2017年9月23日土曜日

判例裁決紹介(横浜地判平成28年2月3日、事業所得と準備行為の必要経費)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成27年10月
8日裁決と横浜地判平成28年2月3日で、おそらく同一事案だと思うのですが、猟
銃等の製造に関する事業に関する所得が所得税法に定める事業所得に該当するの
か否かという点が課題となったものです(事業は特殊ですがほぼ判断には関係な
いものです、趣味的道楽的な事業との評価も可能でしょうが)。

具体的には、主たる収入を給与所得として稼得している原告が営む事業(猟銃の
製造販売等、販売等の許可取得済み)が所得税法に定める事業所得に該当し、か
かる事業に関する費用が収入を大幅に超過したことによる損失の発生を損益通算
した確定申告を行った原告の行為に対して、課税庁が係る収入は所得税法が定め
る事業所得として社会通念等から見て該当しないとして、当該損失による損益通
算を否認した事例である。中心的な争点はかかる販売等が事業に該当するのか否
かという点が争われているが、損失を生み出した必要経費(準備段階等にあると
も評価できるが、収入としてはわずかなものであり対して費用額は数百万円単位
にのぼるものである、この収支状況からはそもそも事業としての継続性に欠け、
単なる趣味や道楽的な行為としても評価し得るものであるが、この点を突き詰め
ると家事費家事関連費との区分との課題も提起されよう)が本件事業との関係に
おいて必要性を有しているのかという点も課題となっている。判断及び判示では
事業所得としての該当性は否認され、当該収入は、雑所得としての認定を受ける
ものと判断されている。この具体的な争点としては従来議論されている、所得税
法上の事業とは如何なるものであり、具体的には如何なる要素に基づき判断され
るべきであるのかという点が議論されているが、本件もその類型に属するもので
あり、所得税法上の事業の性格をいかに解するのかという点を出発点に、如何な
るものを事業として捉えていくべきものであるのかという点を考えるうえでも参
考になるものといえよう。

少し本件とは離れるものの、特に近年は、ネット環境の発達により個人のレベル、
段階で規模の大小を問わず、経済的利益のやり取りが行われるケースが増加して
いる。他にもプラットフォームとしてメルカリ等を活用した個人販売なども増加
傾向であるが、流動性が非常に大きい仮装通貨を用いたトークンをやり取りする
ICO等の取引など、近年の取引、所得の稼得方法は従前と異なる形式の登場や、
多様化しており、規模も大小さまざまであると考えられる。かかる点を考慮する
において、ネットを媒介とした小規模な個人間の取引の特徴等を考慮し、租税法
規において如何に捉て課税を行っていくべきであるのかという点は本件における
事例も含め検討課題としていくべきであろう。特に、学説判例において確立して
いる、本件でも問題となった下記事業所得の意義、特に事業の意義における個別
具体的な判断要素が、如何にして当てはまるのか、あるいは修正されるべきもの
であるのか等、租税法規の解釈論としても古くて新しい問題であるように考えら
れる。些か一般論としては近年の状況を租税法規において如何に捉えていくべき
であるのかという点は、租税の中立性、取引に対する予見可能性を向上させる意
味でも必要であろうし、所得類型と必要経費には密接な関連性が存在している。
このような取引に対して必要経費を如何に捉えるべきであるのか【家事費家事関
連費との区分、消費行為との区分も含め】という点も併せて課題となることであ
ろう。

(事業所得)
*第二十七条* 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス
業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該
当するものを除く。)をいう。
*2 * 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を
控除した金額とする。

以上の通り、本件における、中心的な争点は、所得税法に定める上記事業所得へ
の該当性が問題となったものである。この具体的な要件は下記事業の範囲という
点も考慮し、事故の危険と計算、独立、営利性、継続性等が具体的な判定要素と
して解されている。また、その具体的な認定においては、単に主観的な状況【意
思】のみならず、社会的に地位が認められることが条件とされている。この解釈
に関しては、学説判例共に共通しており、本件においても下記のように用いられ
ている。

