さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月7日裁決で、未申告の事業者に対する調査手続きの違法性、瑕疵と課税処分の取消しという手続法部分と、所得税法における必要経費として請求人が計上した地域対策費の該当性が認められるかという実定法の部分が課題となった事例です。
具体的には、本件は請求人が営む風営法対象事業に対して、所得としていた事業所得につき、未申告であったことから査察調査等をへて、决定処分を行った事例である。かかるような処分の段階において、当該処分の前提となるような調査手続きの瑕疵があったことによる(請求人、処分行政庁双方が内容・程度は異なるものの瑕疵の存在はそれぞれの主張において認めている)課税処分の違法性、取消対象となりうるべきものであるのかについて争われたものである。さらに、特殊な事業形式であることから、その必要経費においてもいわゆるみかじめ料などの存在が一括で地域対策費として計上されており、かかる点における必要経費としての該当性もまた争点となっているものである。未申告かつ特殊な事業に関わるものであり、また、このような調査手続の不備を主張するような事例は特に調査手続の改正が行われた平成23年改正以前からも、大量に行われた事例でもあるが、本件は、特に重要な手続法の改正であり、その中でも重大なトピックとされた項目である調査終了の手続、特に説明に関して課税庁の主張が含まれている事例であり、検討対象として重要なものであるように評価される。判断では、最終的に課税庁が主張する非常に限定的な解釈を採用しているが、その根拠も含め更に検討が必要であるだろう。
また、本件ではあわせて反社会的な団体への費用拠出、特殊な費用の必要経費性が否認されており、必要経費性の否定は、その具体的な定義も含め、多様な論点を含むものであるが、その否認のアプローチは形式的なアプローチではあるが、参考となるものと考える。
(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
以上のように、本件はその中心的な争点として、調査手続の瑕疵と課税処分の取消対象(すなわち調査の違法性)が関連付けられるべきであるのかという点が問題となっているものと考えられる。双方が主張する瑕疵、不備(法的にその治癒が図られる場合もあるので個人的には瑕疵と一律に表現するよりは、この用語が適性であるように考える)は異なるものの、処分行政庁においてもその存在は認めており(軽微なものとしているが)、かかる点がその後の処分において如何なる影響を及ぼすものと考えられるのかという点が解釈上も課題となろう。手続法に関する重要な節目となった平成23年の国税通則法改正前より、この手続上の不備と課税処分の関係は議論されてきたが、必ずしも法定の取消事由としてかかる不備が対象となるものではなく、一部の手続を除き、かかる不備は、重大な違法性がある場合においてのみその取消事由として機能するものと解されてきた。このような状況が上記改正によっても変化なく、継続しているものであるのか、あるいは、変化が生じているのかという点が具体的な解釈上の問題と考えられる。私見としては一般的に調査手続のその目的等において従前と現況において相違がないことから、調査手続の瑕疵があった場合、一般的にその課税処分の取消に至ることは否定的に捉えら得るべきものと考えられる。また調査手続もその保護しようとしている目的等において、相違があり、一律に捉え、議論することはバランスを欠くものと評価せざるを得ない。また従前においても重大な違法性を対象としているが、如何なるものをその重大と判断する起点とすべきであるのかという点は定かではなく、現行制度においてもより検討が必要ではないか。
かかる点に付き、以下のように判断では述べている。
「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。」
判断では上記のように、現況においても従前の状況を踏襲しており、瑕疵は必ずしも取消事由として機能すると一般的な機能するものとしては理解しておらず、さらに、
として調査によりという文言の解釈から重大な違法性を帯びている場合に限定しており、さらに証拠資料の収集手続における瑕疵の存在に限定している。このような判断を行う根拠は如何なるものであろうか。判断では具体的には明示していないが、重大な場合に限定するとの点は従前の見解と整合的であるものの、上記解釈によっては、以下のようにあくまでも証拠収集手続に限定している。これにより、以下のように平成23年改正によって導入された調査終了の際の手続である説明に関しては、あくまでも終了の手続であり、証拠収集に影響を及ぼさないとして、瑕疵による課税処分への影響を遮断している。
