2017年10月7日土曜日

判例裁決紹介(千葉地判平成28年4月19日、信義則の適用要件)

さてまた興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判平成28年4月19日で、原告がなした確定申告における医療費控除の適用を巡って信義則の適用があるのか否かという点が争われたものです。

具体的には、原告がその確定申告において、母親の介護事業者への支払を医療費控除の対象であるとして、複数年度に渡り申告していたところ、これは対象外であるとして更正処分を受けたため、過年度の申告において医療費控除対象として取り扱われていたところ、申告年度においてその取扱を変更することは、信義則に反するとして提訴したのが本件である。すなわち、過年度の申告についての取扱が適用変化に対する歯止め、抑制として働きうるものであるのか、信義則の適用の要件に該当するのかという点が中心的な争点となっているものである。従って本件は事実関係と租税法規における信義則の適用要件が如何なるものであるのかという点が争われたものであり、当該要件の具体化を図る上で参考となると捉えられる事例である。基本的に(司法制度上当たり前であるが)、租税法規における信義則の適用に関しては最判が示した下記のような要件が用いられており、本件においてもその解釈に変更はない。本件における事実関係において、その解釈に対する当てはめが問題となるものであり、最判の要件をより具体化するものといえる。本件の事実関係においては、納税者の信頼を保護すべき状況にないとの判断であり、原告納税者自らも過年度の申告において、課税庁の指摘をうけ、本件申告前に修正申告を行っており、当該申告においては既に医療費控除の対象とならないという点は認識していたとの認定を行っており、原告の帰責性を疑う余地はないものと考えられる。この点は、特に異論がないところであり、かかる点から考えれば、本件は単なる納税者のミス等に基づくものが訴訟となったものであるともいえるかもしれない。


租税法律関係において信義則が適用されるためには①租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②公的見解の表示への信頼に基づき行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく、納税者の信頼が保護に値すること、③納税者が公的見解の表示を信頼し、その信頼に基づく行為をしたことという要件が必要である。

本件においても、上記のように最判の示した条件をもって判断を行っている。最終的には当該申告に先立ち指摘を受け、過年度の医療費控除につき修正申告を行っており、かかる点において納税者が公的見解を信じ行動を行ったかという点において信頼を保護すべきものとしては妥当ではないという判断を行っている。かかる事実関係の処理は常識的な判断であろうが、ここで一般的に疑問となるのは、このように、過年度の申告等があるいはその是認が公の見解に該当するものであるのかという点が疑問となる。確かに積極的な課税庁からの情報提供とは異なるものの租税の専門技術性を鑑みるに、複数年度に渡って申告を是認、申告を容認されていた状況は納税者の保護されるべき信頼を形成するものではないのかという点が疑問を覚えるところである。

この公的な見解の性格に関しては、特に信義則の適用要件として、さらにこの租税法規における信義則の適用に関しては旧来より議論があるところであるが、最判が示すように、民事法とは異なり、その適用は租税法律関係においては、他の納税者との公平負担の要請を鑑み、限定的に捉えられ、条件が付与されているものと解される。私見としては、そもそも信義則の保護対象となる納税者の信頼とは内心に属するものであり、かかる点を立証し保護に値するか否か比較衡量を行うことは非常に困難であり、かかる適用を認めることは納税者・課税庁双方において恣意を介在させる結果となる可能性もあり、極めて限定的に捉えられるべきであり、公の見解のように客観的な資料等に基づく行為であることの立証が必要であると考えられる。またそもそも租税法の基本的な要請である公平負担の原則を犠牲にしてもなお、保護すべき対象となるべき信頼とは如何なるものであるのかという点は明らかとは言えない。本来ならばかかる点から具体的な要件が導かれるべきであるが、しかるに、公的見解を適用の条件としている以上、その具体的な内容が如何なるものであるのかという点がより詳細に検討されるべきであり、かかる点は信義則が保護すべき納税者の信頼を確定することにもつながるものであろう。

より具体的には本件のおいて示唆されるように、過年度の申告の是認、複数年度に渡る申告状況が公の見解に該当するのか否かという点を検討するに、あくまでも黙字の見解にとどまるものであり、課税庁からの積極的な情報提供、見解の表示には該当していない。たとえ租税の専門技術的な性格を考慮したとしても、納税者自らの自身の租税負担を最も把握しており、自主的に申告することで、適正な納税負担を図ることをその前提としている申告納税制度の下においては、調査権限を課税庁が有しているといえど、納税者の申告等の行為を左右するものとして積極的な示唆を与えるものではなく、他の納税者との公平性との比較衡量において保護すべき納税者の信頼を形成するものと評価することは困難であろう。あくまでも公的見解としては権限のある課税庁による積極的な見解の表示に限定的に捉えるべきであろう。しかるに信義則適用の公の見解が単なる納税者への便宜提供のような場合にまで拡張的に解されるべきであるのかという点は消極的に解されるべきであると捉えられる。確かに租税は非常に専門的な分野であり、課税庁の意見表明は信頼されるものと捉える人もも多いだろう差異を設けるものではなくという見解も成り立つ。しかしながら、税理士の関与など納税者の状況は様々であり納税者の状況も多様であることから申告納税制度が形成されているものであり、単なる一般的な説明にとどまるものまで対象となると考えることは租税法律主義に反する状況を生み出すことになりかねず、不当利得等にて救済されるべきものといえる。もちろん、賦課課税方式においては異なる状況も考えられようが、あくまでも公的見解としては黙字のレベルは包含されず、勧奨など行為を促すような状況において発生した見解にとどまると解すべきである。


以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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