(事業の範囲)
*第六十三条* 法第二十七条第一項
(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業
又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
*一 * 農業
*二 * 林業及び狩猟業
*三 * 漁業及び水産養殖業
*四 * 鉱業(土石採取業を含む。)
*五 * 建設業
*六 * 製造業
*七 * 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
*八 * 金融業及び保険業
*九 * 不動産業
*十 * 運輸通信業(倉庫業を含む。)
*十一 * 医療保健業、著述業その他のサービス業
*十二 * 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立し
て営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位
とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される(最高裁昭和
56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)

上記のように、複合的な要素を用いて事業としての該当性を判断し、それを総合
的に判定することで具体的な認定を行っている。決定的な要素や要素間での優劣
があるものではなく、この点において予測可能性や法的安定性において問題があ
るとの指摘も可能ではあるが、単に意思を持って判断するのではなく、租税法規
として公平負担や適正な所得把握の観点から社会的な地位も含めて考慮している
点において、すなわち主観性を抑制し、客観的な要因によって判断することを求
め総合的な判断による恣意の介入する余地を減少させているものと考えられよう。
この点は特に客観性を確保することを求めることが租税法規における大きな特徴
であり、個人の業務内容であり、家事費等の消費的な支出の排除を行うことを企
図するものとして重要な点であろう。

また、単に、営利性等が充足されていればよいと捉えることも問題であろう。上
記のように客観的な認定や社会的な地位が必要と解される点を考慮するならば、
法の要請として如何なる趣旨目的から上記のような判断要素を採用しているのか
という点を明らかにすべきであり、この点は租税法の課題でもあるが、具体的な
充足を判断する上での基準となるべきものでもあろう。基本的には条文を根拠と
すべきであり、給与所得等との対比からも導かれるものともいえる。例えば本件
においては当該原告は、その事業を行うにあたって必要な販売許可等を行政から
得ており、一定の社会的地位が認めらうる状況にあるという可能性も否定でき
い。かかるような社会的な免許や他にも施設の有無など客観的な状況において如
何にして社会的な地位として客観性を備えた事業実態を認定することになるのか
という点で基準が定かとは言えないような状況にあるものと考えられる。この社
会的な地位として事業としての位置づけが客観的に認定され得るのかという点に
ついては本件においても最終的な判断のよりどころとなっているものであるが、
必ずしも如何なる程度をもって社会的な地位が認定され得るのかという点は、具
体的ではなく、かかる点においてより詳細な検討が必要であるように評価される。
少なくともこのような判断において裁量的な判断に委ねることは課税要件に対す
る租税法規の基本的な要請に反するものとなりかねず、問題となるのではないだ
ろうか。

仮に社会的にみて事業としての該当を認められないとした場合においては、逆に
近年の一連の競馬事件と同様に、社会的な承認がその要件となってくることにな
る。蓋しこのような場合、趣味や道楽、あるいはトレーニング中などの【本件の
ような】取引による所得を排除する事に繋がりかねない。趣味等とのきょきあが
あいまいな事業は近年は特に拡張傾向にあり、これらを如何に租税法規、所得税
法においてとらえるべきであるのかという点にも繋がってくるだろう。確かに、
所得税法が家事的な、消費活動に対する支出を行う個人を対象とする以上、主観
的な納税者の意思に基づく課税のみでは、公平負担との較量において問題となる
ことも考えられる。単に規模的な要件等のみでは具体的な判断が困難なケースも
考えられるのではないだろうか。

更に本件、特に裁決においては、蛇足的ではあるものの、本件原告【請求人】は、
設備や収入状況、労働時間等から判断して、主たる生計を給与所得者として判断
している。この点は如何なる点からこの判断を行うべきであるのかという点は
かではないが、読み方としては給与所得者と事業所得の並列が困難な状況にある
ようにも捉え得るものである。しかしながら本件における判示でも、また、事業
所得の意義として引用される最判においてもかかるような要件は設定されておら
ず、主たる所得の認定から、具体的な所得類型を判断することは困難であろう。

