具体的には、本件は請求人の所得税(消費税も含む)の納税義務を判定するに当たって、多様な論点を含むものであるが、まず請求人の調査時における帳簿不提示に伴う、正確な所得の把握ができないことに対することが発端となっているものである。しかるに基本的には所得を如何に認定するべきであるのかという点が中心的な争点であり、各種の具体的な争点は、当該算定に関わるものであって、一義的には事実関係の認定当てはめが課題となっているものであると捉えられる。争点としては帳簿不提示に伴う青色申告の取消、農業所得の帰属、裁判上の違約金の譲渡費用該当性などが問題として扱われている。中心的な争点である譲渡費用及び所得の帰属に関しては、基本的な通達の解釈に従っているが(裁決である以上当然ともいえようが)、本件の意義としては、かかる通達の示している条件、基準に対して、具体的な事実関係を如何に当てはめるべきであるのかという点が問題となっているものであり、かかる点において実務上も(おそらくこのような納税者は歓迎すべき対象ではないであろうが・・・)参考となるものと考えられる。
まず、本件における主たる争点である農業所得の帰属に関しては、本件においては他所得との損益通算を考慮して、当該農業所得を発生させている農地の所有者である請求人自身が当該所得の帰属を主張し自らの所得であるとして申告しているのに対して、処分行政庁は、実質所得者課税(所得税法12条)を適用して請求人に当該所得は帰属せず息子に帰属するものであると判断している。実質所得者課税の原則の適用に関しては、下記のように当該条文規定の適用要件の解釈を巡って、従来、特に実質的な所得の享受をなすものが如何なる者であるのか、それを如何なる基準に基づき認定すべきであるのかという点につき、議論対象となっている。本件もその類型に属するものであり、具体的な適用範囲を検討する上で参考となるべき事例であるといえよう。特に通常とは異な理自らの所得であるとして申告したものが否定されることに対して通常訴訟等では帰属を自身において否定する架空名義の対象者を問題の俎上に上げることが多いのに対して本件は、自身ではなく、親族との間での所得の帰属関係を問題視しているものであり、かかる点においては特徴的な事案であるといえよう。
本件では、各種所得のうち農業所得、特に土地の活用による所得類型である農業所得を対象としたものであり、実際の農業の収益に関する享受を行っている者が如何なる者であるのかという点が中心的な課題であり、農地の非保有者である課税庁が認定した親族と農地を保有する請求人との間で所得の帰属関係を巡って闘いとなっているものである。最終的には農業協同組合等の外部団体との取引の状況を主たる要因として当該行為の名義をになっている、親族をもって所得の帰属者であると判断し、事実認定に基づいて、農業所得の帰属者を農地を保有している請求人であるとした主張を退けている。しかしながら、収益を稼得する上で不可欠である農地の所有関係を、保有関係を考慮せず実際の収益の帰属者であると判断していない点は興味深いと考えられる。
第一二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
親子間における農業の事業主の判定)
12-4 生計を一にしている親子間における農業の事業主がだれであるかの判定をする場合には、両者の年齢、農耕能力、耕地の所有権の所在等を総合勘案して、その農業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が当該農業の事業主に該当するものと推定する。この場合において、当該支配的影響力を有すると認められる者がだれであるかが明らかでないときには、次に掲げる場合に該当する場合はそれぞれ次に掲げる者が事業主に該当するものと推定し、その他の場合は生計を主宰している者が事業主に該当するものと推定する。
(1) 親と子が共に農耕に従事している場合 当該従事している農業の事業主は、親。ただし、子が相当の年齢に達し、生計を主宰するに至ったと認められるときは、子
(2)
生計を主宰している親が会社、官公庁等に勤務するなど他に主たる職業を有し、子が主として農耕に従事している場合 当該従事している農業の事業主は、子。ただし、子が若年であるとき、又は親が本務の傍ら農耕に従事しているなど親を事業主とみることを相当とする事情があると認められるときは、親
(3) 生計を主宰している子が会社、官公庁等に勤務するなど他に主たる職業を有し、親が主として農耕に従事している場合 当該従事している農業の事業主は、12-3のただし書に準じて判定した者
通達においては実質所得者課税の原則の歴史的な経緯から、農業所得の判定においては当該事業主を判定する基準として、親子間や親族間においていかなる場合を有しているかによって当該所得者としての推定を行う解釈を示している。本件においては上記の通達の基準は特に用いられておらず、かかる点ではいかなる理由に基づくものであるのかという点は定かではない。主として経営をになっていることを事業者として収益を帰属している者であるとの一般的な判断基準を適用して判断をしているように捉えられる。最終的な判断において結論が変わるものではないともいえるが(特に本件の事実関係においては)、通達が実際の農業への従事状況において判断を行い、農業の経営方針への支配的影響力の有無を問題として捉えていることと実質的な経営の状況を第三者における取引状況から判断している点は相違しているとも評価しうるものである。しかしながら、上記の解釈においては生計の主宰や支配的影響力の存在を基礎として判断を行うこととしているが、当該生計の主宰や支配的な影響力とはそもそも明示的な概念は評価しうるものではなく、本件の用に対外的な第三者との取引において、如何なる状況をもって収益を帰属しているものと判断される状況にあるのかという視点から判断していることは、客観的な判断を導くものであり、上記概念における恣意の介在を廃するものであり、租税法規の基本的な要請に合致するものと評価されるものではないだろうか。
しかしながら収益の享受関係を認定するにあたっては、本件のように不動産の所有関係も判断要素として機能しうるのではないかと考えられる。本件では不可欠な資産である農地の保有関係は必ずしもカウントされていない。上記のように、経営を収益帰属の判断要素としている点が観察されるものであるが、第三者との取引状況において客観性を担保したとしても経営とはそもそも幅の存在している概念であり、当該意義は必ずしも明示的なものであるとは評価し難い。かかるような状況においては、恣意の介在や法的な安定性の確保においてリスクを抱えたものであると考えられるのではないだろうか。本件の認定にとどまらず経営という状況を如何に捉え、租税法規において反映させるべきであるのかという点は役員給与等幅広い点において、租税法として課題となるべきものというべきであるが、所得を稼得するに当たって不可欠な資産(技術等も含む)がいかなる者に帰属し、管理運営されているのかというような状況も加味した総合的な判断がより合理的な所得の帰属、実際の享受関係を示すものであるようにも考えられよう。
以上です。
毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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