2017年12月16日土曜日

判例裁決紹介(平成28年11月18日裁決、除却予定の建物の取得価額)

さて、また興が乗ったので判例採決紹介を作成しました。今回は平成281118日裁決で建物と土地を一括に取得し、その建物の除却損の計上が否認された事例です。

具体的には、本件は建物付の土地を購入した請求人が、土地の利用のため当該建物の除却費用(取り壊し)を損金計上した是非が争われたものである。当該購入時点において、当該建物は土地の活用を目的とした購入であって建物は取り壊しによる除却予定であったものであり、契約書金額において売買価格は、建物部分に関しては、零円と記載されていたものである。請求人はその確定申告において上記建物の除却損を計上して申告を行ったものであるが、上記契約金額の記載事項をもって、課税庁は当該建物の取得価額は零円であり、当該損金の計上を否認した更正処分を行ったところ、請求人が自己の経理処理として不動産取得税に基づく按分処理により当該建物の取得価額を算定し、除却費用を計上したことは構成処理基準に合致するものであるとして不服を申し出たものである。

すなわち、本件の中心的な争点は、除却予定にある建物の取得価額が如何なるものであるのかという点であり、その具体的な算定が問題とされたものであると捉えられる。実務上このような取り壊し予定がある場合の取得価額としては、下記の通達にあるように、土地の取得価額として算定することが一般的であろうが、その除却資産の損金計上を図ったものであり、請求人自らが結んでいる契約書の金額をオーバーライドして自己の判断による按分金額を取得価額としているものである。

一般に購入した資産、減価償却資産の取得価額に関しては、購入時点において、契約や支払いの事実が存在することにより、その算定が困難となるような場合は想定しがたいが、本件は他の資産との共同購入であり、さらには実質的に土地の取得を目的としたものであり(この点は事実関係からうら付けられている)、という状況に依拠したものであるが、かかるような取得価額が如何なるものであるのかという点(契約による譲渡代価の区分が不明瞭であり、按分等によって取得した資産の取得価額を法的にはいかなるものとして捉えるべきであるのかという点は)、単に本件のような除却損の金額を算定するのみならず、その具体的な金額の確定によって減価償却等においても重要な計算要因となるものであり、その具体的な意義、金額の確定に際しては、法が予定する取得価額とはいかなる意義を有するものであるのかという点を前提とするべきものであり、その具体的な意義、特に購入時点における代価が問題となるべきものと考えられる、通常、取得価額の算定においては、下記のように代価というよりはむしろ、直接要した費用(いわゆる付随費用)の存在がいかにして認定されうるものであるのかという点が課題とされることが多いものであるが、本件はいささか趣を異にするものであり、かかる点からも財産の取得価額を明らかにする上で、実務上も参考となるべき事案であると考えられる。

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
6 第一項の選定をすることができる償却の方法の特例、償却の方法の選定の手続、償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価額、減価償却資産について支出する金額のうち使用可能期間を延長させる部分等に対応する金額を減価償却資産の取得価額とする特例その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は、政令で定める。
(減価償却資産の取得価額)

第五四条 減価償却資産の第四十八条から第五十条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ各号に定める金額とする。

一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

(土地とともに取得した建物等の取壊費等)

736 法人が建物等の存する土地(借地権を含む。以下736において同じ。)を建物等とともに取得した場合又は自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額(廃材等の処分によって得た金額がある場合は、当該金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する。

上記のように本件における中心的な争点は、同時購入した土地およびその上に存していた建物の取得価額がいかなるものであるのかという点である。上記のようにその取得価額は法人税法本法の委任を受け、施行令において具体的に一定の類型のもとでそれぞれの取得価額の算定方法が法定されている。本件においては上記通達が示すような状況、すなわち建物の利用を企図したものではなく、あくまでも取り壊し等除却を行い、土地の利用を行うことが明らかである場合である場合において、建物における取得価額の存在を基礎とした除却損の計上が認められうるものであるのかということが問題となっている。実務上はこの取扱が基本となっていることであろうが、必ずしも根拠があるものではない。この点につき、本件においての中心的な法令解釈としては、この取得価額がいかなるものであるのか等意義をいかに解するものであるのかという点がその背景にあるものと認識される。

本件は土地の利用を前提とした取得を前提としたものであり、その取得した資産(建物)が除却対象であったという特殊な要因が起点となっているものであるが、契約書における購入の代価として記載されている金額がゼロ円である点が特徴的なものである。しかしながら、かかる点に限らず、同時購入あるいは請求人の主張にあるように、複数の資産の一括譲渡した場合における代価の区分等の状況においても、区別が明瞭ではない複数資産に関して問題となるような状況であり、かかる点は比較的上記のような事情に左右されることなく、重要な点であろう。

そもそも法が取得価額を上記のように法定していることは、他の一般的な会計処理とは異なるものであり、この点が取得価額の意義を解するうえで重要な点であろう。

  法人税法施行令第54条第1項第1号は、購入した減価償却資産の「取得価額」について、「当該資産の購入の代価」と「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨規定している。同号は、一般に公正妥当な会計処理の基準を要約したものと認められる企業会計原則第3の5を具体化した規定であるから、非減価償却資産である土地の取得についても類推 適用することができるところ、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかである。そして、売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって、購入の代価するのが合理的である。
  本件判断においては、上記のように一般に公正妥当な会計処理の基準の具現化と解している。このような点において減価償却に代表される固定資産の取引に関しての法定化の意義をとらえている点には疑問を覚える。そもそもこのような法定処理はその起点を所得計算における減価償却の特殊性に依拠していると理解すべきであろう。すなわち、減価償却は、通常の購入や役務提供とは異なり、多年度にわたり費用配分を行うことをその基礎としている点から、第三者の介在がなく、内部取引となる。つまり恣意的な活用によりその形状をコントロールして費用計上などを行うことが可能となるような恐れを有している。かかる点を考慮して、法、特に法人税法は執行の便宜や煩雑さを回避するべく、224項において公正処理基準を基礎とした計算規則を定めているものの、その例外として耐用年数、計算方法、損金経理の要請等を付与しているものであり、本件の中心的な争点である取得価額においても、この計算の基礎となるものであり、同様の趣旨をその背景においているものと解するべきであり、ゆえに上記のように一定の類型のもとで法定しているものと考えられる。ここに取得価額の意義の重要性が見いだされることになる。

本件で問題となっている建物の取得価額に関しては購入を行ったものであり、その具体的な意義としては購入の代価であることになっており、通常、民事法の概念も借用しつつ決定されるべきものである。すなわち代価という概念は購入契約における契約同意、もしくは実際の支払額に該当することはその文理からも特段、異論は存在しないであろう。上記取得価額においても基本的にこの点につき変更はないものと理解され、上記のような取得価額や減価償却において求められている趣旨に反するような状況にない限りにおいて、契約書の金額を否定して、別の金額を付与することは非常に困難であるものと考えられる。しかるに本件の結論には賛意を示すが、上記のようにその判断プロセスにおいて検討すべき点があるように考えらえる。

上記のように本件判断では、土地の存在を基礎としてその取得価額の判定を行っており、上記取得価額の規定を公正処理基準であることを基礎として類推適用を行うことができる旨をその前提としている。本来ならば、土地の取得価額がいかなるものであるのかという点からアプローチせずとも除却予定の建物の取得価額が除却損の前提となるものであり、この価額を具体的に判定すれば足りるものであろう。土地はその価値を時の経過に伴って減少するものではなく(私見としては価額の変動が存在しており、また、需要面の影響を受ける土地が非減価償却資産であるとの仮定は、現況において妥当であるのかという疑問はあるがこれは別の問題でもある)、非減価償却資産であり、その性格は法人税法においては減価償却資産と同様のものとは捉えることは困難である。もちろん複数の土地の一括売買においては別のアプローチが必要(立法論としては検討課題となろう)となろうが、少なくとも本件においては、必ずしも土地の取得価額に関してはその類推適用を行う観点から議論する必要性は如何なるところにあったのであろうか。私見としては上記のように、減価償却資産であることを前提とした規定であることを鑑みるならば、かかる判断は議論の余地があるものと考える。租税法規一般においてもその規定の本来のものとは異なるものに対して類推適用を行うことは租税法規の基本的な要請からみて、妥当であるのかという点は、消極に解するべきであろう。
また、そもそも上記規定が公正処理基準の具体化であるという判断には疑問を覚える。上記のように本規定は減価償却資産の性格に起因するものであり、その性格としては法人税法の独自の計算への考え方を反映させているものと理解するべきであろう。減価償却に関する会計基準も租税法の影響を受けているものであり、順序が異なるものである。
但し、このように基本的には、契約書の金額による購入代価の判定は一定の客観性が確保され、租税法規の基本的な要請に合致するものであると評価される。しかしながら、このような取得価額の判定は必ずしも支配的なものではなく、土地等や譲渡時における合理的な按分方法(例えば本件のような不動産取得税等に基づくもの)による取得価額を否定するものではないだろう。何をもって合理性を判断するものであるのかという点は、問題であるが、実務においては固定資産税等一定の客観性を確保しており、この点において一定の妥当性、合理性を有していることは否定しがたいもののあくまでも、このような算定方法は拡張的に適用されるべきものではなく、法規による購入代価という文言からは、原則的には契約書等の代価の判定が一義的であることは留意されるべきものであろう。租税法としては、この例外となる場合がいかなる状況であるのかという点を検討課題となるだろう。また、本件の利用用途のように、一定の例外的な状況を判断し、取得価額を算定する際には、この利用目的の把握が必要とされることとなり、取得価額の算定は、損金計上に於いて影響を与えるものであろうからより合理的な判断においては、取得意図の把握が必要となるものであり、その判断によって租税負担の差異が発生することは中立性という観点からは取得との関連性を如何に捉えるべきであるのかという点は検討の必要があるものと考える。


以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年12月9日土曜日

判例裁決紹介(平成28年8月25日裁決、復興法人税の納税義務者、賠償金と非課税措置)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今季は平
成28年8月25日裁決で、東日本大震災における福島原子力発電所自己に伴う受領した賠償金と復興法人税の課税対象を巡って争われた事案です。

具体的には、福島県に所在し東日本大震災に伴う原子力発電所自己による賠償金を東京電力から受け取った請求人(法人)が、当該金員を収益として計上しつつも申告段階において、当該金額を減算措置を行い申告をなしたところ、課税庁がその余な減算措置は行うことはできないとして、更正処分を行ったところ、上記に加えて自社は被災地域にある法人であり、復興法人税の課税対象として復興財源確保法に定める法人に該当するとして納税義務があると解することは、法令の趣旨に反すると主張して当該処分の取消を求めたものである。

本件は、被災地域にある請求人の自己の主張・見解(正式には、弁護士会の主張の引用をなしているとのことではあるが)に基づき、課税を非難するものであり、本来ならば立法によるべきものを自己の独自の見解に基づき不服を申し立てているものである。平成29年度税制改正による災害対応税制の制定など、東日本大震災及び福島原子力発電所事故は未曾有の災害であり、我が国の租税制度に投げかけた課題は多数存在するものの、本件もこの類型に属するものであり、法人として受領した賠償金、金員の租税上の取扱や復興に伴う財源確保のあり方など、議論対象として立法によるべきものを自己の課税処分の取消を求めた事例であり、些か政治的・政策的な主張を含むものとも評価して対応すべきものとも評価すべきものであるのかもしれないが(実際、判断においては、大部分が請求人の独自の見解に基づくものとして、合理性を否定する際に多用される表現であるが、否定されている)、法人という文言に対する趣旨解釈としても法令解釈の観点や、また先行事例として非課税措置に対する公平性を検討する際にも参考となるべきものと考えられる事案である。

第一点の賠償金の損金としての取扱あるいは益金減算措置に関しては、口蹄疫に伴う手当金の同額を損金として取扱、実質的に課税対象から除外する措置が行われている。本件の主張もこの規定の類推適用を図ったものとして主張が請求人から行われている。

3  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
  1. 一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
  2. 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
  3. 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
そもそも法人税法において課税対象から除外、損金として計上することに関しては、厳しい制限が加えられており、その範囲をみだりに変更することは、租税法律主義・公平負担の要請の双方から許容されるべきものとは解されない。かかる点からは本件のような主張は基本的に立法の範囲に属するべきものと捉えられ、口蹄疫対策の法令の類推適用は認められる余地はないものと考えるべきであろう。
しかしながらこのような災害等による見舞金や賠償金の受領は多様な事例において想定されるべきものであり、実際、東日本大震災においても見舞金等の支出先としての措置が特別措置法において定められている(交際費・寄附金等の例外)。本件はこのような先行事例との対比において非課税措置を求めるものであり、そのような非課税措置の性格を評価することが必要であろう。類推適用は租税法規の基本的な要請としてその適用の判断は困難であろうが、このような非課税措置が一旦導入されると立法論としても先行事例として本件のように先例として主張の根拠となり、立法対応を求められるものとなろう。実際、立法論としても先行事例の存在は反証が困難であるようなあがらい難い存在ともいえる(そもそも、より一般論としても先行事例の存在は重要な要因となるものでありかかる点において租税制度における歴史的な背景を検討することの重要性は存在しているものと考えられる)。一旦導入が決定されることとなろうが災害対応としてのフェアの観点からは同種対応がもとめられることになろうが、議論対象として歴史が証明することであろうが安易な非課税措置を導入することは総合的なフェアの観点からはリスクとなるものといえる。災害に伴う損失は情緒として寄り添うべきものであることは言うまでもないが、災害時における異常点を起点として、非課税措置を規定することは、そもそも何をもって非課税とするべきであるのか、その基準が議論されるべきであるが(もちろん類型化は困難でもあるが、かかる点は租税法の検討課題でもあるだろう)、総合的に・慎重に判断されるべきものであり、早急な対応が求められる災害対応としては相性が悪く本質的には困難を伴うものと認識されるべきであろう。私見ながら租税の基本的な、本質的な機能として本来は一般的な経費の調達をその基礎とするものであり、非課税措置の拡張はこのような財源調達機能を損なう可能性を発生させることになろう。急事に対応することが求められる災害としては給付等の他の諸制度とのバランスが取られるべきものであり、非課税措置のフェアの観点からの危険性は改めて認識され対応における機能分担の必要性が認識されるべきものとも考えられる。
また、第二の論点である「法人』の意義をめぐるものである。請求人が復興財源確保法に復興法人税法の対象となる法人に該当するのかという点が課題となっている。請求人の主張としては被災地域の復興に伴う財源の調達を担うべきものとされる法令の趣旨に基づき、その適用。課税対象となることはそもそも不適切であるとしている。処分対応として適切な主張であるのかという点はさておき(純粋に見れば、更正処分の理由となった点とは直接的な関連性は薄いと評価される)、確かに復興対象としての政策論として立法論としてかかる点が措置対象となりうるべきものと考えられることは(もちろん実質的に災害損失の存在により課税負担を行うべき対象となりえない可能性も高い)、必ずしも否定されるべきものとは捉えられないものと考えられようが、法令解釈として検討対象となりうるものであるのかという点は別の議論として捉えるべきであろう。
本件判断においても、独自の見解に基づくものであり、検討対象となりうるものではないとして特段の検討もなく、否定している(上記処分との関連性の観点からも係る対応の合理性は否定し難いが)。但し法令解釈として以下のように復興財源確保法の定める納税義務者としての意義を検討する価値はあろう。特段の定義規定をおいていないが、下記の定めにある法人とは如何なる意義であるのか、如何にして解すべきものであるのかという点は課題となろう。
(納税義務者)
第四十二条 法人は、基準法人税額につき、この法律により、復興特別法人税を納める義務がある。

