さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成をしました。今回は平成29年3月3日裁決で、不動産所得として非常に低廉な金員を受け取っていたことに対して不動産所得として該当するか否かということが争われたものです。
具体的には、不動産貸付を行う請求人が息子が経営する法人【法的な所有関係がないものであり、親族関係による一定の関係性が通常の第三者との関係とは異なる状況にあり、同族会社の行為計算否認の法理は適用できないものと想定される】、との間で隣接地の一般貸し付けとは異なる賃料で不動産を貸付ける契約を締約し、当該不動産の固定資産税相当額の2割程度の金員を受領していた事実関係において、当該金員を不動産所得であるとして確定申告を行ったことに対して当該金員は非常に低額であり、関連会社への正確には、その経営する息子に対しての経営支援の目的をもった貸付けとして使用貸借であって当該貸付けは不動産所得を生ずべき事業ではないとして更正処分を行った事例であり、申告により必要経費を計上し超過した損失を損益通算を行ったことを否定したことが中心的な争点となっているものである。より具体的には本件の事実関係における使用貸借、経営支援目的の貸付が不動産所得を生ずべき貸付けに該当するのか否かという点が課題となっており、かかる判断の前提として、所得税法26条に定める不動産所得の貸付に該当するものであるのか、如何なる意義を有するものであるのかという点が本件の起因となっているものである。
本件における貸付は特殊な関係性を前提としたものであり、試験としては租税負担の回避のような目的意識を有しているものと判断するよりも経営支援の目的に基盤がおかれるものであるとの判断が行われるようにとらえられるが、そもそも不動産所得に関してはかかるような特殊な関係性を前提とせずとも不動産所得としての該当性が事業的規模を要するものであるものとして議論される。その代表例は下記の様に事業的規模を争う事例としても代表される。そもそも私見としては、課税要件として如何なる要素をもって事業的規模を導いているのか、如何にして事業をとらえ、その判断基準を解するべきであるのかという点が課題であり、租税法規の基本的な要請たるものから考えて妥当であるのかという点が課題であると考えられる。本件も使用貸借という特殊な事実関係の認定が争われている事例ではあるが、如何なるものが不動産所得であるのかという点が租税法規の解釈上議論されるべきものであり、本件もこの類型に属するものとして有益性を有するものと考えられる。
(不動産所得)
第二十六条 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
(使用貸借)
第五九三条 使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
上記のように本件の中止的な争点は、本件不動産の貸借における金銭の受領が事業としての不動産所得に該当するのか否かという点について上記民法による使用貸借に該当するのか否かという観点から議論されているものと考えられる。下記のように判断では解釈として不動産所得は事業として貸付けであることを求めており、その意義としては対価を得る、目的としているものであるとして、不動産所得としての貸付に対して使用貸借は該当しないとの判断を導いている。かかるような事業としての要件、方向性を求めるものである、対価を目的とする点は従前の判断と整合的であるように考えられる。そもそも対価とは如何なるものであるのかという点は疑問を持つところではあるが、本件は固定資産税額との対比ににおいて非常に僅少であり、実際の金額としては500万円を超過するものであるが、合理性に欠けるものであるとして特殊な関係を前提とした経営支援などを目的とする使用貸借であるとして判断していることが問題となっている。そもそも僅少ながら対価を受け取っている本件を使用貸借として判断することの是非、民事法の関係性が無償を基礎とする使用貸借として、単なる必要経費を負担しているに過ぎないとして否定的にとらえることに違和感を覚えるが、不動産所得としての貸付の意義として使用収益が含まれえないものであるという点はそもそも不動産所得が事業的、営利性、対価を求めるものであるという点を基礎とする以上、その合理性は否定しようがないものといえよう。
