さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成29年9月7日で、不動産所得における必要経費として認められるのか否かという点が問題となった事例です。
具体的には、本件は個人として不動産所得を有する原告が白色申告にて、所有不動産の所得に関する確定申告を行っていた(損益通算による給与所得に関する源泉徴収の還付も)ところ、その必要経費として計上した経費(地代家賃、前払金の貸倒損失、リース料、架空経費、交際費等)が必要経費としての実態を備えていないものとしてまた、架空経費であるものとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分を受けたことからその取消を求めた事例である。最終的には課税庁が主張するように、高額な源泉所得税の還付を不正に行うことを目的と下取引であり、課題となった経費に対する必要経費性や架空経費の存在は認定されているところであるが(実態として4ヶ月の給与が6000万、不動産所得の経費として交際費400万等、現実的にみて、社会通念上もその実在性が疑われるもので、よくこれが申告されたなというのが本音)、多様な経費に対して、如何にしてその必要経費性を否定しているのかという点は重要であろう。特に、近年は、副業や節税商品として不動産所得を活用し、その事業経費をもって有利な租税負担を見出す形式が増加している。このような状況下においては不動産所得の必要経費を如何に捉えるのかという点は重要な点であり、かかる点においても本件は参考となる事例ではないだろうか。高額な源泉所得税の還付や、関連会社の破産、火災の発生による証拠書類の紛失など、些か(というには特異かもしれないが)個別的な状況を前提としているものであり、ディスカウントして読むべきものであるのかもしれないが、不動産所得の裾野は広がりつつあり、このような源泉徴収還付との対応、私的費用の計上、架空経費の計上等は今後さらに課題となるものであろうし、かかる点においても本件は参考となろう。
(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 山林につきその年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その山林の植林費、取得に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
以上のように、本件は、所得税法の必要経費として認められるのか否か、そして経費が架空であるのか否かという点が中心的な争点となっているものである。架空であるのか否かという点に関しては、基本的に事実関係の問題であろうが、必要経費であるのか否かという点については従前そもそも必要経費とはいかなる要件を有するものであるのかという点も含め多数の事例の蓄積が存在するものである。本件もその累計に属するものであるが、本件は他の事例と異なり、立証責任を納税者である原告に委ねており、かかる点からその主張立証が不充分である、抽象的であるとのことから、各費用(殆どの費用が)その必要経費性を否定されている。このような判断のアプローチをとっていることが特徴的な事例である。
具体的には、下記のように、
「総収入金額を得るため直接に要した費用」及び「所得を生ずべき業務について生じた費用」という文言に加え、所得を稼得するための投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるという必要経費の控除の趣旨にも照らすと、ある支出が不動産所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が所得を生ずべき業務(不動産賃貸業)と合理的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。そして、上記の判断は、単に事業主の主観的判断によるのではなく、当該業務の内容、当該支出(費用)の性質及び内容など個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って客観的に行われるべきである。」
一般論としての必要経費の意義、判断枠組みを示した上で、下記のように立証責任の分配を行っている。
「課税処分の取消訴訟においては、原則として、被告(課税庁)がその課税要件事実について主張立証責任を負い、不動産所得の金額の計算上控除する必要経費についても、その主張する金額を超えて存在しないことにつき主張立証責任を負うものと解される。しかし、必要経費は、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、納税者の支配領域内の出来事であるから、必要経費該当性(支出の存在及び数額並びに業務との合理的関連性及び業務遂行上の必要性)の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりもはるかに容易である。したがって、必要経費該当性につき争いのある支出については、原告において、当該支出の具体的内容を明らかにし、その必要経費該当性について相応の立証をする必要があるというべきであり、原告がこれを行わない場合には、当該支出が必要経費に該当しないことが事実上推認されるというべきである。」
租税法規における処分に関しては、一般的に課税庁にその立証責任が課せられることは、処分性や財産権の保護、法的安定性の担保や任意調査の性格から鑑みて、概ね同意されるべきものと考えられる。本件もその一般原則は承認しつつも、本件においては事実上その立証責任を課税庁から納税者に転換しているものと捉えられる。証拠との距離から立証責任が例外的に納税者に移される可能性はやむを得ないものと考える(事業形態が多様であり、その業務自体も多種多様なものが想定される。また必要性に関してはも客観性が重要であるが一定程度事業主の主観的な判断が介在する余地は否めないため)が、本件のように、必要経費を減産項目ととして有利項目として捉え、その立証責任を広く納税者にあるものとしてその立証を求めていることは、本件の特異な点であろう。このような立証責任を有することが明らかであるならば、納税者としてもその主張や立証過程等において必要性等の配慮を行うべきものであろうし、予測可能性を損なうものとしても評価される意見がありえよう。特に原告が必要経費該当性に関してその立証が不充分である場合には、必要経費としての該当性を否定する推認が働いているとも判示しており、かかる点は、本件のように租税回避、不当な租税の還付を目的として社会的にみても不合理な経費計上を行っている事案であることを鑑みた事案であるのかもしれないが、これが一般性も持つものであるのか、すなわち必要経費に関しては事実上その立証を責任を追うべきものであるのかという点は更に検討が必要ではないだろうか。本件でもかかる前提から納税者の立証が殆どが単にこういったものに使用していたなどの使用用途を説明するのみであり、業務との関連性や必要性に関する立証が抽象的であり、かかる点から殆どの経費がその必要経費としての該当性を否定される事となっている。
このような事実上の推認を伴うものであるとの判断は、課税庁の主張をそのまま採用しているものであるが、納税者にとって有利項目であることをもって責任を転換することが妥当であるのかという点は意見が別れよう。たしかに現在は処分理由の提示や理由附記の制度は整いつつあり(その程度や実効性はまだ一般性を持っているものと評価することは困難であろうが)、かかる点から立証責任を合理的に分配することは一定の合理性があるものと考えられる。しかしながら前記の通り本件は不当な還付を目的とした処理を認定されているものであり、かかる点からも特異な事例と理解し、一般的に必要経費に関する立証責任が転換され(課税庁にあるとする責任を転換すること)、必要経費の該当性否定の推定が働いているものと考えることが妥当であるのかという点は(更に有利項目であることをもって転換を図ることが妥当出るのかという点も)更に検討が必要ではないだろうか。もしかかる判断のように立証責任が課せられるものとして理解するならば、実務上も特に必要経費に対する準備資料の考え方や必要経費の要件の精緻化などは重要な点となるだろうし、理由附記の実効性の確保(附記の程度等)は更に一般論としてだけではなく、附記の程度などは一般的なものだけではなく、処分理由項目によっても差異が発生する可能性もまたあるのではないだろうか。
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