請求人の主張としては、上記法人は、復興財源確保法の被災地域の復興財源確保の趣旨の観点から、被災地域に該当するものはその対象から除外されるべきものであるとして限定的・縮小的に解釈するべきものとしている。法令の趣旨に基づき(請求人の主張としてはこのような理解は弁護士会の主張が背景にあるものとして根拠としているが、あくまでもこれは単なる職能団体の一意見であり、立法や解釈において根拠としての有権性を有しているものではないことは言うまでもない、そもそもこのような趣旨を有しているものであるのかという点は厳格に検討されるべきものとも考えられる)、限定的な解釈を行うことは法令解釈としての一般論として必ずしも否定されるべきものではない。一般感覚としても課税対象を限定的に考えることに違和感を主張することに対して違和感を覚える可能性は低いともいえよう。しかるに見解として合理性が必然的に欠けるものとして理解することは必ずしも適当ではないともいえる。

但し、私見としては、租税法規において趣旨に基づく限定的な解釈を許容されるべきものとはいえないものと考えられる、租税法規における文理解釈の原則は揺るがすべきものとはひょうすべきものとは言えないだろう。特に非課税となるような限定的な解釈は上記のように先例的にも重要な判断であり、フェアの要請、要件など多様な点を考慮されるべきものである。本件も復興政策としての観点から議論されるべきものであり本質的には立法の範囲に属するものと評価されるべきものであろう。法人税法その他法令における法人の意義とのバランスも法的な安定性を担保すべき基本的な要請も鑑みるべきものとも考えられる。しかるに法令の趣旨を反映させ文言の解釈を限定的に行うことは、特に非課税を伴う場合に限らず厳格に捉えられるべきものと考えられる(不動産取得税の非課税対象を判断する事例においても趣旨の反映を図った高裁判断を否定した最判の事例も存在している)。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年12月2日土曜日

判例裁決紹介(平成28年12月5日、不動産鑑定評価の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年12月5日裁決で相続税の確定申告において不動産鑑定評価の利用につきその評価の妥当性が問題となった事例です。具体的には、請求人が相続により取得した相続財産の申告につき、当該評価額が問題となったものであり、中心的な争点としては当該取得した不動産(土地・借地権等)に対して不動産鑑定評価を用いたところ、当該評価額は相続税法の時価によるものとは合致するものとは考えられず、財産評価基本通達による評価額によるべきであり、当該鑑定評価額は、その財産評価基本通達による評価額に対して合理性を否定するものとしては、評価することは困難であるとして、更正処分を行ったものであり、この処分に対して不服を申し出たものである。

相続税法による時価、すなわち、相続財産の価額をいかに捉えるべきであるのかという点は、相続により取得した財産的価値を課税対象とするものとして捉えるならば、相続税法において非常に重要な概念であり、また重要な課税要件となるものである。しかるにその価額時価の算定は相続税法において重大な争点となっており、多様な争点事例が存在している。本件もその累計に属するものであり、特に財産評価を行う上で、不動産鑑定評価を利用することが最も想定されるところであるが、その利用した評価額を否定したものであり、財産評価を学ぶ上で重要な事例と考えられる。通常は、財産評価基本通達による評価、すなわちその適用が合理的であるのかという点が中心的な争点となるものであり、これにより算定された価額が相続税法が求める時価として高額であるのか否かという点が争点となることが多いものと考えられるのが相続税における財産評価の課題であるが、本件は多少趣が異なり、納税者が用いた不動産鑑定評価の妥当性が中心的な争点となっている。実際相続税申告においていかなる状況で不動産鑑定評価が用いられているのか、その位置付けは如何に捉えられているのかという点は定かではないが(この点については実務家にヒアリングしてみたいところではある)、不動産評価の申告における活用を問う上で参考となるものであり、如何なる点で相続税法に定める時価に合致するものではないのか、すなわち、以下のように相続税法22条に定める時価の解釈との関連においていかにして判断されるものであるのかという点を検討する上実務上も参考となるものであろう。
(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

特に本件における鑑定における収益還元価格の評価は特殊関係者間における取引を前提としたものであり、かかるような場合における収益還元価格評価の活用は困難ともいえる。このような点もより具体的には課題と言えよう。

最終的な判断として、本件で問題となった不動産鑑定評価や収益還元評価による評価額が相続税法において一般的に必ずしも否定されるものではないものと考えられるが、相続税法における時価の算定において、単なる価値の測定、価額自身のみならず、如何なるプロセスで、評価がされたものであるのか、その評価プロセスが合理的なものであるのかという点が問題となったものと考えられ(かかる点で本件で用いられた評価は非合理的であったものであろう、詳細な中身においては主観的な評価であると認定されうる)、この評価プロセスに対する評価もまた、評価額自身と同様に重要なものであると考えられることが指摘される。かかる点からは鑑定評価においてこのような評価プロセスの明記が重要なものとなり、鑑定評価が、評価基準に則り検証可能であるのか要求されているものともいうべきであろう。この点は鑑定評価の合理性を追求する上で重要な考慮要素となるものと考えられる。さらにどの程度具体的に検証可能であるのかという点が課題となるものだろうが、かかる点についても判断過程の検証を基礎とする更正処分における理由附記を参照として検討されるものと考えられる。

判断においては、以下のように、まず、相続税法における時価として
「 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為 準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」

相続税法における時価の意義、そしての具体的な算定方法において、財産評価基本通達の位置付けを検証している。そしてさらに、以下のように、

「 そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格ないし税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価して行われたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。
 したがって、このような場合には、請求人らにおいて、評価通達の定めに従って評価したという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがある等、その評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」
 
相続税法における時価と評価通達による評価額の関係性を認定して、広く合理性を有する旨の推定の作用、そしてその評価額における争い方として、算定プロセスの合理性若しくは、不動産鑑定評価などの資料によって評価額が時価を上回るものであると主張立証しなければならないと、判断プロセスを限定的に判断している。この点は従来と基本的に同様であり、このプロセスにおいて、不動産鑑定評価における評価額の合理性が争われ、鑑定評価を用いることの是非が判断されるものと判断している。

このように、本件における中心的な争点は請求人が用いた不動産鑑定評価が相続税法における時価として妥当であるのか否かという点がである。但し、最終的には財産評価基本通達による評価に基づくものであるとしており、この対比によって如何なる時価が相続税法において要求されているものであるのか、という点が課題となっている。22条は上記のようにその時価をもって相続財産の価額として折、時価とは取引等の行為で決定されるものであって本来ならば、その概念として多様な金額を含むものと考えられる。しかしながら、学説判例ともに、かかるような本来的に幅のある概念である時価に対して、客観的な交換価値をいうものと解しており、この点において本件も整合的である。すなわち第三者が関与するような市場取引を通じて客観性が認定されることを要請しているものであり、租税法規における基本的な要請においても合致しているものと考えられる。かかる点は異論がないところであり、財産評価の各種方法においてもこの要請と合致しているのか否かという点が求められるものと考えられる。

しかるにこの枠組にて本件における不動産鑑定評価の合理性が問われるものといえるが、単なる交換価値となるような金額を測定する・認定すれば足りるものではなく、客観性が重要であり、この検証が行えるかどうか、すなわち評価鑑定プロセスにおいて検証可能であるのかという点が重要な点であり、この点における評価が本件判断を左右している。

具体的には、本件においては収益還元価格法の採用が行われている。この評価方法の相続税法における活用の是非については従来多様な議論が行われているものであるが、本件もその類型に属するものである。まず実際に行われているものが、割合法評価との対比において、価格差を支える理由付の不備である。他にも割引率(約3.5%)の選定理由の明示がない、というように鑑定評価におけるプロセスの記載がなく、検証可能性に欠けていることが問題視されている。つまり、市場が形成されず、鑑定によって評価を行う以上、一定の見積もりが介在することは避けようがないものであるが、恣意的な評価を行うことは上記のほうが求める要請として客観的な時価としての要件を充足するものではなく、公平性を担保しているものであるとは、評価し得ないとしている。また、借地権評価においても、鑑定基準に従ったものではない、加味すべきではない要件を付与している等、その客観性を失わせる状況が、客観性を判断する上での不適格な要因が存在したことが本件判断における不動産鑑定評価の劣位を決定づけたものといえよう。

しかしながら、このように考えると、原則的な評価としての推定を受ける財産評価基本通達及びそれに基づく評価が如何に位置付けられるのかという点が課題となる。すなわち財産評価基本通達は単に通達であり、法源性を有していない。かかる点からは現状において通達による評価が原則的な位置付けを受け、実務における基準として認定されていることは租税法規の基本的な要精に照らして担保し得ない。しかるに、この位置付けを如何に捉えているのかという点が問題となる。私見としては、上記のように相続税法が、客観性に裏打ちされた交換価値を対象として要請しているという点から(及び判例も)課税庁において、統一的に一律に評価を行うことは執行の公平性や客観性を確保する上で、上記相続税法が客観性を要請することで租税負担の公平性と恣意的な課税を防止する趣旨であると解するならば、この評価通達における一律の評価は、二重の意味で合理性を有していることとなる。しかるに、上記のように、一定のプロセスの評価において客観性の確保が保証された場合においてのみ(このような限定された状況下に於いてのみ)当該評価額が財産評価通達評価額を上回っていることが明らかな状況下であることを捉えて初めて、当該評価通達の時価としての推定を覆しうるものと考えられる。このように厳格な推定を覆す要請が働いているものと解すべきであろう。しかるに評価金額の高低のみが問題となるものではなく、このような判断枠組みは租税法規において不適切として捉えられていることは留意すべきであり、ここに財産評価基本通達の法に根拠規定を置くべきであるのか、あるいは、例外的な状況を如何に判断すべきであるのかという点を検討する必要性が発生することになろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年11月21日火曜日

判例裁決紹介(平成28年12月12日裁決、保証債務に履行に伴う資産譲渡における譲渡所得の特例の適用要件)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年12月12日裁決で、保証債務に伴う所有財産の譲渡に伴う譲渡所得の特例に関する適用要件が争われた事例です。

具体的には、本件はかつて法人の代表取締役であった請求人が主たる債務者たる法人に対して連帯保証契約を締約していたことに対して、当該保証債務に対して主たる債務者の履行が不能となり、請求人の所有する財産を譲渡した事により連帯保証人としての対応を行った場合において、当該履行に伴う資産譲渡につき、下記所得税法64条2項にさだめある保証債務履行のための所得計算の特例の適用対象となるものであるのかという点が争いになったものであり、特例適用を求めた更正の請求の主張に対して、その適用がないとした通知処分に対して不服として提起したものである。すなわち、請求人の求める当該適用の要件たる求償権の行使不能の状況が発生したとしての更正の請求が認められるか否か、つまり、求償権の行使が全部若しくは一部が不能となっているのかという状況が、主張のタイミングにおいて達成されているのかという事実関係に該当すると事実認定が可能であるのかという点が中心的な争点となっているものである。請求人としては当該連帯保証契約の履行の目的となる資産の譲渡に伴う所得は、求償権の行使不能が確定した段階で所得に対する権利が確定したものとして所得を認定し、本特例の適用によって所得がなかったものとみなされると主張したのに対して、課税庁としては、資産の譲渡として所有権の移転、登記に基づく事実関係によって権利確定主義による判断になるものとして主張が争われている。結果、最終的には判断として、かかる点の解釈の範囲拡大、事前段階での保証契約の有効性等も争点とされているが、求償権の行使可能性が否定されるべきとした対照が主たる債務者のみならず、他の連帯保証人に対する求償権も含むという解釈ににおいて、本件の事実関係のもとでは、行使可能性が否定的に捉えられる状況にはないということで請求を棄却する判断が行われている。実務上、本件のように連帯保証契約の目的のため資産を譲渡し、かかる部分に該当する所得の発生をなかったものとする規定を適用するケースは多用されるものであるのかという点は興味深いものであるが、かかる点以外にも債権回収・貸倒れ、保証債務における求償権の行使可能性の租税法規における判断を行う上での留意、特に単なる履行のための譲渡であるのみでは足りないという点を留意点として把握するべきことなどを認識する上では、実務上も有益性を有するものではないだろうか。また、今後の民法改正による保証契約、特に連帯保証契約の変更は主要なトピックの一つであり、かかる点においても租税法規における保証債務の履行における取扱を検討する上で有益の一つであるのはないだろうか。

