2017年11月10日金曜日

判例裁決紹介(平成28年12月5日裁決、無申告加算税の正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年12月5日裁決であり、期限後申告に伴う無申告加算税の賦課決定処分に対して、請求人の事業や妻の介護等を理由として、当該処分に対して不服を申し立てた事例です。

具体的に本件は、請求人がなした贈与税の期限後申告につき無申告加算税が付加されたことが妥当であるのか否かが争点となったものであり、無申告加算税の賦課に対して宥恕する正当な理由が存在しているのか否か、すなわち、請求人が主張する妻の介護や持病等の事情が国税通則法に定める無申告加算税の宥恕対象となりうるものであるのか、正当性を有するものであるのか否かという点が中心的な争点となっているものである。

附帯税における主たる論点としては、特に無申告加算税においては、下記の条文にあるようにその賦課を行わない、要件としての正当な理由の有無、また、調査による予知があったか否かという点が従来議論対象となっているが、本件もその類型に属するものであり、正当な理由が如何なる意義を有し、その具体的な対象となる事情は如何なるものであるのかという点を明らかとする上で、有益な事例であるように考えられる。無申告加算税が加算される事例は、専門家が関与する事例においては、限定的であるように考えられるが、現状において未だ租税法規や租税制度、納税義務につき、その理解が必ずしも十分でない状況においては、かかる賦課及びその宥恕は重要であり、具体的な範囲を確定させる上で実務上も重要なものであろう。法令解釈としては、本件が採用してる判断は、最判や学説とも一致しており、新たな法令解釈として新規性を持つような特徴的な事例ではないものの、かかる解釈の淵源やその具体的な当てはめを検討する上では参考となるものと捉えられる。


(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。

以上のように本件の中心的な争点は無申告加算税に関する判断である。しかしながら、附帯税一般において同様の文言が採用され、正当な理由による賦課の宥恕が行われている。かかる意義の一般性が如何なるものであるのかという点は、課題ではあり、私見としては、無申告加算税と他の附帯税は、その賦課が納税者間の公平負担を基礎とするものとしていることは共通しているものの、その衡平を図る上での基礎的な要件、具体的な趣旨目的が相違する部分も存在しており、正当な理由として同様の文言を採用しているものの、必ずしも同様の意義を有し、事実関係の当てはめにおいても同一のものとして評価することは要請されていないものと考えられる。従って、本件もあくまでも無申告加算税における判断であり、より広く附帯税一般において共通するものとして捉えることは、避けるべきであろう。

本件判断では、最終的に代理人等の利用や郵送による申告が可能であること等から納税者の責任を認定し、正当な理由としての該当性を否定している。感情論として、介護等の事情は本件のような事実関係において無申告加算税を課すことは、酷であるとの点から正当な理由該当性を肯定しうるものであるとの主張もあり得ようが、下記のように無申告加算税の性格やさらに前提となっている申告納税制度を基礎として考えるならば、極めて限定的に正当な理由を解釈することが一般的となっており、本件もその判断によっている。立法論としては上記のような主張は存在しうるものであるともいえようが、まずは現行制度の法令解釈がその前提とされるべきものであり係る基準となる意義に対して事実関係が当てはまるものであるのか否かという点から判断されるべきものとであることはいうまでもなく、本件判断は従前と整合的であると評価されよう。上記のような酷であるとの主張は立法の範囲に属するものであるといえよう。その必要性があるのか否かという点は、必ずしもサポートされているものとは言えないが、政策論としては検討する価値はあるかもしれない。最終的に本件は請求人による、介護等の事実関係の主張のみが行われたものであり、如何なる理由で正当性を持つものであるのかという点について根拠を指し示すことができなかった請求人の姿勢が原因となって最終的に棄却との判断を導いているが、正当な理由としてはの該当性は、単なる事実関係の主張のみでは不充分であり、正当性を如何に有しているのかという点を明らかにする立証責任が納税者に課せられていることが理解されるべきものともいえよう。

