2019年12月21日土曜日

判例裁決紹介(平成30年2月6日裁決、関与専門家へのUSBメモリの引渡しと相続税申告における財産の漏れ、重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年2月6日裁決で、相続税の申告漏れに関する重加算税の成立が認められなかった事例です。

具体的には、請求人が調査により指摘された相続税申告における申告漏れとなった現金(相続発生直前に相続人口座から引き出された現金)やその他財産(USBメモリに財産状況の示した書類を記載し、相続手続きの弁護士に交付しているのかという点も争点になっている)に関して、申告漏れがあったとして重加算税が賦課決定処分された状況に関して、その処分が取り消された珍しい事例である。すなわち、重加算税の賦課要件たる仮想隠蔽の成立があるのか否かが課題となっている事例である。重加算税の成立が裁決段階で認められる事例は少なく、本件は相続税の基礎たる財産の把握、計上漏れに対して起きた事例であり、その成立の回避は、参考となる事例であろう。

より具体的には、本件は当該現金が引き出されたものであることが起点となっているが、相続の実務に詳しいものであれば、周知のように死亡により口座が成約を受けると相続確定までは引き出し等が困難になる状況であり、かかる際に、入院費や葬儀費用として一定額を引き出すことは特に珍しい事例ではない。このような事実関係において、かかる現金が申告漏れをきたした状況が仮想隠蔽の状況に該当するのかという点が争われたのが本件の中心的な争点である。

仮想隠蔽の成立においては、その行為にあたって、当初から過少に申告することを企図していたことが、あるの否かという点が、意図的であるのか否かという点が認められることが必要とされるものであるが、本件では、この点において、関与している専門家に対して、財産資料が入ったUSBメモリを渡しているのかという点もあり、現金引き出しの事実は用意に把握できることから、その意図の存在を認めなかったものである。当初はこの専門家が当該資料の受け取りを否認していたことが仮想隠蔽の起点となったものとも考えられるが、結局の所、当該USBに入っていたものと同様のファイルが弁護士事務所のサーバーに保管されていたことが判明し、当初意図の認定が回避されたものである。

なぜ、関与専門家がこのような対応を行ったのかという点は定かではないが(おそらくは、この財産漏れは専門家が十分に財産状況の調査を行いきれなかったことが原因のように思われる)、近年はこのような電子ファイルのやり取り重要な要因となってきているのであろう。調査の現場ではどのような形になっているのか(この点は実務家にも聞いてみたいところ)。従前、帳簿資料や財産資料が、調査における中心資料として考えられてきていたが、近年は裁判事例をみても、このような電子的なファイルの調査、メールのやりとり、契約書の内容確認などの事例が増加しているように認識されるところ(国際租税では随分以前から変わっていたものとも思われるが)、このような対象も含めた資料対応に対する調査制度、留置制度の検討が必要ともいえよう。メールやラインなどのやり取りが記録としてどの程度の価値を持つのか(一般の裁判でもこの評価が課題となることは多いようであるが)という点からも、租税法規における位置づけを再検討すべき時期に来ているのかもしれない。特に本件のような意図に代表される内心に関わる判断を行う上では、時系列での記録や日常的な判断の情報は重要な意義を持つものであり、租税回避の事例などにおいてもこの日常的なやり取りの記録を専門家としては留意しておくべきであろう。


重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年12月13日金曜日

判例裁決紹介(平成30年3月15日裁決、更正の請求と調査の違法性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月15日裁決で、共有していた国外財産の持ち分の移転に伴う贈与税の発生に伴って調査の違法性を基礎として更正の請求を求めたものです。

具体的には、請求人が保有している海外に所在する共有名義の財産持分を贈与したことに対して調査により贈与税対象(贈与税を修正申告)となったことを不服として、調査の違法性を根拠に、すなわち4名による調査が圧迫であった、意図的に贈与の把握から数年を待って加算税の対象としたことを理由として更正の請求を行った事例である。判断としては、下記のように国税通則法の規定を根拠として更正の請求を対象とはならないとして不服申立てを否定した事例である。調査の違法性を課題しする主張は数多く存在しているが、調査員の人数や加算税の発生を待っていたことなどが違法性を帯びるものと主張されていてる事例は稀であろう。結局のところ、更正の請求を対象とする争い方としては、法令の規定において、その対象として調査の違法性は明確に対象としてされていないことをもって、その主張は退けれられている。上記の点は最終的に違法性があるのか否かという点は明確に判断されていない。何らかの不服があれば即座に更正の請求を行うものであるのかもしれないが実定法以外にも手続法の重要性が垣間見られる事例であろう。

国税通則法
(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。


(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
二 民法第七百八十七条(認知の訴え)又は第八百九十二条から第八百九十四条まで(推定相続人の廃除等)の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第八百八十四条(相続回復請求権)に規定する相続の回復、同法第九百十九条第二項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。
三 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。
四 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があつたこと。
五 第四十二条第三十項(第四十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定により条件を付して物納の許可がされた場合(第四十八条第二項の規定により当該許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、当該条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関し政令で定めるものが生じたこと。
六 前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたこと。
七 第四条に規定する事由が生じたこと。
八 第十九条の二第二項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第一項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなつたこと(第一号に該当する場合を除く。)。

以上のように、法は、明文をもって、更正の請求の対象としての範囲を規定している。確かに調査の違法性は含まれておらず、この種の主張は考慮される可能性はないものと言えよう。なぜ、このような争い方をしたのか、通常の処分の取消を求めることは採用されなかった理由は不明であるが、更正の請求の対象としては実定法上の対象に限定されていることは改めて認識されるべきであろう。租税法規において上記のように更正の請求が制限されていることは、救済の対象が限定される等かねてより批判があるところではあるが、その議論は立法に属する問題であり、現状の調査に対する手続法に関する改正等が背景とされているとしてもこの点をもって更正の請求対象となりうるものであるのかという点は、明らかにその対象は現状とはかけ離れている。租税の特殊性、技術性も現状に置いて高まることはあっても緩和される傾向にはないものと考えられ、この種の調査手続の違法性に対する救済に関しては、現状の調査手続に対する不備、違法性による処分無効原因として極めて限定的な状況も含め、改めてその救済方法を検討するべき時期に来ているのかもしれない。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年11月24日日曜日

判例裁決紹介(平成30年5月18日裁決、慰安旅行費用と給与所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月18日裁決で、慰安旅行費用を法人が負担した場合における給与所得課税として対象となるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、本件は、税理士法人たる請求人がその役員及び従業員と海外旅行(6泊7日)へ行った(今どき、まだあるんですね少し驚きです)際に、法人が負担した費用(慰安旅行費用が給与所得(役員の場合は、役員給与として法人税の問題に)として課税されうるとした更正処分、源泉徴収義務を有するとした判断に対して不服とするものである。
税理士法人である以上、下記のようなレクリエーション費用に関する通達の存在を知らないことはありえないものであり、指摘される覚悟があったものであるものであろうが、通達の条件を超える慰安旅行費用の負担が如何なる所以をもっってその給与課税をもたらすことになるのかという点を検討することが本件の起点となっている。事実関係としては特段珍しいものではない(現実的には、そもそも慰安旅行が主流か否かという問題はあるが)が、給与課税との境界を如何に捉えるのかという点を考える上では、参考となるべき事例であると言えよう。この種の慰安旅行に関しては従来議論が存在する分野であり、給与課税以外にも交際費課税など複数の論点が考えられるものであろうが、争い方の問題や参加率の問題など(そもそもなぜ参加率が問題とされているのかは釈然としない)課題の起点として本件は有益なものであろう。

所得税基本通達

(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)

36-30 使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。
(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。
以上のように本件は、上記基本通達において、不課税とされているレクリエーション費用の負担が社員に対する経済的利益として考慮されるべきであるのかという点が課題となっているものである。上記のように通達では、差し支えないとしているのみであり、積極的な不課税と求めているものではなく、法令上の根拠を如何に捉えるべきであるのかという点は些か薄弱であることは否めない。なぜ不課税としているのかという点はその根拠を如何に理解するのかという点がまずは重要となろう。
この点に関しては、下記のように国税庁のタックスアンサーにおいては、より具体的に少額不追求の趣旨を全面に押し出した見解を示しているが、このような根拠は行政上の便宜によるものであり、納税者の不利益が見込ま得難いことがその背景にあるものの、理論的には、かかるような不課税は、租税法律主義等との関連から否定的な意見もあり得よう。そもそも少額不追求というもの自身が必ずしも明確なものではなく、裁量的な意義が強いものであり、下記のようにタックスアンサーにおいても具体的な基準が明記されているものであるが、かかる点の合理性や、境界的な状況は必ずしも根拠がない状況で課税非課税の状況が始まることになろう。この点は強い納税者側からの予測可能性等に対する指摘がありうるところである。
タックスアンサー
従業員レクリエーション旅行の場合は、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。
(1) 旅行の期間が4泊5日以内であること。
 海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
(2) 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
 工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要です。
判断は、下記のように、給与所得に関する一般的解釈から、非常に広義な給与課税対象の決定を基礎においている。この点がまずは存在するものであり、かかる前提からさらに、非課税へと対象を決定するアプローチとなる。通常であれば、このような広義性ゆえには、上記のような通達解釈は困難であろうが、現行制度はフリンジベネフィットの課税問題として、本件のような費用負担に関しては経済的利益としての給与課税を回避している。

「給与等とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の
指揮命令に服して提供した非独立的な労務又は役務の対価として受
ける給付をいうものであると解される。そして、その給付には金銭
のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される(最
高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672
頁、最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号
64頁、最高裁平成27年10月8日第一小法廷判決・集民251
号1頁参照)。」

このような通達処理の合理性(通達に根拠をそもそも求めること自体が問題ではあるのかもしれないが、)は上記のように少額不追求という点ではなく、費用負担の社会的な慣行に基礎を置いているように判断している。趣旨に相違が見られるものであるが(国民感情という不明瞭な点が基礎となっている、国民感情的には、現状自身が使用者が負担するとはいえ、このようなものは業務上のものであろうと認識するであろうから確かに給与課税には反発するであろうが)、昭和63年に出された通達と社会状況が現況に置いて整合しているのかという点においても、疑問の予知はあるのではないだろうか。

「使用者が会食、旅行、演芸会、運動会等のレクリエーション行事の費用を
負担する場合、これらの行事に参加した従業員等が受ける経済的利
益について、一定の要件を満たすことを条件に課税しなくて差し支
えない旨定めている。この取扱いは、使用者が費用を負担してレク
リエーション行事を行うことが一般化しており、当該レクリエーシ
ョン行事が社会通念上一般的に行われていると認められるようなも
のであれば、あえてこれに課税するのは国民感情からしても妥当で

はないことを考慮したものとして合理性を有する」

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年11月23日土曜日

判例裁決紹介(平成30年6月19日裁決、医師のゴルフプレー費用と必要経費の該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年6月
19日裁決で、医師が行った事業に関する必要経費として、医師がプレーしたゴ
ルフ代、ゴルフコンペ費用、セミナーへの参加費用としての旅費等が該当するの
か否かという点が問題となっているものです。