所得税法における所得のタイミングとしては権利の確定をもって行うとする権利確定主義は、ほぼ我が国の所得税法としては確立した原則であり、本件のような特殊な要因に基づく譲渡において例外的に適用が可能であるのか否か、当該特例の適用も考慮され、求償権の行使不能が確定したタイミングまで、譲渡による所得を留保し、もって特例の適用が可能であるのかということで争いがあるものとも本件は評価できようが基本的にかかる時点まで拡張的に解することが可能であるとする理由付けが明示的ではない。確かに下記法文上は、資産の譲渡と保証債務の履行若しくは求償権の行使不能が明らかになったタイミングは、特段の関連性を必要としていないものと解することは困難ではない。しかしながら本件特例は、包括的に所得を構成し、幅広くその所得を認識する所得税法の基本原則の例外規定として存在しており、社会通年に基づき、実質的な所得対象となる金員等が譲渡人の支配関係にない状況から形式的に所得の発生を反映させるべきではないとの判断に基づくものであり、譲渡の場合に限定して、所得をなかったものとみなす規定であり、資産の譲渡と関連性が要求されているものと解することが妥当であろう。確かに実務上は特に、連帯保証契約において催告の順位付けにおいて特段の要請をなし得ない状況にある以上、求償権の行使可能性が否定されるべき状況であることが判断されるタイミングは必ずしも譲渡と同時期であるようなことは必ずしも限定されているものではない事例が多数存在することは想定されうるものである。かかる点において、この譲渡のタイミングと所得の発生を限定的に捉え、かかる部分の所得の納付を留保するような処理は、立法論としては考慮には値するものともいえよう。

(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)
第六十四条 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
2 保証債務を履行するため資産(第三十三条第二項第一号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときはその行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。
3 前項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定の適用を受ける旨の記載があり、かつ、同項の譲渡をした資産の種類その他財務省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。

また、本件特例の適用にあたっては、保証債務の履行のための資産の譲渡であることと(そもそもこの目的を如何にして認定評価していくことは目的が主観的な要因であることからも議論は余地がある、譲渡においてはその旨を明らかにする事が必要であるだろう)並び、上記のように履行に伴う求償権の行使可能性がその具体的な要件になっている。かかる点につき、本件は特例の適用要件を以下のように、具体的に判断している。

所得税法第64条第2項は、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額を、同条第1項と同様に、譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなすこととしている。本件特例を適用するためには、納税者が、①債権者に対して債務者の債務を保証したこと、②この保証債務を履行するために資産を譲渡し、保証債務を履行したこと及び③この保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことが必要であるが、「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権を行使すべき相手方の資産状況及び支払能力などから客観的にみて、債権回収の見込みのないことが明らかになった場合をいうと解される。
主たる債務者に資力がないため求償権の行使がそもそも不可能であることを知りながらあえて保証をした場合には、最初から主たる債務者に対する求償権を前提としていないものであり、むしろ保証人において主たる債務者の債務を引き受けたか、又は主たる債務者に対し贈与をした場合と実質的に同視できるのであるから、同条第2項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」との要件を欠くものと解するのが相当である。

本件における主要な論点もこの点にあり、上記のような資産の譲渡との関連、タイミングの問題のみならず、行使可能性が判断されるべき対象が如何なるものを含むものであり、また、如何にしてその行使可能性が否定されるべき状況にあるのかという点を明らかにすることができるのかという点が、本件特例の適用要件として重要な点となるものである。上記のように本件はこの対象範囲において主たる債務者への求償権のみならず、他の連帯保証人の存在も含む、求償権の行使可能性が、法令の意図するところであり、かかる点において、行使可能性が未だ否定されるべき状況にないタイミングでの所得の発生を否定する状況としている請求原因を排している。かかる点につき、以下のように、そもそも履行対象となる保証契約の範囲を民事法の規定に基づき、通達において捉えていることからも、租税法規の基本的な要請として民事法との整合性は原則的な判断であり、法において明示的な判断を行う旨の規定が存在せず、趣旨目的からもかかる点は否定されるものと考えられ、かかる点においては合理性を有するものといえよう。

保証債務の履行の範囲)

64-4 法第64条第2項に規定する保証債務の履行があった場合とは、民法第446条《保証人の責任等》に規定する保証人の債務又は第454条《連帯保証の場合の特則》に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合のほか、次に掲げる場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当するものとする。(昭56直資3-2、直所3-3、平17課資3-7、課個2-25、課審6-13改正)
  1. (1) 不可分債務の債務者の債務の履行があった場合
  2. (2) 連帯債務者の債務の履行があった場合
  3. (3) 合名会社又は合資会社の無限責任社員による会社の債務の履行があった場合
  4. (4) 身元保証人の債務の履行があった場合
  5. (5) 他人の債務を担保するため質権若しくは抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は質権若しくは抵当権を実行された場合
  6. (6) 法律の規定により連帯して損害賠償の責任がある場合において、その損害賠償金の支払があったとき。

しかしながら、上記判断の後半部分に関しては、議論の余地がある。すなわち、上記のように求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」の解釈として、保証契約の締約段階から既にその行使可能性が否定されることを知りながら保証契約を行った場合も実質的な贈与であるとして、その適用対象と捉えることを行うべきではないとの解釈を行っている。かかる判断の根拠が如何なるものであるのかという点は定かではなく、実質的な贈与に該当するものであるとの点にその根拠を求めているものと推察される。この点につき最終的な判断としては、かかる点において、確かに契約段階では赤字であり資産状況は債務超過の段階であったものの代表取締役として改善の可能性を考慮したものであり、その該当性を否定しており、実質的には本件の判断においては影響がないものと捉えられるところではある。しかしながら、実質的な譲渡として経済的な効果を持つことは否認されるものではないものの、かかるような経済的な供与は贈与税等の法文において議論されるべきものであろう。また所得の発生を否定するものとして特例として本件特例は理解されるが、あくまでも明示的に求償権の行使可能性が喪失したことを要請しているものであって、契約の段階から事後的な状況に応じて適用を判断する構成となっていることは明らかである。本件特例において保証により譲渡による所得発生の実質的な代替を回避すべきとする趣旨を含むものと解し、上記のように求償権の行使可能性によるものを契約の事前段階の状況まで含むものと解することが可能とすることも指摘としてはありえようが(軽減措置であり、厳格な解釈を要求するべき法規定であるとの認識が背景にあるものとも考えられる)、求償権と明示的に規定し、保証契約の事後的な状況をもって適用要件としている法文であり、また、上記のように資産譲渡時における状況を反映させる規定ぶりに依拠するならば、かかるように事前の実質的な贈与と認定し、適用範囲を実質的に限定するような解釈は、民事法における契約の評価はともかくも、租税法律主義を大原則とする租税法規の基本的な要請に反するものではないだろうか。以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年11月18日土曜日

判例裁決紹介(平成29年3月3日裁決、使用貸借と不動産所得)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成をしました。今回は平成2933日裁決で、不動産所得として非常に低廉な金員を受け取っていたことに対して不動産所得として該当するか否かということが争われたものです。

具体的には、不動産貸付を行う請求人が息子が経営する法人【法的な所有関係がないものであり、親族関係による一定の関係性が通常の第三者との関係とは異なる状況にあり、同族会社の行為計算否認の法理は適用できないものと想定される】、との間で隣接地の一般貸し付けとは異なる賃料で不動産を貸付ける契約を締約し、当該不動産の固定資産税相当額の2割程度の金員を受領していた事実関係において、当該金員を不動産所得であるとして確定申告を行ったことに対して当該金員は非常に低額であり、関連会社への正確には、その経営する息子に対しての経営支援の目的をもった貸付けとして使用貸借であって当該貸付けは不動産所得を生ずべき事業ではないとして更正処分を行った事例であり、申告により必要経費を計上し超過した損失を損益通算を行ったことを否定したことが中心的な争点となっているものである。より具体的には本件の事実関係における使用貸借、経営支援目的の貸付が不動産所得を生ずべき貸付けに該当するのか否かという点が課題となっており、かかる判断の前提として、所得税法26条に定める不動産所得の貸付に該当するものであるのか、如何なる意義を有するものであるのかという点が本件の起因となっているものである。

本件における貸付は特殊な関係性を前提としたものであり、試験としては租税負担の回避のような目的意識を有しているものと判断するよりも経営支援の目的に基盤がおかれるものであるとの判断が行われるようにとらえられるが、そもそも不動産所得に関してはかかるような特殊な関係性を前提とせずとも不動産所得としての該当性が事業的規模を要するものであるものとして議論される。その代表例は下記の様に事業的規模を争う事例としても代表される。そもそも私見としては、課税要件として如何なる要素をもって事業的規模を導いているのか、如何にして事業をとらえ、その判断基準を解するべきであるのかという点が課題であり、租税法規の基本的な要請たるものから考えて妥当であるのかという点が課題であると考えられる。本件も使用貸借という特殊な事実関係の認定が争われている事例ではあるが、如何なるものが不動産所得であるのかという点が租税法規の解釈上議論されるべきものであり、本件もこの類型に属するものとして有益性を有するものと考えられる。

(不動産所得)
第二十六条 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)

269 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。

1 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。

2 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

(使用貸借)
第五九三条 使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

上記のように本件の中止的な争点は、本件不動産の貸借における金銭の受領が事業としての不動産所得に該当するのか否かという点について上記民法による使用貸借に該当するのか否かという観点から議論されているものと考えられる。下記のように判断では解釈として不動産所得は事業として貸付けであることを求めており、その意義としては対価を得る、目的としているものであるとして、不動産所得としての貸付に対して使用貸借は該当しないとの判断を導いている。かかるような事業としての要件、方向性を求めるものである、対価を目的とする点は従前の判断と整合的であるように考えられる。そもそも対価とは如何なるものであるのかという点は疑問を持つところではあるが、本件は固定資産税額との対比ににおいて非常に僅少であり、実際の金額としては500万円を超過するものであるが、合理性に欠けるものであるとして特殊な関係を前提とした経営支援などを目的とする使用貸借であるとして判断していることが問題となっている。そもそも僅少ながら対価を受け取っている本件を使用貸借として判断することの是非、民事法の関係性が無償を基礎とする使用貸借として、単なる必要経費を負担しているに過ぎないとして否定的にとらえることに違和感を覚えるが、不動産所得としての貸付の意義として使用収益が含まれえないものであるという点はそもそも不動産所得が事業的、営利性、対価を求めるものであるという点を基礎とする以上、その合理性は否定しようがないものといえよう。

「所得税法第26条は、不動産所得とは、不動産等の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいうと定めている。したがって、不動産等の賃料が不動産所得の総収入金額に算入されるためには、当該賃料が不動産等の貸付けによる所得に該当することが必要である。そして、不動産等の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方に不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解されるから、不動産等の賃貸借から生ずる賃料はこれに該当するが、対価を伴わない使用貸借については、借主から貸主に対して金員の交付等があっても、それは当該不動産等の経費の一部の支払にすぎず、不動産等の貸付けによる所得には該当しないと解すべきである。」
 

しかしながら、上記判断の後半である部分に関しては議論の余地がある。金額的には僅少であるものの対価を当事者間において移転しており、通常の用法としては対価を得ているものとして捉えることは必ずしも否定できない。本件では経費の一部負担に過ぎず、使用貸借としての該当性を否認するものではないとしている。かかる点は如何なる法令上の根拠に基づくものであろうか。使用貸借という点において多少の金員の支払いに関して(通常の経費負担)までも含むものであるとの解釈が民事法において成立しているものであるとの点に基づいているのか、それとも不動産所得の解釈としてその基本的な性格から営利性等を要請するものであり、対価において通常の取引における金銭の支払いを想定しているものであるのかという点は判断が分かれよう。

上記のように対価という用語の解釈に依拠するものであるのかもしれないが、租税法規において契約上の支払いの効力を否定する以上、何らかの根拠を要請するものと解することが必要であろう。対価を目的としている不動産所得としての法令解釈としては対価以外の目的の存在を否定するものではなく、何らかの事業目的の存在を排除しているものではないものと考えられる。本件においては経営支援という一定の対応、目的を達成していくためにかかるような対価関係の契約が選定されているものであると捉えられるが、最終的な判断は請求人の主張立証がその意図について主観的であるがゆえに変化はないものともいえるが(かかる点で本件の最終的な判断の結果は変わりないものといえるが)、法人税法における役員給与の相当性を否認する規定の存在のように、如何なる基準においてその租税法規における根拠を否定する以上明示的な対応が必要であるように考えらえる。民事法において使用貸借において一定の対価関係においても成立し得ることは否定しようがないのかもしれないが、租税法規において無償であるものと異なり、一定の対価関係の支払い関係が想定される以上、使用貸借であり貸付けに該当しないといって不動産所得としての該当性を否認することは飛躍があるのではないだろうか。そもそも事業における如何なる目的を有するものであるのかという点は、たとえ低廉であっても広告効果などの一定の目的意識との対応において合理性を有するようなケースは想定されるものであり、単にたとえ、金額的なものとして無償、低廉であるからといって営利性を有していない、対価を得ていないとして判断することは妥当ではない。単に営利性を金銭的な判断のみをもって判断することは困難である。勿論客観性を重視する租税法規の基本的な要請からはかかる判断を許容することは困難であるとも指摘できる。しかしながら本件の経営支援目的の存在等の他の存在をもって営利性や対価性を否定することは困難であり、かかるような判断を行うことは租税法がその租税法規における効果否認をもって民事法における影響を及ぼし、民事上の契約にまで踏み込むことが懸念され、事業目的の実質的な審査、判断の検討を行うことになり、結果として事業主の判断や経営上の判断に介入することになるのではないだろうか。租税の基本的な原則として中立性に反するものとも考えられれる。対価を如何に考えるべきであるのかという点でもあるが、法人税法とは異なり、法文にない対価を営利性を目的としていることをもって正常な対価によるべきであると対価関係を引き直す規定であると判断することは困難でもあろう。

