さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年5月11日裁決で、医師の診療に基づかない補聴器の購入が医療費控除の対象になりうるものであるのか否かという点が問題になった事例です。
具合的には、本件は、請求人が確定申告における医療費控除の対象とした医師の診療に基づかない補聴器の購入が、その対象となるものであるのか、という点が問題になった事例である。下記のように、通達では、自己の日常最低限の用をたすために供される補聴器等を医療費控除の対象であると明記しており、かかる通達の適用が行われるものであるのか否かという点が争点になっているものである。最終的な判断としては、医師の診療に関わるものではなく、直接必要でもないことから、その医療費控除の適用対象範囲として否認された事例である。
近年は医療の対象が拡大しており、下記のような医療費控除の対象もまた対象範囲が拡張傾向にある(個人的には、癒し系のペットやロボットなどの購入もその対象になりうるものであるのか否かという頭の体操を行ったことがあります)。保険診療において、国民の医療に関するコントロールが厳しく図られている状況から緩和される傾向にあり、その適用対象範囲を如何なるものとして理解すべきであるのかという点は基本的な視座として重要なものであるように考えられる。所得税法における重要な控除項目としての位置づけを当該医療費控除は有しており、その適用範囲を検討することは有益であろう。実務的にはその計算が、非常に多忙な時期に集中するものであり、その適用範囲を詳細に検討する機会は少ないものであるのかもしれないが(また金額的には限定的であろう)、単なる医療費控除の対象となる項目を列挙するものではなく、本件のように一定の判断枠組みを有していることが理解されることは重要なものであるように捉えられる。すなわち、同じものの購入であっても、その適用範囲が異なりうるという点は租税の専門家としても留意しておくべきものと評価される。特に近年は、医療費控除の適用に関してはその適用要件を手続的に緩和する方向にあり、かかる作業に関与する租税専門家の責任はより詳細な注意が必要となるものといえよう。
また、近年では、係る制度の適用を巡って問題となるケースが増加しつつあり、医師の指導に基づくサプリメントの購入などが医療費控除の対象になりうるものであるのか(消極)というように、対象となるものの範囲を巡る争いが増加傾向にあり、適用対象としての境界を如何に解すべきであるのかという点は、課題となりつつあるように考えられる。また、近年はインフルエンザの予防接種のように、医師によって積極的に推奨されるような予防医療に関する措置の拡大も図られつつある。私見としては、単に医療費の負担による担税力の低下という点の反映のみではこのような多様な医療の登場に対して、的確に対応できているのかという問題意識は存在している。医療費控除に対していかなる位置づけを与えるのかという点も含め、より、医療費の削減などの意図(スイッチングOTCが制度化されたように)、現行の医療費控除を社会保障の枠組みにおいてもその制度趣旨を見直すべき時期にきているものであるのではないだろうか。
いずれにしても現行の枠組みにおいて、本件のように、補聴器の購入のように、費用対象項目が同一であっても医療費控除の対象として存否が分かれることは、実務家としてはどのように考えるだろうか。かかる点については意見を聞いてみたいところである。
(医療費控除)
第七十三条 居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
2 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。
3 第一項の規定による控除は、医療費控除という。
(医療費の範囲)
第二百七条 法第七十三条第二項(医療費の範囲)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。
一 医師又は歯科医師による診療又は治療
二 治療又は療養に必要な医薬品の購入
三 病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供
四 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第三条の二(名簿)に規定する施術者(同法第十二条の二第一項(医業類似行為を業とすることができる者)の規定に該当する者を含む。)又は柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第二条第一項(定義)に規定する柔道整復師による施術
五 保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話
六 助産師による分べんの介助
七 介護福祉士による社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)第二条第二項(定義)に規定する喀痰かくたん
吸引等又は同法附則第三条第一項(認定特定行為業務従事者に係る特例)に規定する認定特定行為業務従事者による同項に規定する特定行為
以上のように、本件は、所得税法における医療費控除の対象として医師の診療に基づかない、補聴器の購入がその対象となりうるものであるのかという点が問題となっている。本制度は上記のように、適用対象となる医療費の範囲を診療・治療(そもそもこの両者の相違も気になるところであるが、かかる点は医療法の借用であろう)、必要な医薬品の購入、人的役務の提供に限定され、更には、通常必要であるものという要件が伏せられている。所得税法においては必要経費等において、馴染み深い論点でもあるが、この経費の通常必要とは如何なるものであるのかと解されるのかという点は、一般的にその論点となろう。施工令は、より具体的に、一般的な水準というような要件を付与している。この通常性を如何に理解するのかという点は、必ずしも明らかとなっておらず、必要経費における通常性友整合的であるのかという点も定かとは言えない(そもそも現行の医療制度においても保険診療が我が国の根幹をなしており、通常性に反するような状況は非常に想定し難いという点も考慮されるべきではあるが、比較的不明瞭な概念であろう。