以上のように本件の中心的な争点は請求人が主張する妻の介護や自身の持病等の事情が上記国税通則法66条の正当な理由に該当するのか否かという点である。その具体的な正当な理由としては以下のように判断している。従前の判例等と整合的である。

 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的として、適正に法定申告期限までに申告した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、納税申告書を提出しないことによる申告義務違反の発生を防止する行政上の措置であり、法定申告期限までに申告しなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があると認められる場合を除いて一律に課されるものである。
 そして、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

上記のように、その意義としては納税者の責めに帰すことができない事情及び無申告加算税の趣旨との対比という二要件をもって判断している。すなわち納税者に対する無申告への帰責性の有無と趣旨の観点から不当性を認定しうるか否かという点が判断の起点となるものであり、信義則等と同様に極めて限定的な状況を想定しているものとしている。つまり、かかる判断は行為自身への因果・責任と当該事情が適正な申告を行ったものと間での公平性を犠牲にしてもなお、賦課を行わないことに対して合理性を有するの否かという事実関係への評価によるものとしていると考えられる。
かかる限定的な判断は、租税法の基本的な要請としての租税法律主義の厳格な適用を旨とする現行法制度においては、合理的であり、その起点として納税者自身の計算による自主的な申告納税制度を採用していることに起因しているものと考えられ、私見としても限定的な解釈の合理性はゆるぎ難いものと考えられる。より一般的には憲法が定める納税義務は、国民としての義務を定めるものであり、単に納税するのみならず、適正な申告等の義務を追っているものとして理解されるべきものといえよう。

また第一に納税者への帰責性の有無に関しては、そもそもどの程度の物を指すものであるのかという点は、必ずしも定かではない。本件においては、代替手段との関係性の主張が不存在であることを問題視しており、かかる点が主張として必要とされる点は、帰責性の有無の具体的な判断においては重要となるものと考えられる。私見としてはかかるよう厳格な判断は上記信義則等と同様に租税法規に基本的な要請としての租税法律主義から容易に適用が認められるべきものとは考え難い点に依拠しており、厳格に係る要件の充足が客観的に確保されることをもって正当な理由としての該当性を認めるべきであり、事実上客観性の確保も要請されていることも加味すると(主観的な事由を該当すると認めることは結果として要件を緩和するものとなりうるところであり、かえって趣旨を埋没する可能性や裁量的な措置を伴うものとなることであろう。)正当な理由としての判断としては3要件を課しているものとも考えられる。帰責性そのものの意義としては、法的な意義での責任の有無が問題になるのかという点(無過失、重過失等の認定を伴うものであるのか)は定かとはなっていない。無申告に関しては納税義務への無知等、多様な因果関係が、法的にも事実上もありうるところであり、代替手段の可能性など納税者の怠惰等ではない、事情を示す程度で良いのかという点は立証責任が上記のように納税者にあるとされる場合においては、如何なる主張を求められるかという点を明らかにする上で、重要な検討課題となるものといえよう。そもそも過去と異なり、国税庁HPでの広報の充実や郵送手段、税理士代理、e-Taxの整備等代替手段は整備充実されてきている現状にあることは明らかであり、かかる点においては納税者の帰責性の有無を立証するハードルは上がっているものとも捉えられるが。私見としては租税法規が法的な関係として、租税法律関係の存立を前提としている以上は、原則的に法的な責任の有無が帰責性の判断を行う基礎となるものと理解されるべきものといえると考えられるが、第二要件としての趣旨との対応に関しても必ずしも明示的なものとはいえず、適正な申告を行ったものとの公平性及び申告義務の履行を促すものとして無申告加算税は存立しているが、かかる判断との対比においても広範囲においての責任を要請しているものと考えるべきであり、その根拠として申告納税制度を前提としているものと理解されるべきである。つまり、納税者自身による申告をその背景としている申告納税制度を基盤とする以上、無申告を許容することは極めて困難であり、かかる判断を覆すことは非常に厳しいと判断せざるを得ないものというべきであると考えられる。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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