かかる点は不動産所得にに限らず、如何なる目的意識をもって所得を得るのかあるいは如何なる目的をもって経費支出を行うのかという点は、事業自身が多様であり多様な行為が想定される。この点につき、如何なる状況が租税法規において許容されるのかという点につき単に金銭的な状況【あるいは短期的な損益状況】が営利性の源泉であるとの判断は、一面的な検討であるようにも考えられる。客観性を如何に担保すべきであるのかという点も課題ではあろうが、そもそも租税法規一般において如何にして営利性をとらえているのかという点はより具体的に検討すべきではないだろうか。

以上です。毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年11月10日金曜日

判例裁決紹介(平成28年12月5日裁決、無申告加算税の正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年12月5日裁決であり、期限後申告に伴う無申告加算税の賦課決定処分に対して、請求人の事業や妻の介護等を理由として、当該処分に対して不服を申し立てた事例です。

具体的に本件は、請求人がなした贈与税の期限後申告につき無申告加算税が付加されたことが妥当であるのか否かが争点となったものであり、無申告加算税の賦課に対して宥恕する正当な理由が存在しているのか否か、すなわち、請求人が主張する妻の介護や持病等の事情が国税通則法に定める無申告加算税の宥恕対象となりうるものであるのか、正当性を有するものであるのか否かという点が中心的な争点となっているものである。

附帯税における主たる論点としては、特に無申告加算税においては、下記の条文にあるようにその賦課を行わない、要件としての正当な理由の有無、また、調査による予知があったか否かという点が従来議論対象となっているが、本件もその類型に属するものであり、正当な理由が如何なる意義を有し、その具体的な対象となる事情は如何なるものであるのかという点を明らかとする上で、有益な事例であるように考えられる。無申告加算税が加算される事例は、専門家が関与する事例においては、限定的であるように考えられるが、現状において未だ租税法規や租税制度、納税義務につき、その理解が必ずしも十分でない状況においては、かかる賦課及びその宥恕は重要であり、具体的な範囲を確定させる上で実務上も重要なものであろう。法令解釈としては、本件が採用してる判断は、最判や学説とも一致しており、新たな法令解釈として新規性を持つような特徴的な事例ではないものの、かかる解釈の淵源やその具体的な当てはめを検討する上では参考となるものと捉えられる。


(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。

以上のように本件の中心的な争点は無申告加算税に関する判断である。しかしながら、附帯税一般において同様の文言が採用され、正当な理由による賦課の宥恕が行われている。かかる意義の一般性が如何なるものであるのかという点は、課題ではあり、私見としては、無申告加算税と他の附帯税は、その賦課が納税者間の公平負担を基礎とするものとしていることは共通しているものの、その衡平を図る上での基礎的な要件、具体的な趣旨目的が相違する部分も存在しており、正当な理由として同様の文言を採用しているものの、必ずしも同様の意義を有し、事実関係の当てはめにおいても同一のものとして評価することは要請されていないものと考えられる。従って、本件もあくまでも無申告加算税における判断であり、より広く附帯税一般において共通するものとして捉えることは、避けるべきであろう。

本件判断では、最終的に代理人等の利用や郵送による申告が可能であること等から納税者の責任を認定し、正当な理由としての該当性を否定している。感情論として、介護等の事情は本件のような事実関係において無申告加算税を課すことは、酷であるとの点から正当な理由該当性を肯定しうるものであるとの主張もあり得ようが、下記のように無申告加算税の性格やさらに前提となっている申告納税制度を基礎として考えるならば、極めて限定的に正当な理由を解釈することが一般的となっており、本件もその判断によっている。立法論としては上記のような主張は存在しうるものであるともいえようが、まずは現行制度の法令解釈がその前提とされるべきものであり係る基準となる意義に対して事実関係が当てはまるものであるのか否かという点から判断されるべきものとであることはいうまでもなく、本件判断は従前と整合的であると評価されよう。上記のような酷であるとの主張は立法の範囲に属するものであるといえよう。その必要性があるのか否かという点は、必ずしもサポートされているものとは言えないが、政策論としては検討する価値はあるかもしれない。最終的に本件は請求人による、介護等の事実関係の主張のみが行われたものであり、如何なる理由で正当性を持つものであるのかという点について根拠を指し示すことができなかった請求人の姿勢が原因となって最終的に棄却との判断を導いているが、正当な理由としてはの該当性は、単なる事実関係の主張のみでは不充分であり、正当性を如何に有しているのかという点を明らかにする立証責任が納税者に課せられていることが理解されるべきものともいえよう。

以上のように本件の中心的な争点は請求人が主張する妻の介護や自身の持病等の事情が上記国税通則法66条の正当な理由に該当するのか否かという点である。その具体的な正当な理由としては以下のように判断している。従前の判例等と整合的である。

 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的として、適正に法定申告期限までに申告した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、納税申告書を提出しないことによる申告義務違反の発生を防止する行政上の措置であり、法定申告期限までに申告しなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があると認められる場合を除いて一律に課されるものである。
 そして、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

上記のように、その意義としては納税者の責めに帰すことができない事情及び無申告加算税の趣旨との対比という二要件をもって判断している。すなわち納税者に対する無申告への帰責性の有無と趣旨の観点から不当性を認定しうるか否かという点が判断の起点となるものであり、信義則等と同様に極めて限定的な状況を想定しているものとしている。つまり、かかる判断は行為自身への因果・責任と当該事情が適正な申告を行ったものと間での公平性を犠牲にしてもなお、賦課を行わないことに対して合理性を有するの否かという事実関係への評価によるものとしていると考えられる。
かかる限定的な判断は、租税法の基本的な要請としての租税法律主義の厳格な適用を旨とする現行法制度においては、合理的であり、その起点として納税者自身の計算による自主的な申告納税制度を採用していることに起因しているものと考えられ、私見としても限定的な解釈の合理性はゆるぎ難いものと考えられる。より一般的には憲法が定める納税義務は、国民としての義務を定めるものであり、単に納税するのみならず、適正な申告等の義務を追っているものとして理解されるべきものといえよう。

また第一に納税者への帰責性の有無に関しては、そもそもどの程度の物を指すものであるのかという点は、必ずしも定かではない。本件においては、代替手段との関係性の主張が不存在であることを問題視しており、かかる点が主張として必要とされる点は、帰責性の有無の具体的な判断においては重要となるものと考えられる。私見としてはかかるよう厳格な判断は上記信義則等と同様に租税法規に基本的な要請としての租税法律主義から容易に適用が認められるべきものとは考え難い点に依拠しており、厳格に係る要件の充足が客観的に確保されることをもって正当な理由としての該当性を認めるべきであり、事実上客観性の確保も要請されていることも加味すると(主観的な事由を該当すると認めることは結果として要件を緩和するものとなりうるところであり、かえって趣旨を埋没する可能性や裁量的な措置を伴うものとなることであろう。)正当な理由としての判断としては3要件を課しているものとも考えられる。帰責性そのものの意義としては、法的な意義での責任の有無が問題になるのかという点(無過失、重過失等の認定を伴うものであるのか)は定かとはなっていない。無申告に関しては納税義務への無知等、多様な因果関係が、法的にも事実上もありうるところであり、代替手段の可能性など納税者の怠惰等ではない、事情を示す程度で良いのかという点は立証責任が上記のように納税者にあるとされる場合においては、如何なる主張を求められるかという点を明らかにする上で、重要な検討課題となるものといえよう。そもそも過去と異なり、国税庁HPでの広報の充実や郵送手段、税理士代理、e-Taxの整備等代替手段は整備充実されてきている現状にあることは明らかであり、かかる点においては納税者の帰責性の有無を立証するハードルは上がっているものとも捉えられるが。私見としては租税法規が法的な関係として、租税法律関係の存立を前提としている以上は、原則的に法的な責任の有無が帰責性の判断を行う基礎となるものと理解されるべきものといえると考えられるが、第二要件としての趣旨との対応に関しても必ずしも明示的なものとはいえず、適正な申告を行ったものとの公平性及び申告義務の履行を促すものとして無申告加算税は存立しているが、かかる判断との対比においても広範囲においての責任を要請しているものと考えるべきであり、その根拠として申告納税制度を前提としているものと理解されるべきである。つまり、納税者自身による申告をその背景としている申告納税制度を基盤とする以上、無申告を許容することは極めて困難であり、かかる判断を覆すことは非常に厳しいと判断せざるを得ないものというべきであると考えられる。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年11月7日火曜日

判例裁決紹介(平成28年7月4日裁決、減価償却資産の取得)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年7月4日裁決で法人が減価償却資産の取得により減価償却費を計上することができるか否かという点が問題となった事例であり、資産の取得日が如何なるものであるのかという点が争われた事例です。

具体的には、本件は請求人が主張する減価償却費の計上に当たって、当該減価償却資産の計上を申告年度において計上が可能であるのかという点が問題となった事例であり、年度末までにおいて取得済みであるとして減価償却費を計上した法人税の確定申告を、当該資産の引渡しが終了していないとして更正処分を行い、2月末には設置済みであるとして不服として提起した事例である。すなわち、3月末の決算期末において2月末に設置された請負契約に基づく当該減価償却資産が、検収が終了し、取得したもとして年度末において引渡しが終了しているものであるのか否か中心的な争点となっており、これにより法人税の減価償却費の計上、中小企業者向けの特別控除、消費税における仕入税額控除の適用が行われるものであるのかという点が課題となっている。本件は当該資産の取得に関わる状況が完成品の納品を旨とする請負契約による資産の取得が課題となっており、かかる契約がそもそも年度をまたぐものであり、この取得が認められるか否かにより減価償却費の計上が左右されることとなり、わずか「取得」、「有する」という用語の解釈によってその取扱が異なるものと考えられるものである。しかるにこの文言の解釈が法人が有する、取得した段階に至ったものであるものと考えられるものであるのかという点が、すなわち、具体的な意義を有しているのか、そして、事実関係においていかにして判断されうるものであるのかという点が中心的な命題となるものである。

本件は減価償却資産の取得が如何なるタイミングであるのかという、特に請負による機械装置の設置、取得、引渡しという、ごくありふれた取引ではあるが、取得、引渡し、有するという法人税法、消費税法上の概念が如何なるものであり、所有権の保有、移転を基礎とする民事法の概念をベースとしつつ、実質的な所有関係に基づく課税関係を構築するべく、より広義の意義により取得等を理解する租税法規の基本的な考え方が現れた事例でもあり、かかる点においても実務上も資産取得のタイミングを如何に判断するのか、留意点を理解する上でも有益な事例であるものと考えられる。特に減価償却資産のタイミングの判定においては定義規定より事業のように供するタイミングを如何に捉えるべきであるのかという点が従前議論対象となっているものであるが合わせて理解すべきものであろう。

以上のように本件の基本的な争点は資産取得が如何なるタイミングをもって引渡しを完了し、取得した、あるいは有する状態になったものであるのかという点が中心的な争点となっている。多様な資産に関する制度適用が問題になったものであり、以下のような条文の適用、解釈が問題となったものであると考えられる。一定の不具合の存在は前提としつつも年度末前の段階で設置が完了し、事業のように供していたことは事実関係としては問題とされておらず、当該設置請負契約による検収(不具合の修正も含む)が年度をまたがったものであったことを根拠として当該資産の取得等は事業年度酋長の時点で完了していないとする課税庁と、実質的に稼働状況にある資産の状態を前提とし生産量の増大等の収益稼得への貢献をしているという事実関係を基礎に減価償却資産の取得が完了して計上を行うべきとする納税者の主張が対立していることが本件の起因となっているものである。



第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

第四二条の六 第四十二条の四第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するもの(以下この条において「中小企業者等」という。)が、平成十年六月一日から平成二十九年三月三十一日までの期間(次項及び第七項において「指定期間」という。)内に、次に掲げる減価償却資産(第一号又は第二号に掲げる減価償却資産にあつては、政令で定める規模のものに限る。以下この条において「特定機械装置等」という。)でその製作の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定機械装置等を製作して、これを国内にある当該中小企業者等の営む製造業、建設業その他政令で定める事業の用(第四号に規定する事業を営む法人で政令で定めるもの以外の法人の貸付けの用を除く。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。以下この条において「供用年度」という。)の当該特定機械装置等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定機械装置等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定機械装置等の取得価額(第四号に掲げる減価償却資産にあつては、当該取得価額に政令で定める割合を乗じて計算した金額。第七項において「基準取得価額」という。)の百分の三十に相当する金額をいう。)との合計額とする。

仕入れに係る消費税額の控除)
第三〇条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百八分の六.三を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日

確かに、法人税法が22条4項において公正処理基準を採用し、もって、収益との一定の因果関係を前提として、益金との関連において、損金計上のタイミングを決定するべきとしていることが法人税法の基本原則としているものと解される。かかる点において一般論としては多様な経費支出に配慮して、法人税法が具体的な状況を反映させ、収益との関連から損金としての計上を認める処理を肯定していると解されることは異存はない。しかしながら、減価償却費に関しては、その内部取引としての性格から、当該原則的な処理は法的に修正を受けている。すなわち、資産の取得、引渡しをもって、その資産の有する状況となって、もって、収益を稼得する事業の用に供していることがその前提とされていることはまずは理解されるべきであろう。従って、内部的な取引として恣意的な減価償却費の計上を排することを目的とした処置であり、かかる要請は、租税法規の基本的な要請に基づくものであると考えられる。この取得、引渡しが完了し、もって当該資産を有する状況と至った場合に於いて減価償却の要件として機能しているものであり、かかる状況の発生が重要と認識されるべきである。しかるに、かかる意義が如何なるものであるのかという点が重要な点である。

かかる点につき裁決は、以下のように解している。特段の根拠なく、法人税法、租税特別措置法及び消費税法における概念を引渡しをもって完了した資産の移転を指すものとして理解している。

法人税法第31条第1項に規定する「内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産」の「有する」という要件は、完成された物を引き渡すことを内容とする請負契約によって減価償却資産を取得する場合においては、注文者が請負人から完成した当該減価償却資産の引渡しを受けることによって満たされ、措置法第42条の6第1項に規定する「取得し」という要件についてもこれと異なるところはないと解するのが相当である