具体的には、本件は医師である請求人が当該事業所得の計算上必要経費に算入し
たゴルフプレー代等が、処分行政庁によってかかる費用は、家事費、家事関連費
であり、必要経費該当性を否認しもって更正処分等を行ったことを不服として、
かかる費用は必要経費性を有すると主張して、処分の取り消しを求めたものであ
る。
典型的な個人の趣味的な費用、費消的費用に関する必要経費としての該当性を争
う事例であり、特段特徴的な事例ではないとも考えられる。そもそも最初の印象
はなぜこれを顧問税理士が、認めていたのか正直疑問に覚えた事例であるところ
であるが、近年でもこの種の費用を必要経費として、もって所得を減少させる措
置を図る個人事業主は実務上は当然のものであるのかもしれない(名声を高める
や情報交換などの観点からの必要性が主に主張されるが)。事実関係からは、税
理士の配偶者や子供(小学生が)が、医師が参加を促したセミナーへの旅費が計
上されているなど、請求人と税理士の関係が偲ばれる事例でもあろう。いずれに
しても本件はこの種の趣味的な費用支出に対して必要経費としての該当性が認め
られるのかという点を起点として、事業所得への必要経費の判断に対して、近年
の事例として、ティーチングケースとしても参考となるものと考えられる。ただ
し、本件では、必要経費としての該当性を判断する上で、必要経費としての要件
という点を中心においているものではなく、すなわち、必要性や直接性(そもそ
もこの種の必要経費における直接性とはいかなるものであるのかあまり明瞭では
ないが)、の問題として、議論されるケースが必要経費の該当性の判断において
は通常ではあろうが、本件はこの種の判断を用いることなく、家事費、家事関連
費、特に関連費としての明確な区分を要求するいわば手続的な規定の充足が図ら
れているか否かという点を中心的なアプローチとして判断を行っている。この必
要な部分を区分することが非常に困難であり、従前家事関連費の判断においては、
この区分を要求する事例は少なかったものであろうが、このアプローチを用いて
必要経費を否認する事例が増加傾向にあり、この要件の充足を納税者に求めるこ
とで、事実上、必要経費としての必要性の具体的な説明を納税者に求めている、
立証すべき責任の起点を納税者に転嫁している。さらに判断でも立証責任に関し
て、下記のように、原則的にその立証責任を課税庁に求めながらも、一定の納税
者による反証などにおいて合理的な説明がなされない場合は、その算入を否定す
るように判断している。このような立証責任の事実上の転換が近年増加しており、
果たすべき責任、必要性への対応、準備も自ずと変化しつつあることは実務家に
おいても認識されるべきであろう。

「、所得の存在について原処分庁に立証責任がある以上、原則として、原 処分
庁において、収入のみならず経費についても、原処分庁の主張額以上 に必要経
費が存在しないことを立証すべき責任があると解される。 もっとも、原処分庁
は、必要経費の存否に関連する事実に直接関与して いないのに対し、請求人は
より証拠に近い立場にあること、一般に、不存 在の立証が困難であることに鑑
みると、更正時に存在し、又は提出された 資料等をもとに判断して、当該支出
を必要経費に算入することができない ことが事実上推認できる場合には、請求
人において、その推認を破る程度 の具体的な反証、すなわち、当該支出と業務
との関連性を合理的に推認さ せるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該
支出の必要経費への算入 は否定されるというべきである。」

いずれにしても必要経費の判断においては、対象となる経費の性格が異なるがゆ
えに対応するアプローチが異なるものとも考えられるものともいえようが、この
種のアプローチが増加傾向にあることは、特に裁決段階では増加しており、留意
されるべきであろう。すなわち実務としてもその準備として必要性への対応、区
分把握の必要性に対して一定の配慮が必要となっていくことであろう。

そもそも事業所得の経費として、給与とは異なり広範な必要経費が認められる
(これは小規模な同族会社などの法人も同様であろうが)ような理解、傾向は問
題ではないだろうか。多くの場合事業所得や法人化の大きなメリットと捉えられ
ることが多い(このような説明を行っている事例は枚挙にいとまがないだろう)
が、近年のこのような傾向に関しては、過大視されつつあることは否めず、上記
のようなアプローチが興隆してきているのではないだろうか。租税負担の公平性
や今後の働き方の変化によって個人事業が増加することも鑑みるならば、必要経
費(及び法人の損金)へのアプローチも修正が必要となりつつあるのではないだ
ろうか。

(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

以上の所得税法の基本的な解釈は下記のように判断でも維持されている。必要経
費と家事費の区分、さらには事業との関連性と必要性を要するものと解されてい
る。この点は解釈としては判例とも整合しており特段特徴的なものではないが、
後半部分の必要経費性の判断のみならず、本件ではこの両者を混合させたアプロ
ーチが採用されているものと理解される。

「事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの 趣旨
は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解 されると
ころ、個人の事業主は、日常生活において事業による所得の獲得 活動のみなら
ず、所得の処分としての私的な消費活動も行っているのであ るから、事業所得
の金額の計算に当たっては、事業の必要経費と所得の処 分である家事費とを明
確に区分する必要がある。そして、所得税法第37 条第1項、同法第45条第
1項第1号及び所得税法施行令第96条は、上 記1(2)のとおりそれぞれ規
定しているところ、以上の各規定の文言及 び事業所得の金額の計算上必要経費
が総収入金額から控除されることの趣 旨に照らすと、ある支出が事業所得の金
額の計算上必要経費として控除さ れるためには、当該支出が所得を生ずべき事
業と直接関係し、かつ、当該 事業の遂行上必要であることを要すると解するの
が相当である。そして、 かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行
う者の主観的な動 機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の
趣旨・目的等 の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行
われなけ ればならないと解される。」

以上のように、本件におけるアプローチは家事費、家事上の経費と各種所得の関
連を持った経費の存在に着目している。しかしながら、家事上の経費とは、判断
でも多くの場合、所得の処分として理解されているものであり、趣味的な費用な
ど多様な費用を含む概念であることであろうが、本件のように家事費、関連費と
して区分をより求めるものと判断されるなならば、この家事上の経費とは如何な
るものであるのかという点からの検討も必要となろう。所得の処分という表現の
みでは必ずしもその意味するところは明らかとは言えず、何が処分であり、対し
て所得、収入に対して関連するものであるのかという点は、具体的に判断する上
で、支障をきたすものとも考えられる。おそらく本件のようなゴルフ場費用や交
通費などが家事上の経費であることは社会通念に照らせば疑いようがないもので
あるのかもしれないが、趣味的な費用、特に趣味と事業の区分が情報機器の発達
によって曖昧となりつつあるものであり、より家事上の経費に関する具体的なア
プローチが必要となってくるのではないだろうか。

(家事関連費等の必要経費不算入等)
第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動
産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必
要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

(家事関連費)所得税法施行令
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規
定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所
得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を
明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認
を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に
基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要
であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

また、このように家事上の経費の判断を行う上では、事実上立証責任の転換と上
記したものの、納税者段階での、事業との関連から、事業との関連や必要性が重
要になるものと考えられる。
「情報収集等 は、ゴルフをプレーしなければその目的を達することができない
性 質のものではなく」
この点で、本件では必要性の判断において、代替性がないことをその必要性の判
断の枠組み用いている。この代替性をどの程度存在しているのかという点が必要
性において重要であるのかという点が定かではないが、単に主観的な(名声をう
る、評判をうる等、判断ではこの点は全く根拠のないものとして一蹴されている)
必要性の主張においては重要視されるものではないという点は重要であろう。解
釈論として必要性=代替性の欠如と理解することは、また困難であるが、必要性
のアプローチとしてこの代替性が重要なキーとなっていることは、特に直接費用
として理解される原価とは異なる一般的な対応費用における必要性の判断におい
ては、重要であるものと認識されるべきである。

以上毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参
考までに。

2019年11月11日月曜日

判例裁決紹介(平成30年3月19日裁決、事前通知直後に出された修正申告と過少申告加算税の宥恕)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月19日裁決で、事前通知直後に提出された修正申告書に対する過少申告加算税の適用が争点となった事例です。

具体的には、法人である請求人がなした確定申告に対して実地の調査委に入る旨の事前通知が行われたところ(この実施に関しては要件を充足しており、違法性はない)、その直後に修正申告書を納税者が提出した状況下において、事前に準備していたことを考慮して、過少申告加算税の賦課決定処分対して意義を唱える事例である。修正申告の提出と過少申告加算税の賦課に関しては、古くより宥恕、過少申告加算税の軽減、免除が議論されてきており、調査の実施前段階であれば、一定の考慮が図られる事例も多く、一定のリスクのある申告においてこのような状況を活用を図るような状況も見られてきたものである。本件もそのような過少申告加算税に対して事前通知が行われた直後に修正を図り、軽減を企図したものであるが、かかる点が思惑と異なる点になっていることが、本件の起点となっているものであろう。旧来はこのような状況においては、更正の予知があるのか否かという点が主たる論点とされていたものであるが、平成23年の事前通知の法定化に伴い状況は変動している点が、留意されるべきであろう。かかる点において本件のような過少申告加算税に対する宥恕と修正申告の関係を検討する、特に現行制度における関係を議論する上では、本件は有益な事例であろう。

(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない

以上のように本件は、事前通知が法定化された現況下において、事前通知後に提出された修正申告に対する過少申告加算税の宥恕の可否を争点としているものである。この過少申告加算税のそもそもの趣旨としては、下記のように判断では行っており、若干省略的ではあるが、これに基づきその宥恕に関しては国税通則法は65条において上記のように、調査による更正の予知があったことがあるのかという点が法文の要件とされてきたものであり、この点は従前と相違がない。しかるに予知とはどのような段階にあることを意味するものであるのかという点を中心に議論が行われ、事例が蓄積されている。しかるに本件の状況は5項の追加による事前通知が行われる前であることをその基本的な条件として追加している。しかるに従前と実質的には宥恕の適用に関しては、状況が異なっており、事前通知が行われた段階で過少申告加算税の賦課は回避することが困難な状況になっているものと解する他ない。この点は重要な変化であり、事前通知の有無と言う形式的な部分が重要な判定要因になってきていることは現況として理解されるべきであろう。かかる点において予知の状況にあるか否かという点は、相対的にその役割を低下しており、今後の問題の局面は、事前通知段階ではなく、その前の段階、例えば、税務署からのお尋ね、文書問い合わせなどのような状況(そもそもこの法的な位置づけはまだ定まっていないものとも考えられるが)における更正に対する納税者の認知状況に争点が移りつつあるように考えられる。

「期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったとき
は、通則法第65条第1項の規定により、その修正申告により納付すべき税
額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税
を賦課するのが原則である。もっとも、納税者の自発的な修正申告を奨励す
る一方で、法令の定めに従った正確な内容の期限内申告書の提出を促す趣旨
から」