最終的には本件は現状の状況が知識技術の習得段階で、準備段階であり、収入も
少なく事業としての客観性を確保するに至っていないとの判断で事業としての該
当性を否認しているものと考えられる。事実認定として、収入金額等を考慮する
ならば、本件事実関係では、その事業としての社会的地位が確保されていないと
の判断は納得的ではあるものの、これをもって一般に準備的な行為段階にあるも
のの必要経費が否認され得るものと解されるのであろうか。事業所得における営
利性という点を如何に捉えるべきであるのかという点にも左右されるのではある
が、この営利性が実際の営利を得るような状況にある事を要請するものであるの
か否か、本件のように収入と支出の間で乖離があるような状況も考慮しているの
か、あるいは事業を構成する個々の役務提供や譲渡等を個別に判断して営利性の
有無を判断するのか、総合的に判断するのかという点も定かとはいえない。少な
くとも事業が確実性をもって営利を稼得するような状況にあるものという想定は
困難であり(実際的ではないだろう)、損失も発生するものが事業であると考え
るべきであり、実際の収支において利益を稼得していることが、この営利性を指
すものと解することは妥当ではないと考えるべきである。この点において将来の
営利性、経済的利益の稼得が客観的に想定され得ることが要件であると考えるべ
きであり、本件のように、収支に関する実態から一律に赤字状態にあるような状
況も事業としての該当性を否認するものではなく、準備的行為が過半を占めるよ
うな状況にあっても、必ずしも営利性を欠缺しているものと捉え、事業性に欠け
るものと捉えることは困難であると理解すべきである。勿論主観的な要因による
判断のみでは妥当ではなく、将来の状況を判断するにあたって、複数年度の状況
を検討するなどより客観的な収支状況から営利性を把握すべきものと考えられる。

*第三十七条* その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

所得税法第37条第1項は、上記1の(3)のニのとおり、「その年分の不動産
所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金
額は、‥‥これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定
しているところ、同項に規定する「所得を生ずべき業務」とは、不動産所得、事
業所得又は雑所得を得るために行われる具体的な活動を意味すると解され、業務
を開始するためにする準備行為は含まないと解される。

従って上記【裁決】のように、必要経費においても一律に準備行為を排除する判
断は合理性に欠ける。本件では実質的に技能の習得段階であり、その途上での副
次的な収入が今回の課税対象として問題になったのに過ぎないとの判断であるが、
ここに事業としての実質が欠如しているものと考えているものといえる。上記の
ように必要経費において所得を生ずべき業務に関する費用を必要経費としている
ように、必ずしも必要経費においては、実際の所得発生を要件としているもので
はない。このように考えるならば、準備的な行為であり、所得の発生が想定され
えない準備行為に関する費用を必要経費から一律に排除することは文理に反する
ものと評価せざるを得ないものといえる。確かに業務と所得との間には直接的な
原価のみならず多様な因果関係が想定され、必ずしも直接的な因果関係が存在す
ると考えることは困難である。例えば広告費や研究費のように直接的な所得との
関連は想定し得ないものの必要経費性を否認することは困難なものも存在する。
法は、少なくとも原価以外の費用に関しては、業務の種類によってここに判断す
るプロセスを採用しており、必ずしも直接的な因果関係のみを要請しているもの
ではなく、たとえ準備活動であっても、例えば資格職の資格取得費のように、一
定の因果関係が存在する場合は認識されるものであり、最終的には上記必要経費
における所得を生ずべき業務とはいかに解されるべきであるのかという点に依拠
することになるが、必ずしも実際の損失の発生において所得との対応が取れない、
ような状況であってもその必要経費性を否認することは合理性に欠けるのではな
いだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低
いですが参考までに。

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