2017年11月21日火曜日

判例裁決紹介(平成28年12月12日裁決、保証債務に履行に伴う資産譲渡における譲渡所得の特例の適用要件)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年12月12日裁決で、保証債務に伴う所有財産の譲渡に伴う譲渡所得の特例に関する適用要件が争われた事例です。

具体的には、本件はかつて法人の代表取締役であった請求人が主たる債務者たる法人に対して連帯保証契約を締約していたことに対して、当該保証債務に対して主たる債務者の履行が不能となり、請求人の所有する財産を譲渡した事により連帯保証人としての対応を行った場合において、当該履行に伴う資産譲渡につき、下記所得税法64条2項にさだめある保証債務履行のための所得計算の特例の適用対象となるものであるのかという点が争いになったものであり、特例適用を求めた更正の請求の主張に対して、その適用がないとした通知処分に対して不服として提起したものである。すなわち、請求人の求める当該適用の要件たる求償権の行使不能の状況が発生したとしての更正の請求が認められるか否か、つまり、求償権の行使が全部若しくは一部が不能となっているのかという状況が、主張のタイミングにおいて達成されているのかという事実関係に該当すると事実認定が可能であるのかという点が中心的な争点となっているものである。請求人としては当該連帯保証契約の履行の目的となる資産の譲渡に伴う所得は、求償権の行使不能が確定した段階で所得に対する権利が確定したものとして所得を認定し、本特例の適用によって所得がなかったものとみなされると主張したのに対して、課税庁としては、資産の譲渡として所有権の移転、登記に基づく事実関係によって権利確定主義による判断になるものとして主張が争われている。結果、最終的には判断として、かかる点の解釈の範囲拡大、事前段階での保証契約の有効性等も争点とされているが、求償権の行使可能性が否定されるべきとした対照が主たる債務者のみならず、他の連帯保証人に対する求償権も含むという解釈ににおいて、本件の事実関係のもとでは、行使可能性が否定的に捉えられる状況にはないということで請求を棄却する判断が行われている。実務上、本件のように連帯保証契約の目的のため資産を譲渡し、かかる部分に該当する所得の発生をなかったものとする規定を適用するケースは多用されるものであるのかという点は興味深いものであるが、かかる点以外にも債権回収・貸倒れ、保証債務における求償権の行使可能性の租税法規における判断を行う上での留意、特に単なる履行のための譲渡であるのみでは足りないという点を留意点として把握するべきことなどを認識する上では、実務上も有益性を有するものではないだろうか。また、今後の民法改正による保証契約、特に連帯保証契約の変更は主要なトピックの一つであり、かかる点においても租税法規における保証債務の履行における取扱を検討する上で有益の一つであるのはないだろうか。

所得税法における所得のタイミングとしては権利の確定をもって行うとする権利確定主義は、ほぼ我が国の所得税法としては確立した原則であり、本件のような特殊な要因に基づく譲渡において例外的に適用が可能であるのか否か、当該特例の適用も考慮され、求償権の行使不能が確定したタイミングまで、譲渡による所得を留保し、もって特例の適用が可能であるのかということで争いがあるものとも本件は評価できようが基本的にかかる時点まで拡張的に解することが可能であるとする理由付けが明示的ではない。確かに下記法文上は、資産の譲渡と保証債務の履行若しくは求償権の行使不能が明らかになったタイミングは、特段の関連性を必要としていないものと解することは困難ではない。しかしながら本件特例は、包括的に所得を構成し、幅広くその所得を認識する所得税法の基本原則の例外規定として存在しており、社会通年に基づき、実質的な所得対象となる金員等が譲渡人の支配関係にない状況から形式的に所得の発生を反映させるべきではないとの判断に基づくものであり、譲渡の場合に限定して、所得をなかったものとみなす規定であり、資産の譲渡と関連性が要求されているものと解することが妥当であろう。確かに実務上は特に、連帯保証契約において催告の順位付けにおいて特段の要請をなし得ない状況にある以上、求償権の行使可能性が否定されるべき状況であることが判断されるタイミングは必ずしも譲渡と同時期であるようなことは必ずしも限定されているものではない事例が多数存在することは想定されうるものである。かかる点において、この譲渡のタイミングと所得の発生を限定的に捉え、かかる部分の所得の納付を留保するような処理は、立法論としては考慮には値するものともいえよう。

(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)
第六十四条 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
2 保証債務を履行するため資産(第三十三条第二項第一号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときはその行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。
3 前項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定の適用を受ける旨の記載があり、かつ、同項の譲渡をした資産の種類その他財務省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。

また、本件特例の適用にあたっては、保証債務の履行のための資産の譲渡であることと(そもそもこの目的を如何にして認定評価していくことは目的が主観的な要因であることからも議論は余地がある、譲渡においてはその旨を明らかにする事が必要であるだろう)並び、上記のように履行に伴う求償権の行使可能性がその具体的な要件になっている。かかる点につき、本件は特例の適用要件を以下のように、具体的に判断している。