また、本件ではあまり争点になっていないが、事前通知の直後の提出というものはどのように評価されるべきであろうか。事前に準備していたことを改悛の現れと見るのか、そもそも事前に準備していたことが、予知という状況を裏付けるものであるのか、評価は分かれるように思う。私見としては、直後の提出は事前にその申告におけるリスクを認識していたことが容易に疑えるものであり、予知していたことに対する高い蓋然性を有しているようにも考えるのであるのだか。この点は実務ではどのように問題のある、申告などに対してアプローチしているのか、という点は聞いてみたいところです。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年11月2日土曜日

判例裁決紹介(神戸地判平成30年12月26日、通達改正による評価方法の変化と不当利得)

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成30年12月26日で、通達改正に伴って発生した財産評価の引下げを契機に従前の通達評価によって納税していた相続税額が不当利得であるとしてその返還を求めたものです。

具体的には、相続人たる原告が被相続人から相続により取得した株式に対して、財産評価基本通達に基づき評価を行った上で、確定申告を実施したが、その後、当該通達の定めに対して、別件訴訟が提起され高裁判決によってその通達の合理性が否定され、もって通達改正が行われたことを契機として、本件相続税申告によっても修正後の評価方法を適用したところ、従前の評価方法による場合と比して1億円近い差額が発生したため、当該差額は不当利得であるとしてその返還を求めるものである。なお、別件訴訟が確定した段階ではすでに更正の請求の期限は超過している(訴訟による請求も棄却)。納税者の立場から見れば、このような行政が発行している通達の改正に伴って従前と大きな納税額の相違が出ること自体が衡平負担の観点からは許容できるものではないことは用意に理解できるものであるが、本件判断は不当利得の成立も否定しており、通達改正の影響は実質的にその以前の状況に対して遮断されているような状況になっているものである。著名な財産評価に関する判決(純資産価額方式一辺倒から類似業種比準方式を適用可へ)による通達改正であるが、このような通達改正の影響を租税法規において如何に評価し、適用を行っていくべきであるのか、改正前の納税者の救済を如何にして図るべきかという課題を明らかとするものであると考えられる。

、「納税者が、申告が無効であるとして、申告により納付した租税を不当利得として返還請求をし得るのは、納税申告書の記載内容に客観的に明白かつ重大な過誤があり、通則法等の定める方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られると解するのが相当である(以上につき、最高裁平成22年10月15日第二小法廷判決・民集64巻7号1764頁、最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。」

判示では、上記のように不当利得の成立を最判を引用し、限定的に解している。最終的には原告の主張立証として特段の事情があるのか否かという点で判断不足として、主張を棄却していることになる。通達の実務上の位置づけを鑑みれば、特に財産評価基本通達における通達と時価の関係は、事実上の法令として理解しても差し支えないレベルとの評価もあり得るところであり、かかる点を信用して申告を行った原告の救済は図られるべきとの指摘も合理性があるだろう。しかしながら法令解釈上は困難であり立法によるべきものである(相続税の高額負担者のために立法措置が行われる可能性は極めて低いだろうが)。

本件では、前訴として通知処分の取消し請求と本件のような不当利得の関係性も整理されている点は今後の訴訟対応においても重要な点であろう。


以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。

2019年10月23日水曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年11月30日、相続税申告における広大地評価、財産評価基本通達にない未完了の改修の評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回東京地判平成30年11月30日で、相続税申告における財産評価、広大地評価の対象などが問題となった事例です。

具体的には、相続人たる原告がなした相続税の確定申告においてなした財産評価につき、争点とされている事例である。申告総額で15億を超える比較的規模の大きな案件ですが、それに伴い、多様な争点が争われているものである。特に広大地評価の適用対象として複数の土地の一体的把握(この点が最も中心的な争点であるが、一体的把握は土地の利用状況の個別的な事実関係に強く依拠するものと考えられる)が可能であるのか否か、葬儀費用における永代供養費用の区分(葬儀費用からの除外)、財産評価基本通達に定めのない相続財産における貸家評価における未完了の改修工事の評価反映を如何に行うべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。

財産評価は、相続税においてその課税対象を金額的に確定させるものであり、その重要性は言うまでもないものであるが、相続財産は多様であり(近年では仮想通貨やアルゴリズムなんかも対象になりうるみたいですね)、適正な評価額を付与することは著しく困難である。法令解釈上は、その課税対象は時価であり、客観的な交換価値を意味するものであることは、ほぼ確定しているものであるが、現実的には評価を巡って紛争事例を生み出すことが非常に多い。それ故、基本的な指針として課税庁が公開している財産評価基本通達において、その評価方法が示されており、従前の判例においても、時価として一定の金額的な合理性及び一律の評価による客観性の確保という二重の意味をもって、財産評価基本通達における評価は、事実上の時価としての推定を受けている。実務的には、とりあえず、この評価方法によっていることがほとんどではないだろうか(通達による評価を機械的に当てはめている)。そもそもとして時価という概念自身が幅広な意義を有するものであり、同一資産であっても購入者等の状況の相違によって価格が異なるような状況も想定されうる。近年は、この評価方法の機械的な適用を巡って、本来の時価との乖離が問題になりつつあり評価通達が離れた評価をいかなる場合にその合理性が担保されうるものであるのかという点も課題となっており、また評価方法が複雑になりつつあることからも現在の財産評価基本通達を取り巻く環境は一定の変化の必要を有しているのではないだろうか。いずれにしても本件は、いずれも相続財産の評価を巡って争いがあるものであり、個々の評価、あるいは評価基本通達の定めがない状況における対応等において、相続における財産評価という典型的な課題を取り扱ったものであるが、上記の点から租税実務家にとっても有益なものと考えられる。財産評価基本通達自身が問題となっているものではなく、その評価に事実上依拠している点を如何に評価することであるのかという点は、今後の課題だろう。

以上のように、多様な財産評価が課題となっているものであるが、興味深いのは財産評価基本通達にない、貸家として所有している財産への評価への未完了の改修の影響をどのように把握するのかという点である。法人税法などにおいては、資本的支出と修繕費の区分が課題となることは、実務家であれば言うまでもないことであろうが、本件では、このような未修段階の評価(当然、相続段階での固定資産税評価額等にも反映されていない)を如何にして相続税において評価反映させるべきであるのかという点を問題としているものである。上記のように不動産のリフォームなどの評価は、完了していても実際には争いになりうるものであり、工事の未了段階で、相続を迎えたタイミングでどのように反映させるべきであるのかという点が、特徴的な事例である(原告の主張としてはこの改修は機能面の維持を図ったものであるとして財産評価への反映そのものを否定している)。最終的には、課税庁が主張した評価通達に定めのある評価方法に準じた評価方法(70%評価)を合理性があるものとして判示しているが、この点がいかなる所以を持って合理性がある評価であると評価しているのかという点に関しては必ずしも明確ではない。このような準ずる評価方法の合理性に関しては、そもそもとして相続税法が定める時価の解釈、客観的な交換価値との対比において合理性を有しているものであるのかという点がまずは検討されるべきだろう。

また、葬儀費用に関しては、埋葬に関する費用、特に永代供養料を葬儀費用、葬式費用として申告していたことが問題になっている。
下記のように、相続税法は明確に、葬式費用を非課税としているが、何をもって葬式費用として解するのかという点は必ずしも定かではない。この点は社会通念として判断する他ないのかもしれないが葬式費用と埋葬やその後に維持管理に関する費用として、特に永代供養料として支払うことは特に珍しいことでもないだろう(費用の前払いと考えるのであろうか、埋葬管理、供養の受益は埋葬者とその相続人にいずれが享受するものであるのだろうか、こういう考え方は即物的であって宗教家、葬儀サービス提供者的には罰当たりなんだろうか)。そもそも近年は、墓地埋葬法等が想定する状況以外の葬儀や埋葬行為が存在しており(電子的なお墓や宇宙葬とか、海への散骨などが代表例だろう、このような費用)、事後の管理費用と葬式費用を明確に区分することは社会通念としてもあまり明確な線引が可能であるのかという点はより検討が必要であるように考える。特に親族の死という突発的な、異常な状況において、相続人たる者が葬式費用と他の費用を区分して捉えているような状況が果たして合理的な想定と捉えて良いものであるだろうか。葬式費用をどの段階までの費用と捉えるべきであるのかという点は法令解釈上の課題であるが、葬式というセレモニー費用に限定されているものと解すべきであるのか、あるいは、一定の葬儀提供者に関する費用負担を包括的に解するべきものであるのかは前者が文言に忠実であるが、現実的な状況において、かかるような葬儀費用の区分が行われうるのかという点も鑑みれば、後者の解釈も一定の合理性を有しているものと評価することも可能だろう。

(債務控除)
第十三条 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。

2019年10月15日火曜日

判例裁決紹介(平成30年8月28日裁決、米国において非課税の年金に対する所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年8月28日裁決で、米国からの年金に対して所得税法上の課税対象となるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が勤務中米国において、対象となった米国における社会保険給付として、年金を我が国において(現在は請求人は、国内に居住している)、課税所得として確定申告を行わなかったところ雑所得として課税対象であるとして、更正処分等を受けてことを不服として、当該給付は、日米租税条約の規定に基づき、我が国においては、課税対象とならない(課税権がない)として、提起されたものである。

近年は、労働役務の提供や、企業活動の展開がグローバル化しており、また、投資における国境の意義は低下している現状にあるものと考えられるが、このような状況を鑑みるに、本件のように、年金等の社会保険給付を我が国に基づくものばかりではなく、米国のような国外、国籍外の箇所から拠点とする団体から給付されるような状況の増加は、想定されよう。本件は、事案としてはシンプルであり、結論として課税対象としている点は(本件の起点は意図的であるのか否か定かではないが、日米租税条約の適用に関する自己都合が良い読み方をしている点がその背景にあろう)、特に異論がないものであるが、今後は給付される金員がどこにその、源泉を置くものであるのかという点は、一定の留保を行う必要が出てくるのかもしれない。本件では、所得区分を雑所得としているが、年金課税上もこの点は、議論のあるところ(立法論も含め)このような外国年金の存在も含め、今後の働き方の変容と合わせて、いかなる状況を課税対象とするべきであるのかという点を考える上では、参考となるような事例ではないだろうか。

日米租税条約(旧版)
退

以上のように、本件は、本件の対象となった米国からの年金給付が日米租税条約(旧版、最近やっと日米租税条約の最新版が比準手続が完了した模様)、上記17条の対象となって、居住者の所在する居住地国でのみ課税権を有することとしている点をもって、その適用対象として該当し、もって、米国で課税されている(この点は納税者たる請求人の認識でありそもそも、この点において明らかに状況は異なっている)が故に、我が国の所得課税の対象とはならないのかという点が中心的な争点となっている。