このように基本的に医療費控除の対象はその適用の類型を基本的には3の類型(診療等、医薬品の購入、人的役務の提供)を基礎としつつもその全体的な枠組みとして、医師等による必要性の保証が付与されているものと理解される。かかる点が医療費控除の判断枠組みにおいて重要なものとして挙げられよう。もちろん、近年は医師も倫理的な縛りは多いものの、医師の推奨など、健康効果が期待される食品や器具の登場もあり、かかるような存在を医療費控除の対象として如何に捉えるべきであるのかという点も問題とはなりうる(概ね効果が客観的に検証されていないような状況であり、現行法の枠組においては対象外と捉えるべきであろう。)。
そして以下のように、本件の直接的な争点となったのは、下記通達により、医療費控除の適用対象を拡大しているが、その適用を巡って争われたものである。すなわち医師の診療に基づかず、購入シアt補聴器の購入が通達の適用対象であるのかという点が課題となっている。
73-3 次に掲げるもののように、医師、歯科医師、令第207条第4号《医療費の範囲》に規定する施術者又は同条第6号に規定する助産師(以下この項においてこれらを「医師等」という。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下この項においてこれらを「診療等」という。)を受けるため直接必要な費用は、医療費に含まれるものとする。(平11課所4-25、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(1) 医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの
(2) 自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用
(3) 身体障害者福祉法第38条《費用の徴収》、知的障害者福祉法第27条《費用の徴収》若しくは児童福祉法第56条《費用の徴収》又はこれらに類する法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並びに(1)及び(2)の費用に相当するもの
判断では、以下のように、医療費控除のの基本的な趣旨を捉え、その具体的範囲として、近年の医療の状況から直接適用の範囲において、拡張しているものである。そもそも納税者にとって有利な処理であり、文句が出ないものであろうが、租税法規においてこのような拡張的な解釈をなす事の是非も課題となろうが、判断では肯定している(裁決である以上当然とも言えるが、そもそもこのような拡張的な解釈は立法により対応されるべきものであろう)。そこで問題となるのが、明示的に補聴器等を対象としながら、その適用を拒否している枠組である。つまり、通達では、医師の診療等において直接必要な医療費ということで、判断における医療費控除の適用対象として否定しているものである。この診療等に対して直接必要(他の必要経費でも問題となる概念d値あるが、直接性や必要性はどのような対象を含むものであるのかという点も課題となりうるだろう)、であることが重要な条件となっている。この点に関しては、上記の医療費控除の枠組みにおいて特徴として残存しているものであり、より強く特徴として認識されるべきものとして理解されよう。もちろん、同一のものに対する費用支出でありながら、必要性の有無により適用対象として異なる結果となることは、フェアではないとの意見もあり得ようが、医療費控除の基本的な趣旨からその生理が行われているものと考えられる。
「所得税法における医療費控除の制度は、多額の医療費の支出を余儀なくされた場合における担税力の減殺を調整する目的で、創設されたものである。現行の医療費控除の制度は、当該控除の対象となる「医療費」の費目を、所得税法第73条第2項により委任された所得税法施行令第207条各号に掲げる医師等による診療等の対価に限定し、もって所得税の公平な負担を図ることとしている。そして、本件通達の定めは、上記の医療費控除制度の目的及び内容を前提としつつ、社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴い、同条各号に掲げる対価そのものよりも、医療費関連費用の負担の方が増大している実情をも踏まえ、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用は「医療費」に含まれるものとして、医療費控除の対象となる「医療費」の範囲を具体的に定めたものと解される」
このように、本件が指し示しているように、医療費控除の判断枠組は単なる医療費としての該当性のみを判断しているものではなく、また費用支出項目に依拠しているのみでは判断枠組としては正当ではないことに留意すべきであろう。単に費用支出項目としての直感的な医療費対象ではなく、医師等による診療等において一定の必要性が保証されていることが求められていることが重要な点であろう(このように考えると、医師に診療拠点において推奨として販売される物品の位置づけなども医療費控除の対象として対象となりうるのかといった点も検討課題であろう、この場合は医薬品の枠組において判断されることになるだろうが)。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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