かかる判断の意義が如何なる所以に基づくものであるのか、という点は定かではないものの、契約書の文言である検収をもって引渡しを完了させている点において客観性がより事業への貢献等に比して確保されているという特徴があるものといえよう。私見としては引渡し、特に消費税法における仕入税額控除の要件と同様の解釈をもって当てている点は違和感を覚えるところであるが、、取得と引渡しは契約当事者における双方の主体からの判断であり、さらに契約等の行為に依拠する用語であると捉えられるが、対して、有するとは、所有権を基礎としていることは法的な要件としては揺るぐものではないものともいえるが、前記のように実質的な判断も租税法規においては必要となるべき判断要素であり、これらを同列な要件として整理することが妥当であるのかという点は疑問を覚えるものといえる。いずれにしても減価償却にかかる資産の計上に関しては、法人税法が一般的な原則とは対照的に修正を付与したものであり、事業の用に供するという文言の意義内容、と同様に、その解釈は、課税要件の判断としてはより明示的な基準が検討されるべきものではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2017年10月31日火曜日

判例裁決紹介(平成28年9月21日裁決、実質所得者課税の原則の適用と所有財産)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年9月21日裁決で、多様な論点を含むものですが、主として、個人所得における実質所得者課税の原則の適用及び不動産の譲渡における譲渡費用該当性が問題となったものです。

具体的には、本件は請求人の所得税(消費税も含む)の納税義務を判定するに当たって、多様な論点を含むものであるが、まず請求人の調査時における帳簿不提示に伴う、正確な所得の把握ができないことに対することが発端となっているものである。しかるに基本的には所得を如何に認定するべきであるのかという点が中心的な争点であり、各種の具体的な争点は、当該算定に関わるものであって、一義的には事実関係の認定当てはめが課題となっているものであると捉えられる。争点としては帳簿不提示に伴う青色申告の取消、農業所得の帰属、裁判上の違約金の譲渡費用該当性などが問題として扱われている。中心的な争点である譲渡費用及び所得の帰属に関しては、基本的な通達の解釈に従っているが(裁決である以上当然ともいえようが)、本件の意義としては、かかる通達の示している条件、基準に対して、具体的な事実関係を如何に当てはめるべきであるのかという点が問題となっているものであり、かかる点において実務上も(おそらくこのような納税者は歓迎すべき対象ではないであろうが・・・)参考となるものと考えられる。

まず、本件における主たる争点である農業所得の帰属に関しては、本件においては他所得との損益通算を考慮して、当該農業所得を発生させている農地の所有者である請求人自身が当該所得の帰属を主張し自らの所得であるとして申告しているのに対して、処分行政庁は、実質所得者課税(所得税法12条)を適用して請求人に当該所得は帰属せず息子に帰属するものであると判断している。実質所得者課税の原則の適用に関しては、下記のように当該条文規定の適用要件の解釈を巡って、従来、特に実質的な所得の享受をなすものが如何なる者であるのか、それを如何なる基準に基づき認定すべきであるのかという点につき、議論対象となっている。本件もその類型に属するものであり、具体的な適用範囲を検討する上で参考となるべき事例であるといえよう。特に通常とは異な理自らの所得であるとして申告したものが否定されることに対して通常訴訟等では帰属を自身において否定する架空名義の対象者を問題の俎上に上げることが多いのに対して本件は、自身ではなく、親族との間での所得の帰属関係を問題視しているものであり、かかる点においては特徴的な事案であるといえよう。

本件では、各種所得のうち農業所得、特に土地の活用による所得類型である農業所得を対象としたものであり、実際の農業の収益に関する享受を行っている者が如何なる者であるのかという点が中心的な課題であり、農地の非保有者である課税庁が認定した親族と農地を保有する請求人との間で所得の帰属関係を巡って闘いとなっているものである。最終的には農業協同組合等の外部団体との取引の状況を主たる要因として当該行為の名義をになっている、親族をもって所得の帰属者であると判断し、事実認定に基づいて、農業所得の帰属者を農地を保有している請求人であるとした主張を退けている。しかしながら、収益を稼得する上で不可欠である農地の所有関係を、保有関係を考慮せず実際の収益の帰属者であると判断していない点は興味深いと考えられる。

第一二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

親子間における農業の事業主の判定)
12-4 生計を一にしている親子間における農業の事業主がだれであるかの判定をする場合には、両者の年齢、農耕能力、耕地の所有権の所在等を総合勘案して、その農業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が当該農業の事業主に該当するものと推定する。この場合において、当該支配的影響力を有すると認められる者がだれであるかが明らかでないときには、次に掲げる場合に該当する場合はそれぞれ次に掲げる者が事業主に該当するものと推定し、その他の場合は生計を主宰している者が事業主に該当するものと推定する。
(1) 親と子が共に農耕に従事している場合  当該従事している農業の事業主は、親。ただし、子が相当の年齢に達し、生計を主宰するに至ったと認められるときは、子
(2) 生計を主宰している親が会社、官公庁等に勤務するなど他に主たる職業を有し、子が主として農耕に従事している場合  当該従事している農業の事業主は、子。ただし、子が若年であるとき、又は親が本務の傍ら農耕に従事しているなど親を事業主とみることを相当とする事情があると認められるときは、親
(3) 生計を主宰している子が会社、官公庁等に勤務するなど他に主たる職業を有し、親が主として農耕に従事している場合  当該従事している農業の事業主は、12-3のただし書に準じて判定した者

通達においては実質所得者課税の原則の歴史的な経緯から、農業所得の判定においては当該事業主を判定する基準として、親子間や親族間においていかなる場合を有しているかによって当該所得者としての推定を行う解釈を示している。本件においては上記の通達の基準は特に用いられておらず、かかる点ではいかなる理由に基づくものであるのかという点は定かではない。主として経営をになっていることを事業者として収益を帰属している者であるとの一般的な判断基準を適用して判断をしているように捉えられる。最終的な判断において結論が変わるものではないともいえるが(特に本件の事実関係においては)、通達が実際の農業への従事状況において判断を行い、農業の経営方針への支配的影響力の有無を問題として捉えていることと実質的な経営の状況を第三者における取引状況から判断している点は相違しているとも評価しうるものである。しかしながら、上記の解釈においては生計の主宰や支配的影響力の存在を基礎として判断を行うこととしているが、当該生計の主宰や支配的な影響力とはそもそも明示的な概念は評価しうるものではなく、本件の用に対外的な第三者との取引において、如何なる状況をもって収益を帰属しているものと判断される状況にあるのかという視点から判断していることは、客観的な判断を導くものであり、上記概念における恣意の介在を廃するものであり、租税法規の基本的な要請に合致するものと評価されるものではないだろうか。

しかしながら収益の享受関係を認定するにあたっては、本件のように不動産の所有関係も判断要素として機能しうるのではないかと考えられる。本件では不可欠な資産である農地の保有関係は必ずしもカウントされていない。上記のように、経営を収益帰属の判断要素としている点が観察されるものであるが、第三者との取引状況において客観性を担保したとしても経営とはそもそも幅の存在している概念であり、当該意義は必ずしも明示的なものであるとは評価し難い。かかるような状況においては、恣意の介在や法的な安定性の確保においてリスクを抱えたものであると考えられるのではないだろうか。本件の認定にとどまらず経営という状況を如何に捉え、租税法規において反映させるべきであるのかという点は役員給与等幅広い点において、租税法として課題となるべきものというべきであるが、所得を稼得するに当たって不可欠な資産(技術等も含む)がいかなる者に帰属し、管理運営されているのかというような状況も加味した総合的な判断がより合理的な所得の帰属、実際の享受関係を示すものであるようにも考えられよう。



以上です。
毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年10月21日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年1月12日、職務分掌の変更と役員退職金)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は東京地判平成29年1月12日で、職務分掌による役員退職金の支給が、法人税法に規定する退職給与に該当するのか否かという点が問題となったものです。

具体的には、本件は原告法人が前代表取締役に対して支給した金員が法人税法34条1項に定める退職給与に該当し、原則的な役員給与の損金算入規制の対象となるのか否かという点が問題となったものである。中心的な争点としては、当該支給対象者である前代取が相談役に就任したことが、本件の事実関係において退職に該当するような状況にあるのか否かという点が事実関係として問題となっているものと捉えられる。そもそも法人税法が如何なるものを退職であるとして捉えているのかという点は、必ずしも定かとは評価し得ないが、かかる点がまずもって問題の起点にあるものともいえよう。近年は、役員の大量退職期を迎えつつあり、また、退職給与がその受領する個人においても1/2課税や特別控除が存在することからも通常の給与として支給するよりも有因が高いこともあり、いわゆる利益調整の対象として使用されていた状況があるものであり(現状においても利用されているのかどうかという点は、実務家に聞いて見たいところではあるが)、法人税法においてこのような退職給与を如何に捉えているのか、特に本件で問題となった職務分掌の変更による実質的な退職と同視される状況を如何に認定していくことになるのかという点は今後の実務上においても参考になるものといえよう。かかる点で本件は職務分掌変更による退職給与の支給を否定した事案であるが、その事実関係を詳細に、特に職務内容を判断した上で、支給対象とはならないものと判断を下しており、従来の職務分掌による退職給与支給の事例における判断枠組みと基本的に同一視されるべきもの、同一類型に属するものであるが、中小企業での事例でもあり、実務的にも参考となるものと考えられる。後述するように、本件で問題となった職務分掌による退職給与の支給はあくまでも通達によるものであり、実務上は、下記の通達例示が事実上の基準となっているものであろう。本件はその部分をより深化させて研究する上で、有益な事例であるものともいえよう。

役員給与の損金不算入)
第三四条 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与及び第五十四第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する新株予約権によるもの並びにこれら以外のもので使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの並びに第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。


まずはそもそも退職給与課税自体が上記における問題の誘引となっている点が課題となるだろう。直接的には所得税の問題であり、本件とは関わるものではないが、かつての状況とは異なり現状の社会情勢において退職給与を得ることができる存在は、限定的であり、このような誘引となるような租税制度、退職給与課税制度そのものが妥当であるのかという点は個人的には疑問を覚えるものである。この点は、退職金を特別な扱いを行うべき理由付けが必ずしも定かではないとも考えられるところであり、肯定すべき理由付けが如何なるものであるのかという点は歴史的な背景を研究する必要があるだろう。

また、上記のように本件の中心的な争点は支給者である原告がいかなる状況にあり、特に支給対象者である元代取が如何なる職務を担っていたという点を基礎として、法人税法が想定する退職の状況に合致するのか否かという事実関係を如何に認定し判断していくのかという点である。より具体的には、代表取締役から相談役に肩書が変更となったものであり、職務分掌の変更があったとして実質的な退職したと同様の状況にあるか否かという点が課題となっているものである。そもそも法人税法が如何なる趣旨をもって、役員給与の例外的な措置としているのかという点が背景となるものであるが、この点について、判示は以下のように、基本的な趣旨を解している。

法人税法34条1項括弧書きは、損金の額に算入しないこととする役員給与の対象から、役員に対する退職給与を除外しており、この退職給与は、法人の所得の計算上、損金の額に算入することができるものとされている。これは、役員の退職給与は、役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部であって、報酬の後払いとしての性格を有することから、役員の退職給与が適正な額の範囲で支払われるものである限り(同条2項参照)、定期的に支払われる給与等(同条1項各号参照)と同様の経費として、法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入すべきものとする趣旨に出たものと解される。

私見としては所得税法において、退職給与が上記のように優遇的に取り扱われていることも、退職給与に関しては、一定の制限を課せられてきた背景があるものと考えられる。かかる点を踏まえて、本件の中心的な争点である職務分掌の変更による通達が存在している。通達は、下記のように、分掌変更等の事実関係において実質的に退職したと同様の事情にあると認められることが必要と解され、例示として、役職の変動、給与の激減が示されている。本件の最終的な主張の対立は、この部分に存在し、原告はその主張の依拠すべき点としてこの給与金額の減額を基礎としている。単なる通達の例示が実質的な基準と考えられていることの証左でもあり、単なる例示であることの理解や如何なるものを対象としているのか、如何なるものを重要な判断要素としているのかという点を理解することの重要性を示唆するものとも考えられる。特に認められるとしていることからも、単に主観的な要因による主張は決して採用されるべき対象ではなく、客観的に保証されることによって初めて実質的な退職としての意義を有することになるものと理解されるべきである。

給与の対象から役員の退職給与を除外している上記の趣旨に鑑みれば、同項括弧書きにいう退職給与とは、役員が会社その他の法人を退職したことによって支給され、かつ、役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有する給与であると解すべきであり、役員が実際に退職した場合でなくても、役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合において、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的には退職したと同様の事情にあると認められるときは、その分掌変更等の時に退職給与として支給される金員も、従前の役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有する限りにおいて、同項括弧書きにいう退職給与に該当するものと解するのが相当である。

役員の分掌変更等の場合の退職給与)

9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

このように考えると通達の処理は、退職の意義を、実質的な退職という方向も含むものと解しており、文言の意義からは、拡張的に解するものであり、その処置の合理性は判示でも上記のように肯定している。しかしながら退職規定が上記のような趣旨を持つことから、文言である退職の意義に限定的に捉える必要性は必ずしもない。通達の処理もこの延長に属するものであり、一定の制限を設けており、野放図に拡張的な解釈を行うものではなく、基本的には判示と同様に肯定されるべきものであると評価される。しかしながら、上記通達の例示は、例えば50%減額などはこれが本来の原則となる法人税法の退職の意義に関連して、如何に関連しているのかという点は明らかではなく、実質的な退職として肯定される状況が如何なるものであるのかという点は法人税法の基本的な退職が如何なる意義を有しており、かかる点との関連性からより明示的に検討されるべきものであるだろう。