「日米租税条約は、国際的な二重課税の排除、両締約国間の課税権の配分及
び脱税の防止などを目的とするところ、所得者の居住地国において同国の税
法を適用して課税権を行使することに関しては、これを否定するものではな
く、また、源泉地国が非居住者の所得に課税することも否定するものではな
いことから、所得者が同一の所得に対し所得の源泉地国及び居住地国の両国
で課税される場合、二重課税を回避するための措置として、既に源泉地国で
課された外国税額を居住地国において控除する規定を設けるとともに両締約
国間における課税権の配分を目的とする規定を設けている。」

この点につき、上記のように判断では、租税条約の趣旨として二重課税の排除を基礎として、個別の条項として退職年金等に関しては以下のようにその趣旨を有するものとしている。下記のように、一般に少額所得であるがゆえに居住地国でのみ課税権を調整しているとして理解することは、いかなる所以によるものであるのかという点は定かではないが、本件では上記のように二重課税の対象となったものを排除する趣旨であるものとした基本的な租税条約の趣旨から結論を導いているように考えられる。すなわち、米国で課税対象となっていると納税者は主張するがあくまでも、0税率であり、実際に源泉徴収等の対象となってはいないことから、実質的な二重課税の状況にはそもそもないのであった、日米租税条約の規定を持ち出すまでもなく、我が国での課税権を否定することは困難であろう。しかしながら、このような二重課税ではないとする理解において、日米租税条約17条が排除すべき対象とした二重課税が如何なるものであるのかという点は重要である。課税対象となっていても、0税率(消費税のような理解であるが、政策的に一定の場合は、課税対象としながらも、課税を実施しないような場合も含まれよう)のような状況は二重課税とは評価されないのかという点は、検討されるべきであろう。私見としては二重課税の排除は、租税条約によって基本的な目標であるが、この排除はそれによって、投資の促進や負担の衡平を図るものであり、また、両国において如何なるものを課税を行うのかという点は国内法に基づくものであり、租税条約の規定が課税の状況にまで及ぶものと理解するのは困難であって、具体的な課税の状況までは考慮しているものではなく、まずは両国において金銭的な負担を伴う課税をその対象として捉え、各規定の対象に合致するものであるのかという点が判断されるべきものと考えられる。

「日米租税条約第17条1及び同条約第18条2は、政府職員の一定の退
職年金等を除き、一方の締約国の居住者が受益者である退職年金等に対して
は、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる旨規定してい
る。なお、この趣旨は、過去の勤務の対価としての性格をも有する退職年金
等につき通常の人的役務提供の場合と同様に役務提供地で課税することとし
た場合、一般に少額所得者が多いと思われる退職年金等の受益者がその居住
地国において外国税額を控除しきれないことが少なくないと考えられること
などから、居住地国においてのみ課税することを認める
こととしているもの
と解される。」

そもそも二重課税を排除するという点で、租税条約がその基本的な趣旨としていることは、言うまでもないことであるが、実際のところ、多様な形式、二重課税の状況は発生しうるものであり、租税条約がその基本的な趣旨としている二重課税は必ずしも明らかではなく(抽象的と評価されるべきであろう)、各規定における対象を吟味し、個々の規定の適用にあたって、その趣旨に合致した二重課税の排除を企図しているものであるのかという点が解釈上の起点とすべきであろう。その点において、各規定の調整の趣旨は重要なものであるが、この点に関しては、十分な検討が行われてはいないものと捉えられる。本件は、実質的に二重課税の状況にないということで、ほぼそのまま、そもそも日米租税条約によって調整すべき対象が存在しないという点で、検討が終了しているが、本来課税を行っているような場合においては、まずは、対象となる退職年金等に該当するのか、その意義は如何に解されるべきであるのかという点が、判断の起点となるものと考えられる。この点は非常に抽象的な規定であり、その解釈は幅が存在するだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年10月9日水曜日

判例裁決紹介(平成29年6月21日裁決、突発的な病気と正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月21裁決で、納期限における突発的な体調不良が附帯税における正当な理由を構成するのかという点が争われた事例です。

具体的には、個人事業として飲食業を営む請求人が納期の特例を申請し、承認されていたところ、当該納付につきその法定納期限において、突発的な体調不良により、納付を行わなかった(1~6月文の源泉所得税を不納付、9月に納付)ことに対して源泉所得税の不納付につき、不納付加算税の賦課決定処分を受けた。この点について、法定納期限当日における突発的な体調不良によるものであるとして正当な理由がある旨の不服を申し出たものが本件である。周知のように、附帯税として不納付加算税を賦課が行われる場合において、宥恕規定として、正当な理由が存在する場合には、その不納付加算税の成立を図らないこととされており、かかる点は以下の国税通則法においても明記されているものである。個別具体的な事例ではあるが、法定納期限等の日における突発的な体調不良(具体的にどのようなものであるのか不明、また、陳述によれば、納期限が属する7月初旬及び当日は、一部自己の飲食店を営んでいたことが確認されている)において、もちろん程度差はあるものであろうが、通則法に定める正当な理由に該当するのかという点が中心的な争点であり、正当な理由とは如何なるものと解されるのかという点が起点となっているものであろう。しかるに不納付加算税の趣旨自身も問われるものであり、特に現徴収の納期の特例を受けているものでもあり(実務的には特例というよりも、ごく当然の行為であるのかもしれないが)、この特例の対比においても正当な理由として突発的な体調不良が該当するのかという点も対比されるものとなるのではないだろうか。従前、正当な理由としての該当性としては、多様な事例が存在する分野であり、本件もその類型に属するものであって、法令解釈として特段特徴的なものではないが、突発的な病気であっても(この詳細な状況は争われていないので、どちらかというと納期限付近の請求人の状況に関する陳述が決定的な状況であったようであるが、)、正当な理由としては該当性は可能性は低いもの評価、特に源泉徴収においては判断されることになるものと考えられる。


(不納付加算税)
第六十七条 源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかつた場合には、税務署長は、当該納税者から、第三十六条第一項第二号(源泉徴収による国税の納税の告知)の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する。ただし、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
2 源泉徴収による国税が第三十六条第一項第二号の規定による納税の告知を受けることなくその法定納期限後に納付された場合において、その納付が、当該国税についての調査があつたことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないときは、その納付された税額に係る前項の不納付加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付された税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする。
3 第一項の規定は、前項の規定に該当する納付がされた場合において、その納付が法定納期限までに納付する意思があつたと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、当該納付に係る源泉徴収による国税が法定納期限から一月を経過する日までに納付されたものであるときは、適用しない。

以上のように、本件における中心的な争点は本件の事実関係における正当な理由の当否である。過少申告加算税と比して同じ附帯税としても不納付加算税は、その成立、事象の発生自体はシンプルにその成立が観念されるものであり、法定納期限からの超過と言う事実の存在がその判断基準であり、比較的その判断が容易なものであって正当な理由の存在が観念できるのか否かという点が、不納付加算税の賦課決定における中心的な争点となる。本件判断における正当な理由としては、下記のように、

不納付加算税は、源泉徴収による国税が法定納期限までに完納されなかったとう客観的な事実があれば、原則として納税者に課されるものであり、これによって、法定納期限までに完納した者との間の不公平の実質的な是正を図るとともに、法定納期限までに完納すべき義務の違反の発生を防止し、源泉徴収制度の適正な運用の実現を図り、もって納税の実を上げようとする行政上の制裁措置である。この趣旨に照らせば、例外的に不納付加算税を課さないこととする通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、法定納期限までに完納しなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、そのため、このような納税者に不納付加算税を課することが不当又は酷と評されるような場合であって、法定納期限までに完納した者との間の公平を損ねることになってもなお、その制裁を免除するのが相当である場合をいうものと解するのが相当である。

として、実質的な不公平の是正と制裁措置として実効性を確保することがその趣旨にあるものと解している。この点は従前の判例とも整合するものであり、特段特徴的なものではなく、納税者への帰責性と不当性が判断基準となっている。公平負担の確保を図るためであろうか、非常に限定的な状況に正当な理由を当てはめているものと評価される。特に納期の特例という、納期限の延長を許可されているものであり、納期限のタイミングと言うスポットの状況のみで納税者に帰責性がないものと評価することは、困難と判断されることになろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年9月28日土曜日

判例裁決紹介(平成29年4月25日裁決、役員給与の相当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月25日裁決で、役員給与が不相当であるとして、その妥当性が争われた事例です。

具体的には、インターネットを活用した中古自動車の輸出販売業を営む法人が代取に対して支給した役員給与が不相当に高額であり、その損金性が否定されるべきとした更正処分等を不服として(役員の職責を考慮しておらず)提起された事例である。役員給与に関する制度改正が大幅に行われた平成18年改正において、その制度の位置づけがいかなる状況になっているのか、変化があったのか等、多様な問題があり得るところでもある。そもそも従前この不相当の給与を否定する本件規定は多様な論点、争点を提起してきたものであり、制度改正もあって近年はその適用が紛争事例として顕在化するケースは減少していたものであるが、いわゆる残波事件等の状況から潮目は変わりつつあるのか、若干この不相当の役員給与を否定する紛争事例が増加傾向にあるように捉えられる。退職金が問題の中心になるものであるのかもしれないが、近年は団塊世代が70歳に近づきつつあり、経営者としても退職する時期になりつつあるような現況化においては、また問題が顕在化するのかもしれない。いずれにしても本件は、近年の事業環境において、不相当性が課題とされた類型に属するものであり、近年の状況において不相当性を議論する上で参考となるべき事例であろう。特に本件はインターネットを活用した事業を展開しており、従前の地域特性を重視した相当性の判断の枠組みにおいて妥当性、合理性が担保されるものであるのかというような状況も想定されつつあり、かかる点においても本件は参考となろう。

特に本件は当初の処分行政庁がなした、相当性の判断が一部、裁決の判断においては、修正が行われた事例であり、かかる点においても如何なる理由からその修正がなされたのかという点においても特徴的な事例であろう。

法人税法34条
2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

以上のように本件は、役員給与における不相当額の算定が課題となっているものであり、その判断枠組み、如何にして不相当と判断するのかという点が中心的な問題となっている。しかしながら、この朱の立証責任は課税庁にあるものであり、また、比準対象の同業他社の情報は、納税者である請求人には知り得るものではまったくないことからも納税者の側から検証、アクセスが不能な情報から判断がくだされることになる。かかる点で相当額の算定は課題となりうるものである。現行法制度において、この不相当に高額な給与がどのような所以をもって排除されるべきであるのかという点は、この法規の基本的な課題となるものであり、どのような制度背景を持っているのか、不相当であるかを判断する上で法令解釈上重要な点となる。不相当という文言をもって単純に不確定であると捉えい、かかる点は租税法規の基本的な立場、要請からは立法によって対応すべきものであるのかもしれないが、現行法の問題としては、納税者からはアクセスができない情報である比準対象となる企業等の選考等において恣意性の介入があるのか否か、客観性の確保、一定程度の合理性(そもそも不相当という文言自身が必ずしも明確な対象との比較においてどのような意義を有しているのかという点は定かとはいい難く、どの程度の合理性があれば足りるものであるのか、それを相当をみなすことができるのかという点は検討すべきであるかもしれない)を有しているのかという点が問題となるものと考えられる。
この具体的な制度趣旨としては、すなわち不相当に高額な給与をその損金性を否定する趣旨として、下記のように、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の恣意性の排除を企図しているものと理解している。
「法人税法第34条第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。この規定の趣旨は、課税の公平性を確保する観点から、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の金額決定の背後にある恣意性の排除を図るという考え方によるものと解される。」

