2017年12月2日土曜日

判例裁決紹介(平成28年12月5日、不動産鑑定評価の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年12月5日裁決で相続税の確定申告において不動産鑑定評価の利用につきその評価の妥当性が問題となった事例です。具体的には、請求人が相続により取得した相続財産の申告につき、当該評価額が問題となったものであり、中心的な争点としては当該取得した不動産(土地・借地権等)に対して不動産鑑定評価を用いたところ、当該評価額は相続税法の時価によるものとは合致するものとは考えられず、財産評価基本通達による評価額によるべきであり、当該鑑定評価額は、その財産評価基本通達による評価額に対して合理性を否定するものとしては、評価することは困難であるとして、更正処分を行ったものであり、この処分に対して不服を申し出たものである。

相続税法による時価、すなわち、相続財産の価額をいかに捉えるべきであるのかという点は、相続により取得した財産的価値を課税対象とするものとして捉えるならば、相続税法において非常に重要な概念であり、また重要な課税要件となるものである。しかるにその価額時価の算定は相続税法において重大な争点となっており、多様な争点事例が存在している。本件もその累計に属するものであり、特に財産評価を行う上で、不動産鑑定評価を利用することが最も想定されるところであるが、その利用した評価額を否定したものであり、財産評価を学ぶ上で重要な事例と考えられる。通常は、財産評価基本通達による評価、すなわちその適用が合理的であるのかという点が中心的な争点となるものであり、これにより算定された価額が相続税法が求める時価として高額であるのか否かという点が争点となることが多いものと考えられるのが相続税における財産評価の課題であるが、本件は多少趣が異なり、納税者が用いた不動産鑑定評価の妥当性が中心的な争点となっている。実際相続税申告においていかなる状況で不動産鑑定評価が用いられているのか、その位置付けは如何に捉えられているのかという点は定かではないが(この点については実務家にヒアリングしてみたいところではある)、不動産評価の申告における活用を問う上で参考となるものであり、如何なる点で相続税法に定める時価に合致するものではないのか、すなわち、以下のように相続税法22条に定める時価の解釈との関連においていかにして判断されるものであるのかという点を検討する上実務上も参考となるものであろう。
(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

特に本件における鑑定における収益還元価格の評価は特殊関係者間における取引を前提としたものであり、かかるような場合における収益還元価格評価の活用は困難ともいえる。このような点もより具体的には課題と言えよう。

最終的な判断として、本件で問題となった不動産鑑定評価や収益還元評価による評価額が相続税法において一般的に必ずしも否定されるものではないものと考えられるが、相続税法における時価の算定において、単なる価値の測定、価額自身のみならず、如何なるプロセスで、評価がされたものであるのか、その評価プロセスが合理的なものであるのかという点が問題となったものと考えられ(かかる点で本件で用いられた評価は非合理的であったものであろう、詳細な中身においては主観的な評価であると認定されうる)、この評価プロセスに対する評価もまた、評価額自身と同様に重要なものであると考えられることが指摘される。かかる点からは鑑定評価においてこのような評価プロセスの明記が重要なものとなり、鑑定評価が、評価基準に則り検証可能であるのか要求されているものともいうべきであろう。この点は鑑定評価の合理性を追求する上で重要な考慮要素となるものと考えられる。さらにどの程度具体的に検証可能であるのかという点が課題となるものだろうが、かかる点についても判断過程の検証を基礎とする更正処分における理由附記を参照として検討されるものと考えられる。

判断においては、以下のように、まず、相続税法における時価として
「 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為 準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」

相続税法における時価の意義、そしての具体的な算定方法において、財産評価基本通達の位置付けを検証している。そしてさらに、以下のように、

「 そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格ないし税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価して行われたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。
 したがって、このような場合には、請求人らにおいて、評価通達の定めに従って評価したという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがある等、その評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」
 