本件の最終的な判断においても職務内容が中心的な争点となっており、かかる点が最終的に司法の判断を仰いでいる。そもそも使用人、一般従業員とは異なり経営の業務を担う役員は、その業務内容は多岐にわたるものである(正確には、職務上多岐にわたる業務が想定されるが、如何なる業務を担うことが経営の主たる地位にあるものと捉えられるのかという点が定かとはいえない)。従って、役員の職務と報酬の因果関係が明確ではなく、かかるような報酬の増減に基づく、退職給与の支給の判断は、リスクが大きいものと考えるべきである。退職を契機とした報酬の後払いであることが退職給与の基本的な要因であることからも職務分掌の変更による給与報酬額の激変は、間接事実に留まるものであり、直接的に退職を支えるものとは判断し得ないと捉えるべきである。このように考えると繰り返しとなるが、本件の中心的な争点である事実関係、特に職務内容が問題となっていることは実務上も有益なものであろう。しかしながら職務内容による判断は、恣意の介在する要因が高く、職務内容が多岐にわたることが想定される役員の経営業務においては、かかる判断に依拠することはかえって予測可能性を損なう可能性も指摘できる。そこで私見としては、中小企業等においては、株式の保有状況など法的な意思決定を支える、担保する権限がいかなる状況にあるのかというような一定の客観性を担保可能な基準による判断を行うことが重要なのではないか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年10月14日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成28年7月15日、路線価評価の合理性、特別な事情の有無)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成28年7月15日で、相続税における財産評価として、広面積の土地に対する財産評価に対して、路線価評価による評価を否定し、不動産鑑定評価における評価適用を争った事例です。

具体的には本件は原告がなした相続税申告につき、300平方メートル超の土地に対して適用した路線価評価に対して、当該価格を下回る評価となった不動産鑑定評価を用いるべきであるとして争った事例である。財産評価においては、一般的な路線価評価と不動産鑑定評価における差異を理由として相続税における財産評価が争われたものであるといえよう。中心的な争点としては路線価評価が相続税における財産評価方式として一般的な合理性を有しているのか否か、そしてその合理性を背景にした上で、本件における鑑定評価が財産評価上、例外として特別な事情を有しているのか否かという点で判断が行われているものである。

法令解釈としては、路線価評価における合理性に関しては、下記のように最判を引用して、判断基準としての基礎となる相続税法が採用している22条に定める時価を基礎に判断している。その解釈等に関しては従前と最判を引用していることもあり、法令解釈としては特徴的なものではないと考えられる。本件も最判の枠組みを用いて、その延長にあるものであり、本件の意義としては、例外的な評価を許容する(財産評価基本通達による評価から離れる)理由付けとしては、如何なるものであるのかという点を明らかにする上(本件では最終的に採用し他不動産鑑定評価の合理性そのものが否定されているが)で、その具体的な範囲を検討する上で、参考となるべきものと考えられよう。


「 相続税法22条は、特別の定めのあるものを除き、相続により取得した財産の価額は、相続の時における時価による旨を規定している。同条に規定されている「時価」とは、当該財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。ところで、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価すると、その評価方法及び基礎資料の選択の仕方等によっては異なる評価額が生じることが避け難いし、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがある。そこで、課税実務上は、法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価を行うこととされている。このような扱いは、税負担の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減といった観点からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、通常、税負担の実質的な公平を実現し、租税平等主義にかなうものである。そして、評価通達の内容自体が財産の「時価」を算定する上での一般的な合理性を有していると認められる限りは、評価通達の定める評価方法に従って算定された財産の評価額をもって、相続税法上の「時価」であると事実上推認することができるものと解される。 もっとも、評価通達の上記のような趣旨からすれば、評価通達に定める評価方法を画一的に適用することによって、当該財産の「時価」を超える評価額となり、適正な時価を求めることができない結果となるなど、評価通達に定める評価方法によっては財産の時価を適切に評価することのできない特別の事情がある場合には、不動産鑑定士による不動産鑑定評価によるなどの他の合理的な評価方法により「時価」を評価するのを相当とする場合があると解されるものであり、このことは、評価通達6が、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定め、評価通達自らが例外的に評価通達に定める評価方法以外の方法をとり得るものとしていることからも明らかである。以上によれば、評価通達に定める方法によっては財産の時価を適切に評価することのできない特別の事情のない限り、評価通達に定める方法によって相続財産を評価することには合理性があるというべきである〔最高裁平成20年(行ヒ)第241号同22年7月16日第二小法廷判決・集民234号263頁参照〕



上記のように判示における路線価評価の合理性を支える相続税法の価額としての時価としては、客観的な交換価値を指すものと考えられ、財産評価基本通達による、あるいは路線価による基本的な、原則的、画一的な評価の合理性は、一般的に単なる交換価値を指すものではなく、客観性を求め、二重の意味における担保が図られていることから、その合理性が評価されている。かかる点は一般的な承認を得ているものと考えられよう。この合理性を覆し、評価方法を変更することは単に評価方法や当該評価における評価額の合理性を主張するのみではかかる時価との整合性を覆すことは困難であると捉えられる。しかしながらその具体的な判断を行うにおいてかかる基準に合致していることが示されるべきであるとの判断の枠組みは留意されるべきものといえる。特に本件の中心的な争点である土地の評価は、広面積(そもそもこれが如何なるものであるのかという問題は残るものではあるが)の土地における価額の低下を考慮されるべきであるのかという点が背景にあるものであり、近年の不動産の状況を反映は立法論、あるいは評価通達の見直しという点で課題であるともいえよう。たしかに本年の改正において広大地評価に関する方法論が見直されたことは重要であり、一定の評価の見直しは常に議論されるべきものであるといえる。かかる点において、その具体的な妥当性を評価する上で基準となる相続税法が求める時価の要因を把握することは重要な点であると評価される。

路線価評価の合理性に関しては、当該価格が当該財産の時価を超えているのか否かという点をまずは明らかにすることが求められており、事実上その合理性に関しては80%評価をめどとしていることもその理由付けとなっているものともいえる。本件はあくまでも鑑定評価が路線価評価よりも下位であることを起点としているものであるが、より具体的に考えるならば、当該評価における主要な要因が如何なるものであるのか、あるいは広面積であることそのものが、評価額を相続税法上も引き下げることを許容する価値の減少であると評価しうるのかどうかという点が検討されるべきものである。すなわち路線価評価に於いて考慮されていない、要因が時価としての妥当性を有していたとしても、客観的な交換価値としての妥当性を有するものであるのかという点がまずは問題となるだろう。そもそも時価という概念が多義的であり、幅を有する概念である。かかる点が評価における問題を発生させており、私見としても時間構成要素として一定の合理性を有しているとしても客観的な交換価値を支えるものとしての合理性を、路線価のような画一的な評価との対比において劣位であると評価せざるを得ない。旧広大地評価があくまでもその評価において減額を認めたのは、法令の要請に基づく、潰れ地の存在を前提としたものであり、一定の客観性は担保されているものであるが、広面積であるがゆえの評価額の低下をいかにして反映させることが可能であるのかという点が興味深いものである。

私見としても上記のように路線価評価はその合理性として、一般的に許容されるべきものであると解される。また本件では直接的な問題となっていないが財産評価における通達の位置付けが問題となるものと考えられる。固定資産評価基準は地方税法における要請の結果であり、単なる通達とは異なるものではあるが、実務上は両者は同一の位置付け、事実上の基準として機能している。確かに固定資産税ト相続税は財産を課税対象としており、その資産価格を評価することを求めていることは、共通しているものである。法的な客体が全くの同一というわけではなく、また、申告納税制度と賦課課税方式、実際の評価者が多様である、地方自治体に委ねられている固定資産税においては、評価統一の益は高いことは明らかであるが、単に評価方式の利益が同一の位置付けにあると捉えることは飛躍があろう。かかる点を考慮するならば、客観性の確保においても相違、求められるレベルが異なることも一定の妥当性があると考えられる。かかる点は評価が多様化し、結果として評価における画一的な評価の益に於いても問題をうむ可能性もある。このような点は検討が行われてはいないが、私見としてはかかる点からは財産評価の通達によるものではなく、一定の法令の根拠、要請に基づく基準として作成されるべきことが望ましいと考えられる。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成は低いですが参考までに。


2017年10月7日土曜日

判例裁決紹介(千葉地判平成28年4月19日、信義則の適用要件)

さてまた興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判平成28年4月19日で、原告がなした確定申告における医療費控除の適用を巡って信義則の適用があるのか否かという点が争われたものです。

具体的には、原告がその確定申告において、母親の介護事業者への支払を医療費控除の対象であるとして、複数年度に渡り申告していたところ、これは対象外であるとして更正処分を受けたため、過年度の申告において医療費控除対象として取り扱われていたところ、申告年度においてその取扱を変更することは、信義則に反するとして提訴したのが本件である。すなわち、過年度の申告についての取扱が適用変化に対する歯止め、抑制として働きうるものであるのか、信義則の適用の要件に該当するのかという点が中心的な争点となっているものである。従って本件は事実関係と租税法規における信義則の適用要件が如何なるものであるのかという点が争われたものであり、当該要件の具体化を図る上で参考となると捉えられる事例である。基本的に(司法制度上当たり前であるが)、租税法規における信義則の適用に関しては最判が示した下記のような要件が用いられており、本件においてもその解釈に変更はない。本件における事実関係において、その解釈に対する当てはめが問題となるものであり、最判の要件をより具体化するものといえる。本件の事実関係においては、納税者の信頼を保護すべき状況にないとの判断であり、原告納税者自らも過年度の申告において、課税庁の指摘をうけ、本件申告前に修正申告を行っており、当該申告においては既に医療費控除の対象とならないという点は認識していたとの認定を行っており、原告の帰責性を疑う余地はないものと考えられる。この点は、特に異論がないところであり、かかる点から考えれば、本件は単なる納税者のミス等に基づくものが訴訟となったものであるともいえるかもしれない。


租税法律関係において信義則が適用されるためには①租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②公的見解の表示への信頼に基づき行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく、納税者の信頼が保護に値すること、③納税者が公的見解の表示を信頼し、その信頼に基づく行為をしたことという要件が必要である。

本件においても、上記のように最判の示した条件をもって判断を行っている。最終的には当該申告に先立ち指摘を受け、過年度の医療費控除につき修正申告を行っており、かかる点において納税者が公的見解を信じ行動を行ったかという点において信頼を保護すべきものとしては妥当ではないという判断を行っている。かかる事実関係の処理は常識的な判断であろうが、ここで一般的に疑問となるのは、このように、過年度の申告等があるいはその是認が公の見解に該当するものであるのかという点が疑問となる。確かに積極的な課税庁からの情報提供とは異なるものの租税の専門技術性を鑑みるに、複数年度に渡って申告を是認、申告を容認されていた状況は納税者の保護されるべき信頼を形成するものではないのかという点が疑問を覚えるところである。

この公的な見解の性格に関しては、特に信義則の適用要件として、さらにこの租税法規における信義則の適用に関しては旧来より議論があるところであるが、最判が示すように、民事法とは異なり、その適用は租税法律関係においては、他の納税者との公平負担の要請を鑑み、限定的に捉えられ、条件が付与されているものと解される。私見としては、そもそも信義則の保護対象となる納税者の信頼とは内心に属するものであり、かかる点を立証し保護に値するか否か比較衡量を行うことは非常に困難であり、かかる適用を認めることは納税者・課税庁双方において恣意を介在させる結果となる可能性もあり、極めて限定的に捉えられるべきであり、公の見解のように客観的な資料等に基づく行為であることの立証が必要であると考えられる。またそもそも租税法の基本的な要請である公平負担の原則を犠牲にしてもなお、保護すべき対象となるべき信頼とは如何なるものであるのかという点は明らかとは言えない。本来ならばかかる点から具体的な要件が導かれるべきであるが、しかるに、公的見解を適用の条件としている以上、その具体的な内容が如何なるものであるのかという点がより詳細に検討されるべきであり、かかる点は信義則が保護すべき納税者の信頼を確定することにもつながるものであろう。

より具体的には本件のおいて示唆されるように、過年度の申告の是認、複数年度に渡る申告状況が公の見解に該当するのか否かという点を検討するに、あくまでも黙字の見解にとどまるものであり、課税庁からの積極的な情報提供、見解の表示には該当していない。たとえ租税の専門技術的な性格を考慮したとしても、納税者自らの自身の租税負担を最も把握しており、自主的に申告することで、適正な納税負担を図ることをその前提としている申告納税制度の下においては、調査権限を課税庁が有しているといえど、納税者の申告等の行為を左右するものとして積極的な示唆を与えるものではなく、他の納税者との公平性との比較衡量において保護すべき納税者の信頼を形成するものと評価することは困難であろう。あくまでも公的見解としては権限のある課税庁による積極的な見解の表示に限定的に捉えるべきであろう。しかるに信義則適用の公の見解が単なる納税者への便宜提供のような場合にまで拡張的に解されるべきであるのかという点は消極的に解されるべきであると捉えられる。確かに租税は非常に専門的な分野であり、課税庁の意見表明は信頼されるものと捉える人もも多いだろう差異を設けるものではなくという見解も成り立つ。しかしながら、税理士の関与など納税者の状況は様々であり納税者の状況も多様であることから申告納税制度が形成されているものであり、単なる一般的な説明にとどまるものまで対象となると考えることは租税法律主義に反する状況を生み出すことになりかねず、不当利得等にて救済されるべきものといえる。もちろん、賦課課税方式においては異なる状況も考えられようが、あくまでも公的見解としては黙字のレベルは包含されず、勧奨など行為を促すような状況において発生した見解にとどまると解すべきである。


以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年10月3日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判平成28年10月26日。大阪高判平成29年5月11日、貸家建付地の評価、空き室の評価反映)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成281026日、大阪高判平成29511日で、相続財産の評価における貸家、貸付用途で使用している、すなわち貸家の敷地としている宅地(貸家建付地)の評価が問題となった事例です。