上記のように、従前は隠れた利益処分の禁止をその基礎としていた、ものが若干の変化を持っているように課税庁における判断としては行われているようにも捉えられる。
職務執行の対価としての性質が強く出ているものと言えよう。このように考えるならば、その相当額の妥当性に関しては従来以上に比準対象の選考が重要な意義を持つことになる。しかも比準対象の事業内容のみならず、役員が担うべき業務が、職務が如何なるものであるのか、というような比較対象が重要性をもつことになろう。ただし、役員が担うべき職務や職責、職務権限などは経営を担う以上、一般の従業員のように、定型化されたものではなく、多様な職務内容が想定されるものであり、このような状況に対応した比準対象の選定が可能であるのかという疑問も発生するが、対価を判定するそもそもの職務が比較こんな場合が想定される)このような趣旨の変化がいかなる所以をもつものと考えられるのか、おそらくは平成18年改正の影響であろうが、相当額の算定においても考慮されるべきであろう。

請求人の主張は、選定した企業等の状況が、職責や職務が考慮されていない、相違している点が基礎となっている。従来は本制度は利益処分の不合理性を、職務の対価と言う概念と合わせて考慮していたが、上記のように、現状の本制度は、職務執行の対価としての妥当性、相当性を要求しているものと解している。しかるにであれば、納税者が主張するように、選定においては事業内容や、職務内容があるいは職責が重要視されるべきであろう。判断でも一部、処分行政庁が選定した企業において、請求人と異なる事業を営む対象が含まれていたことを理由として、一部処分行政庁の判断を結果として修正していることも、留意されるべきであろう。しかしながら、現状の制度の趣旨を上記のように職務執行との関連に焦点を当てて理解して良いものであるのかという点は、従前との対比において必ずしも定かではなく、本制度の基本的な趣旨をどのように解するのかという点は更に議論が必要だろう。

また、本件では、相当性の認定において、他の従業員との給与の伸び率の相違(大幅に代取が給与額が伸びている)が問題視されている。このような企業内部の状況も加味した相当性の具体的な判断は、他の企業、類似業種等を参照した相当性の判断を基礎とする現状の判断の枠組みにおいては、比較的特徴的なものであろう。納税者においてもアクセスが可能な情報であり、このような判断が今後増加するのであれば、実務家としては考慮要因としていく必要があろう。外国での業務なども行われているが、かかる点が考慮されていないことも現代の事業環境において妥当性を有しているのかという点は疑問が残る。さらに、インターネットによって構築された事業環境を基礎としている本件のような事業では、少なくとも事業実施領域は所在の地域に限定されるものではなく、果たして地域の特性、類似の地域の企業の情報という選定方針が相当性の判断として未だに合理的であるのかという点は、疑問を覚える。

本件では、上記のように給与の伸び率というような中長期の一定の時間的な幅の中での相当性を求めている。単にスポットとして一定時点の支払いのみが考慮要因として考えられるものではないこともまた、特徴として理解されるべきであろう。

2019年9月20日金曜日

判例裁決紹介(平成28年4月22日裁決、不法原因給付とみなし贈与、権利確定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年4月22日裁決で、交際相手から給付された金員(不法原因給付)がみなし贈与に該当するのか否かが争われた事例です。

具体的には、本件は請求人が交際相手から受けたマンション購入に関する手付金相当額の金銭振込(最終的にマンション契約は解除手付金は違約金へ)がみなし贈与(大過なく受けた経済的利益に該当するのか否かが問題となった事例である。別件訴訟によって当該交際相手から返還請求を求められているものであるが、その中では、解除条件付贈与であり、また、請求人と交際を続けるための見返としての金銭給付であって、不法原因給付であるから返還義務がないものとして取り扱われたものであり、みなし贈与に該当するのかという点が中心的な争点となっているものである。課税庁は上記のようにみなし贈与としているが、請求人は、交際を継続されないこと等による精神的な損害を受けたものであって慰謝料的なものであるため贈与とはみなされないものとして主張が対立しているものである。当初のマンション購入契約段階では手付金を請求人と交際相手は負担するにあたって、両者の名義で行うなど(そのため相当額を金銭振込として請求人に給付している、実際は、それでも金銭交付を受けており、かかる時点でみなし贈与になるものと想定されるが)、共有の名義として贈与税負担を抑えることを企図した処理を行っているが、途中で、交際が破綻し、これによってかかる金員が贈与等となり得るのか否かという点が問題となっているものである。このような当初の事実関係があることから、明確に金銭の移動記録(振込等)存在しており、通常、このような明確な契約関係等がない場合であって経済的利益の実在がまずは問題になるものであるが、本件ではその点は問題となっていない。従って、経済的利益の供与、交付が純粋に下記相続税法9条に規定するみなし贈与に該当するのか否かという点が争点となっているものと考えられる。

本件は、このように事実関係としては特殊な事例であるが、比較的ドロドロとした事実関係の存在自身が一般的には興味深いものであろうし、このような不法原因給付の返還請求自身が民事はともかくとして租税案件として取り扱われることはまれな事例であろう。法令解釈としては特段珍しいものでないのかもしれないが親族間、あるいは私的な関係における金銭のやり取りを考える上では参考となる事例ではないだろうか。


第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

以上のように本件の中心的な争点は、本件の事実関係において、みなし贈与に該当するのか否かという点にある。納税者である請求人は交際に伴う慰謝料などの損害賠償に該当すると主張しているが、別件訴訟との整合性にかける点は否めない。最終的に本件の金員相当額は違約金として手元に残っていないことが影響しているのかもしれないが、金員の贈与のとして該当するという納税者の認識に至っていないことが起点となっているものであろう。贈与税に関しては、その使途が問題となるものではなく、受けた利益の存在が問題となっている点は当たり前のことでもあろうが、留意されるべきかもしれない。

最終的には本件では上記のように経済的利益の実在性は問題とならず、当該経済的利益がみなし贈与として該当するのかという点に焦点が当てられている。特に対価を支払うことなく、という点において、本件の事実関係が課題とされているのであろう。対価という点は幅広く解釈されているものであり、このような不法原因給付であっても返還義務がないことが確定しているものであり、この点が対価を支払っていないという点に該当するとされているものである。ただし、中心的な問題となっていないが、本件はどのタイミング贈与があったものとみなされるのかという点は、より検討が必要ではないだろうか。対価なく経済的利益の給付は行われていることは疑いようもないが、本件のように返還義務がないことが確定した段階をもって対価なくという点が認定されうるものであるならば、みなし贈与としての認定のタイミングは、後ろに移動することもあり得よう。対価なくという部分は贈与として認定されるタイミングにも影響を及ぼさないものであるのか、本件のような不法原因給付であるような場合において返還義務と対価の存在との関係はもう少しタイミングとしては議論されて良いのかもしれない。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年9月14日土曜日

判例裁決紹介(平成30年5月29日裁決、調整対象固定資産に関する電話照会と誤指導、正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月
29日裁決で、消費税の納税義務に係る電話照会でのご指導、特に調整対象固定
資産に関するご指導によって発生した附帯税の宥恕対応が焦点となった事例です。

具体的には、本件は太陽光発電等を取り扱う法人である請求人が、設立後、調整
対象固定資産を取得し、もって消費税の納税義務が発生しているものとして税理
士等が申告を行っていたが、税務署より納税義務に関するお尋ね文書が送付され、
それに対する税理士による照会(電話)による誤指導があったことにより、調整
対象固定資産の制度を適用がなく、基準年度における売上等から納税義務がない
ものとして申告をおこなわかった状況下において、後日、実際には当初の想定通
り納税義務がある状況であったことが判明し期限後申告を行ったところ、無申告
加算税の賦課が行われたことから、当該賦課における宥恕対象としてこのような
誤指導が原因であったものであり、正当な理由が存在するとして争われた事例で
ある。

本件の起点は、税務署からの一般的なお尋ね文書の送付によるものであり、この
ような送付があることが納税者にとっては、税務署の指導を裏付けるものである
として当該指導を信じたことに納税者の帰責性は存在しないとして、不服を提起
したものである。税理士という専門家が関与している段階で、このような税務署
の送付のような作業の誤解を信用したことは責められるべきものであろうが(専
門家責任として過失はあるだろうが)、納税者の立場からはこのようなお尋ね文
書の存在は、税務署の何らかの通知として理解することは大いに想定されるもの
であり、一定の納税者の主張は理解できるものであろう。本件の事実関係では係
る送付への対応としていったん照会作業を行っており、基本的にはそのタイミン
グにおける誤指導を起点としているが、その対応によっても正当な理由を構成す
るものであるのかという点が争いになっているものである。課税庁としては、正
当な理由の成立そのものよりも、調整対象固定資産に対する言及、納税者からの
照会において説明があったのか否かという点を否定的にとらえており、いわば、
誤指導そのものの存在を否定している。最終的には判断でも課税庁の主張を捉え、
納税者、税理士が作成した申告書におけるメモ書き等の資料は誤指導の存在の裏
付けとしては認定していないということから納税者の主張を排斥している。

現在は、本件のように課税庁からのお尋ね文書の存在は非常にポピュラーとなっ
てきているものであるが、この位置づけはどのようなものであろうか。本件のよ
うに納税義務の誤解の起点となるような状況は今後も想定されるものであるので
あろうか。そもそも法令上かかるお尋ねがどのような評価を受けるものであるの
かという点は定かではなく、実務家としてはこのような書類に対してはどのよう
な取り扱いをしているものであるのかという点は一度聞いてみたいところ。多く
の場合、納税者においては困惑の原因となるのではないだろうか。特に本件のよ
うに消費税の納税義務における判断は非常に重要な判断であるが、形式的な処理
でもあり、専門家としては留意すべき点であろう(よくミスが発生しているとこ
ろであるだろう)が、このような誤指導はやり取りにおいて想定されうるもので
あり、本件のようにメモ書きのような対応は、ごく一般的なものであろうが、本
件のような正当な理由の判断枠組みにおいては不十分であることもまた認識され
るべきであろう。かかる点においても本件は興味深い事例ではないだろうか。

(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該
各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等に
よる納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は
第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたこと
により当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでな
いときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課
する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると
認められる場合は、この限りでない。

以上のように本件では、その中心的な争点となっている部分として上記無申告加
算税における正当な理由の存在が認められるのか否かという点を課題としている。
基本的には本件の事実関係、特に、調整対象固定資産(調整対象固定資産の取得
があったことは問題とされていない)に関する誤指導の起点として照会のタイミ
ングにおいて適正な説明が納税者からなされたのか、資料の提出があったのかと
いう点が主に争われている。

