的に判断して、農地としての該当性を判断しており、本件の特徴となっているものであり、納税の猶予における状況の判断枠組として先例的な価値を有するものとして捉えられよう。

下記は、現行法における条文であるが、基本的に本件と同様に当該制度の適用が中止される条件において譲渡等が含まれるものである。特に本件においては転用が行われていることが基礎的な事実関係として問題となっている。

(農地等についての相続税の納税猶予及び免除等)
第七十条の六 農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下この条において「被相続人」という。)の相続人で政令で定めるもの(以下この条において「農業相続人」という。)が、当該被相続人からの相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地(特定市街化区域農地等に該当するもの及び利用意向調査(農地法第三十二条第一項又は第三十三条第一項の規定による同法第三十二条第一項に規定する利用意向調査をいう。第一号において同じ。)に係るもののうち政令で定めるものを除く。第五項を除き、以下この条において同じ。)及び採草放牧地(特定市街化区域農地等に該当するものを除く。同項を除き、以下この条において同じ。)の取得(前条の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされる場合の取得を含む。第十九項から第二十一項までを除き、以下この条において同じ。)をした場合(当該被相続人からの相続又は遺贈により当該農地及び採草放牧地とともに農業振興地域の整備に関する法律第八条第二項第一号に規定する農用地区域として定められている区域内にある土地で農地又は採草放牧地に準ずるものとして政令で定めるもの(以下この条において「準農地」という。)の取得をした場合を含む。)には、当該相続に係る相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書(以下この条において「相続税の申告書」という。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地及び採草放牧地並びに準農地(政令で定めるものを除く。)で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該農地及び採草放牧地については当該農業相続人がその農業の用に供するもの(第九項の規定に該当する農業相続人にあつては、その推定相続人の農業の用に供するものを含む。)に限るものとし、準農地については当該農地又は採草放牧地とともにこの項の規定の適用を受けようとするものに限る。以下この条において「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、納税猶予期限(当該納税猶予期限前に、その有する当該特例農地等の全部につき第七十条の四の規定の適用に係る贈与があつた場合には、当該贈与があつた日とし、当該特例農地等の一部につき当該贈与があつた場合には、当該特例農地等のうち当該贈与があつたものに係る第三十九項第三号に定める相続税については当該贈与があつた日とし、当該特例農地等のうち当該贈与がなかつたものに係る第四十項第五号に規定する政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税については当該贈与があつた日から二月を経過する日(同日以前に当該農業相続人が死亡した場合には、当該農業相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この条において同じ。)が当該農業相続人の死亡による相続の開始があつたことを知つた日の翌日から六月を経過する日。以下この項において同じ。)とする。)まで、その納税を猶予する。ただし、当該農業相続人が、その納税猶予期限又は当該贈与があつた日のいずれか早い日(以下この条において「死亡等の日」という。)前において次の各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日から二月を経過する日まで、当該納税を猶予する。
一 当該相続又は遺贈により取得をしたこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等の譲渡、贈与(第七十条の四の規定の適用に係る贈与を除く。)若しくは転用(採草放牧地の農地への転用及び準農地の採草放牧地又は農地への転用その他政令で定める転用を除く。)をし、当該特例農地等につき地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定(当該特例農地等につき民法第二百六十九条の二第一項の地上権の設定があつた場合において当該農業相続人が当該特例農地等を耕作又は養畜の用に供しているときにおける当該設定を除く。)をし、若しくは当該特例農地等につき耕作の放棄(農地について農地法第三十六条第一項の規定による勧告(当該農地が農地中間管理事業の推進に関する法律第二条第三項に規定する農地中間管理事業の事業実施地域外に所在する場合には、農業委員会その他の政令で定める者が、政令で定めるところにより、当該農地の所在地の所轄税務署長に対し、当該農地が利用意向調査に係るものであつて農地法第三十六条第一項各号に該当する旨の通知をするときにおける当該通知。第十二項第二号において同じ。)があつたことをいう。同号及び第十二項第三号において同じ。)をし、又は当該取得に係るこの項本文の規定の適用を受けるこれらの権利の消滅(これらの権利に係る農地又は採草放牧地の所有権の取得に伴う消滅を除く。)があつた場合(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定があつた場合を除く。)において、当該譲渡、贈与、転用、設定若しくは耕作の放棄又は消滅(以下この条において「譲渡等」という。)があつた当該特例農地等に係る土地の面積(当該譲渡等の時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等につき譲渡等(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定を除く。)があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)が、当該農業相続人のその時の直前におけるこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等に係る耕作又は養畜の用に供する土地(当該農業相続人が当該相続又は遺贈により取得した特例農地等のうち準農地で農地又は採草放牧地への転用がされたもの以外のものに係る土地を含む。)の面積(その時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等のうち農地又は採草放牧地につき譲渡等があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)の百分の二十を超えるとき その事実が生じた日