比較的最近の事例であるが、地判高判ともに、判断は同一であり請求を棄却している。具体的には、被相続人より土地及び建物を相続した原告(相続人)が、なした相続税確定申告において、当該財産の貸家及び貸家建付地の評価に関して、空き室となっている部分の評価【短いもののでも5カ月、相続時点では空室】によって減額評価とすべきであるとした更正の請求をなしたところ、当該更正すべき理由はない旨の通知処分を行ったことからその取消を求めた訴訟である。
しかるに本件は原告が相続した財産の評価額を巡る訴訟であり、典型的な相続税に関する訴訟である。本件における特徴としては、通常は価値の下落を巡って財産評価基本通達における評価の適用が行われるべきではないとする事案が多い中(言い換えれば財産評価基本通達の性格や位置付けが問題となることが多い)、少々趣を異とし、財産評価基本通達の適用の具体的な判断基準が争点となっている点で興味深いものである。すなわち財産評価基本通達による評価の一定の合理性は所与の前提とした上で、その適用の方法を巡って争っているものである。


第二十二条  この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によ、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

より具体的に、上記のように法令としては、相続税法は、22条において、相続財産の価額として取得の特における時価によるべきであるとしてしているが、この評価の基礎となる財産評価基本通達においてその適用に際する空室の存在に対して評価減措置の宥恕として導入した点の評価が中心的な争点となっているものと捉えられる。特に敷地としている貸家建付地の評価が問題となっており、基本的には財産評価基本通達の合理性を許容しつつ、
その適用の是非が争点とされている。いうまでもなく財産評価基本通達であっても通達としての位置付けであり法令ではないことは明らかではあるが、本件は財産評価基本通達の内容をより詳細に検討する事案であり、法令解釈としては特徴的な案件ではないが、実務における財産評価基本通達の位置付けを考慮するならば参考となる有益な事例であるだろう。またこの評価の妥当性や評価基準の適合性の判断に関しては、相続税法が如何なるものを課税対象としているのか、如何なる評価額をもって課税を行うべきであるのかという基本的な視点、法令の趣旨目的に関連するものであり、かかる点において相続税法の解釈等を通じて相続税法における対象資産の意義や価額の理解検討を行う上では有益な事例であるものと考えられる。特に時価を如何に捉えているのかという点が特徴的な点であろう。

また本件の中止的な争点である空室に関しては、近年は社会問題となってきている空き家問題も考慮せざるを得ない。空き家問題では老朽化した家屋等の存在がクローズアップされるが、アパートローンの関連もふくめ、賃貸用動産の空き家も同時に問題となっており近年は増加傾向にある。かかるような社会情勢も考慮するならば、相続税の課税時期としての相続時の現況を如何に相続税評価に反映させるのか、空き家となっているような賃貸用不動産の状況を評価額に反映させるべきであるのか否かという点は課題となるものと考えられる。

さらに、貸家建付地の評価方法は財産評価基本通達において以下のように取り扱われている。本件では財産評価基本通達上如何に空き室を考慮し得るのかという点に争点が絞り込まれているが、この問題の本質は、空室の発生によって収益性が低下している家屋の評価方法において、現行の貸家建付地の評価方法では反映されていない状況にある事が背景にあるものと考えられる。具体的には下記の様に当該貸家建付地の評価においては、借地権割合や賃貸割合を反映させることで、その評価額を減額している。従って、貸付用途の貸家において空き家が発しした場合においては賃借割合が低下し、もって減額金額を減少させることとなる。すなわち空室の発生は収益資産としての価値を低下させているにも関わらず、借地権の割合が低下しているとして、価値の減額部分が縮小する結果となる。確かに貸し付けに伴う、自用地に対する借地権の割合は低下するものの、収益物品としてはその収入を減額している、収益が低下していることになり、予想収益、PVは減少しているものと考えられ価値の低下が懸念されるものの、相続税法上、当該収益性の評価は反映されえないこととなる。このように収益性の低下に伴う価値の下落を本件の主たる争点とは異なっているものの、財産を相続することによる財産価値の取得を課税対象とする相続税法においてはんえいさせていないことの納税者の不満が背景にあるものとも考えられ、このような相続税法の財産評価上の矛盾が表面化しているような状況が本件のような空室の発生している貸家建付地の評価ではないだろうか。確かに価値の下落としては同様であり、この点において相続税の財産評価において不合理であると捉えることも考えられる。

しかしながら、このような評価方法の差異、評価額への反映が異なる状況が表出することが如何なる理由によるものであろうか。そもそも単なる価値の下落として同一に取り扱うことが妥当なのであろうか。すなわち単なる価値の下落と一律に考えるのではなく、その発生原因によって、収益見込み額の減少と借地権による制限部分において差異があるものと考えられているものと言えよう。これは相続税法がその課税対象として財産価値に着目し、その時価を課税対象としつつもの、当該時価の解釈として市場性のある部分での客観的な交換価値をもってその時価の意義として解釈していることに起因するものである。つまり、単なる時価として交換取引等での市場価値、交換価値を時価としているものではなく、客観性を有した時価である事が求められており、かかる点において本件の差異が発生しているものと考えられる。租税負担の公平性等の租税法規の基本的な要請として客観性を有した時価の存在は文理にかなうものであり、時価という主観的な要因や変動幅が存在しているような概念に依拠した課税を行うにあたって客観性の確保は重要な概念であろう。このように時価を鑑みるに、評価額の算定においても単なる価値の下落は必ずしも反映されるべきものではなく、当該下落の原因要因に則り、当該下落や評価額の変動が客観性を帯びているものであるのか否かという点が考慮されるべきものとなる。かかる点から上記の二つの下落要因は法的な要因【本件においては借地権という所有権財産権を侵害、制約する、借り手の権利保護や、立退料の発生など】によるものと将来収益の低下の可能性という点で異なるものであり、かかる点において一見すると矛盾するような状況であっても如何なるゆえんももって導かれているのかという点は、相続税法が評価減を認めるべきであると考えているものであるのかという点が重要な要因となっているものと捉えるべきである。ここに本件における評価額の反映が異なるものと捉えられる要因があり、かかる処理は相続税法の解釈、時価の意義という観点から合理的なものであるというべきであろう。、少なくとも単なる価値の低下が反映されるべきものではなく、当該下落や価格への反映の原因によって相違するものと認識されるべきである。

(貸家建付地の評価)

26 貸家(94≪借家権の評価≫に定める借家権の目的となっている家屋をいう。以下同じ。)の敷地の用に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価する。(平3課評2-4外・平11課評2-12外改正)
貸家建付地の価格の算式
 この算式における「借地権割合」及び「賃貸割合」 は、それぞれ次による。
(1) 「借地権割合」は、27≪借地権の評価≫の定めによるその宅地に係る借地権割合(同項のただし書に定める地域にある宅地については100分の20とする。次項において同じ。)による。
(2) 「賃貸割合」は、その貸家に係る各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分をいう。以下同じ。)がある場合に、その各独立部分の賃貸の状況に基づいて、次の算式により計算した割合による
賃貸割合の算式
(注)
1 上記算式の「各独立部分」とは、建物の構成部分である隔壁、扉、階層(天井及び床)等によって他の部分と完全に遮断されている部分で、独立した出入口を有するなど独立して賃貸その他の用に供することができるものをいう。したがって、例えば、ふすま、障子又はベニヤ板等の堅固でないものによって仕切られている部分及び階層で区分されていても、独立した出入口を有しない部分は「各独立部分」には該当しない
 なお、外部に接する出入口を有しない部分であっても、共同で使用すべき廊下、階段、エレベーター等の共用部分のみを通って外部と出入りすることができる構造となっているものは、上記の「独立した出入口を有するもの」に該当する。
2 上記算式の「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない
本件の中心的な争点となる空室の評価上の考慮に関しては上記の通達内容にあるように、財産評価通達において反映されている。本件の中心的な争点は貸付用地としての評価及び貸付用建物との評価が争点となっている。その中でも貸付用途である建物の敷地である貸家建付地の評価が中心的な課題として主張が行われている。私見としてはそもそも、貸家及び貸家建付地の評価の双方において同様に、一律に時価の算定において空室の状況を反映させる処理を行うこと自体が、建物と土地の評価において共通すべきものであるのかという点は疑問を覚えるところはあるが【特に建物においては、減価償却や、建造物の状況などが加味されるべきであろう】、本件の中心的な課題はより具体的には、上記のように貸家建付地において、空室を考慮した賃貸割合を認めるべきであるのか否かという点である。空室を認めるか否かによって如何なる評価上の相違が発生するものであるのかという点は上記の通りであるが、この評価において如何なる空室が賃借割合に反映され、もって評価減に取り込まれるべきであるのかという点が本件の課題となっている。特に財産評価基本通達の但し書きにおいて、一時的な空室は空室として実質的に取り扱う必要はないものとした宥恕的な取り扱いの適用対象が如何なるものとして判断されるべきであるのかという点が問題の中心となる。原告及び被告の主張の中心はこの一時的な空室とは如何なるものであり如何にして判断すべきであるのかという点が争っている状況にある。すなわち現況、相続時点において如何なる期間空室であるのかという点を重視するのか、独立した賃貸用の建物としての居住部分として成立している資産状況を重視するのかという点で主張の相違がみられる。地判、高判ともに、特に高判においてはこの期間的な判断基準が不合理であるとの主張が判断され、最終的には、いずれにおいても退けられている。上記のように近年は空室の発生は、まれなものではなく、ごく一般的に起こりうる問題であり、相続対象となるような一定の経年を経ているような家屋等においては空室の発生は当然に見込まれるものであり、この一時期的なという点を如何に把握すべきであるのかという点は、今後も重要な点となるものと言えよう。

係る判断において地判は以下のように、
「評価通達93及び26本文が貸家及び貸家建付地について、所要の減額を認めた趣旨は、借家権の目的となっている建物の借家人は当該建物に対する権利を有するとともにその敷地についても借家権に基づいて建物の利用の範囲内である程度の支配権を有しているところ、賃貸人は、自己使用の必要性等の正当の事由がある場合を除き、賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約の申入れをしたりすることができない(借地借家法28条)から、借家権を消滅させるためには立退料の支払を要することになること、借家人は、建物の引渡しを受けたときは、その後その建物について物権を取得した者に対し借家権の効力を対抗することができる(同法31条1項)から、建物に借家権を付着させたままで建物及びその敷地を譲渡する場合には、その譲受人は、建物及びその敷地の利用について制約を受けること等から、上記の建物及びその敷地の経済的価値が、借家権の目的となっていない建物やその敷地に比べて低くなることを考慮したことにあると解される。」
として、評価減の対象を法的な借家権の存在に求めており、本評価通達における評価減の要因として借家権に求めている。私見としては近年の空き家問題の発生等の社会状況からは、従前と同様に、借家権を制約要因・減額要因として捉えることは妥当であるのかという点は疑問を覚えるところではあるものの、評価減の事由として借家権という法的な要因を背景としていることは上記租税法規の解釈として客観性のある交換価値を想定する上で整合的であり、重要なものであると言えよう。

しかしながら通達はこの処理の原則に対して一定の宥恕規定として上記通達但し書きのように、一時的な空室は考慮対象外として処理する必要はないものとしている。かかる一時的な空室を如何に判断すべきであるのかという点が本件の主たる争点であるが、この措置につき、判示では
「もっとも、継続的に賃貸の用に供されている独立部分が課税時期にたまたま賃貸されていなかったような場合にまで当該独立部分を賃貸されていないものとして賃貸割合を算出することは、不動産の取引実態等に照らして必ずしも実情に即したものとはいえない。
そこで、評価通達26(注)2は、構造上区分された複数の独立部分からなる家屋の一部が継続的に賃貸されていたにもかかわらず課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められる場合には、例外的に当該独立部分を賃貸されている独立部分と同様に取り扱うこととしたものと解される。」
一定の処置として合理性を認めている。かかる判断はいわば実質的な状況を加味して判断を行う内容であり、一定の裁量が課税庁に与えられるものとなる。かかる処理は納税者にとって有利規定であり、租税法律主義の原則からは問題ではあるものの実際には問題とされていない。しかしながら相続税法が、その課税時期として相続発生の時と明示的に規定しており、いわばかかる処理は拡張的に相続財産の現況を反映させるものであり、かかる処理が合理性を有するのかという点は疑問を覚える。かかる処理はあくまでも、宥恕例外的な処置であり、如何なる理由でその処置が合理性が有するものであるのかという点は検証されるべきであり、租税法規の課題として捉えるべきであろう。少なくとも、例外として許容されるべきものを判断する基準は明示的であるべきであり、現行の処理が妥当であるのか否かという点は問題視されるべきである。特に具体的な判断基準として争われている、この一時的という点が客観性を帯びた減額要因として認められるべきであるのかという点は、検討すべきであり、如何にして合理性を時価の解釈等から担保され得るのであろうか。上記判示でも本件の処置は不動産取引実態に照らして不合理であるとの原因を挙げているが、かかる内容が明示的ではなく、そもそもかかる処置が妥当であるのか否かという点は再度検証すべきであり、例外的な本措置の合理性は疑問視されるべきであろう。少なくとも一時的という通達の文言は決定的なものではなく、借地権の制限が実質的に対象となりうるのかより明示的な規定が必要と認識されるべきである。外形や資産の構造なども判断要素となりうるものであることは否定しないが、借地権を生み出す契約とは直接的に関連付けられるものではなく、本件のように契約の有無の基幹的な判断にのみ依拠すべきものではないであろうが、何らかの契約と直接的に関連する要因による判断が求められるものと考えるべきであろう。

また、上記のように、貸家等に限ったものではないが、相続税法における収益性に基づいた判断は、その財産評価としては、劣位に置かれることになることは他の相続税の財産評価において一般的である。立法に属する問題であるが、近年は空き家の存在などが増加しており、単なる収益性の減少のみならず、収益の発生が観念し得ないものも存在することになるだろう。かかるような状況において、より適切な財産評価に対して、検討すべきものといえるのではないだろうか。

2017年9月23日土曜日

判例裁決紹介(東京高判平成27年9月17日、被相続人が管理している財産への不当利得請求権と相続財産)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成27年3月27日、東京高判平成27年9月17日で、被相続人が管理していると推認される財産に対して不当利得返還請求権の存在を認定し、当該財産を相続財産として課税対象とした事例です。

