2019年9月20日金曜日

判例裁決紹介(平成28年4月22日裁決、不法原因給付とみなし贈与、権利確定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年4月22日裁決で、交際相手から給付された金員(不法原因給付)がみなし贈与に該当するのか否かが争われた事例です。

具体的には、本件は請求人が交際相手から受けたマンション購入に関する手付金相当額の金銭振込(最終的にマンション契約は解除手付金は違約金へ)がみなし贈与(大過なく受けた経済的利益に該当するのか否かが問題となった事例である。別件訴訟によって当該交際相手から返還請求を求められているものであるが、その中では、解除条件付贈与であり、また、請求人と交際を続けるための見返としての金銭給付であって、不法原因給付であるから返還義務がないものとして取り扱われたものであり、みなし贈与に該当するのかという点が中心的な争点となっているものである。課税庁は上記のようにみなし贈与としているが、請求人は、交際を継続されないこと等による精神的な損害を受けたものであって慰謝料的なものであるため贈与とはみなされないものとして主張が対立しているものである。当初のマンション購入契約段階では手付金を請求人と交際相手は負担するにあたって、両者の名義で行うなど(そのため相当額を金銭振込として請求人に給付している、実際は、それでも金銭交付を受けており、かかる時点でみなし贈与になるものと想定されるが)、共有の名義として贈与税負担を抑えることを企図した処理を行っているが、途中で、交際が破綻し、これによってかかる金員が贈与等となり得るのか否かという点が問題となっているものである。このような当初の事実関係があることから、明確に金銭の移動記録(振込等)存在しており、通常、このような明確な契約関係等がない場合であって経済的利益の実在がまずは問題になるものであるが、本件ではその点は問題となっていない。従って、経済的利益の供与、交付が純粋に下記相続税法9条に規定するみなし贈与に該当するのか否かという点が争点となっているものと考えられる。

本件は、このように事実関係としては特殊な事例であるが、比較的ドロドロとした事実関係の存在自身が一般的には興味深いものであろうし、このような不法原因給付の返還請求自身が民事はともかくとして租税案件として取り扱われることはまれな事例であろう。法令解釈としては特段珍しいものでないのかもしれないが親族間、あるいは私的な関係における金銭のやり取りを考える上では参考となる事例ではないだろうか。


第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

以上のように本件の中心的な争点は、本件の事実関係において、みなし贈与に該当するのか否かという点にある。納税者である請求人は交際に伴う慰謝料などの損害賠償に該当すると主張しているが、別件訴訟との整合性にかける点は否めない。最終的に本件の金員相当額は違約金として手元に残っていないことが影響しているのかもしれないが、金員の贈与のとして該当するという納税者の認識に至っていないことが起点となっているものであろう。贈与税に関しては、その使途が問題となるものではなく、受けた利益の存在が問題となっている点は当たり前のことでもあろうが、留意されるべきかもしれない。

最終的には本件では上記のように経済的利益の実在性は問題とならず、当該経済的利益がみなし贈与として該当するのかという点に焦点が当てられている。特に対価を支払うことなく、という点において、本件の事実関係が課題とされているのであろう。対価という点は幅広く解釈されているものであり、このような不法原因給付であっても返還義務がないことが確定しているものであり、この点が対価を支払っていないという点に該当するとされているものである。ただし、中心的な問題となっていないが、本件はどのタイミング贈与があったものとみなされるのかという点は、より検討が必要ではないだろうか。対価なく経済的利益の給付は行われていることは疑いようもないが、本件のように返還義務がないことが確定した段階をもって対価なくという点が認定されうるものであるならば、みなし贈与としての認定のタイミングは、後ろに移動することもあり得よう。対価なくという部分は贈与として認定されるタイミングにも影響を及ぼさないものであるのか、本件のような不法原因給付であるような場合において返還義務と対価の存在との関係はもう少しタイミングとしては議論されて良いのかもしれない。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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