「所得税法第26条は、不動産所得とは、不動産等の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいうと定めている。したがって、不動産等の賃料が不動産所得の総収入金額に算入されるためには、当該賃料が不動産等の貸付けによる所得に該当することが必要である。そして、不動産等の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方に不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解されるから、不動産等の賃貸借から生ずる賃料はこれに該当するが、対価を伴わない使用貸借については、借主から貸主に対して金員の交付等があっても、それは当該不動産等の経費の一部の支払にすぎず、不動産等の貸付けによる所得には該当しないと解すべきである。」
しかしながら、上記判断の後半である部分に関しては議論の余地がある。金額的には僅少であるものの対価を当事者間において移転しており、通常の用法としては対価を得ているものとして捉えることは必ずしも否定できない。本件では経費の一部負担に過ぎず、使用貸借としての該当性を否認するものではないとしている。かかる点は如何なる法令上の根拠に基づくものであろうか。使用貸借という点において多少の金員の支払いに関して(通常の経費負担)までも含むものであるとの解釈が民事法において成立しているものであるとの点に基づいているのか、それとも不動産所得の解釈としてその基本的な性格から営利性等を要請するものであり、対価において通常の取引における金銭の支払いを想定しているものであるのかという点は判断が分かれよう。
上記のように対価という用語の解釈に依拠するものであるのかもしれないが、租税法規において契約上の支払いの効力を否定する以上、何らかの根拠を要請するものと解することが必要であろう。対価を目的としている不動産所得としての法令解釈としては対価以外の目的の存在を否定するものではなく、何らかの事業目的の存在を排除しているものではないものと考えられる。本件においては経営支援という一定の対応、目的を達成していくためにかかるような対価関係の契約が選定されているものであると捉えられるが、最終的な判断は請求人の主張立証がその意図について主観的であるがゆえに変化はないものともいえるが(かかる点で本件の最終的な判断の結果は変わりないものといえるが)、法人税法における役員給与の相当性を否認する規定の存在のように、如何なる基準においてその租税法規における根拠を否定する以上明示的な対応が必要であるように考えらえる。民事法において使用貸借において一定の対価関係においても成立し得ることは否定しようがないのかもしれないが、租税法規において無償であるものと異なり、一定の対価関係の支払い関係が想定される以上、使用貸借であり貸付けに該当しないといって不動産所得としての該当性を否認することは飛躍があるのではないだろうか。そもそも事業における如何なる目的を有するものであるのかという点は、たとえ低廉であっても広告効果などの一定の目的意識との対応において合理性を有するようなケースは想定されるものであり、単にたとえ、金額的なものとして無償、低廉であるからといって営利性を有していない、対価を得ていないとして判断することは妥当ではない。単に営利性を金銭的な判断のみをもって判断することは困難である。勿論客観性を重視する租税法規の基本的な要請からはかかる判断を許容することは困難であるとも指摘できる。しかしながら本件の経営支援目的の存在等の他の存在をもって営利性や対価性を否定することは困難であり、かかるような判断を行うことは租税法がその租税法規における効果否認をもって民事法における影響を及ぼし、民事上の契約にまで踏み込むことが懸念され、事業目的の実質的な審査、判断の検討を行うことになり、結果として事業主の判断や経営上の判断に介入することになるのではないだろうか。租税の基本的な原則として中立性に反するものとも考えられれる。対価を如何に考えるべきであるのかという点でもあるが、法人税法とは異なり、法文にない対価を営利性を目的としていることをもって正常な対価によるべきであると対価関係を引き直す規定であると判断することは困難でもあろう。
かかる点は不動産所得にに限らず、如何なる目的意識をもって所得を得るのかあるいは如何なる目的をもって経費支出を行うのかという点は、事業自身が多様であり多様な行為が想定される。この点につき、如何なる状況が租税法規において許容されるのかという点につき単に金銭的な状況【あるいは短期的な損益状況】が営利性の源泉であるとの判断は、一面的な検討であるようにも考えられる。客観性を如何に担保すべきであるのかという点も課題ではあろうが、そもそも租税法規一般において如何にして営利性をとらえているのかという点はより具体的に検討すべきではないだろうか。
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