相続税法における時価と評価通達による評価額の関係性を認定して、広く合理性を有する旨の推定の作用、そしてその評価額における争い方として、算定プロセスの合理性若しくは、不動産鑑定評価などの資料によって評価額が時価を上回るものであると主張立証しなければならないと、判断プロセスを限定的に判断している。この点は従来と基本的に同様であり、このプロセスにおいて、不動産鑑定評価における評価額の合理性が争われ、鑑定評価を用いることの是非が判断されるものと判断している。

このように、本件における中心的な争点は請求人が用いた不動産鑑定評価が相続税法における時価として妥当であるのか否かという点がである。但し、最終的には財産評価基本通達による評価に基づくものであるとしており、この対比によって如何なる時価が相続税法において要求されているものであるのか、という点が課題となっている。22条は上記のようにその時価をもって相続財産の価額として折、時価とは取引等の行為で決定されるものであって本来ならば、その概念として多様な金額を含むものと考えられる。しかしながら、学説判例ともに、かかるような本来的に幅のある概念である時価に対して、客観的な交換価値をいうものと解しており、この点において本件も整合的である。すなわち第三者が関与するような市場取引を通じて客観性が認定されることを要請しているものであり、租税法規における基本的な要請においても合致しているものと考えられる。かかる点は異論がないところであり、財産評価の各種方法においてもこの要請と合致しているのか否かという点が求められるものと考えられる。

しかるにこの枠組にて本件における不動産鑑定評価の合理性が問われるものといえるが、単なる交換価値となるような金額を測定する・認定すれば足りるものではなく、客観性が重要であり、この検証が行えるかどうか、すなわち評価鑑定プロセスにおいて検証可能であるのかという点が重要な点であり、この点における評価が本件判断を左右している。

具体的には、本件においては収益還元価格法の採用が行われている。この評価方法の相続税法における活用の是非については従来多様な議論が行われているものであるが、本件もその類型に属するものである。まず実際に行われているものが、割合法評価との対比において、価格差を支える理由付の不備である。他にも割引率(約3.5%)の選定理由の明示がない、というように鑑定評価におけるプロセスの記載がなく、検証可能性に欠けていることが問題視されている。つまり、市場が形成されず、鑑定によって評価を行う以上、一定の見積もりが介在することは避けようがないものであるが、恣意的な評価を行うことは上記のほうが求める要請として客観的な時価としての要件を充足するものではなく、公平性を担保しているものであるとは、評価し得ないとしている。また、借地権評価においても、鑑定基準に従ったものではない、加味すべきではない要件を付与している等、その客観性を失わせる状況が、客観性を判断する上での不適格な要因が存在したことが本件判断における不動産鑑定評価の劣位を決定づけたものといえよう。

しかしながら、このように考えると、原則的な評価としての推定を受ける財産評価基本通達及びそれに基づく評価が如何に位置付けられるのかという点が課題となる。すなわち財産評価基本通達は単に通達であり、法源性を有していない。かかる点からは現状において通達による評価が原則的な位置付けを受け、実務における基準として認定されていることは租税法規の基本的な要精に照らして担保し得ない。しかるに、この位置付けを如何に捉えているのかという点が問題となる。私見としては、上記のように相続税法が、客観性に裏打ちされた交換価値を対象として要請しているという点から(及び判例も)課税庁において、統一的に一律に評価を行うことは執行の公平性や客観性を確保する上で、上記相続税法が客観性を要請することで租税負担の公平性と恣意的な課税を防止する趣旨であると解するならば、この評価通達における一律の評価は、二重の意味で合理性を有していることとなる。しかるに、上記のように、一定のプロセスの評価において客観性の確保が保証された場合においてのみ(このような限定された状況下に於いてのみ)当該評価額が財産評価通達評価額を上回っていることが明らかな状況下であることを捉えて初めて、当該評価通達の時価としての推定を覆しうるものと考えられる。このように厳格な推定を覆す要請が働いているものと解すべきであろう。しかるに評価金額の高低のみが問題となるものではなく、このような判断枠組みは租税法規において不適切として捉えられていることは留意すべきであり、ここに財産評価基本通達の法に根拠規定を置くべきであるのか、あるいは、例外的な状況を如何に判断すべきであるのかという点を検討する必要性が発生することになろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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