(新設法人の納税義務の免除の特例)
第十二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(昭和二十六年
法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表
第一に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定め
るものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の
金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。
)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間
(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十
一条第三項若しくは第四項若しくは前条第一項若しくは第二項の規定により消費
税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産
の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しな
い。
2 前項の新設法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(第
三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)中に調整対象固定資産
の仕入れ等を行つた場合には、当該新設法人の当該調整対象固定資産の仕入れ等
の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後三年を経過する日の属する課
税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課
税期間及び第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一
項、第十一条第三項若しくは第四項、前条第一項から第三項まで若しくは前項の
規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)に
おける課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規
定は、適用しない。

本件判断では下記のように、その正当な理由の説明の法解釈として以下のように、
示している。納税者の帰責性などの点は、従前の判断と整合的であり、本件のよ
うな相談、照会のような行政の処分等の行為ではなく、あくまでも立法の裏付け
のない作業、行政サービスに対しては、その成立があり得るのかという点が問題
になる。本件では極めて限定的な状況であるが、十分な資料の提出、説明等が条
件として付与されているが、必ずしも行政サービスにおける正当な理由の成立は
否定されていない。しかしながら、十分な資料等の存在が前提であり(そもそも、
十分とは主観的な判断であり、いかなるものを要求するものであるのかという点
は不確かであり)、照会のような状況下において、電話相談などにおいては実際
のところ、課税庁に十分な責任を負わせることは適当ではないことも理解されよ
うが、納税者においては課税庁の行為の類型においてその差異が存在することに
納得がいく意見を持つものは少ないだろう。この点は立法に属する問題であろう
が、現実的な照会や電話相談等の対応と誤りの発生は、如何に救済されるべきで
あるのかという点は慎重な考量が必要となるように考えられる。

「無申告加算税の趣旨からすれば、通則法第66条第1項ただし 書に規定する
「正当な理由」があると認められる場合とは、期限内申告書が 提出されなかっ
たことについて、真に納税者の責めに帰することのできない 客観的事情があり、
上記の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税 を賦課することが不当
又は酷となる場合をいうものと解するのが相当であ る。 そうすると、納税者か
らの納税申告に係る相談や質問について、「正当な 理由」があると認められる
場合としては、例えば、納税者から十分な資料の 提出及び説明があったにもか
かわらず、税務職員が納税者に対して誤った指 導を行い、納税者がその指導に
従ったことにより無申告となった場合で、か つ、納税者がその指導を信じたこ
とについてやむを得ないと認められる事情 がある場合など、無申告となったこ
とについて真にやむを得ない理由がある ため、無申告加算税を課することが不
当又は酷となる場合などがこれに当た ると解される。」

以上のように、本件では、行政サービスにおける相談等における状況下であるこ
とから、正当な理由の成立を十分な資料等の裏付けがあることを要求しているも
のと解して、非常に限定的に判断の基礎を構成している。無申告加算税における
正当な理由の存在そのものが問題となる以上は、上記の枠組みは、基本的には是
認されるものと考えられるが、ゆえにメモ書き程度の資料では、誤指導そのもの
の存在を裏付けるものとして認定されがたいことは、留意されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いで
すが参考までに。

2019年9月10日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判平成29年9月7日、不動産所得による必要経費の立証責任)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成29年9月7日で、不動産所得における必要経費として認められるのか否かという点が問題となった事例です。

具体的には、本件は個人として不動産所得を有する原告が白色申告にて、所有不動産の所得に関する確定申告を行っていた(損益通算による給与所得に関する源泉徴収の還付も)ところ、その必要経費として計上した経費(地代家賃、前払金の貸倒損失、リース料、架空経費、交際費等)が必要経費としての実態を備えていないものとしてまた、架空経費であるものとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分を受けたことからその取消を求めた事例である。最終的には課税庁が主張するように、高額な源泉所得税の還付を不正に行うことを目的と下取引であり、課題となった経費に対する必要経費性や架空経費の存在は認定されているところであるが(実態として4ヶ月の給与が6000万、不動産所得の経費として交際費400万等、現実的にみて、社会通念上もその実在性が疑われるもので、よくこれが申告されたなというのが本音)、多様な経費に対して、如何にしてその必要経費性を否定しているのかという点は重要であろう。特に、近年は、副業や節税商品として不動産所得を活用し、その事業経費をもって有利な租税負担を見出す形式が増加している。このような状況下においては不動産所得の必要経費を如何に捉えるのかという点は重要な点であり、かかる点においても本件は参考となる事例ではないだろうか。高額な源泉所得税の還付や、関連会社の破産、火災の発生による証拠書類の紛失など、些か(というには特異かもしれないが)個別的な状況を前提としているものであり、ディスカウントして読むべきものであるのかもしれないが、不動産所得の裾野は広がりつつあり、このような源泉徴収還付との対応、私的費用の計上、架空経費の計上等は今後さらに課題となるものであろうし、かかる点においても本件は参考となろう。


(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 山林につきその年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その山林の植林費、取得に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

以上のように、本件は、所得税法の必要経費として認められるのか否か、そして経費が架空であるのか否かという点が中心的な争点となっているものである。架空であるのか否かという点に関しては、基本的に事実関係の問題であろうが、必要経費であるのか否かという点については従前そもそも必要経費とはいかなる要件を有するものであるのかという点も含め多数の事例の蓄積が存在するものである。本件もその累計に属するものであるが、本件は他の事例と異なり、立証責任を納税者である原告に委ねており、かかる点からその主張立証が不充分である、抽象的であるとのことから、各費用(殆どの費用が)その必要経費性を否定されている。このような判断のアプローチをとっていることが特徴的な事例である。

具体的には、下記のように、
「総収入金額を得るため直接に要した費用」及び「所得を生ずべき業務について生じた費用」という文言に加え、所得を稼得するための投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるという必要経費の控除の趣旨にも照らすと、ある支出が不動産所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が所得を生ずべき業務(不動産賃貸業)と合理的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。そして、上記の判断は、単に事業主の主観的判断によるのではなく、当該業務の内容、当該支出(費用)の性質及び内容など個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って客観的に行われるべきである。」

一般論としての必要経費の意義、判断枠組みを示した上で、下記のように立証責任の分配を行っている。

「課税処分の取消訴訟においては、原則として、被告(課税庁)がその課税要件事実について主張立証責任を負い、不動産所得の金額の計算上控除する必要経費についても、その主張する金額を超えて存在しないことにつき主張立証責任を負うものと解される。しかし、必要経費は、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、納税者の支配領域内の出来事であるから、必要経費該当性(支出の存在及び数額並びに業務との合理的関連性及び業務遂行上の必要性)の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりもはるかに容易である。したがって、必要経費該当性につき争いのある支出については、原告において、当該支出の具体的内容を明らかにし、その必要経費該当性について相応の立証をする必要があるというべきであり、原告がこれを行わない場合には、当該支出が必要経費に該当しないことが事実上推認されるというべきである。」

租税法規における処分に関しては、一般的に課税庁にその立証責任が課せられることは、処分性や財産権の保護、法的安定性の担保や任意調査の性格から鑑みて、概ね同意されるべきものと考えられる。本件もその一般原則は承認しつつも、本件においては事実上その立証責任を課税庁から納税者に転換しているものと捉えられる。証拠との距離から立証責任が例外的に納税者に移される可能性はやむを得ないものと考える(事業形態が多様であり、その業務自体も多種多様なものが想定される。また必要性に関してはも客観性が重要であるが一定程度事業主の主観的な判断が介在する余地は否めないため)が、本件のように、必要経費を減産項目ととして有利項目として捉え、その立証責任を広く納税者にあるものとしてその立証を求めていることは、本件の特異な点であろう。このような立証責任を有することが明らかであるならば、納税者としてもその主張や立証過程等において必要性等の配慮を行うべきものであろうし、予測可能性を損なうものとしても評価される意見がありえよう。特に原告が必要経費該当性に関してその立証が不充分である場合には、必要経費としての該当性を否定する推認が働いているとも判示しており、かかる点は、本件のように租税回避、不当な租税の還付を目的として社会的にみても不合理な経費計上を行っている事案であることを鑑みた事案であるのかもしれないが、これが一般性も持つものであるのか、すなわち必要経費に関しては事実上その立証を責任を追うべきものであるのかという点は更に検討が必要ではないだろうか。本件でもかかる前提から納税者の立証が殆どが単にこういったものに使用していたなどの使用用途を説明するのみであり、業務との関連性や必要性に関する立証が抽象的であり、かかる点から殆どの経費がその必要経費としての該当性を否定される事となっている。

このような事実上の推認を伴うものであるとの判断は、課税庁の主張をそのまま採用しているものであるが、納税者にとって有利項目であることをもって責任を転換することが妥当であるのかという点は意見が別れよう。たしかに現在は処分理由の提示や理由附記の制度は整いつつあり(その程度や実効性はまだ一般性を持っているものと評価することは困難であろうが)、かかる点から立証責任を合理的に分配することは一定の合理性があるものと考えられる。しかしながら前記の通り本件は不当な還付を目的とした処理を認定されているものであり、かかる点からも特異な事例と理解し、一般的に必要経費に関する立証責任が転換され(課税庁にあるとする責任を転換すること)、必要経費の該当性否定の推定が働いているものと考えることが妥当であるのかという点は(更に有利項目であることをもって転換を図ることが妥当出るのかという点も)更に検討が必要ではないだろうか。もしかかる判断のように立証責任が課せられるものとして理解するならば、実務上も特に必要経費に対する準備資料の考え方や必要経費の要件の精緻化などは重要な点となるだろうし、理由附記の実効性の確保(附記の程度等)は更に一般論としてだけではなく、附記の程度などは一般的なものだけではなく、処分理由項目によっても差異が発生する可能性もまたあるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年9月4日水曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年6月29日、消費税における偽りその他不正の行為)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成30年6月29日で、消費税において課税の消滅時効を判断する偽りその他不正の行為の有無が争われた事例です。

具体的には、本件は医療従事者派遣事業を営む原告が所得税の確定申告において当該事業を記載せず(この点に関する重加算税等の賦課に関しては争いがない)、消費税の申告も行っていなかった(未申告)状況において、調査により等が未申告等が判明し、もって期限後申告を行ったところ重加算税等の賦課決定処分を受けたことから、それを不服として提起された事例である。中心的な争点は当該処分の基礎となるべき課税権が、消滅時効を迎えているのか否かという点であり、通常の5年の時効を延長し、7年の行使をおこなことができるのか否か、すなわちその適用要件たる国税通則法70条4項の偽りその他不正の行為が存在しているのか否かという点が問題となっているものである。 特に、所得税の事業所得における記載の排除を行っている仮想隠蔽行為の存在が前提となっており、所得税の過少申告と消費税の未申告を一連の行為として評価し、当該不正が成立しているのか否かという点を判断すべきであるのか、という点が納税者と課税庁の対立となっている(ここの課税要件は異なるものであり、一連のものとして評価されるべきであるのかという点は事実認定の問題であるのかもしれないが密接に関連するものとして評価されうるものであるのかは問題ではないだろうか)。従前、 所得課税を基礎とする所得税法や法人税法においては、如何なるものが偽りその他不正の行為に該当するのかという点につき、事例の集積があるものであるが、本件は消費税における当該偽りその他不正の行為の有無が本件事実関係において認定されうるのかという点が、課題となっているものであり、近年重要性がましている消費税においてかかる徴収権の延長が図られるものであるのか判断する上で参考となる事例であると考えられる。