所得税法第64条第2項は、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額を、同条第1項と同様に、譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなすこととしている。本件特例を適用するためには、納税者が、①債権者に対して債務者の債務を保証したこと、②この保証債務を履行するために資産を譲渡し、保証債務を履行したこと及び③この保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことが必要であるが、「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権を行使すべき相手方の資産状況及び支払能力などから客観的にみて、債権回収の見込みのないことが明らかになった場合をいうと解される。
主たる債務者に資力がないため求償権の行使がそもそも不可能であることを知りながらあえて保証をした場合には、最初から主たる債務者に対する求償権を前提としていないものであり、むしろ保証人において主たる債務者の債務を引き受けたか、又は主たる債務者に対し贈与をした場合と実質的に同視できるのであるから、同条第2項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」との要件を欠くものと解するのが相当である。

本件における主要な論点もこの点にあり、上記のような資産の譲渡との関連、タイミングの問題のみならず、行使可能性が判断されるべき対象が如何なるものを含むものであり、また、如何にしてその行使可能性が否定されるべき状況にあるのかという点を明らかにすることができるのかという点が、本件特例の適用要件として重要な点となるものである。上記のように本件はこの対象範囲において主たる債務者への求償権のみならず、他の連帯保証人の存在も含む、求償権の行使可能性が、法令の意図するところであり、かかる点において、行使可能性が未だ否定されるべき状況にないタイミングでの所得の発生を否定する状況としている請求原因を排している。かかる点につき、以下のように、そもそも履行対象となる保証契約の範囲を民事法の規定に基づき、通達において捉えていることからも、租税法規の基本的な要請として民事法との整合性は原則的な判断であり、法において明示的な判断を行う旨の規定が存在せず、趣旨目的からもかかる点は否定されるものと考えられ、かかる点においては合理性を有するものといえよう。

保証債務の履行の範囲)

64-4 法第64条第2項に規定する保証債務の履行があった場合とは、民法第446条《保証人の責任等》に規定する保証人の債務又は第454条《連帯保証の場合の特則》に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合のほか、次に掲げる場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当するものとする。(昭56直資3-2、直所3-3、平17課資3-7、課個2-25、課審6-13改正)
  1. (1) 不可分債務の債務者の債務の履行があった場合
  2. (2) 連帯債務者の債務の履行があった場合
  3. (3) 合名会社又は合資会社の無限責任社員による会社の債務の履行があった場合
  4. (4) 身元保証人の債務の履行があった場合
  5. (5) 他人の債務を担保するため質権若しくは抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は質権若しくは抵当権を実行された場合
  6. (6) 法律の規定により連帯して損害賠償の責任がある場合において、その損害賠償金の支払があったとき。

しかしながら、上記判断の後半部分に関しては、議論の余地がある。すなわち、上記のように求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」の解釈として、保証契約の締約段階から既にその行使可能性が否定されることを知りながら保証契約を行った場合も実質的な贈与であるとして、その適用対象と捉えることを行うべきではないとの解釈を行っている。かかる判断の根拠が如何なるものであるのかという点は定かではなく、実質的な贈与に該当するものであるとの点にその根拠を求めているものと推察される。この点につき最終的な判断としては、かかる点において、確かに契約段階では赤字であり資産状況は債務超過の段階であったものの代表取締役として改善の可能性を考慮したものであり、その該当性を否定しており、実質的には本件の判断においては影響がないものと捉えられるところではある。しかしながら、実質的な譲渡として経済的な効果を持つことは否認されるものではないものの、かかるような経済的な供与は贈与税等の法文において議論されるべきものであろう。また所得の発生を否定するものとして特例として本件特例は理解されるが、あくまでも明示的に求償権の行使可能性が喪失したことを要請しているものであって、契約の段階から事後的な状況に応じて適用を判断する構成となっていることは明らかである。本件特例において保証により譲渡による所得発生の実質的な代替を回避すべきとする趣旨を含むものと解し、上記のように求償権の行使可能性によるものを契約の事前段階の状況まで含むものと解することが可能とすることも指摘としてはありえようが(軽減措置であり、厳格な解釈を要求するべき法規定であるとの認識が背景にあるものとも考えられる)、求償権と明示的に規定し、保証契約の事後的な状況をもって適用要件としている法文であり、また、上記のように資産譲渡時における状況を反映させる規定ぶりに依拠するならば、かかるように事前の実質的な贈与と認定し、適用範囲を実質的に限定するような解釈は、民事法における契約の評価はともかくも、租税法律主義を大原則とする租税法規の基本的な要請に反するものではないだろうか。以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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