「しかしながら、上記イのとおり、調査手続の違法が課税処分の取消事由となるのは、課税処分の基礎となる調査を全く欠く場合のほか、証拠収集手続に重大な違法があって調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合に限られ、他方、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続の 違法は課税処分の取消事由とはならないものと解されるところ、調査結果の内容の説明は、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続の適法性に影響を及ぼさない手続であるから、原処分の取消事由とはなり得ないものというべきである」
このような証拠収集段階における適法性を重要視する見解は刑事法を中心に、理解を得やすいものであろうが、課税処分においてかかる手続への評価を行って違法性、取消の可能性を判断することはだろうであろうか。租税法規では犯則調査における資料と質問検査に代表される任意調査は明確に区分しており、その目的は異なるものとして明文をもってその分離を規定しており、任意調査において証拠収集手続とその他の手続において区分して課税処分の前提となる処分を理解することは予定されているのであろうか。調査概念自身、多様な調査を含むものであり、実地の調査に限定されているものではなく、実地の調査や調査の単位をいかに捉えるべきであるのかという課題を発生させることであろう(判断では、査察調査時において入手された資料を活用した再度の調査は実地の調査ではなく、事前通知の必要がないものとしている)。調査終了時の説明はその趣旨として説明責任の強化という、いささか不確かな点を根拠としているものであるが、処分理由を開示することでは、後の更正処分等の前提となる理由の提示、理由附記と大きな相違はなく、このような理由附記がかけた場合はその処分の取消は免れないものであり、かかる点との整合性との点でも疑問があろう(理由附記等により、瑕疵が治癒されたものとして、重大なものではないとして評価することもあり得よう)。
このように本件では、調査上の不備(瑕疵)と課税処分の取消事項としては解釈として、対象を証拠収集手続(そもそも租税法規における調査においてどの部分を証拠収集として評価するのかという点も定かとは言えず、枠組が不確かではないか。)に限定的に解している。納税者である請求人はこの説明段階において全く理解できないものであり、かかる点からの瑕疵も主張しているがそもそもどの程度の説明義務を追っているのかという点は解釈上は明らかではなく(私見としては理由附記と同等のものと捉えることは果汁であるものと評価されるが)、かかる点も更に検討すべきであろうが、上記のように限定的な課税処分に対する影響であるように捉えるならば、一般的に証拠収集段階にはない、手続として説明は、課税処分への影響を遮断されることになると解することが如何なる根拠によるものであろうか。説明は法定の手続であり、勧奨や更正処分の前提となるものとして、かかる点における不備が一律に課税処分への影響を排除されるべきものと捉える解釈はより検討が必要であるものと考えられる。実質的に上記改正の意義を喪失するものであるとも捉えることも可能であるかもしれない。このように捉えるならば、手続を定めた趣旨に反するものであり、処分行政庁の恣意を抑え、納税者の権利保護を基軸とする制度として、特に納税者の保護との間で衡平を欠くものではないだろうか。
また、本件では反社会的な団体へのみかじめ料などの必要経費性も問題となっている。かかる点につき、判断では、相手先や金額の明細が不明であり、更には、資料との距離の関係から実質的に納税者である請求人に立証責任を転換しており、このような形式的なアプローチからその必要経費性を否定している。すなわち、必要経費における必要性や、関連性などの要件を実質的に議論せず、その経費としての認定を排除している。このような反社会的な団体への費用拠出に関しては、その経費としての否定を行う際には法人税法における公正処理基準が活用される事が多いがこのような根拠規定を持たない所得税法においては、上記のような形式的なアプローチが主たるものとしてならざるを得ないものとも認識されるべきであろう(反対に、必要性の立証は非常に幅広い解釈が可能となっていることの証左とも言えるかもしれない)。
以上です。毎度のごとく、論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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