以上のように、本件はその中心的な争点として、猶予に関する要件の充足(農地として継続的に利用されているのか否か)という点が如何なる基準を持って判断されつべきであるのか、如何なる基準を適用して認定されるのかという点、事実関係が問題となっている(いささか長い条文であるが)。最終的には以下のように最高裁の農地法における判示を引用して、

「農地とは、農地法2条1項に規定される「耕作の目的に供される土地」をいうところ、「耕作」とは、土地に労資を加え、肥培管理を行って作物を栽培することをいい、その作物は穀類蔬菜類にとどまらず、花卉、桑、茶、たばこ、梨、桃、りんご等の植物を広く含み、これが林業の対象となるようなものでない限り、永年生の植物でも妨げられない(最高裁昭和40年8月2日第二小法廷判決・民集19巻6号1337頁参照)。また、肥培管理とは、作物の生育を助けるため、その土地に施される耕うん、整地、播種、灌がい、排水、施肥、薬剤散布、除草等の人為的作業を行うものであり、ある土地が農地であるかどうかは、その土地に作物の栽培のための肥培管理が施されているかどうかによって決定されるべきものである(最高裁昭和56年9月18日第二小法廷判決・裁判集民事133号463頁参照)。そして、登記簿上の地目や当事者の主観的意図に左右されるものではなく、当該土地体の客観的状況により判断すべきである(最高裁昭和39年5月26日第三小法廷判決・裁判集民事73号677頁参照)」

客観的な状況を基礎としてその判断を行っている(しかるに判示として、農地として継続的な利用になく、庭園としての利用であって適用されないとしている)。納税者の意思による(納税者の主張にあるように)、桜の育成等の状況にあって、農業を継続的におこなっているとは判断していない。基本的には設備や利用環境等から客観的な要因を基礎として庭園としての利用を判断しているため、事実関係を如何に評価するのかという点が本件の中心的な争点であろう。しかしながら農地として利用しているのか否かという点に焦点を当てており、現行法における転用等をどのように解すべきであるのかという点は欠けているようにも捉えうる。

このように客観的な状況を基礎としている点は租税法規における客観性の確保を基軸とする特徴を整合的であり、納税者の意思などの主観的な要因は副次的な要因として判断されることとなろう。特に本件制度は租税特別措置であり、厳格な法適用が要請されることから考えれば、衡平負担の観点からもその判断は客観的な事実関係を基礎とするものと判断されるべきだろう。しかるに納税者の意思などは間接的な材料にとどまるものと評価せざるを得ないことは留意されるべきである。

本件特別措置は非常に長期間に渡る状況の継続をその基礎としている制度であり、納税者、課税庁ともに、継続的か関与が必要となる制度であり、より留意が必要なものである。類似の制度として納税の猶予を定めた事業承継税制など、同種の事実関係の判断においても本件のような状況が基礎となるべきものであり、かかる点において本件の判示は有益であり参考となるものと言えよう。

なお、法令においては利用状況の変化等に関して、転用と定めるのみであり、主たる利用要因など、程度差を反映させる規定をおいていない。利用状況の判断につき、継続を判断する上で、程度差を設けていないものと考えられる。しかるに一部であっても利用状況が継続的であれば当該猶予を適用可能であるとの解釈も行うことも出来よう。かかる点は立法的な課題であるとも言えようし、より詳細な検討が必要であろう(一部のみの継続によって納税の猶予を認めることは公平に反する状況も想定される)。また、当該制度は長期的な利用等の状況の継続をもってその立法目的を達成しようとする制度であり、特定のタイミングのみを基礎として猶予の継続を判断することは、あるいは転用等の状況であることを判断することが妥当であるのかという点も検討されるべきではないだろうか(一定に期間における状況の変化や継続をその判断材料としておくべきではないだろうか、立法論であるのかもしれないが)

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

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