国税通則法70条
4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等

以上のように本件は徴収権の時効の延長を判断すべき起点となる課題となる偽りその他不正の行為の本件事実関係において、特に消費税の未申告の状況(納税者の主張としては納税義務に対する無理解が原因との主張も行われているが申告納税制度を採用する制度上かかるような無理解は必ずしも未申告を支える理由とはならないものと考えられる)が偽りその他不正の行為の成立があるものと判断されるのかという点が課題となっている。従前、この偽りその他不正の意義としては、所得税法人税を中心に判例が存在しているが、本件でも下記のように最判を用いて、偽りその他不正の行為としては、単なる未申告は該当するものではなく、何らかの偽計その他の工作を行うこと伴う必要があるものであり、所得の秘匿工作画素の代表的な工作であり、かかる点は、税務当局の所得把握が困難とさせる一切の行為を指すものとして従前の判断を踏襲している。そもそも税務当局の所得把握が困難とさせる行為というものが抽象的であり、非常に広範囲な行為を対象としているものとなっているが、徴収権の時効延長を一定程度制限を付与している70条4項の趣旨との関連においていかに判断されるべきであるのかという点は、より検討課題であるのではないだろうか。


「国税通則法70条4項にいう「偽りその他不正の行為」、同法73条3
項にいう「偽りその他不正の行為」は同義であり、罰則規定(例えば消費
税法64条1項1号)にいう「偽りその他不正の行為」とも同義と解され
るところ、罰則規定において、「偽りその他不正の行為」による租税ほ脱
の罪(例えば消費税法64条1項1号)と、単純不申告罪(例えば同法
66条)とが別個に規定されていることなどからすると、「偽りその他不
正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不
能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをい
い、かかる工作を伴わない単なる不申告は「偽りその他不正の行為」に当
たらないと解される
(最高裁昭和42年11月8日大法廷判決・刑集21
巻9号1197頁参照)。
(2) 所得を課税対象とする所得税や法人税においては、真実の所得を隠蔽
し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更に過少に
記載した内容虚偽の確定申告書を税務署長に提出する行為は「偽りその他
不正の行為」に当たり(最高裁昭和48年3月20日第三小法廷判決・刑
集27巻2号138頁参照)、所得秘匿工作をした上で申告をしなかった
場合には、所得秘匿工作を伴う不申告の行為が「偽りその他不正の行為」
に当たると解される(
最高裁昭和63年9月2日第三小法廷決定・刑集
42巻7号975頁参照)。
そして、そこでいう所得秘匿工作とは、虚偽の収支計算書の提出や二重
帳簿の作成といった積極的に税務当局を欺く行為にとどまらず、売上を正
確に記載した帳簿を作成している場合に売上金の一部を仮名又は借名の預
金口座に入金保管すること(最高裁平成6年9月13日第三小法廷決定・
刑集48巻6号289頁参照)など、税務当局による所得の把握を困難に
させる一切の行為を指す
と解される。」

本件では以上のように、最判における判断を用いて、下記のように最終的に消費税においては課税要件としての資産の譲渡等を秘匿する行為があれば、未申告であっても延長が図られるものとしている。従来の判断は所得税法等が中心となっているものであり、間接税、流通税として課税構造が異なるものであり、必ずしも、秘匿工作の存在が同様に判断の基礎に置くべきものであるのかという点は明確に根拠が示されていない。70条の文理から単なる未申告が対象とならないことは確定しているものと考えられるが、秘匿工作の存在を課税要件全般を対象とするものであるのかという点は更に検討すべきものではないだろうか。

「資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並
びに役務の提供)を課税対象とする消費税等においては、資産の譲渡等を
秘匿する工作を伴う不申告の行為があれば、それが「偽りその他不正の行
為」に当たり、資産の譲渡等の秘匿工作とは、税務当局による資産の譲渡
等の把握を困難にさせる一切の行為を指す
と解される。」

また、本件では、事実認定の問題でもあろうが、秘匿工作として所得税における本件事業の過少申告(隠蔽)が基本的な前提となって、資産の譲渡等の秘匿を認定している。納税者が主張するように、両者は異なるものであり、一連のものとして評価して偽りその他不正の行為の認定を行うべきではないものとしている点は退けられている。このように所得税(特に事業、法人税も同様だろうが)における計算と消費税の課税要件の充足が別個の租税法規でありながら密接に関連するものとして理解されていることは留意されるべきであろう。消費税において適格請求書保存方式が本格導入されれば、かかるような帳簿構造を前提としている密接な判断は回避されるものであるのかもしれないが、資産の譲渡等の把握は、所得と異なるものであり、課税当局における把握の困難さは同列に扱われるべきものであろうか(把握が困難という点が抽象的であることも課題となるだろうが)。ただし、課税当局において把握が困難とさせるような幅広い状況を前提としているならば、事実上所得税における行為と消費税における行為は一連のものとして評価されることになる現状は回避し難いのかもしれない。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年8月28日水曜日

判例裁決紹介(静岡地判平成29年3月16日、簡易課税制度の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は静岡地判平成29年3月16日で、消費税における簡易課税制度合理性、その適用における二年縛りの不合理を訴えたものです。

具体的には本件は建設業を営む原告が、当該事業の申告において従前簡易課税制度の適用を受けるため、簡易課税選択届を提出していたところ(課税売上は5000万円以下)、本則課税との間で約5倍の相違(本則課税が18万、簡易課税制度によれば103万)があることから、本則課税に拠る計算によって申告を行ったところ、簡易課税選択不適用届出が提出されていないとして更正処分等を受けたことからこの取消を訴えるものである。下記のように、本件の中心となる簡易課税制度に対しては、適用を取りやめる場合には、明確にその提出が事業年度前に義務付けられており、この点において解釈論としては検討の余地がないものと捉えられる。本件のような簡易課税制度における手続の処理(届けの提出)は、実務上も大きな問題となるものであり、ミスも多い分野であるところでもあるだろう。特に約5倍の租税負担金額の差異を生じさせるような状況は、事前に予想することが必要である点をもって慎重な判断が必要となるものである。中小事業者への配慮規定であり、金額的には小さなものであって負担の相違は大きな問題ではないものとも捉えられるものであるのかもしれないが、今後個人事業者が増加し、個人が消費税制度にアクセスする数は増加するだろう。特に適格請求書保存方式の導入は課税売上に関係なく、消費税の負担を発生しうるものであり、その負担の計算に関して、今後も従前と同様に中小企業等に対する簡易課税制度における適用や、その趣旨から一定の負担が発生しうるものであることは充分に認識されるべきものであり、本件は状況の変化に応じて、立法論として検討する上で参考となるものではないだろうか。私見としては今後のフリーランスの増加等を考慮するならば、簡易課税制度の存在意義はなお残るものであるが、この適用手続に関しては改善すべきだろう。


(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
3 第一項の規定の適用を受けようとする事業者は、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める期間は、同項の規定による届出書を提出することができない。ただし、当該事業者が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間から同項の規定の適用を受けようとする場合に当該届出書を提出するときは、この限りでない。
一 当該事業者が第九条第七項の規定の適用を受ける者である場合 同項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
二 当該事業者が第十二条の二第二項の新設法人である場合又は第十二条の三第三項の特定新規設立法人である場合において第十二条の二第二項(第十二条の三第三項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)に規定する場合に該当するとき 第十二条の二第二項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
三 当該事業者が第十二条の四第一項に規定する場合に該当するとき(前二号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 同項に規定する高額特定資産に係る同項に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日(当該高額特定資産が同項に規定する自己建設高額特定資産である場合にあつては、当該自己建設高額特定資産の同項に規定する建設等が完了した日の属する課税期間の初日)以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
4 前項各号に規定する事業者が当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合において、同項第一号若しくは第二号に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日又は同項第三号に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同項各号に掲げる場合に該当することとなつた日までの間に第一項の規定による届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しているときは、同項の規定の適用については、その届出書の提出は、なかつたものとみなす。
5 第一項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき、又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
6 前項の場合において、第一項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない。

以上のように、本件は、消費税法における簡易課税度の適用における、その制度の合理性が争われている。判示では下記のように、中小事業者への簡易的な計算の保証を行うことで、事務負担の軽減を企図したものであり、かかる点からは本件制度の合理性を疑い、公平負担の原則に反するものとしては評価できないものとしている。租税法規における違憲審査としては、大嶋訴訟以来、限定的な状況であるが本件もその負担に関して、一定の差が生じること(本件のような負担も許容されるようであるが率としては大きいものでも金額的には評価し難いのかもしれない)は許容されるものと解すべきとしている。消費税制度においてはこの事務負担という点が強調されるが、消費税制度の導入期と現状はソフトウェア等、差異は大きいものであり、現代的な意義において、負担との衡平はより議論されるべきではないだろうか。また、簡易課税制度の運用面、手続面(特に二年縛り)と負担の許容は、同一の立場で議論されるべきものであるのかという点は疑問に思うところではある。納税者の便宜の問題であり、執行との関係で、負担と便宜がどのようにバランスを取るべきかは、今後の適格請求書保存方式の本格導入を改めて検討されるべきではないだろうか。

「控除することができる仕入れに係る消費税額を、その課税期間の課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じた金額とみなすことにより、中小事業者にとって煩雑である仕入れに係る消費税額の計算を簡便にし、もって税の簡素化を図るとともに、仕入れに係る税額控除の要件とされる帳簿及び請求書等の保存を不要とすることにより、中小事業者の事務負担の軽減を図るものであって、合理性を有するといえる。そして、簡易課税を適用した課税期間については、当該事業者において、課税仕入れに係る消費税額の計算や帳簿、請求書の保存等の面で事務負担軽減の利益を享受することができる一方で、当該課税期間中の課税仕入高の金額いかんによっては、結果的に本則課税を適用した場合より消費税等の額が高くなる場合があり得る。しかしながら、簡易課税の適用にこのような利害得失があることは、一般的に予測可能なことであって、事業者においては、事務負担の軽減及び消費税等の額を考慮し、利害得失を自ら判断した上で、基準期間の課税売上高をもとに、簡易課税の適用を選択することが予定されているということができる。また、前提事実(1)ウのとおり、簡易課税の適用を選択した事業者は、その適用をやめようとする場合は、当該課税期間の前の課税期間の末日までに簡易課税選択不適用届出書を所轄税務署長に提出することにより、簡易課税の適用を受けないことができる。」

