さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月
29日裁決で、消費税の納税義務に係る電話照会でのご指導、特に調整対象固定
資産に関するご指導によって発生した附帯税の宥恕対応が焦点となった事例です。
具体的には、本件は太陽光発電等を取り扱う法人である請求人が、設立後、調整
対象固定資産を取得し、もって消費税の納税義務が発生しているものとして税理
士等が申告を行っていたが、税務署より納税義務に関するお尋ね文書が送付され、
それに対する税理士による照会(電話)による誤指導があったことにより、調整
対象固定資産の制度を適用がなく、基準年度における売上等から納税義務がない
ものとして申告をおこなわかった状況下において、後日、実際には当初の想定通
り納税義務がある状況であったことが判明し期限後申告を行ったところ、無申告
加算税の賦課が行われたことから、当該賦課における宥恕対象としてこのような
誤指導が原因であったものであり、正当な理由が存在するとして争われた事例で
ある。
本件の起点は、税務署からの一般的なお尋ね文書の送付によるものであり、この
ような送付があることが納税者にとっては、税務署の指導を裏付けるものである
として当該指導を信じたことに納税者の帰責性は存在しないとして、不服を提起
したものである。税理士という専門家が関与している段階で、このような税務署
の送付のような作業の誤解を信用したことは責められるべきものであろうが(専
門家責任として過失はあるだろうが)、納税者の立場からはこのようなお尋ね文
書の存在は、税務署の何らかの通知として理解することは大いに想定されるもの
であり、一定の納税者の主張は理解できるものであろう。本件の事実関係では係
る送付への対応としていったん照会作業を行っており、基本的にはそのタイミン
グにおける誤指導を起点としているが、その対応によっても正当な理由を構成す
るものであるのかという点が争いになっているものである。課税庁としては、正
当な理由の成立そのものよりも、調整対象固定資産に対する言及、納税者からの
照会において説明があったのか否かという点を否定的にとらえており、いわば、
誤指導そのものの存在を否定している。最終的には判断でも課税庁の主張を捉え、
納税者、税理士が作成した申告書におけるメモ書き等の資料は誤指導の存在の裏
付けとしては認定していないということから納税者の主張を排斥している。
現在は、本件のように課税庁からのお尋ね文書の存在は非常にポピュラーとなっ
てきているものであるが、この位置づけはどのようなものであろうか。本件のよ
うに納税義務の誤解の起点となるような状況は今後も想定されるものであるので
あろうか。そもそも法令上かかるお尋ねがどのような評価を受けるものであるの
かという点は定かではなく、実務家としてはこのような書類に対してはどのよう
な取り扱いをしているものであるのかという点は一度聞いてみたいところ。多く
の場合、納税者においては困惑の原因となるのではないだろうか。特に本件のよ
うに消費税の納税義務における判断は非常に重要な判断であるが、形式的な処理
でもあり、専門家としては留意すべき点であろう(よくミスが発生しているとこ
ろであるだろう)が、このような誤指導はやり取りにおいて想定されうるもので
あり、本件のようにメモ書きのような対応は、ごく一般的なものであろうが、本
件のような正当な理由の判断枠組みにおいては不十分であることもまた認識され
るべきであろう。かかる点においても本件は興味深い事例ではないだろうか。
(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該
各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等に
よる納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は
第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたこと
により当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでな
いときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課
する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると
認められる場合は、この限りでない。
以上のように本件では、その中心的な争点となっている部分として上記無申告加
算税における正当な理由の存在が認められるのか否かという点を課題としている。
基本的には本件の事実関係、特に、調整対象固定資産(調整対象固定資産の取得
があったことは問題とされていない)に関する誤指導の起点として照会のタイミ
ングにおいて適正な説明が納税者からなされたのか、資料の提出があったのかと
いう点が主に争われている。
(新設法人の納税義務の免除の特例)
第十二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(昭和二十六年
法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表
第一に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定め
るものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の
金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。
)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間
(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十
一条第三項若しくは第四項若しくは前条第一項若しくは第二項の規定により消費
税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産
の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しな
い。
2 前項の新設法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(第
三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)中に調整対象固定資産
の仕入れ等を行つた場合には、当該新設法人の当該調整対象固定資産の仕入れ等
の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後三年を経過する日の属する課
税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課
税期間及び第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一
項、第十一条第三項若しくは第四項、前条第一項から第三項まで若しくは前項の
規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)に
おける課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規
定は、適用しない。
本件判断では下記のように、その正当な理由の説明の法解釈として以下のように、
示している。納税者の帰責性などの点は、従前の判断と整合的であり、本件のよ
うな相談、照会のような行政の処分等の行為ではなく、あくまでも立法の裏付け
のない作業、行政サービスに対しては、その成立があり得るのかという点が問題
になる。本件では極めて限定的な状況であるが、十分な資料の提出、説明等が条
件として付与されているが、必ずしも行政サービスにおける正当な理由の成立は
否定されていない。しかしながら、十分な資料等の存在が前提であり(そもそも、
十分とは主観的な判断であり、いかなるものを要求するものであるのかという点
は不確かであり)、照会のような状況下において、電話相談などにおいては実際
のところ、課税庁に十分な責任を負わせることは適当ではないことも理解されよ
うが、納税者においては課税庁の行為の類型においてその差異が存在することに
納得がいく意見を持つものは少ないだろう。この点は立法に属する問題であろう
が、現実的な照会や電話相談等の対応と誤りの発生は、如何に救済されるべきで
あるのかという点は慎重な考量が必要となるように考えられる。
「無申告加算税の趣旨からすれば、通則法第66条第1項ただし 書に規定する
「正当な理由」があると認められる場合とは、期限内申告書が 提出されなかっ
たことについて、真に納税者の責めに帰することのできない 客観的事情があり、
上記の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税 を賦課することが不当
又は酷となる場合をいうものと解するのが相当であ る。 そうすると、納税者か
らの納税申告に係る相談や質問について、「正当な 理由」があると認められる
場合としては、例えば、納税者から十分な資料の 提出及び説明があったにもか
かわらず、税務職員が納税者に対して誤った指 導を行い、納税者がその指導に
従ったことにより無申告となった場合で、か つ、納税者がその指導を信じたこ
とについてやむを得ないと認められる事情 がある場合など、無申告となったこ
とについて真にやむを得ない理由がある ため、無申告加算税を課することが不
当又は酷となる場合などがこれに当た ると解される。」
以上のように、本件では、行政サービスにおける相談等における状況下であるこ
とから、正当な理由の成立を十分な資料等の裏付けがあることを要求しているも
のと解して、非常に限定的に判断の基礎を構成している。無申告加算税における
正当な理由の存在そのものが問題となる以上は、上記の枠組みは、基本的には是
認されるものと考えられるが、ゆえにメモ書き程度の資料では、誤指導そのもの
の存在を裏付けるものとして認定されがたいことは、留意されるべきであろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いで
すが参考までに。