さて、また興が乗ったので判例裁決を作成しました。今回は平成29年3月14日裁決で、遺留分減殺請求による財産の受け取りが一時所得として課税された事例です。
具体的には、相続人たる請求人が財産を遺言(生前の貸付け等の存在)により一切の財産を受け取ることができなかったため、他の相続人に対して、遺留分減殺請求の訴訟を行い、かつ期間の経過に伴い、果実に関する弁償金の受領を求めたところ、主張が対立し、一年以上の長期間に渡って紛争が長引き、結果裁判所の提示に基づく、和解金の受領として一時金を受領した事例であり、かかる金員が一時所得に該当するとして更正処分を行ったことに対してその不服を申し出たものである。
最終的な判断は、課税庁の主張するように、当該金員は、相続に伴い価額弁償金等(あわせて、納税者は財産が取得できなかったことに対する損害賠償という主張もしているが)ではなく、相続人間の紛争解決のための一時金であると認定し、一時所得として課税することを認めている。しかしながら通常、遺留分減殺請求による財産の取得は相続関係の変更であり、相続税をもって調整されるべきものとして考えられており、更正の請求や修正申告をもって対応することが通常となるものであるが、かかる関係において、その金員の性質が変化し、紛争解決の和解金として一時所得になるものとして取り扱われるような状況になっていることは本件における特徴的な点であろう。
和解に関する明細においては遺留分や相続関係によるものとの記載があるのにもかかわらず、しかも裁判所による提示であり、第三者が関与している状況下にあって、かかるような相続関係による財産の取得から一時金に状況が変更になっている点は、特徴的であり、判断においてもかかるような記載は名目的なものとして取り扱っている点は興味深い。このように本件は基本的には法令解釈というよりも、事実関係における認定を基礎としたものであり、その評価が課題になっているものと捉えられる。私見としては裁判所という第三者が関与している段階においてかかる和解を相続によるものから名目的なものとして取り扱う事実認定は些か疑問を覚えるところでもあるが、本件のような長期間に渡り、かつ主張が対立しているような事例においては、所得の性質も変化することがありうるという点においては、本件は実務上も参考になるものと言えよう。具体的にどのような事由の存在が変化をもたらすものであるのかという点は、租税法規の解釈に影響を受けるものであり、かかる点を深化させることが重要であろう。
相続における紛争の発生は、相続税負担等にかかわらず、実際には起こりうるものであり、問題となる遺留分は法的に保護された相続人の権利(もちろん、この性質は複雑であり、議論の余地はあろうし、今度の相続税改正において一定の制限が入るなど、より相続税法において検討すべきものと考えられるが)、であり、その実行により発生した金員がいかなる性質を持つものであるのかという点は、特に相続関係から離れ、課税関係が変更されるという点は重要であろう。
下記のように基本的に遺留分減殺請求は相続の延長にあるものとして捉えることは一般的であろうが、このように訴訟の経過によっては単にスタートになる事実が相続によるものであっても実質的にその金員の性格が認定されていることは、本来の遺留分減殺請求の段階においては、一定の紛争の存在が想定されるものであり、かかるような租税法規の適用による性格決定、事実認定は、納税者にとって実質的な二重課税ともいえるような状況が発生する(そもそも相続税と所得税の二重課税という状況が如何なるものであるのかという点は必ずしも定かではないが、下記所得税法9条における非課税規定の解釈として、その性質が如何なる形で変化するものであるのかという点は興味深い)ことも想定され、このようなリスクの存在は、事業承継等が強化されるような近年においては遺留分を侵害するような相続関係の構成等、リスクも生み出しうるものであり、実務家としては紛争の予防も含め、考慮しておくべきものであろう。本質的には、専門家責任としてこのような状況の発生を生じさせないことが重要なのではないだろうか。
十六 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)
以上のように本件の中心的な課題は、遺留分減殺請求に端を発する訴訟の和解金の受領が所得税法上の一時所得に該当するのか否か、すなわち課税対象となるのか否か、という点が課題となっている。遺留分減殺請求の弁償金が如何なる性格のものであるのかという点は基本的に、民事法の領域に委ねられるべきものであるが、このような相続紛争による金員が最終的に相続関係の軛を離れ、相続人間の紛争の処理に関わるものとの認定は、私見ながら和解による積算の内訳において遺留分等の精算等の記載があり、かつこれが第三者たる裁判所の提示によるものでありながら、これを名目的なものとして認定している点は、下記のように、些か乱暴であるような印象を受けるものであるが、、かかるような判断を行っている点は課税庁の判断基準を考える上で重要であろう。
「請求人と■■との間に存する本件相続に関する一切の紛争を解決するための和解金ないし解決金の性質を有するものと認められることからすれば、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に当たるものではなく、臨時的・偶発的な所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、所得税法第34条第1項に規定する一時所得と認めるのが相当」
如何なる所以をもって民事法上の価額弁償金から逸脱しているのか、あるいは所得税法に定める非課税所得への該当性を判断しているのかというような点が交錯する論点であり、基本的に事実認定をもって本件判断は行っているが、納税者にとっては租税負担が非常に変化する重要な判断であることは言うまでもない。しかしながら、このような転換、金員の性格の変更が判断された基準、メルクマールは必ずしも明らかとなっておらず、訴訟段階において対立や、長期間に及舞踊な状況が指摘されているのみであり、如何なる基準に当てはめ性質、非課税ではないとして判断しているのかという点は判断プロセスに示されていないものと評価される。事実認定をもって判断を行っているのみであり、一時所得に該当する点は、確かに、所得税法は包括的所得概念を基礎としており、広範囲に租税負担を求めていることから、その対象とすることに異論はないが、9条における非課税規定への当てはめがなぜ排除されているのかという点は、本来的に検討されるべきものではないだろうか。かかる点においてはより判断を追加すべきものと考えられる。その場合において、相続等の範囲が如何なるものであるのかという点は解釈上重要であるが、そもそも二重課税と言いながらも如何なる二重課税を排除する規定であるのか定かではなく、もって相続等の範囲を明示的に理解することは困難であり、かかる点はより検討の余地があろう。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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