「このような簡易課税制度の趣旨、内容等を考慮すると、簡易課税の適用を受ける課税期間において、簡易課税を適用した場合の消費税等の額が、本則課税を適用した場合の消費税等の額を上回ることがあったとしても、このような結果は、事業者において、簡易課税の適用による事務負担の軽減の利益を享受しようとした自らの判断による選択の結果としてこれを甘受すべきものであるといえ、本則課税を適用した場合に比して公平を欠くものであるとはいえない。したがって、本件において、本則課税を適用した場合と簡易課税を適用した場合とで本件消費税額に80万8700円(約5倍)の差が生じたとしても、簡易課税を適用して本件消費税額を算出した本件更正処分が違法であるとはいえない。」


以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年8月9日金曜日

判例裁決紹介(平成29年7月5日裁決、特定支出控除の対象、帰宅旅費と自家用車の利用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月5日裁決で、特定支出控除における帰宅旅費の範囲が課題となった事例です。

具体的には本件は大学教員たる請求人がその、給与所得に関する支出として支払った金員(帰宅旅費として高速代やガソリン代、オーダースーツ等)が所得税法の特定支出に該当するとして申告をなしたことにつき、当該支出は特定支出には該当しないとして(書類不備、添付不備、対象外)として、更正処分を行ったことを不服として提起された事例である。所得税法における特定支出控除制度は、大嶋訴訟以来の立法的な解決、提案として給与所得者が実際に支出した金額を事実上、給与所得に関する必要経費として控除対象としうる制度であり、制度当初はその適用事例は非常に限定されていたものである。しかしながら近年では、制度改正もあり、その適用が増加傾向にある(実際に実務ではどのように捉えられているのかという点は興味深いところ)。本件はこのような制度における具体的な支出が対象となりうるのか否かという点が課題となった珍しい事例であり、今後の特定支出控除の対象を検討する上では有益な事例であるように考えられる。残念ながらスーツ代などの必要性に関しては、(本件では大学教員という些か特殊な職業であるが)、古典的な課題であるものの特に判断がなされていない、正確には制度適用の手続き要件である書類添付に不備があることで実際の適用を排除(請求人の主張としてはこの添付に関するHPの説明が不十分であるとして無効を訴えているが、申告納税制度を前提とする中で考慮されうるものであるのかという点は厳しいだろう)しているが、最大の支出項目である帰宅旅費に関しては一定の判断を行っており、実務上も参考となるのではないだろうか。



(給与所得者の特定支出の控除の特例)
第五十七条の二 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 前項に規定する特定支出とは、居住者の次に掲げる支出(その支出につきその者に係る第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合における当該補塡される部分及びその支出につき雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第十条第五項(失業等給付)に規定する教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第三十一条第一号(母子家庭自立支援給付金)に規定する母子家庭自立支援教育訓練給付金又は同法第三十一条の十(父子家庭自立支援給付金)において準用する同号に規定する父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分を除く。)をいう。
一 その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出
二 転任に伴うものであることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた転居のために通常必要であると認められる支出として政令で定めるもの
三 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののための支出
四 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
五 転任に伴い生計を一にする配偶者との別居を常況とすることとなつた場合その他これに類する場合として政令で定める場合に該当することにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた場合におけるその者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるもの
六 次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
イ 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものとして政令で定めるもの及び制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服で政令で定めるものを購入するための支出
ロ 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
3 第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書(次項において「申告書等」という。)に第一項の規定の適用を受ける旨及び同項に規定する特定支出の額の合計額の記載があり、かつ、前項各号に掲げるそれぞれの特定支出に関する明細書及びこれらの各号に規定する証明の書類の添付がある場合に限り、適用する。
4 第一項の規定の適用を受ける旨の記載がある申告書等を提出する場合には、同項に規定する特定支出の支出の事実及び支出した金額を証する書類として政令で定める書類を当該申告書等に添付し、又は当該申告書等の提出の際提示しなければならない。
5 前三項に定めるもののほか、第二項に規定する特定支出の範囲の細目その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

以下のように、本件では、特定支出控除における対象としていわゆる帰宅旅費に関して最終的に自家用車を利用した高速代やガソリン代が含まれるものであるのか否かという点が課題となり、判断としては文理解釈上(施行令の文言により)その対象から除外している。

「所得税法第57条の2、所得税法施行令第167条の3及び第167条の5並びに所得税法施行規則第36条の6のいずれの観点からしても、条文のつくりを子細に検討すると、文理上、交通用具の使用のための支出が特例対象帰宅旅費に該当しないことは明らかである。」

上記のように、本件判断では、通勤費との対比において自家用車の利用に関する費用の控除を排除しているものと解して、本件支出の控除を否定している。施行令における文言からは、このように自家用車のような交通用具の使用(そもそも交通用具という概念が明確な概念であるとは言い難いものとも言えようが、例えば近年流行りのシェアなどはどのようになるのだろう)、を帰宅旅費は対象としていないものとして捉えている。すなわち本法規定は帰宅旅費に関しては明確に記載せず、施行令に委ねているが、施行令(特に下記手続としての書類添付対象)において限定的に記載している(この点は法の委任の範囲にあるのかという点は争いになるだろうが)ものとしている事になり自家用車を対象から除外していることになろう。通勤費との対比からしても、なぜ自家用車を利用することを排除しているのかという点は定かではないが、現行法の解釈としてかかるような判断が出ていることは留意されるべきであろう。立法の範囲に属するものであるのかしれないが、いかなる理由をもって自家用車を排除するのかという点は課題となるのではないだろうか。また、本件では判断されていないが、このような帰宅旅費においても通常性が要求されているが、かかる点はどのように判断されるものであるのかという点も解釈上の課題となりうるのではないだろうか。




(給与所得者の特定支出の範囲)
第百六十七条の三 法第五十七条の二第二項第一号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める支出は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する支出(航空機の利用に係るものを除く。)とする。
一 交通機関を利用する場合(第三号に掲げる場合に該当する場合を除く。) その年中の運賃及び料金(特別車両料金その他の客室の特別の設備の利用についての料金として財務省令で定めるもの(以下この号において「特別車両料金等」という。)を除く。)の額の合計額(当該合計額が法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法による一月当たりの定期乗車券又は定期乗船券の価額(特別車両料金等に係る部分を除く。)の合計額を超えるときは、当該合計額)
二 自動車その他の交通用具を使用する場合(次号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法により交通用具を使用するために支出する燃料費及び有料の道路の料金の額並びに当該交通用具の修理のための支出(第百八十一条各号(資本的支出)に掲げる金額に相当する部分及びその者の故意又は重大な過失により生じた事故に係るものを除く。)でその者の通勤に係る部分の額のその年中の合計額
三 交通機関を利用するほか、併せて自動車その他の交通用具を使用する場合 前二号の規定に準じて計算した金額

(特定支出の支出等を証する書類)
第百六十七条の五 法第五十七条の二第四項(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める書類は、次の各号に掲げる支出の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法第五十七条の二第二項第一号から第四号まで及び第六号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類
二 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類並びに次に掲げる場合の区分に応じ次に定める書類
イ 航空機を利用する場合 その航空機に搭乗をした年月日及び搭乗区間につき、財務省令で定めるところにより、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十八項(定義)に規定する航空運送事業を営む者が証する書類
ロ 鉄道、船舶又は自動車(以下この条において「鉄道等」という。)を利用する場合(その利用に係る運賃及び料金の額が財務省令で定める金額以上である場合に限る。) その鉄道等を利用した年月日及び乗車又は乗船の区間につき、財務省令で定めるところにより、鉄道事業法第七条第一項(事業基本計画の変更等)に規定する鉄道事業者、海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二条第二項(定義)に規定する船舶運航事業を営む者又は道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第二項(定義)に規定する自動車運送事業を営む者が証する書類

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2019年8月5日月曜日

判例裁決紹介(平成29年12月13日裁決、取得費としての5%評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年12月13日裁決で、取得費として5%推計を活用した評価を公示価格に基づくもので覆すことができるか否かが問題となった事例です。

具体的には、相続により土地を取得した請求人が当該土地を譲渡した事により発生した譲渡所得の計算において、収入金額の5%を取得費とする譲渡所得の計算を行って申告をなし、かかる取得費は、地価公示価格に拠る推計よりも高く、取得費は当該推計価格に拠るべきとして更正の請求をなしたところ、その適用を否定されたことからその取消を求めたものである。5%取得費に関しては、現行の実務においては、土地等の価格が不明である場合において、中心的な作業となっているものであろうが(実際には実務的にどのように行っているものであるのかは聞いてみたいところ)、この価格を活用することは事実上95%をその所得とすることになり、計算上の便宜さは当然において享受されるものであるが、一方で、その負担の計算上実質的な所得とからは超過となるような状況も多いものでないだろうか(取得費が不明である以上、一定の不利益は甘受すべきものとも言えるのであろうが)。この5%評価は非常に簡便な計算方法であり、あまり課税上問題となることは少ないものと考えられるが、本件は、その推計を覆すことが争われた珍しい事例であり、結果的に公示地価に基づく推計に拠る価格の適用を否定しているものであるが、否定された理由は実際の取引日ではないものという認定が基礎となっている。本件の5%評価は、実際の金額が不明な場合において、用いられるものであり、近年のように、土地等の価格が低下傾向が続く現況に鑑みれば、いかなるものを取得費として認めるべきものであるのかという点(制度論)を検討する上では、一定の参考となるものではないだろうか。特に昭和28年以後の取得資産に関しては、通達によってその適用が拡張されているに過ぎないものであり、実際の取得費やそれに類似した金額を以下に捉えるべきであるのか、事実上制度的な割り切りが適用されているような状況であるが、適正な所得負担を考える上でどのような取得費が適正と認定されるのかという点を検討すべきであろう。

本件としては、審判所の権限を持って取引相手の金額をさかのぼって調査し、昭和40年代の取引であるであることを認定しており、当事者の一方の金額を入手することで実際の金額を認定しているものであって、納税者において、活用できる方法ではないが、納税者段階においていかなる条件を充足するものを金額とすれば、取得費として実際の金額として捉えられるのかという点は今後の課題であろう。不明なケースにおいて適用されるものである以上、何かしらの線引は必要であろうが、公示地価に拠る推計は適用可能であるのかという点は、面白い論点ではないだろうか。そもそも土地取引価格自身が不明瞭、幅の大きいものであり、一定の推計は成立しうるところではあろうが、当事者以外には知り得ない情報も含まれるものであり、かかる点を考慮すれば、不明な場合においていかなる推計評価が合理的であるのかという部分は租税法規の安定的な適用、予測可能性という点においてはかなり制約が大きいものと考えざるを得ないものと考えられる。本件自身は、上記のように実際の金額や取引の認定を行っている事実認定のみの事例であり、個別的な問題であるが、取引価格が不明な場合と取得費というものがどのように捉えられるべきかという点を問題として提起する上では本件は有益な事例であろう。

(長期譲渡所得の概算取得費控除)
第三十一条の四 個人が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第三十八条及び第六十一条の規定にかかわらず、当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第三十八条第二項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額


昭和28年以後に取得した資産についての適用)

31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに