さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年1月11日裁決で、離婚に伴って発生した財産の移転(財産分与とはあえて書きません。当事者の意思が明確ではないので)、無償または著しく低い対価による譲渡であるとして、第二次納税義務者として該当するのか否かが問題となった事例です。
具体的には、事業を営む家庭に婿入していた者が滞納者となり、当該滞納者が離婚に伴い請求人(最終的に元配偶者から事業を継続引受け)に対して移転させた預金債権を受領した場合において、請求人に対してかかる移転が下記のように国税徴収法39条において定める、無償等による譲渡に該当するため、第二次納税義務者に該当するのか否かという点が問題となっている事例である。離婚に伴う財産の移転(特に財産分与)如何なる名目、実質を有しているのかという点は譲渡所得税の発生等、従前租税法規の適用に関して問題となっているものであるが、本件は滞納者である元配偶者から預金債権を受領したことが第二次納税義務者としての要件を充足するのか否かという点が問題になっているものであって、このタイミングにおける財産の移転をどのように評価するのかという点が問題の中心をなしてるものである。最終的には課税庁の主張する、著しく低い対価による譲渡であったという旨の主張を覆している。かかる点においても本件は特徴的なものであろう。
そもそも離婚時の財産の分与、移転が複合的な性格(慰謝料、財産の清算、養育費等)のものであり、如何なるものが相当であるのか、すなわち対価の適正額が如何なる金額に該当することになるのかという点が必ずしも明示的なものではない。実質的には民事法の問題であり(例えば養育費の基準も社会情勢によって変動が大きいものであろう)、民事法の観点からは財産の移転そのものが一義的には問題であり、その性格を問題として相当額を算定する必要性は、劣位にあるものであろう。しかしながら租税法規の適用上は、その性格、性質を如何に判断するのかという点は、算定上、重要な課題である。本件はこのよううな点で著しく低い対価の額の決定のみならず、課税庁の主張が排斥された点で興味深い事例であろう。
無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第三十九条 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(第五十八条第一項(第三者が占有する動産等の差押手続)及び第百四十二条第二項第二号(捜索の権限及び方法)において「親族その他の特殊関係者」という。)であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
以上のように、本件の中心的な課題は第二次納税義務者の適用対象として該当するのかという点が問題となったものであり、39条に定められている無償等による譲渡に該当するのかという点が問題となる。そもそも、第二次納税義務者は、本来ならば課税要件の充足がない状態において、特別な受益等を基礎として、徴収の便宜、確保を図ることを企図した制度であり、厳格な要件の判断が必要とされるべきものである。
徴収法第39条が規定する第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者である滞納者が、その者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、その者の財産について無償譲渡等の処分を行ったため、その者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められることとなった場合に、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対して、補充的に当該国税について履行責任を負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度であると解される。
上記のように、その性格は、判断においても前提とされているものである。
離婚時の財産の移転、財産の分与が譲渡に該当するということは、著名な裁判例が示すように、基本的に約40年の歳月も経過しており、通説として捉えて構わないだろう。所得税法の事例ではあるが、租税法規の譲渡は非常に広範囲にかかるものとして、多様な形式を含むものと解されるべきものとして理解されよう。本件もこの点に関しては特に、異論がないものとして(というか所与のものとして)判断しているように捉えられる。
しかるに問題は、相当額よりも低額により譲渡されているのか否かという点であろう。かかる点は民事法の問題でもあるが、かかるような複合的な性格を有するものに対して、本件では、それぞれに分解していて詳細に検討している。最終的には民事法の領域でもあり、事実関係を如何に考えるのかという点が課題となろう(民事法において決定すべき項目であり、相当額といえど、租税法規の適用において実質的に決定するような行為は、租税法規の性格から許容されるべきものであるのかという指摘はあり得よう)。いずれにしてもこのように中身の要素を詳細に性格を分類し、その相当額を算定するという判断は、財産分与額の決定においては当事者の意思が介在するものでもあり、妥当な金額を判断することは困難でもある。
ただし、本件は第二次納税義務者の該当性に関する判断ではあるものの、離婚時の財産移転に関して、このように詳細に事実関係を捉え、中身を分類整理し、その相当額を認定している判断プロセスは、譲渡所得課税の認定においても適用されうるものであるのか、従来は、このような丁寧な判断の枠組みでは処理されておらず、今後このように譲渡額をどのように判断するのかという点は、注目されるべきものといえるだろう。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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