具体的には、本件は、相続財産たる認定に関する事例であり、株式の売却にかかる代金の受領をし、相続人たる原告(控訴人)がこれを管理しているとして当該財産が、相続財産として構成されうるものであるのかという点が争点となったものである。基本的には事実認定が問題となったものであり、特徴的な法令解釈等が問題になったものではない。高裁、地裁、ともにその判断は共通しており、何らかの特徴的な法令解釈等が問題にあがったものではないものと考えられる。しかしながら、相続財産の帰属関係の判定は、相続税申告の基礎中の基礎となるものであり、本件ような認知症状態にある、被相続人の財産の処分関係や帰属関係の具体的な判定は、特に所有している財産の売却委託等の関係から財産帰属が問題となるような事案は、近年の相続環境においては増加傾向にあるものと想定され、かかる点においても、重要なものであり、実務上も財産帰属を判断する判断、トレーニングする事案としても参考となるものといえよう。より具体的には、証券のホームトレードの利用や、被相続人のローン返済状況なども考慮して相続財産の認定を行っている。

特に本件は、財産帰属の判断において、名義の異なる状況を作出し、実質的な相続財産の状況を形式上異なる財産関係へ変化させるものであり、相続財産帰属関係を問題とする事案としては名義関係を活用し、実質的な判断を行うような事例ではあり類型としては通常なものとしてカテゴライズされるものといえようが、このような場合、被相続人とは異なる名義にあるような状況であっても、管理状況、処分等の関係から被相続人の財産として相続財産を構成するものとして認定する事案が通常であるが、本件では管理状況から売却資金の所在を相続人に対して推認し、不当利得返還請求権を認定することで相続財産を構成していたものとして認定している点は特徴的なものといえよう。主張において、認知症状態にある、被相続人による財産の費消(浪費)が原告から主張されているという点も関係しているのかもしれないが(最終的には全く考慮されていない、浪費や費消を主張することは相続財産の認定においては悪手であり、具体的な主張としては、特に認知症状態にあり病院に居住している状況にあっては、非常に困難と評価せざるを得ない)、相続財産を広く解釈して、適切な租税負担を企図しているものと考えられ相続税法の基本的な判断において、忠実な判断であると捉えられる。

特に本件における判断においては、株等の財産としての帰属ではなく、資金としての帰属関係が問題になったものであり、かかる点から判断するに、資金の出捐先が重要視された判断であり、かかる認定は、財産種別を考慮しても判断プロセスとしては重要なものであろう。いずれにしても本件の面白い点は財産認定の主張でありホームトレードの利用に伴う財産帰属は近年の特徴であり参考となるものであろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(横浜地判平成28年2月3日、事業所得と準備行為の必要経費)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成27年10月
8日裁決と横浜地判平成28年2月3日で、おそらく同一事案だと思うのですが、猟
銃等の製造に関する事業に関する所得が所得税法に定める事業所得に該当するの
か否かという点が課題となったものです(事業は特殊ですがほぼ判断には関係な
いものです、趣味的道楽的な事業との評価も可能でしょうが)。

具体的には、主たる収入を給与所得として稼得している原告が営む事業(猟銃の
製造販売等、販売等の許可取得済み)が所得税法に定める事業所得に該当し、か
かる事業に関する費用が収入を大幅に超過したことによる損失の発生を損益通算
した確定申告を行った原告の行為に対して、課税庁が係る収入は所得税法が定め
る事業所得として社会通念等から見て該当しないとして、当該損失による損益通
算を否認した事例である。中心的な争点はかかる販売等が事業に該当するのか否
かという点が争われているが、損失を生み出した必要経費(準備段階等にあると
も評価できるが、収入としてはわずかなものであり対して費用額は数百万円単位
にのぼるものである、この収支状況からはそもそも事業としての継続性に欠け、
単なる趣味や道楽的な行為としても評価し得るものであるが、この点を突き詰め
ると家事費家事関連費との区分との課題も提起されよう)が本件事業との関係に
おいて必要性を有しているのかという点も課題となっている。判断及び判示では
事業所得としての該当性は否認され、当該収入は、雑所得としての認定を受ける
ものと判断されている。この具体的な争点としては従来議論されている、所得税
法上の事業とは如何なるものであり、具体的には如何なる要素に基づき判断され
るべきであるのかという点が議論されているが、本件もその類型に属するもので
あり、所得税法上の事業の性格をいかに解するのかという点を出発点に、如何な
るものを事業として捉えていくべきものであるのかという点を考えるうえでも参
考になるものといえよう。

少し本件とは離れるものの、特に近年は、ネット環境の発達により個人のレベル、
段階で規模の大小を問わず、経済的利益のやり取りが行われるケースが増加して
いる。他にもプラットフォームとしてメルカリ等を活用した個人販売なども増加
傾向であるが、流動性が非常に大きい仮装通貨を用いたトークンをやり取りする
ICO等の取引など、近年の取引、所得の稼得方法は従前と異なる形式の登場や、
多様化しており、規模も大小さまざまであると考えられる。かかる点を考慮する
において、ネットを媒介とした小規模な個人間の取引の特徴等を考慮し、租税法
規において如何に捉て課税を行っていくべきであるのかという点は本件における
事例も含め検討課題としていくべきであろう。特に、学説判例において確立して
いる、本件でも問題となった下記事業所得の意義、特に事業の意義における個別
具体的な判断要素が、如何にして当てはまるのか、あるいは修正されるべきもの
であるのか等、租税法規の解釈論としても古くて新しい問題であるように考えら
れる。些か一般論としては近年の状況を租税法規において如何に捉えていくべき
であるのかという点は、租税の中立性、取引に対する予見可能性を向上させる意
味でも必要であろうし、所得類型と必要経費には密接な関連性が存在している。
このような取引に対して必要経費を如何に捉えるべきであるのか【家事費家事関
連費との区分、消費行為との区分も含め】という点も併せて課題となることであ
ろう。

(事業所得)
*第二十七条* 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス
業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該
当するものを除く。)をいう。
*2 * 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を
控除した金額とする。

以上の通り、本件における、中心的な争点は、所得税法に定める上記事業所得へ
の該当性が問題となったものである。この具体的な要件は下記事業の範囲という
点も考慮し、事故の危険と計算、独立、営利性、継続性等が具体的な判定要素と
して解されている。また、その具体的な認定においては、単に主観的な状況【意
思】のみならず、社会的に地位が認められることが条件とされている。この解釈
に関しては、学説判例共に共通しており、本件においても下記のように用いられ
ている。

(事業の範囲)
*第六十三条* 法第二十七条第一項
(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業
又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
*一 * 農業
*二 * 林業及び狩猟業
*三 * 漁業及び水産養殖業
*四 * 鉱業(土石採取業を含む。)
*五 * 建設業
*六 * 製造業
*七 * 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
*八 * 金融業及び保険業
*九 * 不動産業
*十 * 運輸通信業(倉庫業を含む。)
*十一 * 医療保健業、著述業その他のサービス業
*十二 * 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立し
て営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位
とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される(最高裁昭和
56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)

上記のように、複合的な要素を用いて事業としての該当性を判断し、それを総合
的に判定することで具体的な認定を行っている。決定的な要素や要素間での優劣
があるものではなく、この点において予測可能性や法的安定性において問題があ
るとの指摘も可能ではあるが、単に意思を持って判断するのではなく、租税法規
として公平負担や適正な所得把握の観点から社会的な地位も含めて考慮している
点において、すなわち主観性を抑制し、客観的な要因によって判断することを求
め総合的な判断による恣意の介入する余地を減少させているものと考えられよう。
この点は特に客観性を確保することを求めることが租税法規における大きな特徴
であり、個人の業務内容であり、家事費等の消費的な支出の排除を行うことを企
図するものとして重要な点であろう。

また、単に、営利性等が充足されていればよいと捉えることも問題であろう。上
記のように客観的な認定や社会的な地位が必要と解される点を考慮するならば、
法の要請として如何なる趣旨目的から上記のような判断要素を採用しているのか
という点を明らかにすべきであり、この点は租税法の課題でもあるが、具体的な
充足を判断する上での基準となるべきものでもあろう。基本的には条文を根拠と
すべきであり、給与所得等との対比からも導かれるものともいえる。例えば本件
においては当該原告は、その事業を行うにあたって必要な販売許可等を行政から
得ており、一定の社会的地位が認めらうる状況にあるという可能性も否定でき
い。かかるような社会的な免許や他にも施設の有無など客観的な状況において如
何にして社会的な地位として客観性を備えた事業実態を認定することになるのか
という点で基準が定かとは言えないような状況にあるものと考えられる。この社
会的な地位として事業としての位置づけが客観的に認定され得るのかという点に
ついては本件においても最終的な判断のよりどころとなっているものであるが、
必ずしも如何なる程度をもって社会的な地位が認定され得るのかという点は、具
体的ではなく、かかる点においてより詳細な検討が必要であるように評価される。
少なくともこのような判断において裁量的な判断に委ねることは課税要件に対す
る租税法規の基本的な要請に反するものとなりかねず、問題となるのではないだ
ろうか。

仮に社会的にみて事業としての該当を認められないとした場合においては、逆に
近年の一連の競馬事件と同様に、社会的な承認がその要件となってくることにな
る。蓋しこのような場合、趣味や道楽、あるいはトレーニング中などの【本件の
ような】取引による所得を排除する事に繋がりかねない。趣味等とのきょきあが
あいまいな事業は近年は特に拡張傾向にあり、これらを如何に租税法規、所得税
法においてとらえるべきであるのかという点にも繋がってくるだろう。確かに、
所得税法が家事的な、消費活動に対する支出を行う個人を対象とする以上、主観
的な納税者の意思に基づく課税のみでは、公平負担との較量において問題となる
ことも考えられる。単に規模的な要件等のみでは具体的な判断が困難なケースも
考えられるのではないだろうか。

更に本件、特に裁決においては、蛇足的ではあるものの、本件原告【請求人】は、
設備や収入状況、労働時間等から判断して、主たる生計を給与所得者として判断
している。この点は如何なる点からこの判断を行うべきであるのかという点は
かではないが、読み方としては給与所得者と事業所得の並列が困難な状況にある
ようにも捉え得るものである。しかしながら本件における判示でも、また、事業
所得の意義として引用される最判においてもかかるような要件は設定されておら
ず、主たる所得の認定から、具体的な所得類型を判断することは困難であろう。

最終的には本件は現状の状況が知識技術の習得段階で、準備段階であり、収入も
少なく事業としての客観性を確保するに至っていないとの判断で事業としての該
当性を否認しているものと考えられる。事実認定として、収入金額等を考慮する
ならば、本件事実関係では、その事業としての社会的地位が確保されていないと
の判断は納得的ではあるものの、これをもって一般に準備的な行為段階にあるも
のの必要経費が否認され得るものと解されるのであろうか。事業所得における営
利性という点を如何に捉えるべきであるのかという点にも左右されるのではある
が、この営利性が実際の営利を得るような状況にある事を要請するものであるの
か否か、本件のように収入と支出の間で乖離があるような状況も考慮しているの
か、あるいは事業を構成する個々の役務提供や譲渡等を個別に判断して営利性の
有無を判断するのか、総合的に判断するのかという点も定かとはいえない。少な
くとも事業が確実性をもって営利を稼得するような状況にあるものという想定は
困難であり(実際的ではないだろう)、損失も発生するものが事業であると考え
るべきであり、実際の収支において利益を稼得していることが、この営利性を指
すものと解することは妥当ではないと考えるべきである。この点において将来の
営利性、経済的利益の稼得が客観的に想定され得ることが要件であると考えるべ
きであり、本件のように、収支に関する実態から一律に赤字状態にあるような状
況も事業としての該当性を否認するものではなく、準備的行為が過半を占めるよ
うな状況にあっても、必ずしも営利性を欠缺しているものと捉え、事業性に欠け
るものと捉えることは困難であると理解すべきである。勿論主観的な要因による
判断のみでは妥当ではなく、将来の状況を判断するにあたって、複数年度の状況
を検討するなどより客観的な収支状況から営利性を把握すべきものと考えられる。

*第三十七条* その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

所得税法第37条第1項は、上記1の(3)のニのとおり、「その年分の不動産
所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金
額は、‥‥これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定
しているところ、同項に規定する「所得を生ずべき業務」とは、不動産所得、事
業所得又は雑所得を得るために行われる具体的な活動を意味すると解され、業務
を開始するためにする準備行為は含まないと解される。

従って上記【裁決】のように、必要経費においても一律に準備行為を排除する判
断は合理性に欠ける。本件では実質的に技能の習得段階であり、その途上での副
次的な収入が今回の課税対象として問題になったのに過ぎないとの判断であるが、
ここに事業としての実質が欠如しているものと考えているものといえる。上記の
ように必要経費において所得を生ずべき業務に関する費用を必要経費としている
ように、必ずしも必要経費においては、実際の所得発生を要件としているもので
はない。このように考えるならば、準備的な行為であり、所得の発生が想定され
えない準備行為に関する費用を必要経費から一律に排除することは文理に反する
ものと評価せざるを得ないものといえる。確かに業務と所得との間には直接的な
原価のみならず多様な因果関係が想定され、必ずしも直接的な因果関係が存在す
ると考えることは困難である。例えば広告費や研究費のように直接的な所得との
関連は想定し得ないものの必要経費性を否認することは困難なものも存在する。
法は、少なくとも原価以外の費用に関しては、業務の種類によってここに判断す
るプロセスを採用しており、必ずしも直接的な因果関係のみを要請しているもの
ではなく、たとえ準備活動であっても、例えば資格職の資格取得費のように、一
定の因果関係が存在する場合は認識されるものであり、最終的には上記必要経費
における所得を生ずべき業務とはいかに解されるべきであるのかという点に依拠
することになるが、必ずしも実際の損失の発生において所得との対応が取れない、
ような状況であってもその必要経費性を否認することは合理性に欠けるのではな
いだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低
いですが参考までに。